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Snow Tears

SIDE A REI
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

TIME/2000
24th December 2000
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

それはある冬の日の午後。
もう12月も終わりに差し迫っていた。
10日も経てば新年だ。
ただ、セカンドインパクト以後、日本からは四季が消えていた。
だから、この時期でも生徒達はみな夏服だった。
いや、冬服自体が存在しない。
もちろんホワイトクリスマスなど日本では絶対に起こり得ない現象だった。
それを嘆く生徒達もいるが、それは彼らでは動かしようもない事実だった。
彼女はいつものように自席に座り、小説に目を通している。
もともとは冬月が人の感情の機微を学習させるために読むことを勧めたものだが、
今はレイ自身がそうしたいと思っている。
ある意味、それだけが唯一の彼女の自発的な行動なのかもしれない。

「ねぇ、綾波。」

ふとそんな声が彼女にかかる。
視線を落としていた小説から、ゆっくりと彼女は声をかけてきた本人に向ける。
そこには少し頼りなげな、でも彼女の良く知っている男子生徒の顔があった。
彼は碇シンジ。
碇ゲンドウの息子。
エヴァンゲリオン初号機のパイロット。
ただ、それだけの存在のはずだった。
しかし、今の彼女にとってはそれ以外の存在でもある。
それはいつからだろうか?
彼女もはっきりとは覚えていない。
でも、今の彼は彼女にとっては他の大多数の人間とは違う存在だった。
何が、違うのか。
それは彼女自身も良く分からなかった。
ずっと、黙ったままでシンジを見つめていたせいで、彼は少し恥ずかしそうにもじもじしている。
その彼の頭をこづく一人の女の子。
彼女は惣流・アスカ・ラングレー
エヴァンゲリオン弐号機のパイロット。
こちらはただそれだけの存在。
しかし、最近のレイにとっては、彼女がシンジと一緒に暮らしているということが気になっている。
レイ自身にはどうしてそれが気にかかるのか、まだ良く理解できていない。
なぜ、そんなことを気にしてしまうのか?
自分でも首を傾げてしまうほど、謎だった。
このことに関して、誰にも聞けないため、彼女の苦悩はさらに強くなっていた。

「あのね…24日なんだけど…」

「24日?」

12月24日、クリスマスイブ、2000年以上も前に生まれた聖人の誕生を祝う日。
彼女には何故、人間にそんな習慣があるのかよくわからなかった。
もうこの世界にいない人間の誕生日を祝ってどうするのだろう?

「みんなでクリスマスパーティを開こうと思うんだ。で、綾波もどうかなって。」

「24日…」

そう小さく呟いて、彼女はうつむく。
その日は…
確か、赤木博士の元に出頭して、ダミーシステム関連の実験を行わないといけない。

「その日はネルフに行くことになってる。」

彼女のその答えに、彼は不思議そうに首をかしげる。

「え?でもシンクロテストとかはないよね。」

「ええ、赤木博士の元に出頭しなくてはいけないの。」

そのレイの答えに、あからさまに残念そうな表情を浮かべるシンジ。
それを見たアスカは、からかうようにシンジに言った。

「あ〜ら、残念ね、愛しのファーストが参加できなくて。」

シンジはそのアスカの言葉も取り合わずにレイに告げた。

「そう…じゃ、もし早く終わったら、ウチに来てよ。」

「ええ、そうするわ。」

レイはそう頷いてから、自分の言葉に驚いた。
どうして…
別に行かなくても良いのに。
パーティだと人が一杯いるのに。
どうして、そんな答えを返したのだろう?
シンジはレイの前向きな返事に満足したのか、にっこり微笑む。
レイはその笑みを見て、ほんのりと頬を染める。
しかし、それに誰かが気づく前に視線を落としたため、誰もそのレイの変化には気づかなかった。
どうして、碇くんの笑顔を見るとこんな気分になるのだろう?
心が落ち着かない。
頬が熱い。
どうしてだろう?
身体の機能がおかしくなってしまう。
私の身体は、どこかおかしいのだろうか?
でも、週一度の赤木博士の検診では以上が出てない。
どうしてだろう?
レイの脳裏にそんな思いが渦巻き、持ったままの小説は彼女の意識から消えていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そして24日の当日を迎える。
その日は当然、レイは学校を休んで朝からネルフにつめていた。
休憩室のベンチで小説を読んでいるレイに、いつも通りの社長出勤のミサトが現れて声をかける。

「レイ、おはよう。」

レイはミサトに顔を上げてこくりと頷いた。
いつものしぐさだった。
レイが声を出して挨拶するのはシンジだけだったりする。

「となり、いい?」

そのミサトの言葉に少し不思議そうな表情を浮かべて、それでもこっくりと頷く。

「ありがと。」

そう告げると、ミサトはベンチに座る。
レイは視線を小説に戻そうとするが、ミサトの視線を感じて、顔を上げて、ミサトを見る。

「何か?」

ミサトはにっこり笑ってレイに訊ねる。

「今日って、何時くらいにお仕事終わりそう?」

「今日は1900には、全ての作業を終了しますが。」

そのレイの答えにこくこく頷いてミサトは告げた。

「そっか、じゃあ、それが終わり次第、私のもとに出頭して。
私は執務室にいるから。」

レイはとまどいがちにミサトに訊ねる。

「それは命令でしょうか?」

その言葉に、ミサトは笑顔を消して、しかめ面を浮かべて見せる。
ただし、口元は少し緩んでいた。
わざと深刻そうな声を出して告げる。

「そうとってもらって良いわよ。」

レイは素直に頷く。

「わかりました。作業終了後に葛城三佐のもとに出頭します。」

「よろしい。」

もう一度、にっこりと笑顔を浮かべて、レイの頭をなでるミサト。
レイはされるがままになっている。

「じゃ、19時過ぎに。」

そう告げると、ミサトは立ち上がり、元来た通路を帰っていった。
その後姿を見送り、レイは何事もなかったかのように、小説に視線を戻した。
 
 
 

「じゃあ、場所は予定通り碇ん家でいいんだな。」

ケンスケは首をかしげて、シンジを見る。
昼休みの時間、クリスマスパーティに参加する面子が集まって、何やら打ち合わせを始めていた。

「まぁね、広さ的にも、準備の都合的にもウチがいいでしょ。」

そう告げるシンジの横顔を見て、アスカは大げさにため息をついてみせる。

「はぁ…アンタも物好きねぇ。後片付け大変よ。」

「でも料理を作ること考えるとね。」

その答えを予期していたのか、アスカはどうでもいいといった感じで軽く肩をすくめる。

「ま、いいけどね。どうせ片付けるのはアンタだし。」

「で、誰が来るんや?」

「このメンツ以外ではもちろんミサトさんと、後は加持さん、リツコさん、
青葉さん、日向さん、マヤさんぐらい…かな。」

腕を組んだケンスケがその場にいる一同を見まわして告げる。

「で、問題はこの人数になるとダイニングに入りきらないところだな。」

「まぁ、リビングとダイニングに分かれるしかないんじゃない?」

アスカがもっともな意見を出す。

「そうだね、おそらくリビングは大人組で、ダイニングが学生組かな…」

「どうして?」

ヒカリがシンジを見て訊ねる。
シンジとアスカは顔を見合わせたため息をつく。
そして、アスカがシンジに変わって答える。

「簡単よ。大人組はぶっ倒れるまでお酒を飲むから、そのまま寝れるリビングなの。」

シンジが大きく頷いて答える。

「そういうこと…」

「確かに、前回の昇進パーティの時はすごかったもんな。」

ケンスケが少しだけ表情をしかめて告げる。

「だから、今回は二つに分けます。」
 
 
 
 

「それでは葛城さん、お先に行ってます。」

そう日向がミサトに告げる。
オペレータの三人はそれぞれ私服姿だった。

「じゃあ、準備の方、お願いね。」

「おまかせください。」

日向が元気良く答える。
部屋を出ていく3人と入れ替わりにリツコが部屋に入ってくる。

「もう3人はあがるの?」

「ええ、今日の夜の準備手伝ってもらうから。」

リツコは苦笑しながら、ミサトの傍に歩いてくる。

「みんなクリスマスとなると目の色が変わるわね。」

「あら、あなたもでしょ?」

ミサトのその言葉に苦笑を大きくして頷く。

「そんなことはないわよ。」

くすりと笑みを浮かべて、ミサトは話題を変える。

「で、レイの方は大丈夫?」

「ええ、19時までには終わるわ。」

作業内容に関してはミサトは何も聞いていないが、
エヴァに関する新システムの開発とリツコからは聞いていた。

「そう、じゃあ、大丈夫ね。」

ミサトは時計に視線を向ける。
もうすぐ18時を指そうとしている。

「今ごろ、シンジくん大変でしょうね、人数分の料理用意するために。」

「でも、確か、洞木さんが料理は手伝ってくれてるはずだし。」

「そうなの?じゃあ、大丈夫かしらね。」

「たぶんね。」
 
 
 
 
 

その頃、碇家のキッチンは戦場と化していた。
途中までは、シンジ、ヒカリの二人の見事な手際で料理が作られていたのだが、
ケーキを焼く時の設定時間をケンスケとトウジで設定したため、
なぜかオーブンから真っ黒な煙が出ることになった。
慌てて、ケーキの準備をしなおす二人。
ケンスケ、トウジの両名はアスカから処分(ビンタ)を食らっている。
そして、今はアスカを手伝って、お皿やフォークなどの準備をしている。
そこに、オペレータ3人の援軍が登場する。
マヤはすぐキッチンに入り、シンジとヒカリを手伝う。
日向、青葉の二人はクリスマスツリーを設置し始める。
この日のために加持が本物のモミの木を入手していたのだった。
しかも何故か2本。
まるで、このパーティをあらかじめ予測していたような周到さだった。

「本物のモミの木ね。」

アスカが感心するようにモミの木に鼻を近づける。

「うん。良い匂いがする。」

「さて、オーナメントの取り付けを手伝ってくれるかな?」

「は〜い。」

青葉、日向、アスカ、トウジ、ケンスケの5人で手分けして、
オーナメントを付けていく。
ほどなく飾り付けが終わり、ライトの電気を入れる。
いっせいに全てのライトが転倒してから、点滅し始める。

「綺麗ね。」

「あぁ、良い感じだな。」

その頃にはキッチンの混乱も収まりつつあった。
マヤは自分で何か新しい料理を作るのではなく、シンジとヒカリのサポートに徹していた。
こんなところも普段の勤務のノリが出てしまうようだった。
そして、出来あがった料理を順にテーブルに並べていく。
さまざまな料理がテーブルを埋めていく。

「こりゃ、うまそーやな。」

トウジが今にも手を伸ばしそうな勢いで言った。
もちろん、ヒカリがすばやく静止したが。

「あぁ、3人ともすごいな。」

「私は今回はサポートでしたから。」

マヤがにっこり微笑みながら答える。

「シンジもヒカリも料理上手だから、将来良い「しゅふ」になれるわ。」

その青葉の言葉にシンジは苦笑を浮かべて、ヒカリは頬を赤く染めた。

「さて、これで準備はOKで、後はミサトさん達を待つだけだね。」
 
 
 
 
 
 

「葛城三佐、出頭しました。」

その声にミサトははっと我に帰り、顔を上げる。
そこには無表情のレイが立っていた。
制服を着ている。

「作業は終わったの?」

こくりと頷くレイ。
とドアが開いて、加持が現れる。

「葛城、そろそろ行くぞ。」

「了解。」

そして、レイに微笑みかける。

「じゃ、行きましょうか?」

レイは少し首をかしげて、訊ねる。

「どこに?」

加持はレイの頭をぽんぽんと叩く。

「葛城ん家だよ。シンジくんから何も聞いてないのか?」

「碇くん…から…」

レイは考え込む。
数日前に仕事が終わったら、家に寄って欲しいって言われたことを指すのだろうか。
確かにあの時、そうすると答えたが…

「詳しいことは車の中で話すから。」

ミサトはそう告げて、立ちあがった。
 
 
 
 

ミサトの車だったが、今日は加持が運転する。
当然、ミサトは自分が運転すると告げたのだが、
加持とリツコから強硬に反対されて、ハンドルを加持に譲っていた。

「で、今日はミサトの家でクリスマスパーティがあって、皆、招待されているの。」

リツコが隣に座るレイにそう告げる。
助手席に座ってるミサトが振り向いて、レイを見る。

「シンちゃんが誘ったけど、ネルフに行くって言ってたからって、私達に言ってきてね。」

「そう…ですか…」

不思議だった。
そこまでして、何故シンジは自分に来て欲しがったのか。

考えても答えは出てこない。
でも、なぜか心が温かくなる。
それは誰かから必要とされているからだろうか?

「シンちゃんてば、レイがいないと全員そろったことにならないって言い張って、
良いわねぇ、愛されてるって。」

「?」

愛される?

良く分からない。
人を愛すると言うことも。
愛されると言うことも。

「ほら、ミサトもいい加減にしなさい。レイが混乱してるわよ。」

「は〜い。」

ぺろりと舌を出してミサトは苦笑した。
 
 
 

部屋の前に来る4人、
玄関のエアロックを開けて、ミサトがそろそろと中を覗きこむ。

「あれ?まっくらだぞ。」

加持がそう呟く。
実は段取りは知っていたのだが、あえて知らないふりをする。

「おかしいわね。」

ミサトは不思議そうに告げる。
当然、こちらは全く知らされていない。

「とりあえず、灯りを。」

そう告げる加持。
笑いをこらえるのに苦労していたが、その場の誰も気づかなかったらしい。

「そうね…え〜と明かり、明かり、と。」

ミサトが屋内の明かりをつけるスイッチに触れようとした瞬間。
 

バン!ババン!
 

いきなり、大きな銃声のような破裂音がした。

「きゃ!み、みんな襲撃よ!!」

ミサトは慌てて、身体を低くして構える。
しかし、急に灯りがついて、目がくらむ。

「こ、今度は何なのよ。」

そう叫ぶミサトにアスカの声が降りかかる。

「メリークリスマス!」

いきなりシンジやアスカがミサトの傍にやってきて、
笑いながら、ミサトに三角帽子をかぶせて、
ゴムで止めるチョビヒゲを顔につけようとする。

「ちょ、ちょっと何よ。」

ミサトは暴れるが、用意よくミサトの背後についていた加持が取り押さえる。
自身もチョビヒゲをつけたシンジとアスカはミサトの両サイドにつく。

「ほら、綾波もこっちおいでよ。」

そう告げて、レイに手を差し伸べるシンジ。
レイは何故かその手につかまり、シンジの隣に立つ。

「げ、相田くん、何するのよ。」

ケンスケは脚立にカメラをセットしてタイマーを作動させ始めた。
そして、すばらくみんなが集まっている端にすまして立つ。

「ちょ、やめて〜。」

暴れるミサトだったが、加持ががっしりと押さえる。
オペレータの3人も、リツコもミサトの周りに笑いながら立つ。
そしてシャッターが切られた。
その途端にがくりと力尽きるミサト。
しかし、良く見ると小さく震えている。
そして、顔を上げてキッと加持を睨む。
慌てて、両手を上げて、ミサトから離れる加持。

「ど〜ゆ〜ことか説明してもらいましょ〜か?」

「い、いや、シンジくん達に頼まれてね。」

たじたじの加持。
しかし、満面の笑みを浮かべている。

「シンちゃん!アスカ!」

きっと、左右を見るミサト。
しかし、その時にはすでに二人とも、レイを取り囲んで、
テーブルに並べられている料理をとりわけ始めていた。

「ほら、これは野菜ばっかりだから、綾波でも大丈夫だと思うよ。」

「…ありがと。」

「へぇ、ファーストもシンジにはちゃんと「ありがとう」なんてお礼言うのね。」

まったく相手にされていないミサト。

「き〜!くやし〜!こうなったらとことん飲んでやるわ!」

そうミサトはわめくと、右手に加持を左手にリツコを掴んで奥のリビングに入っていった。

「そうだ、綾波。ケーキ食べる?」

「ケーキ?」

そして、シンジは取り分けたケーキをレイに渡す。

「甘さ控えめだから、みんなには好評だよ。」

「控えめ?」

レイは不思議そうにその白いケーキを見つめる。

「うん、ホイップとかカロリーを押さえたものを使ってるから。」

「どうして?カロリー控えるの?」

カロリーは高い方が一回の食事の効率が上がるはず。
そう考えてレイは訊ねた。

「女の子は太らないようにカロリーとか気をつけるのよ。」

ヒカリがにこにこ微笑みながら、レイに告げた。
先ほど、ヒカリの作った料理をトウジが絶賛していたため、ものすごく機嫌が良い。

「…わからない。」

「まぁ、難しいことは良いから、食べてみて。」

一口ケーキを食べてレイはシンジを見る。

「甘い。」

そう、これは甘い。
でも、嫌な感じではない。
どちらかというと…

「でも、もっと欲しい。」

そう、もっと食べてみたい。
そう思う。

「良かった。」

ほっと息をつきシンジはにっこりと微笑む。
その笑顔を見て、レイはずっとシンジに聞きたかったことを聞くことにした。

「碇くん、聞きたいことがあるの。」

「そう?ここじゃなんだから、ベランダの方に行こうか?」

こくりと頷くレイ。
リビングを通って、ベランダに移動する二人。
リビングでは予想通り、ミサトはビールを飲み散らかしていた。
加持もリツコもまだ平気そうだったが、
すでにマヤと日向がつぶされていた。
ちなみに青葉はいち早くダイニングに避難し、
ケンスケとトウジとギターの話で盛り上がっている。
 
 
 
 

「で、話って?」

シンジはベランダにでると大きく伸びをして、レイを見る。

「どうして?私を呼んだの?」

レイは単刀直入に聞いた。
もちろん、彼女には婉曲に物事を訊ねるなんてことは出来なかったが。

「どうしてだろう?」

シンジはそんな答えを返す。
その答えを聞き、レイは余計混乱してしまう。
それを見て、シンジはくすりと笑みを浮かべる。

「ほら、以前話したじゃない。
ミサトさんの昇進祝いの時のこと。
あんまりみんなと騒ぐのは好きじゃなかったけど、あの時はすごく楽しかったって。」

「うん…」

その時のことを思い出しながら、レイをうなずく。
それはレイの部屋での会話だった。
シンジのその時の表情は覚えている。
最近は違うが、まだあの時はシンジはあまり笑顔を浮かべなかったから。
余計その時のことが強く記憶に残っている。

「で、綾波にも同じ経験をしてもらったらどうなのかなって思って。
ですぎたことなのかもしれないけど。」

「そう…」

シンジはレイの顔を覗きこむように、訊ねる。

「どうだった?やっぱり楽しくなかった?」

「…」

どうなのだろう?
楽しくなかったのだろうか?
楽しいときには笑う。
今日は笑ってない。
だから、楽しくない。

でも、嫌ではなかった。
碇くんも、弐号機パイロットも、他のみんなも…
一緒にいて嫌ではなかった。
だから、楽しかった?

「わからない…でも嫌ではなかった。」

そのレイの答えにシンジは嬉しそうにうなずく。

「良かった。無理してたらどうしようって。」

そのシンジの言葉には素直に首を横に振った。

「無理はしていないわ。いつもの私。」

「そう…」

満足げにため息をつくシンジ。
と、その目の前を何かが横切った。

「これ…は?」

レイは手を差し出して、舞い降りるそれを手に取ろうとする。
しかし、手に触れたそれはすぐになくなってしまう。

「ゆき…雪が降ってる。」

シンジは驚いてレイを見る。

「これ…が雪。」

「そう、雪だよ…どうしてなのかな…あ、とりあえず、みんな呼ばなきゃ。」

シンジは勢い良くドアを空けて、部屋の中のみんなを呼ぶ。
レイは顔を上げて、ゆっくりと舞い降りてくる雪を見つめた。

「真っ白…な雪。」
 
 
 
 
 

ネルフ本部。
ゲンドウと冬月が向かい合っている。
報告を聞き、受話器を置き、冬月が小さくため息をついて訊ねる。

「いいのか?碇。老人達がうるさいぞ。」

ゲンドウはいつものポーズを崩さず、唇の端をゆがめて笑う。

「かまわん、大事の前の小事だ。老人達には何もできないよ。」

まさか、この日第3新東京に降った、少しの雪が、
ネルフが技術の粋を集めて作った人工雪だったとは、知っているのはごく一部の人間だけだった。
 
 
 
 
 

Fin.
 
 
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 2000/12/25公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

どもTIMEです。
クリスマス記念SS「SnowTears」 レイ編です。

レイ編は本編の外伝的なお話にしてみました。
キャラクターも本編に準じていますがどうでしょうか?
シンジのことを意識し始めたレイが、
更にシンジを意識していくきっかけみたいな話にしてみました。

さて、クリスマス記念はこの他に2本あります。
アスカ編、マナ編です。

両方ともEOE以後のお話ですが、ちょっと毛色が違います。
まだでしたら、そちらの2本もお楽しみください。

では、みなさんよいクリスマスを。






  ここっここっっ





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