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 お前なんか産まれてこなければ良かったのに




























 それがアタシの子守歌。




 忘れていた記憶。

 忌まわしき思い。

 アタシは望まれない子だった。

 アタシはパパに抱かれた記憶がなかった。

 アタシは両親のどちらにも似てはいなかった。









 アタシの髪は誰と同じ色なの?

 アタシの目の色は誰と同じなの?




 ママを困らせるつもりじゃなかったのよ

 本当よ

 ちょっと不思議に思っただけなの

 泣かないでママ




 パパはアタシを嫌いなの?




 パパが怖い眼で見るの









 ママ、どこ?




 暗い部屋。

 パパが立っていた。

 ママは、

 ママは・・・。









 やだママ、一人じゃやだ

 良い子になるから

 もっと良い子になるから

 一人にしないで!




 パパ

 ママをいじめないで

 アタシのパパをやめないで

 アタシを置いてかないで

 お願い














 お前さえ、












 お前さえ産まれてこなければ
















 バタン、















 この世界ではこんな鮮明なのに。

 その後の記憶しかアタシにはない。

 部屋から逃げ出して、

 ドアが閉まって、

 気がつくとアタシは今のパパに抱かれていた。

 そして、

 シンジが、

 いた。












 僕は、











 シンジだよ











 碇シンジだよ











 アスカちゃんのお兄ちゃんなんだって
















 ・・・仲良くしようね
















 ママ、なんでアタシはシンジと髪の毛の色が違うの?




 ふーん

 じゃあ目は何で?




 でもアタシもシンジもママの子よね?




 本当?




 じゃあじゃあアタシもシンジもパパの子よね?




 本当に本当?







 ああ、良かった・・・。









 アタシね、

 昨日ね、

 ・・・怖い夢見たの




 すっごい怖い夢よ




 パパがアタシのパパをやめちゃうんだけど、

 パパはパパじゃないの


 独りぼっちの、

 怖い夢だったの・・・









 でももう大丈夫よ




 だってパパもママもシンジもみんな一緒にいるから




 だから怖くないの




 でも、今日はシンジと一緒に寝て良い?




 ありがと、ママ




 うん、おやすみなさい




 おやすみなさいパパ







 おやすみなさいシンジ







 おやすみ・・・






































 Both Wings



第八話 Ties.



























 ふと時計を見ると、草木も熟睡している時間だった。

 右手に心地良い重さを感じる。

 アスカが僕の腕の中で眠っていた。

 笑っている。

 良い夢でも見てるのかな

 ゆっくりおやすみ、アスカ

 そして僕はアスカをそっと抱きしめた。

 優しく静かに、起こさないように。

 一番大事な宝物を守るために。

 二度と悪夢を見させないために。

 僕はアスカを抱きしめた。















 ・・・君

 ・・・碇君

 碇君!

 耳元で名前を叫ばれて、僕は飛び起きた。

 「碇君、もお朝なんですけどね」

 横を見ると綾波が腕組みをしながら、顔を引きつらせて立っていた。

 「あれ、おはよ、綾波」

 「仲が良いのは知ってるけど、これはいくら何でもまずいんじゃないの」

 そう言って綾波は僕を指差した。

 正確には、僕の腕の中のアスカを差した。

 「あ、え、あと、そのあのそのえと」

 綾波の後では洞木さんが手で顔を隠し、イヤイヤをしていた。

 「後でゆっくり理由を聞かせてもらうからね」

 「ハ、ハイ」

 何でこんなに怒っているんだろ

 僕はそそくさと自分の部屋へ戻っていった。

 背中にアスカを起こす怒鳴り声を聞きながら。




 「せんせ、昨日は何やっとったんじゃ!」

 「なぜ帰って来たああ!」

 部屋に入った瞬間二人に怒鳴られた。

 どうやらこの部屋でも一騒動あったらしい。

 僕はゴニョゴニョとごまかしながら着替えて、食堂へ降りていった。




 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・」

 き、気まずい

 皆、黙々と箸を動かしていた。

 テーブルの中心に僕とアスカを置いて、綾波やトウジ達が周りを囲んでいた。

 時折正面のアスカと目が合うと、アスカは恥ずかしそうに目を伏せた。

 すると周りの皆はますます無言の色を濃くした。

 「は、晴れてよかったね」

 目の前で天使が、ムーンサルト三回捻り宙返りをやっていた。

 さ、さむ

 「奇跡的なことに、泳げるみたいでありますよ」

 口調が変になってる。

 「ふーん」

 綾波が怖い。

 眼が九尾の狐より吊り上がっているのは、気のせいだろうか。

 「波も収まったみたいだし」

 止まらない

 「ふーん」

 「お日様も照ってるし」

 止められない

 「ふーん」

 「照る照る坊主作ったかいがあったな。なんちゃって。あははははは」

 止めてえええ

 ばきっ、

 綾波の箸が砕け散った。

 「はけ」

 「刷毛?」

 「吐くのよおおお!」

 綾波に胸倉を片手でつかまれて、そのまま天高く掲げられた。

 下界ではアスカが頭を抱えていた。




 結局吐いた。




 キスしたことはもちろん秘密だったけど。




 挽回に燃える太陽の下の砂浜で、皆に話した。

 アスカのことを話した。

 アスカの悪夢のことを。

 僕と一緒じゃないと、発作を起こすことを。

 この人達なら、と信用できたから。




 キスしたことは絶対秘密だったけど。




 綾波が人間に戻ってくれた。




 一時、死を覚悟した。




 良かった。




 悪夢の理由はわからない。

 でも僕が一緒だと大丈夫。

 だから、アスカと一緒に寝るのを見逃して欲しい、そう言うと皆快く了承してくれた。




 綾波は持ってたペプシを握りつぶしていたけど。




 ずぶぬれになった体は海で洗い流した。




 その日から自由行動になったので、思いきり沖縄の海を満喫した。

 綾波は僕から離れようとしなかった。

 だからアスカとは初日以来何も進展はなかった。

 一回だけ、綾波がお風呂に入っていた30分くらいの間、二人きりになった。

 その時は二人とも吸い寄せられるように、それが自然だと言わんばかりに、キスをした。

 最初は触れ合うだけ。

 そしてついばむように。

 ・・・それから情熱的に、キスをした。

 優しく激しく慈しみあい、お互いの気持ちをぶつけあった。

 お互いの心を確かめあった。

 綾波が駆け足で戻ってきたため、途中で終わったけど、再び一つになれた。

 が、それっきり二人きりにはなれなかった。

 寝るとき綾波は、隣のベッドで僕たちを見張るようにして眠った。

 海ではずっとまとわりついてきた。

 確かに青白いワンピースの水着に包まれた可憐な身体は、魅力的だった。

 でも。

 でも、赤を主体としたセパレートの水着に包まれたアスカは、もっと魅力的だった。

 外面的な部分だけではなく、内面的な部分においても。

 僕の中で今までとは異なる歯車が回り始めたのだった。

 時々僕に向ってアスカが笑う。

 僕が微笑み返す。

 ふと後ろを向く。

 アスカが僕を見ている。

 すぐ側にいなくても、喋らなくても、僕らは通じ合っていた。

 心が通いあっていた。

 それは、

 二人だけの、

 絆。




つづく
ver.-1.00 1998+11/12 公開
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 第八話”Ties”をお送りいたしました。

 これで修学旅行編は終わり、次のステップに進みます。

 お互いの気持ちを確かめあった二人。

 まさに”Ties”、”絆”で結ばれたわけです。

 この後二人にはどんな障害が待っているのか。

 んー、冒頭は某元帥閣下の生い立ちのようになってしまいましたね。

 少し詳しくしたものが外伝で記されてますので、良ければそちらもごらん下さい。

 次回以降話は飛びます。

 中学卒業後の話です。

 高校に入学したところから始ります。

 ・・・ちょっと痛いかも。

 たぶん、大丈夫でしょ、おそらくきっと。(--ゞ

 それでわ第九話”Together and Forever”でまたお会いしましょう。

 (--)/~~~

 ZERO





 ZEROさんの『Both Wings』第八話、公開です。






 アスカちゃんの悪夢の原因は−

 こんな事があったのね。

 うぅ
 子供に罪は無いんだい!



 モノゴッツイ過去を想像してたりもしたから、
 こっち方面だったということで安心している自分もあったりして(^^;




 シンジくんはアスカちゃんを

  しっかりと支えてあげれるかな?
  癒やしてあげられるかな?

 兄としてだけでなく、
 これからは、男の子として。。




 高校編に期待大!

 いたいの?・・・でも期待大!





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