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一〇

 

マナは、今自分の立っているところがかすかに揺れたような気がした。

いつの間にか、自分がそこに座り込んでしまっていることに気がつきはしたが揺れている

大地のことを思うまでそのことには、気がつきもしなかった。

「な、泣くだけじゃないなんて。」

マナがその言葉で自分を鼓舞するように立ち上がったそのとき、さらに巨大な揺れが大地を

襲った。

 

 

ベータ号は、発進準備が整うと同時に、レールを固定された台ごと移動し始めた。

ある程度の傾斜を上り終えると、そこで停止した。

「特佐、30秒でゲートが開く、出れるな?」

黒木の問いかけに、逸見は

「いつでも、でれますけれどね。」

と、面倒くさそうな返答をした。

「わかった、では発進してくれ。」

正面の、キャノピー越しに見える光が徐々に大きくなり、そこから空が姿をあらわす。

「エンジン、点火。」

逸見の指示がとぶと同時に、パイロットはそのレバーを押し下げる。

後方からの鈍い音と振動が強くなると同時に、白い空中戦艦ベータ号は山間の木々を押し分けて

空に舞い上がった。

「出力、機体、ともに異常なし。」

「各部、異常報告無し、現状で戦闘可能。」

各部署、およびエンジニアシートからの報告を聞き、逸見は頷くと

「高度3000、最大速度、第三新東京市に針路をとれ。」

その指示と同時に、ベータ号は青白い炎の尾を引き轟音とともに飛び去った。

 

 

ひざが震えてるわけでもないのに、マナはついに立っていることができなかった。

だが、それはマナだけではなかった。

ネルフのスタッフもまた、再び倒れる機材の中で立つこともままならなかった。

「なにがおきたの?」

リツコは、方ひざ立ちの状態で状況の確認をいそいだ。

マヤは、手持ちの端末を操作すると即座に状況を報告しはじめた。

「伊豆半島、および箱根一体に火山性地震が発生、それに加えて、」

マヤの報告はそのまま途切れた。

目の前の、沈みかけていたビルの一つが大きく揺れると同時にこなごなに砕け散ったのだ。

その、ビルの中から矢のように飛び出したのは、ラドンだった。

「ラドンが、ビル基底部から、外部への脱出をしました。」

マヤのこたえの続きは、通信を行っていたほかのスタッフから伝えられた。

「なんなの?、なんであいつはここにでてこれたの?」

ミサトは信じられない、という表情をしてリツコのそばに近寄りながら聞いてきた。

「わ、わからない。」

リツコはそういうと、揺れが収まりかけたことからゆっくりと立ち上がった。

「でも、ビルのいくつかが、まだ地下の基底部とつながっていたとしか思えない。」

そしてそういった。

「どうやって?。」

ミサトの問いにリツコは、ミサトを見据えると

「空気のながれだと思うわ、それ以外かんがえることはできない。」

そういって、空を舞うラドンに目をむけた。

 

 

「ファフッ!!」

アスカは使徒の中に林立するビルの一つからラドンが飛び出したことに驚き、思わず声を

出していた。

だが、その声に気づくこともなくラドンは咆哮すると目標をデストロイアに定めたのか

低空へとものすごい勢いで急降下をかけていた。

その衝撃波は、零号機に取り付こうとしていたデストロイアをはじくと周囲のビルにも被害を与えていた。

だが、そんな事とはお構いなしにラドンは再び上昇すると今度は黒い怪獣に向かい急降下を

かけようとした。

だが、黒い怪獣はその様子をみていたのか、弐号機との戦いを止めるとふたたび空中に舞い上がる。

それにより、ラドンもまた急降下による衝撃波の攻撃を中止した。

「航空部隊に連絡、N2爆弾投下開始。」

リツコは、今をチャンスと即、航空部隊に指示をだした。

だが、ラドンの飛び出してきたときの影響により虚数空間の維持バランスを失った使徒は収縮を開始しはじめた。

今のように、広いエリアで虚数空間を維持することが出来なくなった以上、そのサイズを小さくすることで

逃れようとしたのだ。

だが、その隙をぬって爆撃機の一機がN2爆弾の投下を開始した。

黒く底なしの使徒の中に吸い込まれて数秒、閃光だけが使徒から飛び出した。

その爆発も、効果はなかったのか収縮活動を続ける使徒だったが、突然波打つように動き始めた。

実際に地面波立たせたわけではないのだが、そこには突然厚み、というものが存在し始めたのだ。

「芦ノ湖の湖水温度上昇してます、現在摂氏36度!」

それと同時に青葉は、今はいってきた情報を報告した。

 

「碇、芦ノ湖にも異変がおきているぞ。」

冬月は、連続する異変に動揺を隠せないでいた。

無論、他の誰もがそうだったろう。

特に、司令室にいる者は全員がリアルタイムで情報を得ている。

その状況の危険な状態を知らないわけはなかった。

「気にするな、冬月。

芦ノ湖は我々のシナリオにもゼーレのシナリオにも含まれてはいない。」

そういうと、視線を再びモニターに移される頭上の戦闘に戻した。

「しかし、こうも異常続きではシナリオの変更も考えないとまずいだろう?」

冬月はさらに食い下がる。

が、ゲンドウはちらっと冬月に視線をむけただけで、またモニターに見入っている。

「我々の計画には、不確定要素がおきても支障はない。」

そういって、にやっと笑うとくんだ手で口元を隠し、だまったまま状況を観察するだけだった。

(我々に支障はなくとも、ゼーレがどう思うか。)

そんなことを考えたが、いっても無駄なことと黙ったままともにモニターをみていた。

が、冬月は逐次報告される芦ノ湖の情報がきになり、その戦況には注意がむかなかった。

 

ベータ号が芦ノ湖上空を飛び去るとき、観測された芦ノ湖は一部の水の色が変色しすでに

あわ立ったようになっている状態だった。

下に連絡をとらなくとも、そこがすでに避難指定地域になっているのは一目瞭然だった。

「芦ノ湖、噴火しました!」

状況を観測していたクルーが逸見に報告をした。

と、同時に爆発によるだろう振動がベータ号を襲う。

「状況報告。」

「各部、異常なし。」

逸見は、期待したこたえだったことに満足した。

一瞬ベータ号を包んだ噴煙は衝撃こそ与えはしたが、その機体にダメージを与えることは無かった。

幸い、水蒸気が大半を占めている所為でも在るのだろう。

「耐熱装甲マーカライト、剥離ありません。」

さらに、機体チェックを行った報告は機体の頑強さを物語っていた。

「本艦は、これより戦闘領域に突入します。」

航法席からの報告に逸見は

「周辺のスキャンを開始、デストロイア、黒い怪獣、ラドン、全ての現在位置を確認。」

と指揮を出す。

レーダー、ソナー、全ての探査機器が状況を的確に把握する。

刻々と変わる相手の位置を把握しながら、

「減速、速度2分の1、各部、各員に戦闘準備、全攻撃機器のロック解除。

艦を第三新東京の東に持っていく、真鶴沖のデストロイアの監視を強化。

3分後に戦闘開始。」

と指示わする。

第一目標はデストロイア。

逸見はそう決めた。

 

 

 

芦ノ湖から響いてきた轟音に対し、動きを止めたのは人間だけだった。

ラドンも、黒い生物もまた、デストロイアもその動きに変化はなかった。

遠くに見える噴煙と、響く轟音の中怪獣たちは目の前の相手に対する攻撃の

手を緩めようとはしない。

舞い上がった黒い怪獣はラドンの針路をふさぐように飛行した。

だが、空中で体をひねるとラドンは、その上に覆い被さるように飛ぶと速度をあげ、衝撃の波を

黒い怪獣にぶつける。

黒い怪獣から飛び散った破片は、だが、再び空中で元の体に戻っていく。

地上ではデストロイアが再び動きだし、今度は弐号機に向っていった。

「こんのぉーっ!」

アスカは叫ぶと、ソニックグレイブの穂先を思いっきりデストロイアの胸に突き刺す。

さすがに苦しげな声をあげるが、それもつかの間のことだった。

突き刺さった部分からデストロイアは二つに分かれると、先ほどまでとはサイズが小さくはなったものの

2体の集合体となった。

「な、なんてやつなの!」

アスカは、その姿に過去に闘った第七使徒の姿を一瞬脳裏に思い描く。

だが、これは使徒ではない。

しかも、他にもその存在は確認されている。

「確実にやっつける方法ってないの?」

アスカは無線に向かい叫ぶが、その答えはなかった。

 

 

使徒は内部虚数空間に打ち込まれたN2爆弾の爆発により、その形態を著しく変えていった。

すでに、内部での爆発による電磁波衝撃は収まりつつあったがそれでも各精密機器への影響は

なかなか収まらず、無線はレーザー通信以外は使えない状態になっていた。

「リツコ、初号機はどうなったの?」

ミサトはその爆発の影響で地上の本体と空中の影が一つに融合しつつある状況で、初号機を吐き出すことも

しない使徒から目を離さずに、リツコに聞いた。

「わからないわ、ラドンの作った衝撃で数値がかわってしまった所為かもしれない。」

会話を続ける中でも使徒は融合をつづけている。

「内部に初号機を取り込んだままで、闘わないといけないってことね。」

その形態を一つに整えつつある使徒を見て、ミサトは悲観的な響きをもった声で呟いた。

また、地震がおそってきた。

先ほどの噴火の余震だろう。

その揺れはすぐに収まりはしたが、芦ノ湖の噴火はとどまる様子を見せてはいなかった。

再び、強く水蒸気を多量に含んだ噴煙が大きく湧き上がった。

 

 

ラドンは、上昇して黒い怪獣の真上にでようとした。

だが、黒い怪獣もそれを感じ取ったのかラドンを追う。

二匹の怪獣はその姿を上空で大気中の爆撃機の編隊の中心にあらわした。

ラドンはそこで編隊の数機の上すれすれを飛びぬけた。

その影響で、1機が衝撃波をうけ機体を破損し、失速し墜落をはじめた。

「なんてやつらだ!」

いまいましげな機長の声が雑音混じりに編隊各機に聞こえてきた。

だが、そのラドンを追うように飛んできた黒い怪獣は墜落する爆撃機のしたにいた。

コクピットが射出され、乗員が脱出したのが確認された。

機体はそのまま黒い怪獣にむかっていく。

黒い怪獣も、よけるつもりは無いようにまっすぐ飛んでいく。

二つが空中でぶつかった。

N2のまばゆい光がそらを包む。

と、誰もが思っていた。

だが、その光は起こらず、爆撃機が怪獣の中を通り抜けると、その形が徐々にくずれ数秒でばらばらの

破片に姿を変えた。

N2爆弾すら、こなごなにくだけていったのか破片が地上に落ちても何もおきなかった。

「な、なんなの?、あの怪物は!」

ミサトの怒声は、その場の全員の恐れの代弁といってもよかった。

唯一ラドンは、その相手に向かい再び突進していった。

そんな怪物なぞ、おそれていない。

とでもいうように。

 

 

「熱戦砲、発射。」

逸見は様子を見ていた中で、黒い怪獣の動きはラドンのみを相手にしており、他の者をまったく

無視している、といってもよい状態に気が付いた。

人間をなめているのか、それとも単純なのか。

ばかにされているのかもしれない、だが、攻撃のチャンスには違いなかった。

機首というか、艦首につけられた熱戦砲で黒い怪獣の攻撃を指示した。

「ラドンにもあたってしまうかもしれませんが?」

砲撃手の言葉に

「あいつも怪獣だ、いつかは敵だ。」

と答えた。

なにか言いたそうな砲撃手の顔を無視し、砲撃の開始を命じた。

鈍いうなりとともに、白熱した熱戦が黒い怪獣とラドンの空戦空域むかって伸びていった。

熱戦は、黒い怪獣に見事に命中した。

 

ラドンは、その熱戦が相手に命中したと同時に黒い怪獣とすれ違った。

すでに、爆撃隊は安全な空域に避難しているようだった。

熱戦を受けた黒い怪獣はばらばらと破片を撒き散らしながら第三新東京市内に落ちていく。

「やるわね、どこの誰だかしらないけれど。」

ミサトがその熱戦を撃ってきた方向に視線を移しながら言う。

リツコもほっとした表情を垣間見せた。

だが、使徒は球形の体からコア、目と思しき器官、そしていくつかの手とおもえるような期間を

生やし、零号機に向かっていった。

だが、その動きはさほど速い動きではなかった。

「おもったより、遅いわね。」

「あれは、本来格闘をするための使徒ではないようね。」

ミサトの呟きにこたえるようにリツコが言う。

「状況回復しました、通信、観測は普通に行えます。」

日向マコトが二人の背後から報告した。

「わかりました、本部と連絡をとって。

内部の様子を知りたいわ。」

ミサトは使徒の内部の確認を急ぐと同時に

「レイ、いいこと使徒の内部の様子がわかるまでむやみな攻撃はしないで。」

とレイへの指示をだした。

大地の微動が続く中、ミサトはレイに対して使徒への優先的な対応をさせることに決めた。

N2の爆発を体内に受けてもなお、初号機を吐き出さず、形を変えた使徒。

格闘による力づくで初号機を奪い返すしか今の手立てはなかった。

だが、それを阻むかのように零号機に向かってくるデストロイア。

大きさを半減させたとはいえ、それでも威力は半減したわけではない。

オキシジェンデストロイヤーを武器にするデストロイアには、大半の兵器は効果はなかった。

 

 

敵が二つになったことを理解したのか、黒い怪獣はその高度を下げ始めた。

地上付近での戦闘のほうが有利と判断したのか、それとも思ったよりダメージが大きかったのか。

「よし、ミサイル発射。」

逸見は、黒い怪獣がビルの影に身を隠すような動作をしたのを確認し、攻撃を指示した。

「ビルにも被害がでる可能性があります。」

部下のその指摘に

「かまうな、あれは人のすむビルじゃあない。」

そういい、攻撃の続行を命令する。

直後、ベータ号から撃ちだされたミサイルは兵装ビルを砕きながら黒い怪獣に命中する。

爆発と轟音の中、黒い怪獣の体表が飛び散っていく。

いくつか、大きな破片は再び本体と思える巨大な体に戻っていくが、小さな破片はわずかな動きを

みせるだけで、戻っていくことは無い。

 

「なんってことすんのよ、あの馬鹿は!」

兵装ビルをお構いなしに吹き飛ばし、辛うじて黒い怪獣に効果を与えたと思えるのだが、いくら

なんでも、損害を出されてはたまったものではない。

ミサトは、吹きすさぶ爆風の中ベータ号に向って怒鳴りちらす。

「でも、効果があったのは事実よ。」

ベータ号の尾翼の小さな国連マークを認めながらリツコはミサトに対して冷静に答える。

「だからって、こんなこと。

後で、国連に抗議しなくちゃ!」

ミサトもまた、尾翼の国連の記章を確認していた。

 

その中、アスカはじょじょに恐怖を感じていた。

使徒と違い、きりつければ切れるし、血のようなものも流す。

だが、

「なんで、なんで倒れないの!?」

目の下の筋肉が痙攣するような恐怖感を背筋に感じつつ、それでもアスカは果敢にデストロイアに

立ち向かおうとした。

「アスカ、真鶴沖のデストロイアもこちらにむかってるわ。」

「ええっ?、だって国連軍はどうしたのよ。」

 

国連艦隊は、それでもいくらかの足止めはしていた。

全部が全部、第三新東京市にむかっているわけではない。

真鶴、小田原、熱海等で足止めに成功したものもいる。

が、それでも、いくつかは防衛線をぬけて第三新東京市に向っていた。

「とめろ、とにかくなんでもいい、攻撃可能ならうて。」

はるか遠くの噴煙と、時折飛ぶ光、そして黒い影をみめながら国連艦隊の旗艦では

傾いた船の針路をデストロイアの跋扈する、陸の方へと向けた。

無論、こんな状態の船で戦うのは自殺行為だ。

が、使徒と怪獣の暴れる第三新東京市にこれ以上デストロイアが増える事は使徒の足止めにもならない。

「撃て!」

生き残った砲門と、艦はデストロイアの群にそれでも戦いを挑む。

 

「芦ノ湖監視カメラ、箱根峠監視カメラ、他いくつかの監視システム、機能停止しました。」

火山性の微動の感じられるNERV司令室の中で、不意にいくつかのモニターがブラックアウトした。

続いてその報告。

「原因はなんだ?」

何も言わないゲンドウになりかわり、冬月が聞く。

「わかりません、いくつかは振動での光ファイバーの断線が確認されます。」

「他には、なんだ?」

ゲンドウがはじめて怪訝そうに聞く。

光ファイバーの断線ならば、この火山活動なのだから考えられる。

「無線型のいくつかは、電磁ノイズの影響だと思われますが、原因は不明です。」

その報告に顔をしかめる冬月。

「ただでさえ、困った情況だというのに監視網に穴がでては最悪だぞ。」

じっとりと、背中に汗をかんじながら冬月はゲンドウに言う。

あせりからか、声が少し高くなっている。

「冬月、今ここでなにかおきると思うか?」

ねめあげるようにゲンドウは冬月を見る。

「今、なにかあるとは思えないが、それでも、」

「今ないならば、問題ではない。

故障はあとで直せばいい、それだけだ。」

だが、ゲンドウの答えをきいても冬月は胸の不安を消すことはできない。

いや、この情況で不安を感じるなというのが無理な話だろう。

 

 

火山性微動の中、レイは黒い球体、使徒に向かい歩を進める。

今、使徒はその黒い体をなかば半透明に近い状態に変えている。

そしてそこに見えるコアのような光点。

無数の、触腕を生やし目のようなものを妖しく輝かせている。

その中にうっすらと影のように映る初号機。

「碇くん。」

ぼそっと、呟くが、それはだれかに聞かせるためのものではない。

じりじりと近づく二つの影。

だが、背後にはデストロイアも迫っている。

上空のベータ号は黒い怪獣との戦闘に手一杯のようだった。

背後を気にしつつ、使徒に近づく零号機。

飛び上がり、零号機に襲いかかろうとしたデストロイアにラドンが体当たりを行う。

超音速の体当たりで数百メートルを吹き飛ぶデストロイア。

レイは、手にプログナイフを持たせる。

不気味に触腕をくねらせながら使徒は距離をつめてくる。

 

 

筑波のモニターには、空電ノイズに邪魔されながらもこの時点での戦闘はなんとか

送られてきていた。

「デストロイア、数が増えてるのかしら。」

三枝は、傍らの青木に聞いた。

「わからないわ、でも。」

次の言葉を即すように三枝は顔をむける。

「前のころより強くなっていると思うわ。」

無言で頷くその横でさらに青木は

「でも、あの黒い生物、あれは予想がつかない。」

モニターの中では、黒い生物とベータ号の戦いを主にうつしている。

すでにベータ号の白い機体にいくつかのしみのような跡が見て取れる。

「あの空中戦艦のボディも普通の装甲じゃないでしょうね。

でも、みて徐々に機体が侵食されているわ。」

そのしみを指差しながら青木は続けた。

「あいつは、あの黒い生物は硫酸ミストよりも強力な腐食物をだしているのかもしれないわ。

巨大になればなるほど、奴の酸は強力なものになるのかもしれないわ。

でなければ、なにか別の要素があるのかもしれない。」

その話に、手塚ミドリは

「じゃあ、あれは。」

なにかを言おうとしたのだが、言葉はつづかなかった。

戦闘空域の下の建物は、急速な酸化が進行していた。

 

「レーザー通信のアンテナが腐食しているだと。」

さらに続けて入った報告で冬月は思わず叫んでいた。

「どういうことだ?」

「上空に高濃度の酸化物の粒子が増えています。

おそらくは、あの黒い怪獣の影響だと思います。」

「監視カメラの映像がこないのもその影響か?」

「いくつかはそうだと思います。」

冬月は、引きつった顔で振り向くと

「碇、もはやあいつらの相手はできないぞ。

なんとかしないと、計画どころの騒ぎじゃなくなる。」

その冬月の顔を一瞬あざけるように見ながら

「どうすれば、安心するんですか、冬月先生。」

にやっと、小ばかにしたように言うゲンドウ。

「それは、Gフォースにやらせるという手もあるだろう。

なんとかしないと、手遅れになるぞ。」

その言葉が終わるとゲンドウは

「心配しすぎだ、冬月。」

と答える。

その様子にさらに口を開きかけた冬月だが

「まあ、ここまで大きくなったんだし、無理に断れば怪しまれるでしょうな。」

ゲンドウはそういうと、冬月の抗議をさえぎった。

冬月にしても、とにもかくにも不安要素の一つに光明が見えてきたような気はした。

(この状態でなんでそう落ち着いていられる、碇。)

冬月は内心の苛立ちを心の中にだけぶちまけた。

 

 

やっと、本部からの回答が手元にきたときにはすでに零号機と使徒の距離は

わずかなものとなっていた。

「通信で送ればいいでしょうに。」

ミサトはデータをもってきた職員にぶつくさと文句をいった。

「無理ね、ミサト。」

それに対し、リツコはこともなげに言う。

「なんでよ。」

低い声で聞く。

「見て、本部へのレーザー通信アンテナを。」

言われて見ると、かなたのビルにある本部への通信アンテナがすでに崩れ落ちている。

「な、なんでよ!」

よくみれば、ビルそのものも異常な変色をおこしている。

「わからないわ、デストロイアか、黒い怪獣か。

いずれにせよ、その影響かもしれないわ。」

その答えにミサトは、いったいいくらの経費をだしてもらえるんだろう、と考えてしまった。

「さ、データをみせて、ミサト。」

リツコに言われて、すぐにデータディスクを渡す。

「相変わらず虚数空間はたもっているのね。」

データを一通りみて、リツコは言った。

「でも、前と違ってかなり小規模ね。

せいぜい、初号機を閉じ込めておくだけって感じかしら。」

「じゃあ、あいつの腹をかっさばけばいいってことかしら、赤木博士。」

ちょっと考え込んでから

「そうね、それで大丈夫だとおもうわ、ただ。」

「ただ?」

「相転移爆発の可能性もなくはないわ、小規模だけどね。」

ふん、と鼻をならしてからミサトは

「確立はどのくらい?」

「五分五分、ってところかしら。」

ミサトは答えをきいてから、ちょっと考えると

「わかったわ、レイ。」

通信にレイがでるのを確認すると

「今もってるナイフで、あいつを切り開いて、シンジくんをたすけだしてやんなさい。」

と、指示を送る。

「無茶ね。」

「そうね、でもそれしかないわ。

ところで、爆発がおきたら規模はどのくらいになんのかしら?。」

リツコは眉根を寄せ、考えてから

「そうね、広島型原爆5つってとこかしら。

今の使徒のもつ虚数空間ならそのくらいね。」

「一連托生ね、レイ。」

行動に移り始めた零号機を目で追いながらミサトは呟いた。

 

 

薄くかげのように映る初号機の位置をターゲットとしてレイはナイフを構えた。

相手の触腕が不気味だが、なんとか懐に飛び込まなければいけない。

他に、武器もみあたらないところから懐までは速攻でいけばなんとかなる、と判断した。

零号機が地面をけって駆け出した瞬間、背後から強い衝撃をうけて零号機は前のめりに

倒れた。

「なに?」

レイは、驚き後ろを振り向く。

そこには、いつの間に現れたのか、別のデストロイア集合体が立っていた。

 

「な、いつの間に!」

ミサトは叫んでいた。

いくら電波情況がわるく監視装置の類がまともに動かないでもあんな巨大なものは目視で

わかるはずだ。

 

「別のデストロイアだと?」

逸見もベータ号のブリッジでその報告を聞き、驚きの声をあげた。

いくらなんでもベータ号のセンサーにも映らないのはおかしいと思ったのだ。

  

が、デストロイアは小さな群体としてここ、第三新東京市にやってきた。

真鶴の、熱海のそして小田原の防衛線を突破したデストロイア集合体は地上の戦車や、歩兵を

相手にするためにさらに小さな群体に分裂して進行してきていた。

その結果、センサーの索敵の範囲から外れこの戦場に姿をあらわしたのだった。

 

「デストロイアを、集合体とはいえ一度に3体も相手にできないわ。」

青木の声は、微妙に震えていた。

だが、今ここでは手をだすことはできない。

手をだすための装備すらないのだ。

 

さすがに戦自の連中もことここにいたっては未完成のJAでも足止めにはなる、ということで

再度、時田に連絡してきた。

「今のままではジェットアローンの性能の半分もでませんよ。」

今度は本気で時田も抗議をした。

いまでても、ただの案山子にすぎない。

いや、案山子よりは役にたつだろう。

「いや、それでも箱根や小田原のデストロイアを足止めできるだろう、今回はそれでいい。

修理にかかる予算も、上乗せする。」

戦自の幕僚も必死だった。

ここで、怪獣の跳梁を許せば近隣の戦略自衛隊基地への影響も、都市などへの影響も

避けられない。

「ですが、レッドジャガーは現在改装の為に分解しています。

ジェットアローンも、完全な状態ではないですよ、本当にかまわないのですね。」

「ああ、それでいい、奴らをデストロイアをなんとか撃退はできるだろう!」

時田の問いに幕僚は顔を真っ赤にして答えた。

「わかりました、すぐにジェットアローンを出しましょう。」

そういうと、

「ああ、時田だ。

そうだ、例のモゲラの予備スラスターは?、・・・・、装着済み?、わかった使えるんだな。

よろしい,準備が整い次第、出撃させろ、場所はとりあえず熱海でいい。」

指示をだすと、インターフォンから携帯に変えると

「ああ、三ノ輪くんか、すぐにジェットアローンを出してもらいたい。

・・・・、わかっている未完成だが、伊豆でデストロイアが暴れまわってる。

それを、追っ払うんだ。」

 

「伊豆で、ですか?」

伊豆といえば、第三新東京市がある。

教え子の霧島マナもそこにいる。

任務では死なないようにするように言ってある。

だが、怪獣相手では死なないようには行くまい。

無線操縦というのが、不安では在るがそれでもやるしかない。

そう覚悟をきめるとジェットアローンのコントロールセンターに向った。

 

新たに手にしたスマッシュホークを振り回し、デストロイアを相手にしているアスカ。

だが、倒れている零号機を見やると

「なにやってるのよ、ファーストは!」

と怒声を張り上げる。

だが、次の瞬間使徒の影から現れた別のデストロイア。

分離したもう一匹はファフ、ことラドンが相手にしている。

黒い怪獣は、白い空中戦艦。

だが、レイは使徒とデストロイアの双方を相手にしないといけない。

さらに、小田原の方から別のデストロイアが飛んでくる。

「な、なによ、こんなの相手にしきれないじゃない!」

空中ではラドン、ファフが飛行形態のデストロイアと肉弾戦を行っている。

だが、オキシジェンデストロイアーを武器にもつ相手に対し、衝撃波と体当たりしかないラドンでは

明らかに分がわるい。

 

ラドンは、その相手のもつ武器の恐ろしさも理解していた。

だが、引くことはしない。

一声高く雄たけびを上げると正面からぶつかっていった。

 

立ち上がったレイだが、使徒にも迎えず、かといってデストロイアにも進むことは出来ない。

どちらかに背を向けることは危険だった。

二つの敵にはさまれて、身動きがとれなかった。

突如、使徒の目のような器官から閃光がほとばしると零号機に命中した。

その反動で、デストロイアに近づいてしまう。

腹部、といっていいのかはわからないがその腹からとがった口のような器官をエヴァの機体に突き刺す

デストロイア。

「う、がっ。」

シンクロの影響から、同じ腹部に激痛が走る。

辛うじて、相手を跳ね除けて再び立ち上がる。

だが、使徒に背を向けていた。

「しまった。」

レイは、体制を整えるために横へはね飛んだ。

が、さらにそのはね飛んだところに上からデストロイアが覆い被さってくる。

 

地響きとともに、空中でぶつかった二匹は地面に落ちてきた。

ラドンはすぐに、立ち上がると再び翼を羽ばたかせた。

だが、その胸は斬られ血が流れていた。

だが、相手のデストロイアはたいしたダメージもないように見える。

地上では、歩行形態に形をかえたデストロイアは、猛然とラドンに飛び掛っていく。

 

「ファフ!、よけて!」

アスカはつい、その様子に気を取られた。

デストロイアはその隙を見逃さなかった。

弐号機に飛び掛ると、組伏せて大地に押し倒す。

「く、はなしなさいよ、このすけべ!」

悪態をつくが、そんなものはなんの足しにもならない。

「くっ、う」

かすかに、肩口に突き刺さる痛みを感じながらもはいずって身をかわす。

その今までいた場所の地面に突き刺さる鋭い口。

ぞっとするようなきしむような声で雄たけびを上げるデストロイア。

立ち上がるひまも与えず、さらに飛び掛ってくる。

横にころがるようによけて、そばにあった集光ビルを背に立つと、再びスマッシュホークを構える。

 

猛然と突っ込んでくるデストロイア。

だが、間一髪で空に舞い上がったラドンは、薄く血の煙を引きながら飛び上がる。

だが、怪我の影響か先ほどまでの速度は感じられなかった。

勢いのついていたデストロイアは、そのままビルの中に頭から突っ込んでいく。

だが、その程度でダメージになるわけもなく、破片を撒き散らしながら再び空に舞い上がる。

速度の落ちたラドンなど、敵でもないとばかりに、間合いを詰める。

止めを刺そうとばかりに、今顔についている口を大きく開く。

 

ベータ号はすでに機体のあちこちに黒々と腐食の後をさらし始めていた。

「原因はわかったのか?」

逸見は、情況の方向を求めた。

「王水か、それ以上の腐食性をもった粒子が付着しています。」

「王水か、それ以上だと?」

「はい、かなり強力な酸だと思いますが、詳しくはわかりません。」

逸見は、、うなると正面の黒い怪獣に視線をもどす。

「やつが,だしているのか?」

「おそらくは。」

一言うなると、

「距離をなるべくとって、攻撃続行。」

と言う。

だが、黒い生物もだまって攻撃はされてはいない。

執拗に、ベータ号に向って攻撃を仕掛けてくる。

「メーザー発射。」

近接戦用のメーザーを撃つ。

黒い生物はさすがにバランスを崩し、地面に向って落下する。

「よし、ミサイル発射!」

落ちていく目標めがけてミサイルが吸い込まれていく。

 

集光ビルが突如砕け、炎と煙に弐号機は包まれた。

「な、なによ。」

爆発をよけるように、デストロイアは空に飛び上がる。

振り向いた、弐号機の目前には黒い生物が紅い凶眼を光らせてその姿をみせていた。

「く。」

アスカは、スマッシュホークを相手に向かい突きつける。

 

閃光が、走り衝撃がレイの乗る零号機をゆする。

思わず、目を閉じていたレイは眼前に砕け落ちるビルと、その中から体の半分を吹き飛ばされた

デストロイアが辛うじて立ち上がる姿を見た。

「な、なに?」

レイは、デストロイアの片側だけ残った首が見る方向に眼をむけた。

 

低く、怒りに満ちた雄たけびが第三新東京市を振るわせた。

そこには。

「な、なんでゴジラが!」

ミサトは閃光の軌跡を追いその姿を見た。

そこには、今も背びれを紅く輝かせ戦場に向かい悠然と、そしてなにものをも威圧するかのように

向ってくるゴジラの姿があった。

 



 

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ver.-1.00 2000/11/23公開

ご意見・ご感想は国連G対策センターまで!! 


ながかったわね、続きがでるの。

う、まあ、そんな感じっすねえ、まあ鯖くんも行方不明みたいだしいいんじゃない?

よくないわ。

そら、そうですな。

じゃ、そういうことで。

?、どこいくの。

いや、ちょっとそこまで前売りとDVD買いに。

なんの?

ゴジラ2001の前売りとさくやのDVD。

じゃ。

続き書く気、あるのかしら。

(こうしてレイの不安をよそに、SOUはぶつよくにはしりまくるのであった。)





 SOUさんの『怪獣聖書』一〇、公開です。






 あの怪獣も
 この敵も

 いつのまにか一カ所に集まり

 味方も
 味方のような者も

 やっぱり集まってきて・・・


 大乱戦の
 大混戦の
 バトルロイヤル状態〜


 そこに登場
 御大はとりに登場っ



 デストロイヤを
 黒いのを
 飛んでいるのを
 EVAを

 全部ぶちのめしちゃえ〜       (^^;




 がんばれ○○○(各自贔屓の名前をお入れください)




 さあ、訪問者のみなさん。
 大台一〇話のSOUさんに感想メールを送りましょう!






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