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------AD 2017 24 Feb------

その少女はきょろきょろ辺りを見回した。
誰もいないようだ。
そして、下駄箱をひとつひとつ確認し
目当ての人の下駄箱を見つけた。
少女は持っていた手紙をその中に入れ、
また辺りをきょろきょろ見回してから、
ほっとため息をつき、戻っていった。


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Sweet-Dreams 第五章「強敵」
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「ほら、起きなさいシンジ!!遅刻しちゃうわよ!!」
朝、碇家のシンジの部屋。
いつものことながら、アスカはシンジを起こそうとしている。
「うーん。もう五分。」
しかし、やはりシンジは起きようとしない。
「もう、いつもいつもこうなんだから。」
アスカはため息をつき、布団の端を持つと勢い良く剥ぎとる。
「うわっ、さ、寒いよ。アスカ。」
シンジはびっくりして丸くなる。
「もう、いいかげんに起きなさいよ。」
「うーん。アスカって、どうして朝からそんなに元気なの?」
シンジは眠そうに目をこすって起き上がる。
「朝だから元気がいいんじゃない。」
アスカはシンジに制服を渡す。
「もうちょっとやさしく起こせないの?」
シンジは背伸びをする。
「やさしくしても、シンジは起きないでしょ!!」
「なるほど、それはそうかも。」
「もう納得しないでよ。じゃ、アタシは外で待ってるから。」
シンジは服を着替え始めた。

「うわ、すごい雪だね。」
シンジは外に出ると、辺りを見渡して言った。
アスカは赤のロングコートに袖を通しながら答える。
「こんなに雪が降るのはひさしぶりね。」
マンションから出て、二人は並んで歩く。
車道の方は融雪剤が撒かれているのであろう、さほど
雪は積もっていなかったが、歩道の方はかなり積もっている。
さらに多くの人が歩いているせいで、踏み固められてしまって
かなり滑べりそうだ。
「結構滑べりそうだから気をつけて、アスカ。」
シンジが心配そうに聞く。
「・・うん。だいじょうぶだと・・きゃあ!!」
アスカは滑べってしまい、慌ててシンジに抱きつく。
「・・ふう。危なかったね。」
アスカがシンジの腕の中で顔を真っ赤にして答える。
「ごめん。もう平気だから。」
「そう、でも危ないから手は繋いでおくね。」
そうシンジは言い。アスカの右手を握る。
「いいよ。そんなことしなくても。」
「だめだよ。また転ぶかもしれないだろ。」
ためらうアスカ。
「でも。」
「いいから、早く行かないと遅刻しちゃうよ。」
「うん。わかった。」
二人は手を繋いで、歩き始める。
アスカは少し頬を染めて、うつむいている。
雪は少し小降りになってきているが、まだやむ気配はなさそうだ。
空を見上げると、厚い雲が広がってきている。
ふと顔をあげて、シンジに話しかけるアスカ。
「ねぇ、シンジ。」
「なに?」
「こうしてると、幼稚園の頃のこと思い出すね。」
アスカの方を見てにっこりと微笑むシンジ。
「そうだね。よく二人で一緒に帰ったね。」
「シンジはよく男の子にからかわれたよね。」
「そうそう。でもその度にアスカが追い払って。」
「あの頃からシンジってぼーっとしてたよね。」
「アスカだって男の子何人も泣かせてたよ。」
くすくす笑うアスカ。
「なんかアタシ達って、そのころから
あまり変わっていないのかしら。」
シンジも微笑む。
「そうかな。そうかもね。」

シンジは自分の下駄箱を開けて、驚いた。
自分のうわばきの上にかわいい封筒が置かれている。
それを手にとるシンジ。これはどう見ても・・・
背後からアスカが声をかける。
「どうしたの?シンジ。」
慌てて振り向き、シンジは答える。
「な、なんでもないよ。さ、い、行こうか。」
後半部分は声がうわずってしまった。
あやしそうにシンジを見るアスカ。
「アヤシイわね。何かアタシに隠しごとしてない?」
「う、ううん。何も、別に隠してないよ。」
目を細めて、睨むアスカ。
「ほんとに?」
「ほ、ほんとだよ。何を隠すっていうんだよ。」
アスカは腕を組む。
「そうね、もしかして、誰かからラブレターをもらったとか。」
シンジの心臓がきっかり一秒ほど止まる。
「ま、まさか、そんなことあるわけないよ。」
あっさりうなずくアスカ。
「それもそうね。そんなことあったら気象異常になるわね。
あ、でも今日はこんな天気だから、そういうこともあるかもね。」
も、もしかして、この天気は僕のせいなのか?
そんなことはあるはずもないのに、シンジは心配してしまった。
「まぁ、いいわ。とっとと行きましょ。授業が始まるわよ。」
アスカは興味をなくしたらしく、そう言うとスタスタ歩いて行ってしまう。
シンジは小さくため息をつくと、封筒を鞄の中にしまう。

シンジは一限目の授業中、机の中から、その封筒を出す。
裏を見てみると、I-B 生駒ツカサと書いてある。
シンジには誰のことかさっぱり心当たりがない。
封を切り、中に入っている紙を出し、読んでみる。
そこには可愛い字でこう書いてあった。

いきなりのお手紙でごめんなさい。
先日のお礼がしたいんです。
今日の放課後、青春の像の前で待ってます。

先日のお礼?
シンジには心あたりがまったくなかった。
腕を組んで考え込むシンジ。
ちなみに青春の像とは校内にある像で、
正式名称は走る少年である。
実はこの像太陽が沈む方角を向いているので、
夕日に向かって走る像、つまり青春の像と呼ばれている。

「あらぁ、シンジ君、ラブレターもらったんだぁ。」
シンジはびっくりして、横を見る。
そこには、にこやかな表情のミサトがいた。
「へぇ、シンジ君ってもてるのねぇ。
レイやアスカだけじゃないんだ、今度は誰なの?」
慌てて、シンジは答える。
「えっ、そんなんじゃないですよ。」
ミサトは嬉しそうに微笑む。
「もう、そんなに照れなくていいじゃないの。
ね、誰なのよ。もしかして下級生とか?
やっぱりシンちゃんも若くてピチピチしたほうがいいの?」
「だから、そんなんじゃないんですってば。」
ふと視線を感じてシンジは周りを見回してみる。
みんなの視線が痛い。特にアスカとレイが恐い。
「先生。授業を続けてください。」
ヒカリが立ち上がりミサトに言う。
ふう、とため息をつき、しぶしぶミサトは答える。
「もう、しょうがないわね。じゃ、続けるわよ。」
ミサトは授業を再開したが、みんなの視線はシンジに集中していた。
特にアスカとレイはずっとシンジを見つめていた。

授業後、ミサトが教室から出ていった瞬間、
どっと、シンジの周りに人が押し寄せる。
みんな口々にシンジに話しかけため、シンジは答えられない。
トウジ、ケンスケ、ヒカリは少し離れたところでその光景を見ていた。
「おい、惣流と綾波がいないで。何かたくらんでるな。」
「そうだな、あの二人が黙って見てるわけないもんな。」
「そうね。大事にならないといいけど。」
そう言うと三人はため息をつく。
一方アスカとレイは。
「ねぇ、アスカ。シンちゃんに手紙のこと、問いたださなくてもいいの?」
首をふるアスカ。
「たぶん、駄目よ。あたし達三人だけだったらともかく、
みんないるんですもの、絶対に教えてくれないわ。」
「そうなの?」
「えぇ、長年のつき合いでわかるわ。」
「じゃあ、どうするのよ。」
アスカは腕を組んであたりを歩き回る。
「多分、あの手紙を出したのは学内の生徒よ。で、
会うんだったら、放課後、人があまり来なさそうな所で会うと思うの。」
レイがうなずく。
「うんうん。それで。」
「で、シンジの後をつけて行って、現場を押えるのよ。」
レイは心配そうに聞く。
「でも、ほんとにラブレターだったのかな?」
「朝、下駄箱で、シンジの様子がおかしかったの。
多分その時にラブレターを見つけたのね。
こんなことなら、ちゃんと問いただすんだったわ。」
「そうだったんだ。」
薄く笑うアスカ。
「まあ、いいわ。アタシに嘘ついたこと後悔させてやるんだから。」

放課後、シンジは帰り支度をしていた。
今日の一日は凄く疲れてしまった。
他のみんなからいろいろ言われて、答えるのが大変だった。
「レイは俺にまかせろ。」とか
「その女の子を紹介してくれ。」とか、
「アスカとレイがいるのに物足りないなんて女の敵ね。」とか
みんなに好き放題言われてしまった。
しかし、その原因を作った本人に、
今から会いにいかなければならない。
さて、レイとアスカをどうするかだな。
シンジはそう考え教室を見渡すが、レイとアスカが見当たらない。
今日は結局、ひとことも話すことができなかった。
いないということは、やはり怒って帰ったのだろうか?
いや安心はできない。あのアスカのことだ、
何かたくらんでいるだろう、注意しないと。
シンジもアスカのことは良く知っている。
シンジはすっと教室から出て、廊下を歩いていく。
それを影から見つめていた、ケンスケ、レイ、アスカは
その後を追う。ケンスケはDVDカメラを構えている。
ちなみにトウジとヒカリは用事があるとかで帰ってしまった。
シンジは校舎脇に向かっているようだった。
レイがアスカに話しかける。
「やっぱり学校の中で会うのかな?」
「そうみたいね。」
三人はシンジの後をつけるが、シンジを見失ってしまった。
どうやら、三人の死角にいるときにどこかに入っていったらしい。
「どうしよー。」
レイは慌ててアスカに聞く。
「こうなったら、手分けして探すしかないわね。」
「そうだな。」
三人は別れてシンジを探し始めた。

「いったい、誰なんだろ?」
回り道をしながら、シンジは目指す青春の像の近くにやってきた。
雪が積もり原型をとどめていない像を見ると、
確かに女の子が一人立っていた。
少しウェーブがかかったショートヘアで、
チェックのダッフルコートを着た少女は両手を胸の前で組んで、
不安そうにきょろきょろ辺りを見ている。
そして、シンジを見つけると、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「シンジ先輩ですよね。」
シンジはその少女に見覚えがあった。
「あぁ、君だったんだ。」
その少女、生駒ツカサはにっこりと微笑んでおじぎする。
「その節はお世話になりました。」
シンジもうなずく。
「そうか、もうひと月ぐらい前だよね。」
「そうですね。私も最近まで、シンジ先輩と同じ学校だなんて
知らなかったものですから。」
「そうか、確かに同じ学校でも不思議じゃないよね。」
「はい。同じ学校だと知ったものですから、お手紙を書いたんです。」
シンジはうなずき、つかさに聞く。
「そうなんだ。あ、ここじゃ寒いから、暖かい所に移動しない?」
ツカサも嬉しそうに答える。
「はい。あの、できればあの時に連れていっていただいた、
お店に行きたいんですけど。」
「あぁ、nerfのこと?」
「はい。あれから探してみたんですが、よくわからなくって。」
「そうか、じゃあ、そこに行こうか。」
「はい、お願いします。」
二人は並んで、歩き始めた。
「あ、そうそう、シンジ先輩、これ受けとって貰えますか?」
つかさは持っていたバスケットをシンジに見せる。
「なにかな?」
「ちょっと遅いんですけど、バレンタインのチョコの代わりです。
チョコレートケーキなんですけど。」
「へぇ、ありがと、わざわざ作ってくれたの?」
「はい。」
「じゃあ、ありがたくいただくよ。」
その二人を見つめる三組の瞳。
「あの子ね。」
アスカが押し殺した声で言う。
「結構可愛い子じゃないか、いい趣味してるよシンジも。」
DVDカメラを構えながら、ケンスケが批評する。
「もう変なことに感心しないでよ。」
レイも面白くなさそうだ。
アタシとアスカ以外の女の子と二人きりだなんて許せない。
レイはそう思っている。
「で、どうするの?もう捕まえる?」
「いいえ。もうちょっと追跡しましょ。
どこに行くのか興味があるわ。」
そして、三人はシンジ達の後を追うのだった。

「あぁ、そうです、ここです。こんなに近かったんですね。」
「そうだね、学校からだと、結構簡単に来れるよね。」
二人はそのお店の中に入っていく。
それを見た追跡組。
「ねぇ、nerfに入ってくね。」
「どうしようか?」
ケンスケは二人に聞く。
「もちろん入るわよ。」
「当然よ。」
二人はお店に突進していく。
「あーあ、大変だよなシンジも。」
ぽつりつぶやくケンスケ。しかし自分も二人の後を追う。
アスカとレイの二人がドアを開けて入ると、
カウンターにシンジと少女が座っている。
その二人に話しかけていた加持リョウジが
アスカ、レイの方を向いて微笑む。
「アスカ君とレイ君じゃないか?どうしたんだい?」
シンジはそれを見て顔が真っ青になる。
「ア、アスカ、それにレイ。どうしてここに。」
しかし、アスカとレイはそんなことは聞こえていないように
つかつかシンジの元へ歩いていく。
後にシンジが語った所によれば、その時の二人の表情は
鬼神もかくやという形相だったらしい。
「さぁ、あらいざらい話して貰いましょうか?」
「そうよ、そうよ、アタシというものがありながら、どーいうつもり?」
「シンジ。あきらめて、全て話した方がいいぞ。」
ケンスケまでもDVDカメラを構えたまま忠告する。
すると、ツカサがうろたえるシンジの前に出て挨拶する。
「はじめまして、生駒ツカサといいます。シンジ先輩には
以前道に迷った時に自宅まで送って貰って、今日そのお礼をしたんです。」
アスカ、レイの二人がユニゾンで驚く。
「え。お礼?」
シンジが二人に事情を詳しく説明する。
「そうなんだ、多分ひと月ほど前だと思うけど、
この子まだ引っ越してきたばかりで、
道に迷ってたんだ、で、家まで送ったんだ。
で、そのお礼にこれもらったんだ。」
とバスケットを見せる。
ケンスケが不思議そうに聞く。
「でも、どうして、お礼が一ヶ月もすぎてからなんだ?」
それにはつかさが答える。
「それは最近まで先輩と一緒の学校だと、知らなかったんです。
電話番号とか聞くの忘れてましたし、連絡しようがなかったもので。」
レイはなお不満そうにシンジに詰めよる。
「で、どーして、このお店に来てるの?」
「そ、それは、ツカサちゃんをその時
ここに連れてきたんだけど、もう一度来たいって言うから。」
「なるほど。」
二人は納得したが、どうも面白くない。
なんとなくライバルが一人増えた気がする。
その感想が間違いでなかったと知るのはずっと後であるが。
ケンスケがツカサに聞く。
「ところで生駒って名前で気になってたんだけど。」
にっこり微笑むツカサ。
「はい、なんでしょう。」
「もしかして、I.Kに関係あるの?」
あっさりうなずくツカサ。
「はい。お父様の会社ですけど。」
シンジも思い出したように答える。
「そうなんだよ。ツカサちゃんの家ってさ、
もの凄く大きくてびっくりしたよ。」
I.Kといえば軍需産業にもからんでいる巨大な会社である。
ツカサはその社長の娘だというのだ。
レイも不思議そうに首を傾げてツカサに聞く。
「ねぇ、どうして、うちの学校に来たの?」
「えっ、お父様がツカサはこの学校の方が向いてるからって。
双子の妹は新東女に行ってます。」
東女とは新東京女子高等学校、かなりレベルの高い学校である。
「へぇ、ツカサちゃんて双子のお姉さんなんだ。」
「そうなんですよ。でも私、よくぼーっとしてて、
妹にからかわれるんです。」
アスカとレイはお互いを視線を合わせため息をつく。
その二人を楽しそうに加持が見ている。


ツカサを送っていくということでシンジはアスカ達と別れて、
今はツカサと二人で歩いている。
レイは別れ際、何か言いたそうにしてたけど、どうしたんだろ?
そう考えるシンジと並んで歩きながら、ツカサが笑顔でシンジに聞く。
「あのぅ、ところで惣流先輩と綾波先輩のどっちが彼女なんですか?」
慌ててシンジが聞き返す。
「か、彼女って、どうして。」
「だって、二人ともすごくシンジ先輩のこと好きみたいでしたよ。」
「そ、そうなのかな。」
そう答えたがシンジも最近よく考えるようになった。
アスカとレイ、僕はどちらを好きなんだろう?
最初はアスカは幼馴染みでレイのことを好きなのだと思っていた。
でも、今は違う、あの時アスカにキスをした時に
僕はアスカのことを幼馴染み以上に思っていることがわかってしまった。
もしかして、二人とも好きになったんだろうか?
あの時キスをしなければこんなことを考えずに済んだのだろうか?
そんなことを考えているシンジにツカサが話しかける。
「そうですよ。二人の先輩を見る目でわかります。」
「そうなんだ。」
ツカサがうつむいてぽつりとつぶやく。
「はい、わたしもそうですから・・」
シンジが聞き返す。
「えっ。」
慌てて否定するツカサ。
「いえ、なんでもないです。」
「そう?」
話を逸らすように聞き返すツカサ。
「でも二人とも彼女じゃないんですか?」
「うーん。なんとも言えないな。」
「そうなんですか。」
ちょっと考えながらシンジは答える。
「結構、微妙なんだな、関係が。そう思う。」
「二人との関係を壊すのがイヤなんですか。」
「そうかな。そうかもね。」
熱心にシンジに話しかけるツカサ。
「でも、それじゃ二人が可愛そうですよ。」
「そうだね。」
「わたしでよかったらお話聞きますから。」
「そんな、悪いよ。」
首をふるふると降るツカサ。
「そんなことありませんよ。」
そんなツカサを見てシンジは微笑む。
「じゃあ、また今度にでも。」
「きっとですよ。」
「うん。わかったよ。」
ツカサは立ち止まりこう言った。
「じゃあ、指きりして下さい。」
真剣な表情でツカサは小指をだす。
「やれやれ、信用ないな。」
シンジはため息をつくと、ツカサの小指に自分の小指をかける。
「約束は指きりするものですから。」
少し嬉しそうにツカサは答える。
「そう、じゃあ、指きりげんまん。」
「はい。嘘ついたら針千本ですよ。」
「わかってるよ。」
二人は指をきり、再び歩き始める。

「あ、ここでいいですから。」
ツカサは家というか屋敷の角でシンジに言う。
いつの間にか雪はやんで、暖かい日差しが差し込んでいた。
「そうだね。じゃあ、僕はここで。」
両手を後ろで組んで、ツカサはシンジに笑いかける。
「シンジ先輩。約束忘れないで下さい。」
シンジも笑いかける。
「うん。またそのうちにね。」
ぺこりとおじぎするツカサ。
「はい。じゃあ失礼します。さよなら。」
「うん。またね。」
シンジは元来た道を戻っていく。
それを見送って、ツカサは反対方向へ歩き出す。
ツカサはすごく後悔していた。
もうツカサのばかばか。
どうしてシンジ先輩に好きって言わないの?
ツカサにしては少し速足で、しかし、
他人にとっては普通の速さで歩きながら、考える。
せっかく今日告白するって誓って来たのに。
結局言えなかったじゃない。
惣流先輩や綾波先輩とのことで相談に乗るなんて、
そんなこと言っちゃって、
これじゃ、いいお友達で終わっちゃうわよ。
遠くから見てるだけじゃいやだから、
行動しようって決めたじゃない。
小さくため息をつき、ツカサは立ち止まり空を見上げる。
そこには薄雲に隠れて輪郭だけ見える太陽があった。

「レイ。どうしたの?」
シンジは自宅近くでレイを見かけて声をかけた。
「おかえりなさい。シンちゃん。」
レイが駆け寄ってくる。
歩道の雪は誰かが融雪剤を撒いたのであろう、
ほとんど融けていた。
「どうしたの?」
シンジは不思議そうな表情で聞く。
立ち止まって、話す二人を、
雲から出てきた太陽の日差しが包み込む。
「う、うん。ちょっとね。ツカサちゃんはちゃんと送っていったの?」
「うん。家の近くまでね。」
「そうなんだ。ね、ちょっと話しておきたいことがあって。」
レイが上目使いでシンジを見る。
「なに?」
レイは少し頬を赤く染めて言う。
「あのね、アタシはシンちゃんとキスしたこと後悔してないよ。」
「えっ?」
シンジは一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「アタシは後悔してないよ。はじめての人が
シンちゃんでよかったと思ってるよ。」
レイのうるんだ瞳がシンジを見つめる。
その瞳はあの時に見た瞳とまったく変わっていない。
きれいだな。シンジは本心からそう思った。
「う、うん。」
シンジはいいセリフが思いつかなかったのか、
そっけない返事をする。
レイはにっこり笑う。
「それだけ言いたかったの。じゃあ、帰るね。」
「うん。」
シンジはまだぼーっとしている。
「じゃあ、また明日。」
「うん。」
レイは帰ってしまった。
シンジはふとつぶやく。
「後悔はしてないよ・・か、僕はどうなんだろ?」


NEXT
ver.-1.00 1997-12/08公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jpまで!!

あとがき

ども作者です。

第五章はいかがだったでしょうか。

どうしても高校ネタが多くなってしまいますが、
一番書きやすいんですよね。いろんな意味で。
新キャラのツカサですが、やっぱりかわいい後輩がいいな
という勝手な理由で登場させてしまいました。(^^;;

で、次回からの三回分ですが、新キャラにまつわる話を
書いていこうと思ってます。
まずはケンスケとミカのなれそめの話を書いた、第六章「微笑み」。
次にマユミと三バカで結成されたバンドの話を書いた、第七章「結成」。
最後にツカサとシンジの初デートの話を書いた、第八章「はじめて」。

できれば三本とも年内に書きあげたいんですが、どうなることやら。(;_;)

では次回、第六章「微笑み」でお会いしましょう。

 TIMEさんの『Sweet-Dreams』第五章、公開です。
 

 またもや1人の少女がシンジの毒牙に(笑)
 

 最近までシンジが同じ学校にいたと知らなかったツカサちゃん。

 当然アスカとレイのことも知らなかったのかな?
 

 知っていたら
 シンジにモーションを掛けるなんて
 命を捨てるようなことをしなかった!?

 いやいや、
 恋する乙女。
 困難が多いほど盛り上がったかも(^^)
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 連発のTIMEさんに感想メールを送りましょう!


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