TOP 】 / 【 めぞん 】 / [ナベ]の部屋/ NEXT

水の鏡

[アスカバージョン]

第三話・しとう Aパート


==============================================================


光は闇の左手
暗闇は光の右手
二つは一つ、生と死と
ともに横たわり
さながらケメルの伴侶
さながら合わせし双手
さながらに因−果のごと
(アーシュラ・K・ルグィン「闇の左手」)

==============================================================


リリスから上半身だけ現れたそれは、シンジの押し殺した声に合わせたかのように行動を起こした。
ATフィールドを現出させて、その形状を槍に変えた。
そして、なんの音もなく、ためらいもなく、ねらいを定めてそれを打った。
その先にねらったものは・・・・。
シンジは叫ぶ。
「アスカ!!」
光の矢はアスカに向かってものすごい早さでその身体を貫こうとする。
シンジは焦った。
間に合うか!!
シンジは左手をアスカに差し伸べる。
その距離は一メートルほど足りない。
その時、天啓のように経験脳が一つの具体策が落とした。
多分でるはずだ!!
シンジはイメージする。
「クッ!!!」
ガキーン。
アスカの目の前五十センチで光の矢は遮蔽物に遮られた。
それはATフィールドだった。


シンジの経験脳で思う。
自らの『心の壁』を見ながら。
そうなんだ、あのリリスから生まれているから、エヴァンゲリオンの操縦が出来るのだから。
出来るはずなんだ。
そのシンジの強い意志がATフィードを現出させることに成功した。
さらに、ATフィールドを現出させたシンジの経験脳は、今ここで起こっている事態を把握させた。
しかし、何故あれがここに現れたのかは、まだ理解できずにいた。
しかし、あれがなんであるかは、経験脳で理解できた。
冷静な自分にとまどいながら、的確な判断だと自己判断した。
あれは、使徒だ。
綾波レイ・・・・。
彼女もそうだった・・・。
一瞬の間に彼女の持つフレーズがリフレインした。
(わたしは・・・・なのよ。変わりはいるのに何故?)
(分からない・・・・。そうなのかもしれない。)
(碇君・・・・。わたしはどうすればいいの?)
(そう。それでいいのね。)




青白い光が交錯する。
暗くて見えずにいた、リリスの鎮座する間が浮かび上がっている。
無機質な壁に青白い閃光を張り付かせては、瞬時にぬぐい去った。
バチバチというプラズマの繚乱を片方方向に散らしている。
そして、その片側がシンジ方向にへこみ始め、その形状に底の浅い花瓶の様相を見え始めた。
そう、 ATフィールドが徐々に浸食されていくのだ。。
光の矢が徐々にそれを貫こうとして勢いを貯めているように見える。
限界に近づいてきているようだ。
どうする・・・・・。
ここでATフィールドを相殺させるのはたやすい。
しかし、その時に発することになる高エネルギーに後ろにいる父さんとお母さんは吹き飛んでしまう。
紛れもなく二人は人間であるのだから。
その高エネルギーには耐えられないだろう。
そうだ!!
ぼくが使徒であるなら・・・・。
綾波レイと同じなら・・・・。
シンジは光の矢を直接左手で掴んだ。
「グッ!!」
バチバチ!!!
痛覚は普通にある。
気が遠くなるような痛みが襲ってくる。
過度の痛覚は熱さを忘れさせてくれるようだ。
ただ、神経を突き刺してくる、純粋な痛みだ。
タンパク質の焼ける嫌な匂いが自分の鼻腔を直撃した。
そして、それによって「熱さ」を実感し始めた。
視線の片隅に入るアスカは、呆然としてその成り行きを見ているしかできずにほおけている。
髪の毛が燃える匂いがその場を包み出す。




さあ、始めるぞ。
シンジの表情に気合いが入った。
アスカの目のでのフィールドが形を変える。
光の矢を包み込むようにシンジの左手の中に進入した。
左手の中で、相殺させる・・・・。
光量が一際際だち全方向へ、平等に光を張り付かせた。
次の瞬間だった。
パン!!
空気の圧搾音に似た音を立てて光の矢をシンジのATフィールドが相殺された。
平等な光の残滓の栄光に浴くさないものがある。
それは、犠牲となったシンジの左手だった。
はじけ飛んだ左腕の先には何もなくなっていた。
この痛みはいけない。
シンジは自らの神経系のフィードバックをカットさせる。
ショック死の危険も鑑みられるからだ。
左腕には感覚はなく、しびれもない。
それでも思い通りに動く腕の感覚は不思議そのものだった。


正直言って、ここまでの行動に驚いている。
しかし、僕は知っていた。
経験していたのだ。
ATフィールドの操作から神経組織を自在に操れることを。
それは、嚥下する使徒の肉を思い出した。
今にしてみれば、それはカニバリズムを越えた愛着表現だった。
それは、自分も使徒としてこの時代に再生されたという経験が知識を運んできた。
今となるとカオル君の意図することが見えてきている、そんな気まで起こさせる気分だった。


アスカはその小さな爆風に眼を背けた。
青白い閃光に網膜に焼き付いている。
目の前がちかちかしている。
視覚が戻ってきた、アスカはシンジの手がなくなっているを見た。
あるべきものがそこにないという感覚は無意識のうちに嫌悪感に変わった。
それから、アスカは気が付いた、ここで今、何が起こったのかを。
碇ユイに貰ったその白い白衣と、ビスクドール(白磁製の人形)の白い肌にシンジの赤い血がまんべんなく斑に張り付く。
つうと、一筋の血潮が集まりアスカの肌を滑り落ちる。
雨に打たれたガラスのような感覚だった。
「・・・アスカ。大丈夫?」
シンジがあたしに語りかけているが解った。
しかし、その声は遠い。
「アスカ・・。落ち着いて聞いて。ぼくは大丈夫。いそいで二人を連れてここを離れるんだ。ぼくは大丈夫だから。」
遠くからシンジの声が聞こえた。
あたしの頬を流れたシンジの血液がわたしの感覚を引き上げた。
狭窄視野の中で認識した目前の事実は引き上げたあたしを圧迫した。
巨大な手のひらが、あたしを握りつぶす。
まるで、子供頃に遊び半分で握りつぶしてしまった蛾のように。
胡蝶の夢がアスカの中では現実になっている。
無慈悲な圧迫が呼吸をさせるのを拒んだ。
視界が暗くなる。
めのまえが、灰色と濃い灰色に二分割された。
二分割された灰色は交じり合って、目の前は灰色単色に変化した。
今度はシンジの声が明瞭に聞こえた。
「急いで、アスカ。ぼくの手は心配いらない。すぐに再生できるはずだ。」
あたしのシンジの声がする。
言葉に意味を持たない、その響きだけが、その音色だけがアスカの最後の認識となった。
そして、アスカは気絶した。




「アスカ?アスカ!!」
シンジはアスカに呼びかけた。
しかし、その返事はなかった。
アスカが気を失うのが理解できた。
こんな時に・・・・。
シンジの率直な感想である。
背後でズリュッという粘着質な音がした。
シンジは振り向く。
シンジが振り向いた瞬間、リリスから生まれたそれは、頭からLCLの海へと自由落下をしていった。
そして、その途中、慣性の法則を無視して宙に浮かんだ。
頭を下にして背中を向けていたそれがゆっくりと姿勢を反らし、そして、こちらを向けた。
左右からライトアップされているリリスを背後控えた形でそれは宙に浮いている。
そして、その表情にはシンジの良く知っている微笑みが浮かんでいた。
両腕をだらりとした、身体に力が入りきっていない印象を受ける。
「クスクスクスクス・・・・・・。」
それは小気味の良い笑い声だった。
ころころとした笑い声は女性である。
明らかに目の前のものが発しているのだが、その声色は若い女性であった。


クスクスクス・・・・・。
相変わらず、シンジと相対しているものは笑っている。
その対象は限定されていない。だた、笑っているだけのようだ。
その笑い声はシンジを苛立たせた。
どうする?
シンジは考えた。
その瞬間にもう一つの天啓が経験脳から生まれた来た。
シンジはゲンドウに助けを求める。
いけるかもしれない。



「六分儀さん。」
「む。」
シンじは圧縮言語をゲンドウに送った。
端から見ると、口を薄く開けているだけしか見えない。
一秒後に返事が返ってくる。
その声色には自信が付随していた。
「解った。」
それだけ言うと、ゲンドウはアスカを抱えて出口に走る。
十四歳の子供の体は軽かった。
後にユイが続く。


アスカを小脇に抱えたゲンドウとユイは通廊にでる。
照明の落とされている廊下をゲンドウとユイは走った。
(まず、地上に出て下さい。六分儀さん。それから・・・・。)
ゲンドウは頭に直接入り込んだ、その思考を反芻している。
シンジとか呼ばれている彼女の思考が一気に頭の中で洪水を起こした感覚だった。
そして、ゲンドウはシンジの人格と呼べるものをその知識の中でふれた。
妙にしっくりとしていて、彼女( シンジ)の人格にふれたのは気分が良かった。
ゲンドウは思いも寄らない、自分の血族の系統がそう思わせていることに。
思いも寄らないだろう、それが親子の無条件の情愛であることに。



「とにかくここを出るぞ。ユイ。車のキーだ。」
ゲンドウは走りながらユイに投げ渡した。
「先に行ってすぐ出せる用意をしておいてくれ。」
「解ったわ。」
そういうと、通廊の角を曲がりかけた。
「ちょっと待った。ユイ。」
ゲンドウは小脇に抱えていたアスカを下ろした。
「この子は君に任せる。先に行ってくれないか?」
「ええ。」
ユイの不審がりながらも、ゲンドウの言うとおりにする。
アスカを背中に背負いゲンドウに微笑み返す。
彼女にはシンジの圧縮言語は伝わっていない。
以心伝心とまではいかなくとも、ユイはゲンドウに信頼を置いている事実がかいま見られるシーンである。
走り去るユイを見てゲンドウは思う。
わたしの意志は彼女に正確に伝わっているのかと。


ゲンドウは一人走りながら、携帯をかける。
「六分儀です。管制室へ頼みます。そっちに友人がいるはずなんだが、すいません。・・・・・・おお君か。」
ゲンドウの口調ががらりと変わる。
「レベル−Eだ。A−18から22までを開放してくれ。極秘だ。上の連中にも知らせる必要はない。後でこの埋め合わせはする。貸しにしてくれ。勿論ユイはかさんぞ。」
運が良かった。
自分の雇飼にしている部下が出た。
彼なら気づかれずに隔壁をあけることが出来るだろう。
ゲンドウは思い返す。
どうして、細かい指示が出来るのか不思議だった。
拡張工事がどんどん進むこの場所で正確な地理を把握するのは至難の業だ。
しかも、工事中の場所を避けてわたしに指示を出した。
いったい、何者なんだ・・・・。
あの少女(シンジ)達は・・・・。


シンジと相対するそれは笑っていた。
「クスクスクス・・・・・・。」
宙に浮かんだままで、アルカイックスマイルを浮かべている。
それは上位者の傲慢にも取れた。
透き通るその白い肌と風もないのに流れる髪がそこにある。
シンジと変わらないその体格は繊細という形容が相応しく思える。
「クスクスクス・・・・・・。」
わらうその声色は綾波レイそのものだった。
「ねえ、碇君・・・。ねえってば。何か答えてよ。」
「・・・・・・・。」
「楽しいの。ちょーたのしいって感じなの。ねえ聞いてる?碇君?クスクスクス・・・・・。」
ゲンドウに圧縮言語を送ったときだとシンジは仮定した。
あのとき、ぼくの境界線は曖昧になった。
その瞬間をねらわれたンだ。
たぶん、ぼくの記憶連合野に進入して、かすめ取ったんだ。
それがどういうことか、多分あれは解っていない。
「クスクスクス・・・・・。さあ、ぼくを殺しておくれ。シンジ君。」
今度は渚カオルの声色だ。
ズキリ、シンジの経験脳が痛む。
「君がぼくを殺したんだね。碇シンジ君。ねえ、心が痛くないかい?いたくなかったのかい?ぼくは苦しかったんだ。」
「わたしも苦しいの・・・・。」
綾波・・・・。
「さあ(ねえ)ぼくと(わたし)一緒にならない?(かい)」
二人の声が重なった。
刹那!!
シンジに衝撃波がやってくる。
不可視波長のATフィールドだ。
シンジは左へ跳躍する。
文字通り跳躍、10Mほど真横に飛んでそれをかわした。
一瞬、シンジは見失う。
背後に気配を感じて背筋が凍った。
背後を取られた・・・・。
シンジは動けなかった。


「あなたは何故ここにいるの?」
シンジは背後を取られたまま答えた。
「それがぼくの意志だからだよ。君は何故ここにいるの?」
「さあね。よく分からない。」
(嘘だ!!)
シンジはそう感じた。
続けて問われた。
「意志って何?」
「ぼくだけのものだ。思惟だ。」
「思惟って何?」
「ぼくだけのものであり、共有できるものだ。」
「なんで個人のものが、共有できるの?」
「自分であるために。」
「ふーん、やっぱり『閉じて』いるんだね。」
空気が流れる!!
シンジの背中でATフィールドが干渉して、スパークする。
シンジは素早く離れて、距離を取った。
シンジは思う。
時間を稼がなくてはならない。
あともう少しだ。
理由を考えてはだめだ。
今は、この危機を乗り切ることだけを考えるんだ。
さもないとリツコさんが言っていたようにぼくの身体は何もできなくなってしまう。
遠くで隔壁が開く音が聞こえる。
あと、600秒・・・。
あと、597秒・・・。


アスカとユイは人工進化研究所の研究員駐車場に行き着いた。
背負っていたアスカを車中のシートに横たえさせる。
ふと、背中の体温の下がるのを感じ、目の前にいる彼女が体温を持っていることに、不思議な概観を持った。
何者なのか、その答えは今は出さずに置こう。
ユイは、ゲンドウの瞳にあるものを信じた。
あれは、わたしに向ける眼差しに近い。
冷め切ったアスカの顔色と斑に付いた血痕がユイの心に違和感を与える。
ウェットティシューを手に取り、ユイは丁寧にアスカの顔に付いていた、シンジの血糊を拭き落としていった。
その動作はとても優しい。
貰ったキーでエンジンをかけて、二人はゲンドウが来るのを待つ。
ユイは車には乗り込まずに、外で待っていた。
かなり広いスペースが設けてあるが、駐車してあるのはまばらでしかない。
車の中の時計に目を遣る。
午前三時二十分、真夜中というわけだ。
なにしているのかしら・・・・。
ゲンドウさんは・・・。


エレベーター通廊の一つからゲンドウが走り出てきた。
(・・・・・のゲートを開いて下さい。そこに誘導します。そして、フロント外周道路の途中C−12でおりて、そこでアスカに伝えてことを指示して下さい。時間は・・・・。)
「あと、400秒しかない。急ぐぞ。」
三人は車に乗り込んで、発車させた。
ゲンドウは確信を持っている。
ゲンドウは思う。
何故、このことに確信があるのだろう。
何故だろうか・・・。
無条件の信頼をあの少女(シンジ)に抱いた。
解らないな・・・・。
それはシンジの送った圧縮言語が理由なのだが、それに気づくことは彼には出来ないだろう。
外周道路はジオフロントの周りを螺旋状に延びている道路のことだ。
この時間は誰も通行することはないだろう。
猛スピードで車は疾走する。



「ゲンドウさん。何処へ行ってたの?」
ユイはそう聞いた。
「ああ、彼女は気絶をしているそうだ。気付け薬をね。ちょっと。」
そういって、ゲンドウはユイに小瓶には言っている液体を渡す。
「これは?」
「気絶した子になにを飲ませるかはよく解らないが、ブランデーを飲ませるのを映画で見たじゃないか。それで、わたしのを持ってきたんだ。」
ラベルに燦然と輝く『いいちこ』(25%)をみて、ユイは深いため息を付く。
信じる自分をまず疑ってみよう。
彼女はそう思った。
ゲンドウはたたみかける。
「起きるまで飲ませてしまえ。」
彼女の深いため息とともに車は疾走していった。



ユイの適切な処置のおかげで、アスカはゆっくりと瞳をあける。
「きがついたな。」
ゲンドウは車を降りていた。
A−22ゲートを見ていた双眼鏡をおろし、アスカの方向を見やる。
「あ・・・・。」
彼女の視線が定まっていない。
「少々手荒だが、・・・・。」
ゲンドウはアスカの両肩をもち揺すった。
「アスカ君!!アスカ君!!時間がない。気づいてくれ。」
「あ・・・・。」
「アスカ君!!シンジ君を助けるぞ!!聞いているのか。アスカ君!!」
「シンジ!!」
アスカの発するその声に生気を感じる。
「落ち着いて、アスカ君。わたしは六分儀ゲンドウだ。あの地下にいた。そこで君たちが現れた、突然にね。それはいい。その後に現れたもう一人の人物をシンジ君は危険と言った。それは解るね。」
ゲンドウは落ち着いた口調へと徐々に変えていき、彼女に落ち着きと理解を一緒に与えることを試みている。
「シンジは危険なんですか?」
うまくいっているようだ。
「そうだ。彼は危険と言っていた。君はあの場で気絶してしまった。君をここまで連れてきて欲しいと言うことをわたしに頼んでいた。それでここにつれてきた。君にシンジ君からの伝言がある。」
「シンジからの!?」
「ああ、そうだ。 いいかい。アスカ君。君にあのシンジ君からの伝言をつたえる。所々、わたしには意味が分からないのでそのまま伝わった形で喋るから、君がそれを判断しなさい。」
「はい。」
「ええと・・・・。アスカ。今、ここにいるアスカは使徒と同じだ。いまは深く考えないで欲しい。エヴァの操縦していたときと同じ感覚でアスカにもATフィールドが作れるはずなんだ。エヴァの中と同じ感覚だ。それを忘れないで。アスカ。一秒だけ、ATフィールドを僕たちに向けて中和して欲しいんだ。一秒を越えては駄目だ。たぶん、アスカの身体が持たないから、一秒だよ。アスカ。・・・・・とこんな感じだ。これで解るかのかい?」
「・・・・・はい。」






シンジはおもむろに相対しているそれに言った。
「ぼくは君に名前をあげよう。」
綾波レイの声で、それは笑っていた。
「クスクスクス・・・・。なあに?碇君?」
「君に名前を付けてあげると言っているんだ。聞こえたかい?」
「名前ってなあに?」
「君がぼくのことを碇シンジと認識していると同じ事だよ。君がぼくを見て、碇シンジがここにいると思うためには、碇シンジという名前があるからなんだ。君にも名前を付けてあげよう。ぼくが君を認識するために。」
「わたしには、必要ないのよ。その名前というのは。」
(その通りだ。本当は必要ないはずだ。それでも名称で呼ぶ必要がある。)
「君の名は・・・。」
「クスクスクス・・・・。」
(ごめんね。カオル君・・・。)
「渚カオル。君のことを僕は渚カオルと呼ぶ。」
僕は日本語を圧縮言語の同じ要領でそれにぶつけた。
ATフィールドでオブラートされたようなものをあれにぶつけたのだ。
その結果がなんであるかは僕は知っている。
相対するそれは、僕がぶつけたその『言葉』に驚いている。
驚愕に口が無造作に開いていて、その口から出てきたのは綾波でもカオル君の声ではなかった。
かすれた、中音域のどちらとも取れる中性的な声だ。
「渚・・・カオル・・・。」
言葉は呪だ。
意志の疎通を図ったのか。
稚気でそうしたのかは僕には解らないが、僕の言語で考えたことは、僕に空隙を与えてくれたんだ。


「グアアア・・・・・。」
僕がカオルと呼んだものは頭を抱えている。
白い肌が、奇妙な形に揺れ、蠕動運動をしているのが見て取れた。
もこもこと小さな山を作っては引っ込んでいった。
そして、ズルリと何かがずり落ちる。
おなじ形をしたものをずらしたよう感じだった。
同じ絵札のトランプ二枚を一枚だけ手元に残して、一枚を落とすのに似ていた。
バシャーン、と何かが落ちた。
僕はそれを知っている。
あれは僕の中にあったカオル君を写していた鏡のようなものだ。
そして、あれはカオル君を取り込まざるを得なくなった。
僕の圧縮言語で。
そして、あれは、綾波レイだ。
シンジからはLCLに浮かんでいるものを確認できなかった。
しかし、シンジには確信がある。
そして、シンジはもう一つを確信した。
いま、カオル君という僕の中のイメージと融合していくそれは・・・・。
何故、ここにいるんだろう。
あのアダムが。

NEXT
ver.-1.00 1997-10/03公開
ご意見・感想・誤字情報などは h-nabe@netq.or.jpまで。

どうもこんにちは、ナベでございます。
「しと(使徒)う」をお届けしました。
前半戦のヤマ場です。

あとになって作中で説明すると思いますが、それまで軽い補足説明を少し。
決して、突き放している訳じゃありませんのでご安心を。


チップは第一話で言っていた脳内コンピュータのことです。
何か勉強していて、ふとした瞬間に勉強していたことが理解できて自分の実となると言うことがあります。
その理解の部分だけを切り取って詰め込んでいるのがチップと考えて下さい。
一つの理解がさらに別の事象に当たった時に応用が利いて急速に理解が深まる。
ちょっとした考えから、そのデータが湧いてくると考えて下さい。
これが、チップの基本です。
経験脳は文字通り今までの経験を範疇としたものです。
つまり、ふだんの生活とかそれまで感じたり、経験した事がそのまま入っている脳味噌と考えて下さい。
通常のシンジ君の人格ですね。


しかし、自分のペースだといつゴールが見えるか解りません。
もう少し、ペースをあげたいと考えています。
それではこの辺りで・・・。
(10/1脱稿)

 ナベさんの『水の鏡』第三話、Aパート公開です。
 

 戦っていますね、
 気絶しちゃってますね(^^;
 

 そして、ゲンドウ・・・
 もう”雇飼にしている部下”がいるんですね・・・流石!

 この時期から裏の足場固め・・

 これはもう、彼の本質なのか!?(笑)


 
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 メールを書いてみませんか、書き手は皆、感想を求めています!


TOP 】 / 【 めぞん 】 / [ナベ]の部屋