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「よ、おそかったじゃないか。」





















Laufet,Bruder,euer Bahn.
Thanks for 4000HIT! 記念SS

新世紀エヴァンゲリオン another第弐拾四話

最初のセイ者

Eternal circle and the song of distant days.


ΟΠΟΙΟΣ ΜΠΑΝΕΙ ΕΔΩ ΝΑ ΠΑΡΑΤΑ ΚΑΘΕΕΛΠΔΑ

「明日、ドイツからフィフスチルドレンが輸送されるそうだ。」
「マルドゥックを通さずにか?」
「ああ、ゼーレからの贈り物らしい。」
「2人のチルドレンの欠員補助か。良い口実だな。」
「いずれにせよ、あの老人たちが送ってくるのだ。ただの子供ではあるまい。 老人たちは時計の針を自ら進めさせるつもりらしいな。」















燃え広がる紅が、世界を染めていく。

空も、

町も、


僕の体も。





何もない町。使徒迎撃要塞都市。
敵を迎え撃つ為に作られた、第3新東京市。
みがわりの都市。
縦並する建物の間には、動くもの何1つ見えない。
誰もいない、町。





何もかも赤く染められていく。
赤と、そして長く黒い影。
単調な色彩。










虫の鳴き声。それ以外の音はない。

誰もいない教室の窓辺に、僕は1人立っている。
今は放課後、日没近く。誰もいない。
昼間なら、この教室にも誰かいたのだろうか。

教室。授業。人の集合。営み。
でも、今は、1人だけ。





僕は、
どうしてここに来たのだろう?










誰もいない教室。
壁の隅に片付けられた机と椅子。
黒板。
中央に1つ据えられた、黒いピアノ。

僕はその蓋をゆっくりと開けた。
赤い布の下の、白い、鍵盤。
押す。



C。



音がなる。



D。


#F。


A。



手を乗せる。



D #F A。





歌。

僕の口から紡ぎだされる、ひとつの旋律。

不思議な癒しと潤い。
かつて、誰かに習い覚えた歌。










ひとはただ 風の中を 迷いながら 歩き続ける

その胸に はるか空で 呼びかける 遠い日の歌










D #F A。

A E G。

B D #F。

#F C E。

G B D。

D A #C。

G B D。

E A #C。


D #F A。

A E G。

A。
B D #F。
B。
#F C E。
#F。
#F C E。
G。
G B D。
D。

G。

A。


D。

A。

B。

#F。

G。

D。

G。

A。











単調に、刻まれるそのメロディーに、どこからか低い旋律が響いてくる。

ピアノと、その弦楽の音色が、ひとつになって曲を作る。





Kanon D-dur





誰が弾いているんだろう。

教室を出て、音の出所を探した。
相手は、まだその旋律を弾き続けている。



探し当てたのは、音楽準備室。
『関係者以外 立ち入り禁止』と書かれた張り紙の貼ってある扉を、僕はそっと開けた。




赤に染まる部屋。
逆光の中に、1人の人物が狭い部屋の中で椅子に座って弾いている。

低く、もの悲しい、チェロの音。

ようやく気がついたのか相手はこちらを見あげると、あわててチェロを置いて立ち上がった。




「あのっ、ご、ごめん。久し振りに来たんで、ちょっと……懐かしくなって……。」




太陽が、柱の向こうに入る。
部屋の中が暗くなる。
その中で、彼の黒い瞳だけが、まだ淡い輝きを残していた。




「音楽って………いいよね。」
「え?」

彼ははにかんだように笑った。


「なんていうのかな……人が…創り出したものの中で、一番、きれいな感じがする…。」




同じ学校の制服。
黒髪の、黒い、優しい瞳をした少年。





「君は…?」
「あ…ごめん、1人で喋って。僕は…碇シンジ。」

その名前を聞いて僕は思わず耳を疑った。


「碇シンジ!?あのサードチルドレンの?」
「僕を知ってるの?…あ、もしかして…君もネルフの?」

驚く少年。彼が、あのサードチルドレン?

「僕は…カヲル。渚カヲル。5番目の適格者、フィフスチルドレンだよ。」
「フィフスチルドレン?新しい………君が、え…と、渚君?」

僕は1歩踏み出して右手を差し出した。

「カヲルでいいよ。どうぞよろしく。」
「あ、僕もシンジでいいよ。よろしく、カヲル…君。」

彼が笑う。つられるように僕も笑った。

さらに口を開こうとしたところで、ポケットの中から電子音が鳴り響く。

「あ…。」

握手の手を放して携帯電話を取り出した。
耳に当てた電話から流れる、2、3の伝言。

「呼び出し?」

険しい顔になる少年。うなずいて携帯電話のスイッチを切る。

「うん…。非常召集。第一種戦闘配置だって…。」




















『総員、第一種戦闘配置。対空迎撃戦、用意』





「使徒を映像で確認。最大望遠です。」

モニターに映し出される使徒の姿。
光輝く翼を広げる、鳥のような使徒。

「衛星軌道からびくりとも動きませんね。」
「ここから一定距離を保っています。」
「てことは降下接近の機会をうかがっているのか、 それともその必要も無くここを破壊できるのか、ね。」
「こりゃうかつに動けませんね。」

オペレーターたちの言葉に、葛城ミサトは唇を噛みしめた。

「どの道、目標がライフルの射程距離内まで近づいてくれないと、何も出来ないわ。 エヴァには衛星軌道の敵は迎撃できないもの。」





スピーカーから聞こえてくる数々のアナウンス。

黒いプラグスーツ。忌まわしい印のついた。
頭の上にある白いインターフェースヘッドセット。
満たされていく紅いL.C.L。
待機しているのは、既視感のあるエントリープラグの中。





「レイは?」
「零号機共に順調。いけます。」
「フィフスの方も問題なし、昨日よりシンクロ率10も上がっているわ。」

モニターを見たままリツコは答えた。

「ただ、実戦に使えるかどうかは分からないわね。」

ミサトは正面を向き、凛々しい声で言った。

「零号機発進。大距離射撃、用意。弐号機はバックアップとして起動、発進準備。」









「弐号機?アスカの代わりですか?」

ネルフ本部総司令公務室。
暗く広い部屋の中に、少年の声がこだまする。

「そうだ。初号機はもはやお前しか受け入れんからな。」

机にひじを突いて両手を組んだまま、碇ゲンドウは答えた。





『弐号機、発進』というアナウンスが流れる。





「そちらでの暮らしはどうだ。」
「…前と変わりませんよ。」

シンジはじっと窓の外を眺めている。


「いいんですか?発令所にいなくて。」
「用が済めばすぐに行く。」

その声を聞いてシンジはゆっくりとゲンドウの方を向いた。

ゲンドウは微動せずに言った。





「シンジ。もう一度初号機に乗る気はないか。」
「いいえ。」





シンジはきっとゲンドウを睨み付けて言った。





「僕はもう、二度とエヴァには乗りません。」















「ポジトロンライフルの準備急いで!」

乱混に流れるアナウンスの中。誰の声も次第に大きくなっていく。
日向がミサトを振り返って言う。

「弐号機、地上到達。長距離過粒子砲装備させます。」
「渚君。零号機が出るまでそのまま待機して。」






「了解。」

空を見上げる。

いつのまにか雲が出てきて使徒の姿を覆い隠していく。
その上雨も降り出している。
どしゃ降りの中で、濡れていく感触だけが伝わって来る。

正面には、灰色の中に立ち並ぶ町。

モニターからは、様々な声と数値が流れている。

望遠スコープに映る、光の使徒。
異形の存在。

彼は、何をしに来たのだろう?



そう考えていると突然、スコープが光でいっぱいになった。

「何?」

正面映像いっぱいに広がる雲を貫いて光が照射して来る!





「何!?敵の指向兵器なの?」
「いえ、熱エネルギー反能なし!」

鳴り響く警報。

モニターの中で、まっすぐな光の筋が使徒と弐号機をつないでいる。

「光線は、可視波長のエネルギー波です。A.T.フィールドに近いものですが、詳細は不明。」
「弐号機の心理グラフが乱れています。精神汚染が始まります!」
「渚君!」








「く……あ………っあ………」

全身が、締め付けられる。



何だ?何だこれ?一体何なんだ!?



心にシミが広がっていく。何かが、僕の心を犯していく。


「う…あぁ………が………っ、…か………っ」



穴洞が開く。
無理矢理埋め込み捻じ込まれるような感覚。
中に広がっていく。気色悪い。



何だ、これは!?誰?僕の、僕の中に何が入っていく!?


必死に心に壁を作る。防護壁(ディフェンシブガーディアン)。
心の壁。
それさえも呑み込んで侵入して来る『何か』。



何だこれ!?何?これは……心?

僕の…いや、これはあの彼の?

恐い!どうして!?何故僕に触れる?
痛いイタイ痛いいたい痛いitai痛い!!!こんなに痛いのにどうして?
痛くないの?そんなに心をむき出しにして何をしたい?
何を?


空を見上げる。
光の中に、遠く何かが煌いた。
一瞬、ぐんと意識が遠のく。





君は一体何をしたいんだ?





侵入してくるもの。



悲痛、絶望、憎悪、悔恨、逃避、


枯渇、不安、喪失、空白、虚無、無、無、無、無、無、無、無、無、無、無…………



僕の中にあるもの。





お互いに溶け合い、侵食しあっていく。



何だ…?これは……同じ?何故!?
『何だ…?これは……同じ?何故!?』

『何故!?何故!?何故!?何故!?ナゼ!?なぜ!?どうして!?』










突然、狂ったように使徒が大きく光の翼をはばたかせる。



「何なの?」
「光エネルギー波長変化しています!」
「弐号機、心理グラフ逆転!」
「目標、高速接近中!」



もはや一筋の光となって降下して来る使徒。

動かない弐号機の前に零号機が立ちはだかる。
光の軌道に合わせて超長ライフルを構える。
真っ直ぐ突き進んでくる使徒。


『地球自転、及び重力誤差修正0.03』
『薬室内、圧力最大』
『すべて、発射位置完了!』

ガチン

引き金を引く零号機。



ドォン!





光の筋が雲を突き抜ける。

急降下して来る使徒の前で壁にぶち当たる!


『使徒、A.T.フィールド展開!』
『陽電子、突破します!』


そのまま貫いた光線が、使徒と交わり―――――――――――爆発!!



「やった!」

発令所に喚声が広がる。

「目標、消滅!」
「エヴァ弐号機、開放されます。」
「弐号機グラフ正常に戻りました。」










がくんと体が前に倒れる。
体を締め付けていた、光の檻はもう無い。
ぐったりと、再びシートに体をもたせ掛けて一息つく。





あれは……同じだった…。

この…僕と……………
何故…?どうして僕を覗いたんだ?
心を…僕に触れさせてどうしたかったんだ?
僕に知られて……知りたいのか?一体何を知りたかったんだ??





真っ暗なエントリープラグの中で、ただ、自分の荒い息遣いだけが、こだましていた。



















静寂の中。


浮かび上がる13体のモノリス。

円輪状に並ぶそれらには、 数字と「SEELE」「SOUND ONLY」という文字が表示されているのみである。




『すべてはデッド・シー・スクロールのシナリオ通りに。』



誰もいないその暗闇に響く音声。



『残されし予言の使徒はあと、2体。』
『すべての使徒が消滅せし時、我々の願いは現実のものとなる。』
『左様。そのための、エヴァンゲリオン。』
『残る機体はあと、6体か。』
『万一の場合、予備が必要となるが。』
『修正は効かんぞ。』
『いずれにせよ計画に必要なものは、ほぼ揃いつつある。』
『しかし約束の時まで後僅かだ。』
『案ずる事は無い。駒は既に動き始めている。』
『あとは、あの碇の処分だな。』

























話中の曲:
岩沢 千早作詞、橋本 祥路作曲
『遠い日の歌バッヘルベルの「カノン」による
(ハ長調をニ長調に変調してあります。
和音の方は自分で打って書きました。
どうかJASRACには内緒にしといてください(^^;)


ver.-1.00 1997-10/21公開
ver.-1.01 1997-10/28公開:誤字修正
ご意見・ご感想・質問などなど、 こちらまで!

あとがき

どもっ、飛羽駆夏(とば かるか)です。

今回の作品はありがとう4000(ほんとは3000のつもりだった)HIT!記念SSです。
題名から予測がつくと思いますけど、 この話は本編第弐拾四話のシンジとカヲル逆転バージョンのつもりだったんです。が、 設定変えていらん伏線作って『第九』の代わりにカノン使ったら…完璧に違う代物になってしまいました(大汗)
ほんとは1話完結の予定だったんですけど、話が膨大に膨れ上がってしまったので(^^;) とりあえず前、中、後編の3部の予定でお送りします。
今回女性キャラの描写がものすごく少ないですが、 次はだいたい本編弐拾参話ぐらいの所を書きますのでレイ(とミサトさん)は出します。
アスカはカヲル君使ったらほんっと出番が無くなっちゃったんですけど一応ちょっとだけは出します。
という訳でアスカファンのひと怒らないでくださいね。(^^;)

それでは。

 飛羽駆夏さんの『最初のセイ者』 前編、公開です。

 アスカの場所をカヲルくんが占めたことで・・・
 アスカちゃんの出番はなくなったな (;;)(^^;

 

 

 場所を違えたシンジとカヲルの出会い。

 「EVAに乗らない」決意を持ち続けているいるそのシンジ。

 

 カヲルとシンジ。
 二人の微妙に絡まる関係は駆夏さんの小説の肝ですね(^^)

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 記念小説を発表した駆夏さんにお祝いメールを出しましょう!


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