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それはある春の日だった。
桜の花びらが舞い散る中、君はそこにいた。
君はまるで天使のようだった。
その時、僕は君に恋をした。

夏のある日、君と一緒に行った
夜、二人で浜辺を散歩した時、
君は「ごめんなさい。」って言ったね。
でも、僕は君を忘れられなかった。

秋、そっけなかった君の本心を知った。
君は彼女と僕のことを・・・
「気の迷いよ。」そう言ったね。

でも、がたくさん降った、 あの冬
雪だるまが見ている前で二人は結ばれた。
君は僕に心を開いてくれた。


「離したくない」


Written by "TIme is like a dream to ME" 97/12/22
This story dedicate to all visitor in Maison EVA.


そのバスはとある停留所で止まった。
指示器を左に出している。
辺りは一面雪が積もっており、
歩道だけでなく、車道にもたくさん雪が積もっている。
降っている雪はやむ気配がなく、
さらに全てのものをおおい隠そうとしている。
その止まっているバスから二人降りてきた。
先に降りた方が傘をさし、もう一人はその傘に入る。
バスはクラクションを鳴らし、走り去った。
そして、二人だけがそこに残された。
「あれ、綾波、手袋忘れたの?」
碇シンジは隣を歩いている、綾波レイの手を見て聞く。
二人とも高校生で、顔つきはまだまだ幼い。
端目からみれば仲の良いカップルに見えただろうが、
実際には二人の関係は少し違っていた。
雪はこんこんと降っており、
シンジのさした傘に次から次へと降り積もってくる。
「うん。うっかりしてて。」
シンジを見てにっこり微笑むレイ。
レイは自分の手に息を吹きかける。
その息は雪のように白い。
さすがに、気温が零下なので、なにもつけてないと寒そうだ。
シンジは何か思いついたようで、
自分の左手の手袋をはずして、レイに渡す。
「じゃ、これを左手にはめて。」
不思議そうに手袋を受けとって左手につけ、聞き返すレイ。
「どうするの?」
シンジはレイの右手を握って自分のコートのポケットに入れる。
「ほら、右手はこうすればあったかいでしょ。」
レイは真っ赤になってうつむく。
いきなりでどう反応していいのかわからない。
「・・うん。」
「じゃあ、今日は家まで送ってくね。」
レイは顔をあげてシンジを見る。
「えっ、でも悪いよ。回り道だし。」
シンジはぽつり、つぶやく。
「いいよ。今日は特別だから。」
「・・そうね。ありがと。」
シンジは手を握っているが、
レイが遠くの存在のように感じられた。
もうこうやって手も握れないかもしれない。
そうなった時、自分は耐えられるのだろうか。
二人は雪が降りしきる歩道をゆっくり歩いていく。
あたりは静かで、二人が雪を踏みしめる音だけが聞こえてくる。
「綾波。」
シンジがレイに話しかける。
「えっ、何?」
レイははっとしてシンジを見る。
「来月の十日だよね。」
「・・うん。」
事の始まりはレイに留学の話が来たことだ。
留学はレイの昔からの夢で、友人たちは祝福したが、
本人はどうしようか決めかねている。
その返事を来月、一月十日までにしなければならない。
そして、シンジはクリスマス・イブの今日、レイをデートに誘った。
ここ数週間レイはずっと悩んでいて、
それをみかねて、シンジは息抜きにデートに誘ったのだ。
そして、二人はイブの街を楽しんだ。
留学のことはこの時ばかりはレイも忘れたようだった。


「ねぇ、碇君。アタシ達が最初に会った時のこと覚えてる?」
レイは探るようにシンジの方を見る。
「・・うん。覚えてるよ。始業式の日に桜の木の下で会ったんだよね。」
遠くを見つめるように話すシンジ。
「そう、アタシ、コンタクト落してすっごく慌てて。」
「なんか、泣きそうになって探してるものだから、ほっておけなくて。」
シンジは傘を傾けて、積もっている雪を落しながら答える。
「一緒に探してくれたんだよね。でも、結局見つからなくて、
二人とも大遅刻でミサトせんせに怒られたっけ。」

「僕は、後で、アスカにしつこく追求されたのが大変だったけど。」
「あはは、どーして、転校生と仲がいいの?って。」
おかしそうに笑うレイ。
その笑顔はこれまでいつも見ていた笑顔だ。
シンジの心を暖かくしてくれる笑みだ。
・・でも、もう見れなくなるかもしれない。
そう思うとシンジは悲しくなった。
しかし、それを感じさせないように明るく答える。
「そうそう、説明するの結構大変だったよ。」
顔を見合わせて笑う二人。
「・・でもね、アタシすごく嬉しかった。みんな素通りしちゃったけど、
碇君は遅刻しちゃうの構わずに一緒に探してくれて。」

シンジは照れ臭そうに答える。
「まぁ、すごく大変そうだったし。」
小さくつぶやくレイ。
「それで、きっかけだったんだよね。」
「えっ、何?」
シンジが不思議そうにレイの顔をのぞき込む。
「ううん。なんでもない。」
慌てて、手を振るレイ。
「・・ねぇ、綾波が留学で行くかもしれないのはどこだっけ?」
話題が変わって驚くレイ。
「えっ、カナダのジュノーだよ。」
「そうか。遠いね。」
シンジはうつむく。
それっきり二人は黙ってしまう。
レイは時間が止まればいい。そう考えていた。
この時、この瞬間がずっと続けばいい。
そうすれば、碇君と一緒にいれる。
レイはそっと、シンジの顔を見る。
シンジは遠くを見ている瞳をしている。
その横顔は始めて会った時からずっと見続けていた顔だ。
でも、今日はいつもと違う気がする。
そう、いつも碇君はやさしい顔つきで
今日みたいに厳しい顔をしないもの。
何考えてるのかな?
やっぱり碇君は行って欲しくないのかな?
綾波が決めたことには何も言わないって言ってくれてるけど、
建前じゃなくて本音が聞きたいな。
留学は夢だったけど、
碇君と離れてまで行きたいの?って考えると、
そんなことないって思っちゃうの。
アタシのことまだ思っていてくれるのなら
行くなって言って欲しいな。
そうすれば、アタシは・・・
ふと、シンジがレイの視線に気づき、
表情をやわらげ、やさしく聞く。
「どしたの?」
首をふるふる振るレイ。
「ううん。なんでもない。」
「ならいいけど。」
そう言い。少し強く手を握るシンジ。
シンジはずっと迷っていた
綾波と離れたくない。
留学なんかして欲しくない。
でも、綾波が自分で決めたことにとやかく言うのは
間違っている気がする。
留学は小さい時からの綾波の夢であるし、
それを実現するために綾波はがんばってきた。
この思いはどうすればいい?
やっぱり、告白すべきなんだろうか、この思いを。
雪は二人の溝を埋めようとするかのように降り続けていた。
ふと、レイが立ち止まり聞く。
「ねぇ、碇君。」
「うん?」
不思議そうにシンジも立ち止まる。
雪が降り積もる音を二人は聞いた気がした。
「今日はありがと。」
レイはうつむいて言う。
「うん。」
シンジは照れ臭そうに答える。
「ねぇ、碇君はどう思ってるの?」
レイは思い切ってシンジに聞いた。
今聞いておかないともう聞けない気がする。
そう感じたからだ。
「何が?」
「アタシが留学するってこと。」
上目使いでシンジを見るレイ。
「・・・すごいと思うよ。昔からの夢を実現するんだから。」
シンジは少し躊躇した。
自分の本心を言うかどうか迷う。
しかし、彼はその本心を告げられなかった。
「ほんとにそう思ってる?」
レイは少し悲しそうにシンジを見つめる。
「・・思ってるよ。」
視線をそらすシンジ。
「・・そう。」
小さくため息をつくレイ。
やっぱり本心は明かしてくれないのね。
寂しくそう考えた。
そして、二人はまた、歩き始めた。
二人の足跡は降ってきた雪が覆い隠してしまう。


さらに数分歩いて、レイの家の前にやって来た。
二人ともこの瞬間が永遠に続けばいいと考えていたが、
それは終ってしまった。
「着いたね。」
レイが明るくシンジに言う。
「うん。」
シンジはうつむいたまま答える。
「それじゃあ、アタシは帰るね。」
そう言って、レイはつないでいた手を離そうとする。
しかし、シンジは手を離さない。
この手を離してしまえば、
もう綾波は手の届かない所に行ってしまう。
もう綾波に会えなくなる。
もう、あの笑顔も見れなくなる。
実際にはまだ、留学まで日があるのだが、
この時シンジを支配していた思いは、
今まで自分の本心を告げなかったことに対する後悔と、
綾波を失うことへの恐怖だった。
「どうしたの?」
レイはシンジの顔をのぞき込む。
「・・・離したくない。」
シンジはレイの手を強く握る。
逃げちゃ、ダメだ。
今、ここで逃げたら、ずっと後悔する。
ふいにシンジはレイを抱きしめる。
傘が地面に落ち、ころころ転がり、そして、止まる
レイの顔がシンジのすぐそばにあった
レイの瞳は街灯を映して、銀色に輝き、
小さめの唇がつややかに輝いている。
シンジはレイの瞳に驚きの色を見てとった。
「どうして?」
レイが聞く、両手はシンジの胸に添えられているが、
つき飛ばそうとはしていない。
「離したくない。」
シンジはレイの瞳を見つめ答える。
シンジとレイの髪や服に雪が降りかかってくる。
「綾波の留学の話を聞いてから、ずっと僕は悩んでいたんだ。
綾波が自分で決めたことなんだから僕が何か言うわけにもいかない。
ずっとそう思って、我慢してきたんだ。」

レイはシンジの表情に苦悩を見てとった。
やっと碇君が本心を明かしてくれる。
レイはじっとシンジを見つめる。
「綾波と離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
綾波は僕のことを友達としか見ていてくれないのはわかってる。
でも、僕にとって綾波がいない生活は考えられないんだ。
一緒に学校に行けないなんて・・
一緒にお昼を食べられないなんて・・
一緒に遊びに行けないなんて。・・
・・・そして、綾波の笑顔を見れないなんて・・
綾波がいないだけで、後はいままで通りの生活だけど、
僕にとっては綾波がいないと全部違うんだ。
それは僕にとっては死んでいるのと同じなんだ。」

シンジは一気に言うと、レイを抱きしめる。
レイはシンジの胸に顔を当ててじっとしていた。
碇君の鼓動が聞こえる。
レイはシンジの背中に手をまわした。
「・・・ごめんね、やっぱり迷惑だよね。」
シンジはレイを離そうとする。
しかし、レイはシンジに抱きついたままで言う。
「ううん。そんなことないの。すごく嬉しい。
ほんとはね、アタシ・・・碇君のこと好きなの。」

シンジは驚いて、何も言えなかった。
「すごく恐かったの、アタシがアスカよりも
碇君のこと好きなのかどうか自信がなくて。」

雪は少し小降りになったが、ゆらゆらと舞い降りてくる。
抱き合う二人の前を自動車がチェーンをつけて通り過ぎていく。
「でも、わかったの。アタシが碇君のこと一番好きだって思えばいいの。
変に我慢しないで、素直にいつも碇君のこと、
好きだって思っていればいいんだって。」

「そうなんだ。」
そして、シンジににっこり微笑むレイ。
「うん。だから、自分の思いに素直になることにするの。好きよ、碇君。」 「ありがと。」
見つめ会う二人。
シンジの瞳にレイが、レイの瞳にシンジが映る。
「アタシが碇君の瞳の中に映ってる。」
「レイの瞳も同じだよ。」
そして、ゆっくり目を閉じる二人。
二人は唇を重ねる。
唇を離し、小さく息をつき、レイはにっこりと微笑む。
「あの子に見られちゃたね。」
レイの指さす方をみると、雪だるまがいる。
ちゃんと炭で顔が作られていて、手も枝と手袋で、
おまけにバケツまでかぶっているフル装備雪だるまである。
「こいつが証人だね。」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
雪はその二人を包むように降り続けていた。


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ver.-1.00 1997-12/23公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jpまで!!

あとがき

ども、作者のTIMEです。
クリスマス記念「離したくない」はいかがだったでしょうか。

実はこの話は「幸せな恋」に関係があります。
ここで、シンジが
「あの時こうできていたから、今一緒にいれるんだから。」
と言っていますが、
「あの時」が今回の話というわけです。
#しかしSSなのに連載みたいなことやってるな。(^^;;

前回に引続きLRSでしたので、大家さん以下LASな方は
「またかー。」とダメージ受けてると思いますが。
今回は別にちゃんとLASも用意してありますよ。(わらい)
タイトルは「二人の絆」です。
これもクリスマス記念ですので、すぐ公開されると思います。

でわ。「二人の絆」のあとがきでお会いしましょう。


 TIMEさんの『離したくない』公開です。
 

 クリスマスの聖なる記念で大ダメージ(爆)
 

 

 離れしまうのか、
 このまま一緒にいるのか。
 

 二人の迷いが伝わってきますね。
 

 気持ちを伝えてないからこそここまで辛いのか、
 伝えていればさらに辛くなっていたのか。
 

 

 結果はHAPPYに落ち着きましたね(^^)
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 アヤナミストを歓喜させたTIMEさんに感想メールを送りましょう!

 

 

 

 

 

 センタリングが解除できない(^^;


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