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 アスカが死んだ。

 僕は間に合わなかった。


 硬化ベークライトで固められた初号機を何とか起動させ、必死の思いで地上に這い上がったとき。
 そこに見たのは、アスカの弐号機を9体の量産型エヴァンゲリオンが食い荒らしている様だった。



 その後の事はよく覚えていない。



 気が付いたときには、初号機は何かの血のような物にまみれ真っ赤になり、周りには、よく解らない肉片やら破片やらが大量に散乱していた。
 弐号機を食い荒らしていた量産機の姿はもう何処にも見えなかった。


 弐号機の残骸の所へ向かう。

 引き剥がされた紅い特殊装甲に囲まれて、僅かな肉の塊と、四肢の断片と思しきものが転がっている。
 その中に僕はエントリープラグらしき物を見つけた。
 量産機のどれかが握り潰したのだろう。中央が大きくひしゃげ、そこから漏れだしたLCLが真っ赤に色づいていた。

 僕は気が遠くなっていき………そして、意識を失った。


 アスカは死んだんだ……






『魂の容れモノ』







 目を覚ました時に最初に見たのは、もう見慣れてしまった天井だった。

 何度目だろう? この天井を見るのは?
 NERVの付属病院のいつもの部屋のいつものベッド。
 僕は、ゆっくりと身を起こす。
「シンジくん!」
 すぐ横から声が聞こえた。
 ゆっくりと首を回すと、マヤさんの姿が視界に入る。
「よかった……、気がついたのね……」
「マヤさん……僕は……」
 戦自が攻めてきて、アスカが出撃して、ミサトさんと初号機のケイジに向かって、量産機が来て、ミサトさんが撃たれて、初号機に乗って……
 それから……それから……
「アスカ!」
 そうだ、アスカ!
 アスカは、アスカはどうなったんだ!?
「マ、マヤさん! アスカは、アスカはどうなったんです!?」
 僕はマヤさんに掴みかからんばかりに詰め寄る。
 マヤさんが少し怯えたように後ずさったが、僕はそんなことに全く構おうとはしなかった。
「ちょ、ちょっと、落ち着いて、シンジ君!」
「アスカは? アスカは?」
 全く落ち着いてなど居られなかった。少し錯乱していたかもしれない。
「だ、大丈夫! 生きてるから! アスカは大丈夫だから! だから落ち着いて、シンジ君!」
「…………え?」
 一瞬、マヤさんの云った言葉が理解出来なかった。
 アスカが生きてる?
「……アスカが……生きてる? でも……」
「生きてるの、エントリープラグも握り潰されたんだけど、奇跡的に助かったの!」
「嘘…………じゃ、ないですよね……」
「本当よ、アスカは無事なの! ロクにケガもしてないわ。シンジ君より元気なくらいよ」
「生きてる……アスカが……」
 ぼふん、と、音を立てて、僕はベッドに倒れ込んだ。
「生きてるんだ……アスカ……ハハ……」
 一気に力が抜けたような気がする。
「良かった……」
「シンジ君……」
 気が付くと、僕は泣いていた。後から後から涙がこぼれ落ちてくる。
 マヤさんが、そっと涙を拭ってくれた。
「マヤさん……アスカに会えます?」
「え? ええ、大丈夫だと思うわ。でも、ちょっと待ってね。シンジ君も目が覚めたばかりなんだから。今、先生を呼んでくるから、シンジ君の検査が終わってからね」
「……はい、お願いします。マヤさん」
「ちょっと、待っててね」
 嬉しそうに駆け出してゆくマヤさんを見ながら、僕はかつて無いほどの安堵感を感じていた。
 生きてる。
 アスカは生きてるんだ!


「アスカ!」
 ようやく医師の検査を終えた僕は、アスカの病室の扉を開けた。
「……シンジ?」
 アスカはベッドに座って雑誌を読んでいたようだった。
「どうしたの?」
 アスカが不思議そうな顔で僕に尋ねてくる。
 ?
 何だろう、微妙な違和感がある。
 それに、前と較べて、なんとなく険がとれているような……
「ど、どうしたって……、アスカ、量産エヴァにやられてたから……あの……大丈夫なの?」
「量産エヴァ? やられた? アタシが?」
 アスカがベッドを降りてスリッパを履く。
「あ、あのさ、ごめん、助けられなくて……アスカが非道い目にあってたのに……一人で戦わせちゃって……」
「そう、非道い目にあったの……アンタは助けに来なかったのね?」
「うん………覚えて……ないの? アスカ」
 アスカがゆっくりと僕に近づいてくる。
「違うわ、知らないの。多分アタシは3人目だから」
「……は?」
 奇妙な既視感。
 アスカのセリフの意味を理解仕切れないでいる僕を、強烈な打撃が襲った。
「こんのクソバカシンジ!! シンジのくせにアタシを助けにも来ないなんて、何考えてんのよ!!!」
 アスカが何か叫んでいたようだが、僕はその時既に、アスカのビンタ……と云うか張り手……と云うか掌手を喰らって気絶していた。





 目を覚ました時に最初に見たのは、もう見慣れてしまった天井だった。

 何度目だろう? この天井を見るのは?
 NERVの付属病院のいつもの部屋のいつものベッド。
 僕は、ゆっくりと身を起こす。
 何があったんだっけ?
 戦自が攻めてきて、アスカが出撃して、ミサトさんと初号機のケイジに向かって、量産機が来て、ミサトさんが撃たれて、初号機に乗って……
 それからアスカが3人目で……
「夢……でも見たのかな? 綾波のことが気になるのかな?」
 確かにLCLに浮かぶ綾波の群は強烈な印象を僕に残した。夢にぐらいは出てくるだろう。
「そうだよな……アスカまで綾波と同じだなんて……そんな事あるはずないよな……」
 そうだとすると、アスカはどうなったのだろう? やっぱり量産機にやられて……
「アスカ……やっぱり、死んじゃったの……?」
 哀しい。
 悔しい。
 アスカを助ける事が出来なかった、何も出来なかった自分が情けなくて仕方なかった。
「ごめん……アスカ……」
 そう、呟いた時だった。
「お、センセ、目ぇ覚めたんか?」
「と、トウジ!?」
 病室に入ってきたのは間違いなくトウジだ!
「大丈夫みたいやの? 全く、惣流に起き抜けに思いっきり引っ張たかれたんやて? 非道いことするのお、あないなおなごがええなんて、センセもつくづく……」
「え、あ、アスカ、大丈夫なの!?」
「……なんや、覚えとらんのか? センセ、戦闘後に気絶して目が覚めた途端に惣流見舞いにいって、殴られたんやで。……まあ、かなり強く殴られたみたいやからな、無理もないわな」
「夢じゃ……なかった……?」
 あらためてトウジを見る。
 いつもの黒いジャージを着て、僕のベッドのそばで、立って僕を見下ろしている。
 両足で……立って?
「と、トウジ! 脚、脚!」
「ん? 脚がどないしたんや?」
「と、トウジ……脚……無くしたんじゃ……」
 苦く、痛い記憶が蘇る。
「おお! 確かに1人目のワイの脚は無くなってもうたけどな、2人目になったから、もお大丈夫や!!」
「……は?」
「なんや、心配してくれとったんか、センセ?」
 僕はもうトウジの話を聞いていなかった。


 僕はトウジが出ていった後、フラフラと病室を出た。
 そこに、突然後ろから声がかかる。
「やあ、シンジ君」
「うわぁ!! ……か、かかか、カヲル君!!!」
 カヲル君だ! 僕がこの手で殺したはずのカヲル君がいる!
「か、カヲル君! い、生きてたんだね!! …………って、まさか………」
「? どうしたんだい、シンジ君」
「まさかカヲル君……自分の事を2人目だなんて……云わないよね?」
「おかしな事を云うね、シンジ君。そんなはずはないじゃないか」
「そ、そうだよね、そんなことないよね……」
 僕はホッとした。
 多分、アスカとトウジのも何かの聞き間違いだったんだ。うん。そうに違いない。そういう事にしよう。
 とか考えていたら、カヲル君がとんでもないことを云った。
「だって僕は11人目だもの」
「か、カヲル君!!」
 ショック!
 そ、そんな……、カヲル君まで!
 ……でも……11人?
「か、カヲル君、11人目って……、じゃ、じゃあ、僕が殺したカヲル君って10人目だったの?」
「いや、1人目だよ」
「…………じゃあ、他の9人はどうしたの?」
「…………聞きたい?」
 あんまり聞きたくなかった。


「あらぁ、シンちゃん、気が付いたのね」
「み、ミサトさん!」
「まぁったく、アスカも非道い事するわねぇ。ま、アスカらしいと云えばアスカらしいけどねぇ」
 話しかけてくるミサトさんを僕は呆然と見ていた。
 実はミサトさんには悪いが、僕はミサトさんの事を今まで綺麗サッパリ忘れていたのだ。
 確かミサトさんは、戦自が攻めてきたときに僕を迎えにきて、一緒に初号機のケイジに向かい……
「み、ミサトさん!!!」
「ど、どうしたの、シンジ君? 大きな声だして……」
「傷、傷、撃たれた傷、大丈夫なんですか!?」
「傷?」
 ミサトさんは平気な顔をして立っている。どこにも傷があるようには見えない。
 確かに、初号機のケイジへ向かう途中、戦自の隊員に銃で撃たれたはずなのに!
「ほら、僕を庇って銃で撃たれたじゃないですか!」
「銃で……? ああ、じゃ、前の私って、シンジ君を庇って死んだのね?」
「前の……私?」
「入れ替わる時って、記憶が混乱するのよねぇ。でも、シンジ君庇って死んだなんて、今までで一番まともな死に方じゃないかしら?」
「そ、そんな……ミサトさん……」

「いよぉ、葛城、シンジ君!」
 後ろから発せられる声。この声は……
「加持さん!」「加持君!」
「久しぶり。いやぁ、新しい躰の調整がてまどっちゃってさ……シンジ君、畑の方は大丈夫かな?」
「は、はぁ……」
「加持君も、飽きないわねぇ。何回目だっけ? 死ぬの?」
「6回だったかな? 葛城、お前は?」
「私は3回。今4人目、ピッチピチよン。アソコも新品よ、試してみる?」
「はは……、そうだな、じゃあ今夜にでも……」
 僕はヨタヨタとその場を離れた。
 二人の話の内容はサッパリ頭に入ってなかった。


「リツコさん……居ます?」
「あら、シンジ君。どうしたの?」
 僕はリツコさんの部屋に来ていた。勿論、この事態の説明をしてもらうためだ。
「あ、あのアスカが……」
「あら、何かおかしな所でもあった?」
「おかしいって云うか……あの……自分の事を3人目だって……」
「そうね」
「そ、そうね……って、リツコさん!」
「何? どうしたって云うの?」
「どうしたって……どう云うことですか! これは! トウジもカヲル君も、ミサトさんや加持さんまで! まさか、みんな、綾波みたいに代わりの躰を用意してるって云うんですか!? それとも、みんなで僕をからかってるの!?」
「だから、何? 何を云ってるのか解らないわ。最初から説明してくれる?」
「……はい」
 僕は、リツコさんに順を追って全て話していった。
 だが、リツコさんは、さも当然と云った顔をしている。

「……それで、僕は何が何だか……」
「……私には何を当たり前の話をって気がするけど……もしかして、シンジ君?」
「……何ですか?」
「あなた……何人目?」
「な、何云ってんですか!? 怒りますよ!」
「そう…………、憶えてなかったのね……」
 リツコさんは、フウと溜息をついた。
「あなた……あなたで9人目よ」
「…………は?」
「記憶の連続性に個体差があるのは解ってたけど……まさか、躰が変わったことをすっかり忘れてたなんてね……大抵は、死ぬ前後の記憶が曖昧になるけど、躰が変わった事は何となく憶えてるのよね………もっと、しっかりカウンセリングやっとくんだったわね」
「…………」
 もう僕は何を考えればいいのかすら解らなかった。
「確か1人目のシンジ君は、第3使徒が来たとき、初めてエヴァに乗ったときに死んだのよね。次が第5使徒の時でしょ? それから……、そういえば、アスカに殴られて、そのまま昇天したとか、ミサトの料理を食べて違う世界に旅立って帰って来なかった……なんてのもあったわね」
 僕はもうリツコさんの言葉を聞いていなかった。
 僕はヘナヘナとその場を離れた。




 気が付くと僕は司令室の前にいた。
 そうだ……父さん!
 この黒幕は父さんに違いない!
 そうだ、父さんしかいない!  悪いのは父さんだ!!
 僕がアスカに殴られるのも、ミサトさんの料理が殺人的なのも、みんな父さんが悪いんだ!
「父さん! 入るよ!」
 僕は返事も待たずに入室する。
「な、何だ、シンジ!? ノックぐらいせんか!!」
 父さんと副司令が慌てて何かを机の下にしまいながら叫ぶ。……司令室の分厚い扉をノックして、中に聞こえるんだろうか?
「そんな事より父さん! どういう事だよこれは!」
「……何の事だ」
 もう落ち着きを取り戻している。僕の剣幕など意にも介していないようだ。
「僕達の躰の事だよ! 代わりの躰をたくさん用意しておくなんて何を考えてんだよ!」
「何? 今更、何を云っているのだ、おまえは?」
「いいから答えてよ! 生命に対する冒涜じゃないか! これは!」
 後から考えてみると、非人道組織NERVの司令に云うセリフじゃないような気がする。
「……当然のことだろう。お前達を失う事は、世界の滅亡にもつながるのだ。『予備』を用意するのは当然だ。甘いことを云っている場合ではない。実際、お前達は一度以上、お前に至っては8度も死んでいるではないか」
「シンジ君、気持ちは解らないでもないが、最早君達の生命は君達だけのものではないのだよ。解ってくれ」
 父さんと副司令が説明する。
 ……もしかして、父さんが僕達の生命よりも、エヴァの方を大切に扱っていたのは、僕達は何度死んでも復活出来るから? エヴァ本体よりも僕達の躰の方がずっと安いってことだろうか? ……そうだろうな、多分。
 その時、僕に一つの予感が走った。
 まさか……
「と、父さん?」
「まだあるのか?」
「…………父さんは何人目なの?」
 父さんはそれを聞き、赤い眼鏡の奥から僕をじっと見つめた後、おもむろに副司令の方を向き、
「何人目だったかな、冬月?」
「……確か173人目だ。お前はいろんな所で恨みを買ってるからな」
 どこかで、人生観とか倫理観とか云ったものが崩れていく音がしたような気がした。
 ……僕は……どうすればいいんだ?

 とりあえず、173人目の父さんを撲殺することにした。

 どうせ、明日には174人目が起動することだろう。





P.S

 173人の父さんのほとんどが、冬月副司令を始めとするNERV職員のストレス解消、及び暇つぶしで殺されたと知ったのは、もう少し後だ。











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ver.-1.00 1998+04/17 公開
感想・質問・誤字情報などは こちらまで!

あとがき

 たまには後書きも書いてみようかと思います。
 この作品は『ギャグ』です。少なくとも、作者はそのつもりです。間違っても深読みしないように。
 死ぬほどつまんないけどね。
 ……いいじゃないか。結局誰も死んでないんだし……

 それから、先週、出張で久々に上京しました。久々と云っても1月末にワンフェスに行ったんで2ヶ月半ぶりぐらいなんですが、その時はワンフェス会場以外どこにも廻れなかったもので。
 私の住んでいる場所は東北のド田舎で、いわゆるヲタク的なアイテムを入手するのが非常に困難な場所であります。テレ東系のアニメなんかほとんど放送されず(私は関東在住の友人にビデオを送ってもらってますが)、たまに来る、みちのくプロレスだけが楽しみというとんでもない所です。
 と云うわけで、仕事が終わり次第、いきなり買い物に走ります(この辺、田舎のヲタクの行動パターンってみんな一緒だと思うけど)。
 それで、ガレージキットやアクションフィギュアを物色している内に、渋谷のK・ONEと云う模型屋で、ムサシヤの『瞬間、心かさねて』のクリアバージョンを発見!

知らない人のために解説。
 『瞬間、心かさねて』はムサシヤというガレージキットメーカーが発売したガレージキットのタイトル。制服姿のシンジとアスカのフィギュアがセットになっており、ポーズが、立っているシンジにアスカが後ろから飛びついてVサインを出していると云うLAS者御用達のようなキット。現在は生産終了。
 通常、ガレージキットの成形につかうキャストと云う素材は不透明なのだが、最近、透明のキャストが出回るようになり、透明キャストで成形されたフィギュアなんかが出てきた。これがクリアバージョン。
 今回見つけたのは限定で発売されたクリアバージョンの方。全パーツ透明なので、スカートの部分なんか結構凄いことになってる。

 これは昔、購入を考えたものの、1万円以上もする値段に負けて購入を断念したもの……
 それが特売の6千円(多分半額)!
 しかも限定のクリアバージョン!
 あきらかに売れ残りだが、恐らくこの値段でこのキットに再び巡り会える日は来ないだろう……と考え、8秒ほど悩んだ末に購入してしまいました。
 と云うわけで、今クリアパーツをシコシコ磨いております(他にも色々買い込んだので帰りは大変だったけど)。ワンフェスで買い込んだキットもまだ組んでないのに……
 考えてみると、アス r>
 それでは、「次の上京はJAFCONの時かなあ」のザクレロでした。




 ザクレロさんの『魂の容れモノ』公開です。



 アスカ、復活!

 シンジも復活!!

 ミサトもついでに!

 加持もいつの間にやら。


 のーてんきな補完に心が緩みます(*--*)


 お気楽乗りが楽しいね。


 お気楽ゆえにすっごくブラック(爆)



 ミサトのセリフ「新品」・・・(^^)



 さあ、訪問者の皆さん。
 生命を冒涜した(笑)ゼクレロさんに感想メールを送りましょう!










 私?
 私はきっと4人目。


 ・ 去年のゴールデンウィークの新規入居&投稿ラッシュ
 ・ 去年八月頭の同上
 ・ そして、昨日から続く同上

 ここで死んでいます(^^;


 うーん・・・まだ部屋作りが終わらない・・・後何人いるのかな〜 うへふへほ




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