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------AD 2019 10 Nov------


ある秋の午後。
彼は一人きりで、浜辺に立っていた。
身長は高め、すらりとした体格で少し幼い顔付きをしている。
ふと彼は空を見上げる。
秋の空はどこまでも高く、澄んでいた。
風が少し強く吹いていたが、日差しは暖かかった。
彼は視線を水平線の向う側に向けたようだった。
あたりには、波が打ち寄せる音しか聞こえない。


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Love Passion 第一章 指輪
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不意に碇シンジは名前を呼ばれたように、
きょろきょろと辺りを見回した。
そして堤防の方を見ると、
そこに一人の青年が立っている。

「シンジ君、ここにいたんだね。どうしたんだい?1人で。」
渚カヲル、シンジの親友だ。

シンジはカヲルに歩み寄りながらこう答えた。
「ちょっと一人になって考えたいことがあって。どうかしたの?カヲル君。」

「アスカちゃんが、シンジ君がどこにもいないって大騒ぎしてるのさ。」
惚流・アスカ・ラングレー。シンジの幼な馴染みだ。
アスカも大げさだな。ちょっと講義を抜け出したくらいで。
そうシンジは考えながら、堤防に上がり言葉を続けた。

「それで、カヲル君がわざわざ僕を探しに来たってわけ?」

にこりと笑ってカヲルは答える。
「まあね。」

「ごめん。迷惑かけて。」

「シンジ君のことで僕が迷惑だなんて思うことはないよ。」
そうカヲルは言い、最高の笑顔を見せる。

カヲル君の笑顔は始めて会ったあの頃から変わってないな。
高3の時に始めて会った時から、この笑顔をいつでも僕に見せてくれる。

「それじゃ、行こうか。シンジ君。」

「そうだね。カヲル君。」

二人は連れだって、堤防を降りていった…


講義があった教室の前の庭のベンチにアスカは座っていた。
大学に入ってから、ワンピースやロングスカート
を好んで着るようになり、大人びた雰囲気を出している。
それを証明するように今日もチェックのワンピースを着ている。
近くを歩いていく男がみんな振り返ってアスカを見ていくが、
アスカはしらんぷりである。
しかし、シンジとカヲルを見つけるなり、アスカは荷物をつかんで、
二人のほうに駆け出した。

「もうシンジ、どこ行ってたのよ。さんざ探し回ったのよ。」

「ごめん、アスカ。ちょっと海まで行ってたんだ。考え事があって。」
少し寂しそうに答えるシンジ。

「考え事って?」
心配そうに尋ねるアスカ。

「うん。ちょっとね。ジュンのことで。」
ジュン。今はもういない親友の名前を聞いて、
アスカの顔色が変わった。明らかにシンジを気遣う顔。

「そう。……まだふっきれないんだ。」
アスカは悲しそうに聞く。

「ううん。そうじゃないんだ。なんて言うのかな。うまくいえないけど、
もう終ったことなんだ。そう思えるようになった。」
いくぶん明るく、シンジは言った。

アスカは少し嬉しそうに、
「そう、それならいいんだけど。心配させないでよね。」

カヲルが校門を指して言う。
「さあさあ、ヒカル君達が待ってるから急ごう。」

シンジも校門に向かって歩きだしながら、嬉しそうに答える。
「そうだね。ひさしぶりだなぁ。トウジやケンスケに会うの。」

「そうね。あたしはヒカルとは結構会ってるけど。
トウジやケンスケとは、もう半年ぶりぐらいじゃないかしら。」

「そういえば、ヒカル君の子供は何歳になったのかな?」
三人横一列になって、校門に向かって歩きながらカヲルは言った。

アスカはカヲルの方を向き答えた。
「カヲル、そんなことも忘れたの?一歳と半年よ。」

「本当にあの時はびっくりしたよね。洞木さんが妊娠したって聞いた時。」
道に降り積もっている落葉を踏みながら、シンジは言った。

校門までの道の両脇にはいろいろな落葉樹が植えられており、
この季節になると、雨や雪のように落葉が降り、道に積もってしまう。
それを踏みながら、三人は校門に向かっている。

「そうね。あたしもあの二人が、
そういう関係になっていたなんて知らなかったから。」
その時のことを思い返しながら、アスカは言った。
その話を聞いた時は、きっちり一分は心臓が止まったもの。

「大騒ぎになったよね。担任のミサトせんせは二人の味方になってくれたけど、
他の先生は事実を隠すのに必死だったから。」
その時のことを思いだし、くすりと笑うシンジ。

「でも結局、押し切っちゃったんだね。あの2人。」

「結構大変だったんだから。ヒカリの両親を説得するの。」

カヲルが不思議そうに聞く。
「そのころ僕は親に会いにアメリカに行ってたから、わからないけど。」

アスカはうんざりという顔をして答えた。
「すごく大変だったのよ、カヲル。もうあれを修羅場と呼ばずにって感じ。」

「そうか、残念だな。是非ともその光景を見たかったな。」
真剣に残念がるカヲル。

「そう。今度そういうことがあったら絶対に呼ぶから。」
真剣なのか、ちゃかしているのかわからないアスカ。

「そうだね。僕としてはアスカ君の時に呼んで欲しいな。」
真っ赤になるアスカ。それを嬉しそうに見るカヲル。

大学に入学してから良く見られる光景である。



「そういえばレイは?」
話をそらそうとして、アスカが聞く。

にこにこしながらシンジが答える。
「先に行ってるよ。今日は講義がないから時間まで寝てるって言ってた。」

「時間までって、四時でしょう。何時間寝るのよ。」

「最近、課題が忙しいって言ってたから、寝不足なんだって。」

「へぇ、シンジ、やけに詳しいじゃないの。どうしてかなぁ。」

「……いや、昨日TELした時にそう言ってたから。」
とっさに答えたのなら、通用したのであろうが、
間をおいてしまっては効果がない。

「ふーん。そうか、そうだったんだ。どーりで。」
何か、納得したように、にこやかにアスカがうなづく。
しかしながら眉間のシワは隠せない。

「えっ。何が?」
シンジはいやな予感がしながら答える。

「最近、帰りが遅いと思ったら、バイトじゃなくてそういうことだったのね。
あたしをかまわないで、レイをかまってたわけね。」

「そ、そんなことないよ、誤解だって。」

「ふーん。誤解ねぇ。使い古された言い訳よねぇ。」
アスカがにこやかに(しかし眉間のシワはそのままに。)シンジに近付いていく。

シンジは後退しながら、(な、なんてこったい!!)と心の中で叫んでいた。
アスカに内緒で綾波とバイトをしてたから、なんて答えられないし、
どうしてバイト始めたかも、また聞かれるかもしれない。

バイト始める時にさんざんアスカに聞かれて、なんとかごまかしたのに、
また聞かれるなんて困る。今度はごまかし切れないかも。
そう考えながら、校門を出て後退するシンジ。
しかしじわりじわりと追い詰めていくアスカ。

カヲルは楽しそうにその光景を見ている。
しかし、そこで事態をさらに悪くするかのように、一人の女性が現れる。

「あっれー。シンちゃんにアスカにカヲルじゃん。まだここにいたの?」

アスカとシンジが異口同音に言う。
「レイ?」
「綾波?」



二人を視線の先には銀髪の女性が立っている。
髪は肩にかかるくらいで、肌は誰もが見とれるように白い。
体つきはすこし小柄だが、ジーンズと
うすいブルーのセーターが良く似合っている。

最後にカヲルがレイの方を振り返って、
「やぁレイ。いいところに来た。今、
シンジ君とアスカちゃんがケンカしてるんだ。
今だったら、シンジ君をモノにできるよ。」

「えっーー!!なになにアスカ、私にシンちゃんくれるの?
ホントホントホント?」
嬉しそうにアスカに駆け寄るレイ。

「なっ、何言ってるのよ。もう抜け駆けしてるくせに。」
真っ赤になってアスカが答える。

「えっーー。シンちゃん、一緒にバイトしてることバラしちゃったの?
内緒ってハナシだったじゃん。どうしてどうして?」
またしてもアスカとシンジが異口同音に言う。

「あっ。」
「バイト?」

そしてアスカが惚けたようにレイに聞く。
「何、バイトってレイと一緒なの?」

「うん。そうだよ。でもこれってアスカに内緒だったん
だけど、聞いたんでしょ?」

「・・・聞いてない。」

「えっ・・・」
そこで始めてレイはシンジを見た。
シンジはやってもうた状態で何も答えてくれない。
カヲルを見ると、無言で首を振る。

「えっ・・・じゃあもしかして。」

「そう、アスカちゃんは知らなかったんだ、そのこと。」

「えええっ!!」

「そうか…そうだったんだ。シンジとレイ一緒にバイトしてたんだ。
あたしに内緒で。」

「こ、これには訳が。」
「そうそう訳があるんだってば。」
シンジとレイがそれぞれアスカに話しかけるが…

「もういい!!」
そう叫ぶと、アスカは走り去っていく。

「ア、アスカ待って!!」

とっさにシンジは走り出すが、
立ち止まると、レイとカヲルに言った。
「ごめん。今日は行けそうにないや。
洞木さんやトウジやケンスケにあやまっておいて。
また、会おうって。」

するとカヲルがやさしく微笑んで、
「うん。わかったよ。シンジ君。アスカちゃんを頼んだよ。」

レイも目に涙を貯めながら、
「ごめんね。シンちゃん。あたしが余計なこと言ったせいで。」

シンジも微笑んで、
「いいよ、気にしなくても。僕がちゃんと話を
しなかったから。じゃあ、行くね。」

そしてシンジも駆けだして行く。
それを見送ると、カヲルはレイの肩を抱いて、
旧友たちが待つ喫茶店に歩いていった。



アスカは駆け出していた。
裏切られた。その思いがアスカの胸を締め付ける。
どうして?いままで、隠し事なんてしなかったのに。
どうして?シンジとレイはあたしに一緒に
バイトをしてること隠してたの?

まさか、まさか。

アスカは立ち止まった。
いつの間にか、日は暮れていた。
冷たい風が、アスカの心を冷やす。

まさか、シンジとレイは・・・

そんなはずはない。

あの時約束したもの、シンジがどちらかを選ぶ時には、
二人にどちらを選んだか教えてくれるって。

でも、もしかしたら。

暗い思いがアスカの心を満たす。

どうしよう。もう私の場所はないのかな?
もういままでのようにはいかないのかな?
あたしはどうすればいい?
シンジとレイが・・・結ばれていたのだったら。

もしシンジがレイを選んだら、ちゃんと祝福してあげよう。
そう思っていた。シンジが選んだのだったらしかたがない。
そう考えていた。でも本当はそうじゃなかった。
あたしって、こんなにシンジのこと好きだったんだね。

「もう、遅いよね。何もかも・・」

そうつぶやくと、アスカはある場所に向かって歩きだした。



「アスカどこに行ったんだろ。」
シンジはアスカが立ち寄りそうな、公園や喫茶店を回ったが、
アスカを見つけることができなかった。

もう時間は七時を過ぎている。最後の心あたりに
シンジは向かっていた。

それは、

第三新東京高校の体育館。

アスカとレイが始めて、シンジに告白した場所。
そしてシンジが三人の関係を壊したくないと答えた場所。
そこにシンジは向かっている。

大学からは歩いて一時間以上かかる上に、今は閉鎖されているので、
ここに来るとは思えない。が、なぜかシンジはここに来ている
のではないかと考えた。

校門が封鎖されていたために、
裏の入口に向かって歩きながらシンジは考えた。
アスカってば早とちりして、本当のこと聞いてくれないなんて。
僕はアスカのためにバイトしてたのに。

入口といっても、シンジ達が壁に開いていた穴を人が通れるように
広げたものである。壁の向う側はちょっとした林になっているので、
閉鎖する時に見つからなかったのであろうか。

そこを通り、体育館の前に向かう。
歩いて行くうちに、月明りごしではあるが、体育館の入口に人が座っているのを
シンジは見てとった。。
シンジが近付いていくと、その影は顔を上げてシンジを見た。

「アスカ、やっぱりここだったんだね。」

「シンジ・・・どうしてここに?」

「なんとなくね。ここなんじゃないかと思って。
例の入口はそのまんまだったし。」
そう言うとシンジはアスカの左隣に座った。

シンジは気づいてなかったが、
二人で座る時にはいつもジンジはアスカの左隣に座った。

「そう。あたしもなんとなくね。
アタシとレイが始めてシンジに告白した場所なんだよね。」

くすりと笑ってシンジは答える。
「うん。覚えてる。あの時は結構びっくりしたかな。」

「そうなの?」

「そうだよ、確かに二人のことは好きだったけど、まさか二人とも
僕のこと好きだったなんてね。」

アスカもクスリと笑う。
「そうなんだ。」

「うん。で、とっさに思ったのは、
それまでの関係を壊したくないってことだった。
僕、カヲル君、アスカ、レイ。四人の関係を壊したくなかったから。
四人とも僕にとっては大事な人だったから。
結局それをそのまま返事にしたんだ。」
シンジは空を見上げた、そこにはほぼ満月に近い月が浮かんでいた。

「でも、あたしもレイもその答えに満足しちゃったから。」

「どうして?」

「やっぱりシンジの言う通り、四人の関係を壊したくなかったからかな。
シンジ、カヲル、あたし、レイ。四人でバカやってる時が一番楽しいから。
レイもそうだって言ってた。」

月を見ながらシンジが言う。
「いつかは決めないといけないんだろうけど。」

悲しそうにアスカが言う。
「でも、シンジはレイを…。」

「そうじゃないんだってば。内緒にしておこうと
思ったんだけど、しかたないよね。」
そう言うとシンジはポケットから小さな包みを取り出した、
それは手のひらに乗る大きさで、きれいにラッピングされていた。

それをアスカに渡して、
「開けてごらん。ちょっと早いけど、誕生日のプレゼント。
レイと一緒にバイトしてたのはこれを買うため。
レイもアスカのプレゼント買うためにバイトしてたんだ。」

その言葉を聞いてアスカは目を見開いた。
そうだったんだ。あたしすごい勘違いしてたのね。
恥ずかしい。すごく。ごめんね。シンジ、レイ。

アスカが包みを開けると、紺色の箱が出てきた。
「これって、シンジ。」

「そうだよ。アスカに似合うかなって思って。」
それは指輪の箱だった、開けると、
赤い石を取り囲むように透明な石が配されている
指輪があった。
アスカはその赤い石を見つめた。
この色ってまるで・・・
それを右手のくすり指にはめる。

「誕生石にしようかと思ったんだけど、その石の色が気にいって。」

赤い石を見つめながらアスカは答えた。
「うん。すごくいい。これ、なんていう名前の石?」

シンジもその指輪を見つめながら言った。
「ガーネットだって。
この色ってアスカの髪の色に似てて、すごくきれいだよね。」

その言葉を聞いてアスカは顔を真っ赤にする。
「そんな・・、シンジって私の髪そんなにきれいだって思ってたの?」

「うん。きれいだよすごく。」
そういって、シンジはアスカの髪にやさしくさわる。
月明りを反射してアスカの髪はきらきら輝いている。
アスカは気持ち良さそうにさわられるままにしている。
シンジにさわってもらうのすごくいいな。

「ありがと、嬉しい。すごく。」
少し頬を赤くして、うつむきながらアスカは答える。

「ねぇ、アスカ、最近思うんだけど、昔みたいに
「なにやってんのよ!バカシンジ!!」
とか言わなくなったよね?どうして?」

「えっ、だってあたしも大学生になったわけだし、
少しはおしとやかにしないといけないかなって。」
恥ずかしそうにいうアスカ

「それだけ?」
不思議そうに聞くシンジ。

「ホントのこと言うと、ヒカリに
「少しは女の子らしくしないと綾波さんに
シンジ君とられちゃうんだから。」って言われて。」

うなずきながら答えるシンジ
「なるほどね。洞木さんがね。」

「で、ワンピースとかスカートとか着て、
おしとやかにしてみたんだけど…」
もしかしてシンジって嫌なのかな?
アスカは少し心配になった。

「そうか。服とかすごく似合ってるし、いいんじゃないかな?
でも無理しておしとやかにしなくてもいいよ。
僕はそのままのアスカが好きなんだから。」

「ありがと。シンジ。」
アスカの胸は幸せで一杯だった。
シンジはあたしのことちゃんと見ていてくれる。

シンジは時計を見た。もう九時になろうとしている。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか?カヲル君とレイにもTELしないといけないし。
TELするのが遅くなったら、カヲル君に何言われるかわからないし。」

アスカは苦笑して、
「そうね、この時間なら御休憩かな?
とかさわやかに言うんだもの困るよね。」

シンジも苦笑して、
「確かにあの笑顔でそんなこと言うんだものなぁ。」

二人は手を繋いで歩きだした。アスカの指輪が月の光を反射して輝いた。



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ver.-1.00 1997-11/04公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jpまで!!

 TIMEさんの第1作『Love Passion』第一章、公開です。
 

 91人目のお隣さん。
 EVA館4つ目の棟、9人目のご入居です!
 

 大学生のシンジ達のある1日。

 ヒカリちゃんに子供がいるとは!

 ケンスケの「イヤーンな感じ」が聞こえてきそうです!

   ケンスケ、薄いですね(^^;
   うう、哀れな・・
   かく言う私もコメント書くまで彼の存在がないことに気が付きませんでしたが(^^;;;

 あ、ヒカリの子供の父親は”トウジ”とは明言されていませんね?
 ま、まさか・・・まさか・・

 そんなわけないか?!

 

 

 シンジから素敵なプレゼントを受け取ったアスカ。

 こちらは決定ですよね(^^)

 

 

 さあ、訪問者の明さん。
 新住人のTIMEさんを感想メールで迎えましょう!


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