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真創世記エヴァンゲリオン
第壱話
「使徒、襲来」

 

 

 

西暦2015年7月25日、
この日はその前日と同じように暑かった。蝉の鳴き声が町に響き、肌に纏わり付く湿気が人々を 不快にさせている。 そんな何でもない一日になるはずだった。「あれ」が海の底から現れた、その時までは。  

 


新小田原市から10kmほど離れた海岸線ぞいに国連軍が展開している。戦車を中心とした地上部隊を、VTOL重戦闘機などがサポートするような形だ。水際で敵を殲滅するための実にオーソドックスな布陣である。しかし、その量が尋常ではない。まるで何かに脅えている様に見える。

しばらく重苦しい空気に包まれていた国連軍だが、海面に鯨にしても大きすぎる影を確認すると狂ったように攻撃を開始する。だが、海面の影はまったくスピードを緩めることなく海岸に到着しそして、立ち上がった。  


40m以上の身長を持つ濃緑色の体、白い仮面の様な顔が普通なら首があるべき場所に填まっている。
腹部には、サファイアのような澄んだ色彩を持つ球体が淡い光を放っている。
「それ」は、凄まじくシュールだったがヒトのかたちをしていた。
その異様な姿を見た国連軍はさらに攻撃の手を強めるが、「それ」は全く気にも留めずに歩き続ける。  

 


「ふぅ、何時まで待てばいいんだろ。もうこれで20分も待ってるって言うのに・・・」
第3新東京駅駅前のロータリーで、待ちぼうけを食らってる少年がひとり。
中肉中背の14、5才の少年。なかなかに整った顔立ちをしているが、凛々しいと言う
より可愛らしいと言った方が似合っている感じである。
10分ほど前に出された特別非常事態宣言のために、人っ子ひとり居なくなった町をぼーっと眺めながらぶつぶつと愚痴っている。  


そう遠くない山並みの向こうから、連続する爆発音が響いてきたのは更に5分ほど待たされた後だった。
すぐに、後退しながらミサイルを発射し続ける国連軍のVTOL重戦闘機と、濃緑色の巨人が見えてくる。
その余りに異常な状景にパニックを起しかけた少年だったが、ある奇妙な事実が彼を現実に引きずり戻した。
濃緑色の巨人に対してさほどの恐怖を感じないのだ。むしろ親近感と言っても良い様な物を感じていた。
明らかに初めて見る物なのに、前にも見たことがある気すらしてくる。少年は、身に覚えの無いその感覚に、おもわず考え込んでしまう。

・・・・・・僕に何か関係あるものなのかな・・・でも見たこと無いし・・・とにかくあれは一体全体何なんだぁ・・・・・・  

 

巨人が自分の方に近づいて来るにも関わらず、呆然とそれらを見上げている少年。その視界にいきなり一台の車が飛び込んで来た。やたらと豪快なドリフトをかましながら、目の前で止まった青い車。運転している二十代後半の髪の長い、やたらと明るそうな美女に声をかけられる。

「碇シンジ君、でしょ。」

「え、あっ、はい。」

「来るの遅くなってゴメンね。とにかく乗って、話はそれから。」

「はいっ。」  

 

巨人とは反対方向に向かって走り出した車。運転している女性は、巨人と十分に距離を取ったことを確認すると一息ついて笑顔で少年に話し掛ける。

「あらためて、ゴメンね。チョッチごたついちゃって来るのが遅くなっちゃって。」

「いえ、そんな・・・あ、あの、名前聞いて良いですか。」

「ゴメン、ゴメン。私は葛城ミサト。あなたのお父さんの部下よ。」

「父の、ですか。」

「そう。国連直属の特務機関ネルフの作戦部長で、階級は一尉。とりあえずこんなとこで良いかしら。」

「・・・ネルフって何なんですか。それと・・・さっきの巨人は一体・・・」

「あれは『使徒』よ。そして使徒を倒すために作られたのがネルフ。まあ、使徒相手専門の軍隊ってとこね。」

「使徒、ですか・・・」

「そうよ。あれが使徒、私達の敵よ。」

などと話て居るうちに、濃緑色の使徒に随分と近くにまで追いつかれてしまっていた。慌てたミサトは、自分の愛車ルノー・アルピーヌA310を加速させるが後の祭りと言った感じでまるで差は広がらない。

「あーっ、もうっ。国連軍はもう全滅しちゃったのーっ! 解っちゃいたけど本っトに役ただずなんだからぁ。」  

 

今にも追いつかれそうになってパニクる二人。そこへ急に、横から何かが使徒に体当たりを仕掛けた。それらはもつれ合う様に吹っ飛び、辛くも車は脱出に成功する。
100mほど吹っ飛んだ先で、立ち込める煙の中に二つの巨大な物影が起き上がる。どちらもヒトのかたちをしているのが見て取れた。

一つは使徒。先程と同じような親近感を未だに感じている。そこに、それが在ると言う事を何故かはっきりと感じることが出来た。
もう一つは、鮮やかな山吹色をその身に纏った、使徒よりも人間に近いかたちの「もの」だった。身長は使徒と同じ位。小さ目の頭。細長く引き締まった手足。黄色いラバーや装甲がその全身を覆っている。明らかにヒトの手によって創り出された物であることが見て取れる。
そして何よりその巨人から、使徒に感じたものとは比べ物にならないくらい強烈な、「なにか」を感じた。
懐かしさにも似たそれは、シンジに真っ白で透明なひとりの少女のヴィジョンを見せた。あまりに綺麗なその姿に思わず声を掛けようとしたところで、横からのミサトの声に現実へと呼び戻される。

「レイっ。ナイス! 来てくれたのねっ。それっ今のうちに逃げるわよ。」

「はっ、はいっ。」  

 

それからしばらくしてやっと、シンジとミサトの二人を乗せた車は、何とかネルフ本部に通じているゲートに滑り込んだ。ミサトは車をゲート奥にあるカートレインに固定すると、リモコンを操作する。すると本部直通のカートレインは静かに車ごと、斜め下方に動き出した。

しばらくするとトンネルを抜けて地下に広がる巨大な空間が眼下に見えてきた。
立て続けに異常な出来事に出くわしたせいか、またもや呆然としていたシンジだったが、雄大と言ってもいいそのパノラマに目を大きく見張った。

「わァ、本物のジオフロントだァ。しかもこんなに大きい。」

「フフッ、驚いた。ここが、ネルフ本部よ。世界再建の要、人類の砦となるところよ。」

「・・・はぁ〜〜、すごいなぁ。・・・ところで、葛城さん。さっきの黄色い巨人は何者ですか。」

「あれは、「エヴァンゲリオン」よ。ネルフが創り出した汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。
 その零号機よ。唯一使徒を倒すことの出来る私達の最後の切り札よ。」

「人造人間って、あれヒトなんですか。」

「ええ、ロボットって言うより、より生物に近い物らしいわ。・・・ゴメン。これ以上は今は話せないの。
 機密事項だから。本ト、ゴメンね。」

「じゃあ、レイってだれですか。」

「ああ、レイね。綾波レイ、エヴァ零号機のパイロットよ。シンジ君と同じ14才の女の子なのよ。」

「へぇ、そうなんですか・・・それじゃあ、さっきのはその子なのかな・・・」

「えっ、なにか言った?」

「いえ、べつに・・・」

「そう。ああ、それと私のことは『ミサト』でいいわよ。そっちの方が好きだから。」

「はい、わかりました。ミサトさん。」

シンジはミサトに、使徒やエヴァ零号機に感じたあの独特な感覚について聞くことができなかった。余りにも夢のような出来事で自分でも信じきれなかったせいなのだが、それだけでも無いような気もしていた・・・  

 


本部に到着したカートレインを降りて駐車スペースに向かうミサトの車。するとそこには、一人の女性が立っていた。どうやら二人を待っていたようだ。金色に染めた短めのボブカットの髪と、左目の下のホクロが印象的ななかなかの美人だ。

「待ちくたびれたわよ、ミサト。一体何処をどう通ったらこんなに遅くなるのかしら。全くこの一大事に・・・」

「ゴメンっ、リツコ。チョッチしつこい男に追いかけられちゃってね。」

「それは、零号機のモニターで見てこっちも知ってるわよ。私が言いたいのは、その前よ。大方どっかで道に迷ってたんでしょうけど。いいかげんにしてほしいわよね、まったく・・・」

「えっ、じゃあ、ミサトさんが待ち合わせに遅れたのって・・・」

「そっ。すべてミサト個人の責任よ。ミサトがもっとしっかりしていれば、使徒に追いかけられることも無かったって訳。」

「リツコぉ。何もそこまで言わなくてもぉ・・・」

泣きそうな目をしたミサトを半ば無視して、リツコとよばれた女性はシンジに微笑みながら話し掛けた。

「ふふっ。始めまして、碇シンジ君。私は赤木リツコ。ネルフの技術部長をしているの。宜しくね。」

「はっ、はいっ。」

「もぅ、ヒトをのけ者扱いしてぇ。い〜わ。い〜わ。ってぇ、こんなとこで、与太話している暇なんて 無かったじゃないのっ。」

「あっ、そうだった。とりあえずケイジに急ぎましょ。」

「いきなりケイジに・・・なぜ?」

「そこで司令が、・・・シンジ君、あなたのお父さんが待っているからよ。」

「そう、わかったわ。行きましょ。」

「はい。」
 

・・・父さんに、会う。・・・10年ぶりに・・・僕を捨てた父さんに、会う・・・

シンジは、立て続けに遭遇した、幾つものハプニングのせいですっかり忘れていた、ここに来た目的・・・ただ、『来い』とだけ書かれた手紙で自分を呼び付けた父親に会う・・・を思い出し、暗澹とした気分になりながらも二人の女性の後に続いて走りはじめた。  

 


ネルフ本部、ジオフロントの更に奥深く、リツコが『ケイジ』と呼んだ場所に連れてこられたシンジは、そこに在る物に、あれだけ常軌を逸した出来事を体験したと言うのに、驚きを隠せなかった。
巨大な、顔だった。長い一本角を額に生やし、鈍い光を放つ二つの眼を持つ、紫色の装甲によってかたち造られたロボットの頭部らしきものが、目の前に広がる赤い液体に満たされたプールから突き出ている。
微かながら、使徒やエヴァ零号機に感じた「なにか」が、それからも感じられた。

「こっ、これは・・・」

「そう、シンジ君。あなたの考えている通り、これもエヴァンゲリオンよ。これは、その初号機。」

「そして、それに乗るのはおまえだ、シンジ。」

出し抜けに何処からか聞こえてきた声に、肩を震わせるシンジ。恐る恐るあたりを見廻すと、奥のドアから一人の男が現れた。黒い詰襟の服を着て、赤い眼鏡を掛けた顎鬚の男。

「と、父さん・・・これに僕が乗るって、いきなり何言い出すんだよ! 10年間に僕を捨てたくせに・・・ 勝手すぎるよっ!」

「初号機を動かす事が出来るのは、おまえだけだ。そして、初号機が動かねば我々人類に未来は無い。」

「そんな、そんな、勝手だよ・・・・・・えぇっ!」

シンジの右腕が急に激痛を放ち出す。まるで骨折でもしてしまったかと思えるほどに。それと前後して先程と同じ、白い少女のヴィジョンが見えた。だが今、その少女は右腕を押さえてうずくまっている。
シンジは、自分の感じている痛みが彼女のものであることが、理屈では無い何かで理解した。

・・・・・・あの子、こんなに苦しんでる・・・どうしよう・・・どうしよう・・・・・・

『碇、使徒は強いぞ。このままでは、零号機がやられてしまう。どおする?』

シンジが痛みを感じはじめてから間を置かずに、スピーカーから多少老いた感じのする男の声が聞こえてくる。

「冬月、映像をこちらに廻してくれ。」 「わかった。」

二人のやり取りの後、すぐに近くのモニターが外の様子を映し出す。そこには使徒の攻撃を受け、右腕を折られたエヴァ零号機が映し出されていた。

・・・・・・やっぱりあの子だ。どうしよう。でも、僕に何が出来るってんだ・・・何が・・・・・・

シンジが、どうすれば良いかわからずにいた、その時。誰かが彼の心に呼びかけた。シンジはとっさにその『声』が聞こえた方を向くと、そこに見えたのは初号機だった。

・・・・・・君に、乗れって言うのかい・・・乗ればどうにか出来るって言うのかい・・・・・・

・・・・・・僕に出来ること・・・僕にしか出来ないこと・・・・・・

・・・・・・もし、僕に出来るのなら・・・・・・

・・・・・・逃げちゃ、ダメだ・・・・・・

・・・・・・僕は・・・僕は逃げちゃ、ダメなんだ!・・・・・・
 

シンジは、暫く初号機の眼を見詰めた。それから、ためらいを振り切るかの様に頭を振ると、自分の父親であり、ネルフの司令官でもある男、碇ゲンドウに話し掛けた。

「父さん、あれに乗れば使徒に勝てるんだね?あの子を、助けられるんだね?」

「ああ。おまえ次第、だがな。」

「わかった。僕、初号機に乗ります。」

「ああ、そうか。・・・・・・赤木博士。」

「はっ、はいっ。」

「シンジに、エヴァの操縦方法のレクチャーを頼む。」

「わかりました。」

「では、私は発令所に戻る。葛城君、行くぞ。」

「はいっ。」

親子二人の会話に取り残された格好のミサトとリツコは、シンジの急な心変わりにあっけに取られてしまっていた。
だから、この時ゲンドウが微かだが微笑んでいた事に気付いた者は、誰も居なかった・・・・・・  

 


「いい、シンジ君。エヴァは人間のアストラル体、つまり魂をリンクさせて操縦するシステムなの。
 だから、シンジ君が自分の体を動かすのと同じように考えるだけで操縦出来るわ。わかった?」

『はい、わかりました。』

ネルフの作戦指揮の中枢、中央作戦室発令所。何人ものオペレーターがエヴァ発進の為の準備に追われているこの場所に、ゲンドウやミサトより少し遅れて戻って来たリツコは、エントリープラグと呼ばれるエヴァのコクピットブロックに乗ったシンジに、レクチャーを続けている。

「じゃあ、今からエントリープラグをエヴァに挿入して、シンジ君とエヴァのアストラル体を接続するわ。
 いいわね?」

『はい。』

「エヴァ初号機、エントリープラグ、プラグイン。」

「了解。・・・・・・プラグイン完了。」

「L.C.L. 注水開始。」

「了解。」

『わぁっ、何なんですかっ、これ。水が入って来ましたよぉ。』

「大丈夫。それはエヴァとのリンクし易くするためのものよ。それに、肺がL.C.L.で満たされれば直接酸素を
 取り込んでくれるわ。安心して。」

『そ、そんなぁ・・・・・・うっ、気持ち悪い。』

「我慢しなさい、すぐに慣れるわ。・・・・・・次、行くわよ。アストラル・リンク・システム、起動。」

「A.R.S. 起動します。・・・リンク、成功。・・・す、すごい! シンクロ率が40%を越えてます。」

「本当、凄いわ。これほどとは・・・・・・ミサト、こっちの準備は全部終わったわ。」

「ありがと、リツコ。」

ミサトは後ろを振り向き、一段高い場所に置かれた司令席に座るゲンドウに問い掛ける。

「よろしいですね。」

「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り、我々に未来は無い。」

その言葉を聞いたミサトは、一度その意味を噛み締めるようにうなずくと、前へ振り返り、シンジにも問い掛ける。

「いいわね、シンジ君。」

「はい。」

ミサトは、一度、大きな深呼吸をした。そして自分の内に在る全てを乗せて、叫ぶ。
 

「エヴァンゲリオン初号機、発進っ!!」  

                     第壱話 「使徒、襲来」 完。  

 


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ver.-1.00 1997-10/25 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは minato@cb.mbn.or.jpまで。

(後書き)
   どうも。いきなり大嘘つきのMinatoです。プロローグの後書きで予告したサブタイトルを変えて
   しまいました。幾つか理由は在るのですが、全部言い訳でしかないので書くのは止めときます。
   さて、しょっぱなからえらく長いものになってしまいましたが、いかがだったでしょうか?
   私自身、かなり楽しみながら書くことができたので、皆さんにも楽しんでもらえると嬉しいのですが・・・
   私はエヴァのSSを書くのは初めてなので、まだまだ右も左も解らない状態で文字どうり右往左往
   しております。そこで、読んでくださった皆さんのの忌憚ないご意見、ご要望をお待ちしております。
   話の本筋や、私の趣味に反しないかぎり、出来る限り取り入れさせていただきます。
   では、第弐話でまたお会いしましょう。  



 Minatoさんの『真創世記エヴァンゲリオン』第壱話、公開です。
 
 ストーリの流れはほぼ原作通りですが、
 シンジの感じる事・考える事、
 科学用語などに違いが有るんですね。
 
 EVAの中だけでなく、
 使徒にも触れる心。
 [アストラル]・・
 この辺りがキーなのかな?
 
 さあ、訪問者の皆さん。
 始まったばかりのMinatoさんをメールで支えましょう!


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