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Grid:14

 湯煙の中に浮かぶ天井の丸い暖かなライト。
 足されている湯。
 バスタブから溢れ出している。
 水音だけが響く浴室内。
 バスタブの中に一人、霧島マナ。

(・・・・・・・・・ふぅ)

 ため息を一つ。
 蛇口に手を伸ばして湯を止める。
 両手で両膝を抱え、目を閉じる。
 深呼吸を一つ。
 そのまま、バスタブに身を沈めてみる。
 微かに低く聞こえる水音。
 軽い圧迫感。
 完全な暗闇。
 接合デッキからケーブルを通って潜る電脳空間とはまた違った浮遊感。

 これまでの出来事。
 これからの予定。
 ムサシやケイタの事。
 様々な事が、揺れる意識の中を浮かんでは消えていく。




『3秒以内で答えてね。水に浮く軽石と沈んじゃう普通の石がたくさんあって、その中から適当に取った石を一つ、池に投げ込んだんだ』




 ぼんやりと頭の中に浮かんだ問いかけの言葉が妙に残る。

(あれは、ケイタだったかな・・・ムサシだったかな・・・)




『そしたらその石は、沈んだり潜ったりしてたんだ。その石は、軽石か、普通の石か、さてどっち?』




 バスタブの底で身体を縮めたまま、いつかどこかで聞いた言葉をゆっくりと続けてゆく。




『答えは、普通の石。「沈んだり」「潜ったり」なんだから浮かぶ事はないよね・・・って、こういうの・・・ダメ?』




(ケイタだったかな?・・・ま、いいけど)

「・・・ぷはぁっ」

 息が続かなくなって身を起こす。
 荒い波が立つ水面。
 濡れた髪をかきあげながら、息を整える。

(そういえば・・・)

 波が静まるを待ち、バスタブに鼻先まで身を沈める。

(接合デッキからネットに繋いで没入するのを『潜る』、切断するのを『落ちる』って・・・)

 天井からの雫が、水面に波紋を広げる。

(潜って落ちて、潜って落ちて、潜って落ちて、その繰り返し・・・)

 まどろんだ中で、回り出す言葉。

 上目遣いに、立ち上っていく湯気をぼんやりと眺める。
 天井からの雫が、浴室の光景を溶かし込みつつ落ちてくる。
 何となく、手で受け止めてみる。
 掌で更に細かい水滴となって弾ける。

(最後はどこまで行くんだろう・・・どこまで行けば終わるんだろう・・・)

 再び目を閉じ、そのまま浮遊感に身を任せる。
 意識体接合を行う時のような、幽体離脱の感覚。
























Grid:01









 薄暗い部屋。
 机とベッドと小さ目の洋服ダンス。
 閉じられたカーテン。
 カーペット張りの床。所々に変色した跡。
 低めに設定された室温。
 赤や緑の発光ダイオードの明滅。
 規則正しい電子音の不協和音。
 消毒薬の匂い。

 積み重ねられた薬局の紙袋。
 アルミ包装されたカプセル錠。
 オレンジ色の八角錠。
 白い楕円錠。
 点滴のパックが釣り下げられたスタンド。
 黒いゴムチューブとクリップ。
 滅菌処理包装された空気式皮下注射器。シリンダーには透明な液体。
 使用済みの注射器。

 床や壁を這い回るケーブル。
 低く唸る大型ワークステーション機。
 『T-RAIDEN-T』と綴られた立体文字がゆっくりと回転しているディスプレイ。
 使い込まれた外観の電脳接合用ヘッドセット。大型の暗視ゴーグルのような形状。
 皮膚電極の接着テープのロール。
 ベッドの上に伸びるケーブルの束。
 接続されているアタッシュケース大の端末。携帯型の接合デッキ。
 液晶ディスプレイ。

 薄い水色のパジャマ。
 左目の眼帯。
 頭に巻かれた包帯。
 右肘から先を固定するギブス。
 身体の各部を覆う包帯。
 傍らの松葉杖。
 ベッドの上に身を起こし、ディスプレイを見つめる少年。
 胸のIDプレートに書かれた名前。

 浅利ケイタ。

 液晶ディスプレイ上にはワイヤーフレームで立体描画された第3新東京市の市街図。
 その中に二つの立体カーソル。それぞれには『Target』『T-SHIDEN-KAI-T』との表示。
 市街図の周囲には様々な形で紫電改パイロット、霧島マナの状態が一覧表示されている。
 オーロラ状の同心円を描く立体脳波波形モニター。
 規則正しい波形を刻み続ける心拍モニター。
 意識体波紋を虹色に織り上げる接合状況モニター。
 神経活性率を人型アイコンの各部に示す鋼化結線モニター。
 これらもまた、彼女を示す記号。

 本来なら指揮官クラスの閲覧権限を必要とするこれらの情報。
 それらを、身動き一つせずぼんやりと見つめている、ケイタ。
 まばたきする事無く、ただディスプレイの明滅を瞳に反射させているだけのように見える。

 ベッドの傍らに、ケイタの足元にもう一人の少年。
 緑色のジャンプスーツ。
 日に焼けた肌。
 完全に脱力して仰向けに横たわる姿。
 開ききった瞳孔。
 ベッドの上の接合デッキから伸びるケーブル。
 最新型の電脳接合用インターフェイス。ヘッドギアのような形状。
 胸のIDプレートに書かれた名前。

 ムサシ・リー・ストラスバーグ。

「はじまるね」

 視線をディスプレイからまったく動かさず、淡々と独り言のように、ケイタ。

『・・・そうだな』

 ヘッドセット越しの拡張意識の、向こうの世界に身を置いたまま無声音で答えるムサシ。

「間に合わせの装備、バックアップも無し、大人達も混乱してて、とにかく中途半端なまま、いきなり実戦・・・酷いよね」

 ケイタの声だけが返事の無い問い掛けのように室内に広がる。独り言のように進む会話。

『どうせ上の連中が下らない理由で無理矢理駆り出したんだろ・・・こっちの事情も知らないで』

 意識体から肉体の感覚をすべて遮断しているため、全神経麻痺状態のムサシ。彼専用に調律されていないデッキから没入するために、ノイズとしての意味しか成さない肉体情報の大半を切り離した疑似仮死状態。
 ムサシの意識体は肉体を離れ、彼の地、電脳空間に主軸を置き、マトリクス構造体の分子結晶として存在している。
 存在する次元が異なる二人の会話を成立させているのは、彼らが装備する超伝導磁束量子干渉装置、SQUID。スキッド。
 微弱電磁気読み取り素子を応用し、増幅脳波による無線通信によって行われる意思伝達。装置本来の目的とは異なる、彼ら自身が見出したもの。
 鋼化結線人形使いであるマナとムサシとケイタだけの、もう一つの絆。

「・・・・・・ごめんね。僕が怪我なんかするから、マナが出撃しなくちゃいけなくなったんだ・・・」
『お前のせいじゃないよ。限界領域ぎりぎりって分かってて接合ステージ進めた連中が悪いんだ・・・お前のせいじゃない』
「・・・ごめんね」
『・・・気にするなよ。マナも元気出せって言ってたし』
「・・・・・・・・・」

 押し黙る二人。
 液晶ディスプレイ上では、紫電改を示すカーソルが使徒を示すカーソルの後ろに回り込み、。

「マナの紫電には、繋げそう?」
『紫電?・・・紫電改、だろ?』
「紫電、だよ。僕的にはそう決めてるんだ。で、どう?」
『・・・だめだ、本部との直結線以外は全部氷が作動してる』
「何とか繋げときたかったんだけど・・・今からじゃ無理かな?」
『無茶言うなよ。正面から当たったら、触っただけで根こそぎ焼かれちまうぞ。それに、変な真似するとマナに迷惑かかるだろ』
「そうだね・・・やっぱり、ここで見てるしかないって事なのかな・・・」
『・・・そうだな』
「・・・つらいね」
『・・・・・・・・・』

 再び、押し黙る二人。








































 新世紀エヴァンゲリオン:サイドストーリー
 鋼 の 器 
Mana like the OVERDRIVE.








































Grid:02









 目標を中央に捕捉。
 こちらに背中を向けたまま前進を続けている。
 気づかれた様子はない。

 相手は巨大な怪物、自分は巨大ロボット。疑験端末で見た映画のような光景。

 抽出模倣演算を実行。精度は+2秒、確度は下限80%を指定。
 本部から転送された先ほどの戦闘で得たデータを元に目標の展開予想位置が算出され、別パネルに同期展開された視覚上にワイヤーフレームで動画投影される。
 使徒を包み込んでいく半透明の立方体型のカーソルアラーム音とともに赤く変わり、目標を完全捕捉したことを告げる。
 ハンガーに固定されていた両腕を前方下部に下ろし、両手両足で姿勢を低く支える。
 機首に搭載されている荷電粒子ビーム砲と同軸レーザー砲を起動する。レーザーはビームガイドモードを指定。

 攻撃体勢が整う同時に本部から入電。
 下される命令。
 歩みを止めない使徒。

 現実味の沸かない、夢の中のような光景。
 無意識に微笑みの形を作る口元。平穏な心の動きから独立した条件反射的な表情。

(訓練と同じ・・・手順通りに操作していくだけ・・・それだけの事)

 コントロールレバーを握る指に、ほんの少しだけ力を加える。
 軽いスイッチ音を立てるトリガー。古典的で粗雑な手順。

 ビーム同軸レーザー砲を照準・誘導用として先行照射。
 レーザー発振体に閃光が走り、クロームな合わせ鏡の中で無限循環が始まる。
 同時に動力炉に直結した粒子加速器が活性化し、ドラム型に小型圧縮された螺旋円環内を荷電粒子が駆け巡る。

 発射プロセスは逐次チェックされ、論理空間上に光速で展開される。超高速モードに入った拡張意識によってのみ得られる超感覚。

 無限鏡界の中で一気に振幅同期したレーザー光線が使徒目掛けて発振され、荷電粒子を撃ち込むための真空のレールを形成する。
 一瞬、かげろうのように揺らめく使徒。即座に目標を再チェックするが、十分に加速された荷電粒子の妨げとなるような要素は見当たらない。プロセス続行。
 直後、加速器の束縛から解放された粒子ビームが、膨大な熱エネルギーを伴ってレーザー光の中に誘導射出される。

 スローモーションのように流れる光景。鋼化結線神経反応によってもたらされる加速した時間。減速する世界。

(これで終わり・・・これで帰れる・・・)

 目標に向けて一直線に伸びていく光弾。
 平然と前進する使徒。

(・・・・・・また、あそこへ・・・帰るの・・・?)

 瞬間、閃光でホワイトアウトする視界。








































「鋼鉄ビィィム!!」








































 鈍い打撲音。








































「んがっ!!」








































 目標の延髄に見事に、鋼鉄ビームこと必殺霧島パンチと少女が呼称する鉄拳が炸裂。








Grid:05









 少女の名前は霧島マナ。第3新東京市立第壱中学校の制服に身を固め、赤みがかったくせ毛をショートにまとめた、明朗活発な印象の少女。

(2001年4月11日生まれの14歳、牡羊座のO型。趣味っていうか好きな事は洋楽、水泳、その他諸々、とにかく色々頑張る中学二年生っ♪)

「目、覚めた?ムサシ」
「・・・っくぅぅぅぅ!」

 呻き声を上げて頭を抱えている目標こと少年、ムサシ・リー・ストラスバーグ。少女の幼なじみの同級生。

(成績優秀、スポーツ万能、日焼けした肌が逞しい感じだけどマッチョって訳でもなくて、要するにルックスは結構いけてる感じ。ちょっと斜に構えたところはあるけど優しいところもあって女の子からの人気も抜群な中学男子。でもって、私の一の子分♪あ、ちなみに二の子分として浅利ケイタっていうこれまた幼なじみの男の子がいたりするんだな、これが)

「な、何するんだよ、マナ!!」

 涙目になっている少年、ムサシ。

「ん?鋼鉄ビームって言ったでしょ。目覚めの一発になった?」

 にっこり笑って明るく返事を返す少女、マナ。

「いきなり力いっぱい、しかもグーで殴る事はないだろ?!」
「ぼ〜っとして人の話にてきとーに相づち打ってるほうが悪いの。けって〜い」
「だからってなぁ・・・ったく・・・まだ頭がぐらぐらする。加減ってもの知らないんだから」
「まあまあ、男の子が細かい事をぐだぐだ言わない!第一、かよわい女の子であるところのこの私のパンチをまともに食らうくらいぼんやりしてた方が悪いんだから、ね?」
「かよわい女の子って・・・っとに・・・何か妙に妄想暴走して一人でいっちゃってるなぁって思ったらいきなり・・・何が『鋼鉄ビーム』だよ」
「そんなに痛かった?・・・大丈夫?ごめんね」

(殴っておいて『ごめんね』もないかもしれないけど・・・やや反省)

「・・・ま、もう大丈夫だけどな・・・慣れてるし。そのうち今後の分もまとめて、きっちり返済してやれば済む事だし」

 心配そうな表情を浮かべたマナに笑みを伴った冗談で返す。
 安心したのか微笑み返し、明るくに振る舞ってみせるマナ。

「慣れてるってあたりからが気になるねぇムサシ君よ。まあ、空を見上げてみなさいな、少年!この大空のように雄大なココロを持ってすれば、マナちゃんのお茶目さんな振る舞いを許してあげよっかなぁ、という気分になろうというものではないかね?そうでしょ?ね?そうなんだってば!ね!」

 軽く両手を広げて手のひらを空に向けるポーズ。そのまま空を見上げてみる。

(第3新東京市の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった・・・なんてね)

 思い浮かんだのは、先日彼女が読んだSF小説の冒頭の一節。

(って、閑話休題。それはさておき。何の話してたんだっけ?)

 とりあえず『鋼鉄ビーム』を検索キーとして記憶照合。確認。

「そうそう!だから、夕べのテレビなのよ。新番組のロボットものでさ、ケイタと絶対チェックしようって話してたのよ。昨日教えたげたよね?見た?」

 空を見上げていた首だけ下げて、いきなり話を本題に戻す。

「・・・いや・・・見なかったけど」
「だぁめだよぉ〜!見とけって言ったじゃない!」
「・・・ホント、そういうの好きだよな。マナって」

 ため息一つと笑み一つ、ムサシ。

(何か生意気な態度・・・うぬぅ)

「あ!そういう態度はいけないねぇ。ムサシだって小さい頃は一緒に見てたじゃない?」
「そりゃ、まあな」
「小さい頃に散々楽しませてもらってお世話になってきたのに。ちょぉっとガタイがおっきくなったからって小馬鹿にしたようなその態度、感心しないなぁ」

 人差し指を立て、軽く左右にふって見せる。

(物事にはスタイルというものがあるのだ)

「そういうものかぁ?」
「そういうものなの!って事で、ちゃんとビデオに撮っといたから。後で貸したげるからちゃんと観るのよ!」

 ムサシの鼻の先に指を突きつけ、断言するマナ。強気なヒロインのスタイル。

「何だかなぁ・・・ま、分かったけどさ。でもホント好きだよな。マナも、ケイタも」

 もう一人の幼なじみ、浅利ケイタを思い出す。

 食べかけのスナック菓子。ジュースやミネラル水のペットボトル。
 いくつものゲーム機。ソフトと攻略本の山。
 自作のロゴが貼り付けられたパソコン。
 本棚からあふれて積み上げられた雑誌や単行本や同人誌。
 アニメキャラの少女たちが微笑むポスター。
 ゲームセンターの景品らしいマスコットやぬいぐるみ。
 未開封のプラモデルの箱の山。
 部屋の中で笑みを浮かべる小柄なそばかす顔の少年。浅利ケイタ。

 なぜか、ケイタ本人よりも先に部屋の様子が思い浮かぶ。
 周囲を冷たい風が吹き抜けたような感覚。

(・・・人として間違った方向に歩むのだけは止めねば・・・それが幼なじみで姐御たる私の使命、って今はそうじゃなくて!!)

「だからそういう態度がいけないんだってば!分かってないねぇ、ムサシくぅん?」

 両手を頭の後ろに回し、空を見上げながら続ける。

(・・・どうせだったらマーマレード色の空だったら良かったのに・・・ってそれはともかく!)

「ちょっと前まで、三人で『マナンジョ様』『ケイズラー』『ムサッキー』って事で三悪トリオごっこしたじゃないの。忘れちゃった?」
「お、おぼえてるけど・・・ちょっと前っていっても幼稚園の頃だし、その『ムサッキー』っての、マナとケイタが勝手に呼んでただけだろ!ったく・・・大体、何で主人公じゃなくて悪役なんだよ」
「ふっ・・・甘いわね、ムサシ。シリーズ毎にがらっと変わる主人公なんて単なるおまけ!あくまでも本体は定番悪役の三悪トリオなのよ!」

 もう一度、先程より力強く、気合を入れて断言。

(物事こだわりが大切なのだ)

「そういう問題じゃ・・・まあ、マナらしくていいけどな」
「・・・どういう意味か、何だかとっても興味があるわねぇ」
「それはともかくとしてだなぁ」
「あ、話し逸らしたぁ」
「いや、そうじゃなくて真面目な話だって・・・テスト期間中だってのにヤバくないか?」
「テストぉ?大ジョブジョブ♪人生まだまだ長いんだし、この輝くような季節の一瞬を刹那的快楽に任せたとしてもフォローはまだまだ間に合うわよ!おまかせオッケーって感じ!」
「・・・要するに、開きなおったって事だな?どうするつもりなんだよ」
「・・・それは、乙女の、ヒ・ミ・ツ♪」

 文節に合わせて指を振り、最後の『ヒ・ミ・ツ♪』のところでムサシの唇をつつきつつウィンクしてみせる。

(ふふっ、赤くなってやんの。まだまだお子ちゃまで変わらないねぇ、ムサシ君♪)

 なぜかほっとする瞬間。

「ったく・・・何が乙女だよ。今朝だって遅刻しそうなのに人の事ドアの前で待たしといて、よだれたらして毛布抱えて二度寝しようとしてたくせに」

(んごっ!み、見てたのかこいつわ!)

 それは一番目の衝撃。立場逆転赤面するマナ。

「・・・・・・・・・うぅ」
「な、何だよ?」
「・・・ムサシのえっち」
「だあっ!何でいきなりそうなるんだよ!!」
「だってだって、勝手に私の部屋覗いてたって事でしょ?見てたんでしょ?」

 状況をやや不利と見て、話題すり替え的美少女特権泣き落としな具合で押してみる。

「心配だからちょっとドア開けてみただけだってば!ほんのちらっとしか見てないし、って・・・そういう意味じゃ無いって!!」
「あぁぁぁ、ちょっと開けた隙間から全部見てたんだぁ。こっそりとぉ。ノゾキ魔だったんだぁ・・・ショックぅ」

(・・・あれっ?これって・・・・・・?)

「違うって!第一、声かけてからじゃ何も面白いもの見れないだろうが!」
「あぁ、本音が出たぁ!着替えとかシャワーとかなら見たいんだぁ!うぅ、すけべすけべぇ」
「もう何が何だか・・・とにかく違うって!大体、お前のつるぺた見たって今更・・・」

 二番目の衝撃。別の意味で再び赤面。

(っていうか、ムサッキーの分際で言ってはならぬ事をぉ!!)

「な、何をぉ!!言うに事欠いてとんでもない事を!!それに、今更って何なのよ!!」
「だ、だから今のは言葉のあやってやつでだなぁ・・・違うんだぁ、ホントに・・・」
「私、ムサシとケイタはそういうとこ、ちょっとだけしかないって信じてたのに・・・裏切られたぁ!・・・助けてケイタ、私、むっつりすけべぃなムサシにあんなものやこんなものまで見られちゃいそうなの、っていうか見られちゃってた感じなのぉ。お嫁に行けないぃ・・・ぐしぐし」

(・・・いつかどこかで・・・何だろう、この感覚。デジャヴってやつ?)

「・・・マナぁ、勘弁してくれよぉ」
「・・・・・・責任、とってくれる?」

 なぜかムサシの心に重くのしかかる『責任』という言葉。理由は不明。色々微妙な14歳中学男子。

「・・・うぅ、俺が悪かったから許してくれ、頼むから」
「ふふっ、冗談だってば。貸しにしといたげるね♪」

 マナ的内部『ムサシへの貸し』ポイント、+1。

「・・・・・・・・・はぁ」

 いつも通りの、ムサシとの気さくなやり取り。
 平凡な、日常。ぼんやりとした時間の流れの中、いつからか、いつまでも、続いていくと思われる光景。

(ずっと前から繰り返してきた気がする・・・いつまでこうしていられるんだろう?)








































第弐話


掛けの夜








































Grid:07









 最初に目に入ったのは、バイザーを真っ赤に染める血の跡。

(あれ・・・意識・・・とんでた、かな・・・・・・!!状況は?!)

 機体各部の損害を訴えてくるメッセージパネルの明滅と警告音。
 センサーから入力されてくる外殻装甲の軋み。
 半壊したビルに圧し掛かるように頓挫した機体。
 過負荷が疑似神経網からノイズとなって逆流し、神経伝達物質が目の奥で火花を上げる。
 意識体剥離による感覚劣化。空間認識力の低下から起こる激しい目眩。  普段は自分自身の身体のように扱える機体が、どこか別のところから操られているような違和感。
 自律制御システムが機体姿勢を立て直そうとしているが、不自然に傾いたままの機体。
 いまだに覚醒しきれていない意識。蘇生剤の過剰投与による、延髄から眉間に突き抜けるような鈍痛。
 本部からの指示でドラッグ・スタビライザーが作動した事を告げるメッセージ・パネル。
 突然の感電。心臓マッサージの電気ショック。
 射抜かれた右肩、爆発したミサイルランチャー、握り潰された左腕、背中の6基のスラスターのうち左側2基と右側1基の損傷、疑似神経網の15%の焼断を示す機体コンディション・パネル。
 肉眼視覚と電脳論理視覚が混線したようにぼやけた視界。
 通信パネルからは本部の喧騒が流れ込む。処理能力を超えた事態にオーバーロードしたような作戦指揮。

(あれこれいっぺんに何が何だか・・・使えない・・・)

 形式的に返答しようとする。

(・・・あれ?!声、出せない?!・・・直結通話も使えない?!どうして?!)

 突然打ち切られる通信。展開する氷が最後の回線を凍結させる。電脳論理回路が完全に閉鎖した『自閉モード』に入っている事を示すメッセージパネル。

(私、何もしてないのに・・・まさか、自律システムの暴走?!)

 瓦礫に埋まった機体が強引に立て直され、吹き飛んだミサイルランチャーとスラスターがパージされ、直後、自律制御システムが停止する。

(あれ?)

 身体の各部を引っ張られるような違和感が消え、不自然な体勢による機体への負荷が重く圧し掛かる。

(身体は・・・動けるか。とりあえず仕切り直さないと・・・)

 血に染まったバイザーを跳ね上げながら、コンソールのキーボード上に指を走らせてI/Oシステム・コントローラーを起動。
 視覚入力系統から論理視覚を切断する。全周囲を見渡していた超三次元的な光景は消え去り、目の前には薄暗いコクピットと接合ケーブルと直結した情報パネルだけが残る。
 コクピット前方に半球状に広がるディスプレイが新たな彼女の視野。絶望的な狭さの中、機体前方に佇む使徒。遮蔽物は無い。
 続けて、鋼化結線接合システムに再起動をかける。神経接続による直接制御からコクピット・インテリアに切り替わる操縦系。

(何が、どうなって・・・思い出せない・・・って、来る?!)

 こちらに向かって手をかざす使徒。光が灯る掌。
 コントロールレバーを押し込み、フットペダルを踏み込む。
 一斉にエラー表示するだけで、まったく反応しない機体

(制御系ブロック?致命的エラー?!・・・だめ、やられる!!)

 短距離ダッシュ用ロケットモーターが前方に向けていきなり点火する。
 弾かれたように後退する機体。

(ぅぐっ?!)

 麻酔によって感覚が押さえられているはずの肉体から悲鳴が上がる。
 機首をわずかにかすめる、使徒の腕から伸びた光の槍。
 いくつかのセンサーが弾け、ノイズを一瞬残して沈黙する。即座に予備の入力系による欠落部位のフォローを行い、外部入力を確保する。

(勝手に動く・・・自律制御もリンクも止めたはずなのに?!)

 機首レーザー砲がレーザーメス照射モードで起動し、使徒を水平に薙ぎ払う。
 光の一閃。仰け反るように動きを止める使徒。まき込まれた使徒の周囲の建物がレーザーに寸断され、滑るように崩れ落ちる。

(火器管制まで!何で?どうして?!)

 使徒の胴体に刻まれたレーザーの跡から煙があがる。
 直後、まだ生き残っている左側のミサイルが無照準で乱射される。打ち出されたミサイルは自律誘導により、それ自身が意志を持つように目標に殺到する。
 右足のアイゼンを路面に打ち込みつつスラスターが始動。右足を軸にして超信地旋回させる。路面を一気に砕きつつ反転する機体。そのまま残り3基のスラスターと後方のダッシュ用ロケットモーターが全開にされる。
 使徒の目前に光の壁のようなものが現われ、遮られたミサイルが赤い多角形の波紋を残して次々と爆発していく。
 無人偵察機の視野が使徒に固定され、姿を捕捉したまま距離を取りつつ回り込む。

(とにかく状況を・・・確か、目標を捕捉して、初弾を命中させたはず・・・でも、じゃあどうして?)

 コマンドパネルを開き、結線情報履歴を呼び出す。
 目標捕捉から意識覚醒+5秒後までの倍速再生、視覚を経由せずデータとして直結入力を指定。
 続けてメディカル・パネルを開き、パイロットスーツに装備されている投薬装置、ドラッグ・スタビライザーに対して、戦闘薬兼鎮痛剤として調合されたエンドルフィン同位体の投与を指示する。
 急速に収まる肉体の苦痛。超高速モードが発動し一気に活性化する鋼化神経。
 ほんの少し間を置いて接合ケーブルから流れ込みはじめる履歴情報。甲高い回転音を頭の奥に響かせながら記憶が次々と呼び覚まされていくイメージ。
























Grid:03









『ビームを弾きやがった・・・何て奴だ!』

 接合用インターフェイスを装着して戦術指揮用中継映像に没入しつつ、ムサシ。

「・・・何か、直前でガイドレーザーごと逸れた感じだったよ。本体には当たってない」

 液晶ディスプレイを眺めつつ、ケイタ。

 立体市街図上をカーソルが行き来する。閃光も爆発も無い、ただ状況だけを示す戦闘風景。

「ちゃんと捕捉してるのに当たらない・・・届いてないんだ」
『だんだん追いつめられてる・・・くそっ!何で誰も援護しないんだよ!』

 マナと紫電改、そして使徒の様子を見ている二人。
 淡々と過ぎていく時間。

「あ・・・来る」
『な?!・・・あの距離を跳ぶか?!・・・くっ、捕まっちまった!』
「あんな動きが・・・サンプリングしたデータじゃ、計算できるわけないよ・・・」
『何とか逃げないと・・・だめだ、振り払えない』
「左腕に負荷・・・外殻が持たない・・・砕けるよ!」
『何だ、あの光は?!・・・まずい、誘爆する!!』
























 転移。
























「思ったより、やるようだな・・・これならいけるか?」

 使徒に捕まった紫電改が映し出されるスクリーンを前に、冬月副司令。
 握られた紫電改の左腕から火花が散り、砕けて折れ曲がる。

「もう一押し欲しいところだな」

 騒然とする国連軍高官たちを見下しつつ淡々と、碇司令。
 紫電改の右肩をつかむ使徒のもう片方の手から伸びる光の槍。
 数回の打ち込みで貫通。爆発するミサイルランチャー。

「熱核式原子炉だったな・・・破壊されれば、ここも旧東京と同じく20年の封地で決まりだろう」
「使徒に与える放射能の影響も気になるところだよ。新たな可能性を見出せるかも知れん」
「それも興味深いところだな・・・」

 動かなくなった紫電改を眺めつつ、気の無い会話を交わす二人。

 紫電改を釣り下げたまま急激に伸びる光の槍。そのままビルに背中から叩き付けられ、背中のスラスターが爆発する。
 爆炎で真っ白になるスクリーン。
























Grid:04









 背中で起こる爆発。叩き付けられたビルの破片が飛び散り、ガラスの破片が紙ふぶきの様に、紫電改に降り注ぐ。
 真っ赤な警告パネルが次々と開き、多重認識視覚のうちの一枚を埋め尽くして行く。
 最外殻装甲と機体基礎フレームの軋む音がコクピット・シェル内に響く。コンソールから火花が上がり、警報ランプが点滅する。
 過負荷が電磁流となって疑似神経網を駆け巡る。
 紫電改の脊髄沿いに並ぶ副脳クリスタルが次々と電子的に煮えたぎり、爆発する。鋼化結線接合システムの接合支援端末も、パイロット保護用疑似電脳も、不安定になった直後、無警告で沈黙する。
 制御システムの負担が接合ケーブルから一気に雪崩れ込む。
 一瞬視界が闇に閉ざされた後、全身が跳ね上がるような衝撃に襲われる。過負荷による神経系へのダメージが痙攣となって全身に走る。

(接合を・・・切らなきゃ・・・・・・落ちないと・・・)

 引きつった腕をコントロールレバーの根元に伸ばす。安全カバーを自動的に弾き跳ばして赤く点滅しながら、軽く押し込まれるのを待つ強制接合解除スイッチ。
 ヘルメット内側の皮膚電極に削岩機を押し当てられたような衝撃の直後、鼻の奥から出血し、じんわりと広がる生ぬるい鉄の味。

(指が・・・押せない・・・・・・動かない・・・)

 スイッチに指をかけたまま硬直する肉体。
 論理基盤から強引に引き剥がされた鋼化結線神経の一部が、パニックを起こしている肉体感覚情報と混線し、マナの意識体波紋をかき消していく。
 空間認識力が失われ、どこまでも落ちていく感覚にとらわれる。

(・・・だめ・・・堕ちる・・・焼かれる・・・!!)

 脳波パターンを示すオーロラが一気に沈静化し、心拍グラフが水平線を示す。
 音声情報が寸断され、静寂に包まれる。
 使徒にロックされた無人偵察機からの視点で大写しになる、白い仮面。
 再び背中で起こる音の無い爆発。誘爆したスラスター。
 バランサーが働かず、頓挫する機体。
 無理矢理意識に割り込んでくる、絶望状況を示す計器パネル。
 スローモーションのように降り注ぐ輝くガラスの欠片。

(・・・もう、だめ・・・消えちゃう・・・)

 ステンドグラスの小片が剥がれ落ちていくように崩壊する意識。
 断片的に浮かぶ様々な光景。
 出撃前に見たムサシとケイタの顔。
 接合時にいつも目にする重合分子連結体のマトリクス構造モデル図。
 寮の自室に飾っておいた写真。
 訓練中に三人で見た夕日。
 紫電改のデータバンク・セクター上にかかる氷の虹。
 どこからか聞こえてくる聞き覚えの無い音楽。
 風に乗って舞散る光の欠片。
 他には何もない道路に佇む人影。
 赤い瞳。

(・・・・・・?!)

 基盤からの冷気に包まれ、白く凍り付いていく視界。
























 転移。
























「フラットライン・・・脳死しちゃう・・・!」
『くそっ!こんな事って・・・やっぱり、まだ無理だったんだ』
「接合がロックされてる・・・強制切断は・・・」
『何やってんだよ本部の連中は・・・自閉モード?!』
「どうしよう。このまま繋ぎっぱなしだと、焼かれちゃう・・・まずいよ・・・」

 暗い円盤を表示するだけの立体脳波波形モニター。
 時折、心臓マッサージによる電気ショックで振り切れる心拍モニター。

「目標はまだ紫電改を狙ってる。止めを刺す気だ」
『部隊が動き始めた。今ごろ・・・機体だけ回収する気か?!』
「・・・・・・・・・」
『ちっくしょぉ・・・ふざけやがって!』
「やっぱり、僕が出れば良かったんだ。そうすれば、マナは・・・」
『・・・・・・・・・』
「こんなのひどいよ・・・ひどすぎるよ」

 周囲から解けるように崩れ始めた意識体波紋を描く接合状況モニター。
 測定不能を表示して固まった鋼化結線モニター。
 異なる次元からそれらを見つめる、ムサシとケイタ。

『助けに行くぞ。雷電、起きてるよな』
「・・・動かすの?・・・無理だよそんなの」
『電脳と繋ぐだけだ。マナが紫電改の電脳論理基盤にロックされてるだけなら、潜って切り離してやれば、まだ間に合う』
「でも、どうやって?・・・さっき潜った時も氷漬けだったし・・・それに、マナの意識体が堕ちちゃってるんだよ・・・」
『スキッドがある。あれで直結して、叩き起こそう』
「・・・でも、だめだよ。中継器まわしても電波届かないし、それ以前にシールドされてるし・・・作戦行動中で、紫電の通信ポートは全部、氷が展開してる・・・指揮用のゲートは僕達じゃ通れない・・・」
『雷電の電脳経由なら特権使えるから、機体間通信で繋げるかもしれない』
「・・・無理だよ。距離があり過ぎるし、今回は単体起動だから閉鎖されてる」
『無理でも、やってみるしかないんだ!このまま見てたってどうにもならないだろ!』
「・・・・・・・・・」
『とにかく繋げれば、スキッド自体は別口なんだから、たぶんいける!』
「・・・・・・・・・」
『今すぐ落ちるから、急いでドックに行こう』
「・・・・・・・・・」

 接合を切ろうとして、ケイタの様子がおかしい事に気づくムサシ。

『・・・おい、ケイタ?!』
「・・・だめだよ、ムサシ」
『何でだよ。大丈夫だよ、とにかくやってみなくちゃわからないだろ!』
「だめなんだよ・・・あの紫電、今回は秘密保持のために・・・」
『・・・?』
「作戦続行不能になると、本部からの信号で・・・氷が作動するんだ。論理空間ごと電脳とマナを・・・完全に、封鎖しちゃうんだ」
『な?!・・・そんな?!それじゃマナは!!』
「だから、落ちないと、もうだめなんだ・・・使い捨てなんだよ、マナも、紫電も・・・僕たちも」
『・・・こんっちきしょおおぉぉお!!』

 紫電改の電脳の完全封鎖が始まった事が、アラーム音と共にメッセージ表示される。

『そうだ・・・まだ並列連鎖接合システムがあるだろ・・・あれでこっちから紫電改を動かせば・・・!』
「・・・だめだよ・・・あれはまだ、稼動してないし、今回は紫電から外されてる・・・もう・・・だめだよ」
『じゃあ、本部へ行って指揮用のゲートに割り込んで・・・』
「・・・だめだよ・・・もうだめだよ・・・マナも、僕も・・・どうしようもないんだ・・・落ちなきゃ・・・だめだ・・・」
『・・・・・・ケイタ?』
「だめだよ・・・もう、僕は、だめだ・・・潜らないと・・・落ちないと・・・」
『・・・お前まさか、また?!』

 突然、接合を切るムサシ。瞳に光が戻り、勢いよく上体が起きあがる。

「こういう事はやめろっていっただろ!」

 ケイタの左腕をねじ上げるムサシ。掌からオレンジ色の八角錠がこぼれおちる。
 完全意識体接合用の実験薬。強力な中枢神経系幻覚剤。
 一種のトランス状態による意識体波紋の遊離を促進する錠剤。鋼化結線済みの彼らでなければ精神崩壊の危険を招く強度の、ダウン系の合成麻薬。

「・・・もう、だめなんだ・・・マナが・・・僕、どうしていいか」
「ケイタ・・・お前・・・」
「本当は怖いのに、ちっとも怖くないんだ・・・おかしいよね・・・頭の中で電磁流がまわってるみたいに、何が何だか、分からないんだけど、全然気持ちは落ち着いてるんだ・・・だからだめなんだ・・・耐えられない・・・」
「・・・・・・・・・」
「本当は、色々嫌で、仕方なかったんだ。マナがいてくれたから・・・僕は、頑張れたんだ・・・だけど・・・だめなんだよ・・・もう・・・やっぱり、僕が出ればよかったんだ・・・」
「・・・・・・だからって、こんな・・・」
「ごめんね・・・本当に、ごめんね・・・やっぱり、僕、だめだよ・・・薬飲んでないと・・・壊れちゃう・・・」
「・・・ラボの連中、呼ぶぞ。いいな?」

 ベッド側のナースコールボタンを押し、ベッドに座り込むムサシ。
 そのまま蹲り、頭を抱える。
 空ろな目で、ぶつぶつとつぶやきつづけるケイタ。








































Mana
like the
OVERDRIVE.

EPISODE:2
Knight of Calculator








































Grid:XX









iceais
【名詞】ices

アイス
氷菓
糖衣
表面
アイスホッケー場
ダイヤモンド
宝石
冷淡さ
わいろ
【動詞】iced, iced, ices, icing
[自動詞]
氷で覆われる
[自動詞 + 副詞]
(ice over)氷で覆われる
(ice up)氷で覆われる
[他動詞 + 目的語]
〈…を氷で〉冷やす
〈…に糖衣を〉かける
[他動詞 + 間接目的語 + 目的語]
〈…を氷で〉〈…に〉冷やしてやる
〈…を〉 {再帰代名詞}〈…〉冷やす
〈…を自分のために〉 {再帰代名詞}〈…〉冷やす
[他動詞 + 目的語 + 副詞]
〈…を〉(ice _)凍らす
〈…を〉(ice down)凍らす
〈…を〉(ice up)氷で覆う
[受身形で] (ices over)凍る




ICE《略》
Intrusion Countermeasures Electronics.
侵入対抗電子装備

Intrusion Countermeasures E.....
※項目削除








































『現実世界の連中って、やたらトロイよね』








































Intrusion Countermeasures Electronics
【名詞】
侵入対抗電子装備(装置)
コンピュータ上に構築された論理空間を外部からの侵入者から守るためのシステムの総称。
ICE(アイス)、氷と略す。








































『私?私は電脳空間が好きだよ』








































squidskwid
【名詞】squids
スミイカ  {動物}
イカ型の擬餌  {動物}




SQUID《略》
Superconducted QUantum Interference Device.
超伝導磁束量子干渉装置








































『はっやいんだよぉ。歳をとらない、のろくならない。よごれない』








































Superconducted Quantum Interference Device
【名詞】
超伝導磁束量子干渉装置
超伝導物質を利用した微弱電磁気読み取り素子。一種の特定電磁波読み取り/増幅発振装置。それらの総称。
特定脳波検出/特定行動監督システムとして用いる。
SQUID(スキッド)と略す。








































『肉を脱ぎ捨てれば、あとは好きに、騒げるんだ』








































Grid:15









 浮遊感。
 揺らぐ意識。
 鼻の奥につんとくる感触。
 耳が遠くなったような感覚。

(・・・?)

 目を開けてみる。
 ぼんやりとした光が揺らぐ空。
 空というより、水面。
 下から見上げている感じ。
 手を伸ばして触れてみると、向こう側には空気がある事に気づく。

(・・・っん?!・・・がばごぼがばごぼげべげべ?!)

 慌てて両手を伸ばし、身体を起こす。

「ぷはぁっ!!」

 バスタブに荒い波が立ち、湯があふれ出る。

(い、いつの間にか寝ちゃってたのか・・・あ〜、危なかった)

 息を整える。
 バスルームのガラス戸の向こうに、誰かが近づいてくる気配。

「大丈夫?のぼせてない?」

 声をかけられる。

「すいませ〜ん、ちょっと寝ちゃってたみたいで・・・今上がりますから」
「あ、大丈夫ならいいの。別に慌てないで、ゆっくりしてちょうだい。のぼせないように気をつけてね」
「は〜い」

 立ち去る気配。
 頭を振って、耳に入った水を抜く。
 フラッシュバックする様々な光景。接合ケーブル越しに見たような非現実感。

(まだぼんやりする・・・のぼせたかな?ま、とにかく後でデフラグかけないと・・・)

 掌で身体をなぞってみる。
 所々に薄く白い傷痕が残る肌。
 コクピットに身体を固定していたストラップが食い込んだ跡。一部は青紫色の痣になり、麻酔の切れた身体に鈍い痛みとなって伝わってくる。

(・・・乙女の柔肌・・・のはずなのになぁ・・・)





『風呂は命の洗濯よ』




 思い返される言葉。

(悪い人じゃ、ないのよね・・・)

 
























Grid:06









 雲の切れ間から少しだけ日が射している。
 歩き出しながらもう一度、空を見上げるマナ。

(これって、天使の梯子って言ったような言わないような・・・ともあれ、こういう空は私的にはかなり好きだったりするんだな、これが)

 ムサシの方に向き直る。まだ困ったような顔をしながら歩いている

(切り替えが遅いねぇ・・・って、私の方がころころ変わり過ぎるのかもしれないけどね)

「こういう空って、いいよね。そう思わない?」
「・・・そうだな・・・悪くはないよな。雲一つない青空ってのもいいけど、こういうのもな」

 ぼんやりと浮かび上がるのは懐かしい光景。いつか見た雲。
 空を見上げたままムサシに背を向け、両手を後ろで組んで少しだけ離れる。

「ね、ムサシ・・・憶えてる?」
「ん?」
「小さい頃さ、公園とかの塀の上を三人で歩いて遊んだりしたよね」
「ああ・・・・・・確か、危ないから道路に出ちゃダメって言われてて・・・」
「私はどうしても外に出てみたくて、それで、塀の上なら道路に出てないって事で、歩きまわってたりしたよね」
「そうそう。それで、マナがお菓子とかぼろぼろ落としながら歩いて、ケイタが高いからって怖がって、俺が一番前歩いてて・・・で、それが?」

 懐かしみつつもいまいち話が見えない様子のムサシ。気にせず言葉を続けるマナ。

「知りたかったんだ。出ちゃダメって言われてる向こう側がどうなってるのか。楽しい事とか嫌な事とか、何があるかは分からないけど、きっと何かあるんだろうなぁって。そこに行けば、何かあるんじゃないかなぁって」
「・・・向こう側、か」
「まあ、その頃はそんな事考えてたわけないんだろうけどね」
「・・・・・・・・・」

 言葉を選び、口調と表情を選び、話を組み立てていく。

「別に、何かに文句があるとか、そういうのじゃないと思うんだ・・・あの頃からの感じが、これからも続いていけばなぁとかって、さ」
「・・・・・・・・・」

 二人の他には誰も居ないと錯覚させるような静かな空間の中を、マナの声だけが広がる。

「・・・ちょっと大げさだけど、この先どうなるかわかんないけど」

 歩みを止め、両足のかかとをそろえる。そのまま爪先を上げ、かかとを軸にターン。少し無理がある姿勢。
 オートバランスと鋼化神経反応特有の超感覚で、ぐらつきをねじ伏せて体勢を整える。
 ほんの少しだけ前かがみになって、小首を傾げつつ見上げるようにする。

「またいつか行こうね。ムサシとケイタと私と、みんなで一緒に・・・ずっと、ずっと遠くのどこか。お弁当持って、塀の上歩いて」

 曖昧な笑顔とまっすぐな視線。

「・・・・・・・・・」

 無言のムサシ。

(ま、ムサシのこういう顔を見れるのも特権の一つかな・・・や、幼なじみとかそういうのとはまた違って、その、ま、色々微妙なお年頃って事なのよ、これが)

 自分でいうあたりがやや怪しい、微妙な14歳中学少女、霧島マナ。
 そのまま何となく見詰め合う、中学男女二人。静かな時間が流れる。

(何か安っぽいお約束だけど・・・ま、たまにはいいよね)

 照れたように先に視線を逸らしたのはムサシ。そのまま背中を向けて歩き出しつつ口を開く。

「そうだな・・・ま、そのためにもとりあえずは、今日の現社と数学と生物をどうにかする事だな」
「・・・人がせっかくいい塩梅で浸っていたのに、このムサッキーめ・・・そこに直れぇ!も一発、鋼鉄ビィムだぁ!」
「うわっ!待て、おい!ちょっと、それは当たるとマジでヤバイって!」

 鞄を振り回しながら追いかけるマナ。
 笑いながら逃げるムサシ。

 平凡な、日常。ぼんやりとした時間の流れの中、いつからか、いつまでも、続いていくと思われる光景。

「あれ?」

 ムサシに追いつこうと走っている最中、何となく通りの方に眼を向ける。このあたりでは見かけない少女が佇んでいる。
 彼女たちと同じ第壱中学校の制服。水色の髪、赤い眼。

(水色の髪・・・不思議な色・・・)

 こちらに向きなおる少女。
 赤い眼。
 何かを伝えるように動く唇。

(あれっ?・・・・たしかどこかで見覚えが・・・どこだっけ?)

 肉眼視野で少女を捕らえたまま、映像受信履歴を呼び出す。
 論理空間上に開くコマンドパネル。一時停止したところからの再生を指定。

(確か、残ってるはずなんだけど・・・)

 視界の隅にパネルが開き、映像履歴が表示される。
 駅前の公衆電話コーナーに佇む少年の姿。
 何もない道路の方に眼を向けている少年。

(・・・ん?・・・何、これ?何でこんなものが見えるの?)

 どこか遠くで鳴り響く警告音。

「ねえ、ムサシ・・・」

 ムサシの方に話し掛けようとした時、突然、鳴きながら飛び立つ鳥の音。
 同時に、眼の奥を軽く突つかれたような鈍い痛み。
 飛び去る鳥の群れ。
 余韻を残さず消える痛み。

 視点を戻す。
 何もない道路。
 急に息苦しくなり、心臓が跳ね上がるような衝撃。

「・・・あれ?さっき確かにいたのに・・・ね、ムサシも見たよね?」

 先を歩いていたムサシに話し掛けつつ、向き直る。
 いつの間にか真っ赤に染まっている景色。血の色。
 視野の周囲から銀色のノイズが走り、ぼんやりと二重露光のように現れる、薄暗い中で発光ダイオードが明滅する光景。
 誰もいない道路。

「ねえ・・・ムサシ・・・どこ行っちゃったの?ねえ・・・」

 突然、あたりに轟く衝撃音。
 ビリビリと震える建物のガラス。
 微かにゆれる視界。
 鈍い痛みと共に、幽体離脱する感覚。奇妙な浮遊感。
 ノイズがあちこちに走り、揺らぎながら急激に変化して行く風景。
 音の方へ振り向く。

(・・・これって・・・何なの?!私、どうなっちゃったの?!)

 ガラスのように視野が砕け散り、空に向かって落ちていく。
 やがて霧が晴れるように世界が構築されていく。

 森が切れて眼前にひろがる田園。まっすぐに伸びているモノレールの高架レール。
 山の稜線の奥で広がっている土煙。
 並行移動で出てくる重戦闘機群。
 続いて姿を現す、巨人。

(・・・違う、こんなの・・・こんなの私知らない!!)

 そこには、白い仮面。
 2つの空ろな空洞のような眼。

(・・・・・・・・・・・・!!)
















 使徒。








『おかえりなさい』

























Grid:08









 オートバランスが切れる。
 感覚同期のフィードバックが下半身に伝わる。
 地面を蹴り、生き残ったスラスターを全開にして前進する。
 徐々に加速して行く巨大な機体。
 身体をシートに縛り付けている腰と足のロックにかかる負荷。
 麻酔が効いているため、厚手の毛布越しの感覚のようにぼんやりとしか伝わってこない肉体への負荷。
 一気につまる使徒との距離。こちらに気づき、振り向く。
 再び、手をかざす使徒。光の槍の穂先が覗く。
 計算済みの動作。槍の射界から外れるように横に滑る機体。そのまま短距離ダッシュ用ロケットモーターを点火して突撃する。

 使徒の正面まで近接したところで何かと衝突し、行く手を阻まれる。
 現れたのは光の壁。衝突した部分から赤い多角形の波紋が広がる。
 突然、光の壁が波紋の形を保ったまま固定され、そのまま紫電改が接触している面から新たな波紋を広げつつかき消されていく。
























 転移。
























「・・・勝ったな」

 感心したように、冬月副司令。

「・・・ああ」

 表情を変えず、碇司令。

「A.T.フィールドを凍てつせかて更に相転移させるとはな」
「報告に目を通した時には呆れたが・・・それ以上の無理はしなかったようだな」
「今ごろ、老人達もシナリオの書き換えに躍起になっているだろうよ」
























 転移。
























 右腕を前方に突き出すように展開。三つ又に分かれたマニピュレーター・クロー内側に沿って装備されている近接戦闘用ブレードのカバーが開き、動作チェックが行われる。刺突用リニアモーター、超振動モーター、共に異常なしの表示。
 そのまま紫電改の肩に手を掛けて押しのけようとしている使徒の腕をつかみ、強引に超振動ブレードを作動させる。金切り音を上げて刃が食い込み、腕を削ぎ落とす。
 使徒の胴体中央にある光球に押し当てられる荷電粒子砲。動力炉と直結されて活性化する粒子加速器。
 突然、使徒の仮面に光が灯る。
 超高速モードに入った紫電改はすばやく反応し、右手を仮面の下に押し当てて捻じ曲げる。
 紫電改の腕に更に力が込められ、仮面に亀裂が走る。
 目標を捕らえられぬまま発射される使徒の光線。ビル街から爆炎が上がる。
 悲鳴を上げ、紫電改に飛びつき、包み込むように身体を変形させる使徒。
 零距離で火を噴く荷電粒子砲。
 爆発。
 閃光に包まれる市街地。
























 転移。
























 ノイズだらけのモニター。

「自爆だと?!・・・何て事だ」

 固唾を飲んで見守る軍人たち。

「・・・目標と、トライデント級は?」
「まもなく、センサー回復します」
「爆心地にエネルギー反応」
「・・・まさか?!」
「トライデント級からの信号受信・・・目標の殲滅を確認!」
「よぉぉし!!」
「やったか!」

 一斉に歓声が上がる。
 
 それらを無感動に見下ろす碇司令。
 受話器を置いた冬月副司令が、何か耳打ちする。

「・・・ともあれ、君たちの出番はなくなったわけだ。今後の事については、いずれ上の方で話をまとめるだろうよ」

 士官の一人が碇司令たちに勝ち誇ったように語り掛ける。

「その件につきまして、先ほど連絡が入りました」
「ほう、珍しくすばやい対応だな」
「本日ただいまを持って、トライデント級陸上軽巡洋艦、及びパイロット、機材一式を、特務機関ネルフが徴用いたします」

「何?!」
「そんな馬鹿な話があるか!!」

 突然の話に、声を荒らげる軍人たち。

「いずれ、政府より正式な命令が下ると思われます。この場は、お引き取りください」

 あくまでも淡々と、碇司令。

「ふざけるな!あれは我々のものだ!お前たちになど渡すものか」
「特権を振りかざすもいい加減にしろ!」
「特務機関というだけで、全てが許されるとでも思っているのか?!」

 眼鏡を押し上げながら、自信に満ちた口調で、碇司令。

「現段階でもっとも有用と思われる手段を選んだまでです。任務遂行が最優先・・・そのための、ネルフです」
























Grid:09









「さて、今夜は、パーっとやらなきゃね」
「何をですか?」
「もちろん、新たなる同居人の歓迎会よ♪」

 そのまま、トンネルを抜ける車。

「・・・あれっ?」

 ふと我に返る。

「どうかした?霧島さん」

 見知らぬ女性に話し掛けられる。
 周囲を見回すと、そこは走っている車の中。

「あれ?私・・・ログを見てたはず・・・?え、おや?」
「ん、何の話?」
「え、と・・・すいません、私は何がどうしてしまったんでしょう、か?」
「・・・あの、大丈夫?」

 乾いた空気が漂う。

「あの・・・ちょっと、マズいかも・・・なんて言ってみたりして」

 愛想笑いを浮かべながら、必死に記憶域を再構築する。
 目の前の人物を人物照合。オフラインでは検索する術も無く、当然該当無し。

「ちょっと・・・本当に大丈夫?病院戻ろうか?」








【データ破損:削除】








「じゃ、も一回改めて。私の名前は葛城ミサト。よろしくね、霧島さん」

「あ・・・そうでしたか。よろしくお願いします、葛城さん」
「ミサト、でいいわよ」

 笑みを浮かべ、気さくな様子で、ミサト。

「私も、マナでいいです。ミサトさん」

 笑みを作り、気さくな様子で、マナ。

「で、あなたは私と同居する事に決まったから。よろしくね♪」
「・・・・・・・・・は?」
「だから、一緒に住むのよ」
「・・・ええぇぇぇっ?!」
「でもって、今後のあなたの上司でもあるってわけ。もひとつ、よろしくね♪」
「・・・・・・・・・えええぇぇぇぇっ?!」








【データ破損:削除】








「ちょっち、寄り道するわよ」
「どこへですか?」
「い・い・と・こ・ろ♪」

 高台に止まっている車。傍らにマナとミサト。
 再開発の看板や工事中のランプなどが目立つ旧市街。
 その奥に何もない無機質なコンクリのブロックエリア。
 戦闘の痕跡が所々に残っている。

「何にもない、街ですね」
「・・・時間だわ」

 鳴り出すサイレン。山に木霊する音。
 道路や建物にかかっている大規模な防御シャッターが開いていく。
 目をみはるマナ。

「すごい・・・!ビルが、生えてる」

 地下に収納されていたビルが地上に戻っていく。
 空に伸びていく集光ミラー。赤い太陽光を反射している。
 マナの眼前にひろがっていく大計画都市。
 夕日の中。街のあちこちから、生き物のように生えてくる高層ビル群。

「これが、使徒迎撃要塞都市、第3新東京市。私たちの街。そして、あなたが守った街よ」

 夕焼け空にそびえ立つ超高層ビル群を見つめつづけている二人。
























Grid:10









 闇の中に浮かぶ、数人の人影のある長テーブル。それぞれ白、赤、青、緑、黄色にライトアップされた席についている。
 上座にはバイザーをかけた老人。
 末席に碇司令。

「使徒再来か・・・あまりに唐突だな」

 緑の席の老人。

「15年前と同じだよ。災いは何の前触れも無く訪れるものだ」

 黄色の席の老人。

「幸いとも言える。我々の先行投資が、無駄にならなかった点においてはな」

 赤の席の老人。

「そいつはまだわからんよ。役に立たなければ無駄と同じだ」

 青の席の老人。

「左様。今や周知の事実となってしまった使徒の処置。情報操作。ネルフの運用はすべて、適切かつ迅速に処理してもらわんと困るよ」

 再び、黄色の席の老人

「その件に関しては既に対処済みです。ご安心を」

 碇司令。
























 転移。
























 第3新東京市。
 爆心地。

 赤い回転灯。周囲を囲むバリケード。『危険、立ち入り禁止』の文字。
 クレーター中心に設営された簡易テント。空にはネルフのマークが入ったヘリ。
 国連軍の姿は見えない。
 パソコンや研究設備に混じって、クーラーボックスや麦茶、紙コップが転がる。
 団扇を仰ぎながら、記者会見の中継を見ている二人の女性。
 首から下は全員、暑苦しい防護服を着ている。玉のような汗。
 リモコンを押す、ロングヘアーの女性。

『昨日の、特別非常事態宣言に関しての政府発表が、今朝、第2・・・』

 12チャンネル。記者会見を行っているスーツ姿の男。『政府緊急記者発表』『生中継』のテロップ。

『今回の事件には・・・』

 4チャンネル。まったく同じ画面。『内閣官房長官』『首相官邸より中継』のテロップ。

『来日国連軍の・・・』

 8チャンネル。まったく同じ画面。『LIVE』とのテロップ。
 1チャンネル。
 BS7チャンネル。
 どのチャンネルも同じ番組を放映している。

「発表はシナリオB−25ね」

 紙コップを手に、金髪の女性。

「広報部は喜んでたわよ。やっと仕事が出来たって」
「うちもお気楽なもんねぇ」
「どうかしら。本当はみんな、こわいんじゃなくって?」
「・・・あったりまえでしょ」
























 転移。
























「ま、そのとおりだな。しかし碇君」
「零号機に引き続き、彼らが初陣で壊した木馬の修理代。国が一つ傾くよ」
「聞けばあのおもちゃ、原子炉を積んで戦っているそうではないか」
「使徒の爆発規模があの程度ですんだ事も、単に我々の運が良かったに過ぎん」

 皮肉口調の言葉が飛び交う。

「それに君の仕事はこれだけではあるまい。『人類補完計画』これこそが、君の急務だぞ」
「左様。その計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ。我々のね」
「いずれにせよ、使徒再来における計画スケジュールの遅延は認められん」

 碇司令を一瞥して、上座につく議長の老人。

「戦闘中、木馬からのICEの発現を確認しました。これでエヴァを、本来の任務に専念させられます。シナリオに分岐は発生しましたが、計画はすべて順調です」

 表情を変えず、碇司令。

「シナリオの修正も急がねばならん」
「頭の痛い問題ですな」
「木馬と人形と機材一式。未完成分も含めて、早急に引き上げねば」
「あれは本来我々のものだ。さしたる問題ではないよ」
「予算については一考しよう」
「では、あとは委員会の仕事だ」
「碇君、ご苦労だったな」

 議長と碇司令を残して消える委員会の面々。
 立体映像によって構築された仮想会議室。電脳空間とはまた違った形式の空間。

「碇、後戻りは出来んぞ」

 言い残し、議長が消える。
 一人会議室に残る、碇司令。

「分かっている・・・人間には時間が無いのだ」
























Grid:11









「ここが、私達の家よ」

 やがて辿り着いたマンション。コンフォート17。まだ他に誰も住んでいないのか、生活の気配は漂ってこない。
 エレベーターで11階まで上がり、11−A−2号室の前で足を止める。

「さ、入って」

 鍵を開けて先に中に入り、マナを手招きするミサト。

「あの、おじゃまします」

 軽く会釈して家に入ろうとするが、押しとどめられる。
 少し怒ったような表情をしているミサト。

「だめよ、それじゃ」

(・・・?)

「マナ。ここはあ・な・たのウチなのよ。なら、当然、入ってくるときの言葉は違うでしょ」

(・・・・・・・・・そういう事、ね)

 何を言いたいのか理解する。
 最適と思われる行動オプションを実行。

「あ、あの・・・ただいま」

 少し照れたような表情を作り、小声で答える。
 軍隊仕込みの表情と仕草。

「おかえりなさい」

 満足そうに微笑み、マナを招き入れるミサト。

「まぁ〜、ちょっち、散らかってるけど気にしないでね」

 最初に目に入ったのは、段ボール箱の山。
 脱ぎ散らかしたままの服
 ビールの空缶。
 ウィスキーの空き瓶。
 食べかけのつまみの袋。
 乱雑に散らばった本。
 ゴミの山であふれかえった部屋。
 傍らに寄せられた真新しいダンボール箱。伝票にはマナの名前。

「ごめん。ちょっと待っててね」

 そそくさと部屋を片づけるミサト。
 適当にものを積み重ね、乱雑に四隅に寄せて空間をつくる。

「その辺で適当にくつろいでいて。あ、マナの荷物も届いてるみたいね。奥の部屋使っていいから、悪いけど、片づけといて」

(・・・・・・これは、驚いたわ。参ったっていうか・・・うん)

 あ然とするマナ。

 とりあえず、買い物袋を片づけるために冷蔵庫を開く。中はビールと氷とつまみで埋まっている。
 何とか隙間をつくり、買ってきたインスタント食品を詰めていく。
 隣に視点を移すと、そこには巨大な冷蔵庫。

「あの、こっちの冷蔵庫は?」

 襖の奥で、部屋着に着替えているミサト。

「あ、そっちはいいの。まだ寝てると思うから」
「・・・寝てる?」
「さ、お待たせ。食事にしましょ」

 露出度の高いラフな服装に着替えたミサトが出てくる。

 テーブルの上に並ぶ数々のインスタント食品。
 早速ビールをあおっているミサト。

「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ、ぷはぁ〜っ!カァ〜ッ!やっぱ人生、この時のために生きてるようなもんよね」
「そうですね」

 豪快にビールをあおり、アルミ缶を持ったまま、笑顔のミサト。
 にこやかに笑みを浮かべながら、手近な皿に箸をつけているマナ。

「たのしいでしょ?」
「え?」
「他の人と一緒の食事」
「あ・・・そうですね」

(・・・・・・・・・)

 穏やかに進む食事。








【データ破損:削除】








 食事当番や風呂掃除の当番などを決めた丸等が書いてある紙。
 テーブルには既にビールの空缶が並んでいる。

「厳正なるジャンケンによって、掃除、ごみ当番、後片付け、そして風呂掃除当番はこのように決定しましたぁ♪、と」

 二人での約束事を決めていくミサト。
 何事もおとなしく、うなずいて微笑んで返すマナ。

「じゃ、生活当番はこれでいいわね」
「はい、いいです」
「そう、かしこまらないで。ふつーでいいのよ。ふつーで」
「はい」
「はい、じゃないでしょ」

(・・・・・・・・・)

「・・・はい♪」

 笑顔を作り、明るく答えるマナ。
 笑顔を浮かべるミサト。

「ま、それじゃあ・・・汗かいたでしょ。先に風呂、入んなさい。やな事はお風呂にでも入ってパーっと洗い流しちゃいなさいな」
 人差し指を立て、ウィンクしてみせるミサト。

「風呂は命の洗濯よ」

 届いていたダンボール箱から肌着類を発掘し、風呂場に向かう。
 洗濯場に干しっぱなしのミサトの下着。
 洗濯物に気を取られたまま、風呂のドアを開けるマナ。
 直後、そこにいる物体、生物に気づく。
 眼が合い、そのまま硬直する。

「・・・・・・きゃあぁっ!!」

 慌てて飛び出す。

「み、み、み、ミサトさんっ!」

 移動する物体を目で追いながら。

「お、お風呂場に変な・・・あ、あれ?!」

 何事も無かったかのごとく、ぺたぺたと大型冷蔵庫の中に入るペンギン。

「ああ、彼。新種の温泉ペンギンよ。もう一人の同居人、名前はペンペン」
「ぺ、ペンギンですか?」
「そ。仲良くしてね。それにしても・・・まあ、まだ中学生だしね。がんばんなさいな♪」

 胸元へのミサトの視線。
 自分の状況に気づくマナ。

「・・・・・・!!」

 赤面し、慌てて風呂場に戻るマナ。
 笑って見送るミサト。
 ドアを開けて風呂場に飛び込む。

 深くため息。
























Grid:12









 照明の落ちた実験場の巨大な人影。
 十字型の停止信号プラグを打ち込まれた、エヴァンゲリオン零号機。
 下半身を特殊ベークライトで固められている。
 ボロボロの管制室に人影。碇司令と赤城博士。

「戦自の木馬及びパイロットの状況は?」
「第9ケイジに収容しました。現在、戦自技研からの資料を元に運用準備が65%まで進んでいます。予定されている残り2機の収容も問題ありません。回収したパイロット、霧島マナは葛城一尉が引き取りました」
「プログラムの修正は任せる」
「分かりました」

 物音一つしない実験場。
 管制室に拳を突き出した姿で佇む零号機。

「レイの様子はいかがでしたか?午後、行かれたのでしょう・・・病院に」

 零号機を見つめながら、赤城博士。

「あと20日もすれば動ける。それまでには凍結中の零号機の再起動を取り付ける予定だ」

 同じく、碇司令。

「つらいでしょうね・・・あの子たち」
「エヴァを動かせる人間は他にいない。生きてる限り、そうしてもらう」
「子供たちの意志に関係なくですか・・・サードチルドレンの処遇は、いかがなさいますか?」
「レイ同様、君の管轄下に入れる。準備が整い次第、機体連動試験を行う」
「・・・分かりました」
「エヴァ初号機は一時凍結。ドイツ支部からの弐号機の到着を待ち、零号機と合わせてコンバート作業を開始する」
「分かりました。MAGIの拡張階層域の調整と合わせて、スケジューリングしておきます」
「よろしく頼む」

 静かに、零号機を見つめる二人。
























Grid:16









『・・・そう、あんな目に遭ってんのよ。また乗ってくれるかどうか』
『あの子なら問題ないわ。しっかりマインドセットもされてるようだし。大体、彼女のメンテナンスもあなたの仕事でしょ?』
『怖いのよ。どう触れたらいいか分からなくって・・・』
『もう泣き言?自分から引き取るって、大見得切ったんじゃない』
『うるっさいわねぇ・・・」




 ベッドの上に仰向けに寝転ぶマナ。
 薄目を開けて天井を見つめている。
 物音一つしない、照明の消えた部屋の中。




『後で、あの子の検査結果と一緒に残り二人のパイロットの資料も送るから、ちゃんと目を通しておくのよ』
『りょ〜かい。確か、マナと同い歳の男の子二人だったわよね・・・そういえば、サードの彼も同級生か・・・』
『サードチルドレンは、私の方で担当するわ。家にまで連れ込む気はないけど』
『大きなお世話よ。大体、女同士なんだからいいじゃないのよ、別に・・・』




(そっか・・・やっぱり、ムサシやケイタも来るんだ・・・よかった)




『・・・今はまだ大丈夫だと思うけど、やっぱりずいぶんと無理してるみたいね。じゃ、また明日』




 目を閉じ、深く息を吐く。

(・・・大きなお世話っていうか・・・ま、いいけど)

 頭の中にスイッチを切るイメージを思い浮かべ、スキッドと拡張広域送受信機を停止させる。
 街の雑踏の中での会話のように聞こえていたコードレス電話の子機から発信される暗号化された電波の囁きが消え去り、マナにとって本当の意味での静寂が訪れる。

(ムサシとケイタと連絡とりたいけど・・・無理だろうなぁ)

 先ほどチェックしただけで、1ダース以上の盗聴機や隠しカメラを発見した。
 監視される事には慣れているが、ここは慣れ親しんだ基地ではなかった。

(後で、葛城一尉に聞いてみよっ、と・・・)

 寝返りをうち、身体を横にする。

(う・・・気持ち悪い・・・・・・こりゃだめだぁ)

 欠落した記憶を蘇らせるために使った血管収縮剤の副作用で、異様な現実味を伴ったフラッシュバックがモザイク・タイル状に五感を刺激する。
 身体中の痣の疼きや傷めた内臓の重い感覚も加わり、泥のように広がる不快感。
 そのまま薄暗い部屋の中を見回すと、ハンガーにかかった学生服が目に入る。
 第壱中学校への転入。知らない間に決まっていた事の一つ。

(記憶が欠けてる。ログではフラットラインしてたみたいだからなぁ・・・良く助かったわよね、私って・・・)

 意識した途端、鮮明に蘇る死の光景。

 背中で起こる爆発。
 警報ランプの点滅と機体の軋みが響くコクピット。
 焼け落ちていく神経網。
 高圧線に触れたような衝撃。
 脳が煮えたぎり鼻や耳からこぼれ落ちていく感覚。
 むかむかする落下感。
 氷に閉じ込められ、焼け爛れていく身体。

 横になったまま、両腕で身体を抱えるようにする。

(潜って落ちて、潜って落ちて、堕ちた果てでは焼かれて凍って・・・)

 薬の作用で何度も繰り返される臨死体験。
 死の経験を強烈に焼き付けられた身体と、曖昧な形でしか存在しない記憶との間で矛盾を起こし、奇妙に平穏を保ちながら沈んでゆく心。

(最後まで、誰も、「頑張ったね」って言ってくれなかったな・・・)

 ため息、一つ。

「マナ・・・開けるわよ」

 部屋の襖が開き、廊下からの灯りに照らし出される。
 風呂上がりのミサト。
 何となく、寝たふりをしてしまうマナ。

「ひとつ、言い忘れてたけど・・・あなたは人に誉められる立派な事をしたのよ。胸をはっていいわ。おやすみ、マナ・・・・・・頑張ってね」

 言い残し、襖を閉じるミサト。
 暗闇に戻る部屋。

 もう一つ、ため息。
























−つづく−







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ver.-1.00 1998+11/27 公開
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あとがき

 こんにちわ(&はじめまして)です。

 相変わらず基本的なところで間違っていて、怒られたり怒られたり笑われたりしている今日この頃な、笑い猫・くろんでありますです。

 え、と。
 あとがきで色々書いちゃうとネタバレって訳じゃないですけど自爆率高いかなぁとも思う今日この頃。って事で、ネタバレになりそうもない事主体で書きますです。


 第壱・弐話と、完全に私的趣味全開読者様おいてけぼり猫まっしぐらにつっぱしった感じで進めてきましたが、いかがなものでしょうか。
 連載は最初が肝心って訳ではないですけど盛りだくさん詰め込み過ぎちっくに書きましたので(その割には内容からっぽなのはお約束)、次回からはもう少し描写が軽くなるかもしれませんです。っていうか、ずっとこの調子ではめんどくさくて疲れるってあたりはヒミツであります。頭使わなくていいってあたりは楽なんですけどね。
 色々ご意見など下さると嬉しさ1024倍であります。

 霧島さんについて「これのどこが『霧島マナ』なんだ?」というご意見も多数あると思いますです。いえ、思うっていうか、もはやオリキャラ化してるような気がする今日この頃であり、キャラへの思い入れの無さがバレバレちっくでありますです。ディープなファンな方々には申し訳なく思う次第です。

 完全に戦自サイドなお話を期待した方々、申し訳ありませんです。色々と考えてはみたのですが、とりあえず今回はこのような形ではじめる事にした次第です。


 とりあえず、こんなところでおしまいにしておきますです。って、結局いつも通りにぐだぐだ長々と書いちゃいましたですね。あいすみませんです。

 次回はもう少し頑張りたいと思う次第であり、問題無いようなら今後も色々よろしくお願いしますです。
 それでは。





 笑い猫・くろんさんの『鋼の器/Mana like the OVERDRIVE.』第弐話、公開です。





 戦自の軍人さん、、、

 かわいそう。かも(笑)


 「ざまあみさらせ碇っ」
 「いっつも偉そうな顔しやがって、どうだ見たか」
 「わしらが倒したんぞ。おまえの出る幕無し無し無し!」
 「どうだどうだ!!!」

 と勝ち誇ったのも一瞬。

 ぜーんぶ、持って行かれちゃって・・・

 赤提灯で「なんてことだ」と呟いている姿が目に浮かびます・・・


 かわいそう。かも。



 そんなこんなで
 NERVにやってきた霧島マナちゃん。


 戦略自衛隊とNERV。
 どっちが良い所なのかしら。

 良いところに来たと思えるといいんだけどな。


 家が、そりゃ、いいんだろうけどさ、、、、


 頭も体も色々弄くられているみたいで、
 なんか辛いっす。。




 さあ、訪問者のみなさん。
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