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BREAK−EVA

第一話 BREAK−EVA
《2015》





ギュアァー

 突然、コクピットの正面モニターに二つの光の玉が映る。

 「!!」

 そのコクピットの中のパイロットは、一瞬の驚きの後、左右のレバーを操作しこれを回避しようとする。

ボウン

 「いっ」

 だが、彼の操るロボットは回避が追いつかず、左腕を肩口から吹き飛ばされた。しかし、この場合この程度ですめばまだましであろう、並のパイロットであれば左腕だけでは済まなかった筈なのだ。

 「あっあっぶな〜」

 パイロットから安堵の言葉が漏れる。しかし、顔から驚きの表情は消えていない。

 その直後、彼の隣にいたロボットから通信が入る。

 「ははは、軽量化かいな?シンジ!」

 このシンジと呼ばれた少年は、驚きを隠せない口調で聞き返す。 

 「どっから飛んできたんだよっ今の!?」

 「レーダーの範囲外ってゆうたら信じるか?」

 相手からの半ば呆れたような返事を聞きながら、シンジは一寸前に髪を6:4でわけ眼鏡を掛けた青年が左手を肘から曲げての平を上にしながら話している内容を思い出していた。

 


  『───うちの電算部ではね、今、通信対戦型アーケードゲームに大いに注目しているんだよ』


  『中でもゲルヒン社の「デンジャープラネット」!!』



  『最寄りのアミューズメントスッポットで調べたところ・・・碇君、君はS(スペシャル)・Aクラスのパイロットだそうじゃないか』




 「はぁ」

 『部長になんて言お』

 小さなため息と共に後のいいわけを考えるシンジ。とその時ヒュンという音と共に、モニターに二機のロボットの姿が現れた。

 ボーと考え事をしているシンジはまだその事に気づいていない。さっきから動こうとしない隣の機体を見て、一寸あわてた声で注意する声が聞こえる。

 「・・・おい、こらせんせー! 敵がきとるんやで!!」

 その声ではっと我に返ると機体を操る。

ドゥ

ダタタタタタタタ

 機体は、左膝を地面につき、片膝を立て半身に構えると、右腕に付いているハンドガンを発射させた。

 その斜め後方で先ほどから連絡を取り合っていた機体が同じような姿勢に左手を右手に添えるようにして右腕に付いているガトリング砲を打っている。

 ちなみに、この二台の機体は武器も違うが、形、色についても似ても似つかない。彼の乗る機体は、肩に大きな装甲と角が付いているほかは、スマートな形をしているのに対して、隣の機体は、右肩と両膝に突起の付いた大きな装甲を付け、どちらかというとずんぐりむっくりしている。

 この息のあった攻撃で正面の二台のロボットは、なすすべもなく爆発音と共に破壊された。それと同時に、シンジ達は新たな目標を求めて移動を始める。

 一寸してシンジの頭の上にあるスピーカーから声が聞こえる。

 「う〜ん、やっぱ、レディメイドは歯ごたえなさすぎるで」

 シンジは正面のモニターを見つめながら返事を返す。

 「良く言うよ、トウジのだって見ただけじゃゲルヒン製”ボルゾイ”そのまんまじゃないか」

 「ふん、見てくれに騙される方が悪いんじゃ・・・気ぃつけなあかんで、次のは多分フルカスタムや!」

 「さっきこれの腕を吹き飛ばしたやつだね」

ドォン ドォン

 まだ姿形が見えないところから発射音が聞こえ、先ほどの光の玉が二つ飛んでくる。そのうちの一つが二機の後ろに着弾し爆発音と共に爆風が襲ってくる。

 シンジは、その衝撃と共にまたさっきの部長のことを思いだしていた。



・ 

  青年は、右手にディスクを持ち左手の人差し指でおもむろに眼鏡をあげると話を続けた。
  『これは、我々電算部が全部員総掛かりでイチから組み上げた、特別仕様のバトリングEVA(Electronics Virtuality  Armor)だ!』

  『今最もポピュラーなこのゲームで、より高機能のEVAを開発し、通信対戦のネット上で全国的に名を売ってこそ、我が第三新東京都立国府高専電算部に、優良企業からの求人を獲得できるという物!!』
  『そのためには君のような歴戦のEVA使いが是非とも必要なのだ!』




 一方トウジは、爆風で飛ばされた機体を必死でコントロールしていた。しかし、もう一つの弾が機体に迫ってきていた。

 「!」

ゴッッッグワアン

 「トウジッ!」

 あわててトウジの方を向くシンジは、そのモニターにはトウジの機体が爆発しているのを確認した。

 『あ、あんな遠距離から一発で・・・・!?』

 「なっ・・・何なんだあいつは!?」

 シンジがあわてて弾が飛んできた方を向くと、そこには、先ほどまで確認できなかったロボットがたたずんでいた。

それは、シンジの機体に比べ約二倍の大きさがあり両腕のバズーカをはじめとするとんでも無いほどの武装を施した四本足の機体であった。

また、その背中というか頭の後ろには、大きな飛行機の羽のような物が付いており、その全体は燃えるような赤で塗られていて羽の上に”弁慶”とペイントしてある。

 自分の方を向いたシンジの機体を確認すると止めていた機体を走らせる。

 「なんてやつだっ!」

 シンジは、自分に迫ってくるとてつもないEVAに驚きを隠せないが、後ろに飛び退きながらハンドガンを撃つ。

ハンドガンの弾は赤い機体に確実に当たるのだが、装甲が焦げる程度でほとんどダメージを与えられない。その次の瞬間シンジのモニターに、右腕を振り上げた赤い機体が画面いっぱいに映し出された。

「うわあっ」

バキャッ

 右腕は確実に目標をとらえシンジの機体の頭部が吹き飛ばされ、コクピット内では振動とモニターに砂嵐が表示される。

 「メインモカメラが・・・!!」

 頭部を失い倒れ込んだ相手に対して、赤い機体は左腕の大口径バズーカでとどめの一撃を放った。

 今まで以上の振動が起こり砂嵐だったモニターが回復し、その画面には機体の現在の状態とゼーレのロゴマークが映し出されている。

 同時に、コクピット内に合成音声が流れる。

 「SINJI and DENSANOH・・・・crushed.・・・Score・・・10276Points.・・・GAMEOVER.」

 シンジは、軽くため息を付くと、コクピットからのびるコードを専用のヘルメットとジャケットからはずし、データディスクを取り出した。

 

プシュー

 ハイビジョンで先ほどの戦闘シーンがリプレイされている中、筐体がシートごと後ろにスライドされた。そのシートにはヘルメットを膝に乗せたシンジが幾分不機嫌な顔で座っている。

 「お疲れはん。ハイビジョンで目立ちまくっとったで、シンジ!」

 先にゲームオーバーになっていたトウジがシンジに話しかけた。このトウジと呼ばれている少年もシンジと同じようなジャケットを着て小脇にヘルメットを抱えている。しかし、シンジが制服の上にジャケットを着ているのに対して、トウジはなぜかジャージの上に着用している。ちなみにジャケットの色は、シンジが青を基調にした物でトウジは黒を基調にした物だ。

 「う、やだな〜」

 と、そこにいつ現れたのか電算部の部長がヒステリックになりながらやってきた。目からは涙を流している。

 「碇く〜んっ、やぁってくれましたねぇ〜〜」

 「ご、ごめん部長」

 「わっわが電算部の希望の綱を〜〜〜〜〜〜〜っ」

 「パイロットを君のような部外者に任せたのが間違いだったよ!!」

 「やかましいわ!コピーとっとんのやろ」

 部長は、トウジの剣幕に押されたのか、眼鏡を額にあげハンカチを目元に当てながら小さな声で呟いている。

 「あああ・・・私の・・・私の”電算王”初号機が〜〜〜〜〜」

 「おっ」

 「シンジ見ろや、さっきのでかいのが勝ったで!」

 「隣町の支店からエントリーしてたみたいやな」

 トウジの声のにハイビジョンを見るシンジ。

 画面には、”WINNER S.A.L&BENKEI FROM SHINYASHIKI ZEERE PALACE”と表示している。

 「ちぇっ、あんなのずるいよ〜まるでタンク(戦車)じゃないか」

 「とんでも無い火力だったで」

 「き〜み〜た〜ち〜・・・」

 「うっうわ」

 「なっなんや!」

 突然、肩に手を乗せられ、あわてて振り向くシンジとトウジ、そこには眼鏡を反射させ、口をへの字に曲げた部長が立っていた。

 「今日のバトルロイヤルが地域限定だったとはいえ、どこで、誰が、先刻の無様な敗北を見ていたか!?」

 「この埋め合わせはしてもらえるんだろうね」

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 シンジ達はあの後延々と愚痴を聞かされ少しうんざりした顔でゼーレパレスを出てきた。あたりはもう薄暗くなっている。

 「あーあ、うまくいけばビデオゲーム同好会を、今年の文化祭に参加させてもらえる約束だったのに・・・あの部長生徒会に顔がきくからね・・」

 「はっ無駄や無駄や、いいかシンジ、あのカタい電算部の部長がやで、アーケードゲームのネットワークに進出するだけでも革命もんやのに”デンジャープラネットV”で天下取ろうっちゅうんがそもそも十年早いんや」

 「いいたないが、あの程度のEVAならレディメイドでもゴロゴロしとるで」

 「それはわかってたんだけど・・・今日の・・あの”ベンケイ”というEVA・・・あんな奴が出てくるとは思わなかったんだ・・・」

 「ハンドガン一丁であいつの前に立ったとき、デザートナイフで鯨を解体しろって迫られた気分だった」

 しゃべりながらシンジは、先ほどの一戦を思い出しながら軽いため息を付いた。

 「僕、途方に暮れちゃったよ」

 「わしも会ったのは初めてやが、ありゃ地が頃このエリア(地域)をあらしまわっとる怪物や、一寸は有名やで?」

 「そういやせんせ、このところ何しとったんや?バトルにもでえへんで」

 「あ、実は新しい奴を開発中なんだ、トウジ見に来るかい?」

 「ああ、んじゃ一寸よせてもらうわ」



 シンジ達が家についたときには辺りは暗くなっていた。

 「ただいまー」

パタパタパタパタパタ

 家に入ると、スリッパの音を響かせながら右手にお玉を持って母ユイが出てきた。

 「お帰りシンちゃん、あら、トウジ君いらしゃい!」

 「ちょうどいいわ夕飯食べていきなさい、ね!」

 「いいんでっか!!」

 そういうとユイはキッチンの方に戻って行った。

 「じゃあ二階に行ってるよ母さん」

 シンジは、ほくほく顔のトウジをつれて自分の部屋にはいると制服を着替え始めた。

 「シンジ、今度のEVAはどこのツールで作っとる?」

 「本家ゲルヒン社の”HGドラフター3”・・・待ってて今だすから」

 と言うとパソコンを立ち上げツールを起動させた。画面には、制作中らしいEVAが表示されている。

 「おお!!ええやないか!」

 「ベース(素体)は何や?わしのと同じ”ボルゾイ”か?・・ちゃうなネルフ社の”ゴブリン”やろ」

 「当たり!”ゴブリン”のフレームだけ使ってるんだ」

 「他は手組か、やるやないかシンジ!」

 等と、パソコン画面を睨みながら、ヤロー二人がEVA談義をしているところに、ユイが夕食を運んできた。

トウジは、その準備が終わると素早く手を合わせすごい勢いで食べ始める。シンジも軽く挨拶をすると目の前に並んだ料理を食べ始めた。

 そんなシンジ達をユイは、温かい目で見ていたが、画面を見ながらシンジに話しかけた。

 「へぇ〜今度のロボットはハンサムなのね、これもあれ?”デンジャーなんとか”っていうげーむのロボットなの?」

 「・・・ゲルヒンソフトの”デンジャープラネットV”だよ母さん・・・それにロボットじゃなくEVA!」

 ユイは小さくため息をつくと、シンジの方に振り返りにこやかな笑顔で話し始めた。

 「でもねシンちゃん、若くて自由のあるうちに出来ることはやっときなさい」

 「一つのことに打ち込みすぎて他に何にも出来なくなるのは無様よ〜」

 ここまで話して、ユイは頬に手をあてると眼を閉じてため息をつきしみじみと語り始めた。

 「全くそんなことだから彼女の一人もできないのよね〜・・・世の中ゲームより楽しいことだってあるのに・・・」

 シンジは、そんなユイの話に、少しすねたように返事をした。

 「・・・・・ほっといてよ、もう・・・」

 そんなシンジを見ながらユイはころっと態度を変えるとトウジに挨拶をして部屋を出ていった。ちなみにトウジは、そんな親子のやり取りを乾いた笑いをあげながら見守っていた。

 そして、ユイが部屋から出ていくと一言だけしゃべった。

 「・・・あいかわらずやな・・・」

 その言葉にシンジは黙ってうなずくしかなかった。二人は、幼稚園のころからの幼なじみなので、トウジは昔から、母親にからかわれるシンジを見てきているのだ。

 「とことでトウジ、僕、明日学校が終わったら隣町の方へ行ってみたいんだけど・・・」

 「なんや?新屋敷町の”ゼーレパレス”かいな?」

 「”S.A.L”って人に会ってみたいんだ」

 話をしながらシンジは、夕方見た赤いEVAのことを思い出していた。

 「あの人のEVAは、既製品をベースにしたカスタムなんかじゃない・・・その上あれだけの重装備でどうしてデータがオーバーフローせず走っているのか・・・」

 「僕は、プログラマーとしてのその人に興味があるんだ」

 「・・・・せんせはテクより性能で戦う男やもんな・・・部長がその事知ってればなぁ」

 「ほっといてよ!!」

 「まあまあ、しゃぁないな男の顔なんかみとうないけど、ついてったるわ」

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 翌日の放課後

 

 ゼーレパレス新屋敷支店についたシンジは、その中の光景に驚きの声を上げた。

 「うわー」

 「すごいやろ、ハス向かいが女子校なんやと」

 なぜ、そんな情報を知っているのかは定かではないが、トウジがシンジに説明をする。そう、ここは近くにある新屋敷女学院生のたまり場のような場所で、そこら中に同じ制服を着た女の子がゲームや歓談を楽しんでいる。

 「・・・こんなところにいるのかな?」

 シンジは、誰にも聞こえないような独り言を言うと辺りを見回し始めた。そのころトウジは、休憩所のテーブルに座って話をしていた二人組に声を掛けていた。

 「なーなーあんたら、EVAのパイロットで”S.A.L”って言う男しらんか?」

 突然話しかけられた二人のうち、眼鏡を掛けた女の子が一寸驚きながら返事をした。

 「・・えっと・・その・・・あの・・よくわかりませんすいません」

 それを聞いて、向かいに座っているお下げの女の子も口を開いた。

 「ここには男の子はあまり来ないわよ」

 「さよか、ならしゃぁないなぁ・・・」

 トウジは、二人の答えにがっくりと下を向くと、シンジの方に向かって声を掛けようとした。

 「おいシン・・・」

 「トウジ見つけた!!」

 トウジが呼ぶのを遮ってシンジが声を上げた。

 トウジがシンジの視線の先を見ると、天井から下がっている大型モニターにエントリーネームが表示されており、その上から二番目に”S.A.L&BENKEI”の文字があった。

 とそこに機械音でアナウンスが入り、店の中心に設置されている大きなタワー型の建物から、筐体の座席が一つせり出してきた。

 そこから降りてきた者は、新屋敷の制服に上に深紅の専用ジャケットを着て、片手に赤いヘルメットを持った少女だった。

 その少女は、真っ白な肌の色に茜色の髪を腰まで伸ばし、まるでサファイアのような蒼い眼をしていた。

 シンジはその少女にただぼーっと見入っていたが、トウジはあまりのことに驚きを隠せないでいた。

 そんな様子を見ていたお下げの女の子だったが、その少女の姿を確認すると、おもむろに手を振りながら彼女を呼んだ。

 「あら、誰かと思ったらアスカじゃない?おーいアスカァー」

 声のする方を向いて、自分の親友の姿を確認すると、その少女は小走りでこっちにやってきた。

 「どうしたの二人共?こんな所にいるなんて珍しいじゃない!」

  とその時トウジは、驚きの表情を隠せないままその少女に質問した。

 「お、おまえがあのごっついEVAのパイロットのS.A.Lなんか!?」

 親友との会話をじゃまされたのが気に障ったのか、このアスカと呼ばれた少女は渋々シンジ達の方を向くと、怪訝な表情をしながら少し大きな声で返事をした。

 「そうよ!!あんた達こそ何なの!?」

 その声で我に返ったシンジは、何か言い返そうにしているトウジの口をふさぎながら羽交い締めにすると

 「な、何でもないです!ご、ごめん!!」

 と言ったきりトウジを引きずりながら、鬼のような速さで走り去ってしまった。

 「な、なんなの?」

 「さあ?」

 「何でしょう?」

 後には、呆気にとられたアスカと、首を傾げた二人の少女が残された。

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同日夜 碇家

 自分の部屋でシンジは枕に突っ伏している。

 「せんせ、おなごに負けたちゅうても、そないに落ちこんどったら相手に対して失礼ちゅうもんやで」

 「・・・・・・・・」

 「こら!!」

 「いい加減立ち直れや・・・」

 「・・・・・・・・」

 トウジは、何も答えないシンジに対して軽くため息をすると、話を続けた。

 「・・・一人にせいっちゅうんならワシは帰るで?」

 その言葉に少し頭を上げると、シンジが口を開いた。

 「・・・トウジ・・明日僕ベンケイと対戦しようと思うんだ」

 「・・そおやな、勝たなきゃ何もはじまらんからな、今日中に新しいEVAを整備しとくんやで」

 そう言ってトウジは帰っていった。シンジは、その夜遅くまでパソコンに向かい作業をしていた。

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翌日(日曜日)の午前中

 

 シンジは、新屋敷支店のカウンターで昨日のお下げの女の子と話をしていた。

 「あれ?・・・君は昨日の」

 「あ、あなた昨日話しかけてきた男の子の隣にいた人ね!」

 「ところで今日はどうしたの?」

 「え!?・・あっ・・えーと・・・そう実はあの”BENKEI”と対戦したいんだけど?」

 「ああ、アスカね!彼女まだエントリーしてないわよ日曜だしね・・・来るまで待ってる?」

 「うん、そうさせてもらうよ」

 と言うと、シンジは、練習用筐体のそばのテーブルにいるにいるトウジの元に歩いていき、イスに座った。

 「エントリーで”BENKEI”を指名してきたよ」

 「よしゃぁ!!これであの女が現れよったらカウンター係りが対戦につなげてくれるで!」

 「それよか大丈夫かいな?初めて使うEVAやろ、そこの練習用筐体でシミュレートしてたらどないや!」

 シンジは、元々寝不足だったこともあり、さっきのカウンターでの会話で来るか来ないかわからないのを知っていたので、ぼーっとしながら呟いた。  

 「・・・・・来ないんじゃない・・・・・日曜だし・・・・」

 「お!!」

 カウンターの方を見ていたトウジが軽い驚きの声を上げたので、そちらの方を向くとお下げの女の子がアスカにこちらの方を指しながら説明をしているのが見えた。

 『来た!!』

 シンジがその事を純粋に喜んでいると、いつのまに側に来たのかアスカが腰に手を当てて立っていた。彼女はシンジが自分を見たことがわかると、笑顔に少し大きめの声で声を掛けた。

 「あんたのことは名前だけ知ってるわ、S.AランクのSINJI!!」

 シンジは苦笑し、立ち上がりながら答えた。

 「おかげでデータ全損だよ、アスカさん」

 「そう、勝負事とはいえ悪かったわ・・・・そ・れ・と!あたしのことはアスカでいいわよ」

 シンジとアスカは、話と準備をしながら筐体の方に移動して筐体に乗り込んだ。

 機械音の登録の確認と保安上の注意が流れる中、ヘルメットやジャケットにコードをつなげると、シンジは昨夜から考えていたことを実行に移すべく通信回線を開いた。

 「今日は、アスカにお願いが有ってきたんだ」

 「何?」

 シンジは、いったん深呼吸をすると真剣な顔で話を続けた。

 「・・・つき合って・・・僕のEVAが”ベンケイ”に勝ったら・・・」

 「本日のフィールドはプロクシマ系第二惑星デザートエリア・・・重力0.9G地雷原なし快晴」

 機械音でアナウンスが流れる中、アスカは一瞬あっけにとらえるが不適な笑みを浮かべ、それに答えた。

 「・・・つまり、あたしが勝ったらちゃらって事よね?」

 「強気の承諾と受け取っておくよ・・・」

 「制限時間は30分です グッドラック」

 アナウンスの後、モニター中のゲートが開いていく。

 「通信を切るわよ、最後にそっちのEVAの名前は?」

 「”九朗”!!」

 シンジは、短く言葉を切ると小さな笑みを浮かべながら呟いた。

 「行くぞ”ベンケイ”!」

 友人の操るEVAを、外からモニターで確認したとき彼は、驚きを隠せなかった。

 「!?・・装甲が・・・センセ、一体何考えとるんや!」

 「装甲をあらかたはずしてしまいよってからに・・・」

 トウジが驚くのも無理はなかった。その紫色の機体は腕や太股などの装甲がなく内部の機構が外から一望でき、身を守る物は左腕に装着された盾しかない。その上武器は右腕に抱えた長物の銃だけである。

 そのころアスカはレーダーを見ながら”ベンケイ”を移動させていた。

 「接触予定地点まで・・・・・10秒・・・・射程の長い方が先手をとれる!!」

 そう呟くと右手のスロットルを前に倒す。

ピピピピピ

 「!!・・・・きゃっ」

 電子音と共に高速で接近する物体に気づく、次の瞬間”ベンケイ”の右のバズーカーが腕ごと吹き飛ばされ、振動がコクピットを襲う。

 アスカは、体勢を崩しながらも残った左腕のバズーカーを放つ、一方、”九朗”はサポートを地面に設置させ、銃口から硝煙の上がる銃の左についているレバーを引き弾丸を装填させると、右手でそれを持ち”ベンケイ”の弾幕を交わしながら距離を縮めていく。

 「あれが”九朗”!!」

 「対戦車ライフル!?・・・あれで射程を稼いだのね・・・・でも重武装の”ベンケイ”相手になんて軽装なの!?」

ドン・・・バキャッ

 「足が・・・!!」

 シンジは、ある程度距離を縮めたところで両手でライフルを構えると第二射を放つ、それは”ベンケイ”の左前足に当たり根本から吹き飛ばす。移動中の”ベンケイ”は、突然に支えを失ったため機体が激しく回転する。

 ”九朗”はそれを確認すると背中のバーニヤを噴射させながら大きくジャンプする。

ズシャン

バラララララララララララララ

 機体が止まったところで空中の”九朗”に向かってガトリンク砲を連射するアスカ。しかし”九朗”は左腕の盾でそれをはじくとそのまま”ベンケイ”の真上からガトリンク砲を叩き潰し、また大きくジャンプした。

グシャ 

 「!」

 「ヒット・アンド・アウェイだ!」

 「何百発撃ってきたって、当たりさえしなければやられはしない・・・」

 「このっ!」

ドン、ドン、ドン、ドン

 ”ベンケイ”は、状態の向きを若干変え、”九朗”に向けて4発のミサイルを撃った。

 「!!」

 「ホーミングミサイル」

 必死で回避しようとする”九朗”に襲いかかった4発のうち、2発ははずれたが、1発は盾に、そしてもう1発は左足を膝下から消し去った。

 「これでおあいこよ!!」

 と叫んだ後アスカは、右手のスイッチの一つを押す。その直後”べえんけい”は、残った左腕と下半身を切り離し浮上すると、地面に倒れ込んだ”九朗”めがけて体当たりを開始した。

ズガガガガ

 ”九朗”がかろうじて横に飛んで回避した為、”ベンケイ”はその勢いのまま地面に当たり轟音と砂煙を巻き上げる。

 シンジは、機体の側にさっき切り離した”ベンケイ”の左腕を見つけると、それを抱え込みねらいを定めた。

 「出てくれっ!!」

 祈るような気持ちで機体を操り、”九朗”の左の拳で”ベンケイ”の腕についたバズーカーの劇鉄を押し込む。

ドォン・・・・・・・・・ゴワァァン

 バズーカーから放たれた弾は、体制を立て直し再び体当たりをしようと迫ってくる”ベンケイ”の中心に命中し、轟音と共に爆発を引き起こした。

 「や・・・やった!!」

 「やりよった!!」

 シンジが、コクピットの中で喜びの声を上げると、外でスクリーンを見ていたトウジも、驚きの声を上げた。

 一寸して、モニターに、”WINNER SINJI & CROW IN SHINYASHIKI”と表示されている中プレーをを終えたシンジとアスカが筐体から出てくる。

 「トウジ!!やったよ!」

 「ようやったなぁシンジ!」

 二人は、手を取り合いながら大喜びをしている。しばらく、そんな光景を眺めていたアスカだったが、両手を腰に当て笑みを浮かべるとシンジに話しかけた。

 「あたしの負けね・・・約束は守るわ!」

 「あたしの名は、惣流・アスカ・ラングレー、あんたの”九朗”を倒すまではつき合ってあげるわよ!」

 「ヘっ!?」

 一瞬呆気にとられたシンジが間抜けな声を上げると、アスカは満面の笑顔で宣言した。

 「あたしは、”ベンケイ”みたいにたやすく落ちたりしないわよ(はぁと)」

 




『・・・・・・・・・・・・ず、ずるいよ・・・・・・・・・・・・・』



 第一話終了

NEXT
ver.-1.00 1997-07/28 公開
ご意見・感想・誤字情報などは klein@mxh.meshnet.or.jpまでお送り下さい!

 みなさん初めまして、Ohtukiと申しますm(_)m
この話は月刊ビーム連載のBREAK−AGE(ブレイクエイジ)をEVAのキャラでと言う物です。 実は、EVAキャラによるオリジナルストーリー(学園物)も制作していたんですが、友人のMizuno君にチェックに出したときにこの話が出て勢いで書いてしまいました。 文章力に自信がないので、みなさんのアドバイスを心からお待ちしております。
ではまた(^^;/~~
次回 第二話 COME TO MY SCHOOL


 ついにEVA館住人も50人です(^^)/

 その記念すべき御入居者、Ohtuki&Mizunoさんです!!
 シンジくんの自転車の設定を考えてくれた人ですよ(^^)

 第1作『BREAK−EVA』公開です。
 

 この作品のベースは「BREAK−AGE」ですね。
 アスキーコミックで連載されていたのですが、
 いつの間にかその雑誌自体が消滅して・・・・・(^^;

 結構好きな雑誌で、
 かなり好きな作品だったんですよ。
 

 Ohtukiさんの後書きを見ると、「ビーム」という雑誌で続いているようですね、
 読みに行かなくちゃ。
 

 この第一話は、原作そのままなのかな?
 私の不確かな記憶ではそうですが、自信がないなぁ(^^;

 この先どの様にオリジナルが入って行くんでしょうね。
 原作からのファンだけにすごく楽しみです(^^)/
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 新たなる仲間、Ohtukiさんを温かいメールで歓迎しましょう!


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