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彼女はベッドに横になって、その曲を聞いていた。
「そうそう、こんな曲だった。」
彼女は流れている曲を聞き、うなずく。
急に今まで忘れていた、
母との思い出が鮮明に浮かび上がってきて、
彼女は自分の目に手を当てる
「あれ、私どうして泣いてるの?」
そして、彼女は腕を目に当ててつぶやく。
「お母さんに会いたいな。」
 

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Sweet-Dreams 第七章 「結成」
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「バンドってまたぁ?」
シンジは声を上げた。
第三新東京中学。
学園祭を一ヶ月後に控えたこの日、
トウジはシンジとケンスケにある提案を持ちかけた。
「そうや、今年は軽音が野外ライブやるそうやから、それに参加せんか?」
「うーん。ま、俺は暇だからいいけど。」
ケンスケは別段嫌がらずにOKを出す。
特にしたいこともなかったからである。
「うーん。今年も?」
シンジは少しためらう。
「そう言わんと、センセ。」
どうせ、結局は参加することになるんだからとあきらめるシンジ。
「しかたないなぁ。で、今年は何やるの?」
シンジは気を取り直して、トウジに聞く。
「それを探すのはシンジの仕事だな。」
脇からケンスケがきっぱり言う。
それにうなずくトウジ。
「やっぱり。まぁ、今年は去年よりは難しい曲も
できるだろうから、少しは選曲は楽かな。」
さて、構成がギター、ベース、ドラムだからな。
やれる曲が限定されるんだよな。
「やっぱり問題はヴォーカルだな。」
ケンスケが腕を組んで言う。
「去年は委員長だったけど、今年もやってくれるかどうか。」
「まぁ、頼んでみようよ。」

「うーん。今年はちょっと無理そうなの。学祭の執行委員になってるから。」
手を顔を当ててしまったぁという顔をするトウジ。
「あちゃぁ、そりゃまずいな。」
シンジもうなずく。
「そうだね。それじゃしかたないね。」
ヒカリは申し訳なさそうにトウジに言う。
今日ほど委員長をやっていて損をしたと思う日はないだろう。
「ごめんなさい。」
「まぁ、いいわ。ほな、仕事がばってや。」
シンジ達は話し合う。
「さあて、どうしようか?」
ケンスケが二人を見る。
「こうなったら、惣流に頼むしかないか。」
トウジが言う。
「うーん。どうかなぁ。」
シンジが腕を組んで考える。
「まぁ、とにかく、惣流の件はセンセに一任や。
軽音の方は学祭の二週間前までに申し込めばいいらしいから、
それまでに誰にするか決めとかんと。」
「アスカしか選択肢はないの?」
シンジは二人に聞く。
「もちろん他にあてがあるのなら、いいけど、
惣流以外にそんな知合いいるのか?」
にやりと笑うケンスケ。メガネが光る。
「わかったよ。もう仕方ないなぁ。」
なんだかんだ言って、面倒なことは全部
僕がやらないといけないんだよな。
 

山岸マユミは図書館で暖かい日差しを浴びながら、
小説を読んでいた。
昼休み、マユミはこうして時間を過ごす。
教室で他の女の子とおしゃべりする時もあるが、
ほとんどはこうして、本を読んでいる。
休み時間にクラスにいないこともあり、
あまりクラスでは目立つ存在ではない。
しかし、アスカとヒカリとは仲はいいほうだ。
以前、アスカが料理を勉強する、と言いだした時にマユミも
母親がいないせいで、家事一般を取り仕切っていたため、
アスカに頼まれ、ヒカリと一緒にアスカに料理を教えたのがきっかけだ。
特にヒカリとは立場が同じなので、よく家事の話をしたりする。
「色気がないわね。」と二人で笑い合うのだが。
さて、そろそろ今日借りてく分を探してかないと。
マユミは立ち上がり、文庫本が揃っている棚に行く。
 

「えーっと、どこにあるんだろ?」
シンジは図書館の本棚をきょろきょろと見回しながら、
何かを探している。
宿題を忘れてきた罰として、先生からこの本を読むようにと、
指定された本を探している。
「うーん。このあたりだと思うんだけどなぁ。」
しかし目当ての本は見つからないようだ。
首をかしげながら棚のひとつひとつを見ていくシンジ。
ふいに反対側の棚に向かって、本を読んでいた女の子とぶつかる。
「あっ、ごめん。」
「いえ、こちらこそ。」
シンジは女の子を見て、笑みをもらす。
「ああ、山岸さん。」
「碇君、どうしたのこんなとこで?」
シンジは事情を話す。
「あ、そうだったわね、その分野だったら、こっちだと思うよ。」
マユミはシンジを右隣の棚に連れていく。
「あ、ほんとだここにある。」
シンジは棚を見渡して、本を見つけだす。
「ありがと。助かったよ。」
「どういたしまして。」
マユミはにっこり笑って答える。
「山岸さんって休み時間いつもここにいるの?」
「うん。本読むの好きだから。」
「そうなんだ。」
微笑み会う二人。
カウンターに行き、二人はそれぞれ貸し出し手続きをする。
「あれ、山岸さんも何か借りるの?」
シンジはマユミが持っている本を見る。
「うん。今日帰ってから読もうかと思って。」
マユミは三冊ほど文庫本を持っていた。
二人は話をしながら、教室へ向かった。
 

「ねぇ、今日は、シンジ週番だっけ?」
教科書を鞄につめているシンジにアスカが聞く。
「うん。そうだよ、だからアスカは先に帰ってて。」
首をかしげて考えていたアスカだったが、
「うーん。そうね、そうするわ。」
と答え、教室から出ていく。
シンジは教室の中を見まわしてみんな帰ったのを確認してマユミに話しかける。
「山岸さん。そろそろ始めよっか?」
自分の机でなにか小説を読んでいたマユミは顔を上げて答える。
「うん。そうしましょうか。」
「じゃあ、僕はゴミ捨ててくるから、日誌書くのやっておいてくれる?」
「わかったわ。」
シンジはゴミ箱を二つ抱えて、教室を出ていく。
マユミは日誌に必要事項を記入する。
そして、机を整頓する。
ふと、マユミは窓から、外を見る。
夕日が山影に消えていくのが見えた。
校庭では運動部の生徒が元気にクラブ活動をしている。
どこからか、ブラスバンドの部員が練習しているのも聞こえる。
マユミは机に座り、ある曲を小さく歌い始めた。
その曲はまだマユミの母親が生きていた頃、
マユミに歌って聞かせていた曲だった。
もうほとんど忘れているが、それでも、
サビらしき部分は覚えていた。
マユミは母親を思う時、必ずこの曲を思い出すのであった。
 

シンジは空になったゴミ箱を抱えて教室に戻って来た。
教室のドアの前に立つシンジ。
ドアを開けようと手を伸ばし、その手を止める。
誰かが歌っている。
どこかで聞いたことがある曲だ。
そう遠い過去に聞いた気がする。
いつだっただろ?
シンジはそう思いながら、ドアを開ける。
教室にはマユミが机に座って外を眺めていた。
「あ、碇君。」
「今、歌ってたの山岸さん?」
シンジはゴミ箱を置いて、マユミに聞く。
「え、うん。そうだけど。」
マユミは恥ずかしそうにうつむく。
「その曲ってすごく昔の曲のような気がするんだけど。」
「そう。アタシのお母さんが大好きだったの。」
シンジはうなずく。
「そうなんだ。僕もどこかで聞いた気がするんだけど。」
「えっ、碇君知ってるの?」
驚いた表情のマユミ。
「うん。なんとなく聞いた気がするなって。
すごく昔のような気がするんだけど。」
シンジは何かを思い出そうとするように遠くを見つめる目で言う。
「ねぇ、この曲のタイトルって知ってる?」
首を振って答えるシンジ。
「えっ、いや、そこまでは知らないけど。でも、どうして?」
「アタシ、この曲のタイトルとか全然知らないから。
知っているのは曲の一部分だけなの。」
「でも、お母さんに聞けば。」
うつむくマユミ。
「お母さん、アタシが七歳の時に病気で死んじゃったの。」
慌てて謝るシンジ。
「あ、ごめん。」
「うん。いいの。で、お母さんのこと考えると、
いつもこの曲のことが思い浮かぶの。」
「そうか、じゃあ、一度うちの親に聞いてみようか?」
「いいの?」
「僕も覚えてるってことは、父さんはともかく、
母さんが好きだったとかかもしれないし。」
「そうね、じゃ、お願いするね。」
「うん。わかった。」
二人は微笑みあった。
 

「ねぇ、母さんにちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
シンジは家に帰ってくるなりキッチンで夕飯の支度をしている
ユイに話かける。
「どうしたの、帰ってくるなり。」
不思議そうな顔をしてシンジの方に振り返るユイ。
「昔の曲なんだけど。」
シンジはそう言い。マユミから教えて貰った歌を歌う。
「この曲のタイトルとか知ってる?」
ユイは少し考えて答える。
「ちょっと待ってて。」
ユイは部屋に行き、しばらく、一枚のMDと
ほこりの被ったMDプレイヤーを持ってくる。
「これに入ってると思うんだけど。」
そして、MDを再生し始める。
「うん。たぶんこの曲よ。」
スピーカーからはスローバラードが流れてくる。
女性のヴォーカルが歌詞を悲しげに歌い上げている。
「よくわかったね。」
「それは、そうよ。お父さんがお母さんにプロポーズした時に
かかってた曲だから。」
「ええっ!」
シンジは驚く。
「何よ、そんなに驚かなくってもいいじゃない。」
ユイは微笑みながら答える。
「それはそうだけど。」
「で、この曲がどうしたの?」
「実は・・」
シンジは一部始終を話す。
「そうなの。じゃあ、何かに落として、渡してあげたらどうかしら。」
「そうだね。DVDにでも落すよ。」
シンジは嬉しそうにプレイヤーを持って部屋に行く。

「ええっ、これに入ってるの?」
朝、始業前の教室。
シンジは昨日録ったDVDをマユミに渡す。
シンジからDVDを受けとって、マユミは驚く。
「うん。なんか母さんが持ってて、それをこれに落したんだ。」
シンジは照れて答える。
「ありがと。早速聞いてみるね。」
そのマユミを見て、意を決したようにシンジは聞く。
「ところで、ちょっと相談があるんだけど。」
「何?」
不思議そうにシンジを見るマユミ。
「今度の学祭で僕達バンドやるんだけど。」
マユミはどういう話か検討がついてないらしく慎重に答える。
「うん。去年、碇君達やったよね。今年もやるの?」
「そう、それで、今年はこの曲やりたいんだけど。」
「えっ、そうなんだ。」
嬉しそうに答えるマユミ。
元曲も聞きたいが、シンジ達のバンドでも聞いてみたい。
去年はヒカリちゃんがヴォーカルやってたけど、
今年はヒカリちゃんは学祭執行委員だし、誰がやるのかな。
そう、のんきに考えていたマユミだったが。
「で、ヴォーカルを山岸さんにやって貰いたいんだ。」
そのシンジの言葉を聞き、驚いて目を見開く。
「わ、私が?」
「ダメかな?」
シンジは上目使いでマユミを見る。
「うーん。どうしよ。そんなに自信ないんだけど。」
まさか自分に話が来るとは思っていなかったので、動揺するマユミ。
昨日碇君に歌ってるの聞かれちゃったからかな。
少し後悔したマユミだったが、それでも、
自分を選んでくれたのは嬉しい。
「どーしても嫌ならいいんだけど。」
シンジは手をふるふる振って言う。
「うーん。少しだけ考えさせてくれる?」
マユミは首をかしげて、シンジに言う。
「うん。いいよ。」
 

放課後、帰る支度をしているシンジにケンスケが寄ってくる。
ちなみにトウジは週番で、逃げ出さないようにヒカリに捕まっている。
「シンジ。どうだ惣流の方は?」
シンジは軽く左右に首を振って答える。
「うん。それなんだけど、今回はアスカじゃなくて、
他の子に頼もうと思うんだけど。」
おもしろそうにシンジに聞くケンスケ。
「いったい誰なんだ。」
「まだ、OKもらってないから、取れてから教えるよ。」
「そうかぁ、で、曲の方は?」
「うん。いま、楽譜に落してるんだけど。結構難しいんで、
主線だけにして後は適当にアレンジしようかなって。」
ケンスケは腕を組んで答える。
「ふーん。楽譜に落すってことは、結構昔の曲か?」
「そうだね、まぁ、十五年以上前の曲だけどね。」
「へぇ、そんなに前なんだ。へたすると俺たちが生まれる
前の曲なんだな。」
シンジはトウジの方を見ながら話す。
トウジはヒカリとアスカと何か話しているようだ。
「そうだね、で、確か割り当て二曲だよね。
一曲はバラードで行こうと思うんだ。」
ケンスケもトウジの方を見て答える。
「で、もう一曲は?」
「今、探してるところ、まぁ、軽いので行こうかなって。」
「そうか。」
「で、トウジはアコースティックで僕がストリングベースを使うと。」
視線をケンスケに戻すシンジ。
「今のところはそんな感じかな。」
少し肩をすくめるシンジ。
「そうか。」
うなずくケンスケ。
 

「ねぇ、今年もバンドやるんですって?さっき鈴原に聞いたわよ。」
アスカは隣を歩くシンジに向かって話す。
「うん。そうなんだよ。今年は軽音が野外ライブやるとかで。」
少し肩をすくめるシンジ。
「ねぇ、ヴォーカルは誰にするの?ヒカリは学祭執行委員でしょ。」
アスカはシンジをのぞき込む。
「うん。もう頼んであるんだけど、OK待ちなんだ。」
アスカは不思議そうにシンジに聞く。
てっきりアタシに泣きつくのかと思ったのに。
感心半分、嫉妬半分でアスカはそう考えた。
「えっ、誰なのその子。」
「OK貰ってから教えるよ。もしかすると、断られるかもしれないし。」
「そ、そうなの。」
シンジは何かを思いついたように指を鳴らして、
アスカに勢い込んで聞く。
「そうだ、割当てが二曲あるんだけど、一曲アスカも歌わない?」
「別にいいわ。アタシは別のことで忙しいし。」
さそってくれるのを嬉しいと感じながら、
でも、そんなそぶりを見せずにさらっとアスカは断る。
「あ、ミス三中ね。」
シンジは納得したようにうなずく。
「そう、今年も出ないとね。」
「今年も優勝狙うの?」
「あたりまえでしょ。アタシの存在をアピールするいい機会じゃない。」
「はいはい。」
 

翌日の朝、シンジが学校にやってくると、
すでに来ていたマユミがシンジの元へとやってくる。
シンジを見てにっこりと微笑むマユミ。
「あのね、碇君。昨日の返事なんだけど、
私でよければ、やってもいいよ。」
シンジは嬉しそうにマユミの手を取る。
「ほんと、ありがと。」
マユミは少し頬を赤らめて聞く。
「で、どうすればいいのかな?」
シンジはマユミの手を握ったまま興奮して言う。
「とりあえず、今週の週末にスタジオ借りてるから、
そこで、練習しようって予定なんだけど。」
少し驚いたように聞き返すマユミ。
「えっ、スタジオって・・」
「そんなに大したことないよ。トウジにギターを教えてくれている
楽器屋の店長さんが、ついでにやってるところだから。」
「そうなんだ。」
「うん。」
「あの、ところで・・」
マユミは赤くなったまま、うつむいてシンジに言う。
「何?」
不思議そうにマユミを見つめるシンジ。
「手を離してくれる?」
シンジは自分の手を見て・・
「え・・・ごめん!」
慌てて手を離すシンジ。

授業が始まって、マユミは窓の外をぼおっと眺めていた。
碇君に手を握られちゃった。
男の子にああやって、手を握られたの初めてだな。
マユミは自分の手を見つめる。
そっと、何人か前に座っているシンジを見つめる。
どうしたんだろ。何か碇君のことが気になっちゃうな。
少し胸がどきどきする。
ううん。気のせいよね。ちょっと手を握られて動揺してるだけ。
なんでもないの。なんでも。
 

土曜日の午後、シンジはマユミと待ち合わせをした。
スタジオ近くの公園でシンジはマユミを待っていた。
「おはよ、碇君。」
マユミが少し慌ててやってくる。
「あ、おはよう、山岸さん。」
「ごめんなさい。時間、大丈夫?」
実は服を選んでいるうちに家を出る時刻を過ぎていたのだった。
「うん。大丈夫だよ。ここから五分もかからないし。」
シンジはにっこり微笑んで答える。
「ならいいんだけど。」
ふうと、大きく深呼吸するマユミ。
「じゃ、行こうか?」
「どう曲の方は?」
「うん。とりあえずトウジとケンスケには
デモディスクと楽譜を渡しておいたから、
一通りは演奏できると思うんだけど。」
「そう。」
シンジはマユミの方を向いて答える。
「で、そっちはどう?」
すこし、首をかしげるマユミ。
「うーん。一応歌詞は全部覚えたけど。」
うんうんうなずくシンジ。
「失恋の歌だから、結構それらしく歌うのは難しいかも。」
マユミもうなずく。
「そうなのよね。誰かにふられた直後だったら、いい感じでると思うんだけど。」
苦笑しながらシンジは答える。
「逆に感情こもり過ぎて恐いよ。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
にっこり微笑むマユミ。少し冗談めかして、シンジをからかう。
「へぇ、なんか経験が言わせてるみたいだよ。」
「そ、そんなことないよ。」
慌てて、首を振るシンジ。
「惣流さんに泣かされてるんじゃないの?」
さらに追求するマユミ。
「もう、山岸さんまでそんなこと言う。そんなんじゃないって。」
すっかりお手上げ状態のシンジ。
「そうなの。じゃあ、そういうことにしておくわね。」
 

スタジオに入ると、トウジが二人に声をかけてくる。
「シンジー、遅いぞ。」
ケンスケもドラムセットに座り練習をしていたようだ。
「そうだよ、こっちはもう準備はできてるぞ。」
シンジは二人の服を見て絶句する。
マユミはくすくす笑っている。
トウジは何か英語が殴り書きされて、ドクロが描かれているTシャツと
皮パン。ケンスケは迷彩服を着ている。
「・・あのね、その服なんとかならないの?」
「どーせ、本番では着れないんだからって。」
あきれた口調で楽器屋の店長が二人に話かける。
確かに去年は二人ともこの格好で出て、
観客をあっけに取ったものだ。
「あっ、店長さんおはようございます。」
店長はマユミを見て言う。
「あぁ、おはよう。この子かい?今回のヴォーカルは?」
「はい。そうです。」
マユミは店長に挨拶する。
「よろしくお願いします。店長さん。」
「別にそんなにかしこばらなくてもいいよ。」
ニヤリと笑う店長。
「早く準備しろよシンジ。」
ケンスケがドラムのスティックを打ち合せながら催促する。
「はいはい、わかったよ。」
シンジは床に寝かせてあったストリングベースを持ち上げる。
「すごい大きいね。」
マユミは感心したように言う。
「結構支えるのも大変なんだ。」
シンジは一本ずつ弦を弾きながら答える。
「始めるでー。」
トウジがアコースティックギターをかまえて言った。
 

「うーん。結構いい感じなんじゃない。」
演奏が終ると、店長が言う。
「そうだね、もっとまとまりがないかと思ったけど、
結構、これはこれでいいかな。」
シンジはベースに持たれかかるようにしながら三人を見る。
「まぁ、それぞれのミスをなくしていけば、
いい曲に仕上がるんじゃないかな?」
ケンスケは掛けていたタオルで汗を拭う。
「そうか。じゃ、曲はこれ以上いじらない方がいいですかね?」
シンジは店長に話かける。
「そうだね、今のままの方がいいと思うよ。」
店長もうなずく。
「じゃ、そうしよう。」
「・・で、もう一曲はどうするの?」
マユミはシンジに聞く。
「一応持ってきたんだけど。」
シンジは楽譜をみんなに配り始めた。
 

「どうだった?」
練習の帰り、シンジはマユミに感想を聞いた。
「思ってたより、ずっと楽しかった。」
マユミは嬉しそうにそう言った。
「そう?ヴォーカルにさそってよかったよ。」
シンジも嬉しそうに答える。
「うん。本当に感謝してる。」
シンジを見るマユミ。
その目は少しうるんでいた。
 

私、どうしたのかな?
髪をドライヤーで乾かしながら、
マユミは鏡の自分の顔を見つめていた。
なにか変なのよね。
碇君といると何かふわふわ浮かんでいるような感じで、
でも、すごくどきどきして。
なんなんだろ?
これってもしかして・・
ううん。そんなことないよね。私の思い過ごし。
それに碇君にはアスカちゃんがいるんだから。
にっこりと微笑むマユミ。
それにしても、碇君には感謝しないと。
今日の体験はすごく楽しかった。
何か私が私でないような感じで。
私、生まれ変われるような気がした。
そうだ、本番では髪型とか変えて、
コンタクトとか入れたら面白いかな。
服とかもどうしようかな?
曲が曲だし少しおとなしめがいいのかな?
いろいろ楽しそうに考えるマユミ
こうして、夜はふけていった。
 

学祭当日。
シンジ達はステージの脇で出番を待っていた。
トウジとケンスケがやってきてシンジとマユミに話す。
「今、代わったから、わいらは次やな。」
「どう?お客さんいっぱい来てる?」
不安そうに聞くマユミ。
髪はアップにしていて、
カラーコンタクトで真っ青な瞳をしている。
「あぁ、来てるよ。委員長と惣流なんか
最前列がぶりつき状態だぜ。」
苦笑して答えるシンジ。
「昨日のミスコンで優勝したからね。
今日は御機嫌だったよ、アスカは。」
「私達もがんばらないとね。」
にっこりと三人に微笑みかけるマユミ。
「そやな。いっちょ張り切っていくかぁ。」
トウジが嬉しそうに言う。
進行係がシンジ達を呼びに来る。
「次、お願いします。」
「よっしゃ、行くでー。」
トウジは張り切って飛び出す。
「たくもう、楽器の準備しないといけないだろ?」
ケンスケは両手を頭に組んですたすたと歩いていく。
「さぁ、僕らも行こうか?」
マユミはシンジの袖を掴み、シンジの耳元に囁やく。
「ねぇ、私をさそってくれてありがと。
すごく感謝してる。大好きだよ、碇君。」
マユミはシンジの頬に軽くキスをして駆けていく。
シンジは惚けたように、マユミを見つめていた。
その後、ステージで、シンジの右頬についている口紅を
見つけたアスカはシンジをシメるのであった。
 


NEXT
ver.-1.00 1997-12/30公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jpまで!!

あとがき

Sweet-Dreams第七章「結成」はいかがだったでしょうか?

どうも、書きたいことがはっきりしてなかったせいか、
まとまりのないものになったような気がします。

実際マユミはシンジのことをどう思っているんでしょうか?
また機会があれば書きたいと思っています。

今回から、セリフに色付けをしてみました。
次回以降もこのカタチでいく予定です。

さて、次回ですが、やはり予告通りに「はじめて」です。
第六章でもちらりと出てきていますが、
シンジとツカサの初デートのお話です。
ツカサはシンジに告白できるのか。
シンジはアスカ達の追跡に気づかず墓穴を掘るのか?
お楽しみに。

では、第八章のあとがきでお会いしましょう。
 


 TIMEさんの『Sweet-Dreams』第七章、公開です。
 

 

 バンドと言えば、
 アスカがヴォーカル!!

   百歩譲って
   ヒカリちゃん。

   さらに百歩譲って
   レイちゃん。

   さらに百歩譲って
   ミサトさん。

   さらに百歩譲って
   マナちゃん。

   さらに百歩譲って
   リツコさん。

   さらに・・・もういい?(^^;
 

 

 と思っていましたが、
 なんと!
 マユミちゃんとは!
 

 珍しいキャラを
 個性的なエピソードで書き上げられました〜(^^)
 

 シンジ、女殺し・・(爆)
 

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 様々な場面を書くTIMEさんに感想メールを送りましょう!


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