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シンジがチェロの弓を弾き始める。
深みのある低音が響き渡り、ゆったりしたリズムで曲の前奏が奏でられる。
すべて開け放たれた窓から、曲の始まるのを待っていたように心地よい風が教室を通り抜けていく。
やがて前奏が終わると、シンジの右斜め前、横二列に立ち並んだ少年少女が唱い出した。
 

「卯〜の花〜のにおう垣根に〜ホ〜トトギ〜ス早も来鳴きて・・」
 

ここは音楽室。
シンジは今、声楽部の助っ人として自らのチェロの腕を披露していた。
と言うのも声楽部の中で楽器を弾ける者は、ピアノが出来るのが二、三人ほどいるだけだったのだ。
やはり声楽部と言っても楽器の伴奏が欲しい場合もある。
さらに贅沢を言えば楽器のバリエーションは多いほうが良いというわけだ。
そこで時々シンジにお声がかかる事になる。
今シンジが演奏している曲は、一年生の頃からの彼と声楽部の定番となっていた。
 

「・・・夏〜は〜来〜ぬ〜」

間奏に入り再びシンジの独奏となる。
 

(たしかにこの曲にチェロは合ってるわね・・・・)

頬杖をついてシンジの奏でるチェロの音色に聞き入りながら、アスカは思う。
普段の練習には存在しない『観客』というものが、教室の最後尾の机に陣取っていた。
二人がけの机が横三列・・・真ん中の机にアスカとヒカリ、その右隣の席にレイ、の三人だ。

その声質にあどけなさの残る中学生達の歌声とチェロの低音とが微妙なバランスで混じり合い、快いハーモニーとなって観客の耳に伝えられる。

「・・・・夏〜は〜来〜ぬ〜〜」
 

合唱が終わりチェロを弾く弓がとまった。

ぱちぱちぱちぱち・・・・・
 
三人分の拍手が鳴り響いた。
先頭をきってレイが喋り始める。

「やー、よかったねー、卯の花!」

「またボケて!あれは夏は来ぬって歌よ!!」

「ふ〜ん、なんで夏は絹なんだろ?絹ってカイコの糸で織った布・・」

「ちが〜う!来日の来にひらがなのぬで来ぬよ〜!!」

アスカがレイにがなりたてている間に二列に並んだ声楽部員の前列の真ん中に立ってた少女がシンジの方に駆け寄った。

「ご苦労様〜、シンジ君」

ぴくっ

その声にアスカの耳が反応する。
レイから声の主に顔を向けた。

「ホントに助かるわあ、シンジ君がいてくれて・・・シンジ君のチェロがなかったらこの歌はうちのレパートリーに入らなかったでしょうね!」

「そ、そんなことないよ・・・」

テレるシンジに遠慮なく最高の笑顔をたたみかける少女・・・・・
茶色いショートヘアが夏の匂いを送り込む風に微かにゆれていた。

アスカの顔に警戒の色が浮かび、刺すような視線を二人にあびせる。
相手にされなくなったレイがアスカの様子をうかがう。

「どーしたの〜アスカ?」

「なんでもないわよ!」

アスカの目から見れば、シンジと親しげに話してるその少女は単にまとわり付いてるだけにしか見えない。

「シンジ君のチェロがすばらしいから、みんなが引き込まれて実力以上のものが出せるのよ。シンジ君のおかげよ、本当にありがとう!」

「そ、そんなことないよ・・・」
 
(何同じセリフ繰り返してんのよ!)

アスカは心の中でシンジに突っ込むと席から立ち上がった。
ぴょこんとレイが続き、さらに弱ったなあという表情でヒカリが立った。

「これからもよろしくお願いね、シンジ君!」

シンジの手を取って握手をする。

「こ、こちらこそ・・・・・・・マナ、・・・」

ぴしっ

ぎこちなく握手に応じるシンジを見てアスカの片眉がひきつった。
もっともアスカにとっては握手より、シンジが彼女をマナと呼んだという事のほうが重要だった。

(自信なさそうに呼び捨てにするくらいなら呼ぶなってのよ!だいたい、マナもシンジに無理矢理呼び捨てで呼ばせてどーいうつもりよ!)
 

霧島マナ・・・・声楽部員・・・・元々シンジに自分の部活動の助っ人をして欲しいと口説いたのは彼女であった。
一年生の頃、クラスも別でまるで面識のないシンジの前に来ていきなり頼み込んだのだ。
マナのあまりの熱心さに結局OKしたシンジだったが、隣にいたアスカは当然良い顔をしなかった。
チェロは口実でねらいはシンジそのものではないかと思ったからだ。
アスカから見ての話だが、以後それを裏付けるかのような行動をマナはとっている。
打ち合わせと称しファーストフードの店にシンジを引っ張りこんだり、(確かに打ち合わせだった)
声楽部の発表会が終わった後の打ち上げにシンジを引っ張りこんだり、(チェロ奏者なら当然だが)
要するに何だかんだとマナが理由をつけてシンジを引っ張りこんだり、とアスカが解釈した出来事が 両手の指に余るほどあるというわけだ。
マナのシンジに対する馴れ馴れしい振る舞いは、レイのそれとは全然別の意味でアスカを警戒させた。

アスカがシンジの前まで来た。
ジト眼をしてシンジに向かって何か言おうとしたとき、一瞬早くマナがアスカに喋りかけた。

「ただの練習なのにわざわざ聞きに来てくれてありがとうね。それに今日はもう一人お友達を連れて来てくれて・・・本当にうれしいわ!」

(むぐっ・・・・)

心底うれしそうなマナの笑顔を見てアスカは口元までせりあがった言葉を飲み込んでしまった。

「やっほー、綾波レイだよー、よろしくねー!マナちゃん」

「よろしくね、綾波さん」

マナはレイに挨拶した後さらにシンジに向かって、
 
「あ、シンジ君それじゃあ私は行かなくちゃいけないから」

他の部員達にも声をかける。

「ごめんなさ〜い、私、ちょっと抜けさせていただきまーす」

何人かの部員達の返事を聞くと、アスカの脇をすり抜けていくマナ。

(後手を踏んだか・・・いつもこうだ! )

シンジにまとわりつくマナに対し、何か言ってやろうとしたら何故かさらっとかわされ、スルリとどこかへ行ってしまう。
自分のペースに持って行く前に先手を打たれ、攻めるタイミングがはずされるのだ。
結果、言葉をつまらせたアスカのむくれ顔が残され、シンジが生け贄になるというパターンが繰り返されてきた。
アスカの背後でマナの声が聞こえる。

「ヒカリ、それじゃ行きましょ!」

「ええ・・・みんな、それじゃね」

アスカ達に一声かけるとヒカリはマナと共に音楽室を出て行った。
レイがそれを見送りながら、首を傾ける。

「?、ねー碇君、あの二人どこ行くの」

「ああ、あれは」

アスカのヘッドロックがレイに決まる!
レイの両目、両耳、両のこめかみがアスカの腕でふさがれる。

「生徒会に行くんだ・・・」
 

『生徒会』という言葉はレイの耳には届かなかった・・・・・
 



 

「わたし・・・・どうしてここにいるの・・・・なぜわたしなの・・・なぜあんなかたちなの・・・おとこはみんなそうなの?くく」

「マユミ!」

「はっ!・・・マナ」

「お待たせ、そろそろ始めましょ」

「えっ・・・ええ」

マユミは黒板の上の時計を見上げた。

(3時40分・・・・もうそんな時間になっていたの・・・)

物思いにふけると時間のたつのが早い・・・ごく最近の実感だ。
とにかく自分の仕事をやらねばならない。
生徒会長山岸マユミは起立した。

「それでは生徒会月例会議を行います」

ここは会議室である。
生徒会の活動は大抵ここで行われている。
今日は月に一度、各学年各クラスの委員長が集まりいくつかの議題について会議する日だったのだ。
縦長の折りたたみ机が長方形に並べられ、奥から1、2、3年の順に座っている。
手前の机にはマユミが座り、背後の黒板の前でマナがチョークで議題を書いていた。
マナは生徒会副会長なのだ。
マユミとマナはクラスも同じで親友同士でもあった。
たまたまだったが二人仲良く生徒会長と副会長に選ばれ、以来二人三脚で今日まで生徒会活動に携わってきた。
どちらかというと、おっとり型のマユミをマナが引っぱっていくパターンで。
ささっと議題を書き終えるとマナは声を張りあげた。

「それでは最初の議題に入ります」

本来はこの台詞はマユミのものだ。
なのにマナがかわりに言ったのには訳がある。
マユミの負担を少しでも減らそうという気遣いだ。
なぜ負担を減らそうと思ったかというと、最近マユミの様子がおかしいからだ。
さっきもそうだったが、なんだかよく判らない独り言をぶつぶつ呟いているのだ。
内容は、聞き取れないくらい小さな声なのでマナにもわからない。
しかも本人も気が付かないうちに、いつの間にか呟いているらしいため余計に始末が悪い。
この前に熱を出して三日間学校を休んだことと無関係ではないだろう。
マナは何度か理由をマユミに聞いてみたが、要領を得ない言葉が返ってくるだけだった。
マナは悩んだ・・・・親友の変調・・・原因も不明・・・・昨日までは!!

議題は大した事ないものばかりでサクサクとかたづき、4時をまわる頃には全部終わった。
マナが黒板から離れ、会議の内容を記録するマユミのノートパソコンのキーを打つ手が止まる。
ついでに言っとくと書記はいない。

「これで議題は全部終わりです・・・・・・」

マナの声にやれやれといった感じで立ち上がりかけるクラス委員の面々。
それを制する様にマナが叫んだ。

「最後に連絡があります!聞いてください!」

・・・・・?

普段と違うパターンだ。
何事かという顔で皆はマナを見た。

「これは以前からあった事ですが、わが校の女子生徒を勝手に写真に撮り、しかもそれを売買するという行為が横行しています。これは許される事ではありません!皆さん、そういう写真は絶対に売り買いしないよう、各クラスに連絡してください!」

ええ!?

この場にいる者の約半分が驚きの声をあげた。
なぜならクラス委員の約半分が男子だったからだ。
そして男子の全員が一度はその手の写真を買った経験があった。

女子では唯一、ヒカリだけが声をあげていた。
なぜなら自分のクラスにその写真を売っている者がいたから。
売る側の人間は学校には一人しかいない。
ヒカリは大いに慌てた。

(マナ!いったいどうして今頃になってそんな事を・・・・?)

当惑しながらマナに疑問の眼を向けるヒカリ・・・・
彼女にとっては厄介事が一つ増えてしまったわけだ。

マナはマユミを見ると促すように声をかけた。

「マユミ」

それにはっとして起立すると、マユミはいつも通りのセリフを口に出した。

「それでは、これで生徒会月例会議を終わります」
 
 

ざわめいた空気が尾を引くかたちで会議は終了した・・・・・
 



 

マナの小さな手に同じ位のサイズの写真がのっかっていた。
縦長のその写真にはまず下方に誰かの後頭部が写っていた。
髪の毛の長さからして女性のものらしい。
そして上方には男性の尻。
尻から脚が下に伸びており、左右に開かれていた。
なぜ男性のものと判るかというとその尻と脚はむき出しだったからだ。
しかも股間の部分にいかにもと言う感じのモザイクがほどこされており、いかがわしさを増していた。
さらに開かれた股の向こう側にはマナの良く知る人が写っていた。
その少女は上半身だけ起きた状態で、まるでムンクの叫びのようなポーズを取っていた。
しかも恐怖におののく彼女の表情は、掛け値なしにムンクを超えていた!
写真から少女の悲鳴が今にも聞こえてきそうだ。
なぜこのような状態に彼女が追い込まれたかは明白だった。
モザイクの部分・・・・・・!

「マユミ・・・・・」

マナは呟くと、写真をくしゃりと握り潰した!
握り潰した手がぶるぶると震える・・・・・
 

「相田ケンスケ!許さないわよ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

大ぼけエヴァ
 

第七話
 

下の写ったもの
 
 
 
 
 
 

 ケンスケは焦っていた。
別にHRでヒカリから生徒会の連絡事項を聞いたからではない。
もともと非合法?の商売なのだからそんな警告で販売停止するならとっくにそうしてる。
ある意味これは闇商売なのだ。
彼の焦る理由は最近になって、商品がさっぱり売れなくなっていたからだ。
入学直後から始めたこの商売、販売直後爆発的に売れたアスカやミサトの写真はその後もコンスタントに売れ続け、ケンスケの懐をうるおしてきた。
それを知ったアスカにリンチに近い制裁を加えられてもおつりが来るくらいに。
他にもめぼしい女子は全てカメラに納め、豊富な品ぞろえで客となる男子生徒を喜ばせた。
霧島マナや洞木ヒカリ、山岸マユミ、果ては赤木リツコやその母ナオコまで!
最近は転校直後の綾波レイの写真を売りにだしたが、これは短期勝負だった。
彼女の性格が知れ渡る前に売り切らねばならなかったのだ。
それが証拠にレイのいる自分のクラスは売れ行きが他よりかなり悪かった。
とにかくこれで一段落と思った時、突発的に激写した山岸マユミの写真が高値で売れたのだ。
買う者の数は少なかったものの、単価がかなりのものになったため儲けはすごかった。
要は露出狂に襲われる生徒会長という設定が一部マニアの購買意欲をそそったのだろう。
思わぬ臨時収入に調子にのったケンスケは、ローンを組んで最新鋭のビデオカメラを買ってしまったのだ。

が・・・・・・・

その後写真はさっぱり売れなかった。
その理由は主力商品のアスカやミサトの写真が完全に購買層に行き渡ってしまったからだ。
その他のものも似たり寄ったりだった。
需要と供給のバランスの崩壊である。
かと言って都合良く美少女の転校生や美人代理教師が来るわけでもない。
その間にもビデオカメラのローン返済日はどんどん迫ってきている。
親に相談するにはあまりに額が高すぎた。

(どうすればいいんだ!)

追い詰められたケンスケが、ある邪道なアイディアを思いつくのに時間はかからなかった。

(そうだ・・・もっと過激な写真なら・・・・・)

「おいケンスケ」

「はっ!トウジ」

「なにボーッとしてんねん」

我にかえったケンスケ・・・今は4時間目前の休憩時間・・・場所は男子便所。
二人は連れションで便器の前に立っていた。
いま放出してる最中なのだ。

「ボケッとしとったらはみ出てまうで!おお、そや5時間目の体育な、先生風邪で休みやと。自習やな、男子は。お前やったらこれくらいもう知っとるか」

「・・・・・・いや、知らなかった・・・」

なんとなくケンスケらしくない・・・・そう思いながらもトウジは意識を集中した。
はみ出ないように。

じょ〜・・・・・<----ケンスケ
じょ〜〜〜〜〜〜・・・・・<----トウジ

ケンスケは用をすませてふって収めてチャックを上げると、手を洗ってさっさと出て行ってしまった。

「お、おい待てや!わしまだやねんど、朝、サンガリアをガブ飲みしたのんが今になって・・・・」

トウジの声など聞こえていない。
ケンスケはひらめいたのだ。

(これは・・・・神が与えたもうたチャンスかもしれない!やるしかないだろう・・・)

彼の頭にはすでに具体的な計画が形を取り始めていたのだった。
そのための準備をしなければならない。
昼休みまでに・・・・・・
ケンスケは足早に教室へと歩いていった。
 
 
 

「あいつどないしたんや?おっと、おつりが!」

じょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「そういや朝起きて便所行き忘れとるわ」
 



 
 
(いったいどうやって成敗してやろうかしら)

昼休み、食事を終わったマナはマユミの仇をどうやって討とうか思案しながら歩いていた。
生徒会で女子生徒の写真の売買を取り締まるような発言をしたのは理由がある。
あんな発言をした位でケンスケが写真を売るのを止める筈がないとマナは考えていた。
生徒会の警告を無視するなら、その分ケンスケの立場は悪くなる。
そのうえで写真を売っているか、撮っている現場を押さえた上で吊るし上げる事が出来れば・・・・
残された問題はどうやって現場を押さえるかだ。

(う〜ん、ヒカリやアスカに頼んでみようかしら?でもヒカリはともかくアスカは・・・なんとなく頼みにくいなぁ・・・)

廊下の突き当たりを曲がりマナは校庭に出る、と真上から降り注ぐ初夏の日射し。
一瞬まぶしさに眼をくらませ、手で日光を遮る。
徐々に光に眼が慣れると手を下ろして前を見た。
真っ先に焦点が合ったのは校庭の一番向こう側、体育館の手前。
そこにマナは一人の男子生徒が歩いているのを発見した。
彼は体育館を横切ると裏庭へと向かっていく。
今、彼女がもっとも怒りをおぼえる人間。

「相田・・・ケンスケ!」

小さくてわかりにくいが、彼は手にビデオカメラらしき物を携えている。
絵に描いた様な偶然がマナの視線の彼方に転がっていた。
もちろんこの機会を逃す気はマナにはない。
マナはケンスケに視線を釘付けにしながら校庭を駆け出した。

(マユミ、敵をとってあげるからね!)
 
 



 

運動場から裏庭に入ったケンスケは校舎に面した側にそって歩いていく。
花壇を通り過ぎ男子更衣室の前をすりぬけ校舎からの出入り口をこえると目的の場所にたどり着いた。
立ち止まるとケンスケは校舎の側に向き直った。
そこには大きなアルミサッシの窓が3m程の幅で4枚並んでいた。
窓の内側には直射日光にさらされて色褪せたクリーム地に林檎模様のカーテンがひかれ、中の様子を伺うことを拒絶していた。
周りを用心深く見回した後、再び窓に目を向けたケンスケの顔に緊張の汗が流れる。

(女子更衣室・・・・・やらねばならぬのか・・・)

ケンスケは手に持ったデジタルビデオカメラを見た。
手のひらサイズ、S-DVD二枚同時収納可能、24時間連続使用可能、高品位モニター液晶画面、ズーム機能、赤外線暗視機能、プリクラ機能、なんたらかんたら・・・・・・・
これのために借金ができたしまったのだ。
ケンスケはポケットから折り畳まれたケーブルを取り出した。
ケーブルの片端のジャックの部分をカメラのレンズの横にあるジャックと同じ八角形の穴に接続する。
折り畳んだケーブルをのばしていくと、5mの長さになる。
太さは数mm程度、目立ちにくい土色をしている。
ケーブルのもう片端を持つとケンスケは窓に近づき、調べ始めた。

がたがた・・・

ケンスケが右端の窓を揺すると窓枠の上辺に僅かな隙間ができる。

(やはり・・・・俺の情報は確かだった・・・・)

女子更衣室の右端の窓が最近がたがたずれて開かなくなったという情報をケンスケは仕入れていたのだ。
しかし何でそんな情報仕入れたのか?
とにかくそれが今のケンスケには役に立つ情報だったのは確かだ。

(よし、それでは・・・)

窓によじ登るとケンスケは窓の隙間にケーブルの先端を差し込んだ。
10cm程入れると窓から降りてカメラの電源を入れ、モニター画面を開いた。
画面に映ったものは・・・・

「よし!」

そこにはロッカーが立ち並んだ薄暗い誰もいない室内が、上方から見下ろす形で写し出されていた。
さっきケンスケが差し込んだケーブルの先端には超小形カメラ(D-BAカメラ)が付いていたのだ。
このデジカメならではの特殊機能でケンスケがこの機種を買う動機にもなったものだ。

(買ったかいがあった・・・・)

買わなきゃこんないかがわしい事する必要なかったと思われるのだが。
というか、いかがわしい事する気でないとこんな機能付きの物買わないのでは・・・?
ケンスケは興奮に震える指でカメラの右脇にあるコントロールレバーをつまんだ。
ゲーム機器などに付いていそうなのを小さくした様な形だ。
レバーを動かす、と・・・・モニターの映像が室内をなめ回す様に移動していった。
D-BAカメラの先端からケーブルの数cmまでの部分はレバーに連動して前後左右に曲がり、カメラの角度を調節できるのだ。

(よし・・・準備はできた。後は女子が着替えに来るのを待つだけだ。制服の下の写ったものをモノにすれば高く売れる!ローンの返済どころか大金がフトコロに・・・ふふふっふ)

ケンスケの顔が狂気に満ちた笑いにゆがむ。
借金に追い詰められた彼の精神は、本人も知らないうちに危ない領域まで踏み込んでいたのだ。

(ふっふっふ、さて適当な場所を探して隠れるか)

窓の前ではカーテン越しでも見つかってしまう。
5mのケーブルがここで役に立つ。
ケーブルの長さの範囲でケンスケは身を隠す場所を求めてあたりを見回した。
ケンスケの目に、高さ2、3mの木が1m間隔程で縦横数mの正方形の土地に立ち並んでいるのが止まった。
なんとなく畑という感じがする。

(ここだ!)

ケンスケが立ち並んだ木々の間に入り込もうとしたその時!

「だめ!はいっちゃ!!」

「わっ」

突如入ろうとした畑の側から声が響き、ケンスケは仰天して立ち止まった。
自分以外に人がいたなんて!
畑の中で丸まっている白いかたまりが立ち上がり、金髪をかきあげた。

「・・・・・リツコ・・・先生!?」

「あ〜ら、ケンスケ君こんなところでなにしてるの?」
 
白衣姿のリツコが畑から出てきた。
片手に得体の知れない袋を持って。
何をしていたのか知らないが、今のリツコには危ない雰囲気が発散されている。
うろたえるケンスケの手に持たれたカメラにリツコは気付いた。

「まあ、何か撮影してたの?」

「はっ、いやそれは・・・・」

口ごもりながらなんとかごまかす手段を考えるケンスケだが、混乱する彼の頭脳は真っ白なままで何も浮かんでこない。
リツコの好奇の視線がケンスケをさらに追い詰めていく。

ぴ〜ひょろろ〜〜・・・・

その時頭上でここら辺では良く聞く鳴き声が・・・・
反射的にケンスケはカメラを鳴き声の方にかまえた。

「い、いや実は鳶を撮影して欲しいと、日本野鳥の会に所属している父に頼まれて・・・」

「あらあなたのお父さんが野鳥の会に。初耳だわ」

「ええ、紅白にも出ましたから。はっはっは」

「でもモニターに映ってるの、全然違う映像よ」

「え?!」

そう、モニターはまだ女子更衣室を映していたのだ。
当たり前の事だが。

「どこが映ってるのかしら・・・?」

「あ、こ、こ、これは・・・しまったビデオが再生になっていた!な、なにやってんだろう、オレ。あはははは・・・・」

空虚な笑いでごまかしつつ、リツコに隠す様にしてこそっとケーブルをカメラから引き抜き地面に落とすケンスケ。

「こ、これで録画モードだ。よし、今度こそバッチリ鳶を・・」

「あら、このコードは何かしら・・・?」

リツコが地面に落ちたケーブルを見つけた。

「あ、これは・・・じ、充電用のケーブルです、さっきまで充電してたもんで・・・」

意味不明の言い訳を口走るケンスケは、なんとかケーブルから話をそらそうとリツコに質問した。

「あ、あのリツコ先生は何をしてるんですか?」

「ああ、桑畑に肥料をやろうとしてたのよ。私の作ったこの特製肥料をね・・・」

リツコは手に持つ袋に目をやる。

「そうだ、まだ途中だったわ、早く終わらせなきゃ!ふふふふ・・・」

無気味に笑うとリツコは再び桑畑に戻っていった。
木と木の間を行き来しながら袋から毒々しい色の粉をまいていく。
さらに畑に置いてあったクワを手にとると肥料を土と混ぜ始めた。
ケンスケはリツコの怪し気な行動を寒気を感じながら観察していた。

(早く終わらせてくれ!時間が・・・・)

五時間目まであと20分・・・女子が更衣室に来るまでにリツコにここから立ち去ってもらわねば!
だがリツコを急かすわけにもいかず、ケンスケはただ彼女の作業をながめているしかなかった。

(ああ、何で昼休みに理科教師の畑仕事見てにゃならんのだ!俺はこんな事してる場合じゃ・・・)

ケンスケは知らなかった。
もう一人理科教師の畑仕事をじっと見守っていた者がいたことを・・・・
 
 



 

校庭から裏庭に続く短い通路。
その角から身を隠しながら裏庭の様子を覗く人影。
彼女の視線は桑畑を耕すリツコの姿に釘付けになっていた。
心配そうに表情を曇らせ、知らず知らずのうちにリツコの一挙手一投足に合わせて自らの体をせわしなく動かしている。

(ああ・・・リツコ、あなたは何をしようとしているの・・・・?)

いったい何度この場所で同じ疑問を投げかけた事だろうか・・・・・・・
彼女こそ第3新東京市立第壱中学校教頭であり、リツコの母である赤木ナオコその人であった。
 
元々リツコを理科教師としてこの学校に引き入れたのはナオコだった。
自分が以前務めていたコネで(株)ネルフ研究所に大学院を出たリツコを就職させたはいいが、たった一年で娘は母にも相談せずに研究所を退職してしまった。
理由は自分のやりたい研究をしたい、との事だったが何を研究したいのか娘は母にも固く口を閉ざしていた。
その後、職にもつかずにブラブラしているわが子を、丁度自分が教頭に出世して理科教師に空きができる事にかこつけてこの学校に放り込んだのだ。
そこまでは良かった。
問題が起きたのはナオコがリツコに理科準備室を案内した時の事だ。
初めて入った理科準備室の中の有り様を見て、リツコは叫んだのだ。

「母さん、ここで一体何をやってたの?!」

ナオコも機材の豊富にそろった[実検]という行為をしでかすのに打ってつけのこの場所を、私物化していたのだった。

(誘惑に勝てなかったのね・・・)

結局リツコは理科準備室ではそういう事をしてもいいのだと思い込み、得体の知れぬ研究を勢を出しているようだ。
二代目理科室のマッドサイエンティストが誕生してしまった訳だ。
しかしかつて自分がやってた事だとしても、娘の行動が心配になるのが親の業というものだ。
それにリツコのしている研究は、自分の頃よりえげつないものではないかという気がしてならない。
母として、科学者として、女としての勘であった。
大体自分のしてた研究はバイオテクノロジー、遺伝子組み替え実検でそれ程過激なものではなかった。
裏庭の菜園に研究の成果である植物をひっそりと栽培していただけだ。
具体的にはホウセン花のようにいきなり種を一斉に飛ばすヒマワリや、葉の一面にサボテンの針がびっしり生えたハエトリソウといった地味な物ばかりだったのだ。
今ナオコは娘の研究が何なのかという疑問と、それを知ってしまう事の恐怖の板挟みになっていた。
二、三十m先でクワを使って土をならすリツコを凝視しながらナオコは心の内で叫びをあげた。

(リツコ・・・あなたがしている事を知りたい!だけどそれは出来ない・・・・・もし知ってしまったら・・・・知ってしまったら・・・・・・・・・・・・私も一緒に研究したくなっちゃう〜!!
 

ナオコの悩みは尽きる事がない・・・・・
 
 



 
 
(さあ、こんなところかしら)

リツコはクワを動かす手を止めると桑畑の外へ歩き出した。
見るとケンスケがまだカメラを空に向けて鳶を撮って(るフリをして)いる。
畑を出ると足を止め、後ろを振り返る。

(・・・・人が入らないよう工夫が必要ね。せっかくヤママユガも手に入れたことだし・・・)

リツコはケンスケに向き直ると声をかけた。

「ケンスケ君」

「あっはい・・・」

慌ててケンスケが振り向き、カメラを下ろした。
リツコはケンスケの顔をじっと見据えた。

「私はこれで帰るけど・・・この桑畑には絶対入らないようにね!」

ニヤリ・・・!

リツコが無気味に口元をゆがませて笑う。
ケンスケの背筋が凍り付く!

「は、はい!」

「じゃあね」

リツコはクワをかついで校庭に向かってすたすたと歩きだした。
硬直した表情で立ち去っていくリツコを見送るケンスケ。

「・・・・・・・・はっそうだ!」

我に帰ったケンスケは地面に置きっぱなしのケーブルを拾い、再びカメラに接続した。
 
 



 

ナオコはリツコがこちらに歩き出すのを見て、慌てて首を引っ込めた。

(今日もただ見ているだけだったわね・・・・いつまでこんな事が続くのかしら・・・・)

自らの無力をずしりと感じつつ、ナオコは引き上げることにした。
 
 



 

マナは裏庭への通路で教頭の背中に足止めを食っていた。
体から漂う哀愁と落ち着きのない動きがマナに近寄り難いものを感じさせていたのだ。
様子から考えてケンスケを見ているようにも思えない。

(なんなのよ、教頭先生どうしちゃったの?こんな時に〜・・・)
 
と、その時ナオコが後ずさった。
マナはささっと校舎の影に身を隠す。
逃げるようにしてこちらに来るナオコをやりすごすとマナは一呼吸ついた。

「ふう〜・・・」

そして裏庭へ行こうと足を半歩出した時、もう一人の人影が現れた。

(あ!・・・リツコ先生)

再び隠れてリツコが通り過ぎるのを待つ。

(・・・・・・・・よし、行ったわね・・・・・もういないわよね・・・)

マナはもう誰も来ないのを確認すると通路に出て裏庭に向かった。
 
 



 

ケンスケは校舎と桑畑の間の狭いスペースに隠れてカメラのモニターを覗いていた。

「まだか・・・・・うん?」

モニターに異変が起きた。
薄暗い更衣室が急に明るくなった。
女子生徒が入ってきて蛍光灯のスイッチを入れたのだ。

「・・・おおお、これは!」

ケンスケの眼鏡の奥の瞳が無気味に輝く。
モニター画面に映ったのは・・・・
 
 



 

「へへー、一番乗りー!」

「それがどうしたのよ」

アスカがはしゃぐレイに突っ込む。
二人の後ろからヒカリが入ってくると更衣室のドアを閉めた。

「男子は休みだってね、いいな〜」

「どーして?アスカスポーツ万能なんでしょ」

「関係ないわよ!第一、この暑いのになんで長距離走なんかしなきゃいけないのよ」

言いながら縦長のロッカーの戸を開くアスカ。
体操服の入ったピンクのビニール製手さげ袋を床に置いた。

「男子のバカ共はアタシ達の体操着姿を見に群れて来るんじゃないの?」

「ふーん、碇君や鈴原君も?」

「アンタ、人の神経逆撫で愛好者か!」

「と、とにかく着替えましょ、ね」

「うん!でもここ暑いねー、窓あけようよ」

「アンタそんな事したらそれこそどうぞアタシ達の着替えを見て下さいってもんじゃない!いくらあまり人が来ないといっても」

レイの提案を却下しながらアスカは赤いリボンタイの両端を持つと、両手で一気に引っ張った。
 

しゅっ
 
 



 

「うほほほほ〜始まるぞ〜!」

食い入るようにモニターを見つめるケンスケの顔がお下劣にゆがむ。
心臓の鼓動が高鳴りカメラをもつ指先にまで響いている。
モニターは上方からタイを取ったアスカの胸元が映っていた。
ズームにしたい所だがさすがにその機能はない。
他の二人もタイをはずしたところだ。
ケンスケはアスカに目標を定めてコントローラーを動かし、ベストなアングルをさがす。

アスカの手が第一ボタンにかかった。

ケンスケの額に汗が吹き出てだらだら流れ出し、だらしなく開いた口元からたれるよだれと合流する。
すでに鼓動は分あたり180はいっているだろうか。
もはやケンスケは欲望の虜となったいた。

(おおお、そこだ!)

アスカの第一ボタンがはずれる。
そして・・・・・・
 
 
 

 
 



 

 
 

「誰!そこにいるのは!?」

アスカははずしたボタンをとめ直すと窓に向かって叫んだ。
ずんずんと窓の前に来ると、ヒカリがまだ服を脱いでないのを確認してからカーテンをザッと開けた!
カーテン越しに見えた人影が、まるでシルエットクイズの正解を見せる様に正体を表した。
 

「・・・・・・マナ!?」

「アスカ・・・」

窓をへだてて向き合いながら、互いに唖然として見つめ合うアスカとマナ。
しばらくの間見合った後、アスカが真ん中の窓を乱暴にがらっと開けた。

「アンタ、何してるのよ!?」

「え?何してるって・・・・」

マナは口ごもってしまった。
ケンスケを探してここまで来たはいいが、姿が見当たらない。
その時更衣室から声が漏れるのを聞いて窓の前まで来てみたのだ。

「その、だから私は・・・・」

がらがらっ

「やー、副会長!!」

「きゃっ」

右端の窓を思いきり開くとレイがマナに飛びついてきた。

「聞いたよー、生徒会の副会長なんだってねー!生徒会長元気ー?」

「ななな、なんなの?」

「こらレイ!アンタが出てくるとややこしくなるのよ!」

ぎにゅっ

アスカの両腕がレイの頚動脈を絞めた。

「アスカ、あのねー・・・心地よい・・・くてっ」

レイを落としたアスカがマナに向き直った。
両手を腰にあて、足をひらいて、敵意むきだしの顔で!

「説明してもらおうかしら?」

その迫力に退きながらマナが喋り始めた。

「その・・・相田君を追ってここまできたのよ」

「相田を〜?」

「ええ」

「・・・・マナ、あなたまさか相田君の事を・・・」

「ヒカリ、アンタがボケてどうすんの?」

「違うの?」

「わ、私がなんであんなやつを!」

あらぬ疑いをかけられ頭に血がのぼったマナは、ポケットからシワだらけの写真を取り出した。

「これよ!」
 
 



 
 
ケンスケは数m先で行われている騒ぎを聞いて身を縮こまらせていた。

(やばい・・・見つかったらおしまいだ・・・)

と、思いつつ懲りずにモニターを覗き見るケンスケ。

(?これは・・・床が映っている?何故だ・・・)

レイが無理矢理右端の窓を開けたため、窓の上の隙間に突っ込んだケーブルが落ちてしまったのだ。

(そんな・・・あの窓は開かない筈なのに!)
 
焦りつつも性懲りもなくコントローラーを動かすと、下方から見上げる形でアスカとヒカリの姿が映った。
D-BAカメラからは50cm位横に離れており、二人は窓の方を向いている。
アスカが腰に手をあて、足を開いた。
足を開いた分スカートもひろがった。

(おおおお!!)

ケンスケは自身の危うい状況もころっと忘れ、モニターに眼鏡をすり付けるように近付ける!
すらりとした白い肌の足がスカートの中まで伸び上がっていくのが見える。
もう少しで根元まで・・・・パンツまで見えそうだ!

(あとちょっと・・・あとちょっと開いてくれえ〜〜!

毛細血管の浮き出た目を眼鏡の奥から光らせ、モニター画面のスカートを下から覗き込むケンスケ。
見えるわけないのに無駄な努力をしてしまうのは、男の悲しい性なのか。
欲望を満たさんとケンスケはコントローラーをせわしなく操り、最善のアングルを捜そうとする。

かちゃかちゃかちゃっ

(もう少し・・・もう少し・・・もう少し・・・・・・ここだ!!
 

ケンスケの時が止まった・・・・・
 
 
 



 
 

マナの差し出す写真を見たアスカとヒカリは・・・・

「きゃっ!これ!!」

「ひっいやああああ〜」

露出狂に襲われる生徒会長というタイトルの写真を見せられた二人に過去の悪夢が蘇り、けたたましい悲鳴をあげた。
そのおぞましさに開いたアスカの足が思わず内股になる。
 
 

更衣室>



<裏庭
 

(そんな・・・・あとちょっとだったのに・・・どーしてだー!?
 



 

「マユミがこの頃様子がおかしいと思ったら・・・こんな目にあっていたなんて!だから相田ケンスケに天誅をくらわせようと思ったのよ!マユミの敵をとりたいのよ!!」

マナの声が怒りに震える。
対するアスカとヒカリは赤面した顔を見合わせ、気まずそうな表情をした。
マナが言葉を続ける。

「目の前で・・・・こんなもの見せられて・・・マユミみたいな大人しい子がどんなショックを受けたことか!だから私は相田ケンスケを許せない!!」

ヒカリもアスカも何も言う事ができなかった。
何故ならマユミに××××を見せた人間を知ってるから。
特にヒカリの心境は複雑を通り越して恐慌状態だった。
写真の下半身モザイク男が誰なのか、ヒカリは口が裂けても言えない。

「ねー、だけどこの生徒会長におちんちん見せてるの鈴原君だよー」

いつの間にか復活したレイが、一番言って欲しくない事を思いきり直接的な言葉でぬかした。

「よけいなこと言うな〜!!」

がすっ

一回転してレイにローリングエルボーを食らわすアスカ。

「・・・・・・鈴原君って・・・どういうこと?」

その声にアスカが振り返ると、マナの顔が一回転前と別人みたいに蒼白になっている。
今頃になって写した人間と見せた人間は違うことに気付いたのだ。
今まで気が付かなかった事のほうが不思議だが。
ヒカリがうろたえながらフォローしようとした。

「マ、マナ違うの、これは・・・」

「あなた達なにを知ってるの?!」

「・・・・・そ、それは」

「私達一部始終を見てたんだよー、ねーアスカ!っ!っ!っ!」

ばしっばしっばしっ

アスカがレイの胸元に魂のチョップを連発した。

「見てた!それじゃあ・・・マユミをあんな目に会わせたのは・・・」

覚悟を決めたヒカリがマナに向かい合った。

「マナ、待って、みんな話すから!鈴原は悪くないの・・・・」

「どうして?露出狂なのに!」

「だからあれは無理矢理脱がされたの・・・」

「えっ・・・・誰に?」

「ミサト先生・・・・」

「ミサト先生がなんでそんな事するのよ?」

「ジャージを取り締まろうとして・・・」

「ジャージ!・・・・・そう言えばマユミが鈴原君のジャージ姿をやめさせなければいけなくなったから、ヒカリに相談してくるって・・・・」

「そうなの!それでミサト先生が制服に着替えさせようと鈴原を追い回して、はずみでパンツごと・・・・・ほら、この写真の下に写ってるの、ミサト先生の頭よ」

「じゃ、マユミを酷い目にあわせた犯人は・・・・」

「鈴原も被害者よ、これは事故なの!だから本当の意味の犯人は・・・・・」

トウジを守るためにもヒカリは結論付けなければならない。
ヒカリはうつむいてマナから眼をはずし、つぶやいた。
 

「・・・・・いないの」
 

マナの体に稲妻のごとき衝撃が走る!

「そんな・・・・・・そんな、そんな、そんな〜!!

頭を両手ではさみ、首をふりふりマナは叫びをあげる!
奇しくも写真の中のマユミと同じポーズで・・・・・
 
 



 
 
ケンスケは更衣室の会話を耳をそばだてて聞いていた。

(どうやら俺の事は忘れ去られているようだな。霧島が俺を追ってここまで来ていたとは・・・まあいい。これで心置きなく覗けるってもんだ、ふっふっふ)

いやらしい顔つきを取り戻したケンスケが、再びモニター画面に眼を向けると・・・・・・

(わっ!?)

画面いっぱい真っ赤っ赤!

(な、なんだ?!)

驚くケンスケに真っ赤な画面が突然ウインクした。

(こ、これは??)

事態が飲み込めないケンスケだった・・・・・
 
 



 

「なんだろーこれ?」

レイは床に落ちたケーブルを拾い、その先っぽを赤い瞳にくっ付きそうになるほど近付けていた。

「なんですってえ?」

放心状態のマナをほったらかしアスカがレイを見る。

「ほら、これこれ」

「なによ、このコード?」

レイの持つケーブルを胡散臭そうににらむアスカ。
つたうようにケーブルを見ていくと窓の外まで続いている。

「アスカ、どうしようか?」

「アタシに聞くなっての!」

「じゃ、こうしよっと♪」

レイはケーブルをたぐり寄せだした。
 
 



 
 
リツコは再び裏庭に姿を現した。
右手にハンマー、左手に立て札らしきものを持って。
その立て札には<危険!赤木リツコ所有>と書かれてある。
リツコは理科準備室に戻ってから、有り合わせの得体の知れない材料で立て札を作ったのだ。
しかもたった5分で!

(とりあえずこれで誰も畑に入らない様になって欲しいものだわ)

リツコは桑畑めざしてまっすぐ歩いていく。
 
 



 

「うわっ!!」

ケンスケは突然ケーブルを引っ張る力に体を泳がせた。
狼狽しながらもなんとか踏みとどまろうと引っ張り返す。
すると更に強い力でケンスケの体は引っ張られた。
大事なカメラを離すまいとありったけの力で引っ張り返そうとした瞬間、突然ケーブルがカメラからすぽっと抜けた!

「わっ」

バランスを崩したケンスケは頭から校舎の壁に突っ込んだ!

ごつんっ

ケンスケの目から火花が散った。

「うっ・・・」

仰向きにどどっと倒れ込むケンスケの意識がとんでいく。
それでも彼はカメラをしっかり持ったままだった・・・・・
 
 



 

リツコは女子更衣室の脇を通りすぎていく。
そこにいる生徒達より立て札のことが重要なので声もかけない。
放心状態のマナ、引っぱり込んだケーブルを調べてるレイ、アスカ、ヒカリはリツコに気が付かない。
桑畑の前に着くとリツコは立て札を地面に立てた。
持ってきたハンマーを振りおろし、立て札を地面に突き刺してゆく。

ごつっごつっごつ・・・
 
「これでいいわ・・・・・あら?」

リツコは桑畑と校舎の壁の間に倒れている人の姿を発見した。

「誰?・・・・ケンスケ君!」

何があったのかと近づいて寝っ転がってるケンスケを見下ろした。

「どうしたの?ケンスケ君、こんなとこで昼寝でもないでしょ」

なまじカメラを握っており、さらに何故か作動を続けていたため気絶してる様に見えなかったのだ。
といっても昼寝しながらカメラを動かす者もいないと思うが。
不思議そうにケンスケを観察するリツコの背後で声がした。

「あれー、リツコ先生なにしてるのー?」

リツコが振り向くとレイを先頭にアスカ、ヒカリの3人が立っている。
立て札を叩く音を聞いて窓から更衣室を出てきたのだ。
リツコがのんびり答える。

「あら、良い所に来てくれたわね。実はどういうわけかケンスケ君がこんなとこで倒れてるのよ。後はあなた達にまかせるわ。それじゃあお願いね」

言い終わるとリツコはハンマーを肩にかついで3人の横をすりぬけ、悠然と去ってゆく。
あっけにとられリツコを見送るアスカとヒカリ。
レイは楽しそうに手を振っている。

「バイバーイ、先生ー!あ、そーだ相田君!」

レイは身をひるがえしてケンスケのところへ走る。
ケーブルを持ったアスカ、そしてヒカリが後に続いた。

「相田君気絶してるの?カメラ持ったまんまでさー」

「レイ、ちょっとどきなさい!」

アスカがレイを押し退けるとケンスケとカメラを交互ににらんだ。

「・・・・!?」

アスカはカメラのレンズの横に八角形の穴を発見した。
手に持ったケーブルの端を見やる。

「おんなじ形の端子・・・」

アスカは端子をゆっくりと穴に差し込んだ。
それまで空が映ってた液晶モニター画面が別の映像に切り替わる。

「!!」

そこにはレイの笑顔のどアップ!
びっくりするアスカがケーブルのもう一端を見ると、レイが先端をつまんで愛想を振りまいている。
アスカはレイの持つ先端からケーブルをつたう様に視線を移動し、ケンスケのカメラモニターに戻す。

「・・・・・・そういう事だったのね・・・・・・ふふふふ・・・・ふっふっふっふ」

人間怒りを通り越すと逆に笑ってしまう。
今のアスカの顔には異様に迫力のある笑いが宿っていた。
そしてよりによってこんな時に、

「う、う〜ん・・・」

ケンスケの意識が回復した。
頭を振り振り、上半身を起こす。

「痛って〜!いったいどうしたんだ・・・おお、そうだ!カメラは・・・無事か、良かった〜!!」

慌ててモニターを覗き込む、とそこには・・・

「うん?」

綾波が小さく手をふって笑いかけている。
思わず小さく手をふって笑いかえす。

「へへ・・・・・・な、何だあ?!」

「何だあじゃない!!」

背後から聞こえる殺気のこもった声!
たちまち金縛りにかかるケンスケの首をつかみ無理矢理真後ろに回すと、アスカはもし仁王様が笑うとこんなだろうと思える様な顔で凝視した。
事態を把握したケンスケの恐怖に醜く歪んだ顔から一気に脂汗が流れ落ちる。

「ふふふふ・・・・アンタ・・・こいつで」

アスカはケーブルを持った。

「何を撮ろうとしてたのよお!!」

ケンスケの首にケーブルが巻き付く。
そのケーブルを持ってアスカはケンスケをぶん投げた!

「うわあ!」

ずでんっ

2、3mは吹っ飛び尻餅をつくケンスケ。
息つく間もなくアスカが眼前に迫り来る!

「ひっ!た、助け・・」

「だまれ〜この変態盗撮魔が〜!!」

ケンスケの首根っ子掴むとアスカは太股に固定し、豪快なやしの実割りをきめた!
また2、3m吹っ飛んだケンスケだがもちろんカメラは離さない。

ずんっ

今度尻餅ついた所は、まだ放心状態を続けていたマナの目の前だった。

「きゃっ」
 
マナがショックで正気に戻る。

「な、相田・・・ケンスケ!」

アスカがマナに叫ぶ。

「マナ!やっぱりそいつが犯人よ!!」

「え?」

「みんなこいつが悪いのよ!マユミの敵をとりなさい!」

「え?言いがかりだ!俺は撮って売っただけだ、見せたのは・・」

「うるさ〜い!」

アスカの9文半キックがケンスケの顔面に炸裂する!

ぐしゃ!

「ぶぎゃっ」

背中から倒れるケンスケを見るマナの瞳がギラリと輝く。

(・・・そうよ・・・・このままマユミの敵も討てずに引き下がれるもんですか!こいつが敵なのね・・・・そうよ、そうにきまってるわ!)

「えいっ!」

マナはケンスケの体を踏みつけ出した。

げしっげしっげしっげし

「あんたのせいで、あんたのせいで!マユミがおかしくなったのよ!どうしてマユミがあんな目に・・・・どうしてマユミがよく分かんない独り言を・・・・・」

がすがすがすっ

こうなるともはや、犯人というより生け贄だ。
叫びながらマナはケンスケの脇腹を執拗に蹴り続ける。

「・・・・どうして・・・どうしてシンジ君はナチュラルに私をマナって呼んでくれないの〜!?」

がすっげしっがすっげし

それは関係ないだろう。
生け贄を通り越し、言い掛かりつけて発散してるだけだ。
完全に訳が分からなくなっている。
アスカもマナに負けじと全体重を乗せてケンスケを踏み付けた。
ヒカリは二人を止める気もなく傍観者を決め込んでいた。
その顔はトウジが追求される事がなくなったという安心感に満たされている。
レイはそういった騒ぎにかかわらずに、リツコの立て札を興味深そうにながめている。
いつの間にか更衣室に着替えにやってきた女子生徒が、窓から鈴なりになって見学していた。
もちろん彼女達もケンスケを助ける気はさらさらない。

がすっげしっぐりぐりがすっげしっぐりぐり

「ぐひっごげっだ、だずげ・・・おおえっぶ」

苦痛にまみれケンスケの意識が薄れていく・・・・くどいけど、それでもやっぱり彼はカメラを離そうとはしなかった・・・・・・
 
 



 

静寂が裏庭を支配いていた。
一陣の風が吹き、ぼろ雑巾のように転がる少年の体を撫でた。
はずれかけた眼鏡がゆらゆらと音もなくゆらめいた。
今ここには彼以外の人間はいない。
よーするに蹴られるだけ蹴られた後、ほったらかしにされたのだ。

ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン・・・・

五時間目終了のチャイムが穏やかに鳴り響いた。
 

・・・・ぴくりっ

ケンスケの目元が僅かに痙攣した。

「う・う・・ううん・・・」

悶えるようにうめき声をもらすと、ケンスケは目を開いた。
体中を走るぎしぎしした痛みを感じて、自分がどんな目にあったのかをケンスケは思い出した。

「ひ、酷い目にあった・・・・」

のろのろ起き上がりながらずり落ちた眼鏡をかけ直すと、痛みをこらえて首を動かし周りを見た。

「!・・・・これは・・・」

そこにはぶつ切りになったケーブルが散乱していた。
ケンスケは慌ててカメラを握った自分の手を見た!

「ああ!!」

手に握られたのはさっきまでカメラであったものだった。

「お、俺のカメラが!最新式の、高性能の、まだローンの残った・・・・・・俺のカメラがあああ〜!!

 ぐしゃぐしゃに潰れ原形を失った、ディスクの半分とびだした、元カメ・・・・

「そんな、そんな、そんな・・・・」

ケンスケは震える手でカメラのディスクに触れた。
握力のおぼつかぬ指でディスクを掴み、引っ張った。
つるりと抜ける円盤状の形を保ったディスク。

「!!」

冷えきったケンスケの心に熱い魂が蘇る!
 

「・・・・・・ディスクが・・・・・無事だあああ〜〜!!
 

空に向かって吠えると無傷のディスクに頬ずりを始め、涙をこぼすケンスケだった。
 
 



 

50インチのテレビモニター画面に向かい合ってケンスケは正座していた。
彼は家に帰ると自分の部屋にこもり、ディスクのチェックを開始したのだ。
そして今彼の目の前に映るシーンは・・・・・
 

「どうしたの?ケンスケ君」

リツコの声が押さえたボリュームでステレオスピーカーから流れ出る。
画面は天を映していた。
ケンスケが気絶している間に撮影したものらしい。
画面いっぱいに広がる真っ青な空・・・・
突然画面に空以外のものが割り込んできた。
それは巨大な・・・・いや、どアップの二本の足。
もちろん下から見上げた構図だ。
白衣と紺色のスカートが足の周りでゆれる。
ケンスケのリモコンを持つ手が汗ばんでいった・・・・くすんだ予感がふくらんでいく。
 

「こんなとこで昼寝でもないでしょ」
 

ケンスケは心拍数と体温の上昇を感じつつ、画面を血走った目で食い入るように見つめる。

・・・・・・二本の足が移動し、ちょうどカメラの視点をまたぐ形になった!

無意識にリモコンを持つ手が一時停止のボタンを押す!
 

 
 
 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 

ケンスケの顎がはずれんばかりに、口がかくんと開いた。
彼は口を開いたまま、テレビモニターの静止画像と同様に微動だにしなかった・・・・
 
 
 
 
 
 

数分ののち、動かぬ間に彼の胸にたまりにたまった感情が、叫びとなって吐き出された!
 
 
 

「こんなもん・・・・・・・・・・・・・売れるか〜!!
 
 
 

と叫びつつもケンスケの股間は彼の言葉とは裏腹に、痛いほど突っ張らかっていた・・・・・
 
 



 
 
 
リツコのスカートの下の写ったものは売れた。
ただし売った先は男子生徒にではなく某投稿雑誌(CDソフト付録つき)だった・・・・・・
当初の予定とは違っていたが、とにかくケンスケのカメラのローンは投稿料によって無事返済された。
しかしケンスケは今回の騒動で二度と盗撮をやらないと心に決めるのだった。

そして今後、女子生徒や女教師の写真を撮って売る事も・・・・・・・・・・・・・・・
 
 

 

 
 
 
 
 

「誰がやめるかあ〜!!」
 
 
 
第七話完



 

次回予告
 

念願かなってリツコのいる第3新東京市立第壱中学校に臨時採用されたマヤ。
ミサトのクラスの福担任となる彼女の前には、希望溢れる明日が待っているはずだっった。
しかし実際にマヤを待ち受ける者は、意図せず悲惨な事態を彼女に与えんとしていた・・・・・
はたしてマヤの教師の威厳はどこにうっちゃられてしまうのか?

次回大ぼけエヴァ第八話
 

「明日から一日」
 

次回も
 

「先輩〜、助けて下さいぃぃぃ〜!」
 
 



 

というわけで大ぼけエヴァひさびさの更新です。
何故今になってかというと、「シンジアスカの大冒険その8」に書きかけでうっちゃっておいた第七話の設定を使ってしまったからです。
で、これではあまりに不親切なので急きょこういう事に・・・・
事情が事情なので出来が・・・・まあ、なんとか形にしたといったところです。
単なるその8補完以上のものではないんでは?という不安が残るんよ。
マヤについては予告編だけで勘弁してくさい。
その9優先ですので・・・・・

ver.-1.00  1999_3/25公開
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御意見御感想、誤字その他色々なんたらかんたらは・・・

m-irie@mbox.kyoto-inet.or.jp までです。




 えいりさんの『大ぼけエヴァ』第七話、公開です。






 あえて私は言おう!

 声を大にして言おう!!


 そう。
 ”黒、びゅーてほー”とっっ




 えっと。。。
 この”黒”って・・・まさか!?

 (^^;






 1:覗いて
 2:隠し撮って
 3:それを売って

 対象はアスカちゃんレイちゃんetc


 ケンスケ死刑・・・・

 カイコの餌になってしまへ

 男として許すマジ。
 女からも許されざる。


     ローアングルからのカット10枚で許す。かも。ね(笑)


 いや、やっぱりダメダメだよ〜







 さあ、訪問者の皆さん。
 ケンスケに甘い(あの程度のお仕置きでは甘いのだ(爆))えいりさんに感想メールを送りましょう!






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