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「終焉の果てに」第六話 すれ違い

 

 

 

 

「…………今日は、来ないんだ…………」

アスカは、ポツリとつぶやく。

「当然よね……」

自分を、あざ笑うかの様な響きが含まれていた。

『あたし、シンジに来て欲しいのかな……

 あいつのこと、憎いはずなのに……

 分からない…

 あいつがいたら、あたしの存在が否定されるの。

 あいつさえ居なければ、良かった。

 そしたら、こんなにも悩むことはなかった。

 死んじゃえばいい。

 シンジなんて、死んじゃえばいい。

 そうよ、あいつが死ねば、あたしの無くした物が帰ってくる。

 また、あたしがアタシで居られる。

 あんな奴、さっさと死ねばいいのよ。

 今度来たら、言ってやろう。

 「あんたなんか、さっさと死ね!」って、言ってやろう。

 …………あたし、酷いこと考えてる。

 こんな女だから、誰も見てくれなかったのかな?

 昨日、シンジは、あたしを見てくれる人は、いっぱいいるっていってた。

 …………シンジが死んだら、あたし…どうなるんだろう……

 また、誰も見てくれなくなるのかな……

 シンジのことか、気になるの?

 ……分からない……

 ……分からないの……

 シンジは、ファースト見てる……

 あたしのことは、同情かな……

 だったら、シンジなんていらない。

 同情なんて、されたくない。

 あたしは、何が欲しいんだろう。

 ママがいてくれたらな……

 ママがいてくれたら、教えてくれかもしれないな。

 ママ…

 あたしの弐号機には、ママがいたんだよね。

 ママ、教えて。

 あたしは、どうしたらいいの?

 ママ、あたしを守ってよ。

 あたしを助けてよ。

 ……シンジ……

 なぜ、シンジのことばかり考えてるんだろう。

 あたしは、シンジに見て欲しいの?

 あたしは、シンジに側にいて欲しいの?

 あたしは、シンジが好きなの?

 ……分からない……

 ……分からないの……』

 

その日から、三日間、シンジは来なかった。

 


 

 

シンジは、病室にいた。

まだ、起きあがることは出来なかった。

そんな中、彼の思考の迷路に落ちていき、自らを傷め続けていた。

『……アスカには憎まれてる……

 分かってるさ、そんなことは。

 でも、それでアスカは元気になってきている。

 これでいいんだ。

 本当は、僕なんかがいてもしょうがない。

 加持さんが、いるのが一番いいんだ。

 でも、たぶん加持さんは、もういない。ミサトさん、毎晩泣いてた。

 僕なんかが、アスカの側にいて良かったのかな。

 ただ、アスカの側にいたかったんだ。

 それでまた、傷つけてる。

 アスカを傷つけてる。

 僕は、みんなを傷つけてきた。

 トウジの妹を、

 トウジを、

 カヲル君を、

 そして、最後にみんな殺したんだ。

 僕が殺した……

 みんな僕がやったんだ。

 生きているのが苦しい……

 誰も僕に罰を与えない。

 僕は、罰を受けなきゃならないんだ。

 僕がやってきた事は、許されることじゃないんだ。

 誰か、僕に罰を与えてよ。

 罪を償わせてよ。

 僕自身で、僕に罰を与えなければならないの。

 そう、僕は、僕に罰を与えなければいけない。

 それも、僕に対する罰なんだ。

 …………「アスカだけは、守りたい。」そう思っていたけど。

 こんな、血に汚れた手で守られても、アスカは、嬉しくないよね。

 結局、自分のエゴで、アスカを傷つけるだけ……

 でも、僕はアスカと離れたくない。

 でも、僕がいたら駄目なんだ。

 僕は、誰にも必要とされなくなったんだ……

 いや、違う。元々、僕は誰にも必要とされてなかったんだ。

 僕なんかいなければ良かったのに。

 そうすれば、誰も傷つけずにすんだのに……

 そう、すべて僕の責任だ。

 僕の罪………………』

シンジが、自分の思考から抜け出せなくなっていた時。

「シンジ君、入るわよ。」

「ミサトさん。どうしたんですか。」

「アスカね、あさってにも退院していいって。」

「そうですか……良かった。」

寂しげな笑顔で、シンジは微笑んだ。

「ねえ、シンジ君。辛いこといっぱいあったでしょうけど、これからいいこともいっぱいあるわ。

 そんなに自分を責めないで。

 シンジ君は、結果的には良いことをしたのよ。

 その過程がどうであれ、あなたは、世界を救ったわ。

 時には、結果よりその過程、したことが重要なこともある。けど、今は結果だけを見なさい。

 結果を見れば、あなたは、人に言える立派なことをしたのよ。

 アスカだってそう、あなたがいなければ、アスカは心を閉ざしたままだったわ。きっと。

 それにね、碇司令だって変わったのよ。

 きっと、あなたのおかげよ。

 それに、もうすぐいいことがあるわ。今日は言えないけど、シンジ君とアスカにとって、ものすごくいいことがあるの。」

シンジは相変わらず、悲しげな笑みを浮かべたまま首を振った。

「そんなんじゃないんです、そんなんじゃないんですよ、ミサトさん。

 僕は自分のしたことは、分かってるつもりです。

 人に言うこと、ましてや人に誉められることなんて、してません。

 僕が弱かったんですよ。

 その結果なんです。」

「そんなに、自分を責めないで。」

「ところで、ミサトさん。アスカに退院の事言うの、僕にやらせてもらえませんか?明日にでも言いますから。」

「いいわよ。」

「それから、明日、アスカを迎えに言ってあげてください。

 家に帰るの車がいいでしょうから。

 それから、安全運転で帰ってくださいよ。

 まだ、体のほう完全じゃないんですから。」

ミサトは、少しほっとした。何となく昔のシンジを見ているようだったから。

「もう〜、シンちゃんたら〜、愛しのアスカのことになったら、うるさいんだから〜」

久しぶりに聞く、ミサトのからかいが、嬉しかった。

「そんなんじゃないです。」

シンジは、苦笑していた。

ミサトも久しぶりに見た、シンジのその笑顔に安心していた。

「それじゃあ、シンちゃんお休みなさいね。愛しいアスカの夢でも見なさい。」

「もう、ミサトさん。」

ミサトは、にこやかに病室を後にした。

『………明日で終わりにしよう。

 もう全部終わりにしよう。

 ミサトさんに手紙でも書いておこう。

 ごめんなさい、ミサトさん。』

シンジは、手紙を書き始めた。

ミサトへの別れの手紙を。

 


 

 

 《   ミサトさんへ

   今まで本当にありがとうございました。

   僕は、家族というものを、初めて知りました。

   本当に感謝しています。

   僕には、ミサトさんとアスカは、大事な大事な家族です。

   ミサトさんと、アスカと三人で暮らした日々は、僕にとって宝物でした。

   だけど、僕のせいで、それも壊れてしまったんだと思います。

   僕は、逃げてばかりで、何もしようとしませんでした。臆病でした。

   こんな僕を、心配してくれたり、怒ってくれたり、慰めてくれたり、本当にありがとうございました。

   それから、アスカには、僕のことは言わないでください。

   アスカは、優しいから。

   僕のことは、決して言わないでください。

   実験で、外国でも行ったことにしておいてください。

   お願いします。

   ミサトさんも自分を責めないでください

   僕は、もうだれも恨んだりしてません。

   明るく元気なミサトさんでいてください。

   そうしてくれなければ、僕は悲しいです。

   だから笑って生きてください。

   ミサトさんは、お酒さえ飲まなければ、素敵な女性でいられると思います。

   いつか、幸せになってください。

   アスカのこと、くれぐれもよろしくお願いします。

   時が流れて、アスカが元気になったら、僕が謝っていたと伝えてください。

   アスカの幸せを祈っていると、伝えてください。

   みんなが幸せになることを祈っています。

   最後に一つ、言えなかったことを書きます。

   ありがとう、お姉さん。出来の悪い弟でごめんなさい。

 

 

     碇シンジ 》

 

 


 

…トン、トン…

「惣流さん、シンジだけど入るよ。」

『!!!シンジ!ど、どうしよう。』

シンジは、いつものように、ベッドの横の椅子に座った。

「………何しに来たのよ。」

「惣流さんと、話をしに来たんだ。」

「あんたと話す事なんて無いわよ。

 だいたい、三日もどこ行ってたのよ。

 おおかた、ファーストの所にでも行ってたんでしょ。

 あたしの事なんて、ほっといてファーストといちゃいちゃしてなさいよ。

 あんたに同情されても、むかつくだけなのよ。」

「ごめん。ちょっと、用事があったんだ。」

『シンジ、なんだか、すごく辛そう。どうしたんだろう?』

「それより、惣流さん。明日にでも退院できるって、ミサトさんが言ってたよ。良かったね。」

シンジは、今、自分に出来る、精一杯の笑顔で退院のことを告げた。

『あたし、退院できるんだ。

 そう言えば、最近食欲も出てきて、よく食べるようになったし、話もよくしてる。

 もう、一人で動ける。

 シンジのおかげなの?』

「どうしたの惣流さん?」

シンジは、黙っているアスカの顔を覗き込んで、微笑みながら尋ねた。

『そうよ、こいつのこの笑顔で、あたしは苦しめられた。自分を見失ったの。

 だけど、「惣流さん」って呼ばれたら、心が痛い。シンジに「アスカ」って前みたいに呼んで欲しい。

 どうしてなの?何故なの?』

アスカは、急に自分の考えていることが、恥ずかしくなって、大声を出した。

「何でもないわよ!!

 それよりあんた、いつまで居るつもり!

 あたしに、退院のこと告げたら、もう用はないんでしょ!さっさと出て行きなさいよ!

 だいたい、あんた、むかつくのよ!

 偽善者面して、何様のつもりなの!

 あんたなんか、さっさと死んじゃえばいいのよ!

 うっとおしいのよ!

 出ってて!!

 二度と来るな!!」

『違う!あたし、こんなこと言いたかったんじゃない。

 シンジに、聞いてみたかったの。

 あたしのこと、聞いてみたかったの。

 たぶん、そのはずなの。』

その時、シンジは、たとえようもないくらい、悲しげな笑みを浮かべた。

『僕は、もう必要ないか……

 もうアスカも、僕を見て悩まなくていいんだよ。

 これで終わり。終わりにしよう。』

「……そうだね、惣流さん最近元気になってきたし、僕は必要ないよね。

 それじゃあ、もう行くね。明日は、ミサトさんが迎えに来てくれるから。」

そして、シンジは、アスカに背をむけて言った。

レイに言うなと言った言葉を、たった一言。

「……さよなら……」

すべてに別れを告げるような、悲しい響き。

もう二度とアスカに会えない、そう思うと、涙が止まらなかった。

涙を見せないように、足早にドアへと向かう。

別離の扉を開け、出ていった。別れの瞬間。

「ちょっと…………」

アスカは、シンジのいつも見せない態度に戸惑い、声を掛けようとしたが、シンジには届かなかった。

『あたし、シンジのこと嫌いだったはずなのに、胸が痛い。

 シンジに、ひどいこと言っちゃた。

 「死んじゃえばいい」なんて、酷すぎる。

 あたし、なんてこと、考えてたんだろう。なんてこと、言っちゃったんだろう。

 明日、シンジに謝ろう。

 シンジだったら、きっと許してくれるわよね?

 少し素直になってみよう。

 シンジと、きちんと話をしてみよう。

 シンジ、明日も来てくれるよね?

 きっと来てくれるわ。』

 

シンジは、長い廊下を歩いていた。

一歩また一歩、アスカから離れていく。

一番、言いたくなかった言葉を呟いて。

彼のすべてとのつながりを断つ言葉を呟いて。

 

 

「…………さよなら…………………アスカ………」

 

 


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ver.-1.00 1997-10/20公開
ご意見・感想・誤字情報などは samon@nmt.ne.jp まで。


 

どーも、佐門です。

今回も、「シンジは、自分を許せず。」ってとこです。

結局は、これも逃げていることになるんですけどね。

罪を償うのは、悪いことではないです。っていうよりしなきゃならないことです。

でも、それを逃げの手段にしては、いけないんですね。

原罪と向き合って生きてこそ、人が人であれると思います。

生きている限り、罪を犯し続けます

罪を犯さない人間なんて、一人もいないんだから。

本当に償いたいなら、楽に死ぬより、苦しく生きろってとこですか。

でもそれは、本当に苦しいことなんです。

この、シンジは、いつになったら気がつくんでしょうね。

なんか、生意気な後書きになってしまいました。

でわ、次回「第七話 母」で、お会いしましょう。

 


 佐門さんの『終焉の果てに』第六話、公開です。

 

 

 「変わらなきゃ」byイチロー(^^;

 嗜好の迷宮に入った二人は、
 どんどんどんどん・・・・・・どこへゆく・・

 内にのみ向いていて
 交わらないですね。
 

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