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二人は露天風呂に入り、並んで座っていた。
獅子をかたちどった像の口から、
こぽこぽと温泉が流れ出ている。
温泉に浸かっている限りはそれほど寒さを感じないが、
気温はかなり低いため、湯気がもうもうと立ち上がっている。
温泉には二人以外誰もいなかった。
もう夜中の一時過ぎであるから、
二人だけというのも当たり前かも知れない。
空を見上げると、冬の星座が立ちのぼる湯気に見え隠れしている。
さすがに山奥に来ると、空気が澄んでいて、
街中では見えないような星も見える。
彼は隣に座っている彼女を見た。
彼女は左手で体を包み込んでいるタオルを押えている。
その下には・・
彼は慌てて視線をそらし、想像するのをやめた。
今そんなことを考えては非常にまずい。
彼女の頬は赤く染まっているが、
それが温泉によるものなのか、
それとも羞恥心によるものなのか、
彼にはわからなかった。
もちろんその両方であろうが、
今の彼にはそれを深く考える余裕はなかった。
何を話そうか。彼がもう一度空を見上げ、考えていると。
そっと、彼の手に彼女の右手が添えられる。
どきりとして、慌てて彼女の方を見る。
彼女はやさしく微笑みかける。
木漏れ日のような暖かい笑顔。
彼女の顔は上気しているが、それがとてもきれいにみえた。
彼もにっこり微笑んだ。
二人は黙って、しかし、お互いの存在を感じながらそこにいた。
 

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Sweet-Dreams 第九章 「星降る夜に」
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「あっ、雪だ。」
レイは雪に触れようとする。
「うーん。空は晴れてるのに。」
シンジは不思議そうに空を見上げて言う。
「ほら、旅館の人が、近くの山に降った雪が
風で飛ばされて来るって言ってたじゃない。」
レイはにっこり微笑む。
雪はちらちらと降って来ているが、積もりそうな程ではない。
温泉が獅子の口から流れ落ちる音以外何も聞こえなかった。
「そうか。そう言ってたね。」
シンジもレイの顔を見て微笑む。
ときおり吹き抜ける風が温泉から
立ち上っている湯気を連れ去っていく。
もうどれくらいこうしているのだろうか?
一時間?それとも十分?
二人は長いようでいて短い時間を共有していた。

「・・ねぇ、シンちゃん。」
レイは少し恥ずかしそうにうつむきシンジに話かける。
「うん?」
レイの髪に雪が落ちて来たが、あっという間に溶けてしまう
「・・アスカにバレてるかな?」
シンジは視線を前に向けた。
視線の先には竹でできた柵があり、
外からこちらが見えないようになっている。
しかし、四方柵で囲まれているわけでなく、
シンジの右側には大きな岩があり、
外からの視界を遮っている。
また二人の背後には小さな小屋があり、
ここが脱衣所になっていた。
「うーん。多分バレてるんじゃないかな?」
シンジは肩をすくめた。
「ということは・・・」
「・・・あまり、部屋に戻りたい気分じゃないね。」
シンジは身震いする。
シンジとレイがこの露天風呂で鉢合わせしたのはただの偶然だが、
アスカがそれを偶然と認めてくれるか、二人には自信はなかった。
「・・ふう。」
レイが小さくため息をつく。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない。」
レイが首を振って、慌てて答える。
「・・でも、来てよかったね。」
シンジが腕を上げて、伸びをしながら言う。
「そうね。すっごくいい所ね。」
レイは周りを見回す。
シンジ達は冬休みにこの温泉に三泊四日で旅行に来ていた。
メンバーはいつものごとくで、シンジ、ケンスケ、トウジ、
アスカ、レイ、ヒカリ、ミカである。
「こういう所でお酒を飲むとおいしいのかな?」
レイは空を見上げながら言った。
「でも、すぐ酔っ払っちゃうよ。」
シンジは首をかしげて答える。
「そうかな。」
「そうだよ。レイはすぐ寝ちゃうし。」
シンジは以前、みんなで花見をした時のことを思い出しながら言う。
「それは言わないで。」
レイは恥ずかしそうにうつむきながら答える。
この花見の時、レイはコップ一杯の日本酒で
酔いつぶれて寝てしまったのである。
「まぁ、あの時はみんなすごかったから。」
シンジはくすりと微笑む。

「さて、明日はスキーだね。」
話題を変えようとシンジはレイに明日の話をする。
温泉の周りに立っている木が風でざわめく。
少し風が強くなったようだ。
「あたしスキー初めてなんだ。」
レイは相変わらず体に巻き付けたタオルを押さえながら話す。
「へぇ、そうなんだ。」
シンジは両手を温泉の縁にかけて、空を見上げる。
やはり、立ち上る湯気のために星はまばらに見えた。
「シンちゃんは?」
なるべくレイの顔だけを見ようと意識しながら
シンジはレイの方を向く。
雪はちらほらと降って来ては、
シンジの髪やレイの肩に落ちすぐ溶けてしまう。
「僕はもう三回目かな?」
シンジは思い出すように温泉が
湧き出てくる獅子を見つめながら答える。
「そうなんだ。結構滑れるほう?」
少し首をかしげたため、レイの髪の先が温泉につかってしまう。
「うーん。人並みにはね。」
実はアスカの特訓のおかげである。
あの時は死ぬかと思ったよな。
その時の事を思い出すシンジ。
「いいなぁ。」
レイは少し濡れた髪を触ると、それをかきあげた。
髪は濡れないようにポニーテールで結んでおいたのだが、
どうしても、短い髪がこぼれてしまう。
レイのそんなしぐさをかわいいと感じながら、シンジは答える。
「僕でよかったら教えるよ。」
「そう?ありがと。」
シンジの方を向きにっこりと微笑むレイ。

「・・・さっきも聞いたけど。」
ちらりとシンジを見るレイ。
「うん。」
シンジが不思議そうにレイを見る。
「ほんとにアタシが入ってるの知らなかったの?」
シンジは目を見開いて首を上下に振る。
「し、知らなかったよ。まさかこんな時間にレイがいるだなんて。」
この温泉には露天風呂が三つある。
男性用、女性用、混浴である。
シンジは時間が遅いので混浴の方を見てみようと思い、
特に深く考えずに混浴に入ったのだが、
そこにはレイがすでにいたのであった。
「ほんと?」
レイがシンジの方に身を乗り出して、顔を覗き込む。
「ほんとに。」
シンジは迫ってくるレイから、
離れようとして体を動かし、顔を背ける。
レイの髪からシャンプーの香りが少しした。
「んー。どうして逃げるのかな?」
レイが顔をしかめて聞く。
さらにシンジににじり寄るレイ。
「な、なんでもないよ。」
シンジはさらに後ずさりをする。
これ以上近くにこられたらマズいよ。
シンジは心中そう叫ぶが、もちろんレイに届くわけもない。
「・・やっぱり怪しい。」
レイはさらにシンジに近づこうとして。
「・・きゃあ!」
滑ってシンジに抱きついてしまった。
「・・うわっ!」
慌ててレイを抱きとめるシンジ。
その時、レイの体を包んでいたバスタオルがはらりとはだける。
「・・!!]
「えっ・・」
一瞬固まる二人。
ひときわ強い風が吹き、温泉の湯気が吹き消される。
「・・ご、ごめん。」
慌てて、顔を背ける向こう側を向くシンジ。
「・・・」
レイは呆然としている。
「後ろ向いてるから、バスタオル、ちゃんとつけて。」
「・・・う、うん。」
レイはバスタオルを体に巻く。
どうしよ。
シンちゃんに見られちゃった。
どうしよー。
心臓がばくばくいってるよ。
もう壊れちゃいそう。
恥ずかしいよ。
レイはきゅっと両手を握り締めた。
シンジも顔を真っ赤にしている。
見ちゃった。
見るつもりなかったんだけど。
どうしよ。
まずいよ。
何て言って謝ろう?
事故だったのは確かだけど・・・
しばらく沈黙する二人。
「・・ね、見たの?」
レイがおそるおそるシンジに聞く。
シンジがちらりレイの方を振り向きこくんとうなずく。
「・・・ごめん。見るつもりはなかったんだけど。」
レイが小さくため息を吐く。
「・・そう、しょうがないよ、事故だもん。」
レイは小さくうなずきながら言った。
「・・ほんとにごめん。」
シンジは向こう側を向いたまま答える。
「いいよ。アタシも悪いんだし。それに・・」
「それに?」
「ううん。なんでもない。温泉から出るから、もう少しむこう向いててね。」
「うん。わかった。」
レイは温泉からあがり、脱衣所に歩いていく。
シンちゃんだから別にいいよ。
なんて言ったらどうするのかな?
レイはそう考えていた。
「・・ふう。」
レイが脱衣所に入るのを確認して、
シンジは脱力して座り込む。
「まずかったなぁ。」
シンジは小さくつぶやく。
まさかレイの裸を見ることになるなんて。
でも、すごくきれいだったな。
などとシンジが考えていると。
「ねぇ、シンちゃん。」
脱衣所からレイが顔を出している。
「な、何かな?」
慌てて振り向くシンジ。
「部屋まで一緒に帰る?そうだったらアタシ外で待ってるから。」
「そ、そうだね。僕もすぐ着替えるよ。」
少し声がうわずっていた。
「アタシ、髪乾かさないと。」
先ほどの騒ぎでレイの髪は半分ほど濡れてしまっている。
「そう?じゃあ、準備できたら、脱衣所の壁たたいてよ。」
「うん。わかった。」

一、二分ほど待って小さくため息を吐くと
シンジは男性用の脱衣所に向かう。
脱衣所は暖かかった。
温泉から出て来たばかりでは少し暑いぐらいだが、
温泉に入りに来た時にはちょうどいい暖かさである。
紺の浴衣を身につけ、髪を乾かすシンジ。
レイもそうだが、シンジも髪を少し濡らしてしまった。
さて、どうしようかと考えた時に、壁がコンコンと鳴る。
「シンちゃん、出るけどー。」
「うん。わかったー。」
答えて、シンジは外に出る。
そこにはやはり同じ紺の浴衣を身につけたレイがいた。
そいえば、以前レイと花火見に行った時にレイの浴衣姿見たなぁ。
なつかしそうにレイの浴衣姿を見つめるシンジ。
「行こう。」
レイは少し恥ずかしそうにシンジに言った。
意識しないようにしたかったのだが、 つい、うつむいてしまう。
「・・そうだね。」
この露天風呂からシンジ達が泊まっている別館までは、
歩いて一、二分程である。
二人の下駄の音だけがあたりに響く。
別館に帰るには途中、橋を渡らなければならない。

その橋に来た時にレイが空を見上げて立ち止まる。
それまでの道は木々に遮られ、空がよく見えなかった。
「すごくきれいね。」
シンジも橋の真ん中で立ち止まり、同じように空を見上げる。
「そうだね。」
そこには満天の星空があった。
空にこれほどの星が輝いていたとは
シンジとレイは知らなかった。
「まるで、降ってきそう。」
レイはため息をつきそう言った。
シンジもうなずく。
きらきらと瞬くオリオン座の近くで流星が光る。
「見た?」
シンジがレイの方を見て聞く。
「流星ね。」
その目の前を雪が落ちていく。
「あれ、また降って来たね。」
シンジは空を見上げた。
空は晴れているが、雪は降ってきている。
ふとシンジはレイを見る。
と、一陣の強い風が吹き、木々に積もっていた雪がどさどさと落ちる。
「きゃー!!」
その音に驚いたレイがシンジに抱きつく。
慌てて、レイを抱きとめるシンジ。
「大丈夫だよ、雪が落ちただけだから。」
シンジはレイの顔を覗き込むように聞く。
レイはうつむいたまま、こくりとうなずく。
レイから離れようとしたシンジ。
しかしレイはしがみついて離れない。
「おねがい・・」
レイが小さな声でつぶやく。
「えっ?」
シンジは耳を寄せる。
「おねがい、もう少しこのままで・・・」
シンジの耳に囁くレイ。
「う、うん。」
シンジは両手をレイの腰に回して抱きしめる。
レイは両手をシンジの胸に当て、顔を埋めている。
レイの髪から甘いシャンプーの香りがした。
抱き合う二人の周りに雪はゆっくりと降ってくる。

「ねぇ。」
「うん?」
シンジはレイを抱いたまま答えた。
「シンちゃんに聞きたいことがあるんだけど。」
「うん。」
少し間を置いてレイは聞いた。
「・・・シンちゃんは、アタシのことどう思ってくれてるの?」
シンジは心臓がひときわ強く打ったのを感じた。
「・・・どうって?」
「アタシはただの友達?それとも・・」
語尾はかすれてしまいシンジには聞き取れなかった。
「・・・・」
「どうしてもシンちゃんの気持ちを知りたいの。」
顔を上げるレイ。
その瞳はシンジを見つめていた。
「・・どうしても?」
「・・・そう。」
しばらく沈黙するシンジ、そして決心したように答える。
「・・・僕は・・レイのこと・・好きだよ・」
とぎれとぎれに、しかしはっきりとシンジは答えた。
「友達として?」
少し寂しそうにレイは聞く。
「それよりも・・もう少し強い・・好きだよ。」
「・・そう・・嬉しい。」
シンジの浴衣を握り締めて、レイはうつむいて言った。
「でも・・」
「アスカも好きなんだよね。」
シンジの言葉にかぶせるようにレイは言った。
「・・・うん。」
シンジはゆっくりとうなずいた。
「わかってる。でも、アタシの事も好きでいてくれるんだよね。」
「うん。わがままだと思うけど。」
「・・そうだね。」
それまでうつむいていたレイが急に顔を上げる。
レイの瞳は夜の空を映していた。
そのままレイは目を閉じて、背伸びをして、シンジとキスする。
レイは唇を離し、にっこり微笑み、シンジに言う。
「とりあえず、今日のところはこれで我慢するね。
・・でも、ちゃんと答えだしてね。アタシ、待ってるから。」
「・・・」
するり、とシンジの腕の中から抜け出し、シンジの左腕を取るレイ。
「さぁ、早く帰りましょ。せっかく温泉に入ったのにさめちゃう。」
シンジににっこりと微笑みかけるレイ。
「・・・うん。」
シンジはうなずいた。
二人は部屋に向かって歩き出した。




NEXT
ver.-1.00 1998+02/01公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jpまで!!

あとがき

ども、作者のTIMEです。

Sweet-Dreams第九章「星降る夜に」はいかがだったでしょうか。

SSでレイなお話を書いてる影響がモロ出てますね。(^^;;
この話には後半があったんですが、
どーもまとまらなかったので
カットしました。
#ちょっと危なかったし。(^^;;

さて、次回ですが、当初の予定では最終章だったのですが、
終らせるかどうか、迷ってます。
内容は当初公開する予定だったエピソードの
一部分を抜き出して構成したものにする予定です。
結構ネタばれになるかもしれませんがお楽しみに。

では第十章「罪と罰」でお会いしましょう。


 TIMEさんの『Sweet-Dreams』第九章、公開です。


 

 温泉・・・いいですよね・・・行きたいなぁ
 

 雪降る夜、
 立ち上る湯煙・・・

 行きたいなぁ

 混浴、
 可愛い娘、

 行きたいなぁ(^^;

 落ちるタオル、
 キス、

 い、い、行きたいなぁ (;;)
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 感想メールをTIMEさんに!!


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