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A 想い

 

 

 

「綾波さん。」

「何?」

「いえ、別に。」

「そう。」

レイの言動は元に戻っていった。

時折、碇の机を見て流す涙以外は。

 

必要最小限のこと以外は何も言わない。

眼には生気が感じ取れなかった。

「綾波。眼が死んどるなぁ。」

「あぁ。」

「誰にも心を開かないわ。」

「よっぽど碇君のことが好きだったのね。」

「そうだろうなぁ。あの時の行動。」

「あの、無表情の内にあんな想いを抱えておったんやなぁ。」

「可哀想。」

「また泣いてる。」

「毎日だ。」

 

『碇君の机。碇君の匂いがする。
何故死んだの?碇君……逢いたい。』

気が付くと涙がこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。何処だここ。」

 

「確か、ゼーレが攻めてきて、ディラックの海に行って。あれ?
生きてるの?」

 

 

脳裏にあの事がよみがえる。

 

 

量産性EVAが攻めてくる。

出撃命令が出た。

戦わなくてはならない。

アスカは精神崩壊したままだ。

僕とレイだけで。こんなに沢山のEVAと戦わなくてはならない。

性能は明らかに向こうの方が勝っている。

もう絶対に助からないであろう。

 

 

 

僕がプラグスーツに着替えていたら。

レイが突然入ってきた。

二人とも何も着ていない。

 

僕に抱き付いてきた。

肩が震えていた。脅えていたのだろう。

「あっ、綾波。どうしたんだい?」

「私。もう、死ぬだろうから、せめて最後に碇君と一つなりたくて。」

突然のレイの行動に僕は驚いた。

「へ?」

「私が嫌い?」

「いや。そっ、そうじゃなくて。」

「何?」

「戦いの後にしよう。死なないよ。綾波は。」

「碇君は?」

僕は思っていることと、違うことを言った。

「僕も、死なない。」

「絶対?」

「あぁ。約束するよ。」

「私を独りにしない?」

「あぁ。勿論。」

にっこり笑うと、レイはプラグスーツを着た。

僕は約束とは裏腹にレイの笑顔を見るのも最後になるだろう。と決心していた。

綾波はこの僕が守ると…………。

そして、敵のEVAを掴み、偶然に開いたディラックの海へ飛び込んだ。

 

ここからの記憶が無い。

「ここはどこだ?」

目の前にはとても大きな河が流れている。

「なんだ?この河。もしかして、三途の川?」

それは違うということがすぐに分かった。

黒人のおばさんが洗濯をしている。

横では変な格好をした人が沐浴をしている。

「ガンジス河?」

シンジはインドにいた。

「綾波。大丈夫かなぁ。」

自分が大丈夫だと分かると、無性にレイのことが気になった。

「綾波ぃ。逢いたい。」

涙がこぼれる。

気が付くと、自分の周りを無数の人が取り囲んでいた。

プラグスーツを着ているのだ。目立つのもしょうがない。

「Hello.」

インドなのに英語で話す。

すると、思いがけない返事が返ってきた。

「君、日本人だろ?」

「はい。そうです。」

「なにしてるんだ?」

「いえ。気が付いたらここに…。」

「ほう。名前は?」

「碇、碇シンジです。EVANGELIONのパイロットです。」

「なに?」

「EVAのパイロットです。EVA、知ってますか?」

「ということは、君はNERVの…。」

「NERVを知っているんですか?」

「あぁ。君は行方不明になった。碇シンジ君か。
人類を救った。」

「はぁ。」

「俺はNERVの職員だよ。」

「へっ?」

「調査だよ。碇司令が命じたのさ。」

「父さんが?」

「ああ。NERV諜報部、全勢力で世界中を探せってな。心配していたぞ。
仕事も手に付かないようだったし…。
なんていったって、親子だもんなぁ。」

「…親子………」

「行こう。」

「どっ、どこへですか?」

「日本だよ。」

「今、迎えを呼ぶよ。」

「綾波は。綾波は大丈夫なんですか?」

「ああ。勿論。」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、NERVでは…。

「レイ、EVAに乗って。」

「何故ですか?」

「最後の調整よ。」

「何の為の調整ですか?」

「レイ…、あなた、乗りたくないの?」

「はい。」

「どうして?」

レイは俯きながら言う。

「EVAに乗ると、碇君のことを思い出してしまうから…。」

レイの珍しい言動にNERV中が驚いた。

「レイ。お願い。これが最後だから。それに、シンジ君は死んだと決まった訳じゃないわ。」

「本当ですか?」

 

「わかりました。乗ります。」

 

「エントリープラグ、接続。A−10神経、ハーモニクス異常ありません。」

 

その時

プルルルルルルルルルルルル

「なによ、こんな時に。」

プツッ

「はい。もしもし。赤木です。えっ?何?シンジ君が見つかった?生きていたの?」

またもやNERV中が驚く。

「レイが喜ぶわよぉーー!」

ミサトも一緒に喜んでいる。

「そしたら、一緒に暮らせるんでしょ。」

「まぁね。」

ミサトの家にはアスカもシンジもいないので、レイが住んでいる。

女の一人暮らしは良くないと言って、ミサトが強引に連れてきたのだ。

ウィ――――ン!!!

「シンクロ率が急上昇していきます!このままでは取り込まれます!」

「まずいわね。」

 

 

「あぁ!取り込まれました!!!」

「う…そ。」

「サルベージして。シンジ君の資料をもとにして!」

「あれ?また、戻りました。エントリープラグの中で身体が再構成されています。」

「そんなことが…。」

「100%戻りました。」

「早く、救出して!」

 

 

「レイの様子はどう?」

「驚いたわ。」

「何かあったの?」

「遺伝子が再構成されていたのよ。」

「え?」

「綾波レイはもう、人間よ。この世にたった一人しかいないのよ。」

「本当?良かったじゃない。何か悪いことは?」

「ないわ。驚くべき事よ。奇跡だわ。」

「シンジ君のことはなした?」

「あ。まだだ。良いんじゃない?」

「そうね。」

「みんな無事だったんだし…。」

「あとは、アスカねぇ。」

 

 

 

 

次の日、

「起立、礼、着席!」

「えぇと。今日はとてもよい知らせがあります。
この教室に改めて、ある生徒が入ってきます。」

「皆の眼はその方向を見る。」

レイは机に顔を伏せていた。

「おぉーー!」

教室中に歓声が響く。

レイはそんな事にはまったく興味が無かった。

「じゃ、綾波の隣に座ってくれ。」

『え?碇君の席に?嫌だなぁ。』

足跡が近づいてくる。

そして、座った。

レイは顔を上げた。

そして、目をみはる。

そこには、見慣れた、あの、優しい笑顔があった。

「碇君!?」

次の瞬間、レイはシンジに抱きついていた。

「碇君。死んだかと思った。」

「約束したじゃないか。死なないって。」

「逢いたかった。」

「ちょっと、綾波。みんながみて・・。」

レイはシンジが言い終わるより早く、その口を塞いだ。

シンジの顔が、赤に変わり、そして、青に変わる。

じたばた身体を震わすが、レイは手を背中に回して離さない。

レイがそっと唇を離す。

 

教師はすでに教室にいなかった。

「ヒューヒュー!」

「熱いねぇ。」

レイは顔色一つ変えない。

シンジの顔は真っ赤だった。

 

「シンジ、おまえは何処をほっつきまわっとったんじゃ。」

「トウジ…。 インドだよ。」

「は?」

「ワープしたらしいんだ。」

uへぇ。」

「ケンスケ…。やっぱり、学校はいいねぇ。人間の生み出した文化の極みだよ。」

シンジはなんとなくカヲルの口真似をしてみた。

わはははははは

クラス中が明るくなったような…。

 

「碇君…。ちょっといい?」

「綾波…。なに?」

「ちょっと来てくれる?」

「わ、わかった。」

皆が怪訝そうな顔で見つめる。

そして、後を追う。

 

 

「碇君。」

「なんだい?」

「私ね、EVAに取り込まれたの。」

「え?大丈夫なの?」

「その結果、私は人間になったのよ。」

「ど、どういうことだい?」

「セントラルドグマで見たんでしょ。あれ。」

シンジは無数のレイが並ぶあの光景を思い出した。

「い、いや。あれは…。」

「私ね、もう、あんなのとは違うのよ。」

「え?」

「私はもうこの世に一人しかいないのよ。」

「ということは…、」

「そう、私は、あなたの母親のコピーではない。
オリジナルなのよ。あなたと同じ人間なの。」

「本当?よかった。でも…、どうして?」

「EVAの中で遺伝子が再構成されたの。」

 

シンジは思わず、レイを抱きしめていた。

「おめでとう。綾波。」

「レイでいいわ。碇君。」

「レイ、僕も、シンジでいいよ。」

「ありがとう。シンジ。」

 

遠くで見ていたクラスメートには、何の話しかは分からない。

ただ、シンジがレイを抱きしめたという事実のみが皆の目に焼き付いた。

「おぉーー!」

「なんちゅー、破廉恥なことを…。」

「シンジぃ。抜け駆けしやがって。俺らは三馬鹿トリオじゃなかったのか?」

「アスカが見たら、なんて言うかな。」

ヒカリの一言で話しは一気に冷めた。

沈黙

 

 

「なにがあったんだ?」

知ってるくせに皆は聞く。

「い、いや、別に。」

そう言いながら、シンジの顔は真っ赤である。

 

シンジは思った。

こんな幸せが続けばいいと。

あと、アスカが戻れば、僕は本当に幸せだ。

 

 

 

Bに続く


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ver.-1.00 1997-09/01公開
ご意見・感想・誤字情報などは ----------まで。

 TOMYさんの『こころ』2、公開です。
 

 碇司令の不思議な力。
 でしょうか。

 爆発した筈の初号機。
 しかし、
 碇司令はシンジ創作を命じていた。
 しかも、
 全世界規模で。

 いきなりインドに現れたシンジ。
 間を置かずに発見できたのですから、
 もの凄い規模の捜索隊を出していたんでしょう・・・
 

 レイもいきなり”人間”になって・・
 一体何が起こっているんでしょう(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 TOMYさんに感想メールを送ってね。


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