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「やっと着いたよ…」

マナは空港の出口から出てきて、時計を見る。
思っていたよりも、早かった。
どうしよ、まだ、お父さんは来てないのかな?
きょろきょろとあたりを見回す。
しかし、見知った顔はない。
じゃあ、とりあえずシンジに電話しよっと。
そう考え、近くの公衆電話に歩いていくマナ。
そしてテレフォンカードを入れてボタンを押す。
しばらくコールした後、電話に誰かが出た。

「はい、碇です。」

その声を聞いて、マナの心は弾んだ。

「シンジ?マナです。」

「マナ?もう着いたのかい?」

少し声が遠い。
受話器に耳を押し当てて、マナは答える。

「うん。今、お迎えが来るの待ってるの。」

「そうか…」

と、横の窓ガラスがこんこんと叩かれる。
マナがそちらの方を見ると、マナの父親が
マナを見つめてにこにこ微笑んでいた。

「どうかしたの?」

受話器の向こうからシンジが不思議そうに尋ねる。

「残念。もう、お迎えが来たみたい。」

「そう…じゃ、落ち着いたらまた電話してね。」

「うん。」

受話器を置いて、父親が待っている所に歩いていくマナ。

「よく来たね。」

「でも、遠かったよー。」

二人は並んで空港の駐車場に向けて歩き出した。
 
 
 

Time Capsule
TIME/99
 
 

第13話
あの人のこと
 
 
 
 

シンジは受話器を置いた。
時計を見る。
もう夜の11時を過ぎている。
ベランダからレイが手招きする。
シンジは首をかしげ、ベランダの方へ歩いていく。

「レイは寝ないの?」

「うん。もう少しだけ起きてる。」

ベランダの手すりによりかかり、空を見上げるレイ。
髪が風に乗りふわりと広がる。
レイは髪が広がらないように手を当てシンジの方を見る。

「電話はマナちゃんから?」

「うん。今着いたって。」

「そう…」

レイはそう答えたきり、空を見つめている。
晴れた空には、夏の星座が輝いていた。
シンジはレイの隣に立ち空を見上げる。
ちらりとシンジの方を見るが、レイは黙ったままだった。

「…ね、シンちゃん。」

しばらくしてレイがうつむき、小さな声でシンジを呼ぶ。
シンジはレイの方を向く。

「何?」

「あの時、最後に会った時のこと覚えてる?」

「あぁ、覚えてるよ。」

レイは少しだけためらったが、シンジの顔を見上げる。
薄く浮かび上がっているシンジの顔。

「悲しかった…」

レイはじっとシンジの瞳を見る。
シンジの瞳は全然変わっていない。
引き込まれそうなきれいな夜色の瞳。

「シンちゃんの言ってることが本当だと分かって…」

「そうか…」

シンジは視線を逸らして、うつむいて答える。
そうか…
やっぱり…
心の中で納得するシンジ。

「ごめんね…シンちゃんには辛い思いさせて。」

「ううん。そんなこと気にしなくていいよ。」

シンジは首を振って答える。

「ほんとに?」

「うん。でもレイには悪いことしたかなって心配してたんだ。」

「…ううん。アタシはいいの…」

ほっとため息を付いてレイはシンジに向き合う。

「それだけ言いたかったの…」

レイは嬉しそうに微笑む。
シンジはその言葉に肯く。

「うん。」

「それで…」

レイはうつむき、小さな声で話し出す。

「実は、シンちゃんに聞きたいことがあって。」

「何?」

「アイツ…のことなんだけど。」

レイはそれだけ言うと、ポケットから便箋を取り出す。
それをシンジに手渡す。
不思議そうにその便箋の差出人の名前を確かめる。
その名前を見た瞬間にシンジの表情が強張る。

「これは…」

「中も読んでみて。」

「いいの?」

こっくりうなずくレイ。
シンジは中からレターペーパーを取り出し、
そこに書かれている内容に目を通す。

「それで、シンちゃんの方に何か連絡とか来てないかなって。」

ある一文で視線を止めるシンジ。
それをじっと見つめるレイ。
しかし、シンジは首をかしげて答える。

「…いや、僕のところには何も。」

レイは息をつく。

「そうなんだ…アタシどうすればいいんだろ?」

その瞳に陰りが生じる。
シンジは視線を夜空に移してたずねる。

「レイはどうするのが一番良いと思ってるの?」

「…わからない。」

レイは自身なさげに首を振る。

「そうか…」

シンジはそう答えると空を見つめる。
レイもシンジに習って顔を上げ、空を見つめた。

「嬉しいのか、悲しいのか、それさえも分からない。」

「…」

二人はそのまましばらく星を見ていた。
 
 
 

「うーん。」

シンジは寝返りを打つ。
と、その手に何かが当たる。

「うん?」

なんだろ?
シンジは手を動かして、正体を探ろうとする。
柔らかい感触。
そして、呟き声が聞こえる。

「う…ん」

「…ごめ…ん」

シンジは謝り手を引っ込める。
ふう。
大きくため息をついて眠りに落ちようとした瞬間。
首に何かが抱きついてきた。
ほえ?
なんだろ?
寝ぼけ眼をこすりながら、シンジは目を開ける。
そこにはレイの顔が。
しかもシンジの目の前にあった。

「れ、レイ?」

シンジは思わず叫んでしまう。
レイはその声で眠そうに答える。

「う…ん、どうかしたのぉ…」

息をつくと眠そうに目を開ける。
そして、シンジの顔が目の前にあるのを見て、にっこりと微笑む。

「ふあ、おはよ…」

シンジは苦笑して答える。

「いや、おはようじゃなくて。」

首をかしげてレイはシンジに尋ねる。

「ほえ?どうして、シンちゃん、アタシと一緒に寝てるの?」

「それはこっちが聞きたいよ…ここ僕の部屋だけど?」

「え?」

レイはきょとんとした顔でまじまじとシンジの顔を見詰める。

「いいかげんに…この手を放して欲しいんだけど。」

シンジは首に回されたレイの腕を指差す。
レイは慌てて腕を放す。

「あー。ごめん。」

そして、レイは起き上がり、ぼんやりとした表情で部屋の中を見まわす。

「あれぇ?おかしいね。ちゃんと自分の部屋に戻ったつもりなのに。」

それを聞いてシンジが吹き出す。

「もしかして、レイってあの癖、治ってない…の?」

レイは恥ずかしそうにはにかんでうつむく。
あの癖とは、レイは夜中に起き出したときに、
なぜか自分の部屋に戻らず、
他の部屋に入ってしまう癖のことだ。
小学校の頃のレイはよくシンジの布団に潜り込んだものだ。

「うん…まだ時々ね。」

「なるほど。」

くすくす笑いながらシンジも起きあがる。

「じゃ、仕方ないね。誰かに見つかる前に部屋に戻ったほうがいいよ。」

「…うん。」

レイはベッドから降りて部屋から出て行こうとするが、
ふと何か思い付いたように振り返る。

「ねぇ、シンちゃん。」

「うん?」

「何も…してないよね?」

シンジは耳まで真っ赤になりながら答える。

「ぼ、僕は何もしてないよ。」

「なんだ…残念。」

その言葉を残しレイは部屋から出ていく。
一人残されたシンジは首をかしげる。

「残念…って何が?」
 
 
 
 

「あーん。チョコパフェだぁ。」

レイはそのお店の前でシンジの腕をひく。
シンジはずるずると引っ張られていく。
どうして、こんな時の女の子って力がでるんだろう?
苦笑しながら、シンジはそう考える。

「ねぇねぇ、シンちゃん。パフェたべよ?」

レイは瞳をうるうるさせて両手を組み合わせて、シンジを見る。
そういえば、レイってパフェが大好きだったっけ?
そんな事が思い浮かぶ。

「ねぇねぇ、いいでしょ?いいでしょ?」

こういう状態になったレイを引き止める手段をシンジは知らなかった。
しかたなく、肩をすくめて答えるシンジ。

「うん。いいよ。」

「やったー。」

レイは嬉しそうにシンジの腕を取り、お店のドアを開けた。
そして、窓際の席にシンジを引っ張っていく。

「いらっしゃいませ。」

ウェイトレスの女性がお水を持ってくる。
すかさず、オーダーを入れるレイ。

「あの、チョコパフェひとつ。」

「えーと…」

シンジは何を注文するか決めていなかったので、慌てて、メニューを広げる。
結局、シンジはレモンティを注文した。

「レイって、すぐオーダーする子だったね。そういえば。」

シンジは苦笑を浮かべながら、話し出す。
それを聞いたレイは首をかしげる。

「えー?そうだった?」

「うん。だって、お店に入る時にオーダー決まってるんだもの。」

「てへっ、そう言えばそうかもね。」

くすくす笑うレイ。
その様子をシンジは懐かしそうにな表情で見つめる。

「どうしたの?」

レイがにっこり微笑んでシンジを見る。
シンジも微笑み返す。

「なんでもない。昔と変わんないなって。」

「そうかな?」

「まぁ、全く同じってわけでもないけど、雰囲気がね。」

似たようなことを最近言ったような気がするなぁ。
シンジの脳裏にそんな思いがよぎる。
そんなシンジを見てレイがにやにやしながらシンジに顔を寄せる。

「どうせ、マナちゃんにも同じ事言ったんでしょ。」

図星をさされ、シンジは慌てて首を振る。

「ううん。そんな事はないよ。」

「ほんとかなぁ?」

探るような視線でシンジの顔を覗き込むレイ。

「い、いや、本当…だよ。」

にっこり微笑んでレイは答える。

「ま、いいや、そういう事にしておくね。その代わりここはシンちゃんのおごり。」

「へ?」

「当然でしょ。」

シンジは大きくため息をつき答える。

「へいへい。わかりやした。」
 
 
 

レイに手紙が来てたなんて。
シンジはベッドに寝転がり、天井を見つめながら息をついた。
どうして今なんだろう?
あの時…
彼はレイにもう二度と会わないと僕に告げた。
その理由。
レイには話していない。
話す必要も無い。
二人の間に入った小さな亀裂。
それが修復できないまでに広がってしまった。
あの時、僕には彼を引き止めることが出来なった。
だから僕はせめてレイが彼のことを…
それは僕がレイを…
心配だったから?
小さな時から一緒の幼なじみだったから?
それとも…
ドアがノックされる。
シンジは起き上がり返事をする。
ドアから顔を出したのは…

「ちょっといいかな?」

レイは不安そうな表情でシンジを見る。

「うん。いいけど。」

ベッドの端に座ったシンジの隣にレイがちょこんと座る。
髪はほどかれ、かすかに湿っているように見える。
ブラウンのパジャマを身につけているレイ。
シンジは不思議そうな表情を浮かべ尋ねる。

「どうかしたの?」

レイがシンジの顔をじっと見つめる。

「ちょっとね…」

その口調がいつもとは違うことに気づきシンジはレイを見る。
シンジの顔を見上げるレイの瞳は潤んでいた。
かわいい。
シンジは素直にそう思う。
でも、その瞳は憂いを秘めているようだった。
ゆらゆらと輝く瞳。
吸い込まれそうにシンジはレイの瞳を見つめる。
そして、視線を伏せレイは小さな声で尋ねた。

「ねぇ…アタシ…ね。やっぱり返事はしないでおこうと思うの。」

「いいの?」

顔を上げたレイは首をかしげて少しだけ上目使いでシンジを見る。
髪がさらりと揺れ、いい香りがシンジの鼻をくすぐる。

「アイツは過去の人だし。」

「それでレイはいいんだね?」
 
 

レイは彼の名前を呼んだ。
しかし、彼からの返事はない。
何処に行ったの?
ねぇ、返事してよ。
レイは座り込んだ。
どうして?
アタシの何処がいけなかったの?
アタシにはあなただけだったのに…
どうして?
アタシにはわからない…
約束したのに。
アタシの側にいてくれるって。
どうして?
会いたい。
今すぐ会いたい。
あなたのもとへ飛んでいきたい。
何処にいるの?
ねぇ、教えて。
お願い。
もう一度だけ。
しかし、彼からの返事はなかった。
 

「うん。いいの。もう忘れることにしたんだ。それに実際忘れてたし。」

レイはうなずきながらそう答える。
シンジには必死に自分を納得させようとするレイの姿が痛々しく見えた。
 

「ごめん。もう君とは会えない。」

どうして?
どうしてなの?

「引っ越すんだ。遠いところに。」

何処に行くの?
どうして教えてくれないの?

「多分、もうここには戻ってこないと思う。」

アタシは?
アタシはどうすればいいの?

「ずっと、君の側にいたかった。」

どうして?
そんなに簡単に諦められるものなの?

「僕にはもう時間がない。」

そんな。
ずっと一緒にいようって約束したじゃない。

「だから。もう、今日で終わりにしよう。」

終わりって…
本当なの?
もうアタシ達は終わりなの?

「…」

ねぇ、答えて。
答えてよ。
行かないで。
アタシを一人にしないで。

「シンジ君が君を…」

何のこと?
シンちゃんがなんなの?

そして、彼はいなくなってしまった。
 

レイはじっとシンジの瞳を見つめる。
その瞳が潤んで揺れる。
そして、涙が頬を伝う。
シンジの顔に微笑みかけるレイ。
泣き笑いのような顔になる。

「やっぱり…だめ…ね…」

「レイ…」

顔を伏せるレイ。
髪がふわりと顔を覆う。
涙が床に小さなしみを作る。

「…やっぱり…思い出しちゃうんだ…アイツのこと。」

だって、アタシが好きな人だったから。
ずっと一緒にいたいと思っていた人だから。
アタシのこと一番好きだって言ってくれた人だから。
いつもアタシを見ていてくれた人だから。
だから…
だから…

「どうして…忘れられないんだろ?
どうして…こんなに…苦しんだろ?」

「…」

レイはちいさな震える声でささやいた。

「…お願いがあるの…」

「お願い…」

「アイツのこと…忘れさせて…
もしアタシのこと大切に思っていてくれるのなら…
幼なじみでもいいの…
少しでもアタシのこと思っていてくれるのなら…」

「…」

レイは自分の肩を寒そうに抱く。

「ごめん…ね。逃げてると思われるかもしれないけど、
このままじゃアタシ壊れちゃいそうなの…
だから…だから…シンちゃんに…」

潤んだ瞳でシンジを見つめるレイ。
その瞳からまた涙が零れ頬を伝う。
ゆっくりと手を差し伸べ、レイの涙をぬぐうシンジ。
僕は…
レイのこと…
シンジは瞳を閉じためいきをつく。
どうすればいい?
彼女を拒んだ方が良いのか?
それとも受け入れた方が良いのか?
僕にはもう…
どちらがいいのか…
わからない…

「…」

シンジはゆっくりとレイの肩を抱く。
レイはシンジに抱かれると胸に頭を寄せる。
髪を優しくなでるシンジ。

「ありがと…」

レイは小さく息を吐き瞳を閉じる。

「シンちゃんの心臓の音が聞こえる。」

レイがそうささやく。
まるで小さな子供だ。
行き場をなくして震えている。

「ねぇ…シンジ。」

「なに?」

「今日は離さないで…このままぎゅっと抱きしめてて。」

「…わかった。」

シンジはレイをゆっくりと抱えあげてベッドの上に導く。
レイは逆らわずにシンジに体を預けている。

「明かりどうする?」

「消して…」

明かりを消すシンジ。
闇が部屋を包む。
カーテン越しに月の光が部屋を薄く浮かび上がらせる。
見つめ合う二人。

「こうしないと…」

レイが顔を寄せる。

「顔が見えないよ…」

「そう?」

「そうよ…」

窓から風が吹き込む。
カーテンが捲れあがる。
月明かりで浮かび上がった二つのシルエットが一つに重なった。
 
 


NEXT
ver.-1.00 1998_03/15公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

どもTIMEです。

TimeCapsule第13話「あの人のこと」です。

あああああああああぁぁぁ。
まずい、非常にまずいですね。
こりゃ、まずい。
本当にまずい。
何がまずいって、書いてる本人もここまで行くとは思っていなかったのがまずい。(^^;
#じゃあ、直せよって話も。

二人はどうなってしまったのでしょうか。
次回の公開はすぐですのでお楽しみに

では次回、第14話「それはとても晴れた日で」でお会いしましょう。
 






 TIMEさんの『Time Capsule』第13話、公開です。






 いーけないんだぁ

 シンジ君、、、君はそういうことをする人だったのね(爆)



 いやぁ
 難しい状況に置かれてしまったシンジ君です。。


 拒むも大変。
 受けるも大変。


 上手くやる器用さがないシンジ君だし、
 こりは・・・


 大丈夫なのか!?



 ”あの人”もこの先絡みそうだし、
 絡まる絡まるぅぅ





 さあ、訪問者の皆さん。
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