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「シンジ〜!」

海の方からアスカがシンジに向けて手を振っている。
シンジも軽く手を振り返す。
少し苦笑しながら、波と戯れているアスカを見つめる。
何か、すごく嬉しそうだな。
あんなアスカの表情始めて見た気がする。
どうしてだろう?
昨日だって、あんなこと…
シンジは昨日の夜の出来事を思い返す。
なんか…
思い出すと恥ずかしいな。
でも、確かにアスカは僕に…
と、いきなりシンジの顔に水がかけられる。

「うわっ!」

シンジは慌てて顔をぬぐう。
太陽の陽射しをさえぎるようにアスカが立っている。

「何、こんな時間からたそがれてるのよ〜!」

そしてシンジの手を取る。

「ほら〜行くわよ!」

波打ち際の方にシンジを引っ張って行くアスカ。

「ど、どうしたの?」

シンジは不思議そうにアスカに合わせて駆けながら、尋ねた。

「なんでもない〜」

ばしゃばしゃと水飛沫を上げて海に入る二人。
と、アスカが手を離して、ひょいっと脇に避ける。
そして、シンジに足をかけて転ばせる。

「う、うわ〜。」

シンジは頭から海の飛び込む。
そして、激しくむせながら起きあがる。
それを見てくすくす笑うアスカ。

「な、何するんだよ〜」

シンジは抗議するがアスカに指をちっちと振る。

「鼻の下伸ばしてるシンジが悪いのよ!」

舌をべ〜っと出してアスカが答える。

「誰が鼻の下伸ばしてるって!」

「だって、昨日のコト思い出してたでしょ?」

「う…」

シンジは図星を指され言葉に詰まってしまう。

「ほら〜そういうエッチなシンジにはお仕置き!」

そう告げて水をばしゃばしゃかける。

「わ、ちょ、ちょっとやめてよ〜」

慌てるシンジを見てアスカは笑みを大きくした。
12月の太陽は夏のように輝いていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Christmas Carol

SIDE B ASUKA
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

TIME/1999
24th December 1999
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

それはアスカがシンジに言い出したことだった。

「ねぇ、ちょっと海の方に行ってみない?」

シンジはそう誘われて首をかしげた。

「でも、もう遅いよ?」

「いいじゃない。ちょっとだけよ。せっかくのクリスマスイブなんだから。」

「ミサトさんは?」

「ビール飲んでつぶれてるわよ。大丈夫、書置きしたから心配しないわよ。」

シンジは少しだけ考えてから頷いた。

「わかった。行こうか?」

そして二人はホテルから抜け出した。
二人の格好はまるで真夏のもので、すくなくとも日本であれば、クリスマスに着る服としては適当でない。
しかし二人が今いる場所は日本ではなかった。
二人はオーストラリアに来ていた。
ゴールドコーストと呼ばれている地域の一都市、そこにネルフのオーストラリア支部があった。
二人とミサトは視察と言う名目でオーストラリアに派遣されていた。
砂浜沿いに走っている道路を渡り、砂浜にやってくる二人。

「すっごーい。綺麗な砂浜ね…」

月の光でその砂浜は銀色にきらきら輝いていた。
アスカはゆっくりと波打ち際まで歩いていく。

「砂が細かい〜。」

アスカははしゃぎなが砂を巻き上げゆっくりと波打ち際まで歩いていく。
かなり深く足が埋まるためか歩きづらそうだ。
なんだかんだ言って、こういう時はただの女の子だな。
シンジはアスカを見つめながらそう思った。
シンジも砂浜に足を踏み入れてみる。
くるぶしのところまで足が埋まってしまう。

「こりゃ、すごいや。」

しかし、波打ち際の方までいくと水で固められているせいか、そんなに砂に足が取られなくなる。
シンジが波打ち際まで来たときには、アスカはサンダルを脱いで、海に入っていた。

「気持ちいい〜。」

波に足を洗わせながら、アスカはシンジの方を振り向く。
ワンピースの裾が風ではたはたとひらめいている。

「シンジもおいでよ〜。」

シンジは苦笑を浮かべて首を振る。

「やめとくよ。」

アスカは不満そうに口を尖らせる。

「え〜?気持ちいいよ。」

シンジは自分の履いているジーンズを指差す。

「これだし。」

アスカは波を跳ね上げながらシンジのもとに歩いてくる。

「そんなのまくっちゃえばいいじゃない?」

そう告げると、しゃがみこんでシンジのジーンズの裾をまくり始める。
意外なアスカの行動にシンジは少したじろぐ。

「あ、アスカ。」

「本当に気持ちいいから。」

そして、シンジの手を取ってまた海に入る。
シンジは手を握られてすこしどきどきしていたが、
アスカはお構いなしに、シンジを引っ張って行く。

「ね?いいでしょ?」

満面の笑顔でシンジに微笑みかけるアスカ。
シンジもつられて笑顔を返す。

「うん。なにか少し暖かくて…でもいやな感じじゃない。」

「そうでしょ?」

にっこりと笑ったアスカ。
手を繋いでない方の手でいきなり、シンジに水を引っ掛ける。

「うわっ!」

シンジは慌てて避けようとするが、手を繋いでいるために逃げられない。
頭から海の水をかぶったシンジを見てアスカはくすくす笑う。

「やったな〜。」

シンジはそう答えると、アスカに反撃する。
と、アスカはぱっと手を離して、避けようとする。
しかし、シンジは前もってアスカの動く位置を予想していた。

「きゃっ!」

アスカも頭から水をかぶってしまう。
ニヤリと笑みを浮かべるシンジ。
そして、二人はまるで子供のように水を掛け合った。
 
 
 

砂浜に上がって、二人で波打ち際を歩く。

「砂浜も綺麗だけど、海もすごく綺麗ね。」

アスカのその言葉にシンジもうなずく。
水面が月の光でキラキラと輝いている。

「昼間に来たいな〜。」

アスカはつぶやく。
ふとシンジは気づいたことを口に出す。

「アスカって水着とか持ってきてるの?」

「もちろん。必須でしょ?」

当たり前のことのようにアスカは答える。

「前の水着とは違うやつをね。」

「え?違うの?」

「うん。そんなの当然よ。」

シンジはちいさくため息をつく。

「すごいね…」

「シンジは持ってきてないの?」

「うん。泳ぐとは思ってなかったから。」

アスカは少し考えてからにっこり微笑んだ。

「じゃあ、明日一緒に水着買いに行く?」

「え?」

「アタシが選んであげる。」

「え、で、でも。」

アスカが少し不満そうな口調で尋ねる。

「何?アタシ一人だけで泳げって言うの?」

「い、いや、それは…」

「はい、決まり。明日は二人で泳ぐの。」

アスカはにこにこ微笑みながらぴしゃりと告げた。

「はいはい。」

「はい。は一回。」

「はい…」

シンジはやれやれとばかりに首を振った。
 
 
 
 

空一面に光る星。
そして打ち寄せる波。
シンジとアスカの二人は波打ち際で流れ着いた流木に腰かけていた。
打ち寄せる波の音を聞いていたアスカだったが、急にシンジの方を見る。

「それにしてもちょっと変な感じよね…」

シンジは閉じていた瞳を開けてアスカを見る。

「何が?」

「だって、今日は12月24日でしょ?」

シンジは頷く。

「うん。そうだけど。」

「なのに、私たちが着ている服はこんなんで。」

アスカは自分が来ているキャミソールを指差す。

「気温はこんなに高くて。」

アスカは手を目線の位置上げた。

「うん。」

「ね?不思議でしょ?クリスマスなのに。まるで真夏だなんて。」

「やっぱりクリスマスは寒くなくちゃ駄目?」

「そうよ。雪が降らないクリスマスなんて、クリスマスじゃないわ。
第一、サンタさんが暑いじゃない?」

くすりと笑みをもらし、シンジは答える。

「まぁ、そりゃそうだけどね。」

そう答えてシンジは空を見上げる。
空には見覚えのない星が輝いている。
アスカもシンジと同じように空を見上げる。

「何か違うね。」

「そうだね。」

ふいにシンジは外国にやってきたことを実感した。
 
 
 

アスカは相変わらず、ぼんやりと両手を付いて空を見上げていた。
シンジは目の前の海から視線をアスカの横顔に向けた。
なんだろう?
あんな風にアスカと笑ったのは始めてだったような気がする。
今だってこんな風に二人でいるし。
なんて言うんだろ?
最初の頃感じていたアスカとの壁が少しづつ無くなってきているのかな?
二人でユニゾンしたときもこんな感じだった。
でも…
良く考えれば、いや良く考えなくてもわかったかもしれないけど。
アスカも普通の女の子なんだよね。
起こったり、笑ったり、泣いたり(見たこと無いケド)。
アスカだって、普通の女の子なんだよね。
だから、自分だけ違うとか、特別だとか考えなければいいのにね。
そうすれば、もっと僕達は…

「ねぇ、シンジ…」

ぽつりとアスカがつぶやいた。

「何?」

アスカは少し考えていたようだったが、首を振って告げた。

「ううん。なんでもない。ごめんなさい。」

シンジはアスカの口から出た言葉に驚いていた。

「アスカがごめんなさいなんて言うの、始めて聞いた。」

それを聞いてアスカは真っ赤になりながらシンジに食ってかかる。

「なによ!いいじゃない。人がせっかく素直に言ってるのに。」

「いつもこれくらい素直だったら…」

アスカが目を細めてシンジを見る。

「ふうん。シンジは普段のアタシをそういう目で見ているのね。」

シンジはしまったとばかり口を押さえる。
アスカは何度も頷いて言う。

「なるほど、良くわかりました。シンジがアタシをどう見ているか。」

「い、いや…その…」

あたふたしているシンジを見て、アスカは耐えられなくなったのか吹き出した。

「もう…そんなにうろたえなくてもいいでしょ。」

くすくす笑いながらアスカはそう告げた。

「良いわよ、許してあげても。」

シンジは探るような目つきでアスカを見つめる。

「その代わりとか言いたそうだね。」

にっこり微笑んでアスカは言った。

「良くわかってるわね。じゃあ…とりあえず、目を閉じてくれる?」

なんだろ?
ビンタなのかな?
シンジはおっかなびっくり瞳を閉じる。

「絶対開けちゃ駄目よ。」

そのアスカの声にこっくりうなずくシンジ。
怖いな。
痛いだろうな。
身体をこわばらせるシンジ。
一瞬胸に何かの感触を感じる。
しかし、それが何かを考える前に唇に何か柔らかい感触が。
シンジは驚いて瞳を開ける。
そしてシンジの瞳に写った光景。
アスカが僕に…
唇の感触が消え、アスカがシンジから離れる。
シンジはただまじまじとアスカを見つめるだけだった。

「アスカ…」

そんなアスカはシンジに何か答えようとしたが、何かに気づいたように指を上げる。

「あれ…」

「?」

シンジは不思議に思いアスカの指を指した方を見つめる。
その方向からいくつかの流星が流れ落ちていた。

「流星?」

「うん。そうだね。」

その流星の数はだんだん多くなりやがて空を埋め尽くした。
何分経っただろうか、その流星雨は始まった時と同じように唐突に終わった。
シンジはアスカを見て言う。

「雪は降らなかったけど…」

「けど?」

「星が降ったね。」

その言葉にアスカは嬉しそうに頷く。

「星降るクリスマス…か。」

二人はそのまま寄り添うように立って星空を見上げ続けた。
 
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 1998_12/24公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

どもTIMEです。

クリスマス記念SS「Christmas Carol」アスカ編です。

しかし、クリスマス記念じゃないですねぇ、これじゃあ。
まぁ、これも一つのクリスマスのカタチということで。

さて、クリスマス記念は他にレイ編、マナ編があります。
レイ編は二人でオーナメントに買い出し行った時のシンジ、レイのお話です。
マナ編はイブの帰り道でのシンジ、マナのお話です。

これで今年の更新はこれで終了予定です。
来年も早いうちに更新再開したいですね。

それではみなさん良いお年を。

でわ〜。
 






  ここっここっっ





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