TOP 】 / 【 めぞん 】 / [Kei]の部屋に戻る/ NEXT



 シンジを前にして、アスカはどうにか自分を鼓舞していた。今までの彼女の
知るシンジとあまりにかけ離れた雰囲気を持つ彼を前に、アスカは萎縮してい
る事を自覚していたのだ。
 だが同時に、シンジの言葉に引っ掛かりを感じた。
「あんた、今ファーストが生きてるって、言ったじゃないの! どうしてそれ
が今度はあんたが『殺した』って事になるのよ!?」
 アスカの言葉にシンジは俯く。そして再び顔を上げた時、そこには優しい笑
みが浮かんでいた。優しい、そして悲しい笑み。
「その体は死んでいるよ。でも、『綾波レイ』そのものは今も生きているんだ。
再生する時を待ってね」
「…何よ、それ」
「僕の中で眠り続けているんだ。彼女は」
 シンジの左手がもう一度、レイの身体が眠るシリンダーに優しく触れた。



『DEATH or REBIRTH?』
第3話『罪科』



 絶望はそこにあった。
 上空を埋め尽くしているのは光り輝く天使達。
 人間の罪科を咎めるべく、天より舞い下りる断罪者。
 空を見上げる者は全員が頭を垂れ、己が罪を悔い悔恨の涙を流す。
 Nervすら対抗する術を持たぬ相手に、ただの軍隊が敵う筈も無い。世界
は終末を待つのみだった筈である。



 セントラルドグマ、ヘブンズドア内。アダムの磔られていた場所には現在、
崩れ去ったアダムの残骸とLCL。そして綾波レイと碇シンジだけが存在して
いた。
「……碇君」
 ずっと無言のままでいたレイが不意にシンジの名を呼んだ。
「何? 綾波」
「私の事……好き?」
「え?」
 シンジはレイの言葉の意味と、内容が把握できなかった。今までのレイは、
そんな事を気にしているなど微塵も感じさせなかったのだから。いや、そもそ
もそんな事を知っているのかすら、分からなかった。
 そしてその意味を理解した時、シンジは頬を紅潮させてしまった。
「綾波…? 急に何を…」
「もうすぐヒトは滅びるわ。でも、あなた一人だけなら、私は守ってみせる。
絶対に」
 レイが振り返る。紅の瞳には、真摯な、そして悲しい色が浮かんでいた。二
つの紅玉がじっとシンジを見つめている。必死に。
 それはまるで、失われそうな何かを必死に繋ぎ止めようとするかのように。
「綾波」
「私の命の全てで、あなたを守るから。だから、だから…!」
 シンジの胸にしがみ付き、レイは俯いてそう告げた。肩が震えるのを、シン
ジは半ば呆然と見つめていた。
「綾波…? あれが何なのか知っているの?」
 シンジが見上げながら、そう尋ねた。
 地上で初号機を失った時、シンジも見たのだ。ANGELを。
「…使徒の上位に位置する、破壊兵器よ…」
「兵器…?」
「私の体も、ANGELを基礎にして……『造られた』わ。だから分かるの。
あれは、ヒトがどう足掻こうとも決して覆す事の出来ない絶望なのよ」
「綾波が…造られた…?」
「そうよ。造られた身体。引き出されたリリスの魂。そしてその集合体が私。
故に私に死はなく、消滅のみが私に許された安息。でも……」
 ぐっとシンジの服を掴むレイの指が震える。
「あなたは私を見つけてくれた…。私の、偽り無い魂を…」
 揺れる言葉。零れる涙。それはレイのヒトとしての始まりだったのかも知れ
ない。
「綾波…」
 シンジは言葉なく、ただレイの肩を抱くしか無かった。



「私を愛しているのなら…」
 綾波の声が、何も無い地下に虚ろに響く。
「私と一緒にいましょう? 私と永遠に…」
 ゆっくりと、彼女が近づいてくる。そして、重なり合う。
 それはシンジにとって初めての愛しい人とのキス。
「…そう。永遠に……誰にも邪魔されずに…」
 彼女の言葉が頭の中で反響する。まるで夢でも見ているかのように、考えが
まとまらない。
「……何もかも忘れて、私と永遠に…」
 忘れて…何もかも…。
 この苦しみも、この悲しみも?
 そして、あの大切な人達の事も?
 それは…。
 その瞬間、僕は綾波の体を引き離していた。
「…どうして?」
 彼女の心底驚いた顔。
「どうして…私と永遠に一つでいたくないの?」
 彼女の言葉に僕は首を横に振った。
「…一緒にいたいよ。でも僕は、みんなと『生きて』、そして君と一緒にいた
いんだ」
 俯いた綾波の肩が震えている。
 僕が一歩、彼女に近付く。と、突然、綾波の手が僕の左腕を掴んだ。
 激痛が走る。
「痛っ!」
 ゆっくりと何かが僕の腕に広がっていく。
「綾波…」
「なら…私と一つに……」
 侵食。
 ゆっくりと広がる『ANGEL』の組織は、僕の腕を覆い始めていた。
「綾波!」
「…私の物にならないのなら……私と同じ物になれば良いのよ」
 そこにいる彼女は、紅の瞳を爛々と輝かせ、そう呟いていた。
「綾波!!」
 僕の叫びも聞こえないかのように、侵食は広がって行く。
 激しい痛みに、僕の意識は朦朧とし始めていた。いや、もしかしたら侵食に
よる物だったのかも知れない。
 右手がゆっくりと上がり、綾波の白い首に手が触れる。
「あ…や…な…み」
 僕がもう一度、彼女の名を呼んだ。その瞬間、綾波の瞳から涙が一筋、こぼ
れ落ちた。


 零れた涙が彼女の紅の瞳に宿った光を消した。
「私を殺して」
 綾波レイが呟く。
「早く。このままじゃ、あなたが…」
「駄目だよ!」
「もう、『私』には止められない!」
「いやだ!! 綾波を殺すなんて…また好きだと言ってくれた人を、好きな人
をまた殺すなんて絶対に嫌だ!!」
「私を愛しているのなら、私を殺して!! もうすぐ『私』の意識は消えてし
まう。『ANGEL』の意識だけがこの身体に残るの。それはもう、私じゃ無
い…」
 レイがそう叫ぶ。
「そんなの嫌なの…。私の姿をした、私以外の誰かがあなたを殺すなんて…そ
んなの絶対に嫌!!!」
 そう叫び、涙を流すレイをシンジは呆然と見続けていた。
「だからお願い…私を殺して……早く。私が私でいる間に!」
 おずおずと、碇シンジの右手に力が込められる。
 圧搾する。
 それと同じく、シンジの左腕は侵食を受け続けていた。
 綾波レイは無抵抗のままで、碇シンジにされるままに。
 そして。
 震える綾波レイの手がだらりと落ち、事切れた。
 それと同時に侵食が止まる。
 それは、あまりにあっさりとした、人類の破滅の回避だった。
 ANGEL達がそれと同時にこの世界への影響力を失った事に、シンジは気
付いていた。
 全てを統率するのは、綾波レイの身体に宿る筈のANGELだったのだ。
 そしてそれが出現する前に綾波レイは死んだ。
 ANGEL達が墜落する。
 堕ちた天使達が起き上がる事も、再び空を舞う事も無かった。



*** *** ***



 左腕が痛む。
 まるで、一気に飲み込まれ、再生され、そしてまったく別の物に変化してい
くかの様に。
「…綾波」
 だが今は、腕の痛みよりも心の方が痛かった。
 また殺したのだ。
 またこの手で。
 今度こそ、自分自身の手で。
 好きになった人を。
 好きだと言ってくれた人を。

 ドクン!

 レイの身体から、音が聞こえる。

 ドクン!!

 心音のような、力強い何か。

 ドクン!!!

 最後の巨大な脈動と同時に、LCLがはじけ飛んだ。

 レイの身体が起き上がる。
 俯いた顔の表情は見えない。だがゆらりと、レイは起き上がった。
「綾波!」
 シンジが喜色を浮かべてそう叫んだ。
 だが、レイの身体はその声に何の反応も示さない。
 ただゆったりと立ち上がる。
「綾波!!」
 顔があがる。
 変わらない美しい顔。変わらない美しい紅の瞳。
 だが、その口元に彩られた邪悪な笑みが、それを全て打ち消した。
「Glyuruhahahahalaaaaallaha!!!!!!」
 意味も分からない、理解出来ない声が上がる。
 レイの口から。
「綾波!!」
 紅の瞳は失われていた。そこにあるのは暗い、暗赤色の瞳。
「Gyulluaaa!!!!」
 めりめりとレイの背中の皮膚が破れていく。内側から。
 そして背から生えてきたのは翼だった。
 血にぬれた、鮮紅色の翼。
「綾波ぃ!!!!!」
 そしてレイはシンジを認識した。



 叫びがあがる。
 それは『彼女』の周囲にある全てを砕いた。
 そしてその『波』は、シンジに向かい、そして届いた。
 今度こそ彼は死を覚悟していた。
 そしてそれはある意味、彼の望みでもあった。
 自分が生きる資格は無い。
 殺されるのなら、それも良いだろう。
 目を閉じ、そしてその『時』を待った。
 だが、その時はいつまで待っても来なかった。
 目を開いた彼の前には、巨大な壁が出来上がっていた。
 そしてその壁は、彼の左肩から伸びていた。
「これは…?」
 ぐいっと、壁が動く。それは一瞬で収縮し鋭い槍となる。
 そして瞬間。
 槍は続けざまにレイを襲う。
 その全てを『レイ』は回避していた。LCLが飛び散る。その中をレイと、
それを追う『槍』だけが虚空を飛び交う。
「身体が………綾波!!」
 動かない体。シンジの意志を無視し、左腕だけがレイを狙って動き続けてい
た。
「Guluuuuuuuuaahhhhh!!!」
 レイが寸前動きを止め、そしてシンジに向かって腕を向けた。掌に露出する
レンズのような物。それは淡く光り輝く。
 そして閃光。
 光の槍がシンジの左胸を狙って放出された。
「綾波!!!!」
 シンジは目を閉じた。
 空気が動く。
 左腕から硬質化した鎧がシンジの全身を覆っていた。そしてそれはシンジの、
人間の身体に出来る以上の反応速度で光の槍を回避していた。
 そこにシンジの意志は存在していない。
 それはまるで左腕に宿る独自の意志が、身体を動かしているかのようだった。
「止めろ!!!!」
 全身を覆った鎧からレンズのような物が露出する。
 それは光を宿し、そして放出した。
 原理は分からない。だがそれが綾波レイの姿をしたANGELの使った光の
槍と同じ物だと言う事は理解できた。
 急激な喪失感。生命の源泉を流出させているかのような感覚。
 レイの正面の空間が歪む。
 光の槍はそこで屈折し、地面へと散乱した。LCLが一瞬で蒸発し、蒸気が
立ち上る。
「Gulururururururur」
 うなり声を上げるANGEL。
 シンジの思い通りには動かない体は、今正確にレイへと刃を向けていた。
 互いに向き合い、そして歩を進める。
 そして、交叉する。
 『槍』はレイの胸を貫いていた。
 レイの腕はシンジの胸を貫いていた。
 苦痛が広がる。だがシンジの意志を介在させずに、腕は動いていた。
 ANGELが苦悶する。だが『左腕』は躊躇する事無く、ANGELの身体
を貫いた。
 その先に巨大な球状の物体を掴んで。
 ギリギリと力が加わる。
 ビシッ、とひびが入る。極限まで耐え抜いた物体はそのひびによって一気に
その耐久力の限界を超えた。
 砕け散る。
 『それ』が『コア』だとシンジは理解できた。それが綾波レイの身体にあっ
た事も、そしてそれをシンジが砕いた事も。
「や…やめろ………やめろぉおぉぉぉ!!!!!!!!!」
 絶叫が響く。だが、シンジの目の前で砕けたコアが散らばっていく。
 それはひどくスローモーションに見えた。



 ピチャン。
 何処かで水滴が落ちる。
 LCLが満たされた広大な場所。
 セントラルドグマ。
 碇シンジはぼんやりとLCLの海に立ち尽くしていた。
 ピチャン。
 もう一度、水滴が落ちる。
 彼の眼前には少女の身体が浮かんでいた。
 背に翼を持つ少女。
 綾波レイ。
 だがその身体には温もりは残っていない。
 胸に穿たれた巨大な穴が、それを視覚的に示していた。
「…あやなみ…」
 そう呟く。
 左腕は既に人のものと寸分変わり無くなっており、今までの死闘を示すもの
は彼女の身体だけとなっていた。
「………あやなみ…」
 言葉だけが何度も紡がれる。だが、そこに倒れた彼女の身体が再び起き上が
る事は無い。
 それは、シンジにもよく理解できていた。
 コアを砕いたのだ。生きている筈も無い。
 そしてシンジはぼんやりと歩き出した。
 背を向け、ゆっくりとLCLの中を歩く。彼がそこを出た時、ヘブンズドア
は閉じていった。
 そして轟音。
 二度と、掘り起こす事も出来ないほどにそこは崩れ落ちたのだった。



「………シンジ君。あなたの身体は100%、人間の遺伝子情報を持っている
わ」
 マヤが分析結果が表示されているモニタを見ながらそう告げた。しかしその
口調には何処か不審気な処がある。
「ただ、一つだけ変な所があるのよ」
「…変な所?」
「ええ。あなたの胸に異物が存在するわ。非常に小さく、おまけに金属探知器
でもX線でも反応は微弱にしか取れない……」
 マヤがその反応結果から類推できる物体を口にする。
「まるで、使徒のコアのような物体よ」
「…でもマヤさん。この左腕は、決して人間の物ではありませんよ」
「え?」
 マヤがモニタに目を移した瞬間、シンジは左腕を変化させた。
 槍に。
「…あなた……それ……」
「僕の身体の遺伝子情報を巧妙にエミュレートしているみたいですね。一瞬で
分子配列を変化できるみたいです」
 自嘲するように、シンジは微笑んでいた。
「……僕が綾波を殺せたのは、これのお陰ですよ」
「シンジ君!」
「僕は一体、何になったんでしょうね」
 フフっと笑い、シンジは左腕を元に戻す。
「確かなのは、綾波と同じ物になったって事だけですか?」
 その目には幾分かの怒りがある。
 『綾波レイ』を創り出した赤木リツコと、その部下への。
「…私も、彼女の事は良く知らなかったわ…」
「でも、今なら知る事が出来るでしょう? MAGIのプロテクト、今のあな
たなら外せる筈です」
 シンジがマヤの耳元に囁きかける。
「…何を、考えているの…」
「……別に。真実を知りたいと思うのが、そんなに変ですか?」
 シンジの口元に笑みが浮かぶ。
「…真実?」
「ええ、真実です」
 その瞳には、以前のオドオドした光はまったく存在していない。
「シンジ君…あなた…まるで人が変わったみたいね…」
 マヤが別の何かを見るような表情で、シンジを見上げる。
「そうでしょうね、変わりましたよ。いえ、変わらざるを得なかったんです」
 シンジが苛烈な色を瞳に浮かべる。
「殺すとはそういう事です。後方にいたあなた方には決して理解出来ない事で
すよ」
 マヤが顔を背ける。
 かつて彼女の同僚であった日向がシンジに言った事がある。
「しかし、ああする他無かったんだ」、と。
 それはシンジの友人を乗せたエヴァを、ダミープラグで持って破壊した時の
台詞だ。
 怒り、初号機に閉じこもったシンジを宥めようと言った言葉だ。
 しかし、彼らは決して自らの手が血で汚れるという発想は無かったろう。だ
からこそ、ああ言えたのだ。
 それが子供の論理だという事も分かっている。
 確かに、誰かがやらなければならない。そしてそれが出来たのが彼だけだと
言う事は理解している。
 それでも、人が人を殺すという事は、そんな簡単な事では無いのだ。
 肉を断つ感触。殺人という禁忌。
 それを体験した者は、その方向性は別れるとは言うものの『変わる』のだ。
 それを快楽と思う者。
 それを唾棄すべき禁忌と思い、その罪科に脅える者。
 そう感じる事、全てを放棄する者。
 ましてや、それが赤の他人ならばまだしも、自らと深く繋がりのある者なら
ば。
 シンジは変わった。
 変わろうと強く願った。
 でなければ、彼女の最後の絶叫は意味を為さないではないか。
 シンジが生きる為に、自分を殺せと叫んだ彼女。
「アスカも落ち着いてきたようですし、そろそろ僕らはお役御免ですね」
 シンジが唐突に話題を変えた。
「あなた達エヴァのパイロットには監視が付くわ。今でも、あなた達は特A級
の重要人物なのよ」
「…少なくとも、僕には無用ですよ」
 シンジがそう呟く。
「ミサトさんにそう言っておいて下さい。無駄に人員を減らしたくなければ、
これ以上僕に妙な人たちを付けないで下さいって」
「…どういう意味?」
「僕はまだ『左腕』をコントロールしきれません。出来るのかも分からない。
今は変形を僕の意志で制御できるようですが、人の意志は容易く暴走します。
……それだけですよ」
 そっけなく告げる言葉だが、その真意は非常に危険であった。
 つまり、一度激情に駆られれば彼自身が破滅の使者と成り得ると言っている
のだ。
「…分かったわ。そう上申してみる」
 マヤの言葉にシンジが優しく微笑んだ。





「……碇シンジ。君を拘束する」
 ダークスーツの男達がシンジを包囲していた。
「あ、あなた達、一体誰の命令でこんな事…!!」
 その影からマヤの必死な声が聞こえる。だが男達は表情を凍り付かせ、決し
て彼女に答えようとはしない。
「…誰の差し金です。Nervの施設内でこれ程堂々と活動するなんて」
「ゼーレ」
 男が短く、ただ一言だけ呟く。だがそれだけで十分だった。シンジには。
「そう…。まだあの老人達は懲りていないんだ……まだ、自分達が神になる幻
想に取り憑かれている……」
 シンジの瞳に怒りが宿る。
「…隊長。素体を確保しました」
「来てもらおうか」
 男の言葉にシンジは軽く頷いた。




「これが、神と接触した少年か?」
「ふん、碇の息子というのが気に食わんが……調査はしたのか」
「…はい。100%、人間の遺伝子情報を保持しています」
「…では、やはり一からやり直しか?」
「弐号機はどうだ。まだ使えるだろう」
「…楔が失われています」
「そのような物、何度でも試せば良いだけの事だ。成功例があるのだ。不可能
な訳では無い」
 中心に座るバイザーの男がそう答える。
「……あのような者達に任せなければならないのは業腹だが……」
「死海文書が予言した事実は、あなた方の理解した物とは大幅に違った筈で
す」
 それまで黙したまま、ただ老人達の会話を聞いていたシンジが不意に口を開
いた。
「それでもまだ、幻想を捨てられないんですか?」
「あれはイレギュラーな事だよ」
「我々が長年かけて解読し、解釈したのだ。間違っている筈が無かろう」
 さも当然の如く答える老人に、シンジが苛立った表情を浮かべる。それはと
ても珍しい状態だった。
「先程、楔と言いましたね。…それはエヴァに使用されたコアの事、ですか」
「より正確にはそのコアに打ち込む物だな」
 何でも無さそうに、事実何とも思っていないのだろうが、老人の一人が答え
る。
 シンジの瞳には苛立ちの輝きが、より強く瞬いていた。
「あなた方は……自分達が決して間違いを犯さないとでも思っているんです
か」
「当たり前だな。我々は決して間違いなど犯さない」
 キールの言葉。
「さて、君には我々に協力してもらわねばならん」
 不意に話を変え、キールはシンジを見上げた。
「協力?」
「『これ』を再起動させてもらいたい」
 キールの背後のシャッターが開く。そしてそこには一人の人影が浮かんでい
た。
「……綾………波………」
 シンジが言葉を失う。そこには確かに、『綾波レイの身体』がLCLの中に
漂っていた。
「……これと最後に接触した君になら、出来るかも知れん。やってくれるな?」
 その言葉はまるで、シンジが拒絶することなど有り得ない、いや、自分の言
葉を拒否する人間がいるなどと考えたことも無い人間の声だった。
「あなた方は…彼女を蘇らせて何をするつもりなんです」
「補完計画の遂行だよ」
「神になる。今度こそな」
「選ばれたる優良種の我らこそ、世界の覇者に相応しい。君にもそれなりの地
位を与えよう」
 度を越した優越感と差別意識。
 人を越えようとし、最も人の醜い部分を集約した存在。それがゼーレ。
 シンジは拒絶した。
 心の底から。
 そして、彼らと同じ人である己すらも。



 コワレル?
 コワレテシマエ。
 コワセ!



 背に激痛が走る。
 朦朧とした意識の中で、心の底で囁く誰かがいる。
 体中から何かが溢れ出しそうな感覚。
 巨大な力。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
 絶叫がシンジの口から迸った。




第4話へ続く



NEXT
ver.-1.00 1998+2/27公開
ご意見・ご感想、誤字脱字情報は tk-ken@pop17.odn.ne.jp まで!!

ども、本当にお久しぶりのKeiです。色々と忙しくて、無茶苦茶、間が空いてしまいました。
で、今回さらに引いてしまいました(笑)
次回にてお会いしましょう。それでは今回はこの辺りで。

1998.2.25 Kei



 Keiさんの『DEATH or REBIRTH?』第3話、公開です。



 戦闘シーン、格好良い!

 ・・なんて言っちゃいけないですよね。



 自らの意志に反した殺し合い。
  シンジ、キッツイですよね・・

   「反した」と言い切っちゃうのもいけないか・・


 かわった、あと、ね、、、つらいやね・・



 この後にあったことも重いんでしょうか。
 続き気になる〜




 さあ、訪問者の皆さん。
 あなたの感想メールでKeiさんをせかしましょう!(笑)


TOP 】 / 【 めぞん 】 / [Kei]の部屋に戻る