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僕は一人で川の土手に寝転がっていた。
柔らかな草の感触。
頬をなでていく風。
どこからかかすかに菜の花の香りがする。
暖かい陽射し。
眠っているような、起きているようななんとも言いがいた感じ。
ある春の午後。

と、急に頬に冷たい感触。
僕は思わず声を上げて目を開ける。
陽射し越しに見えたのは、僕が良く知っている顔。

「レイじゃない?どうしてここに?」

レイはにっこりと微笑んで、答える。
いつもの柔らかな笑み。
見ている人を引き込んでいきそうな笑み。

「シンジのお家に行ったら、ここだろうって。」

「そうなんだ…携帯に電話してくれれば良かったのに。」

「そうか…そうだね。」

くすりと笑みをもらしてレイは首をかしげた。
 
 
 
 
 

部屋140000ヒット記念SS

さくら、さくら

TIME/2000
 
 
 

レイはシンジの隣に並んで座ると、川面をまぶしそうに見つめる。
ちょうど太陽の反射光で、川面はきらきら輝いている。
シンジは寝転がったまま空を見つめている。
真っ青な空に所々真っ白な雲が浮かんでいる。
風が二人の右方向から吹く。
シンジは瞳を閉じて、レイは流される髪を片手で押さえてその風をやり過ごした。

「で、僕に何か用?」

シンジは視線をレイにむけて尋ねる。
レイは持っていたジュースのプルトップを引きながら微笑んで首を振った。

「ううん。別に用事はなかったんだけど…シンジ、何してるのかなぁって思って。」

「そうなんだ…」

一口飲んでレイはそのジュースをシンジに勧める。
シンジは上半身だけ起こして、受け取ると、一口飲む。
それをレイがいつ側とは反対の平坦なところに置く。
ひざを抱えるように座っているレイを見て、シンジはくすりと笑みをもらす。
レイはシンジに視線を向け不思議そうに首をかしげる。

「どうしたの?」

シンジは首を振って答える。

「いや、さっき寝ている時にレイの夢を見たような気がするなって…」

「私の?」

レイが体を動かしたのに合わせて髪がひと房、レイの顔にかかる。
それをかきあげるしぐさを見ながらシンジは答える。

「うん。二人っきりでどこかの桜の並木を歩いていたような木がする。」

「さくら…」

「うん。」

そう答えると、シンジはまた仰向けに寝転んだ。
二人の背後にある堤防上を数台の自転車が通りすぎていく。
にぎやかな話し声が近づき、そして遠ざかっていった。
数キロ先の鉄橋上を電車が通りすぎていく。
二人はしばらく黙ったまま、座っていた。
シンジは寝転んだまま、瞳を閉じている。
レイは何かを考えるかのように、じっと川面を見つめる。
暖かな春の午後、二人はお互いの存在を感じながらそこにいた。
 
 
 
 
 
 

それは新学期が始まった次の日の夜。
下校時間のこと。
すでに日は落ち、空に星が輝き始める頃。
下駄箱を出て、校門を出ようとするレイを呼びとめる声が彼女の後ろから聞こえてきた。
彼女は立ち止まると、ゆっくりと振りかえった。

「レイ…今帰り?」

そう告げて、シンジが駆け寄ってくる。
レイはシンジが追いついてくるのを待って、並んで歩き始めた。

「うん。ちょっと、今日は用事があって、図書館に行っていたから。」

「ふうん。図書館…か。」

「シンジはどうしたの?」

そのレイの問いにシンジは軽く肩をすくめて見せる。

「クラスの奴に付き合わされて。ちょっとだけ軽音に顔出してた。」

「シンジはクラブしないの?」

校門から表通りに繋がる小道を歩いて二人は大きな道路に面した歩道に出た。
点滅している歩行者用信号を見て、小走りに横断歩道を渡る。
そのまま右手の歩道を並んで歩き始める二人。

「うん。それだけになっちゃうのがイヤで。
いろいろやりたくて、バイトとかも自分の趣味とかの時間も欲しいし。」

「ふうん。」

レイはそう呟き、視線をシンジからはずして、正面に向ける。
ゆっくりと上っている歩道の頂上辺りで街頭で薄く光っている。
少し視線をあげると春の星座が少しずつ輝き始めている。
太陽が沈んだ方はまだ薄くだか明るい。

「でも、レイだって、クラブ活動してないでしょ?どうして?」

「私もシンジと同じ理由かな?
やっぱり自分の時間が欲しいし、クラブ以外の友達も一杯欲しいし。」

「なるほど…」

坂を登りきり、二人はゆったりと下っていく歩道の途中の交差点を左に曲がる。
10分ほど歩いて、小さな路地を今度は右に曲がる。
その間、クラスでの出来事、テストの話、修学旅行の行き先など、
二人は他愛もない会話を続けていた。
ふと、レイはシンジの顔をまじまじと見つめ出す。
シンジがその視線に気づいてレイを見る。

「どうかした?」

レイは我に帰りくびをふるふると振る。

「ううん。ふと、思ったんだけど、私とシンジがクラス分かれるのって凄く久しぶりだね。」

「そうかな…うん、確かにそうかも。小学校の6年からずっと一緒だったから…」

シンジがしみじみとした口調で呟く。
レイもこくこく頷いて、笑みをもらす。

「もう、ここまで来ると腐れ縁だね。」

「そうだね、お互い考えていることお見通しだし…」

レイはくすりと笑って答える。

「そうかな?」

「そうじゃないかな?違うかな?」

シンジから視線を移してレイは答える。

「私にはわかんないこと一杯あるよ、シンジのことで。」

「そうなの?」

意外そうな表情を浮かべてシンジは答えた。

「例えば?」

「例えば…」

レイはそこまで告げて、ふいに黙り込むとシンジを見て、にっこり微笑む。

「それは内緒。」
 
 
 

レイはバスタオルを頭に巻いて、自分の部屋に戻ってきた。
軽く髪を押さえてからタオルをはずす。
はらりと髪がこぼれる。
ドライヤーのコンセントを繋いで、髪を乾かし始めるレイ。
その後、丁寧にブラッシングをして髪をまとめる。
これをやっておかないと、朝うまく髪がまとまらない。
レイはブラシを置くと、鏡の中に移っている自分の顔をまじまじと見つめる。
いつからなのかな…
私がシンジのこと好きだって気づいたのは…
一番始めに出会ったのは、私が引っ越してきて、近所の公園でいじめられたとき。
泣いてた私をかばって、家まで送ってくれた。
その後、一緒に遊ぶようになって、鈴原君や相田君やヒカリと友達になって、
一緒に5人で遊ぶようになった。
中学の仲良し5人組で、よく一緒に遊んだ。
でも、高校では鈴原くんとヒカリは違う私立の高校へ、相田くんは写真の専門学校、
私とシンジは今通っている公立の高校に別れてしまった。
中学の頃はあんまり意識してなかったな。
好きといえば好きだったけど。
特別な好きじゃなかった。
どうしてだろう?
今はこんなにシンジのこと考えると胸が痛む。
こんなに好きになってしまった。
中学の時は、シンジのことなんでも知っているつもりだった。
でも、今は違う。
シンジが私のことどう思っていてくれるのか私には分からない。
友達ではあるだろうけど、それ以上なのか、それとも…
どうなのだろう?
聞きたい。
私のこと…
好きでいてくれるのか…
レイはちいさなため息をつく。
同じように鏡の中のレイも物憂げにため息をついた。
ゆっくりと立ちあがり、窓辺に歩いていく。
カーテンを開け、窓を開けて窓枠に腕を置いて体を乗り出す。
周りには背の高い建物がないせいで見晴らしは良い。
大きくため息をついて、レイは空を眺める。
所々、雲で隠されているが、春の星座が綺麗に輝いている。
レイは視線をシンジの家の方に向ける。
向かって左手の方にシンジの住んでいるマンションがある。
シンジ…
今何してるかな?
と、電話のベルが鳴る音が階下から聞こえてきた。
3回のコールで鳴り止む。
たぶん、母親が出たのだろう。
階段を登ってくる音が聞こえて、少しだけ間を置いてドアがノックされる。
レイは振り向いて窓を閉めながら返事をする。

「開いてるよ。」

ドアを開けて母親が顔を出す。

「レイ、電話よ。碇くんから。」

「え?」

レイはあっけに取られながら子機を受け取り、受話器に耳を当てる。

「はい、レイです。」

「あ、レイ?シンジです。」

それは聞きなれたシンジの声だったが、なぜかレイは胸が締め付けられる感じがした。

「どうしたの?急に。」

「ちょっとレイに聞きたいことがあって…
あのね、明日なんだけど、レイは暇かな?」

「明日?」

レイは首をかしげながら、壁にかかっているカレンダーを見る。
明日の欄には特に予定は書き込まれていなかった。

「そう。もし良かったら、ちょっと付き合ってくれないかな?」

「うん、別に良いけど。」

「良かった…それでね…」

待ち合わせの場所や時間を決めて、電話を切る。
レイは受話器を戻しながら、首をかしげた。
なんだろ?
話ぶりからすると二人でどこかに行くようだけど…


二人?
ということはこれはデート?


そう考えた瞬間、レイの心臓の鼓動が跳ね上がる。
しかし、すぐに首を振って、考えを改める。
まさかね。
シンジはそんなそぶりを見せたことないし、私の思いなんて気づいてないだろうし。
鈍感なんだから…
レイは小さくため息をつく。
でも、せっかく二人でお出かけできるんだから、なんとかして…

 
 
 
 
 

二人はお互いの家の近くの公園で待ち合わせすることにした。
レイは待ち合わせ場所に指定されていた公園のベンチに座っていた。
公園の中にある時計に視線をむける。
少し早い目に来ちゃった。
待ち合わせの時間まであと10分程ある。
でも、どこに行くんだろ?
付き合って欲しい、としかシンジは言わなかった。
レイの視線の前をくるくると回りながら、桜の花びらが舞い落ちていった。
レイはその花びらが舞ってきた方に視線を移す。
そこには一本の桜の木が花を咲かせていた。
風が吹くたびに、ひらひらと花びらが舞い落ちる。
もう、散っちゃうんだ…
レイは何かに捕らわれたようにその桜の花を見つめる。

「ごめん。」

急に近くで声がした。
少し驚きながらレイは顔を上げる。
そこにはシンジが立っていた。
レイの表情を見てシンジは首をかしげる。

「どうかしたの?」

レイは首をふるふる振って笑顔を浮かべる。

「ううん。あの桜の木を見ていたの。」

「あぁ…」

シンジも桜の木に視線を向けた。
そしてにっこり微笑む。

「やっぱり、レイを誘って正解だったのかな。」

「何が?」

首をかしげてシンジを見るレイ。
髪が揺れ、風に乗ってほのかに髪の香りがシンジに届いた。

「今から、桜を見に行こうと思っていたんだ。」

「桜?」

「うん。ちょっと、良いところ見つけてね。」

「今日の目的はそれ?」

「そう。」

「ふうん…」

シンジはレイには手を差し伸べて。

「じゃあ、行こうか。」

「うん。」

レイはシンジの手を握って立ちあがる。
シンジはその手を離そうとしたが、レイはぎゅっと握って放さない。

「?」

不思議そうな表情を浮かべるシンジに、レイは飛びっきりの笑顔を浮かべて微笑みかける。
 
 
 
 
 

「うわぁ。すごい桜…」

レイはそう告げたきり、目の前の光景に見とれた。
川沿いにずっと先まで桜の木が植えられている。
その全ての桜が満開だった。

「ちょっとしたもんだね。」

シンジもため息を漏らす。
歩道の上に覆い被さるように、桜の木々は枝を伸ばし、花を咲かせている。
まるで桜のアーチだった。

「こんなところがあるなんて…」

「最近できたらしいよ。僕も雑誌で見て始めて知ったんだ。」

「だから、人が少ないのかな?」

「そうかも。」

歩道は人通りはあるが、混雑しているほどでもなかった。
もちろん、桜の木の下にシートを引いてすでに宴会モードになっている人々も見うけられる。
二人はゆっくりとその歩道を歩き始める。

「反対側も、咲いてるね。」

シンジの言葉にレイは川の対岸側に視線を向ける。
そちら側にも、桜が川沿いに植えられている。

「すごいね。」

「このあたりで500本は植えられているらしいよ。」

川面が風に飛ばされた桜の花びらで埋め尽くされている。

「少しずつ散り始めてるね。」

「まるで桜のじゅうたんね。」

二人は歩道の途中に設置されているベンチに座る。
軽く触れる程度の風を頬に受け、シンジは頭上を見上げる。
桜の枝が揺れ、木漏れ日がきらきらと輝く。
足元は舞い落ちた花びらで覆われつつあった。

「良い天気。」

レイは大きく背伸びをする。
どこからか鳥達がさえずる声が聞こえてきた。
暖かな、春の昼下がり。
シンジはふとレイの顔に視線を向ける。
きれいなプラチナ色の髪が風で小さく揺れる。
真紅の瞳はどこか遠いところを見つめているようだった。
どうして、いままで気づかなかったのだろう?
僕は、こんなに君のことを…
ずっと、一緒だったのにね。
君のこと誰よりも知っているつもりだった。
風が花びらと共に視界を通りぬけ、レイの髪が顔にかかる。
レイはその髪に手を伸ばして、元に戻す。
驚くほどに白い手。
髪とあいまって、彼女をはかなげに見せている。
まるで、今にでも消えてしまいそうなはかなさ。
もちろん、そんなことはないことをシンジは知っている。
どうしてかな?
これじゃ、まるで…
レイがシンジを見る。
少し戸惑ったようなあいまいな笑顔を浮かべている。
シンジはにっこり微笑むと視線をレイからはずした。
その様子をじっと見詰めるレイ。
なんだろ?
ずっと私の顔を見つめられていた気がする。
どうして?
シンジの横顔。
いままでずっと見つめてきた。
できればこれからもずっと見つめていたい。
シンジはどう思っているの?
私はただの幼馴染なの?
それとも、もっと違ったふうに見ていてくれる?
その藍色の瞳で何を見ているの?
私にとってシンジはただの幼馴染だけじゃないよ。
もっと、もっと大切な人なの。
ねぇ、シンジ…
私…
私…ね。
目の前を何枚かの花びらが通りすぎていった。
レイはその花びらを追った。
ひらひらと回りながら、川の方に向かって舞っていく。
と、レイの方に何かの感触が。
視線を戻すと、レイの肩にシンジが頭をもたれさせていた。

「し、シンジ?」

返事がない。
まじまじとシンジを見つめるレイ。
どうやら、シンジは眠っているようだった。
ちいさく息をつくレイ。

「もう…」

レイはゆっくりとシンジを頭をささえ、ひざまくらをする。
シンジはすうすうと安らか寝息を立てている。
シンジの髪を優しくなでる。
頬にも触れた。
かわいい。
レイはくすりと微笑む。
でも、ちょっと失礼な話よね。
女の子と一緒にいるのに居眠りするなんて…


でも、私だから…って思うのはうぬぼれかな?
私に心を開いていてくれるからって考えるのは…



ねぇ、シンジ…


シンジは私のこと好き?


私はあなたのこと大好きだよ。



そうこうするうちにレイにも睡魔に負けてこっくりこっくりと眠り始めた。
春の穏やかの陽気の中、二人は夕方近くまでそこで眠りつづけた。
 
 
 
 
 
 
 
 

FIN







NEXT
ver.-1.00 2000/4/25公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!











あとがき

どもTIMEです。
部屋14万ヒット記念SS「さくら、さくら」です。

桜の咲いているうちに公開できればと思ったんですが、全然間に合いませんでしたねぇ。

私の書く話にしては、二人がお互いの思いを確かめないで終わっていますが、
たまにはこういうのもいいかなと思って書いてみました。

さて、なんだかんだと14万ヒットまで来てしまいました。
こうなったら、行けるところまで突っ走ってやろうと思っているのですが、
それも、これも読者のみなさんあってのことなので、
これからもお付き合いいただければと思います。

で、次ですが、めぞんが(推定)250万ヒット超えてるので、そのヒット記念を公開します。
もちろん、レイ編、アスカ編、マナ編の3本です。
ただ、書いてる時間がないせいであまり長いお話ではないのですが、
ちょっとした実験作になっていますので、お楽しみに。

では、また連載、SSでお会いしましょう。





 TIMEさんの『さくら、さくら』、公開です。







 今年の桜、
 大阪の桜は不幸でした・・・

 ようやくつぼみがふくらみ始めたなぁ
 っと思っていたら、急に暖かい・・暑い日が続いて一気に満開だぁ
 って楽しもうとしたら、雨でぐぅ
 って嘆いていたら、翌日は冷え込み、翌々日は風で
 って感じであっという間にお終い。




 第三の
 この年の
 シンジとレイの桜はよかったようです (^^)

 花もきれいだし
 花の下も
 
  (^^)



 ほんまに良い良い桜でしたっ





 さあ、訪問者のみなさん。
 記念20個目のTIMEさんに感想メールを送りましょう!










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