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『・・・これは決まっていた事なんだろうか?』



シンジは、じっと瞳を閉じている。

カヲルから明かされた真実が頭から離れようとしないのだ。



『今は危険・・・か・・・・・・それで、あの使徒たちに勝てるんだろうか?』



シンジは『セラフ』が生半可な相手ではないことを感じ取っていた。



最初に現れたセラフ。



シンジが生身で戦ったセラフ。



『今のままじゃ勝てない・・・僕には自信がないよ、カヲル君・・・』






「碇君、大丈夫?」



レイの呼びかけに、シンジは目を開いた。

シンジの視界に、見慣れたエントリープラグのモニターが映る。

しばらくそのまま正面を見つめ、レイの移っている通信回線に目を向けた。



「・・・うん。大丈夫だよ」

「碇君、さっきからずっと黙ったままだったから」

「ゴメン。・・・考え事してたんだ」

「ううん。平気ならいいの」



レイは、にこやかに笑う。

シンジはそのレイの笑顔に引き込まれる。

つられて、シンジも少し微笑んだ。



『駄目でもやらなくちゃ・・・僕たちがやらなきゃ、関係のないみんなが不幸になる』



「それにしても、いつまで経っても動かない」

「カヲル君は夜にならないと動かないだろうって言ってたからね」

「私も聞いたわ。でも、もう陽は沈んじゃったのに・・・」

「・・・・・・気づかれてるのかもしれない」

「私たちが待ち伏せてるって事?」

「うん」



シンジは遙か上空を見つめ、そのままで呟くように言った。

レイはシンジの顔を見ている。



その時、本部からの通信が入った。

ミサトの声がエントリープラグ内に響く。



『シンちゃん、そっちの様子はどう?』

「今のところは動きがないと思います。まだ動きはないんですか?」

『今も使徒を捕捉中だけど、上空で止まってるわ。この距離ではお互いにすぐには動けないわね』

「どのくらい上なんですか?」

『成層圏よ。正直、あんなところで止まってられるとは思えないんだけどね』

「宇宙空間にいるのと変わらないわ」



レイがそう言って、シンジに説明する。



『とにかく待機。今回の作戦の狙いは、EVA5機による一斉攻撃による速攻が目的だから』

「分かりました」

「はい」



シンジはアスカたちの事を聞こうとしたが、本部の通信はそこで途切れた。

アスカ、ユイ、キョウコは、カヲルの進言によりジオフロント内に降りている。

地上に出ているのはシンジとレイだけなのだ。

そして、アスカたちとの通信は禁止になっている。

これもカヲルの進言だった。



シンジはレイが上空をジッと見ているのを確かめると、またゆっくりと瞳を閉じた。

・・・未だ、上空のセラフに動きは見られなかった。





セラフの舞う瞬間

第8話 「運命の時」

Written by Zenon






今回の作戦が始まる数時間前・・・



「あれ?・・・カヲル君?」

「やぁ、シンジ君」



シンジは休憩所でカヲルに出会った。

カヲルはシンジを見ると軽く挨拶をする。

笑顔でカヲルの隣に座る。



「珍しいね。どうしたの?」

「シンジ君を待っていたんだよ」

「僕を?」

「・・・今日の戦いが大きな節目になるだろうから、話をしておきたかったんだ」



カヲルは前を見ていつもの様に微笑んでいたが、どこか違うとシンジは感じた。



「どんな話?」

「君の力の事とセラフについて・・・だよ」

「!?」



シンジは驚いてカヲルの横顔を見た。

カヲルは相変わらず前を見ている。

しかし、どこか言いづらそうなところがあった。



「話すのはもっと後にするはずだったんだけど、もう時間がないんだ」

「・・・うん。聞かせて欲しい」

「いいの?君にとって、いい話ばかりではないんだよ」

「それが『事実』なら・・・」

「・・・・・・」



カヲルは少し間をおいた。



「君の内なる力は強い。成長すれば、君にもコントロール出来るか分からないほどだよ。その力はセラフを打ち破ることが出来る有効な手段になると思う」

「僕の・・・力が」

「・・・僕なら君の力を解放する事が出来る」

「!?」

「でも、今は駄目だよ。もっと時間が必要なんだ。・・・君の心が成長しなければ駄目なんだ」

「・・・・・・」



シンジは黙り込む。

自分の心ほど弱いものはない事を知っているのだ。



「真に心の強い人間がいるかと言われれば、居ないのかもしれない。でも、自分の心に負けない人間ならたくさん居る。・・・シンジ君に必要な成長はそれだよ」

「・・・・・・うん・・・」

「もしも今のままで力を解放すれば・・・君は死ぬよ」

「・・・死ぬ・・・僕が?」

「身体は耐えられても、心が壊れてしまう」

「どうしてカヲル君はそんなことを知ってるの?・・・どうして僕自身も知らないことを知ってるの?」



シンジはなかなか言い出せなかった疑問をカヲルにぶつけた。

返ってくる答えに強い恐れを抱きつつも、シンジはジッと下を向いて聞いた。



「僕が初めてシンジ君に会った時、『懐かしい』と思った」

「懐かしい?」

「君は不思議に思わなかったかい?僕と違和感なく話が出来たこと、すぐに打ち解け合えたことを」

「・・・分からないよ」



分からない・・・

それを聞いたカヲルは、少しだけ悲しい表情をした。



「分からない・・・そうか。じゃあ、話を変えよう。セラフについてだ」

「・・・・・・」



シンジは嘘をついた。

本当は分かっていたのだ。

不思議だと感じたし、心が安らぎさえした。

・・・もたらされる答えが怖くて言えなかったのだ。

シンジの心は、本能的に『逃げて』いた。



「これからやってくるセラフこそ、本当の使徒。辛い戦いになる」

「・・・・・・」

「この戦いをしのげば、人類の道は繋がる。・・・でも、負けることだけは許されないよ」

「・・・分かってるよ。4年前から覚悟はしてたんだ」

「覚悟?・・・駄目だよ。君は死んじゃいけない」

「死にたいわけじゃないよ。でも・・・もし死んじゃっても、覚悟は出来てるっていうだけだよ」



カヲルは立ち上がり、シンジを見た。

シンジは顔を少し上げる。



バシッ



「それは『甘え』だよ、シンジ君。死んでもいいなんて、逃げているだけだ」

「・・・・・・」

「・・・さっき言ったことは忘れて欲しい。絶対に君の力は解放しないからね。最後の最後まで・・・」



そう言って、カヲルはその場を立ち去った。



シンジは頬を打たれたまま、下を向いて黙った。

カヲルの言葉が心に強く響く。

そして、小さく呟いた。



「甘え・・・これが僕の心の弱さか・・・・・・」



シンジは、そんな自分を通路の角から見つめる者が居た事に気づきもしなかった・・・





「作戦の内容は以上よ。何か質問のある者は?」



チルドレン3人に、ユイ、キョウコがこの場に居た。

しかし、ミサトの問いに言葉を発する者は居ない。



「今回だけはこちらから手助け出来ないわ。・・・無責任かもしれないけど、個人の奮闘に期待します」

「何言ってるのよ、ミサト。アタシ達全員が頑張れば勝てるに決まってるじゃないの」

「アスカの言う通りです、ミサトさん」



アスカとレイが、2人で自信満々の意見を述べる。

しかし、本心は不安を打ち消そうとしているのかもしれない。

ユイとキョウコも全員を励ます。



「2人の言うとおりですよ、きっと勝てます」

「みんな、頑張るわよね?」



「えぇ・・・勝ちましょう」



そう言って微笑むミサトの笑顔が残った。






個人への作戦説明を聞いたシンジは、ケイジに向かおうとしていた。

しかし、部屋を出たところで声が掛かった。



「シンジ!!ちょっと待って」

「・・・アスカ」



シンジが振り返ると、そこにはアスカが待っていた。

戦いの前だというのに、妙に明るい笑顔でシンジに話しかけてくる。



「ねぇ、シンジ。・・・今日の戦いが終わったらさぁ、どこか連れて行ってよ」

「・・・・・・うん・・・」

「どうしたの?元気ないわね」



シンジはつい気のない返事をしてしまう。

今まで、アスカが戦いの前にこんな事を言ってきたことなど一度もなかった。



「うん。平気だよ。どこがいいの?」

「そうね・・・どうしようかなぁ・・・・・・思いつかないから、行くときに決めるわ」

「・・・珍しいね、アスカが行き先を決められないなんて」

「えっ?・・・・・・そ、そうかなぁ?」

「いつもなら、即決で決めるのに」

「失礼ねぇ〜。アタシだって、たまには迷うときもあるわよ」



アスカは、少しムッとして後ろを向く。



「ゴメン、アスカ。・・・どこでも好きなところ連れていくからさ。機嫌なおしてよ」

「ホント?」



ようやくシンジは笑顔になって、アスカをなだめ出す。

アスカはシンジの笑顔を見て少しホッとした。



「じゃあ、約束ね!!」

「うん。分かった」

「破っちゃ駄目だから」

「・・・信用ない?」



やや真顔で聞いてくるシンジに、アスカは笑顔で言った。



「ちょっとね〜」

「えぇ!?・・・僕はアスカとの約束を破った事ないとけどなぁ?」

「じゃあ、100%約束を忘れないおまじないをしてあげる」



・・・突然のキス。



シンジはあまりに突然だったので、背中が後ろの壁につくぐらい後ずさった。

アスカはそれでも離れない。

より離れないようにする為、シンジの手を強く握る。



無言の時間は、たっぷり1分は続いた。



アスカは、ようやくシンジから離れる。

シンジは顔を赤くしてアスカの顔を見た。

アスカの顔もほんのり赤かった。



「これで忘れないでしょ?」

「・・・これだけされればね」

「約束を破ったら、アタシ専属のメイドにしちゃうわよ」



アスカは悪戯っぽくウインクをしながら、冗談めかして言った。

それとともに、心が少し軽くなったのを感じる。



『・・・アスカ・・・・・・』



シンジは、微笑みながら再びケイジに歩き出した。



アスカはその後ろ姿が見えなくなる頃に呟く様に言った。



「アタシにはこんな慰め方しかできないけど・・・・・・少しでも元気出してよ、シンジ・・・」





「碇君!!来たわ!!」



レイの大きな声でシンジは目を開ける。

そして上空を見上げると、流星のようなモノが一筋だけ見えた。



「なんだ!?あれは!!」

「・・・・・・槍。・・・ロンギヌスの槍!!」

「!?」



それが分かった時には、槍はかなり地上に近づいてきていた。

凄まじい勢いで降ってくる。



「くっ!!」

「ダメッ!!碇君!!」



走りだろうとする初号機を零号機が押さえ込んだ。

そして、そのまま覆い被さるように倒れ込む。

それと槍が落ちたのがほぼ同時だった。



ドゴッ!!バァァーーーーン!!



初号機と零号機に凄まじい衝撃が襲いかかる。



「うわぁぁーーーーー!!」

「きゃあぁーーー!!」



しかし、それだけでは止まらずに零号機が吹き飛ばされる。

が、幸いそれほど飛ばされずに済んだ。



5秒程度だったが、それでも凄まじい衝撃に周りのビルなどは完全に崩れてしまった。

かなりの場所から火の手が上がりだしている。

そして、ロンギヌスの槍が落ちた場所に空く大きな穴。



「大丈夫!?レイ!!」

「・・・えぇ。大丈夫」



シンジはレイが大丈夫だと分かると、今度はジオフロントが心配になった。

通信回線を開き、大きな声で呼びかける。



「ミサトさん!!ミサトさん!!・・・返事をして下さい!!ミサトさん!!」

「ダメよ、碇君。本部側の回線が開かないわ!!」



シンジは弐号機への回線も開く。



「アスカ!!返事をして、アスカッ!!」



だが、アスカからも返事は返ってこない。

シンジは、全身から血の気が引くのを感じた。

しばらくしてシンジは初号機を立たせて、先ほど空いた大きな穴に向かって走らせる。



「碇君!!危ないっ!!」



シンジはレイの声で咄嗟に横へ避ける。

一瞬遅れて、その場所に鋭い槍が突き立てられた。



シンジは上空を見上げる。

そこには強い光を放つ6枚の翼。

・・・しかも、2対もだ。



それはゆっくりと地上に降り立ち、地上に空いた大きな穴を背に立ちはだかった。

2体のセラフのシルエットが周りの炎で浮き上がって見える。

シンジはただ叫び、セラフに殴りかかった。



「・・・退け・・・・・・退けぇぇーーーーーーー!!!」



シンジは凄まじい勢いで迫ったが、セラフのATフィールドに阻まれる。

レイはそれを見て素早く動き、ATフィールドを中和、手に持っていたパレットガンを撃ち込んだ。



ガスッ!!



しかし、セラフはATフィ−ルドが消えたと同時にロンギヌスの槍を振り回して初号機を弾き飛ばす。

弾け飛んだ初号機は、完全に穴とは反対の方向に向かって吹っ飛ぶ。



零号機のパレットガンは確実にセラフを捉えているのだが、全く効果を現さなかった。

ただでさえ暗闇のせいで視界が悪いのに、さらにそれが悪化するだけだった。



『利かない。ならば・・・』



レイはパレットガンをセラフに投げつける。

同時に武器をプログナイフに持ち替え、斬りかかった。



ギィィンッ!!



そんな音をたて、零号機のプログナイフはセラフの装甲を纏ったかの様な腕に食い込んだ。



セラフは、その攻撃を受けながら零号機の頭部を鷲掴みにする。

零号機の頭部を信じられない力で鷲掴みにされたレイは、声にならない悲鳴を上げた。



「あ・・・うぅあっ!!」

「レイッ!!」



初号機は零号機が捕まる瞬間、零号機を掴んでいるセラフに飛びかかる。



セラフはそんな初号機に向けて、零号機を投げつけた。

初号機と零号機が空中で衝突する。

そして、そのまま地面に落下した。



傍観していた方のセラフがその初号機と零号機の姿を見て、地面に大きく空いた穴の中に消える。

残った1体は大きな穴を背にして、改めて初号機と零号機を阻む様に立った。



赤い槍を手にし、朱色の翼を広げたまま・・・



NEXT

ver.-1.00 1997-02/04公開

E-mail:zenon@mbox.kyoto-inet.or.jp


次回予告  セラフの舞う瞬間 −第2部− 第9話 「ただ生きるために」



あとがき



ども、Zenonです。(^^)

「セラフの舞う瞬間」 −第2部− 第8話です。



今回は、特にお話する事はありません。(^^;)

この話は次回と繋がりがいつもより強いので、「前編、後編」みたいになります。

長いお話などは、完全に次回に持ち越しです。(笑)



今回はわたくしの意見など聞かずに、皆様が読んだままに感じて下さい。



ではでは、また次回でお会いしましょう!!




 Zenonさんの『セラフの舞う瞬間』第8話、公開です。


 つええぞ、セラフ・・・

 初号機と零号機のツープラトンを
 軽くあしらうように・・・


 つえええ


 でも、でも・・
 シンジには強い支えが。

 カヲルくんも。
 なんと言ってものアスカちゃんもーー。



 デートが待っているんだ、
 負けるな〜シンジ〜


  頑張ってね。


 さあ、訪問者の皆さん。
 あなたも強い思いをZenonさんに送りましょう!

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