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それはある初夏の夜。
夜中の風が少しづつ暖かくなり始めた夜。
三日月が夜空にかかり、緩やかにそよぐ風が新緑の葉を生い茂らせた木々をやさしく揺らす。
彼の部屋も薄く開いた窓から夜風が入り込みカーテンをそよがせている。
彼は小さくため息をつくと、ステレオのリモコンを操作し、CDの再生を止める。
ステレオの電源を切ると彼は仰向けからうつぶせに身体の姿勢を変える。
うつぶせになった彼の視線の先には机があり、そこには写真立てが置かれていた。
写真立てには彼と一人の女の子が並んで写っている写真が収まっている。
彼はもう一度ため息をつくと、瞳を閉じる。
聞かなければ良かった。
彼女の過去の男の事なんて、知る必要などなかったのに。
どうして、聞いてしまったのだろう?
もう、終わったこと。
彼女はそう言ったけど。
でも…
気になってしまう。



結局…
僕は…
彼は唇をゆがめて自嘲気味に苦笑する。
妬いているんだな。彼に。
今、彼女が僕に向けている笑顔はかつて、彼に向けられていたという事に。
はぁ…
そんなの気にしないつもりだっただけどな。
どうして、こんなに落ち込むのだろう?
昔は昔。
彼女がもう、済んだ事と言うならば、そうなのだろうに。
どうして、僕はこんなに落ち込んでいるのだろうか?



まったく…



僕って奴は…



 
 
 
 
 
 
 
 

部屋150000ヒット記念SS

二人の恋

TIME/2000
 
 
 
 
 

彼、碇シンジは瞳を開けると起きあがり時計を見る。
もう8時か…
いいかげん、落ち込むのはこれくらいにしておかないと…
彼女と別れて部屋に戻ってきたのは6時だから、かれこれ2時間近くずっと落ち込んでいたことになる。
当然、夕食は取っていない。
シンジは勢いをつけてベッドから立ちあがる。
とりあえず、風呂に入ろうかな。
夕飯はその後でいいや。
あまりおなかもすいていないから、軽いものを取れば…
彼は大きく背伸びをして部屋から出て行く。
バスルームまでリビングを突っ切って歩き、バスタブにお湯を張り始める。
さて…と。
シンジはリビングの中をぐるりと見まわす。
リビングは8畳ほどで背の低いテーブルと、2人掛けのソファが置かれていた。
もちろん、テレビ、ビデオ等のAV機器も設置されている。
彼の住んでいる部屋は2LDKだった。
一人暮しにしては広いが、シンジは1部屋を物置にして残り1部屋を寝室にしている。
なぜか昔から物を捨てられない性格なので、どうしても物置といったスペースが必要となってしまう。
とりあえず、お湯が埋まるまで何しようか…
10分ぐらいだけど、いつも中途半端なんだよなぁ…
そんなことを考えながら、テーブルの上に置いてあった雑誌に手を伸ばす。
彼の住んでいる第3新東京市のタウン誌だった。
第3新東京市はまだ開発段階で一月もあれば街並みが変わってしまう。
そのため、こういった街の状況を紹介するタウン誌は市民からはかなり重宝がられている。
そのせいか第3新東京市のタウン誌は今や10種を超えている。
今、シンジの見ているものは比較的古くから発行されているものだった。
ソファに座り、ぱらぱらとタウン誌をめくるシンジ。
ふと、一つのお店の紹介に目を止める。
近くにこんなお店できたんだ。
それはシンジが住んでいる地区と同じ地区にオープンしたアクセサリショップを紹介した記事だった。
見るからに女性向けのアクセサリの写真が何点か掲載されている。
今度誘ってみるかな…
シンジがそんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴った。
なんだろ?
シンジは首をかしげて、時計を見る。
こんな時間に、トウジかな?
中学時代からの親友の名前を思い浮かべながらシンジは立ちあがる。
っと、まずお風呂止めてからに…
シンジはバスルームを寄ってから、インターフォンに取りつく。
受話器を取り上げると、玄関の映像が小さなモニターに移る。
しかし、夜で、モノクロなため、人影しか分からない。
これじゃ、あまり意味ないんじゃ?
シンジは苦笑しながら声をかけた。

「どちら様?」

その人影はインターフォンに顔を寄せて答えてくる。

「良かった…私です。」

その声を聞いてシンジは驚いた表情を浮かべて答える。

「もしかして、マナ?」

「そうよ。他の誰だと思ったの?」

少し、不機嫌そうな声でマナが答える。
シンジは慌てて取り繕う。

「ご、ごめん。こんな時間にどうしたの?」

「今日会った時に渡そうと思っていたもの渡すの忘れてて。」

「ちょっと待ってね…」

シンジは受話器を置くと、玄関に向かう。
今日、何か借りる約束してたかな?
首をかしげながら、玄関のロックを解いてドアを開ける。

「こんばんわ。」

ドアの向こう側でマナがにこにこ微笑みながら言った。

「こんばんわ。で、渡すものって何だっけ?」

「これ。」

マナは小さな紙袋をシンジに見せる。

「ほら、CD貸す約束してたじゃない?」

シンジはその紙袋を受け取って中を覗く。
CDのケースが3枚、その紙袋の中に入っていた。

「あ、そうか…ありがと。」

シンジはマナに微笑みかける。

「でも、わざわざ寄ってくれなくても、今度会った時でも良かったのに。」

「ちょっとこっちに用事があったから、その帰りに…ね。」

マナはあいまいに微笑んでそう答えた。

「なるほど…」

「それにシンジの部屋見てみたかったから。」

「じゃあ、ちょっと上がってく?アイスあるよ。」

アイスと聞いてマナが嬉しそうに頷く。

「うん。寄ってく。」

「マナってば、ほんとアイス好きだよね。」
 
 
 
 
 
 
 

「へえ、すごく広いね。いいなぁ、私もこんなところ住みたい。床も綺麗なフローリングだね。」

マナはリビングの床に座りこみ、フローリングをまじまじと見つめる。

「まだ、新築だからね。」

「えぇ、新築なんだ。いいなぁ。」

マナはちょこんと床に座ったまま視線をソファに移す。

「ねぇ、このソファって二人掛けだよね。」

「うん。そうだけど。」

マナはじぃっとシンジの顔を見つめる。
シンジは不思議そうにマナを見つめ返す。

「どうかしたの?」

上目使いでシンジを見るマナ。

「今まで何人の女の子と一緒に座ったの?」

「へ?」

「だって…ほらここに、ながぁい髪の毛が…」

マナはソファを指差しながらシンジに告げる。

「え?髪?」

シンジはマナの指差す方を見つめる。
確かにそこには長い髪の毛が絡み付いていた。

「シンジさんはおモテになるようですわね。」

すねたような口調でマナが告げる。
シンジは苦笑を浮かべて答える。

「いや、これはたぶん…」

シンジはその髪をまじまじと見つめた。
ここ数日でこの部屋に遊びに来た女の子といえば…
一人しかいない。

「アスカの髪じゃないかな?おととい遊びに来てたから。」

「アスカさん?」

マナは首を傾げて見せる。
シンジからは幼馴染の女の子と聞いているその名前。
マナはまだ会ったこともない女の子の髪をじっと見つめた。
本当なのだろうか?

「そうだよ。」

シンジは確信に満ちた声で答える。

「ほんとに?」

たぶん、正しいのだろうと思いながらもd、それでも確かめてみるマナ。
まだ長いとも言えない付き合いだが、それでもシンジが嘘を言っているならば見破る自信がある。
嘘をつくと、シンジがあまりにもバレバレな反応をしてしまうという側面もあるのだが。

「ほんとに。」

じっとシンジの瞳を見つめるマナ。
シンジも見つめかえす。
しばらく、そのままシンジを見つめていたマナだったが、視線をそらして小さな声で答える。

「わかった。信じてあげる。」

ただ、マナ自身はそのアスカに対しても不安を感じていた。
シンジの幼馴染で高校までずっと一緒で大学は別になったが、
それでも定期的にシンジの部屋にやってくるという女の子。
シンジの彼女になったばかりのマナにとっては、十分気になる対象である。
 
 
 
 
 

時計はすでに9時半を指していた。
なんやかんやとおしゃべりをして、こんな時間になってしまった。
シンジは壁にかかっている時計を見つめて、マナに告げる。

「そろそろ、帰らないとバスの終電がなくなるよ。」

現在第3新東京市内の移動手段として一番便利なのはバスである。
といっても、専用レーンを使った無人運転車両を使っている。
ただし、マナが住んでいる地区はまだ開発段階で入居者も少ないため、バスの本数が少なかった。
それでも中央ターミナルといった、街の中央地区からの発車本数は多いのだが、
シンジが住んでいる地区のような周辺部からの発車本数はあまり多くない。
ただし、マナの住んでいる地区もあと数ヶ月で開発も終わり、
本格的に入居者の募集が始まるようなので、
その頃になればバスの本数も飛躍的に増加するはずだった。
シンジの問いに意味ありげな笑みを浮かべてマナは答えた。

「実は…もうバス終わっちゃって…」

「え?」

シンジはきっちり10秒ほど固まった。
マナは言い訳するように言葉を続ける。

「今日、土曜日だったんだね…平日だと思ってたから…」

普通、平日と土曜日を間違えるはずは無いが、
まだ一般教養の講義しか受講していない大学生は平日も土日も関係無くなってしまう。
それだけ、暇な時間が多いからだ。
また、いつもバスを使うときは平日で土日はバスを使わないため、
つい、日常の癖で平日ダイヤでバスの時間を考えたりもする。
シンジは首をかしげながらマナの持っている携帯端末を借りてバスの時刻表を表示される。
確かに、平日ダイヤであればバスの最終は10:00だったが、土日ダイヤでは9:25となっている。

「どうするの?」

なんとなく嫌な予感を感じながらシンジは尋ねた。
マナは上目使いでシンジを見ながら答える。

「今日、ここに泊めてくれない?」

予想通りの答えにシンジはため息をつく。

「やっぱり、そうくると思ったよ…タクシーで帰るってのは?」

「私、今月ピンチなの。」

両手を合わせてシンジを見つめるマナ。

「はぁ、立てかえるにしてもマナの家まで結構距離あるよね。」

携帯端末を使って現在位置からマナの自宅までのタクシー料金を検索するが、結構な料金が表示された。
シンジは腕を組んで考え込む。
そりゃ、ウチに泊めるのが一番お金がかからないけど…
でも、いいのかな?
仮にも彼氏の部屋に泊まるって事は…
まぁ、僕が何もできないって踏んでるのかもしれないけど…

確かに、僕にはそんな度胸ないし…
でも、やっぱり、まずいんじゃないかな…

それに…

「両親にはどう言うの?」

マナは一人暮しではなく両親と一緒に暮らしていた。
当然、外泊となると、母親はともかく父親は何か言うのではないか?
しかし、マナは平然とした表情で手を振って答える。

「あぁ、いま両親とも家にいないの。
母さんは海外出張だし、父さんはプロジェクトが大詰めだとかでしばらく会社に泊まり込みだし。」

「なるほど。」

シンジはそう答えながら、かなり困っていた。
さて、どうしよう?
やっぱり、泊めるしかないのかな?
でも…
踏ん切りがつかないな。
要は僕が大丈夫かどうかにかかっているんだよね。
どうだろ…
シンジの視線を受けてマナがにっこりと微笑む。
その笑みはシンジは十二分にかわいく見える。
そんな風に笑われると…



だって、一緒にいたいか?いたくないか?って聞かれたら、そりゃ、一緒にいたいし。



ええい、ままよ。
なるようになれ!
シンジは小さく息をついて答えた。
泊まってもいいよ。と。
 
 
 
 
 

キッチンの方から何かを炒める音が聞こえる。
シンジはリビングのソファに座って雑誌を広げていたが、キッチンの方に視線を向けていた。
そこにはマナが立っている。
エプロンを身につけた後姿を見つめながらシンジは小さくため息をつく。
それは先ほどまでとは違う意味のため息だった。
う〜ん。
やっぱり、女の子がキッチンに立っている姿って何か良いなぁ。
まるで、これじゃあ…


シンジの顔が真っ赤になる。
慌てて頭を振る。
駄目だ、駄目だ。
何考えてるんだ?
そんなのこと…



さらにシンジの顔が赤くなる。


でも、それってちょっと良いかも。


仕事から帰ってくると、マナが出迎えてくれて。
「お疲れさま、ご飯にします?お風呂にします?」とか聞いてくれて…
それで…


シンジ、妄想モード突入。

マナの方は茹でているパスタを一本取り出して、柔らかさを確かめる。
オリーブオイルで軽く炒めた野菜を別の皿に取っておき、茹であがったパスタを軽く炒める。
少しだけ焦げ目を付けてから、野菜をまぜてトマトソースを加えてさっと混ぜ合わせる。
火を止めて、ソースが馴染むように最後にもう一度だけかき混ぜてからさらに盛り付ける。

「シンジ、できたわよ。」

そのお皿をキッチンの小さなテーブルに置いて、リビングに向かって声をかける。
テーブルにはすでに盛り付けられたサラダも置かれている。

シンジはマナの声ではっと我に返る。
慌てて立ちあがるとキッチンに向かう。
すでにテーブル上にはパスタとサラダが並べられている。
シンジが座った隣にマナが椅子を持ってきて座る。

「うわぁ。おいしそうだね。」

シンジがフォークを持つより先にマナがフォークを持ち、スプーンを使って器用にパスタを巻きつける。
そして、シンジの口元に持っていくと一言。

「はい、あ〜んして。」

「え?」

シンジ固まること10秒。

「ほら、食べさせてあげる。」

「え、いや、だって…」

あせりまくるシンジ。
それをみてマナはくすくす微笑みながら告げる。

「今日は無理言って泊めてもらうし、これくらいはやらせて。」

「いや、でも…」

何か言いかけるシンジにマナは言葉をかぶせる。

「ほら、あ〜んして。」

黙ってマナを見つめるシンジ。
その瞳は悪さをして起こられている少年のようだった。
マナはにっこり微笑むと、もう一度言った。

「あ〜ん。」

シンジは仕方なく口を開ける。
マナはパスタを口の中に入れる。
もぐもぐとシンジはパスタを食べる。
もう頬は真っ赤だった。

「どう?おいしい?」

マナがシンジの顔を覗きこむように尋ねる。
シンジはこくこくとうなずく。

「じゃあ、次ね。」

今度はサラダの方に手を伸ばすマナ。
この調子で二人の夕食は終始した。
 
 
 
 
 

「はぁ…まいったな。あ〜んなんて、恥ずかしいことさせるんだから…」

シンジはバスタブの中で大きくため息をつく。
とりあえず、マナが洗い物をしている間にシンジが先に風呂に入ることになった。
でも…ちょっとだけいいかも。
マナと一緒に暮らしたら、毎日あんなふうになるのかな?

「はい、シンジ。あ〜ん。」

「あ〜ん。」

「どう?おいしい?」

「マナが作ったものなら、なんでもおいしいよ。」

「あら、嬉しい。次は何にする?」

とか言いながら…
またしてもシンジ、妄想モード突入。
 
 
 
 

マナは食器を全て洗い終えて食器乾燥機を動かし始める。
さて…と。
洗い物は全部終わったし。
後はお風呂を借りて…
リビングに入り、ソファに座る。
テーブルの上に置いてあったタウン誌を手に取るが、すぐ戻してしまう。

でも、さっきのシンジ。
すごく可愛かったな。
大きく口を開けてあ〜ん。って。
ちょっと恥ずかしかったけど、でも、何かすごく嬉しかった。
パスタもおいしいって言ってくれたし。




はぁ。
小さくため息をついて時計を見るマナ。
もうじき11時か…



シンジ。
ちゃんと信じてくれてるよね。
バスの時間のこと…


本当は、知っててやったんだけど…


大丈夫だよね。
問題はタクシーで帰されたらどうするか、だったけど…
それもうまくいったし…

それにシンジだって私と一緒にいたいって思ってくれてるんだったら、泊めてくれるって思ってたし。
そういう意味ではシンジは私と一緒にいたいって思ってくれてたんだよね。


嬉しいな…

そう思っていてくれるんだったら…



 
 
 
 
 
 

結局、マナの「一緒に寝る?」の一言はシンジにあっさり却下されて、
シンジは物置になっている部屋で寝て、マナはいつもシンジが使っている寝室を使うことになった。
シンジは床に客用(一応、客用にシングルの布団セットは用意していた)の布団にもぐりこみ、
窓のカーテンを開けて、夜空を見ていた。
はぁ…
なんとか、ここまで持ちこんだ…
後は寝てしまえばいいんだけど…
はぁ…
寝れるわけないよな。
だって、自分の一番好きな女の子が隣の部屋で寝てるなんて…
そんなこと考えるだけで、寝れなくなるよ…
もう、あきらめて、ずっと起きてるか?



でも…


どうして、マナは泊まるなんてこといったのだろう?
良く考えてみれば、この近くだったら、マナの知り合いも何人か住んでいなかったっけ?
たしか、同じ学科の女の子が何人かこの地区にいたはずなんだけど…


どうして、ここに泊まるなんて…







まぁ、いいか…
おかげで、マナが来てからあのことで悩まずに済んだし。
シンジは苦笑を浮かべる。
って、思い出しちゃったし…



どうしてなのかな?
マナはあんなに僕のことを慕ってくれてるのに。
僕はマナの過去のことでうじうじ悩んでる。



はぁ…
気にしないようにするしかないのは分かっているんだけど…



と、部屋のドアがノックされる。
シンジはどきりとし、声が震えないように答える。

「はい、開いてます。」

シンジは必要はないだろうと思って施錠しなかったドアを少しだけ開けてマナが覗き込んでくる。

「シンジ…起きてる?」

「うん。起きてる。」

「ねぇ…少しだけお話したいの。入って良いかな?」

シンジは少し迷ったが、頷いてみせる。
マナはぶかぶかなシンジのパジャマを着ていた。
裾をまくっているがそれでもまだ大きいようだった。
座っているシンジの向かいにちょこんと座るとじっとシンジの瞳を見つめる。
その瞳は月光できらきらと水銀のように輝いて見えた。

「灯り…つける?」

そのシンジの問いにマナは黙って首を振る。

「そう…」

シンジは落ち着かない様子でマナを見つめる。
いつものマナの様子とは微妙に違って見えたからだ。
それはいつもマナを見るときには明るい陽射しの下で見ていたせいかもしれないが。

「あのね…」

マナが口を開く。

「今日のことだけど…」

「今日?」

シンジは話が見えないかのように首をかしげる。

「そう…あの…その…」

かなり言いづらそうにマナは口篭もってシンジを見つめる。
シンジはそんなに言いづらいなら…と口にしようとしたが、
マナは意を決したように言葉をつなぐ。

「私の昔…付き合っていた…人の話…だけど…」

「うん。」

シンジは胸がきりきり痛むのを感じた。
どうして、こんなに…
マナはじっとシンジの瞳を見つめて告げる。

「何かシンジに誤解されたんじゃないかって…思って…」

「誤解?」

シンジは首を傾げてみせる。
マナの話の中で特に誤解するようなことはなかった気はするけど…
それとも鈍くて気づかなかっただけか?

「そう…あの…あの人のことはもう、ちゃんと割り切ってるから…」

シンジを見つめる瞳が潤み始めた。

「だから、あの人を忘れるために…その…」

シンジはやっと、マナの言いたいことを理解した。
つまり、以前付き合っていた人のことを忘れるために、シンジと付き合ったわけではないとマナは言いたいのだと。

「シンジのことは突然だったけど…でも、ちゃんと自分で考えて決めたことだから…」

そこまで言ってマナは耐えきれなくなりうつむいた。
涙がきらりと月光を反射して床に落ちる。

「…ごめんなさい…ちゃんと言うつもりだったのに…」

シンジはそんなマナを見て首を振る。
そして、マナの頭をなでる。

「気にしないで…」

マナがしゃくりあげながら顔を上げる。

「僕はそんなの全然気にしてないから…」

「でも…」

マナは涙をぬぐってシンジに詰め寄る。

「その話をした後のシンジ、何か態度が変だった。だから…私…」

シンジはその言葉聞いて、思わずマナを抱きしめる。
まさか…そんなことで。
君はそれで、僕が誤解したと思ったのかい?
シンジはマナの耳元に顔を寄せて囁く。

「ごめん。まさか、そんな風に見られていたなんて…」

マナの鼓動を感じる。
自分の胸の中にいる女の子は華奢で壊れてしまいそうだった。

「違うんだ。僕は嫉妬していたんだ。
君が僕に向けてくる笑顔は、以前はその人に向けられていたんだって、そう思うと、たまらなく…くやしくて。」

少しだけみじろぎしてマナが答える。

「嫉妬…?シンジがあの人に?」

「ごめん。本当はそんなこと気にしない方が良いんだろうけど…つい…」

流れる沈黙。
月光が照らす部屋の中で二人は寄り添ってお互いの存在を感じていた。
しばらくして、そっとマナが顔を上げてシンジを見る。

「嬉しい…シンジってば、妬いてくれてたんだ。」

シンジは恥ずかしそうに視線を逸らせながら小さく頷く。

「そりゃ、やっぱり…ね…」

そんなシンジの態度を見てマナは嬉しそうに微笑む。

「嬉しい。すごく嬉しい。」

シンジは小さく息をつくと、開き直ったかのように告げる。

「だから、二度と僕の前でその人の話はしないでくれる?」

マナはこくこう頷きながらシンジを見つめる。

「シンジがして欲しくないなら。」

シンジはじっとマナの瞳を見つめて答える。

「して欲しくない。」

「うん…わかった。」

そのままじっと見詰め合う二人。
そして、どちらからともなく瞳を閉じる。
重なる二つの影。
マナはシンジの耳元に囁く。

「シンジ、すごくどきどきしてるよ。」

「そりゃ、マナを抱きしめてるから。」

「ずっと、このままでいたら、シンジ大変?」

「そんなことないよ。ずっとこうしていたい。」

重なった影はいつまでも一つのままだった。
 
 
 

FIN.
 
 
 
 







NEXT
ver.-1.00 2000/05/11公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!





あとがき

どもTIMEです。
部屋15万ヒット記念SS「二人の恋」です。

というわけで遂に15万ヒットまで来ました。
ここのところヒット記念の公開が遅かったので今回は早いうちにだそうと思っていたんですが、
今回はなんとかいつも通り公開できそうですね。

今回は付き合い始めた二人のお話ですが、
まぁ、彼女の過去の男の事なんて気にするだけ無駄なんですが、
それでも気にしてしまうのが悲しい男の性ってやつなんでしょうか?

さて、このところSSばかり公開して連載の更新が止まっていましたが、次から更新を再開していきます。

では、また連載、SSでお会いしましょう。





 TIMEさんの『二人の恋』、公開です。







 きっちりきっちりカウント記念を重ねるTIMEさんの
 今回はお部屋15万記念作〜



 前回のめぞん250万から連発です☆

 すごいペースですっ




 自分の前と
 相手の前と


 気にしないでくれって言っても気にちゃうシンジ君
 気にしないぞっても気にしちゃうシンジ君

 しゃあないしゃない
 そんなもんです〜



 自分達の思い出でで上書きしちぇうのです。

   上書きって (^^;


 しゃあないしゃあない
 そんなものなのです〜




 さあ、訪問者のみなさん。
 今回もTIMEさんに感想メールを送りましょう!









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