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終焉の果てに外伝 シンジ、祝福の向こうに

 


彼は精神崩壊を起こしていた。

理由は簡単、彼のリピドーの瞬間をネルフスタッフに、ノーカット無修正版で見られたからだ。

その日の出来事は、彼にとって、13日の金曜日と天誅殺と仏滅と惑星直列とその他諸々が押し寄せてきたようなものだった。

彼は自分がいらない人間だと思いこんでしまった。

故に精神崩壊を起こした。

あるいは、この現実から逃れるための彼の防衛手段なのかもしれない。

逃げ込んだ妄想の中、彼は自分の思うがままの幸せな日々を送っていた。(追記:妄想の内容は、みなさまの想像にお任せする。)

しかし、その幸せの日々はいつまでも続かない。

全てに終わりがあるのだ……………

そう、たとえどんなものにでも……………

 

 

 

 

脳神経外科、病室303号室。

この病室の患者、碇シンジが眠りについて既に一ヶ月。

この間、外の世界では様々な動きがあった。

シンジの母のユイと、アスカの母のキョウコの復活。

二人は復活当初、かなりいがみあっていたが、互いに協力して敵を葬り去ったことから、今では親友と化している。

この二人が復活してネルフは、大きな変容を見せた。

まず、司令と副司令の変更。

ユイが司令に、キョウコが副司令へと就任した。

前司令のゲンドウと前副司令のコウゾウは、行方不明と処理されている。真相を知るごく一部の者は、皆一様に青い顔をして、何も喋らない。

MAGIはその呼び名をBABAに変更された。これにより、時たま暴走することがあるが、赤木リツコ博士により完全に押さえ込まれている。

リツコは、二人の就任時、司令室に呼び出され24時間後に帰ってきたときには、二人に逆らうことは全くなくなっていた。何があったかについては、リツコは赤い顔をして決して明かそうとはしなかった。

ミサトは、何やらレポートの束と映像ディスクを山ほど二人に渡したため昇進し現在は二佐である。

以下の人事は省略する。

ゼーレ及び人類補完委員会は、キール議長がロリコン変態趣味であることを公表され、社会的に抹殺されてしまい、今では跡形も無くなっている。なお、この作戦にはある男の暗躍があったことを付け足しておく。

なにはともあれ、世界は平和だった。

 

 

 

 

運命の日は、ついにやってきた。

「こぉらバカシンジ!!起きろーーーーーーー!!!」

アスカは、一月もの間眠っているシンジについにしびれを切らし、強硬手段に打って出た。

ゴン

アスカの持つハンマーが盛大な音をあげる。一応、殺さぬようには手加減はしているようだが……(^^;;;

あまりの激痛にシンジは妄想の世界から呼び戻された。

「………っつ……なんだよ……………って……………………………ア、アスカ!!!!」

「ようやくお目覚めね!バカシンジ!!」

「あ、あ、あ、あ、あの……あ、あ、あ、あ、あ、あれは………そ、そ、そ、そ、その………………」

「いいわよ…そのことでアンタに話があるの。3時間後に、このメモの場所に来なさい。」

「は、はい!」

「アタシは先に行ってるから、時間どおりに必ず来るのよ!」

「分かったよ。」

「なら、さっさと起きなさい。」

「う、うん。」

シンジは、ゆっくりと起きあがった。そして…………

「エッチ!!チカン!!ヘンタイ!!信じらんない!!」

お約束の台詞の後、これまたお約束のビンタが飛んだ。

「フンッ!」

アスカが鼻を鳴らし立ち去った後に、屍が一つ………

「……うう……しかたないじゃないか…………あんな夢を見た後なんだから…………」

シンジが何を妄想していたのかは、考えなくても彼の体を見れば一目瞭然だった。

 

 

3時間後。

シンジは、自宅の隣のドアの前にいた。

「なんだか嫌な予感がする……………

 どうしよう、逃げようかな…………

 逃げちゃダメだ。

 逃げちゃダメだ。

 逃げちゃダメだ。

 逃げちゃダメだ。

 ……………逃げてもいいよな。

 逃げてもいいんだ。

 逃げなくちゃ。

 僕は逃げなきゃいけないんだ!

 よし、逃げよう!」

その瞬間、ドアが勢い良く開いた。

「だぁれぇがぁ〜逃ぃげぇるぅのぉ〜」

ドアの向こうには、周囲の空気がその怒りでゆがんで見えるアスカがいた。

「ご、ご、ご、ご、ごめんなさい!!に、に、に、に、逃げるなんて、か、か、か、か、考えてません!!」

シンジは、そのあまりの怖さに腰を抜かして、後ずさりする。

使徒も裸足で逃げ出すその姿の前に、シンジの自我などミジンコの様な物だった。

「さっさと、入ってきなさい!!!」

「はい!!」

シンジは飛び起き、急いで中へと入っていった。

そこには、「おめでとう!シンジ君!」の横断幕があった。

大きなテーブルの周りには、ユイ、キョウコ、レイ、ミサト、リツコ、マヤ、シゲル、マコトの面々がにこやかに座っていた。

テーブルには数々のごちそうが並べられ、真ん中に置かれた大きなケーキには、おめでとう!シンジ!と、チョコで書かれていた。

クラッカーが、鳴り響き。

みんなの拍手が、鳴り渡る。

「な、なんなのこれ………」

「退院祝いよ……」

呆然としているシンジに、隣にいるアスカがぶっきらぼうに答えた。

「………そうなんだ……ありがとう……みんな…………僕は……こんな事から逃げ出そうとしたなんて…………」

シンジは感極まって泣き出した。

「ほら、早く座りなさいよ。」

「…………うん。」

アスカに背中を押されシンジは席へと着いた。

その前にグラスが置かれ、アスカがジュースを注ぐ。

「あ、ありがとう。」

「いいのよ。」

「では、みなさん。グラスをお持ちになってください。

 それでは、世界を救った英雄、碇シンジ君の退院を祝しまして。

 かんぱーい!」

「かんぱーい!」

ミサトの音頭により乾杯が行われた後、パーティーは始まった。

そんな中、シンジは見慣れない人が二人いることに気が付いた。

「ねえ、アスカ。あの綾波に似た人と、アスカに似た人誰なの?」

「アンタのお母さんと、アタシのママよ。」

「………えっ?!…二人とも死んだはずじゃあ………」

「アンタが寝ている間にエヴァからサルベージされたの。」

「………じゃあ……本当に母さんなんだ………」

「そうよ。」

シンジは、ユイの方へ向き、おそるおそる声を掛けた。

「……か、母さん。」

「なあに、シンジ。」

「母さんなんだね……本当に母さんなんだね……」

「そうよ、いらっしゃいシンジ。」

「母さん!」

シンジはユイの元へ行き、しがみついて泣き始めた。

「シンジも、まだまだお子さまね。」

「あっら〜アスカだって、キョウコさんと会ったときにワンワン泣いてたじゃないのん。」

「う、うっさいわね!」

「……グスッ……先輩…こういうのいいですね。」

「あら、マヤまで泣いているの?」

「私、感動しちゃって…」

「「マヤちゃん、可愛いよな〜」」

「お兄ちゃん……子供ね……」

「そういうレイも、ユイさんをお母さんって呼ぶときに泣いてたじゃないのん。」

「………………………」

「ねえ、ミサト。」

「なに?」

「私達は、こういう未来のために戦ってきた。そう思いたいわね。」

「リツコにしては、いいこと言うじゃない。

 ……そうね、そう信じてもいいのよね。」

「先輩、良い言葉ですね。」

「マヤ、あなたまた泣いてるの?」

「だって………」

「「マヤちゃん、俺の胸で泣いてもいいよ!」」

「先輩!」

「あらあら、マヤがそんなに涙もろかったとはね。

 いいわよ、好きなだけ泣きなさい。」

「「………………どーせ、俺達は脇役だよ……うっ……」」

「そこのバカオペレーター二人!男同士で抱き合わないでよね!」

「………不潔。」

「無様ね。」

「まあまあ、ほら日向君も青葉君もやめなさい、気持ち悪いから。」

「「………はい………」」

「ほらほら、シンジ。もう泣きやみなさい。」

「…………うん。」

「さあ、湿っぽいのはもう終わり、ぷわぁ〜っとやりましょう!」

再び、ミサトの声でパーティーは再開された。

一同、飲む、飲む、食うの大はしゃぎである。

エビチュを親の敵のように飲む、ミサト。

これに付き合う、リツコ。

二人に無理矢理立て続けに一気飲みをさせられる、シゲルとマコト。

外見からは想像もつかない勢いで飲む、マヤ。

学生時代にならしたアイアンレバーで飲み続ける、ユイ。

ビールの本場ドイツで暮らしていただけのことはある、キョウコ。

ひたすら、ラーメンを食べる、レイ。

シンジをどつきながら、ハンバーグしか食べない、アスカ。

周囲に怯えながらも少しずつ食べる、シンジ。

既に宴はサバトと化していた。

かなりのアルコールが、大人達の体を巡ってきたとき、シンジへのプレゼントが渡されることとなった。

 

まずはミサトから。

「シンちゃん、おめでとう〜」

赤い包装紙に包まれた、小さな箱。

 

リツコ。

「シンジ君、しっかりやりなさい。」

リボンをつけた瓶に入った、不思議な色の謎の液体。

 

マヤ。

「はい、シンジ君。」

ラッピングされた、袋。

 

シゲル。

「ほどほどにな、シンジ君。」

包装された、たぶん本。

 

マコト。

「頑張れよ、シンジ君。」

小さな筒。

 

ユイ、キョウコ。

「私達からよ、シンジ(君)。」

可愛い封筒。

 

レイ。

「おいしいから……」

なぜか、福岡の某ラーメン屋のラーメンの元。

 

そして、アスカ。

「開けてみなさいよ。」

卒業証書を入れるような筒。

 

シンジは言われたとおり、アスカから受け取った筒を開けてみた。

中には、紙切れが一枚。

【婚姻届】と、しっかりと書かれていた。

それを見たシンジは目が点になる。

「………………へっ…………」

よく見ると、

夫の欄には、碇シンジ。

妻の欄には、惣流アスカ・ラングレー。

しっかりと、碇、惣流、と二つのはんこも押され、役所の受理届けもされていた。

「あ、あんなことしたんだから、アンタは一生アタシの下僕よ。」

アスカが顔を赤くしながら、シンジに宣告する。

「だ、だって、14才で結婚できるわけ無いじゃないか!」

「それは大丈夫よ、シンジ。母さんが政府に圧力かけて14才でも親の同意があれば、結婚できるようにしたから。」

「ぼ、僕の意志は………」

「そんなのあるわけないでしょ!バカシンジ!」

「だ、だって………」

「ダメよ、シンちゃ〜ん。これを見てもそんなこと言える〜」

「あああ!!そ、それは、あの時の!!」

「はい、アスカ、これあげるわね。」

「ありがとう、ミサト。これで決まりよね!シンジ!」

「シンジがあんなことするから、お母さんはアスカちゃんにお婿にあげることにしたのよ。」

「そうそう、家のアスカちゃんの責任取ってねシンジ君。」

 

ガシャン!

 

シンジの耳には、鉄格子が閉まる音がした。

「じゃあプレゼントは………」

ミサトのプレゼントの包装紙を開けるシンジ。

中身は明るい家族計画。

「シンちゃ〜ん。子供はまだ早いからねん♪(ニヤリ)」

リツコの怪しき液体は。

「特性精力増強剤よ。(ニヤリ)」

マヤのプレゼントは、ペアの花柄エプロンレース付き。

「新婚さんらしいでしょ。(ニヤリ)」

シゲルの本は、夜の生活48手。

「ま、ほどほどにな。(ニヤリ)」

マコトの筒の中身は、ブーメラン。

「セクシーだろ。(ニヤリ)」

ユイ、キョウコの封筒の中身は、権利書。

「この部屋の権利書よ。いいでしょ、シンジ、新居よ。(ニヤリ)」

「部屋のコーディネートは、私とユイさんで、したわよ。(ニヤリ)」

レイのラーメンは。

「おいしいから…………(ニヤリ)」

そしてアスカ。

「バカシンジ!もう逃げられないわよ!(ニヤリ)」

 

「……ハ………ハ……ハ…………ハ………ハハ………」

全員の半角笑いに囲まれ、虚ろな笑みを浮かべるシンジ。

この瞬間、垂れ幕は、「結婚おめでとう!シンジ君!アスカちゃん!」に変えられた。

盛大にクラッカーが鳴り響き、くす玉が割れ、シャンパンが飛び交い、ビールがかけられる。

まるで、最終話のように「おめでとう。」コールがわき起こる。違うのは全員半角笑いを浮かべていることだ。

 

 

シンジを生け贄にサバトは続く………

 

 


ver.-1.00 1997-11/07公開
ご意見・感想・誤字情報などは samon@nmt.co.jp まで。

 

ごめんなさい、予告とは違いました……(^^;;;

えー、外伝について何ですけど、よく「これのどこが外伝じゃ〜」と言う質問を受けます。

この外伝シリーズは、基本的に本編の設定(ユイ、キョウコ、カヲルの復活とか)を使って、人物の性格を変えたりして書いています。

本編が暗くて重いので、軽くて馬鹿馬鹿しいのが書きたくて、外伝を書いているんです。

外伝は、一応全てつながっていますので、本編の別世界の話だと思ってください。

でわ。

 


 佐門さんの外伝3『シンジ、祝福の向こうに』、公開です。
 

 羨ましいような、
 羨ましくないような、

 でもやっぱり
 羨ましいシンジの1日です(^^)
 

 たとえおかんがMADでも、
 たとえ自分をつまみに酒を飲まれても、
 たとえ半角ニヤリに囲まれても、

 そして、
 たとえこの歳で鉄格子の音が聞こえても・・・

 羨ましいよ〜ん

 その音を鳴らすのはアスカちゃんなんだも〜ん(爆)

 

 

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