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「ネイ、抜かるなよ」

 ポセイダル軍幹部連合・十三人衆筆頭、ネイ・モー・ハンにこの様な口をきけるのは
ごく限られた数人しか居ない。云うまでもなく声の持ち主はその中の一人であった。

 ネイは素肌に掛かるシーツを引き上げ媚態をつきつつ、おかしそうに笑いながら応じた。

「ふふっ、何をです?
 ギワザ・ロワウ閣下……」

 男の名はギワザ・ロワウ。

 十三人衆司令官の席にある。
 ギワザは、明日の天気予報を云うようにして、自らの懸念を口にした。

「うむ……【ゲスト】の連中が、前線へ参加し始めた……」

「良い事では御座いませんか。
 今まで楽をしていたのです、精々戦って貰いませんと……」

「それは良い。
 だが、何故今なのだ?」

「私たちの戦い振りを見て、地球連邦組み易しと見たのでは?」

「そうか?
 ならば良いが、地球連邦もなかなかしぶとい。
 作戦目標の30%も、達成できておらんではないか。
 あの母星上のそれに至っては、皆無と言って良い。
 納得が出来んな」

「あちらにもあちらの事情があるのでしょう。
 ですが、好きにはさせません。
 我々のためになりませんから」

「そうか期待して居るぞ、ネイ。
 次の出撃には、お前と一緒に出るそうだ。
 が、【ゲスト】に良いところを持って行かれては堪らんからな。
 お前の云う様に、ポセイダル様の為にもならん」

「そうですわね、全てはポセイダル様の為に。
 【ゲスト】の方々には、少し勉強して貰いましょう」

 二人は、何処か芝居掛かった様子で彼らにとっての至高の存在・ペンタゴナ星系の覇
王、オルドナ・ポセイダルへの忠誠を口にした。






スーパー鉄人大戦F    第六話〔突破:Escape from the crisis〕
Eパート


<テンシャン山脈北方・ジュウガル盆地>      


「これで、依頼の件は全て終わりですわね?」

 そう云ってシーマは、目の前の老人に確認を促す。

 目の前の老人は、Dr.ヘルと呼ばれている怪人物で、地上でのDC軍団を率いてい
た。元々、前々大戦以前から独自に組織を作って活動をしているなど独自色が強く、D
Cが事実上の組織崩壊した今でも、社会の表裏を問わない活発な動きを見せていた。

 その妖怪とも云うべき怪老人は、意外なことかもしれないが実に気さくであった。

「うむ、ご苦労でしたな。
 流石はシーマ・ガラハウ少佐、連邦のクズ共などものともしませんな。
 こちらの依頼を十二分に果たしてくれた。
 それに引き替え、ウチのバカ共と来たら……」

 鬱陶しい年寄りの愚痴を聞きたくないシーマは、なるべく差し障りの無いよう、彼の
云う情けない部下のフォローをしてやる。

「その様な事など、御座いませんわ。
 ブロッケン伯爵も、貴方のお役に立ちたい一心で励んだだけのこと。
 そこに【ロンド・ベル】が居たのは不幸でしたけど、決してブロッケン伯爵の手落ち
 では有りませんわ、Dr.ヘル様」

《作戦目的を取り違えて、自滅しただけさ》

 内心の侮蔑など微塵も漏らさず、依頼主のご機嫌を取るシーマ。
 この辺、狭窄症に陥りがちな軍幹部らしからぬ柔軟さが見て取れる。

「気を使って貰い、すいませんな。
 ん……そろそろ、荷の積み込みも終わったようですじゃ。
 最後に何か聞きたいことなど、ありますかな?」

 好々爺やといった雰囲気そのままに、Dr.ヘルはシーマに尋ねた。

《余計な事など聞かないに限る》

 この老人から手に入れられる情報を値踏みしつつシーマは、微笑みを浮かべてそれに
答えた。

「いいえ、何もございませんわ」

 シーマの答えに、満面の笑みを浮かべて老人は応じた。

「そうですか……では、また宜しゅう頼みますぞ、シーマ殿」


        :

「結局、あのデータユニットの中身って何なんですかい」

 【リリー・マルレーン】への帰路、軍用エレカーの後部座席で副官デトローフ・コッ
セルは任務を終えた気易さから、セバストポリ基地襲撃後より気にしていた事を尋ねた。

「おや、余計な事をお聞きだね。
 好奇心は猫を殺すよ。」

 シーマの口調はどことなく気易いモノだったが、副官は震え上がらせるには十分だっ
た。彼女はこの口調で幾多の敵を屠って来たのだ。その標的になったのでは堪らない。

 副官がどうにか取り繕ろうとするより早くシーマが再び口を開いた。

「冗談だよ。
 そうさねぇ、アタシも詳しいことは知らないけど多分連邦内部のクラッキングデータ
 が詰まっていたんだろうよ」

「クラッキングですかい?
 それなら、なんでわざわざデータユニットごと分捕る必要があったんですかい?
 ネットワークで転送すればいいだけじゃないですか」

「判っちゃいないねぇ。
 連邦もバカじゃない。入ることはソコソコ出来ても、(データを)持って出るのは無
 理だよ。出口を固めてるからね。だから、そういうときは必要なデータを連邦ネット
 ワーク内の物理的防御の薄い一ヶ所に集めて、ハードごと奪っちまうのが一番なのさ。
 ウチらがやったみたいにね。
 判るね?」

「へっ、へぇ……そうですかい。
 アッシにはよく判りませんが、ドンパチやってる方が気楽だって事はよ〜く判りました」

 全然判っていない副官の答えが、シーマの琴線に触れたらしい。
 シーマは俯いて、肩を振るわせる。

「クックック……あはっはっはっは!
 やっぱりお前は良いよ、精々これからもがんばりな」

「へぇ……」

 シーマの誉めているのかけなしているのかよく判らない激励を受け、副官は戸惑いな
がら応えていた。

        :

「「Dr.ヘル様、これからどうするおつもりで?」」

 ローブ姿の妖しい人影から男女の声色が重なりあって、響いていた。

「うむ、あしゅら男爵か……目的のモノは手に入った。
 だがブロッケンのヘマの所為で、余計なオマケまでついてきておる」

 ブロッケン伯爵は既に合流していたが、Dr.ヘルの指示であしゅら男爵の【グール】
と共に後退、謹慎の身となっていた。

 半男半女の怪人あしゅら男爵はライヴァルの失点に、機嫌良くDr.ヘルの云うオマ
ケの名を口にした。

「「【ロンド・ベル】で御座いますな」」

「いかにも。
 不肖の部下の不始末とは云え、やはりそれなりのお返しはすべきだろう」

「「おぉ〜、Dr.ヘル様その任に是非、私めを!
 【ロンド・ベル】には、あのにっくき兜甲児も居るとの話し!
 積年の恨み、晴らしてご覧に入れましょうぞ」」

「まぁ、待て。
 ここで貴重な戦力を失うのは、得策では無い」

「「では、このまま逃げ帰るというのですか!?」」

「そうでは無い、話は最後まで聞かんか!
 【ロンド・ベル】には痛い目を見て貰う。
 だが、それを行うのは我々ではない。」

「「どういうことでございましょうか?」」

「【ゲスト】とやらを利用させて貰うのよ!」

「「【ゲスト】でございますか?」」

「そうよ!
 連中、どうも【インスペクター】の連中と大差ないことは判っておったが、その情報
 収集・索敵パターンがようやく判明したのじゃ」

 【インスペクター】とは第二次地球圏大戦で介入してきた異星系勢力である。DCは
この勢力と接触して、そのオーヴァーテクノロジのいくつかを手にしていた。無論その
配下であったDr.ヘルの軍団も例外ではない。

 そのため、彼の軍団では転送装置や通信装置などは、【インスペクター】と同等のモ
ノを使用している。ソレと技術的にも似通ったモノであるならば、【ゲスト】に関する
解析が連邦より数段進んでいるのも道理だろう。

「「それでは……」」

「おお、そうよ!
 ここへ【ロンド・ベル】をおびき寄せた後、【ゲスト】へ情報を送ってやろうと云う
 じゃ。無視できない優先度をつけてな。
 無論それで【ロンド・ベル】が壊滅するとも思えんが、それなりの被害は被るじゃろ
 うて……フワッハッハッハ!」

 自らのプランに気をよくするDr.ヘルにあしゅら男爵も追従して一層煽る。

「おぉ、流石はDr.ヘル様。
 この手で【ロンド・ベル】の息の根を止められぬ事は口惜しゅうございますが、それ
 は次まで取っておきましょうぞ!」

「うむ、傭兵のお陰で新宿のアレがようやく動かせるからな。
 もう一つのアレも量産まで後少しじゃ、我々が世界を握る日も遠くはないぞ!
 フワッハッハッハ!」



<ウラル山脈上空・機動巡航艦【アーガマ】トレーニング室>      

「やあ、シンジ君!
 元気かい?」

 ダバは、トレーニング室で一通り軽い運動が終わると、そういってシンジに声を掛け
る。だが、シンジは返事をすることすら困難なほど疲労困憊していた。

 理由は、シンジの口から漏れ出す息遣いと流れ溢れる汗を見れば、一目瞭然だろう。

 彼の主人たる彼女 -惣流・アスカ・ラングレー嬢- の”やさしー気遣い”(本人談)
による訓練を受けていたからだ。

 訓練とはあくまで彼女の主観で、その苛烈な運動量などを勘案した場合、特訓と表現
する方が適切であることは、言うまでも無い。更に、彼女を彼との訓練へと駆り立てた
原因までをも考慮した場合、訓練の名を借りた、彼女個人の憂さ晴らしと呼んだ方が、
より事実に近いであろう。

 この様な訓練を突発的に行った原因に、セバストポリでのシンジとレイの連携を見た
時の苛立ちや格納庫でのドモンとの一件があるのは、想像に難しくなかった。

 因みにその当事者たる彼女は下僕との楽しい一時で心地よい汗をかいたことより、すっ
かりご機嫌な様子でシャワー室へと消えていた。

 シンジは息も絶え絶えにようやくダバに応えを返す。

「なっ……何とか…………」

 その横で甲斐甲斐しく、だがトレードマークとも云うべき無表情そのままで、手に持っ
たバインダーを使い、シンジを扇ぐレイがどこかユーモラスだった。

 無論異星人とは云っても、その感性にさほどの違いが無いらしいダバも例外では無い。
シンジに問い掛ける声に、幾分か堪え切れていないらしい笑いの成分が含まれていた事
は非難できないであろう。

 シンジが無理をして身体を起こそうとするが、思い掛けない人物の妨害にあう。
 傍らにいたレイが、それを止めさせようとしたのだ。

「……ダメ」

 その真紅の瞳に見据えられたシンジは、彼女のたおやかな手ではなく吸い込まれるよ
うな瞳に押さえ込まれ、動けなくなってしまう。

 シンジが動きを止めたことで取り敢えず満足したのか、今度はダバにやや非難めいた
視線を浴びせるレイ。

 レイの視線に動じる様子も無くダバが微笑ましげにしていると、シンジは何とか次の
言葉を紡ぎ出す。

「……すいません」

「ん……何がだい?」

 シンジの謝罪に尋ね返すダバ。

「今日は……”剣”の相手は出来そうに……ないです」

 まぁ、この状態で”剣”の稽古など、無理なことは明白である。
 常識を人並み以上にわきまえているダバが無茶を言う筈のないことは、シンジもよく
判っている。しかし、だからこそシンジはダバに謝罪の言葉を云ったのだろう。

 少年の不器用且つ幼稚な気遣いに、笑みを浮かべるダバ。

「気にすることは無いよ。
 でもね、シンジ君?
 次の戦いも控えているんだ。あまり無茶はしない方がいいよ?」

 少し困ったような照れたようなよく分からない顔をして、シンジはそれに応えた。

 そんなことはシンジにも理解は出来る。だが、荒れ狂う人型をした紅い嵐を前にして
ソレを守れる自信は、まことに情けのない話であったがキッパリと無かった。

 ここでシンジとの蜜月をジャマされたレイのやや冷たい視線が、ダバに向けられたの
は仕方がない。だが、ニコニコと笑顔で返されては、レイと云えどもその視線を向け続
けることは不可能であった。

 レイは視線を逸らしたが、その次の行動は意外だった。リツコ辺りが見ていたら早急
に彼女に対する認識を改めることを余儀なくされる様子が、見て取れた。

 何処か落ち着かない様子から察するに、どうやら拗ねてしまったらしい。

 幼女の様に少し拗ねた彼女がそうやって視線を逸らしていると、誰かが彼女の視界に
入ってきた。

 それは、シンジに災厄をもたらした張本人だった。

 云うまでも無くアスカであったが、彼女はにこやかな表情で勢い良くトレーニング室
に飛び込んでくると、どこかの誰かのように目一杯溢れるエネルギーを腹立たしい程無
駄に注ぎ込んでいるとしか表現できない元気の良さで、シンジを引っ立てようとする。

「こらー☆!
 バカシンジッー!
 さぁっさと、汗流して来なさいよ〜〜〜!
 次は……」

「次は戦いに備えて鋭気を養う……だよね?
 ソウリュウさん」

 そう云われて、ようやくダバの存在を知覚したらしい。
 多少面食らった様子でアスカは、ダバに返事をした。

「は、はい!
 ……こんにちは、ダバさん」

 やや赤面している面持ちのアスカに、ダバは応じた。

「やぁ、ソウリュウさん。
 いつも元気がいいね。シンジ君の所為かな」

「え……そんなこと無いですよ!!
 ワタシは何時も元気です……それに、アイツは頭悪いし……冴えないし……鈍
 感だし、人の気持ちを全然考えないし……」

 ダバの言葉に、アスカは指折り数えてシンジの欠点をあげつらう。
 だが、それもダバに核心を衝かれるまでだった。

「でも、気になるんだよね?」

 一層顔を赤らめるアスカ。
 他の誰かであったなら、いつもの様に強い反発を憶えるのであるが、ダバに対しては
どうも調子の出ない。それを何処か不思議に感じながら、アスカは照れ隠しであろうか
感情のそのままをぶつけられるシンジへ向かって、言い放った。

「バカシンジ、いつまでそうしているの!
 さっさと着替えてきなさい!
 今日は特別に奢って上げるわ!」

 アスカの顔の赤みは、まだ取れていなかった。

        :

 トレーニング室を出ようとするシンジにダバは声を掛けた。

「シンジ君」

「はっ、はい!」

 何事かと振り向くと、ダバはこれまでシンジが見たことのない厳しい顔をしている。
 彼は言葉を続けた。

「しっかり休んでおくんだ。
 嫌な予感がする」

 シンジは予感などと言うあやふや根拠で忠告をしてくるダバに怪訝な顔をする。だが
それも一瞬だった。真剣な顔をするダバはあやふやな根拠を補って余りあった。

 シンジの口から出たのは、素直な返答であった。

「はい」

 そしてダバの懸念は1日ほど後、的中することになる。



<某所>      


「これは……モビルドール計画?
 ふむ、【OZ】もくだらないモノを作りだそうとしていますね。人の心を持たないモ
 ノを戦場へ送ろうなどとは、……感心できません。
 この様なことをトレーズが許すわけも無し……現体制への反対派……デキム・バー
 トン……いや、デルマイユ侯爵の仕業ですか。
 さて、どうしたものやら……」

 そのまま、暫し静寂が部屋を満たす。
 そして彼は口を開き、彼への奉仕を至上の悦びとする、いささか倫理上の問題を抱え
る愛の使徒の名を呼ぶ。

「……サフィーネ。
 サフィーネ・グレイス、居ますか?」

 彼がその名を呼ぶが早いか、彼女は闇より現れいでた。

「お呼びでございますか、シュウ様。
 何なりとお申し付け下さい」

 その悩ましげな声に違わず、彼女は美しかった。
 だが、それ以上に存在するだけで男を狂わせそうな色香を振りまていた。この世を堕
落と退廃の世界へと誘おうとする女悪魔と言った方が遙かに馴染んだ。

 無論呼び出したシュウが、その色香に迷うことは無い。
 彼は、彼女に静かに語り掛ける。

「いつもすいませんね、サフィーネ。
 今日は貴女に頼みがあって、呼び出しました。」

「シュウ様のお役に立てるのは、私にとっての悦びです。
 私は貴方のために、何をすればよいのでしょう?」

「戦自でガンヘッド大隊が編成されようとしています」

「ガンヘッド大隊……?
 あの実験機動大隊ですか……えぇ、存じております」

「そのガンヘッド大隊で、【OZ】の無人MSが採用されそうなのです。
 この様な存在は、これからの戦いの上で好ましくありません」

「そうでございましたか。
 では、早速【ウィーゾル】にて……」

 それをシュウは、やや芝居がかった動きで、手をかざして彼女を押し止める。
 因みに【ウィーゾル】とは彼女が駆る、妖装機と呼ばれる機動兵器の事である。

「……?」

「はやまってはいけませんよ、サフィーネ。
 私たちがその部隊を叩いても、【OZ】の意志を挫くことは出来ません」

 よく判らないといった様子でサフィーネはシュウに聞き返す。

「では、?」

「丁度、新宿ではアレが居ましたね」

 シュウの問い掛けに、暫し考え込むサフィーネ。

「アレ?
 ああ、サイド7のDr.カッシュの開発していた大型機動兵器ですね。
 確か……デビル何とか、と云っていた筈ですが
 Dr.ヘルが回収して持ち込んだ様ですが、大破して使いモノにならなかったと聞い
 ています」

 サフィーネの説明に首肯するシュウ。
 そして、言葉を接いで補足をしてやる。

「大破したと云っても、アレには元々自己修復能力があります。
 問題を除けば、時間が解決してくれます」

「シュウ様何なのですか、その問題とは?
 意地悪しないで、教えて下さいまし」

 ごく控えめに評価して妖艶な彼女が、精神年齢を大きく逆行させたような仕草は新鮮
だった。シュウは彼女の魅力を再認識しながらも冷静に答えを教える。

「自己修復制御プログラムがまだインストールされていないのです。
 ですが、それもどうやら手に入れたようですし、直に動き出すことでしょう」

「……そういう事ですか」

「そういう事です。
 戦自の皆さんに教えて上げて下さい。無論Dr.ヘルの作業が終わる頃を見計らって」

「承知いたしました。
 後、ドーリアン参事の件は如何致しましょう。ティターンズも彼を狙っているようで
 す」

「仕方が有りませんね。
 ティターンズの方はそうですね、用事を作って差し上げることにしましょう。
 差し当たり、キリマンジャロを叩けばその様な些末事に関わる暇など無くなってしま
 うことでしょう」

「それならば、ついでです。
 この際ですから、オーガスタ・ニタ研(ニュータイプ研究所)も叩いては?
 何やら、ティターンズに取り入って研究規模を拡大しようとしています。最近身元不
 明の子供達が運び込まれる量が増えているようです」

 子供達が運び込まれる件を口にするサフィーネは、何処か恍惚としていた。彼女には
悪癖が幾つか有るが、その一つに加虐趣味がある。運び込まれた子供達の辿った運命を
予測したことで感じてしまったのだろう。
 シュウは、サフィーネの内心を判っているのか判っていないのか、構わず淡々と話を
進める。

「では、そうしましょう。
 自由を阻む存在は、感心できませんからね。
 さて、ではどうしましょうか。私が直接出向いてもよろしいのですが、それでは面白
 くありません。
 ……サフィーネ、この件をコロニーの老人達の情報網へ掛かるように流してあげて
 下さい。彼らならそれだけでこちらの意図通り、上手くやってくれるでしょう。念の
 ために、新宿の件も伝えておいて下さい。無論戦自の件も込みです」

「承知いたしました。
 では、……」

 そういって、彼女はシュウに近付いた。
 その両頬に手を沿え、何処か淫猥な空気を漂わせつつ顔を寄せる。

 そして、二人の唇が重なり、爛れるような水音を辺りに恥ずかしげも無く振りまく。

 そして数分の後、彼女は部屋より姿を消した。



<アラル海北方・機動巡航艦【アーガマ】増設ブロック内>      


 今日の先輩は少しおかしい。

「あら!?」

 何でもないところで、ケアレスミスをする。

 あーあ、コーヒーが溢れてる。
 あぁ、慌ててカップを放り出さなくても……きゃっ。
 片付け手伝いますね、先輩。

「はぁ……」

 作業中に出る悩ましげな溜息。
 あら、青葉君いらっしゃい。なに顔を赤らめているの?

「……」

 何かを考えているようで、端末へのタイピングも遅い。……それでも、私の何倍も
速いけれども。悔しい気がしないでもないが、それよりも先輩の様子の方が気がかりだ。

「先輩、大丈夫ですか?」

 途中、余りにもおかしいので何度か声を掛けてみるが返事は素っ気ない。

「ええ、マヤ。
 何でも無いわ、大丈夫よ……大丈夫」

 先輩はそういってるが全然大丈夫じゃない。誰かに相談した方が良いのだろうか。

 葛城作戦部長……あの人は苦手だ。不潔な感じがする。除外。
 日向くん…………人は良いのだけど、この場合は論外だ。除外。
 青葉くん…………遊んではいるみたいだけど、役に立つとは思えない。除外。
 加持保安主任……この人は嫌いだ。油断が出来ない。除外。
 適格者達…………あの子達に余計な負担を掛けるわけにはいかない。除外。

 他は整備課の人ばかりで、顔見知りが居ない。【ロンド・ベル】の人たちは、まだよ
く知らない。この様な事を相談できる人が思い浮かばない。

 はぁ〜……相談できる人って、なかなか居ないのね。

 あら、先輩がいつの間にか消えている。
 どこ行ったんですか、先輩!

 ……これは、なにかのメモ書き?

 ……こういうモノを、見てはいけないのよ、マヤ……

 ……こういうモノを、見てはダメなの!……

 ……こういうモノを、見ては……ダメぇ〜!!……



















 ……先輩、御免なさい……


















 ……先輩、そうだったんですか!? そうだったんですね!

        :

 彼女、伊吹マヤ中尉は赤木リツコ博士のメモ書きを見て、狂喜乱舞していた。

 その様子は余りの奇行振りに、幾人かの心へ伊吹マヤへの新たなる評価を刻むことに
なる。

 それはさておき、原因となったらしいメモには、幾つかのキーワードが書かれていた。

 ”改装”

 ”同居”

 ”関係を深める”

 ”一石二鳥”


 キーワードの真意が判明するのは後日となるが、無用の混乱をおこしたことは間違え
ようも無かった。



<テンシャン山脈北方・ジュウガル盆地・高度4500m>      


「敵影、確認!
 大型飛行戦闘艦2!、二時方向、距離73000!
 周囲へ機動兵器を展開している模様です!」

 日向の報告がブリッジに響いた。
 続いて、青葉が報告を行う。

「第二小隊、【ガンダムMk.2】【ReGZ】【ゲッター】【ゲシュペンスト】敵と接触
 します。(作者注:編成替えをしているので第二小隊は飛行ユニット部隊になってい
 ます)
 交戦まであと30!」

「他は!?
 連中が何も企んでいない筈は無い!」

 ブライトの問いに素早くデータに目を通した日向が答える。

「ネガティブ!
 周囲50000に敵影無し!
 全センサーに反応ありません!」

 その答えが納得できないらしいブライトは、やや苛立ちげに指示を下す。

「……先遣隊に通知。本隊が到着するまで積極的な交戦は禁じる、とな。
 【グラン・ガラン】には、〔連絡アルマデ、備エラレタイ〕と云っておけ」

「了解!」

 実際、ブライトは全く正しかった。罠の正体までは見破れていなかったけれども。

        :

「「【ロンド・ベル】め。小賢しい!
  さっさと食いついてくればよいモノを!」」

 あしゅら男爵が動きの鈍い【ロンド・ベル】に対して毒突く。
 それをDr.ヘルは云い宥める。

「あしゅら男爵よ、落ち付かんか。
 あ奴らにも多少の知恵はあると云うことよ。
 良いことではないか……簡単にハマるようでは面白くない。
 十三号艦乗員の待避は、済んでいような?」

「「勿論でございます、Dr.ヘル様。
 ですが、宜しいので?
 老朽艦とは云え、貴重な戦力を」」

「構うモノか、地球掌握の前祝いと思えば安いモノじゃ。
 ではそろそろ、【ゲスト】殿に教えて差し上げろ」

「「はは〜ぁ」」

        :

「……〔連絡アルマデ、備エラレタイ〕との事です」

 ナの国の宿将で【グラン・ガラン】艦長を務めるカワッセが、そう報告した。
 彼をして報告せしめるのは、無論唯の一人しかあり得ない。

 シーラ・ラパーナだけだ。

 彼女は短く応じた。

「そうですか……では、その旨に各部署へ通達を」

「御意。
 ……ですが、彼らに我々は信用されていないのですかな。シーラ様自らが出てまで、
 こちらの態度を示したというのに」

 その問いにシーラの傍らに居たショウが反応した。

「カワッセ艦長! それは……」

 何かを言いかけたショウを遮って、シーラはカワッセの疑問に答える。

「カワッセ、それは違います。
 彼らは我々を信用しています」

「では、何故!?」

「残念ですが、我々の【オーラマシン】は地上人のマシンに比べ劣っています。
 戦闘能力が、ではありません。
 マシンが脆弱過ぎるのです」

「ですが……」

 まだ納得できない様子のカワッセを諭すように語るシーラ。

「我々が地上へ出て、たった一回戦さをしました。
 その結果はどうなりましたか?」

「……」

「たった一回の戦いで、我々は多くの兵を失いました。
 今の【オーラバトラー】稼働数も、1/3を切っている筈です」

 シーラは的確に事実を把握していた。
 彼らの主戦力【オーラバトラー】をナの国軍勢では【グラン・ガラン】だけで80騎
強搭載していた。だが、今では地上への強制転移に耐えられずに爆散したり、ビショッ
トとの戦いによっての損失によって、修理中の機体がかなりあるとは云え、稼働機が全
軍併せてすら30騎前後まで減少していた。(これには自領土にて迎撃戦闘を主眼とし
ていたことも深く関係していた、ドレイク軍やビショット軍に比べて艦内に積み込まれ
ていた補給/補修物資が著しく少なかったためだ。)

「……」

「カワッセ、彼らは私たちの事を信用してくれています。
 そして、私たちの事を理解して私たちに相応しい活躍の舞台を提供してくれようとし
 ています。
 わかりますね?」

「……浅慮でした」

「貴方なら、判って貰えると思っていました」

 そういってシーラは微笑んだ。
 だが、次の瞬間表情を引き締める。

「シーラ女王?」

 雰囲気の変化を察したショウが声を掛ける。
 そのショウへ、シーラは顔を向け応じた。

「……この戦い、厳しいモノとなるでしょう。
 ショウ、貴方には頑張って貰わねばなりません。
 ……果たすことが出来ますか?」

「……それが私に課せられた、定めならば」

 その答えにシーラは今度こそ曇り一つない柔らかい笑みで、ショウを魅せた。



<火星軌道・【ゲスト】根拠地>      


 モニターウィンドウに自分のソレに比べてややくすんだ赤毛を持ち、やや幼いと云っ
て良い顔つきの女性が映る。

 モニターのフッダには、指揮官章と共に彼女の名が〔ジュスティヌ・シャフラワース〕
と刻まれていた。

 先程まで、こまごまと埒もあかない作戦上の注意事項を述べ立てていたがようやく終
わったようだ。彼女は締めの言葉を口にした。

『では……ポセイダルの皆様、用意は宜しいですか?』

《五月蠅いわよ……》

 それがモニター上の彼女の説明を聞いていたレッシィの正直な感想だった。

 完璧に任務を遂行しようとするのは良い。だが、それも限度がある。どうやら彼女は
実戦経験が無いらしいが、そうであるならば経験豊富な自分たちに任せるべきなのだ。

 ……訳の分からない政治的配慮など、無視して。

 だが、ポセイダル陛下の忠実な部下である筈の自分にその様な事など出来るはずもな
い。彼女は寂しく笑みをこぼした。

《陛下の忠実な部下か……》

 自分がポセイダル軍に入隊した時のことを思い出す。

 祖父に聞いていた祖国を守る規律正しい軍隊。
 兵は義務を忘れず、士官は命を惜しまない。将校は戦場にて敵を挫き、将軍は必要と
あらば神悪魔とすら対峙する。

 それがレッシィの聞いていた、”軍”というモノだった。

 だが、真実は違っていた。

 兵は民衆を害し、士官は上官に取り入ることばかりを考えていた。将校は賄賂と色を
追い求め、将軍はより多くのモノを得ようとする。

 目を覆わんばかりの状況があちらこちらで当然のように繰り広げられ、全く腐敗しきっ
ていた。

 挙げ句が他星系への侵攻だ。それも先程の女士官が属しているらしい訳の分からない
連中の口車に乗ってだ。

 彼女の年齢特有のやや潔癖症気味の正義感は、明らかにこの様な状況を好ましく思っ
ていなかった。彼女に何かを決心させるまでに。

『各機、転送開始に備え。
 転送開始は、追って連絡する』

 ヘルメットに仕込まれたレシーバーより、出撃前アナウンスが響く。

 レッシィは、ポケットよりディスクを取り出した。
 そして、向こうに見えるネイ・モー・ハンの駆る金色のHM【オージェ】を見据えて
呟いた。

「目にモノ見せてあげるわ、ネイ・モー・ハン」



<テンシャン山脈北方・ジュウガル盆地>      


「向こうさんも、消極的だわねぇ……日向君、状況は!?」

「現在展開中の敵戦力は、【グール】2隻、陸戦機械獣10、航空機12、陸空両用
 型機械獣2ですね。第二小隊が交戦中。向こうも消極的なので五分五分の状態です。
 火力支援チームと他1コ小隊を投入すれば、十分撃破可能です。
 向こうの予備戦力が今の二倍を超えていなければ、ですが」

 因みに陸空両用型機械獣とは、厳密に区分した場合戦闘獣と呼ばれるべき存在だった。
が、連邦軍では、便宜上DCの非MSタイプの機動兵器を全て”機械獣”と呼称してい
た。呼び方は変わっても本質的にそう変わるモノでは無かったからだ。特に区別する必
要がある場合は寧ろ、機動兵器全てを対象としてXXm級と呼んで区別する事が多かっ
た。その方が実態に即していたからだ。

「わかったわ。
 火力支援チームとK小隊を出撃させて!」

「K小隊……どの小隊の事です?」

「甲児君とシンジ君達よ」

「なるほど……甲児のKか」

「そういうこと。
 ブライト司令、宜しいですね!?」

「構わん、急がせろ!」

「ハッ!
 リツコ、エヴァはA型装備で出して頂戴。
 例の特製ジェネレータを持たせてるわね?」

 エヴァ格納庫内に管制室にいるリツコから即座に応答が返る。

『当然よ。
 でも、あの補助発電機能付きバッテリーパックを変な名前で呼ばないで!』

「はいはい。
 ファ曹長、今のメンバーに発進指示を。
 やるわよ!」

 ミサトはリツコへの返答もなおざりに次の指示を発する。

「了解しました。
 ……ブリッジより待機中各機へ!
 発進準備!火力支援チームとマジンガー、エヴァ各機は直ちに出撃!
 繰り返す、……」

 ファの流暢な出撃アナウンスを聞き流しつつ、ブライトは艦内電話を取り格納庫内の
アムロを呼び出す。

「アムロ、聞いたな。
 ……あぁ、そうだ。艦内で機上待機しててくれ。連中がこの程度で終わるはずが無
 い。絶対、何かを企んでいる。
 ……では、その時呼ぶ。」

 一息つき、ブライトは再び怒号のような問いを発する。

「亜州作戦本部の方!
 どうなってんの!」

 ブリッジの片隅には、カタパルトにて打ち出される、クリスの【GM III】が映って
いた。

        :

「ちぃ、戦闘獣【グラトニオス】ごときが……」

 シドはそう苛立ち気に敵の名を口にした。

 確かに【グラトニオス】は侮れない。通常の機械獣より大型のシンプルなデザインを
しており、腕はドリルとなっておりマニュピレータは持たない。実に質実剛健というか
人型機動兵器としての利点をも投げ捨ててでも戦闘能力を向上させている、割り切った
設計の機体であった。

 しかし【ゲシュペンスト】と自分を持ってすれば、さほど苦戦するような相手ではな
いはずだった。事実シミュレータでの対戦では何度と無く勝利をおさめている。

 だが、実際には違っていた。

 確かに【ゲシュペンスト】よりは格下の相手だった。
 だが、相手はまず数の優位を利用して、シド達第二小隊の面々を分断しようとした。
これは見事に成功し、辛うじてエマの【ガンダムMk.2】とジュドーの【ReGZ】は連
携を保っているようだったが、シドと竜馬達は完全に分断されてた。

 それを最大限利用して、相手は【グラトニオス】の高い耐久性を前面に押し出した多
少の損害など無視した大胆な戦闘機動を駆使する。かと思うといつの間にか敵航空機や
機械獣の待ち構えるポイントへと、シドを誘導してキリキリ舞いさせる。

「ええぃ、鬱陶しい!」

 腹立ち紛れに、機銃を乱射しながら横を抜けようとした敵戦闘攻撃機【ドップ・ツヴァ
イ】へスプレッド・ミサイルを叩き込む。近接破裂モードにセットされたミサイルは、有
効範囲内に敵航空機が入った事で光学式近接信管を作動、炸薬を破裂させる。

 爆発に巻き込まれた【ドップ・ツヴァイ】は機体構成部品を景気良くバラ撒きながら、
墜落していった。

 致命的な損傷はまだ少ない。が、これでは時間の問題である。シドは焦燥に駆られ始め
た。

        :

「トマホゥ〜ク、ブゥーメランッ!」

 竜馬はそう叫んで、巨大な手斧を放った。手斧が吸い込まれるようにして【ガラダK
7】の頭部に食い込み、その哀れな鋼鉄人形をはぜ割る。そのまま手斧はブーメランの
様な軌跡を辿り、竜馬の操るゲッター1の手に収まった。と、同時に先程の機械獣が爆
発炎上する。

 だが、それを賞賛するモノなど居なかった。
 代わりに与えられたのは、ハヤトの切れるような冷たい怒号だった。

「竜馬、ザコを相手にするな。
 キリがないぞ」

「判っている!
 だが、コイツら……やる!
 こなくそぉ!」

 呑気に相談をさせるつもりなど全く無いDr.ヘル軍団は、絶えることの無い攻撃を
【ロンド・ベル】の面々に加える。無論その攻撃の大半は受けたところで大したことに
はならない、たわいもない攻撃だったが、こう数が多くては笑うことが出来なくなって
きた。

「リョウ、そろそろヤバイぜ。
 シドの方もへばってきているぞ」

 弁慶にそう言われて【ゲシュペンスト】の方に目をやると一瞬だけその黒い機体が見
て取れた。非常に優れた動体視力を持つ竜馬には、ソレで十分シドの状況は把握できた
が明らかに動きが悪くなっている。長時間集中し続け、疲労し始めたのは明白だった。

「妖怪ジジィがぁ!
 ……生首とは一味違うって、ことか。
 ハヤト、【ゲッター2】で……」

 竜馬がDr.ヘルに毒づき、【ゲッター2】へ変形して地中を進み【ゲシュペンスト】
の救出に向かおうとしたが、それはハヤトに遮られた。

「いや、必要ないようだぞ」

「何を言ってる、ハヤト!」

 竜馬がそう言い返したとき、【ゲシュペンスト】のいる周辺の空域に盛大な華が開く。
当たり所が悪ければ機動兵器すら四散させようとする凶暴な炎の華だ。

「と、云う訳だ。あの爆発の大きさからすると、クリス達火力支援チームだな。
 直に後続も着くな」

 ハヤトの冷静な状況分析を聞いて、竜馬は決断する。

「ようし、【ゲシュペンスト】を救出して一旦後退する。
 向こうもそろそろ弾無くなってるだろうからな」

「いい判断だ」
「りょーかいぃ」

        :

「みんな、やるわよ。
 砲撃十斉射。
 シド達を援護するのよ!」

 火力支援チームリーダー・クリス中尉の命令を受けて、即座に小隊各機の射撃が始ま
る。無論クリスは自機に搭載された弾薬全てを発射してしまう様な愚は犯さない。それ
でいて目標空域に必要にして十分な火力を投入する。見事なモノだ。

 そして、第三新東京市での大規模統制射撃で出現した爆炎地獄の縮小版が、【ゲシュ
ペンスト】周辺空域数ヶ所で発生した。

 その程度では、数機に損害を与えたに過ぎなかったようだが怯ませるには十分であっ
たようだ。包囲網に穴が空く。

 ここで活躍したのは、意外にもビーチャとモンドの乗る RX-75【ガンタンク】だった。
その両肩に搭載された70口径 180mm電磁熱は、対空射撃で有利な高い初速の砲弾を発
射するが出来、今日この場面でもその枯れた魅力を遺憾なく発揮していた。

 他にも、チャック・キース少尉の RGC-83A【GMキャノン2】も次々と砲弾を撃ち込む。
 珍しくバーニィの MS-06Fz【ザク改】も、超大型戦車砲を転用した55口径 175mm電磁
熱化学砲を小脇に抱えて、射撃に参加している。そこそこ効果もあげているらしい。

 戦闘獣【グラトニオス】が空いた穴を塞ごうとするが、それをさせる【ロンド・ベル】
では無い。分断されていた筈の【ガンダムMk.2】のロングライフルらしき光条が戦闘獣
に数筋突き刺さったかと思うと、次の瞬間には解けた包囲網を抜けた【ゲッター1】の
一撃を頭部に受けていた。

 通常の機械獣であればそこで撃破されているが、流石にDr.ヘル秘蔵の戦闘獣だ。
 大きく損傷していたはいたが、戦闘能力は喪失していない。戦いに参加することは十
分可能なようだった。

 彼の老人が行っていた、めったやたらな新型の投入を辞め、パフォーマンスに優れた
数機種に搾って強化改良もしくは量産効率改善を進めたことが効果を発揮したらしい。

 戦闘は依然として、苛烈さを失っていなかった。

        :

 シドは、民間人であるが状況の読めない男ではない。
 敵包囲網が弛んだこの隙を利用して、【ゲシュペンスト】を後退させる。既に弾薬消
耗、損傷率共に竜馬の見立て通りシャレにならないレベルになっていたからだ。

『すいません、後退します!』

 それを見ながら、甲児はようやく戦闘に参加できる喜びを隠しながら、指示をだそう
とする。

「さっさと戻ってこい、シド!
 それまでに片づいてるかも知れないけどな!
 それじゃ……」


 が、気配を察していたらしいアスカは、甲児の指示よりも早く駆け出していた。無論
EVA弐号機でだ。引きずるようにしてシンジの乗るEVA初号機を連れていったこと
から計画的確信犯なのだろう。

 全高30mの人型が殆ど人と変わらない滑らかな動きをするのは、技術的に見て凄い
ことなのだが、この場合は唯々情けないだけだった。EVAに乗っていないとき同様、
情けない構図がそのまま、ただの1%すら情報欠損無く再現されていたからだ。

 そのゴツイ紫色の鬼が、情けなくも引きずられて戦場に向かうさまは、なかなかシュ
ールな印象を見る者に与えた。その例外では無かった甲児も呆気にとられて暫し動きを
止める。


『……碇くん』

 レイの一言を聞いて、ようやく我を取り戻す甲児。
 何となく白々しいモノを感じながらも、レイに問い掛けた。

「……綾波ちゃん、じゃあ今日は俺とペアだ。いくぜ?」

『……』

 レイの視線は、シンジ達の方から動く様子がない。

《全く、この娘はやり辛い》

 そんな俗な事を考えながらも、甲児は呼び掛け続ける。

「おーい」

『……』

 暫しその様な事を続けていると、ようやくレイが反応した。

「おーい。あ・や・な・み、ちゃ〜ん」

『……了解』

 一瞬、甲児はレイが何に反応したのかよく判らなくなって思わず再度呼び返してしまう。

「綾波ちゃん?」

『……はい』

「今日は俺とペアだ。いいかい?」

『……問題ありません。命令には従います』

《やっぱり、この娘はやり辛い》

 甲児は、レイに対する認識を再度強くして、戦いに赴いた。

        :

「【ゲシュペンスト】後退!
 これにより戦力ポイント7、低下します」

 日向の報告が、ブリッジに飛ぶ。

「青葉くん!
 亜州作戦本部との連絡、まだ取れないの!」

 ミサトは苛立ち気に青葉に問い質す。
 それに答えたのは、ミサトの問いに慌てる青葉では無くキャプテンシートのブライト
だった。

「無駄だ、連絡は取れんよ」

「えっ!?」

「戦力の出し惜しみをしているんだろう。
 連邦軍の考えそうな事だ」

「でっ、では」

「我々だけでやるしかない。
 【グラン・ガラン】にオーラバトラー隊の準備を要請しろ。
 連中が仕掛けるならば、そろそろだ。
 来るぞ!」

「りょ、了解。
 青葉くん!」

「【グラン・ガラン】へ通達します!
 【グラン・ガラン】発進準備、宜しいか?え、何?了解、では!
 ……流石」

「どうしたの青葉君?」

 連絡が終わった後の青葉の呟きを、怪訝な声で問い返すミサト。

「……〔準備万端怠リ無シ。出番ハ、マダカ〕だ、そうです……」

「連邦軍のベタ金連中に聞かせたいわね」

「全くです」

        :

「厭な感じねぇ……」

 アスカは皮膚の皮一枚下を這いずり回るような嫌悪感を感じて、誰へともなく呟いた。

 一瞬動きを止めたEVA弐号機へ問答無用で打ち込まれる光条。
 無論ソレは、展開された朱色の絶対防壁によって、あっさりと弾かれた。

 そして、彼女を傷つけようとした愚か者に相応しい鉄槌を下す。

 視界の隅に映る爆炎を確認しながら、アスカは彼女の下僕へ向かって叱咤の声を飛ば
した。

「くおのぉ〜、バカシンジ!
 わたしのバックアップ、ちゃんとしなさいよ!」

 だが、反応が無い。
 アスカが怪訝に思ってEVA初号機を再確認すると、相互援護可能な位置にはおらず
かなり離れた場所にいた。
 取り込み中らしい。激しい交戦状態にあった。

 やはり戦場でも戦いの理屈は変わらない。弱いモノから狙われる傾向があるから、必
然的に的になりやすいのだろう。かなりの数の機械獣が集まり、シンジに攻撃を加えて
いるらしい。

 しかし、その様なことなど全く構わず自分の呼び掛けに反応しないシンジに、アスカ
は、激しい呼び出しを掛ける。

「何無視してんのよ、バカシンジ!
 シンジのクセして、偉そうなことしてんじゃないわよ!
 判ってんの!
 聞いてるの、バカシンジ!」

 流石にこれ以上応えないと、命に関わると思ったのかシンジがようやく回線を開いて
答えを返した。

『ごっ、ごめん!(ウワッ)
 今チョット(ウワッ)、手が放せないんだ……そっち!?』

「何情けないこと云ってのよ!
 アンタも一応とは云えエヴァのパイロットなんでしょう!
 チャッチャとカタしちゃいなさいよ、ホントにトロいんだから!!」

『そんなこと言ったって(ウワワワッワー)』

 最後の情けない叫びは、機械獣にミサイルの釣瓶撃ちを喰らったせいだ。
 幾ら特製パックを付けて運動性が低下しているとは云え、律儀に攻撃を喰らい続ける
シンジを見て、アスカは嘆息しつつ援護にまわった。

「まったく! 何やってんのよ!」

 アスカの戦闘加入によって、呆気ないほど簡単にケリが付く。

「この優しい私に感謝しなさいよ!」

 そういってアスカは、シンジに恩を売りつける。
 だが、返事が無い。不審に思ってウィンドウを再確認するとシンジは何処か追い詰め
られ憔悴した表情をしている。

《マズい》

 シンジの表情を見て、アスカがそう思ったときだった。

        :

「転送前哨波確認!
 ん?……この波形は……?
 ポセイダル軍です!
 いっ、異星人が攻めてきます!!」

 日向の報告がやけに響いていた。

「どういうことだ!
 何で連中が出てくる!」

 思いも掛けない新たな戦力の出現に歯軋りするブライト。
 内心では、葛藤が渦巻いている。

《何故ポセイダル軍が出てくる……まさか……いや、そんなバカな。
 DCはポセイダル軍の手先になったというのか!?
 いや、違う……》

「ブライト司令!
 撤退を!」

 ミサトの叫びで、我に返ったブライトは迅速に反応した。

「陸戦部隊戻せ!
 飛べる連中は【アーガマ】【グラン・ガラン】を援護しろ!
 直ちにこの空域から撤退する!」

「了解!
 【グラン・ガラン】の方にも通達します!」

「当たり前だ、急げ!」



<ジオフロント【ネルフ】本部・発令所>      


 主要人材の出向ですっかり寂しくなった【ネルフ】本部発令所。
 薄ら寒い空間に、いぶし銀とも云うべき渋みの効いた声が響く。

「碇、悪いニュースだ。
 DC残党を追っていた、【ロンド・ベル】が罠に掛けられたらしい。
 【ゲスト】の大部隊が、彼らへ接触した。
 現在、抗戦中とのことだ」

 だが、ゲンドウの答えは素っ気ない。

「そうか……」

 冬月は無駄と思いつつも確認した。

「何もせんのか?」

「この程度でどうこうなるようならば、今死なせてやるのが情けと云うモノだ。
 今ならまだ世界には、死と云う安寧に満ちている。慈悲深いことだ」

 自らの息子をも含めて、あっさり死を許容する言い方にやや呆れ気味に応じる冬月。

「お前の口から〔情け〕や〔慈悲〕などと云う言葉が聞けるとは思わなかったよ」

「フッ……そうかも知れん。
 少なくとも、死人が云う言葉では無いな」

 ゲンドウのその言葉に、反応する冬月。
 左の普段閉じられた様に細い目が、開かれていた。

 朴訥に響く声。

「……誰のことだ」

 その答えもまた、感情が感じられなかった。

「私だ」



<テンシャン山脈北方・ジュウガル盆地>      


「ようやくお出ましか。
 舞台は整っている、せいぜい踊って貰おうか……あしゅら、準備は良いな?」

「「ハハ〜ァ。Dr.ヘル様準備は済んでおります」」

「よし!
 では贈り物だ、【ロンド・ベル】!
 有り難く受け取るのだな!」

 そういってDr.ヘルは、手にしたコントローラらしきモノのボタンを押し込んだ。

        :

 日向が表示された情報を見て、自分の目を疑った。
 それを報告できたのは、日頃の勤務の賜物だ。殆ど反射行動と言って良かった。

「何ぃ!?
 司令、【グール】一隻がこっちに向かって急加速中!
 真っ直ぐ突っ込んできます!」

 ブライトは次々と起こる難題に頭を痛めつつも素早く応じた。

「特攻か!?
 トーレス回避しろ!
 主砲、撃って撃って撃ちまくれぇ!
 待機中の機動兵器も出して、カタパルトデッキから攻撃させろ!」

 ミサトもブライトを補佐するように命令を下す。

「展開中の部隊に通達!
 接近中の【グール】に攻撃を集中して!
 奴ら、特攻するつもりよ!!」

        :

「何ぃ、特攻!?」

 【ボテューン】で出撃したショウは、通信を聞いて耳を疑った。
 【アーガマ】の攻撃を加えている方向を見ると、巡航艦の主砲が直撃している状況に
も構わず一直線に近付いてくる不格好な飛行戦闘艦が居た。ショウにはそのフネの陰に
狂気のオーラが見えたような気がした。

「オーラバトラー隊、あのフネに攻撃を集中!」

『承知』

「シーラ女王の云っていた事はこういう事か。
 やらせはしない!」

 そういってショウはフルスロットルで【グール】へ接近するコースへと【ボテューン】
を駆った。

        :

「特攻!?
 何考えてんのよ、DCの連中は!!」

 指示に従って撤退中だったアスカは、そういってDr.ヘル達の行いに毒づいた。
 云うまでも無く、EVA弐号機を操って攻撃を加えている。

『アァ……』

 心奪われたように呟いたのはシンジだった。
 当然、アスカはシンジを叱咤する。
 何もしていなかったからだ。

「シンジ、アンタも攻撃しなさい!」

 するとシンジは何処か呆けた様子のまま、攻撃を開始した。

 攻撃は【グール】の至る所に命中していた。それなりの効果も上げている。だが、肝
心の船足が全く衰えていなかった

 特攻を阻止できそうにない。

        :

「ぐっ、【グール】止まりません!
 真っ直ぐ突っ込んできます!」

 日向の報告は、最早悲鳴に近かった。
 ブライトは回避運動に四苦八苦しているトーレスを読んだ。

「トーレス!」

 名を呼ばれただけでブライトが何を欲しているかを理解したトーレスは短く応えた。

「回避不能!
 向こうの方が速い!」

「艦内に連絡!
 機動兵器強制発進!
 総員、対ショック防御! 急げ!!」

        :

 【グール】下方にショウは居た。
 下方を見てみると自殺的攻撃を行うことによって大部分の【ロンド・ベル】機動兵器
が足止めを喰らっている。数機の機動兵器が攻撃を加えているが効果は上げていない。
ショウの周辺にも火線が舞う。

「ショウ、危ないよ」

 だが、チャムの言葉は、ショウに届いていなかった。
 決意を秘めた眼差しで、【グール】を睨み付けた。

「ここでやらなきゃ、どうにもならないんだ!
 イッッッケェェェェ〜!!」

 そういって【グール】艦尾船底に向かって、ショウは【ボテューン】を突っ込ませた。
 急速に拡大する【グール】の姿にチャムは情けない声を上げた。

「いや〜ぁ!!
 まだ死にたくないぃぃぃぃ!」

        :

「あぁ……」

 シンジは、その光景を見て驚愕していた。
 それまで散々これまで受けた攻撃数を軽く更新する数の攻撃を受けていたシンジは消
耗していた。無論受けた攻撃で実質的な被害など無い。だがこれらの攻撃は物質的にで
は無く、精神的に効果を発揮してシンジのか細い神経をさいなんだ。

《狂ってる……》

 【アーガマ】に今にも激突しようとする敵飛行戦闘艦を見て、思った。

《狂ってる……》

 激突間際に【グール】艦尾へ突っ込んで強引に機動を変えようとしたショウの【ボ
テューン】を見て、思った。

《狂ってる……》

 軌道を強引に変えられた【グール】上部構造物突起部が【アーガマ】右舷下部に接触
しながら火花を飛ばす様を見て、そう思った。

《みんな……みんな、狂ってる……》

 【グール】が【アーガマ】の下を抜けて、艦体の至る所で爆発を起こしながら火を吹
き地面を滑っていく様を、そして光と共に現れた新たなる敵を見て、そう思った。

《逃げなきゃ……逃げなきゃ、僕も狂っちゃう》

 その光景に背を向け逃げ出そうとしたとき、彼のすぐ目の前に青緑色をした敵が現れた。

「うっわぁ〜っ!!」

 シンジはそれへ反射的に拳を突き出していた。

 その一撃は転送直後で状況が判らなかったらしい敵機動兵器胸部へ吸い込まれるよう
にして当たった。そのナックルパートに装着されていたモンロー効果パッドは設計者の
意図通り敵装甲への接触にて起爆。機動兵器装甲を食い破り、内部を破壊せんとメタル
ジェットを十二分に流し込む。

「あ……」

 敵が動きを完全に止めたかと思うと、その胴体部の至る所から爆発的に煙を吹き上げる。

「あぁ……」

 そして、胸元のハッチが煙と共に開いたかと思うと血みどろのパイロットが至る所を
煤で汚して、苦しそうに宙に手を舞わせつつ現れた。

「うぁ……」

 宙を舞っていた手が力無く下がったかと思うと、そのパイロットは青緑色の機動兵器
から転げ落ちる様にして落下した。

 反射的にそれに手を差し出し受け取る。
 EVAの手の中で、力無くのパイロットの首が動き、その目がシンジを恨めしげに見
つめた。

 EVAの手は、血にまみれていた。

うわぁっ〜あぁぁぁっ!!!

 シンジの中で、大切な何かが弾け飛んでしまった。


<第六話Eパート・了>



NEXT
ver.-1.01 2001/11/25 公開
ver.-1.00 1998+10/13 公開
感想・質問・誤字情報などは こちら まで!

<作者の……>はお休みです








 Gir.さんの『スーパー鉄人大戦F』第六話Eパート、公開です。






 シンジが切れた?!

 シンジが壊れた!?


 ヤバシ、な引きだ〜



 アスカちゃんはフォローされて、
 レイちゃんも良い方向に向かいはじめて、

 ヨカヨカでしたが、
 今度はシンジくん。


 大人になるための、
 一歩成長するための、

 関門なのかしら。。




 人の死って、辛すぎる、大きすぎる、重すぎる−−


 絆を見せておくれやす〜〜





 さあ、訪問者の皆さん。
 <作者の……>を休んだ(笑)Gir.さんに感想メールを送りましょう!




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