TOP 】 / 【 めぞん 】 / [タカ]の部屋に戻る/ NEXT


「その言葉、後悔しないでね」
「ああ、MAGIが俺のターゲットだからね。出し惜しみはしない。してるほど余裕もない」
「2年前におじんとおとんが死んで、家族は妹だけなんや」
「わかっています。冬月先生。レイのこともシンジのことも私の甘さがまねいた失態です。ですがユイの想いを捨てるわけにはいけません」
「僕はカヲル、渚カヲル」
「驚いているようね。私も綾波レイ。正確に言えば一人目の綾波レイよ」
「碇ゲンドウはどこにいる!」


−EVANGELION SIN−


 

5.Cerberos 前編

 

NERV内部施設 病院集中治療室

『ピッ……ピッ……ピッ……』
心電音が規則正しく鳴っている。
治療ベットの上で眠っているのは、シンジである。使徒との戦いの後、意識を失った彼は、この部屋に運び込まれていた。同じく意識を失っていたレイは一時間ほど前に意識を取り戻していた。しかしシンジはいまだ目覚めていなかった……。

「ちょっと、リツコ! どうしてSINを拘束しているの!」
集中治療室の外にいたミサトは、中を覗いたとたん、一緒に来ていた親友に食って掛かる。
シンジのからだはベットに革のベルトで拘束されていた。
「碇司令の命令よ」
リツコは冷たく言い放つ。
「なんで!」
ミサトはその命令に納得できていない。
「彼はこの間の侵入者であるわ。保安条項にのっとって適切な命令ではなくて、葛城一尉?」
どうやら、リツコはここでは親友としてではなくNERVの一員としてミサトに臨むようだ。
「あのね、彼がいなかったら、私たち死んでたのよ。それなのにこの扱いはひどいんじゃない!」
ミサトはリツコの態度が気に入らない。
「そうね、それは認めるわ。でも私たちにNERVに必要なのは英雄ではなくってよ」
「碇司令やあなたに必要なのは、命令に忠実な人形だものね」
ミサトはリツコをキッ!と睨む。リツコはその視線を外す。
「………」
ミサトはシンジをもう一度見ると、その場から離れていく。
「ミサト、どこに行くの
リツコはミサトを呼び止めようとする
「……リツコ、忠告しておくわ。命が惜しいなら、彼の拘束、早く解くことね」
「どういうこと?」
「彼は自分の自由を奪おうとする者を許すことはないわ。絶対に」
「で? 彼が私たちを殺すっていうの?まだ子供じゃ…」
「その言葉、後悔しないでね」
そう言い残すと、ミサトはこの場を立ち去る。

第一中学 

昨日の戦闘の混乱も収まり、生徒たちは元気に登校していた。シンジとレイを除いて。
鈴原トウジは級友たちと馬鹿話をしていた。そこに、遅れて教室に入ってきたケンスケが話しかけてくる。
「トウジ、話があるんだ」
ケンスケは真剣な表情をしている。普段は、笑みを絶やさない人物なのだが、この場では違っている。
「なんやケンスケ?」
トウジもそのケンスケの様子を見て、ただ事ではないと察する。
「ここじゃ、まずい」
といって、ケンスケは鞄を持って教室を出ていく。
「しゃあないな。いいんちょ、わしらHRパスするで」
トウジはちょっと離れたとこにいたヒカリに声をかけ、ケンスケに続いて教室を出ていく。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。鈴原!」
その声に耳も傾けることなく二人は教室を出ていく。ただヒカリは気づいていた。トウジの顔がいつになく真剣な表情をしていたのを……。
『なにかあったのかしら?』

教室を出た二人は屋上に来ていた。朝のこの時間なら、この場所が誰にも邪魔されずに話が出きるからだ。
「SINが、NERVに拘束された」
ケンスケはトウジにシンジのことを告げる。
「どういうこっちゃ、ケンスケ?」
シンジの実力を痛いほど知っているトウジにとって、その言葉は信じがたい物だった。
「昨日、あれからSINが、あれに乗ったみたいなんだ」
ケンスケは鞄からプリント用紙の束を取り出し、トウジに手渡す。トウジはそれに目を通す。途端、彼は驚愕する。
「あれ、動かしとんの、SINやったんか…。で、それでSINが拘束されとるんはなんでや?」
トウジはケンスケにプリント用紙を返す。
「あの後、SINの奴、意識を失ったらしい」
ケンスケはそのプリント用紙を鞄に戻しつつ、応える。
「そんなら、理解できるわ。ということはSINの奴…」
腕組みをして、考え込むトウジ。
「ああ、俺達を待ってる」
ケンスケはトウジの言葉をつなぐ。
「ならしゃあないな。迎えにいこか」
トウジは腕組みをとき、軽くおどけた調子の声を出す。
「じゃあ、俺は、あれを使うとしよう」
「あれって、まさか…」
トウジはケンスケの言葉に驚いていた。
「ああ、MAGIが俺のターゲットだからね。出し惜しみはしない。してるほど余裕もない」
ケンスケはトウジに対して肯く。
「でも、この前は…」
トウジはケンスケの言葉に疑問を抱く。あれを使わなくても、ケンスケはMAGIに侵入していたのだ。
「あれは、SINに気を取られている隙に、『ピーピングトム』を送り込んだだけだからね。これででもできたんだ。でも……」
ケンスケは鞄を軽くたたく。愛用のノートパソコンが入っているのだ。
「今回は違うだろ。多分、NERVとの喧嘩になる。あいつなら、絶対にやってしまう」
ケンスケは、ちょっとため息を吐く。
「そやな、あの馬鹿なら、やってしまうわな」
トウジは相づちをうつ。
「で、いつから始めるんや?」
トウジは再び、真剣な表情に戻る。
「俺も準備があるしトウジもやることがあるだろ。1800時スタートでどうだろう」
ケンスケは腕時計をを見て、トウジにこたえる。
「かまへん」
それにうなづくトウジ。二人は時計を合わせる。
「しゃ、準備出来次第、連絡する」
ケンスケはそう言うと、屋上から降りていった。
トウジは一人、屋上で第三新東京市を見ていた。HR始まりの、チャイムが鳴っていても。

HR終了後、ヒカリはトウジたちを捜しに、屋上へとやってきた。そこにはトウジ一人いた。彼の何時らしからぬ、その様子にヒカリはちょっと違和感を感じた。
「鈴原、どうしたの?」
ヒカリは彼の様子を見て、見つけたら言うはずだった小言を、どっかへ投げ捨てていた。
「……いいんちょ、か」
トウジは背後からかけられた、その言葉に反応するが、振り向きはしなかった。
「いったい、どうしたのよ?」
ヒカリは、さらにトウジへたずねた。
「………」
トウジはヒカリの問いに答えず、黙って景色を見ている。その様子を見て、あきらめたのかヒカリは、トウジの隣に立った。
「んー、いい風!」
屋上を吹き抜ける風を感じながら、ヒカリは背伸びする。
「ええんか、いいんちょー。一限、はじまるで」
トウジはヒカリに顔を向けることなく、話しかける。
「たまにはね」
ヒカリはトウジににっこりと微笑む。
「そおか」
「……ねえ、鈴原の家族って、何してるの?」
ヒカリは、なんとなくトウジにたずねたみた。トウジのことが、知ってみたかったのだ。トウジもケンスケもクラスには馴染んでいたが、自分たちの家族のこと、過去など、その手の話は逸らかしてきていた。だから、今なら聞けるんじゃないかと思い、ヒカリは口に出していた。
「2年前におじんとおとんが死んで、家族は妹だけなんや」
トウジは簡単に話してくれた。だがその内容にヒカリは落ち込んでしまった。
「ご、ごめんなさい」
「別に気にすることあらへん。たった一人ちゅうわけじゃあらへんからな」
トウジはヒカリの方を向く。さっきまで、元気だったヒカリが落ち込んでいる。その様子をみてトウジはヒカリを慰める。
「で、でも…」
ヒカリはどうしても、気にしてしまう。
「いいんちょー、大丈夫や。もう昔のことや、うじうじと落ちこんどれへん。柚美のためにも、わいがしっかりせなあかんしな」
トウジはヒカリを安心させるように笑顔を見せる。ヒカリはトウジの笑顔の裏に隠れた決意を感じた。
『今日の鈴原、なんかかっこいい』
「どうしたんや、いいんちょー。顔が赤いで?」
どうやら、ヒカリはトウジの顔を見ているうちに赤面していたらしい。
「な、なんでもないわ。それより、さっき柚美っていってたけど、妹さんの名前?」
あわてて、話題を変えるヒカリ。
「ああ、わいの妹、柚美ちゅうんや」
この後、二人は互いの家族のこと、友人のこと、など、普段話さないことを楽しそうに話していた。はたから見れば恋人同士に見えるぐらい、二人は親密に話していた。もっとも、トウジはどうしてそう見えるのか気づかないだろうし、ヒカリはあわてて赤面し小さな否定をするだろう。
そして、1限目の終了のチャイムが鳴り響いた後、トウジは真剣な表情で、ヒカリに話しかける。、
「いいんちょー、頼みたいことがあるんや」
「な、何、鈴原?」
急に真剣な表情に戻ったトウジに軽く驚くヒカリ」
「柚美、しばらく預かってくれへんか。わい、ちょっと用事があって、2、3日家に帰れへんのや
「いいわよ。妹さん一人ぐらいなら」
「ほんまか。すまんな、いいんちょー。この借りは絶対返すさかいな」
トウジは両手を合せてヒカリを拝む。
「別に気にしないで。それより、どういう用事なの?」
「………」
トウジは黙り込んでしまう。
「言いたくないなら、言わなくていいわ。無理しないで」
ヒカリはトウジの様子を見て、フォローを入れる。
「すまん、いいんちょー」
トウジはヒカリに軽く頭を下げる。
「それよりも、どうしたらいいの。私柚美ちゃんの顔、知らないわ」
ヒカリは話題を変える。
「ああ、そんなら放課後、わいと一緒に第一小学校まで迎えにいかへんか」
「いいわ。じゃあ放課後に」
ヒカリとトウジは互いに確認しうなずきあう。

NERV本部、司令執務室

「司令、彼はまちがいなく司令とユイさんのお子さんです。ただ…」
リツコは執務机の前に立ち、ゲンドウに書類を見せる。
「ただ、なんだね。赤木博士」
あごの下で組んでいた両手を外し、書類を受け取り、目を通すゲンドウ
「例の計画の被験者だと思われます」
リツコは淡々と報告をする。
「……で、どっちなのだ」
「おそらく、Lのほうでしょう」
「……御苦労。この件に関しては君に一任する」
ゲンドウは書類を傍らの冬月に渡す。再び、あごの下で両手を組む。
「それから、先日の侵入事件のさい、送られたウイルスの件ですが、消去せずによろしいのですか?」
「ああ、問題無い。最重要データの隔離さえおこなってくれればよい」
「碇、いいのか?」
冬月は書類を執務机におき、ゲンドウにたずねる。
「かまわん、ある程度の情報ぐらい流してやれ。奴等に理解は出来ん。それよりも…」
同じ格好のまま答えるゲンドウ。不敵な笑みを浮かべる。
「はい、わかっています」
リツコは真剣な表情で肯く。
「うむ。下がりたまえ」
リツコは二人に会釈をすると部屋を出ていく。
「碇、彼がここに来たということは…」
「ああ、霧島は死んだということだ」
「惜しい男を亡くした。だが、彼はいったい…」
「わからん。いや、おそらくシンジには何も伝えていないのだろう。霧島はそういう男だ」
「『自分の知りたいことは自分で調べろ』、だったな」
「だが……」
「どうした碇?」
「いや、何でもない」
冬月は再び黙り込んだゲンドウを見て、かすかに笑みを浮かべる。
『息子の成長を喜んでいるのだな、碇』
「碇」
「何だ冬月?」
「レイのことはどうするのだ?」
冬月はゲンドウの傍らから、窓に近づき、ブラインドを透かして外の風景を見る。
「………」
ゲンドウはその問いに黙り込む。
「今更、どうこういっても仕方ないが、いつまであの娘を縛っておくつもりだ」」
「………」
「碇」
「わかっています。冬月先生。レイのこともシンジのことも私の甘さがまねいた失態です。ですがユイの想いを捨てるわけにはいけません」
ゲンドウは普段の厳しい表情ではなく、苦渋に満ちた表情を見せていた。
「ユイ君の想いか。だが子供たちが拒否すればどうする?」
「わかりません。ただ全てが終るまでは……」
ゲンドウはまた普段の厳しい表情に戻る。
「全てが終るまでか…
『『老人たちのいいようにはさせません。未来は子供たちのものです』か』
冬月は碇ユイという女性が、最後にいった言葉を思い出していた。
「碇、我々も老人たちと同じだな……」

NERV本部内病院

時は少し戻り、レイがまだ意識を取り戻す前。
レイは夢を見ていた。

暗闇の中に制服姿でレイは立っていた。見渡す限り闇が広がっている。
「ここは…」
レイが一歩踏み出すと『ガラッ』という音が足元で鳴る。レイは足元を確認した。
『骨…、人の?』
それは人の白骨であった。それが一つではなく無数に敷き詰められている。屍の大地というべきか。
「どうして……」
レイがふと見た先に、赤いものが屍の上に続いているのが見えた。
「………」
レイはそちらの方へ歩いていく。そこまでいくとレイはその赤いものに触れてみた。
「血、血の道」
その赤いものは流れた血で出来た道であった。かなり先まで続いている。
『ザシュッ!!』
その血の道の先から、何かを斬る音が聞えてきた。
「なに」
レイは警戒しながら、その血の道の横をそって、その音の方へ歩いていく。
そこに見えたものは、一人の9歳ぐらいの少年である。何も身につけず、ただその両手には大きな鎌が死神の鎌が握られていた。体のあちこちから血を流し、血を浴びて真っ赤になっていた。そして、その足元には、何人もの新しい斬殺死体がころがっていた。
「SIN!?」
ふと振り向いた少年の顔はシンジであった。今のシンジの顔をもうちょっと幼くした感じだ。ただちがうのは無表情で、不気味で、恐怖を感じてしまう顔をしていた。
シンジは振り向き直すと、歩み始める。すると、突如、どこからかナイフを持った人がシンジに襲いかかってくる。が、シンジはあわてることなく鎌の一撃でその人の首を落としてしまう。
「あの子はシンジ君の心、そのものさ」
レイは背後から、突然話しかけられた。レイは急いで振り向く。
「やあ、驚かしたようだね。綾波レイ君」
そこに立っていたのは、銀髪で瞳の赤い少年であった。
「………」
レイは警戒して、ちょっと構えた。
「ここはシンジ君の心を君が感じて、それを夢として見ているんだ。君の夢なのに、僕が何か出来ると思うのかい」
レイの様子に苦笑する少年
「これは、私の夢…」
「そして、シンジ君の心さ」
シンジの方を見ると、また一人、その鎌で斬殺していた。ただ無傷とはいえず、脇腹を刺されていた。しかし、シンジはその刺された傷を応急手当することなく、血を流しながら歩いていく。
「どうして…」
レイはシンジの方をむいたまま、少年にたずねた。
「この状況は、シンジ君が歩いてきた今までの道とこれから歩もうとする道をあらわしている」
シンジの自ら傷つきながらも、歩みを止めず、邪魔をするものは排除していくその様子に、少年は心を痛めた。
「シンジ君は、おそらく血に塗れた人生を歩んでしまう」
「なぜ」
レイは少年の方を振り向く。
「彼の運命はそういう道なんだ。彼がLとして選ばれたときに」
「L?」
「いずれわかるはずさ。そのLの運命軸に彼は組み込まれてしまった」
「そう」
「彼は望むと望まぬに関わらず、人を滅ぼしてしまうだろう」
「どうして、そう言い切れるの」
「Lは人を滅ぼす。Aは新たな人を産み出す。今はそれしか言えない」
「………」
レイはシンジのひたすら前へ進み続ける、その姿を見ていた。
「レイ君、君に頼みがあるんだ」
レイは少年の方へ、振り向く。少年はにっこり微笑んでいた。
「なに?」
「シンジ君を支えてあげてくれ。運命軸に組み込まれたとはいえ、未来は決まったわけではない。彼がその運命に逆らうとするとき、側で支えてあげてほしい」
「うん」
「ありがとう。じゃあ僕は消えるとしよう」
そういうと少年の体は透けはじめる。そして、レイの意識も虚ろになっていく。
「ま、待って。あなたは誰?」
「僕はカヲル、渚カヲル」

そこでレイは目を覚ました。
「レイ!」
突如、レイは誰かに抱き着かれる。それが誰かレイにはわかっていた。
「ミサトさん」
レイは人の温もりの心地よさを感じていた。
「大丈夫、痛いところない?」
ミサトは意識を取り戻したレイに体の具合を確かめた。
「はい。問題ありません」
口調は人形のままだったが、レイはミサトに瞳で笑みを見せる。
「よかった。ごめんね。レイ」
再び、ミサトはレイを抱しめる。その目には微かな涙を浮かべていた。
「……ミサトさん」
レイはミサトの気のすむまで抱しめられていた。

一方、シンジも夢を見ていた。

その場所は暗闇しかない。地面があるが、暗闇のおかげでどこが地面だかわからない。
「ここはいったい」
シンジはあたりを見渡す。暗闇の先にかすかな光が見える。
「光!?、行ってみるか」
シンジは光の方へ歩いていく。ある程度いくと、その光は上から照らし出されたもので、その下に一人の少女が裸でうずくまっていた。そこにあるのは一杯のコップに入った水だけであった。
「綾波!?」
その少女は綾波レイであった。
シンジはそこに駆け寄ろうとするが、ある程度の距離以上はどうしても近寄ることはできない。
「綾波!」
シンジはレイに呼びかけるが、彼女は反応しない。
「無駄よ。碇シンジ君」
シンジはその声に振返る。さっきまで自分の後ろには人の気配はなかったはずだ。そこにいたのは6、7歳まで幼くした綾波レイであった。
「綾波!?」
「驚いているようね。私も綾波レイ。正確に言えば一人目の綾波レイよ」
一人目のレイは無表情に話す。その口調は少女というよりさめた大人の感じを受ける。
「一人目!?」
「あなたも見たはずよ。『私』の記憶を…」
「あれか。今の綾波レイは二人目だったな。死んだはずの一人目の君が何故、ここにいる」
記憶を手繰り寄せるシンジ。自分が経験した記憶ではないから、全てを見たわけではないのだ。
「あなたは、ここがどこかわかっているの?」
「いや」
シンジは頭を振って否定する。
「ここはあなたの夢。そして二人目の『私』の心」
悲しそうな目で二人目のレイをみる一人目のレイ。
「ここが綾波の心!?」
「そう、ここは『私』の心。あの娘は自分が作られた存在、人ではないと知ったとき、自ら人形となった」
レイはシンジに淡々と語る。
「自分で望んだのか、人形となることを…」
「そうよ、私は作られた存在とはいえ、碇司令や皆さんに愛されて育ったわ。そして義理とはいえ、父と母もいたの。その時は私は人間だと思っていた…。でも、私は死んだ。あなたと同じよ。私も碇司令の人質として誘拐されたの。両親を殺して、無理矢理にね。その時に、私は自分が作られた存在ということを誘拐犯に知らされた。その後のNERVの救出作戦のときに、私は逆上した誘拐犯に殺された」
「そのあと、今の綾波が…」
「そうよ。魂は同じ物でも、記憶までは受け継がないはずだった。コンピューターのRAMと同じよ。いちど命という電源が落ちれば、記憶はとぶはずだったの。でも、『私』は記憶を受け継いでしまった。覚えていたくない、辛い記憶を…。『私』は絶望したの。逃げたの。自分の運命から。生きることを止めようともしたわ。でも死ぬことは許されなかった。碇司令はあえて人形として扱うことで生きさせようとしたの」
「命令という鎖で縛ったんだな」
シンジは拳を握り締める。
「……あなたが命令という言葉を嫌っているのはあの時に知ったわ。でも『私』はそうでもしないと生きようとはしなかったの。いえ生きてはいないわね。ただ存在していただけ」
「綾波…」
二人のレイを見るシンジ。
「でも今はやっと光を見つけたようなの。ミサトさん、クラスメイト、そしてあなた」
「……」
「その光はまだかすかに、『私』の心を照らしているだけ」
「あの光がそうか?」
シンジはレイを照らし出す光を指差す。
一人目のレイは肯く。
「SIN、あなたに頼みたいことと忠告があるの」
「何だ」
「『私』を助けてあげて。『私』が人として生きることを」
一人目のレイは今のレイを見ながらシンジに頼む。
「……わかった。約束しよう」
「そして、忠告はね。どんなことがあっても絶望しないで」
「ん?」
「それ以上は言うことは禁じられているの」
「忘れないで、絶望だけはしないと」
「ああ、了解した」
「よかった。じゃあ私は行くわね。SIN、『私』をよろしくね」
一人目の綾波の姿が徐々に消えていく。
「ああ」
シンジはその言葉に力強くうなずく。

第三新東京市 相田ケンスケ宅

ケンスケは倉庫の一部を借り、そこを自分の部屋としていた。

その倉庫の中には一台のトレーラーとRV車が駐車していた。
トレーラーは黒を基調としたカラーリングのトレーラーだ。車体にはCerberosとSouryu Co.の文字がペイントされていた。
そのコンテナ内はちょっとした軍事用移動指揮車並みの機器がそろっていた。
そのコンテナの中でケンスケは電話をしていた。
「よっ、ひさしぶり」
『な、なにがひさしぶりよ! いったい今までどこにいたの。何の連絡もしないで!』
電話の相手は女性であった。かなり怒っているようだ。
「まあまあ落ち着いてくれよ、惣流。今は無駄話してる暇がないんだ。Arkを使う」
『ちょっと何があったのよ』
「SINがNERVに拘束されているんだ。手後れになる前に連れ戻す必要がある」
『あんたたち、日本にいるの?』
「そういうこと、じゃあ伝えたぜ」
『ちょ、ちょっと待ちな……』
ケンスケは電話の相手が話しおわらないうちに電話を切る。
その後ケンスケはコンテナ内のシステムに電源を入れていく。
ライトテーブルに電源が入り、メインモニターにシステムロゴが表示される。
『Ark System』
コンテナ内のシステムステーションはこの『Ark System』の端末のようだ。
ケンスケは次々に、プログラムを走らせ、対MAGIの電子戦の準備に取り掛かった。
『PI,PI,PI,PI,PI……』
コンテナ内の電話が鳴っている。ケンスケは通話ボタンを押し、電話に出る。
「はい」
『はあーーい、少年たち。元気してたかい?』
電話の相手は女性だった。流暢な日本語ではないので、日本人ではない。
「あなたですか。いったい何のようです。アルバイトは終了しているはずでしょう」
ケンスケは機嫌が悪そうに電話に話す。
『そのアルバイトの件よ。全然役に立たない情報しか流れてこないじゃない。いったい…』
「僕らのアルバイトの依頼内容は、NERVのMAGIにウイルスを流し込む。それだけでしょう。それがうまく作動しないからって、文句を言われる筋合いはありませんね。文句があるなら自分たちでやったらどうですか。CIAのお姉さん」
『まあいいわ。今日の用件はそれが本題じゃないの。前にも言ったけ…』
「こちらも言ったはずですよ。俺たちは『犬』になるつもりはない。俺たちは『狼』なんです。国家という鎖に縛られるつもりはありませんね」
『力ずくでもいいわよ』
「どうぞ、お好きなように。でもその時はCIA長官に遺書を用意しとくようにお伝えしてくださいね」
『……まいったわ。こっちの負けよ。それじゃあかわりにケルベロスにアルバイトを依頼したいの』
「残念ながら、当分アルバイトはやるつもりはないです」
『えー、報酬はずむわよ』
「それじゃあ、こっちは忙しいので失礼しますよ」
『ちょ、ちょっと……』
ケンスケは電話を切る。電話の相手はなにかわめいていたが、ケンスケはまたもや無視した。
「天気はどうかな」
ケンスケはライトテーブルを操作し、テーブル上にサブウインドウで天気図を表示させる。
「今夜は、雲はかかることはないな。ならレーザーにしよう」
サブウインドウを閉じ、レーザー通信機をシステムに組み込む。倉庫屋根に取り付けられた、レーザー発振機が軌道上の中継衛星『Michael』に向けられる。そこからさらに衛星『Raphael』を経由して、システム衛星Arkに送られる
「さてと、これで準備OKっと!」
後は、開始の時間を待つだけであった…。

NERV内部病院、集中治療室

「どうやら、意識が戻ってきているようですね」
シンジに取り付けられた医療機器が彼の覚醒が近いことを知らせていた。担当の医師は、傍らのリツコに話しかける。
「彼を一般病室へ移して」
「よろしいのですか」
医師はシンジから脳波計や心電図ようのコードを外しながらたずねた。
「構わないわ」
「わかりました」
「……私だ、集中治療室の患者を一般病室へ移す。誰かよこしてくれ」
医師は電話を入れると、シンジの体を拘束していた皮ベルトを足の方から外していく。そして、最後に胸と上腕部を固定していたベルトを外す。その瞬間、医師はシンジに腕を掴まれる。
「な、うわあ…ぐふっ」
シンジは片手で医師を投げ飛ばすと、ベットから起き上がる。意識がはっきりしないのか、まだふらふらしている。
その時、集中治療室に4人ほどの看護士が入ってきた。彼らは、気絶している医師と、ふらふらしながらも立ち上がっているシンジを見て、迷いも無しにシンジを取り押さえようとする。リツコは医師の懐から浸透圧を利用した鎮静剤を取り出す。
まず、一人がシンジを掴みあげ、取り押さえようとするが、その腕を受け流され、脇の下に肘が入り、一撃で沈む。シンジはそのまま体を沈め、二人目の足を払う。それで勢いよく倒れた二人目に転び3人目がバランスを崩す。そして沈み込んだからだを浮かして3人目の頭を掴み、膝を顔面に叩き込む。着地と同時に4人目の懐に飛び込み、あごへアッパーを叩き込む。所用時間、ものの数秒といったところか。
リツコは逃げ出そうとするが、それは遅かった。シンジは4人目のあごに入れた瞬間にリツコの方へダッシュをかけ、彼女を壁へ叩き付けた。シンジはリツコを右腕の前腕部で喉元を押さえつけ、左腕は鎮痛剤を握った右腕の手首を掴まえてHOLDする。
「碇ゲンドウはどこにいる!」

To be continued

5.Cerberos 後編


NEXT


ver.-1.00 1997-11/30公開
ご意見・ご感想は takasan@mail.interq.or.jp まで!!


中書き兼座談会

タカ:どうもお待たせいたしました。EVASINようやく更新できました。
アスカ:更新に日数かけたわりには、ひきまくりよね。いきなり前後編にしてるし
レイ:そうね、一番いいところで終った感じ
タカ:(ぐさっ)こ、細かいことは気にしないでほしいな
アスカ:で、作者。私の出番、ようやくあったと思ったらあれだけとはいい度胸ね
タカ:まあまあ落ち着いてくれ。あのシーンが一番時間かかったんだよ。何回も没にして、ようやく君に出番をまわすって形で収拾がついたんだ。
アスカ:言い訳は聞きたくないわ。次、後編でもっと出番増やさないとアスカ人の人たちから非難のメールが送られてくるわよ。
タカ:わかった。考えとくよ
レイ:『Ark System』ってなに
タカ:いきなりだね。まだ言えない。言えるとしたら、ある意味MAGIを超えるコンピューターだね
レイ:ある意味?
タカ:それは秘密
アスカ:あんた、いきなり「ホ〇野郎」を出したみたいだけど、いったいどうする気?
カヲル:僕を呼んだかい、アスカ君
アスカ:誰も、あんたなんか呼んでないわよ!
カヲル:つれないね。まあいいよ。僕はシンジ君のところへ行くとしよう
タカ:どうしよう…。
アスカ:…なんも考えずに出したわけか。ほんとに馬鹿ね
レイ:後編はいつなの
タカ:今度は早いと思う。プロットは出来ているから
レイ:そう。でも『デ〇ルサ〇ナー ソ〇ルハッ〇ーズ』はどうするの。そのせいで更新遅れたんでしょう?
タカ:あはははは。まあがんばるよ。書くまではサ〇ーンのコントローラーは握らないでおく
アスカ:どうだか、じゃあファースト
レイ:ここまでお読みくださって、ありがとうございました。本来ならメールを送ってくださった方へのお礼の言葉をいれるところですが、今回前後編に分かれましたので、後編でまとめて申し上げることにします。どうもすみません。
アスカ:まったく、作者の怠慢よね。
タカ:じゃ、じゃあおやすみ〜!
アスカ:逃げたな! 待てえ作者!
レイ:じゃあ『EVANGELION SIN 5.Cerberos 後編』をお楽しみに


 タカさんの『EVANGELION SIN』5.前編、公開です。
 

 ケンスケが男してますね(^^)
 

 あの惣流のパワーを受け流し。
 CIAの脅しを切り返し。
 

 ちょっと今までにない姿かな?
 

 ジャージマンブラックの彼も
 いいんちょの心を掴みはじめましたし、

 『EVANGELION SIN』には3バカは存在しないのだ!
 

 

 NERV内部のSINと連携してなにが起こるのか〜
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 いっぱい設定を出してきたタカさんに感想メールと質問メールも送りましょうか(^^)


めぞんに戻る TopPageに戻る [タカ]の部屋に戻る