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My Heart To ...
 第一部 第二話   命の灯火
   Written by おち・まお




僕は夢を見ていたのかもしれない。
見えない糸に導かれ、辿り着いたこの街の中で夢見ていたのかもしれない。

鳴り響く警報。打ち落とされるヘリ。見た事もない巨大な生命体。
父親の言葉。紅い血の色。苦しみの声。動くはずのなかったエヴァ。
戦闘。孤独。激痛。死への恐怖。記憶の混乱。そして…始まり。

見慣れぬ天井を見上げながら、何かを感じ始めていた。
心のどこかで。気が付かないうちに。微かに。でも確かに。
何かが始まる事への、それは予感。

少しだけ期待していたのかもしれない。
父親への、自分でも分からない気持ち。不安定に揺れる思い。
それが消える事への、淡い期待と希望。

そして望んだのかもしれない。
今とは違う自分への成長。それは自分自身が好きになれなかったからかもしれない。
僕は自分自身が好きになれなかったのだ。

これからどうなるかなんて分からなかった。
不安と恐怖と期待と希望。何かが始まる予感と前兆。
目の前にあるのは、見えない物ばかりだった。

選択肢はいくつもあったはずだった。
元の街に帰り、全てを忘れる事もできたはずだった。
それでも僕はここに、この街に留まり続けていた。

求めるものはいくつもあった。
その中のいくつかが、この街で手に入ったからだ。

そして僕はこの街で、運命に出会う事となる。
それは当然の結果と言えるのかもしれない。







オワライダネ







それはひとつの物語。

平和な世界。普通の人々が生きる現実の世界。
その世界に突如現れた、邪悪な意志を持った集団。
圧倒的な破壊力の前になすすべもない大多数の人間たち。

そんな時にどこからか現れる、正義の意志を持った集団。
人類を守るため、正義を守るため、彼らは戦いを始める。
彼らにしか使えない武器を手に。
彼らにしか使えない必殺技を使って。

度重なる襲撃。鋭く強力になる相手の攻撃。
その度に彼らは何かを経験し、そして強くなっていく。
相手がどれだけ巧妙な罠を巡らそうとも。
絶体絶命のピンチになろうとも。
最後には勝利し、また世界に平和をもたらす。

笑顔。そしてエピローグ。







…ナミダガデルクライ…
…ワラッテシマウ…







子供の頃に見た、ブラウン管の中の物語。
何度となく繰り返された、ありふれた内容。
どんなに辛くとも、頑張り通し、最後には笑顔になれる。
全てがうまくまとまり、世界は平和になる。
結末はいつも一つだった。

それは夢のような幻想だった。それは儚い幻だった。

僕はその事に気が付かなかった。
新しい出会い。些細な心の交流。小さな安らぎ。
少ない笑顔を取り戻せれた、新しい街。

僕は実感する。

(もう元の街には戻る事はできないんだ…
 あの街には笑顔はなかった。でもここでは笑顔でいられる…
 そう…笑顔で…笑って…)

些細な幸福の積み重ねが、選択肢を少しずつなくしていく。
そして僕の目を覆い隠していく。

それは優しく、そして残酷な目隠し。

僕は見えない目で歩き続ける事になった。
他人の苦しみ。僕には理解する事ができなかった。
それは見る事ができなかったから。直視する事ができなかったから。
例え目隠しを外されたとしても、僕は必死になって目を逸らしただろうが…

それは僕に勇気がなかったから…

それでも目隠しを通してでさえ、僕の心は傷ついていく。
僕の心はガラス細工の様に脆かった。苦しくて悲しくて、心が傷ついていく。
自分の気持ちが分からない。他人が何を考えているのか分からない。
そんな不安な気持ちだけで、僕の心は朽ち果てていく。

それは僕が弱かったから…

この街にとどまったのも、根拠のない希望をどこかに持っていたから。
どこかで癒されるかもしれないと。
以前に少しでも癒された経験があるこの街でならと。

いつか癒されるはずだ。誰かが癒してくれるはずだ。
この街の中で見つけた幸福にしがみ付いていた僕の、それは身勝手な願いだった。
その願いが消えたとき、その先には絶望という名の世界が広がっているものだ。

僕は目隠しをしたまま、ただ歩き続けていった。
実現するはずのない夢を見ながら。
実現するはずのない願いを胸に抱えながら。







ミタクナインダ







僕には最後まで分からなかった。
人類を守るという事が。正義を貫くという事が。
単純そうで、それでも僕は分からなかった。

テレビ画面の向こう側で、主人公たちは何かに燃えていた。
人類を守る事。正義を貫く事。誰かを助ける事。
彼らは知っていたのだ。その戦いの意味を。

僕には分からなかった。
何故戦っているのか。何故こんな事をするのか。

漠然とした予感。曖昧な期待。見えない明日。
その中で徐々に現れる不安な要素。

早く逃げ出すべきだったのかもしれない。

例え逃げ出した先には絶望しかなくても。
例え僕が死に至る事になろうとも。

逃げ出すべきだったのかもしれない。

世界中を巻き込む最悪の事態を考えたなら。
未来を知る事ができていたのなら。

気が付いたのは、全てが終ろうとした瞬間だった。







ミタク…ナインダ…







全てに終局というものが存在する。
無慈悲に、そして唐突に現れる終局の形。
それは誰にとっての幸福な形なのか。
それは誰にとっての不幸な形なのか。
目の前に広がってからしか、全てが終ってからしか分からない。

そっと目隠しが外される。

世界中を見下ろす位置で、僕は初めて目を見開く。
自分の心をさらけ出し、誰かの心に触れる。
見えてきたのは、やはり僕の見たくもなかったものだった。

実現するはずの無い夢が消えた瞬間でもあった。
僕の心に絶望という名の黒い雲が広がっていく。

「これが真実なんだよ」

誰かが耳元で囁く。それは僕の内側から聞こえてきた声。
僕はその声が告げる事実を直感する。

(…ああ)

ひび割れた僕の心が、少しずつ砕け散っていく。
かき集めようとした両手の指の間から零れ落ちていく。
僕は少しずつ痛みを与え続ける拷問の様な感覚を味わう。

心に直接響く拷問。
それは際限が無く、容赦も無い。

僕は助けを求めた。
神にも等しい存在となったエヴァの中で。

世界中に命の灯火(ともしび)が広がっていく。
僕はただそれを見守っていた。



















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ver.-1.00 1999_07/22公開
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 おち・まおさんの『My Heart To ...』第一部 第一話、公開です。





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