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セラフの舞う瞬間

第1話 「突然の再会」


Written by Zenon





・・・事件だった。それは紛れもなく、シンジの人生の中でも大きな事件だったであろう。

渚カヲルとの出会い・・・そして最悪の結末。

しかしシンジが死を覚悟した瞬間、彼は再び現れたのだ。

そして彼の働きによって、最悪の瞬間はおとずれなかった。

・・・人類は未来への道を手に入れたのだ。



「・・・それは本当なのか?」

「えぇ、本当ですよ。まだ『使徒』は滅んではいません。4年後、再びやってくるでしょう」



ネルフ本部のある部屋で中央の椅子に座った男と、それに向かうように立った 銀髪の少年が話をしていた。



「それは我々に対する警告か?」

「そうです。・・・しかし、もう僕は『使徒』じゃない」



そう言って銀髪の少年は座っている男の目をじっと見つめ、そしてゆっくりと 天井を見上げた。



「彼らは今までの『使徒』とは違います」

「・・・どうしろと言うのだ?」

「まずは『エヴァ』を僕に貸していただきます」

「!?・・・」



座った男の顔がぴくりと反応を示した。しかし少年はそのまま話を続けた。



「心配しないでください。何も使うわけではありません。ただお借りするだけです」

「・・・・・・」

「・・・僕を信用してもらえませんか?」



座っている男は、すぐには答えなかった。・・・無言で考えている。重い空気がその場を支配した。

数分後、男はようやく口を開いた。



「・・・分かった。信じよう」

「ありがとうございます」

少年はその中性的な顔を笑顔にして言った。それは誰もが心を開いてしまうような優しい微笑みだった。

そして少年はその笑みを残したまま、部屋を出ていこうとした。その背中に声がかかる。



「待て。・・・危険はないのだろうな」



少年は再び振り返り、一言答えた。



「えぇ、ただの4年後の準備ですよ」





「ほらぁ、バカシンジ!!早くしなさいよぉ〜!!」

「ちょ、ちょっと待ってよ、アスカ・・・」

「あんたがのろのろしてるから悪いんでしょ!!」

「そんなこと言ったって・・・アスカがまともに起きてくなかったのが悪いんじゃないか・・・」

「な、なんですってぇぇ〜!!」



1組の男女が全力で走っていた。

しかしお互いの声も怒濤の勢いで繰り出される。

口では喧嘩をしながらも、足は確実に学校に向かって走っていた。



 現在の時刻 AM 8:25



その数字は今現在の2人の状況では、最悪の数字である。学校まではこのまま

行ってもまだ8分はかかる。

授業の開始は8:30だった。



「ア、アスカ!!もう時間がないよ!!」

「きゃあ〜!!あと5分しかないじゃないの!!全てはアンタの責任よ!!」

「分かった。・・・分かったから真面目に走ろうよ、アスカ」

「しょうがないわね。ほら全力よ、バカシンジ!!」

「ちょっ!!手を引っ張らないでよぉ〜!!」



結局、こんな調子で走って2人は学校にぎりぎり間に合ったのだった。





「ほ〜んまに懲りひんなぁ、夫婦そろぉて」

「全くだ。シンジ達には学習能力っていうものは無いのか?」

「・・・仕方ないだろ。アスカが起きないんだから・・・」



自分の机に突っ伏すように右頬を押しつけているシンジは、2人の親友に囲まれていた。

1人はいつもジャージ姿の鈴原トウジ。そしてもう1人は眼鏡の相田ケンスケだ。



「それならもう少し早く起こせばいいじゃないか」

「そやそや」

「やったさ。・・・でもアスカは結局いつもと同じ時間に起きるんだよ」



その声を聞いた栗色の髪の美少女はシンジの机を力一杯叩いた。

その音にクラス中が静まり返る。当のシンジは机に耳をつけていたので、机からの衝撃に頭を抱えていた。



「なんですってぇ〜!!もう1度言ってみなさい。あれはアンタの起こし方が悪いんじゃないの!!」



耳を押さえながらシンジはアスカに反論した。



「何でだよ!!僕はちゃんと起こそうと努力したじゃないか!!起きないアスカが悪いんだろ!!」

「へぇ〜、アンタの方法で起こしてるって言えるの?アンタはただアタシを軽く揺さぶって『起きてよ、アスカ・・・』って言ってるだけじゃない!!あんなのでこのアタシが起きるわけないでしょう!!」

「だってそうしないとアスカは怒るじゃないか!!大体、それは胸を張って言える事じゃないだろ!!」



それを聞いてアスカはぷるぷると震えて、シンジを睨み付けた。

シンジは『しまった!言い過ぎた!!』と思ったが、時は既に遅かった。



「アンタが言わせてるんでしょう!!こぉんのバカシンジ!!」



パーン!!



勢いのついた抜けの良い音がクラスに響きわたった。



「平和やの〜」

「全くだ」



トウジとケンスケは外の景色を眺めて言った。





その日の授業は午前中だけで簡単に終わった。

まだ学校も完全に再開していない。

あの最後の戦いから、まだ1ヶ月しか経っていないのである。

当然といえるだろう。

あの戦いで町の多くが潰れたかといえば、そうでもない。

意外に倒壊した建物などは少なかった。

ただ避難した人たちがまだ帰ってきていないだけである。

しかし、日々着々とこの危機の去った第3新東京市には人々は戻ってきていた。



「さぁて、帰りますか」

「あぁ〜、眠ぅ〜」

「全く・・・鈴原はさっきあれだけ寝てたでしょう」

「そう言うたかてなぁ、いいんちょ」

「ほんとに良くそれだけ寝られるわね、ねぇ〜ヒカリ」



そんな声を聞きながら、シンジはぼんやりと考えていた。



『・・・本当に平和になったんだな・・・良かった・・・』



シンジはニコニコしながらアスカたち4人を見ていた。その視線にいち早くアスカが気づいた。



「アンタ、何笑ってるの?1人でにやにやと。早く帰るわよ」

「えっ?あぁ、ごめん」



照れて赤くなったシンジにトウジとケンスケがつっこみを入れてきた。



「なんやなんや。せんせと惣流は夫婦そろぉて帰って何かあんのか?」

「トウジ、当たり前だろ。愛する2人にこれからの家に帰ってからの時間は、それはそれは夢のようなひとときなんだから」



それにアスカが真っ赤になりながら怒鳴り散らした。



「な、なんでこの惣流・アスカ・ラングレー様がこんなバカシンジとゆ・ゆゆ・・夢のようなひとときを過ごさなきゃいけないのよ!!」

「惣流。お前、思いっきりドモッとるで」

「そうそう。シンジもまんざらじゃなさそうだし・・・」

「な・・・何を赤くなってるのよ!!バカシンジ!!」

「あ・・・その・・・ごめん・・・」

「まぁまぁ、みんなそれくらいにして帰りましょう。ほら鈴原もいつまでも子供みたいな事言ってるんじゃないの」

「分かっとるがな、いいんちょ」



その場に助け船を出したのは委員長、洞木ヒカリ。その声を聞いてみんなもようやく帰る用意を始めた。

その時に突然、シンジの携帯電話が鳴った。シンジはすぐに電話に出る。



「はい、シンジです」

『あっ、シンちゃん!!』

「どうしたんです?ミサトさん。慌てて・・・」

『どうしたもこうしたもないわよ!!今すぐアスカを連れてネルフへ来てちょうだい!!今すぐよ!!』

「えぇ、・・・分かりました。でも、何があったんですか?まさか・・・『使徒』・・・」



シンジのそう言った言葉にアスカをはじめとする4人が、はっとなるのが分かった。



『違うわよ!不吉なこと言わないの!!あなた達にとって嬉しい事よ!!あぁ、もうじれったいわね!!とにかく急いで来なさい!!』



そう言って電話は切れた。



「どうしたんだろ?ミサトさん?」

「何だったの?シンジ」



アスカが少し心配になって聞いてくる。他の3人も不安そうだ。



「うん。何だか知らないけど、アスカと一緒に大至急ネルフへ来いって」

「理由は分からないの?」

「うん・・・でも僕らにとって嬉しいことだってミサトさん言ってたけど」

「そう・・・なら一安心ね。アンタが『使徒』なんて言葉を使うからびっくりしたじゃないの」

「ご、ごめん・・・」

「まぁ、いいわ。ほら、とっとと行くわよ」

「うん・・・」



そう言ってアスカはシンジの手を引っ張って歩き出した。

『・・・ホントに強引なんだから、アスカは・・・でもアスカらしいかな・・・』と考えつつもしっかりと赤くなってついて行っていた。



「じゃあ、アスカ。私たちは先に帰るわよ」

「うん。ごめんね、ヒカリ」

「いいわよ、しっかりね。アスカ。また明日ね」

「また明日な、シンジ」

「うん」



そう言ってトウジ達は教室を出ていった。アスカはヒカリの『しっかりね』の言葉にすっかり赤くなっていた。



『な、なんて事言うのよ、ヒカリは・・・・・・アタシは・・・別にシンジの事なんか・・・・・・』



・・・当然、シンジにはどうしてアスカが赤くなってうつむいているかは分からなかったが、アスカ自身にも何故こんなにも恥ずかしいのかをはっきりと分かっていなかった。





第3東京市のほぼ中心に位置する国連特務機関NERV本部。

表面上は今までとも何も変わってはいない。

しかし、最近は全てが秘密の組織では無くなってきていた。

今まで秘密裏に表へ出なかったネルフの名前も、今では少しづつではあるが人々に馴染んできている。

その情報公開が1ヶ月前のことなのだから、やはりネルフの力は底知れないものがあった。

当然、シンジ達やエヴァの事までは明かされてはいないが、それもそう遠くはないかもしれないとシンジは考えていた。



『みんなに僕たちのあの苦しかった戦いを知られるのは少し辛い気もするけど、みんなに隠し事をしないで済むのはいいな。確かにあの戦いは事実なんだし・・・』



シンジの素直な感想だった。

シンジの傷つき疲れ果てた心は戦いが終結した事と周りの人たちが全員無事で あった事もあって、徐々に癒やされつつあった。



『そう言えば、今日は綾波とカヲル君が学校に来てなかったなぁ。・・・どうしたんだろう?』



そんなことを考えているうちに、シンジとアスカはネルフに到着した。



「まったく・・・人を呼ぶくらいならミサトが迎えにくればいいのよ!!」

「しょうがないよ。ミサトさんも忙しそうだったから仕事でもしてるんじゃないのかな」



アスカはさっきからかなり荒れている。

急いで来いと言ったミサトに対して、何のリアクションが無いことに腹を立てているのだ。

シンジはそんなアスカを苦笑しながら諫める事しかできなかった。

相変わらずアスカはおさまらないのだが。



そしてシンジとアスカはネルフに入った。

普通ならば色々と検査などがあるのだが、2人は当然のように顔パスだった。

たまに顔なじみのネルフ社員たちが挨拶をしてくる。

既にネルフ内でのシンジとアスカの仲は有名だった。

本人達は否定はしているのだが、ネルフの社員たちはこの若い2人を見守っていた。

それは2人が想像を絶する戦いと苦しみの中で、共に支え合ってきたことを知っているからでもあった。

しかし大人達はそんな境遇に引き込んだ責任から、シンジとアスカにうまくいってほしかったのだ。

しばらく歩いているとミサトが2人を見つけて走ってきた。



「シンちゃん!!アスカ!!遅いじゃないの!!」

「よく言うわね!!そんなに早く来てほしかったのならミサトが迎えに来てくれたらよかったのよ!!」

「ア、アスカ・・・」



アスカはミサトの声を聞いた瞬間、先ほどの怒りが再沸騰して大きな声を上げた。

シンジは驚いてアスカをなだめた。

しかし、ミサトは全く怯まずにシンジとアスカに近づいた。



「分かったわ。それは謝るからとにかくついてきて」

「一体何があるんですか?ミサトさん」

「ついてくれば分かるわ」



そう言ってミサトは嬉しそうな顔をした。

シンジとアスカはお互い首を傾げながら、とにかくミサトについて歩いた。



不思議なことにミサトは作戦室にも、ケイジにも入らずに真っ直ぐとシンジと アスカも滅多に歩かない場所を歩いた。

さすがに不信がって、アスカがシンジの耳元で小声で言った。



「ねぇ、シンジ。今日のミサト、おかしいと思わない?」

「うん。確かに何か隠してるような雰囲気があるね」

「ミサトがああいう風に笑う時って、何か私たちをビックリさせようとしてる時よ」

「うん・・・怪しいね。アスカは何か思い当たることはある?」

「う〜ん・・・アタシの誕生日は済んだし、アンタもまだだし・・・」

「まぁ、ミサトさんの考えることだから、僕らが考えても分からないよ」

「そうね・・・」



そうこう話しているうちにミサトはある部屋の前で立ち止まった。

その場所にシンジとアスカはあからさまに驚いた。



「ちょっと、ミサト。ここってシンジのお父さんの部屋じゃないの?」

「・・・うん、父さんの部屋だ」

「そうよ」



あっりと言葉を返すミサトにアスカが詰め寄った。



「一体何を考えてるのよ、ミサト・・・」

「まあ、入れば分かるって・・・あっ!!ちょっち待って。心の準備はいい?」



ミサトはシンジとアスカにそう言って間を取った。

シンジはいざ知らず、アスカは気負いなど必要ないので自信たっぷりに答えた。



「何のことか分からないけど、いいわ。ど〜んといらっしゃい!!」

「分かったわ、じゃあ空けるわね」



そう言ってミサトは司令室のドアを開けた。

部屋の中は少し薄暗くてよく見えなかったが、何人かの人が集まっている。

しかし中にはいると、その場にいる人の顔がようやく見え始めた。

碇ゲンドウ、冬月コウゾウ、綾波レイ、渚カヲル、加持リョウジ、赤城リツコとそこまでは分かったが、あと2人いる。

シンジの知らない人だった。



『あれ?・・・誰だろう?・・・でも・・・何か・・・』



シンジがそう考えた瞬間、アスカががくがくと震えながら口を開いた。

そしてこう言った。



「・・・ま、まさか・・・・・・ママ?・・・ママなの?」

「えっ?」



シンジは驚いてアスカを見る。

その顔は今まで見たことの無いような驚きの表情と期待の表情をしている。



「アスカちゃん・・・」

「・・・ママ・・・ママ・・・・・・ママぁーーー!!」



アスカは信じられないような声で叫びながら、とても優しそうな女性の元に走り寄った。

そしてその女性もしっかりとアスカを抱きしめる。



『ママだ!!アタシのママだ!!・・・会いたかったママだ!!』



「ママぁぁーーー!!」

「ごめんなさい、アスカちゃん。今まで寂しい思いをさせてしまって」

「うわぁぁ〜〜〜〜〜」



アスカはそのまま母に優しく抱きしめられて号泣した。

シンジは何か信じられないようなものを見るようにアスカを見ていた。



『アスカが・・・アスカが泣いてる。人がいるところで大声を上げて・・・』



シンジがぼーっとその様子を見ていると今度はシンジに声がかかった。



「シンジ・・・」

「えっ・・・」



シンジが横を向くと、そこには綾波レイに相似した女性が立っていた。



「シンジ・・・ただいま」



もう1度そう言われてシンジもこの女性が誰なのか分かった。

いや、自分の中ではとっくに分かっていたのだが、シンジは確信が持てなかっ たのではっきりと言えなかった。

だが今度はいつの間にか流れ出た涙を拭きもせずに微笑み、そしてはっきりと その女性に向かって言った。



「お帰りなさい・・・母さん」と・・・



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ver.-1.20 1997-11/09公開 改行方法変更
ver.-1.10 1997-11/02公開 改行位置修正
ver.-1.00 1997-10/31公開

ご意見・ご感想は zenon@mbox.kyoto-inet.or.jpまで!!
次回予告  セラフの舞う瞬間 −第1部−  第2話 「めぐり会う絆」



あとがき



こんにちは。

いや、こんばんはかな?

いやいや、待てよ。もしかして「グーテンモルゲン」かも?(^ー^)〃

どちらにしても初めまして。わたくし「Zenon」(ゼノン 20歳 ♂)と申します。

いや〜、初登校ですよぉ!!←(えっ!?字が違うって?)

ははは、お恥ずかしい。なにぶん若葉マークなもんですみません。

今までインターネットは結構してたんですけど、メール系統は全然したことがなくって・・・

全然関係ない?

じゃあ真面目なお話を致しましょう。



実は恥ずかしながら、わたくしは「エヴァンゲリオン」を良く知りません。



   (・・;)・・・シ〜ン・・・



・・・いや、真面目な話です。ははは・・・テレビも再放送を最後の方の6話ぐらいを見ただけです。

映画もゲームもコミックも良く知りません。知ったのが遅すぎました。(←シャレにならないゾ)

そんなZenonですが、経験値はつんでます。インターネットで小説を読みましたから。(笑)

しかしここだけの話、それだけで通用するのか不安で仕方ありません。

そこで皆様の感想を『激待ち』していますので、メールをうちに寄せてください。苦情でも構いません。(でも、励ましの方がうれしいなぁ〜・・・なんちゃって)



こんなヌルい私ですが、頑張りますのでよろしくお願いします。(_ _)



ではでは、また次回でお会いましょう。



 本日2人目の新住人ですね。

 通算88人目の御入居者Zenonさん、こんばんは(^^)
 

 私が呼んでいるのは22時過ぎなので、
 「こんばんは」です(^^;

 

 

 トウジの関西弁、全く問題ありません(^^)
 すらすらと違和感無く読み進められました。

 私、バリバリの大阪人ですので参考になりませんね(^^;;;
 

 カヲルがネルフ陣営についた、
 アスカの母とシンジの母が復活した舞台・・。
 

 4年後に起こる予告された危機。

 どうなるのかな・・

 まだ、”危機”になることさえ確定ではないですね。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 Zenonさんに声を届けましょう!


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