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「遊園地?」

リビングのソファに座って大きく伸びをしていたシンジは
その姿勢のまま顔を上げて尋ね返す。
アスカはこっくりうなずいて持っていた券をひらひらさせる。
そして、シンジの隣に座る。
シンジに顔を寄せてアスカは券を見せる。

「うん。ヒカリ達に誘われたんだけど…」

「明日?」

シンジは券を覗きこむ。
近くの遊園地の入場券とフリーパスだった。
アスカは近くにシンジの顔があることに少しどきどきしながら尋ねる。

「うん…シンジは何か用事がある?」

「うーん。別に無い…な。」

少し考えてから答えるシンジ。
そして小さくうなずいて券をアスカに渡す。

「うん。いいよ。行こうか?」

アスカはにっこり微笑んで答える。

「うん。じゃあ、明日朝九時に迎えに来るね。」

「九時?そりゃまた早い時間だね。」

シンジは少し驚いた表情をする。
そんなに早い時間出るとは思っていなかったようだ。

「でも、それぐらいに出ないと、開園に間に合わないし。」

こっくりうなずいてシンジは答える。

「了解、善処するよ。」

アスカはソファから立ちあがる。

「じゃあ、アタシは帰って明日の支度するから。」

「うん。じゃあ、また明日。おやすみ。」

手を振るシンジにアスカも手を振って答える。

「おやすみ。」

そして、アスカがいそいそとリビングから出て行く。
その様子を見てシンジは苦笑を浮かべる。

「明日の支度ねぇ。まだ八時だっていうのに。」
 
 
 
 
 

Time Capsule
TIME/99
 
 

第20話
好き
 
 
 

アスカは部屋に入るなり、クローゼットを開けて服を数着取り出す。
うーん。
困ったな。
あんまり服持って帰ってこなかったんだよね…
と言っても、ドイツに持っていかなかった服がそれなりあるけど…
アスカはワンピース、スカート、キュロット、ブラウスなど
何枚かの服を取りだし、鏡の前で合わせ始める。
うーん…
これはちょっと子供っぽいし。

遊園地に行くからあまりおしとやかにしてもね。

うーん。
ベッドの上にだんだんと服が山積みになっていく。
そして2時間後。
やっとアスカは一着の服を選んだようだった。
それは白に細かい紺の花柄が舞っているワンピースだった。
ワンピースといっても裾が膝丈ぐらいで、ミニとはいかないが短い目になっている。
うーん。
こんなところかな。
アスカは首をかしげてうなずく。
遊園地に行くから裾の長いスカートは嫌だし、
かといって、キュロットとかジーンズはちょっとね。
せっかく、シンジと一緒に(ヒカリと鈴原はいるけど)
出かけるんだから…
でも、ちょっとアタシらしくないかな?
しばらく腕を組んで考え込むアスカ。
でも、これくらいは…
 
 
 

「シンジ。起きろ〜。」

どこか遠くで声が聞こえるぞ。
でも、この声は…

「こら〜起きろ〜。」

そして胸のあたりが重い。
もしかして、この感触は…
そして、この声は…
シンジの意識が急に鮮明になる。
目を開けると、そこには。

「あれ?起きちゃったの?」

少し意外そうなアスカの顔があった。
ちなみにアスカはシンジの上に馬乗りになって、
ベッド脇に置かれている通称シンジ起床用ぬいぐるみをつかんでいる。

「アスカ…年頃の女の子が、
寝てるとはいえ年頃の男の上に馬乗りって問題だと思わない?」

その言葉にアスカは頬を赤く染める。

「だって、こうしないとシンジ起きないんだもの。」

シンジはわざとらしく大きく息をつく。

「こんなところアスカの両親が見たらどう思うかな?」

アスカはにっこりと微笑む。

「責任取れって言うでしょうね。」

「…確かに叔父さんなら言いかねないな。」

急にドアがノックされる。

「アスカちゃん、シンジ起きた?」

そして部屋の中に入ってくるユイ。
ベッドの上の二人を見る。

「お邪魔だったかしら?」

慌てて、ベッドから降りるアスカ。

「い、いえ、そんなことは。」

ユイはにっこり微笑んで二人に言う。

「朝ご飯出来たから。二人ともリビングに来てね。」

そういうとユイは部屋から出ていく。
顔を見合わせる二人。

「まずかったかしら?」

「どうだろ?」

そう答えながらアスカを見たシンジ。

「あれ?今日はいつもと感じが違うね?」

はにかんでアスカは答える。

「うん。せっかくだし。」

「ふうん。でも、なかなか良い感じだよ。」

「ありがと。」

アスカはにっこり微笑み返した。
 
 
 

「そういや、ケンスケはどないしたんや?」

最寄りの駅から、遊園地に向かって歩道を歩いていた四人。
シンジ、トウジ、アスカ、ヒカリの組み合わせだ。
なぜかいつもいるはずのケンスケがいない。
前を歩いていたトウジが振りかえってシンジに尋ねる。
しかし、答えたのはヒカリだった。

「相田君、電話したんだけど、昨日から帰ってないって。
何処行ったのかもわからないんだって。」

ヒカリの隣に並んで歩いていたアスカが不思議そうな表情を浮かべて尋ねる。

「でも、両親は心配してないんだ?」

「うん。いつものことだから。って。」

「まぁ、ケンスケの両親らしいよ。」

苦笑を浮かべてシンジは答える。
ケンスケはよくサバイバルゲームと称して何日も家に帰らないことがあるから、
それで両親も余り心配しないようになったのだろう。
でも、帰ってこなかったということは。
シンジは小さく息を吐いた。
まさか、ミカちゃんの部屋にお泊まりか?

シンジは首を振ってその考えを否定する。
それ以上考えるのは良そう。
それにこのことをこのメンツに話すのも。
しかし、そんなシンジの表情を見て、アスカがシンジの顔を覗きこむ。

「シンジ、何考えてるの?」

「へ?い、いや何でも無いよ。別に…」

「そう?何か隠してない?アタシ達に?」

シンジは手を振ってごまかす。

「そんな事ないよ。ケンスケ何か言ってなかったかなぁって、考えてただけ。」

「ふうん。そう。」

アスカはあっさりと引き下がる。
シンジは小さく息をつく。
 
 
 

入り口でチケットを渡し、
フリーパスを表すプラスティックのベルトを手首に巻いて四人は遊園地に入る。
そして、園内掲示板の前でアスカは他の三人を見回す。

「とりあえず、プールに行きましょ。」

掲示板に示されているプールを指差し、アスカはそう断言する。

「そうか、アスカはこのプールは始めてなんだ。」

シンジは思い出したように言う。
この遊園地のプールは去年オープンしたばかりで、
その時にシンジ達が来たときにはアスカは当然ドイツに行っていていなかった。

「そうよ。だから、まず最初にプールね。」

アスカは嬉しそうにヒカリの手を取って駆け出す。
ヒカリはずんずん引っ張られていく。
その様子を見てトウジが不思議そうにシンジに尋ねる。

「なんや、今日の惣流はいつもと違わんか?
妙にはしゃいどる気がするが。」

シンジも離れていく二人を見ながら答える。

「そうだね。何かあったのかな?」

「こら〜。早くこっちに来なさいよ〜。」

アスカが二人に向かって手を振っている。
シンジとトウジの二人は顔を見合わせてため息をついた。

「ま、何も起こらんことを祈るだけやな。」

「そうだね。」

二人はアスカとヒカリに追いつくために歩き出した。
 
 
 

「しっかし、何やな。いつ来てもここは凄い人やな〜」

半ドーム状になっているプールはドームを閉じれば屋内プールになる仕掛けになっている。
そこに大小さまざまなプールやスライダーなどが散らばっている。
また南国の雰囲気を出すためか椰子の木がいたるところに埋められていた。
先に着替えを済ませたシンジとトウジは
ビーチパラソルが立てられているテーブルに座って、あたりを眺めた。

「まぁ、去年とはさほど変わってないみたいだね。」

「そういや、去年はケンスケが写真撮りまくっとったなぁ。」

トウジはその時のことを懐かしそうに回想する。

「そうだったね。で、夏休み開けに写真を売ってたっけ。」

と、視線をさまよわせていたシンジが着替え終わって出てきたアスカ達を見つめる。
立ちあがって手を振るシンジにアスカが手を振り返してやってくる。
アスカもヒカリも水着の上にTシャツを着ていた。

「凄いところね〜。」

アスカが感心しながらシンジの隣に座る。
ヒカリもトウジの隣に座る。

「あいかわらず凄い数の人ね。」

「でも、こんなにいろいろあるんだったら、いっぱい来るわよ。」

アスカはもの珍しそうに一つのウォータースライダーを眺める。
それはかなり高い位置から滑り降りてくるものだった。

「気になる?」

ヒカリに尋ねられアスカはこっくりとうなずく。

「うん。すっごく。」

「じゃあ、行ってみる?」

何気なくシンジは尋ねたが、それを少し驚いた表情でトウジが見つめる。
その様子を見て不思議そうにシンジは首をかしげる。

「どしたの?」

「い、いや別になんでもあらへん。」

するとアスカが立ちあがってTシャツを脱ぐ。
薄いブルーのセパレートの水着がシンジの目に映る。
そして、シンジの手を取って引っ張ろうとする。

「じゃ、行こうよ、シンジ。」

シンジはアスカの言葉の意味がわからず、
マヌケな返事を返す。

「へ?何が。」

「だから、一緒に行こうよ。」

「どうして?」

「だって、二人ですべるやつなんだけど。」

「…」

トウジが首を振ってシンジを見る。

「なんや、知らんかったんか?アレはふたり用なんやで。」

「行ってみる?って聞いたの碇くんだよねぇ。」

ヒカリがにっこりと微笑んでシンジを見つめる。

「さ、行こ。」

そう言うとアスカはシンジをひっぱって行く。
それを見送るトウジとヒカリ。

「行ったな。」

「うん。」

「シンジの冥福を祈ろか。」

「そんな。冥福だなんて。」

くすくす笑い出すヒカリ。
 
 
 
 

「ここから?」

シンジは滑り台から下を覗き込む。
そして、アスカの方を見る。
アスカも同様に下を見下ろして、嬉しそうににっこり微笑んだ。

「はぁ…」

シンジはうつむく。
係員が二人を呼ぶ。

「はい、次の方どうぞ〜。」

「ほら行くわよ。」

アスカがシンジの手を取る。
シンジはあきらめたように息をつく。
スライダーの係員が二人を呼ぶ。

「はい、それじゃあ、ここに座ってくださいね〜。」

アスカが前に座り、シンジがその後ろでアスカを抱くように座る。
後ろから抱きしめられてアスカはすこしどきりとした。
シンジを見て、係員が愛想よく注意する。

「はい、それじゃあ、男性の方。女姓を離さないで下さいね、
よくこれで別れる方いらっしゃるんで。」

シンジは抗議もせずに素直にうなずく。
とても、抗議できる精神状態ではない。
目の前には急角度で下っているスライダーがある。
プールからはこのスタート点まで高さは20メートルはゆうにあるだろう。

「は、はい。」

「じゃあ、行きますよ〜。」

係員は二人をスライダーの方に押し出す。
二人は急角度のスライダーで滑り落ちる。
左右に振られながらも、シンジはなんとかアスカを捕まえていた。

「きゃあ〜〜〜〜。」

アスカは楽しそうに声をあげる。

「どわぁ〜〜〜〜。」

シンジはかなりこわばった顔つきで叫ぶ。
二人はぐるぐるスライダーを回って、プールに着水する。
アスカは立ちあがって、後ろで浮き上がってきたシンジに楽しそうに声を掛ける。

「あはは。面白かったね。シンジ。」

「そ、そう?」

シンジは少し、青ざめた顔色で尋ねる。
アスカはくすくす笑いながら答える。

「うん。もう一度行く?」

シンジは慌てて首を振る。

「勘弁してよアスカ、僕がああいうの苦手だって知ってるでしょ。」

「うん。」

あっさりうなずくアスカ。

「はぁ、これだもんな。」
 
 
 

「ねぇ、この後どうしようか?」

アスカはブルーハワイのかき氷をつつきながら、ヒカリに尋ねる。
ヒカリもイチゴのかき氷をつついている。
シンジ、トウジは食べ物を探しに行っている。

「うーん。とりあえず、食べた後は泳ぎたくないよね。」

「そうね。じゃあ、遊園地で何か乗る?」

「うん。そうしようよ。」

アスカはかき氷を置いて、大きく伸びをする。
そして、その手を頭の後ろで組む。

「ふ〜。結構泳いだね。」

「アスカってば、本気で泳いでるんだもの。」

ヒカリはくすくす笑う。
アスカはぷっと頬を膨らませる。

「いいじゃない、泳ぎに来たんだから。」

アスカは競泳用のプールで一人で100メートルほど泳いでいた。
ひさしぶりだったのでつい泳いじゃったとは本人の弁。

「でも、100メートル泳げるなんてすごいよ。」

「そうかな?シンジも泳げるよ。」

少し驚いた表情でヒカリは答える。

「そうなの?」

「うん。知らなかった?」

「うん。全然。」

「昔、一緒に泳いだことがあるから。
その時はアタシが125メートルでシンジは175メートルだったよ。」

「ふうん。」

アスカはヒカリの顔を覗きこんで尋ねる。

「何かすごく意外そうな顔してるわね。」

「だって、碇くんってスポーツ余り得意じゃないってイメージが。」

「そうね。アイツ、いつもぼけぼけっとしてるから。
でも、得意って程じゃないわね。人並みぐらいじゃない?」

「そうかな。」

「そうよ。」

二人は顔を合わせて微笑む。
 
 
 
 

「うわ〜。」

「きゃあ〜。」

シンジとアスカはぐるぐる回るコーヒーカップの中で声をあげる。

「まだまだやで〜。」

トウジは真中のテーブルをぐるぐる回しながらそう叫ぶ。
ますます回転速度が上がる。

「え〜。」

「や〜め〜て〜。」

ヒカリはトウジの腕につかまる。

「おねがい〜。」

「なんか、凄いことになってるよ〜。」

シンジはかろうじて顔を上げるが、周りの景色の流れるスピードについていけないのか、
また顔を伏せた。
アスカは顔を伏せたまま、ぎゅっとシンジに捕まっている。

「…」

「鈴原、いいかげんにして!」

ヒカリが叫ぶ。

「なんや、つまらん。」

けろっとした顔でトウジはテーブルの回転を止める。
ゆっくりと回転速度が落ち、
三人は顔を上げる。
しかし、三人ともかなり酔ったようだった。
コーヒーカップが止まった後も三人は立ち上がれなかった。

「どないしたんや?もう終わったで。」

きょとんしたした顔でトウジは座ったままの三人を見つめる。

「…気持ち悪い。」

アスカが顔をしかめてそう答える。
シンジもうなずく。

「なんや、あれしきのことで。情けないで。」

「いや、どっちかというと大丈夫なトウジがおかしいと思う。」

「私もそう思う。」

ヒカリもこのときばかりはトウジをかばうつもりはないようだった。
 
 
 

「シンジ〜。」

メリーゴーランドの白い木馬に乗って、アスカが回ってくる。
シンジは軽くてをあげて答える。
アスカの隣の木馬に乗っているヒカリも遠慮がちに手を振る。
そして、また見えなくなる。

「なんや、やっぱりごきげんやな?」

手すりに持たれてメリーゴーランドを見ているトウジは息をついた。
シンジも苦笑を浮かべてうなずく。

「まあね。」

と、またアスカの声が聞こえてくる。

「シンジ〜。」

嬉しそうにシンジに向かって手を振っている。
シンジはまたも笑顔を浮かべ、それに答える。
そして、またアスカは見えなくなる。

「しかし、向こうでいろいろあったんやろうし。
まぁ、たまには息抜きしやんとな。」

訳知り顔でうなずくトウジ。
シンジは不思議そうな表情を浮かべる。

「どしたの?トウジがそういうこと言うなんて変だよ。」

「何やと〜?」

トウジはシンジの頭を抱える。
シンジはくすくす笑いながら謝る。

「ごめん。ごめん。」

と、そこにアスカの罵声が響く。

「こら〜。バカトウジ〜。何やってんのよ〜。」

トウジはにやりアスカに笑いかえす。

「こら〜、何余裕かましてんのよ〜。」

遠ざかる罵声を聞きながらトウジはぱっとシンジを離す。
シンジは息をつき、手すりにもたれる。

「ま、何にせよ。今日はとことんつきあったれや。」

「僕が?」

「シンジ以外の誰が付き合うんや?」

トウジはまたしてもにやりと微笑んで見せる。
それを見て、シンジも苦笑を浮かべてうなずいた。
 
 
 

「最後は観覧車ね。」

アスカはそういうとシンジの手を取って観覧車のほうへ歩いていってしまう。
そして、シンジの方に顔を寄せひそひそ話し出す。

「ねぇ、観覧車だけど。」

「うん。」

シンジも声を潜める。

「ヒカリとトウジの二人にさせない?」

「たぶん、そう言うと思ったよ。」

シンジは笑みを浮かべて答えた。

「じゃあ、あたし達は後ろに回って。」

「了解。」

追いついてきたヒカリが声を掛ける。

「どうしたの?二人で内緒話?」

「ううん。ないでもないわ。ね、シンジ。」

アスカはシンジに微笑みかける。
シンジもにっこり笑って答える。

「うん。そうだよ。」
 

そして、観覧車の乗り場で、
シンジとアスカの二人はさりげなく、ヒカリ、トウジを先に通す。
そして、ゴンドラに先に乗りこむトウジとヒカリ。
しかし、シンジ、アスカの二人は乗りこまずに
立ち止まったまま手を振る。

「え?」

ヒカリが声をあげ、立ち上がろうとした時、ドアが閉まる。
トウジが二人をにらんだが、二人ともにっこりと微笑んで手を振った。

「うまくいったね。」

シンジが視線を二人に向けたまま言う。
それに軽く方をすくめて答えるアスカ。

「そうね、これほど簡単に引っかかるなんて、二人とも甘いわね。」

「じゃあ、僕達も乗ろうか。」

「うん。」

二人は次のゴンドラに乗りこんだ。
観覧車はゆっくりと登っていく。
それに会わせて遠くの景色が視界に入る。
そして、雲に隠れていた夕日が赤い光を投げかける。
ゴンドラの中のものが全て赤く染まる。
アスカは窓に顔を近づけてため息を漏らす。

「きれい…」

シンジはそんなアスカの様子を見守る。
アスカはふとシンジの視線を感じて、シンジの顔を見る。

「どうかしたの?」

「ううん。なんでもないよ。」

シンジは首を振って微笑む。
そして、シンジも外の景色に視線を移す。
雲に隠れた部分が薄暗く見える。
太陽は見ているうちに山並みに消えていこうとしていた。

「もう、日が落ちるね。」

アスカはその声に太陽の方を向いて答える。

「ほんと…」

ゴンドラの中に吹き込んできた風がアスカの髪を舞わせる。
赤い日差しに髪がきらきらと輝く。
髪を軽く押さえたアスカは振りかえりシンジを見る。
にっこり微笑んでシンジの顔を見つめる。
首を傾げて見せるシンジにアスカは笑みを大きくする。

「ねぇ、覚えてる?前に一緒に観覧車に乗ったときのこと。」

「覚えてるよ。だって、あの時はトウジ達にだまされたんだから。」

アスカはくすくす笑いながらうなずく。

「だから、今日お返ししたの。」

「だろうね。」

シンジもこくこくうなずく。

「…ね。あれからもう3年近く経ったんだね。」

視線を落ちていく太陽に向けてアスカは何処か遠くを見るような瞳になった。
あれから3年。
長かったような、短かったような。
またこうして二人は観覧車に乗っている。
シンジと二人きりで…

「こうしてまたシンジと一緒に乗ってるなんて何か不思議な感じ。」

アスカはそう言うとシンジの方を向く。
シンジは少し首を傾げて見せる。
一年半だけど。
シンジは変わった…ね。
アタシはどうなんだろ?
変わったように見えるかな。
それとも昔と同じかな。
その光を受けてオレンジに輝く雲の中に半ばまで沈んだ太陽が見える。
アスカもまた視線をその太陽に向ける。
そう、確かめたいと思っていた。
シンジがアタシの事をどう思っていたのか。
どう思っていてくれるのか。
シンジの横顔に視線を向ける。
覚えていたよりも、シンジの表情は柔らかかった。
思い出は美化されるっていうけど、
アタシの場合は逆だったのかな?
それともそれはあの子のせい?
アスカは視線を下ろして、真下に広がる遊園地内に向ける。
園内は街灯がいくつか点灯し始めていた。
でも確かめるのはシンジの思いじゃなくて私の思い。
私がシンジのことをどう思っているのかはっきり確かめたかったんだ。
そう…
アタシは怖かった。
シンジの傍にいることでアタシがアタシでいられなくなるんじゃないかって。
そう、すごく怖くなった。
だって、アタシは誰なのか、誰になりたいのかわからなくなるんだもの。
シンジさえアタシを見ていてくれれば良い、なんて考えたくなかった。
アタシは、アタシだもの。
だから、アタシは…
その時シンジがふっと笑った気がした。

「どうかした?」

シンジは口元に少しだけ笑みを浮かべながら首を振る。

「ううん。確かに不思議だなって思って。」

夜の闇が頭上に迫ってきていた。
太陽が沈んで辺りが暗くなってきていた。

「だって、アスカは普段はドイツにいるのに、今は僕の隣にいる。
また数日したらドイツに戻っちゃうんだよ。」

「うん。」

アスカはシンジの言葉をかみ締めるようにうなずく。

「何か不思議だと思わない?
今は二人の距離はこんなに近くになのに、
数日すればものすごく遠くなるんだよ。」

「…」

今はこんなに近くに…
そうだね、今は手を伸ばせば触れる事ができる。
でも…
ドイツに帰れば…
二人の距離は…
アスカはふいに手を伸ばしてシンジの手に触れる。
シンジは少し驚いたようにアスカを見る。
顔を伏せたまま小さく呟くアスカ。
甘えるような口調。

「そっち…に行って…いい?」

「…あぁ、いいよ…」

アスカはそろそろと立ちあがると、シンジの隣に座る。
そして頭をシンジの肩に乗せる。
シンジは何も言わずにアスカの手を握る。
しばらく黙ってお互いの存在を感じる二人。
シンジを感じるね。
どうしてなんだろ?
すごく安心する。
この感じ、ずっと忘れていたような気がする。
アスカはほっと息をつく。
シンジはくすりと笑ってアスカの耳に囁いた。

「お帰り、アスカ。」

その声にこっくりうなづくアスカ。
帰ってきたんだ。
帰ってきたんだよね。アタシ。
シンジの元へ。
手をぎゅっと握る。

「ねぇ…シンジ。」

アスカは頭を上げてシンジの顔を見た。

「なんだい?」

シンジ。
いつもそうやってアタシのこと見ていてくれたね。
すごく感謝してるよ。
シンジと離れてわかったんだ。
アタシがどれくらいシンジに頼ってたのか。

「アタシ…ね。」

ずっと思っていても言えなかった言葉。
アタシってば妙に強情だから。
シンジにいっぱい迷惑掛けたよね。
でも。
でもね。
今のアタシなら言える。
アタシの素直な本当の気持ち。
アスカはその言葉をちいさく息をつくように言った。

「好きだよ…シンジのこと。」

シンジは笑みを浮かべたまま小さくうなずいた。
知っていたよ。
そう答えているようなうなずき方だった。
アスカはにっこり微笑むと、またシンジの肩に頭を乗せる。
そう、シンジはわかっていてくれてた。
誰よりも、アタシのことを見ていてくれた人だから。
アスカは瞳を閉じる。
二人はそのままこの永遠の瞬間を感じていた。
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 1999_05/15公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

どもTIMEです。

TimeCapsule第20話「好き」です。

今回はシンジ、アスカがメインなので、トウジ、ヒカリは目立ちませんが、
この二人も影でいろいろあったりします。
当然登場しなかったケンスケはケンスケでまたいろいろあったりします。
詳しくは22,23話のキャンプ編で書きます。
遂に告白してしまったアスカですが、シンジの答えはまだ出ていません。
シンジがどう答えて、アスカがどうするのかは今後少しづつ書いていく予定です。
予定通りにアスカ編は24話までで、
次回はマナがやっと帰ってくるということでまだまだ急展開は続きます。
一応、今後24話までのタイトルの紹介をします。

21話「ただいま」
帰ってきたマナ、迎えるシンジ、それを見つめるアスカ。それぞれの思い。

22話「波紋」
楽しいはずのキャンプなのにアスカとシンジのことが気になってしまうマナ。

23話「忘れないよ、その言葉」
最後の日にシンジが出した答え、アスカの笑み、マナの涙。

24話「ずっと傍にいたいよ」
シンジの答えに対してアスカが決心したこととは?

で、25話以降ですが、まだしばらく夏休みの話を書く予定です。
秋、つまり新学期は30話前後になるのではないかと考えています。

そして、80000ヒット記念で告知しました短期集中連載のほうですが、全7話に決定しました。
タイトルは「Moon-Stone」です。
やっぱりオーソドックスな学園ものです。
レイの性格をどうするか迷ったのですが、結局学園版の性格にしています。
現在第5話を執筆中ですので、そのうち公開できると思います。
#できれば5月中に公開したいのですが、微妙ですね。

では次回TimeCapsule第21話「ただいま」でお会いしましょう。
 






 TIMEさんの『Time Capsule』第20話、公開です。








 おっ

 アスカがついに言いました。

 おっ

 シンジが落ち着いているぅ


 でっ

 結構いい雰囲気。



 しかしっ

 次回、マナ帰還・・・



 大荒れ必至
 シンジは必死            ・・・・



 明日は明日の風が吹くのら。。。




 さあ、訪問者の皆さん。
 快調TIMEさんに感想メールを送りましょう!







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