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 現在、NERVは、いや、全世界は大ピンチであった。

 フィフスチルドレン、渚カヲルは、その正体が使徒であることが発覚し、殲滅。
 フォースチルドレン、鈴原トウジは第13使徒戦における負傷で入院中。四肢の欠損も見られ、戦線復帰は絶望。
 サードチルドレン、碇シンジは階段下の暗がりで、体育座りをしてぶつぶつ呟いている。やる気ゼロ。戦線復帰は絶望。
 セカンドチルドレン、惣流アスカ・ラングレーはエヴァにシンクロ出来なくなったショックから自我崩壊を起こし入院中。戦線復帰は絶望。
 ファーストチルドレン、綾波レイは第16使徒との戦闘で自爆。自身はNERVの妖しげな科学力で復活したものの、零号機を失った上に、記憶の混乱がみられ、戦線復帰には不安が残る。

 来るべき次期使徒との戦闘に置いて、これは余りにも脆弱な布陣であった。

 NERV総司令、碇ゲンドウは呟く。

「チルドレンの補強の必要があるな……」





『六番目の適格者』







急募


職種・エヴァンゲリオンパイロット
資格・14歳の少年少女なら誰でもOK
時給250円
募集人員1名
勤務時間不定
各種保険なし

詳細はNERV作戦課葛城ミサト
TEL XXX-XXXX まで!



 こんな張り紙が第3新東京市の至る所に張り出されたのは、第17使徒殲滅より三日後のコトであった。
 ちなみに、第3新東京市は零号機の自爆により、壊滅的な打撃を受けたはずだが、住民のゴキブリ的生命力により、僅か1週間で復興している。



「ク、クククククク……」

 その張り紙を見て、眼鏡を光らせながら、口元に妖しい笑みを浮かべているのは、云わずと知れた、第3新東京市一の美少女マニアにして軍事ヲタク、相田ケンスケである。
「来た! 来た! 来たァ!! ついに俺の時代が来たァ!!! シンジ! トウジ! 今まで散々悔しい思いをしてきたが、それも終わりだぁ!!! ふわっふぁふぁふぁふぁ!!!」
 雄叫びを上げる少年。道行く人々は、それを不気味そうに眺めていた。



「これよ! これだわ!」

 張り紙を見て、目を輝かせたのは、元戦自スパイ、霧島マナであった。
「戦自をクビになってひもじい思いをしていたけど……これなら再就職の上にシンジの側にも居られる! これよ! これしかないわ!」
 恋する少女は燃えていた。



「NERV……碇君の居る所……よね」

 張り紙を見て、ぼそりと呟いたのは、図書館の天使、眼鏡っ娘マニアのアイドル、山岸マユミであった。
「アルバイト……か、本を買うお金が欲しいし……時給安いけど。それに、碇君がNERVの仕事って待機任務が多いって言ってたから、本も読めそうだし……それにNERVにどんな本が置いてあるかも楽しみだし………そ、それに……い、碇君もいるし……」
 何かと言い訳の多い、山岸マユミであった。



「NERV……鈴原とアスカに会えるかしら……」

 張り紙を見て、沈んだ顔を上げたのは、我らが委員長、洞木ヒカリであった。
「…………」
 少女は悲壮な決意を込めて頷いた。





「これより! 第6回NERV主催チルドレン選抜オーディションを開催しまぁす!」

 スピーカーから、伊吹マヤの脳天気な声が響きわたる。どうやら彼女が今回の司会らしい。

(何……これ?)
 洞木ヒカリは自分の置かれた状況を理解出来ないでいた。

 ここは、市立第壱中学のグラウンドである。
 仮説テントが組み立てられ、そこにNERVの重鎮が顔を揃えている。
 そこに、今回の「オーディション」の申込者が一斉に集められているのだ。
 洞木ヒカリは「4」と書かれた自分のゼッケンをつまみ、ぼんやりと他の参加者を見る。

 ゼッケン1の相田ケンスケ。
 ゼッケン2の霧島マナ。
 ゼッケン3の山岸マユミ。

(こ、この四人で、争うわけ?)
 見知った顔にクラクラ来てしまう。
 ちなみに四人の格好は、ケンスケが体操着に短パン。他は体操着にブルマであった。参加要項にそう書いてあったからだ。なお、参加要項を作ったのは、NERV総司令碇ゲンドウである。

「なお、過去五回のオーディションは他薦で候補者がそれぞれ1名しか居なかったので、行われませんでしたぁ!」

(何よそれ!?)
 思ってみても始まらない。



「まずは、参加選手の紹介でぇす!」



「ゼッケン1番。燃えるオタク、美少女のおっかけに命を懸ける、相田ケンスケぇ!」
「な、なんだぁ、そりゃあ!」

「ゼッケン2番。元戦自の女スパイ! シンジ君に籠絡されて戦自を裏切ったストーカー女、霧島マナぁ!」
「え、えええ!!」

「ゼッケン3番。清純な図書館の天使! でも実はシンジ君の生写真を栞代わりに使っている、山岸マユミぃ!」
「ど、どうしてそれを!?」

「ゼッケン4番。使命に燃える学級委員長! 家事全般を得意とする今時珍しい家庭的な女の子! でも男の趣味は最悪な洞木ヒカリィ!」
「な…………!」



「続いて審査員の紹介でぇす!!」
 参加選手の動揺など歯牙にもかけず続ける伊吹マヤ。



「まずはNERV総司令、髭が妖しい碇ゲンドウ司令!」
「冬月……その芋羊羹……食べないのか?」

「続いて、NERV最年長、冬月副司令!」」
「い、碇、ダメだぞ、コレはやらんぞ!」

「NERVのダーティペアこと、葛城ミサト作戦部長と赤木リツコ技術開発部長!」
「ぷっはぁ! やっぱ、外で飲むビールは旨いわぁ!」
「……不様ね」

「そして、NERVの誇る5人のチルドレンでぇす!」
「碇君、このずんだん饅頭美味しい」
「こら、ファースト! シンジに話しかけるんじゃない!」
「う、うん、ありがと、綾波……ちょ、ちょっと、アスカ、何だよ、何怒ってんだよ!」
「相変わらずやのぉ、おのれら」
「フフ、ブルマはいいねぇ……」

「「「「な、なにぃ〜〜!!!」」」」

 一様に驚く4人の参加者。

「あ、綾波、自爆したんじゃなかったのか!?」
「いいの、私は不思議で不気味で不死身だから平気なの……ところで、あなた誰?」

「ア、アスカさん! 入院中じゃなかったの!?」
「あら、霧島さん、久しぶりねぇ〜。ちょっとミサトの料理でお腹壊して病院に担ぎ込まれてたんだけど、シンジの『愛』の手料理食べたら回復しちゃった。さすがに『愛』の力は偉大よねぇ〜、ホーッ、ホッホッホッホッホ」

「い、碇君? 大丈夫なの?」
「あ、山岸さん、こんにちわ。うん、アスカが僕に黙って居なくなっちゃたんで落ち込んでたんだけど、ミサトさんが自分のせいで入院したのがばれるのが怖くて黙ってただけだったって解ったんで、もう平気だよ」

「す、鈴原……脚……大丈夫なの?」
「脚? ワイの脚がどうかしたんか? いやあ、でも参ったわ委員長。NERVのベッドが欠陥品でなぁ、左足の部分に穴が空いとるんや。NERVも妙なところでケチ臭いのお」

「フフ、誰もボクには声を掛けてくれないのかい? 寂しいねぇ……」



(ち……、綾波、惣流にシンジにトウジ、無事だったのか……。まあいいさ、俺がチルドレンになれば、俺の実力なら即エースだ! ククク、しっかり俺の引き立て役になって貰うぜ!)

(く……アスカさんが壊れてる間に完全にシンジをモノにしようという計画が……で、でも負けないわよ!)

(碇君大丈夫だったんだ……。折角私が慰めてあげようと思ったのに……。でも、これからも碇君の側に居られるかも知れないんだから頑張らなきゃ)

(ベッドに穴……? 私、いったい、何を心配していたの……? で、でもやっぱり、今後こんなコトがないように、NERVに入って鈴原と……ついでにアスカの力にならなきゃ!)

 とりあえず、4人の参加者は何とか自分を納得させたらしい。
 なお、彼等がどうしてシンジ達の状態を知っていたかは謎である。絶対に詮索してはいけない。





「それでは、只今より、試験を開始しまぁす!」

 マヤの妙に明るい、頭を突き抜けるようなアナウンス。

「試験は筆記試験と実技試験で行います。筆記試験の得点と、実技試験の審査員の得点を加えて、最も得点の高い人が合格です! では最初は筆記試験でぇす!!」

「フフフ……この手の筆記試験といえば、軍事関係に決まっている! 貰ったな……」
「え〜、そんなのがあるのぉ!?」
「知っていたら勉強して来たのに……」
「ど、どんな問題がでるのかしら? お料理の問題……は出ないわよね……」



 グラウンドの真ん中に机が4つ並べられ、ヒカリ達4人は、それぞれの机に付き、筆記試験が始まった。

「え? 般若心経を何も見ずに写経しろ? ……それじゃ写経じゃねーじゃん……」
「何コレ? ドコの言葉よお? もしかしてドイツ語? そんなの知らないわよぉ!」
「バッハの無伴奏チェロ組曲・第一番の譜面を書け? ……何、ソレ?」
「1980年から1999年までの阪神タイガースの順位と勝率、監督名を延べよ……?」

「ちなみに出題者は、チルドレンの皆さんでぇす!」

「ボクには作らせてくれなかったんだよ。哀しいねぇ……」



「……全員0点とはな」
「我々が問題を作っては解らないかと思い、同年代のチルドレンに作らせてみたのだが……どこで間違ったのかな、碇?」
「……ところで、冬月、お前は何点だった?」
「む……そういう碇は何点だったんだ?」
「………………」
「………………」
「……この話はここまでにしよう」
「……そうだな」





「続いて、実技試験を行いまぁす!!」

 ゴゴゴゴゴゴ……

 マヤのアナウンスと共に、突然グラウンドの中央が沈んでいく。

「な、なんだぁ!!」

 沈んだグラウンドからは、地面の代わりに、今度は違うモノが浮き出て来た。

「「「「リングぅ!?」」」」

「実技試験はスパーリングをおこないまぁす!!!」

「ふ……、極真空手の通信教育を受けた俺の実力を見せる時が来たようだな……」
「ラッキー!! 格闘なら、戦自の教練で散々叩き込まれたモンねぇ!」
「だ、大丈夫……マウント斗羽の自伝だって読んだし、私闘学園だって読んだコトあるし……」
「……スパーリングって……何?」

「相手はチルドレンの皆さんが務めまぁす!!」

「「「「えええ!?」」」」

「碇君、これから何をするの?」
「だから、シンジに話かけるなって云ってるでしょ!」
「だめだよ、アスカ、そんなコト云っちゃ。綾波、これからケンスケ達と、あのリングで闘うんだよ」
「かったるいのお」

 いつの間にやらプラグスーツに着替えた4人のチルドレンがリングの反対側に待ちかまえている。

「フフ……、ボクは出番無しかい? 残念だねぇ……」



「選手の皆さんはチルドレンの方々と、それぞれ実戦形式で闘ってもらいます。ルールは目突き、噛み付き、急所攻撃以外ならなんでもありのバーリトゥードルール! いちおう制限時間は5分ですが、KO、ギブアップ、ドクターストップによる終了もありまぁす!! さあ、第1試合、ゼッケン1番・相田ケンスケ君対ファーストチルドレン・綾波レイ! リングに上がって下さい!」

「相手は綾波か……女の子相手と云うのは俺のポリシーに反するが、これもエヴァパイロットになるため……悪いが本気を出させてもらうぜ!」

「あ、綾波頑張ってね」
「碇君……応援してくれるの?」
「え? あ、うん。ケガしないようにね……」
「私を心配してくれるのね、嬉しい……」
 シンジの手を取り、両手で包み、ウットリと陶酔するレイ。
「こ、コラ! 何やってんのよ、アンタは! シンジから離れなさい!!!」
「……碇君は私の心配をしてくれてるのよ。あなたは邪魔。引っ込んでいて」
「な、な、なんですってぇ〜!!」
「あああああ、アスカ! ほ、ほら、一緒に見ようよ!! あ、綾波も早く行かなきゃ! ホラ、ケンスケが待ってるよ!」
 チッと、舌打ちとして、リングに向かうレイ。それを獰猛な眼で見送りながら、アスカはシンジの手を引いて、椅子を持ち出し、観戦体勢に入るのだった。

 リングインする、綾波レイと相田ケンスケ。
 ケンスケの眼が妖しい。舐めるようにプラグスーツ姿のレイを見ている。
(空手よりも柔道を習うべきだったか……?)
 とにかく、どうやって寝技に持って行くかを考えているようだ。男として至極当然の思考であろう。

「それではゴングです!」

 カ〜〜ン!!

 対峙する少年と少女。
(ふふふ……、まずはローキックで出足を挫いて……巧くダウンさせられたら、マウントを取って……)

「ねぇ、シンジぃ〜、コレが終わったら二人でどっか行こうよぉ〜」
「え? あ、じゃ、じゃあ、芦ノ湖でも行こうか……?」
「やったぁ!! 海賊船乗って、キスして、混浴ぅ!!」
「え? あの……」
「そんで、お泊まり……キャッ!」
「あ、アスカ?」

 気が付くと、レイはケンスケから眼を反らし、リングサイドのシンジとアスカを殺意の籠もりまくった視線で睨め付けている。

(チャーンス!!)
 レイに突撃するケンスケ。
(綾波の胸、綾波の腰、綾波の太股、綾波の脹ら脛……)
 妄想大爆発。14歳の少年としては、至極健全な思考であろう。
 が、

 べし!

 ケンスケの健康すぎる野望は、八角形の光の壁によって阻まれた。
 ATフィールドに全力で激突し、ぶっ倒れるケンスケ。レイはその頭をむんずと掴むと、リング下の仇敵に制裁を与えるべく、振りかぶる。
(喰らえ……イマズマボール!!)
 心の中で雄叫びを上げ、手にしたボール(?)を投げつける。

「!!」

 アスカの反応も早かった。
 シンジから素早く離れると、プラグスーツの背中から金属バットを取り出す。
「甘いわ、ファースト!! アスカーホームラン!!!」
 そして、完璧なスイングで、レイの投げたボール(?)打ち返す。打った時に赤いモノが飛び散ったような気がするが、気のせいだろう。

 虚空へと消えていくボール(?)。文句無しの大ホームランだ。

「……やるわね」
「アンタもいい投球だったわ、ファースト」
 少女達の間に芽生える友情。シンジはいつしか滝のように涙を流しながら拍手を送っていた。

「いいのか、碇……?」
「ん? 何か問題でもあったか?」
「……いや、特にない……な」



「え〜、相田選手が突然行方不明になってしまったので、試合放棄とみなし、引き続き第2試合を行いまぁす。第2試合、ゼッケン2番・霧島マナさん対セカンドチルドレン・惣流アスカ・ラングレー! さあ、リングに上がって下さぁい!!」

((ちゃ〜んす!!))

(リング上の殺人は事故よ、事故! あのクソ生意気なスパイ女を片づける最高の機会だわ!!)
 チキチキ……
 カッターナイフを掌の中に隠す、セカンドチルドレン。

(アスカさん、復活したばかりで申し訳ないけど、今度こそ永遠に眠らせてあげる……碇君は私に任せて! 貴方は安心してお休みなさい!!)
 ジャキン!
 巨大なハサミをブルマの中に隠す、元戦自女スパイ。

「それではゴングです!」

 カ〜〜ン!!

 二人の少女は邪悪すぎる笑みを浮かべながら、一瞬も躊躇せず、己の凶器を振りかざした。

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(しばらくお待ち下さい)

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 ぴ〜ぽ〜ぴ〜ぽ〜

 2台の救急車がグラウンドから病院へ向かって走り出す。
 グラウンド中央では、血の海となったリングを、青葉と日向が掃除していた。

「ふ、野蛮だねぇ……好意に値しないよ……」
「二人とも生きとるかのお? 惣流のヤツ、頭にハサミ刺さっとったし、霧島も、喉切られとったでぇ」
「心配ないと思うよ? 二人とも丈夫だし……」



「え〜、それでは、第3試合を始めます。ゼッケン3番・山岸マユミさん対サードチルドレン・碇シンジ君!」
 リングの清掃による、しばしの中断の後、再びマヤのアナウンスがこだまする。

「スパーリングって何すればいいのかな……? やったコトないから解らないや」

「い、碇君とスパーリング……、や、やっぱり寝技なんかもするのかしら……どきどき」

「それではゴングです!」

 カ〜〜ン!!

 とりあえず、リングの中央に歩み寄る二人。

「あ、あの……よ、よろしく、山岸さん……」
「あ、こちらこそ……お手柔らかに……」
 握手する二人。前2試合には見られなかった爽やかさだ。
「え、えっと、何すればいいんだろうね? 僕、よく解らなくって……」
「……スパーリングだから、闘えばいいんじゃないかしら?」
「で、でも、僕、山岸さんを殴ったり出来ないよ……」
「碇君……、べ、別に殴り合わなくても、く、組み合うとか……」
「そ、そうだね……こんな風にかな……?」
「え、あ、い、碇君!?」
「あ、へ、変なトコ触っちゃった? ご、ごめん!」
「あ、いいの。ス、スパーリングなんだから……、わ、私も……」
「うん……、な、なんか、相撲してるみたいだね、僕ら」
「あ、そ、そうね……」

 いつの間にやらリング中央で、真っ赤になりながら、がっぷり四ツに組んでいるシンジとマユミ。
 それを見つめるレイの瞳が、どことなく険しい。

「さあ、はっけよい! のこった、のこったぁ!!」
 マヤのアナウンスはあくまでも脳天気だ。

 その内、どちらかが、足を引っかけて転んだ。
「あ……」
「え……」
 仰向けに倒れたマユミの上にのしかかるような体勢のシンジ。図らずも、先程ケンスケが白昼夢に見た体勢だ。レイの眉が跳ね上がる。
 シンジもマユミも耳まで真っ赤だ。
「え、あああ」
「い、いいい、碇君?」
「は、はいい!」
「あ、あああ、これ……」
「ご、ごめん! で、でも、どうすれば……」
「碇君! 私、私……初めてなんです!!」
「……は?」
「や、やさしくシテ……下さい……」
「う、うん……」

「何が『やさしく』じゃあ! このボケぇ!!」

 どごぉん!!

 突如乱入して来たアスカのサッカーボールキックが、マユミの頭を直撃した。
 次いで、頸を変な方向に曲げたマユミを抱え上げ、今度はエアプレンスピンでリング外に放り出す。
「あ、アスカ、大丈夫なの?」
 見れば、アスカは全身包帯まみれだが、それ以外は全く元気に動き回っている。
 マユミの方に眼を向けると、同じく包帯まみれのマナが、レイと一緒に、動かなくなったマユミに全身全霊を掛けてストンピングをかましていた。
「あ〜ん、シンジぃ〜、あのスパイ女がアタシをいぢめたぁ〜」
 突然顔を崩して、シンジに泣きつくアスカ
「な、何云ってんのよ、アンタは!」
 リング外から飛び込んで、アスカに向けて流星キックを放つマナ。アスカもすかさずそれを受け止め、ドラゴンスクリューで返す。
「何よ、まだやろうってぇの!?」
「フン! アンタなんかにはシンジは渡さないんだから!!」
 再び取っ組み合いを始めるアスカとマナ。

「……ほら、やっぱり心配なかったじゃないか」

「不様ね……」
「ひゃぁあ、はっはっはっはっはっは」



「では最後の試合でぇす! 第4試合、ゼッケン4番・洞木ヒカリさん対フォースチルドレン・鈴原トウジ君!」

「おっしゃあ!」

「す、鈴原、気合い入ってるわね……だ、大丈夫かしら……?」

「それではゴングです!」

 カ〜〜ン!!

 とりあえず、リングの中央に歩み寄る二人。

「よろしく頼むで、委員長!」
「あ、うん……でも、私、どうしていいか……」
「な、なぁに、ワイにまかせときや、心配いらん」
「そ、そう? ありがと……(やっぱ、鈴原って優しい……)」
「ほんなら、まず、こう組み合うて……」
「あ、やん」
「お、変なトコにぶつかったか? すまん、すまん」
「い、いいの。鈴原だったら……」
「ほ、ほうか? じゃ、じゃあ、今度はこうして足をかけて……」
「え……、あ、きゃっ!」
 二人揃ってコケる。
 仰向けに倒れたヒカリの上にのしかかるような体勢のトウジ。先程のシンジ&マユミと全く一緒の体勢だ。
 トウジとヒカリも耳まで真っ赤になっている。
「え、あああ」
「す、鈴原!?」
「な、ななな、なんや!?」
「あ、あああ、これ……」
「ああ、す、すまん! す、すぐ離れるさかい……」
「す、鈴原! 私、私……初めてなの!!」
「……へ?」
「や、やさしくシテ……」
「あ、ああ、解ったで……」

 今度は誰も止める者はいなかった。
 取っ組み合いをしていたアスカとマナも、不気味な笑いを上げながらマユミを蹴っていたレイも、血塗れで体中の間接が変な方向を向いているマユミも、息を詰めてリング上を見守っている。

「と、トウジ……委員長……凄い……」
「何だい、羨ましいのかい、シンジ君? それならボクが……」
「……遠慮しとくよ……そ、それより、僕、トイレに行って来る……」
「ふ……、実はボクも行きたかったんだよ……」
 前屈みになって退場する、サードチルドレンとフィフスチルドレン。
「碇、鼻血が出てるぞ。ほれ、ちり紙」
「う、うむ、すまんな、冬月。ところで、どうしてお前は前屈みなんだ?」

「リツコ、カメラ!」
「解ってるわ! 青葉君、日向君、録り逃してたら折檻よ!!」
「「ひえぇ〜!」」

「うっ!」
「ああっ!」

 カン、カン、カ〜ン!

「はぁい、時間切れでぇす!!」

 トウジが果てるのと同時に、妙に冷静なマヤが時間切れのゴングを鳴らす。

「……早いな」
「ああ……」



 こうして、実技試験は終了した。





「……どうする、碇?」
「何がだ?」
「点数だよ、筆記試験が全員0点。実技試験の点数だが……付けているか?」
「む……、最初の3戦は無効だから0点として……、最後のは見るのに夢中になってしまったな……赤木君、葛城君、君達はどうだ?」

「す、すいません、撮影に夢中になってしまい……」
「シンジ君と渚君も、途中からトイレに駆け込んじゃったしねぇ……ま、若いんだから仕方ないけど」

「……仕方ない、審査員9人の投票にしよう。一番票を集めた者がシクススチルドレンだ」
「うむ、ならば早速投票用紙を作ろう」

「と、云うわけだ。お前達は3人の参加者の中から、最もシクススチルドレンに相応しいと思われる人物を配った紙に書くのだ」
「「「「「「「は〜い」」」」」」」

「……碇?」
「何だ、冬月?」
「……参加者は4人ではなかったか?」
「……そうだったか? でも3人しかいないぞ」
「……確かに……だが、ゼッケンも4番まであるが……」
「云われてみれば、もう一人居たような気もするな……途中で棄権して家に帰ったのではないか?」
「そうか……、そういえば、誰も一人減っているコトを気にしていないようだな。俺の知らない内にいなくなったのか……」
「ふ……、ボケたな、冬月」
「な、なんだと!」



「さあ、後は審査員の全員の投票で合格者が決まりまぁす!! 栄光のチルドレンに新しく加わるのは誰だァ!?」

(と、投票!? だ、大丈夫かしら? こんなコトなら裏工作しとくんだったわ! シンジは私に入れてくれるわよねぇ……)

(そんな……、私ダメかも……。でも、いいわ。碇君が私に入れてくれれば、私はそれだけで……)

(投票だなんて……、鈴原とアスカは入れてくれるわよね? 後入れてくれそうなのは……あ〜ん、誰もいなぁい……)

 ちなみに山岸マユミは、霧島マナと同じく全身包帯まみれではあったが、しっかり自分の足で立っているし、間接の向きも治っていた。



(さて、誰に入れるかな? 活発な2番にするか? それとも4番はどうだ? コレまでのチルドレンにはない家庭的な雰囲気を持っている。彼女が加わればチルドレン戦隊としての深みも増すか? …………いや、ここはやはり3番だな。雰囲気がシンジそっくりだ。山岸マユミか、愛くるしい、愛くるしいぞ……)

(ふむ……、ここはやはり活発な少女の方がいいだろうか? すると2番か? 声もユイ君に似ているしな……霧島マナ……と)

(さぁって、だぁれに入れようかしら? やっぱ、霧島さんか山岸さんよねぇ! シンちゃんや、アスカ、レイとの絡みは見モノだわ! と、すると、アグレッシブそうな霧島さんの方が面白いかしら?)

(とりあえず、霧島マナと山岸マユミの、アスカ並の生命力と回復力には凄く興味があるわね。どちらにしようかしら? 山岸マユミの方が、おとなしいから扱いやすそうね……)

(霧島さん……ダメ。山岸さん……ダメ。どちらも碇君に手を出す……敵、敵、敵! すると残りは一人……)

(あ〜、もう! これじゃ、ヒカリに入れるしかないじゃない! スパイ女と眼鏡女なんか入れた日にゃ、身の程しらずにもシンジにちょっかいかけるに決まってんだから!!)

(誰にいれようかなぁ……。やっぱマナかな? でも山岸さんもいいなぁ。う〜ん、でもどっちが来てもアスカとケンカしそうだなぁ……。ケンカすると絶対巻き込まれるもんなぁ。仕方ない、洞木さんにするか……)

(どないしよ? 委員長を巻き込むワケにはいかんなぁー。やっぱ、霧島か山岸やな。霧島の方が、惣流の牽制にもなっておもろいかもしれんのぉ……)

(ゼッケン3番・山岸マユミ。いいねぇ、そのシンジ君にそっくりの風貌、佇まい、好意に値するよ! 2番は野蛮すぎて好意に値しないよ……、4番は男の趣味が悪すぎるねぇ、アレでは救いようがない……)



 こうして、投票は終了した。



投票結果

霧島マナ  3票
山岸マユミ 3票
洞木ヒカリ 3票



「3人とも同点か……」
「どうする、碇?」
「ふむ……」





「それでは審査結果を発表しまぁす!!」

 マヤのアナウンスに身を固くするマナ、マユミ、ヒカリ。

「投票結果は……なんと3人とも同点でぇす!!」

「同点ですって?」
「そ、それじゃ、どうなるのかしら……?」
「まさか……延長戦!?」

「そこで、碇司令の御英断がありましたぁ! それでは発表します! 栄光のシクススチルドレンは……」

 ごきゅ

 緊張する3人娘。

「シクススチルドレンはゼッケン2番・霧島マナさんに決定でぇす!」

「やったぁ!!」
 飛び上がって喜ぶマナ。
 対して、一気に落ち込むマユミとヒカリ。

「引き続き、セブンスチルドレン・山岸マユミさぁん!!」

「え? わ、私も!?」
「……ま、まさか、それじゃあ……」

「エイトゥスチルドレン・洞木ヒカリさぁん!! 以上3人を新しいチルドレンとして任命しまぁす!」

「す、鈴原、アスカ、私やったわ!」



「3人全員合格か」
「ああ、問題ない」

「へぇ、司令もやぁるじゃなぁい。これでチルドレンは一気に8人ね」
「……まあ、予備は多い方がいいわね」

「シクスス……、セブンス……、敵、敵、敵!!」
「解ってるじゃない、ファースト! あの二人、速攻で殲滅するわよ!」
「アスカぁ、これからは仲間なんだから、そんなコトしちゃだめだよぉ」
「結局委員長もNERV入りっちゅうワケかぁ〜。ま、ええかあ、NERVに来るときも弁当持ってきてくれるかもしれんしのぉ」
「やれやれ、シンジ君を狙う敵を増やしただけかい? でも、巧くいけば、共倒れになってくれるかな?」





 こうして、第6回NERV主催チルドレン選抜オーディションは終了した。








「ところで、碇、どうしてこんなにチルドレンの選抜を急いだんだ? 現在稼働出来るエヴァは初号機と弐号機しかないだろうに……」
「何を云っている冬月。面白いからに決まっているだろう」
「……面白いから……か? だが、碇、よく考えてみると使徒はもう来ないのではないか? NERVの存在意義はなくなるし、委員会も解散を要求して来るだろう」
「問題ない……委員会に報告していない使徒が一体いただろう?」
「MAGIに進入したヤツだな?」
「委員会は渚カヲルが16番目の使徒だと思いこんでいる。来るはずのない第17使徒が来るまで、NERVはNERVとして存続出来る……我々は定年までNERVで安泰なのだよ……」
「な、なるほど……」
「かといって、シンジとセカンドだけでお茶を濁していたんでは、つまらんだろう。その為のチルドレン補充だ」
「…………シンジ君が大変だな」
「…………シンジがいぢめられるのに、何か問題でもあるのか?」
「………………」
「問題ない」







 綾波レイ、惣流アスカ・ラングレー、霧島マナ、そして赤木リツコに改造手術を受けた山岸マユミの4人の暴走によって、NERV本部が壊滅したのは、それから少したってからのことである。





おしまい










おまけ




 チルドレン選抜オーディションから三日後、NERV職員・加持リョウジ氏(30)の畑に隣接する肥溜めの中から、中学生ぐらいの少年が発見された。
 彼は奇跡的に生きており、現在は第三新東京市内の病院で療養中らしい。
 意識は取り戻したものの、頭部に強烈な打撃を受けたらしく、記憶が大きく欠落しており、未だ身元が解っていない。該当する家出人や行方不明者の捜索願いも出されておらず、少年の正体は謎のままとなっている。











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ver.-1.00 1998+09/05 公開
感想・苦情・カミソリなどは こちらまで!

私信

え〜と、こんなところで名前出して、本当に申し訳ないんですが、以前(と云ってもかなり前なんですが(^^;)、メールをくれた「BEAR」さん。メールを返しても戻って来てしまいます。連絡下さぁい。待ってますぅ。






 ザクレロさんの『六番目の適格者』、公開です。





 ウワハハハハ〜!


 スゴイや〜大爆笑!!



 ファイルを持って出かけて、外で読もうとしたんですけど
 笑いを押さえることが出来ずに・・・

 ニヤニヤしている変な人になってしまいました・・ (^^;



 第三新東京市

 レイ
 アスカ
 シンジ

 トウジ
 カヲル

 ヒカリ
 マナ
 マユミ


 主役脇役、それに街までが、全て無事☆

 その上のでのこの物語。



 おまけに
 永遠に来ない第17使徒のおかげで
 ののぼんとしたまま・・・



 あぁ・・幸せな気分〜



 文句ナシに”☆”・・・あっザクレロさんは色名前だった・・・くぅ






 さあ、訪問者の皆さん。
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