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聖なる侵入

-The Doublebind-


I

「あなた、誰」
 最初にそうつぶやいたのは彼女だった。
 彼女はすでに気付いていた。巨大な鋏のようなものによる拘束が、いままさにはじまりつつあることを。 だが彼女には自分の感覚をたとえば言語として普遍化させる能力が欠如していたため、それはこの段階ではまだ、 ただの予兆のようなものにとどまっていた。

II

 わが神、わが神、なんぞわれを見捨てたまひし。

III

「ヤコブ・ベーメは、両性具有体として完全に統一された存在の原人アダムを想定しました。 神は、ルシフェル−−あるいはセイタン、ベリアルとも呼ばれていますが−−の堕落による混乱、 そして混沌をふたたびもとの秩序へと回復させるために原人アダムを創造したといわれています」

IV

 ・・・彼が住んでいるこの小さな牢獄、私は宇宙の意味で言っているのだが。

V

「人類補完計画は我々の、すなわち死海文書によるシナリオの通り遂行されなければならぬ。 碇ゲンドウの子を神の子に、すなわちエリヤ、イマヌエル、キリストに連なるものにしてはならないのだ」

VI

 わたしが愛するのは、かれの神を愛するがゆえに、その神を懲らしめるものだ。 なぜならかれは、かれの神の怒りによって破滅しなければならないからである。

VII

「ルシフェルによる第一の堕落のあと、原人アダムの自由意志によって生じた出来事を、 第二の堕落と呼びます。それにより原人アダムの女の部分であったソフィアは天に帰り、 男となったアダムを哀れんだ神は、アダムの肋骨からエヴァを創りだしました」

VIII

 われらは何者なのか、われらは何になったのか、われらはどこにいたのか・・・ どこへ急いでいるのか、何から解き放たれたのか?

IX

「これがその『エヴァ』なの?」
「そうです。われわれ人類がアダムより創りだした、われわれのエヴァです」

X

 汝自身を知れ。

XI

「あなた、誰?」

XII

 われわれは神から生まれ、イエスのうちに死し、聖霊により蘇る。

XIII

「殺してやる」

XIV

 死と破壊の衝動は、間違いなく無意識にそなわっている、 というより植え付けられているが、ただそれは、いつも生への衝動と混同された形でなのだ。

XV

「堕落したアダムはエヴァを求めましたが、 それはあくまでもソフィアの代償としてでしかありませんでした。 神はアダムをもとの完璧な姿、原人アダムの姿に戻すためキリストを創造しました。 キリストは処女マリアから生まれましたが、マリアはソフィア化されたエヴァであるともいわれています」

XVI

 聖なるものは、最も期待していないところに侵入する。

XVII

「逃げちゃだめだ」

XVII

 真実はどこにもない。すべては許されている。

XIX

「つまり、キリストはアダムが堕落する原因となった自由意志を放棄し、 完全な受動性に徹して磔となることによってアダムを、すなわち人類を補完するといわれています。 そのときキリストが槍で貫かれた脇腹は、エヴァが作られたアダムの肋骨であり、すなわち・・・」
「すなわち?」

XX

だから宇宙には、荒廃のたたずまいも、不毛のしるしも、死の影も全くない。 混沌も混乱もない。

XXI

「父さん、どうして僕を捨てたの?」

XXII

「・・・気持ち悪い」

XXIII

 おめでとう。 

This is the end of The Doublebind.


ver.-1.00 1997-09/02 公開
ご意見・感想・誤字情報などは gentaw@a2.mbn.or.jpまでお送り下さい!

 67人目ですね(^^)
 順調に、
 順調すぎるくらいのペースで住人が増えていっています。

 1日にUPする作品数も増える一方で・・・
 ちょっと限界に達しました。

 そこで1時的に新規入居者を凍結しました。

 

 

 67人目の御入居者:渡邉さんを初めとする何人かの人から、
 凍結前に投稿の意志表示をいただいていました。

 そういう方には入居いただいていきますね。
 

 凍結後1人目の御入居者:渡邉さんの第1作、
 『聖なる侵入』、公開です。
 

 EVAらしくもあり、
 そうで無いようでもあり。

 現実であり、
 そうではないようであり。

 今であり、
 そうじゃないようで。
 

 不思議な気持ちになりました・・・

 時の流れに巻かれるような・・
 迷いが沸き上がるような。
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 難しいカンジの渡邉さんに感想メールを送りましょう!


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