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チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり その1  −大人達の戦い−




 マヤはオペレートディスクの下で、頭を抱え震えていた。
 彼女は信じられなかった。私達は人類を守る正義の味方ではなかったのか。
それなのになぜなの、どうしてなの。どうしてあの人達は私をいじめるの。そ
んな子供じみた思いが頭を通りすぎていた。先輩に聞いてみようとも思った。
先輩ならどんなことだって知っているもの。

 「そうよ先輩に聞かなくっちゃ。」

 マヤはふらふらと立ち上がった。

 「マヤちゃん危ない。」

 シゲルが彼女を引きずり倒した。

 「マヤちゃんなにやってんだよ。」
 「だって先輩に聞かないと。だから行かないと。」
 もはや恐怖も通り越したうつろな声。

 「リツコさんは行方不明なんだってば。」
 「聞かなくっちゃ…………。」

 マヤはシゲルの腕の中で呟きつづけた。



 ネルフは窮地に立たされていた。MAGIへのクラッキングで始まった、ゼー
レの侵攻は戦自の介入という新たな局面を迎えていた。次々と占拠されるネル
フの施設、残るは発令所だけとなっていた。



 マコトは弾を節約しつつ撃ち返していた。

 「葛城さんどうします。」
 「確かにこう弾幕張られちゃなんにもできないわね。」
 「そうですよ。頭を出したら撃ち殺されますから。オペレートが全然できま
せん。せっかくシンジ君を初号機に乗っけたのに、これじゃ射出できないし、
対人用トラップも起動できません。」
 「でもなんで重火器を使ってこないのかしら。」
 「MAGIを壊したくないんじゃないんですか。」
 「私達はコンピュータ以下の扱いってわけね。」
 「どうします。白旗でもあげますか。」
 「その前にちょっちやっておきたい事があるの。」

 ミサトはマコトに近づくといきなり抱きしめディープキスをかませた。呆然
とされるがままのマコトはそれでも片手撃ちに銃を撃っていた。

 「日向君さすがに今度は万策つきたわ。今まで苦労を掛けたお礼よ。後私に
してあげられるのは一緒に死んであげる事ぐらい。」

 腕を放したミサトはそう呟く。

 バシ

 マコトの片手がミサトの頬をたたいた。

 「葛城さん、そんな事言う葛城さんなら一緒に死んでもらわなくても結構で
す。葛城さんはさんざ今まで使徒相手にめちゃくちゃな作戦を立てたじゃない
ですか。今までの作戦で成功確率が20%越えたものがありましたか。でもそ
んな作戦を成功させちゃうのが葛城作戦部長その人でしょう。そんなめちゃく
ちゃな人だからいいんです。だからそんな事言わないでください。確かにあな
たと一緒なら死んでもいいです。でもできたら一緒に生きたい……。」

 頬を押さえて告白を聞いていたミサトは、転がっている銃を拾い上げた。そ
して戦自の連中に向かって撃ち始めた。

 「そうよね。私がそんな事いうのっておかしいわよね。そうよね…………。
日向君、戦自とゼーレをやっつけてえびちゅでわーっと乾杯といきましょ。」
 「そうでなくっちゃ、葛城さん。」
 「ミサト、でいいわよ。とは言うものの手詰まりよね。小型のEVAかなん
かないかしら。とにかく何とかして発令所内の敵だけでもやっつけないと。」





 「有るわよ。」

 オペレートディスクから声がした。ディスクを囲んでいる羽目板が内側から
外されるとごそごそと白い塊が這いずり出てきた。

 「リツコ!!」
 「先輩!!」
 「「赤木博士!!」」

 「ちょっと研究室に戻っていったら、こんなになっちゃって。しょうがない
から私だけが知っている抜け道をたどってここまで戻ってきたのよ。」

 「さすがせんぱい。まったく無事だったんですね」
 「もちろんよマヤ。史上最強のマッドサイエンティスト赤木リツコは無敵よ。」
 「先輩素敵。」
 こんな時なのにうっとりするマヤ。

 「ところでリツコさっきの話どうゆう事。」
 「小型のEVAの話?」
 「そうよ。」
 「人造人間じゃないけど強化人間ならできるわ。」
 「なにそれ?」


 「青葉君。」

 リツコはまだマヤを抱きしめているシゲルの近くに這いずってきた。

 「リツコさんなんですか。」
 「協力して欲しいんだけど。」

 キラリン〜〜〜〜

 リツコは目を光らせつつそう言って懐より一本の怪しげな注射器を出した。

 「この薬は(獣人化薬)よ。」
 「「「「獣人化薬??。」」」」
 「簡単に言うと狼男を作り出す薬ね。薬が効いている1時間はほぼ無敵。中
小火器では太刀打ちできないわ。体質的に青葉くんが最適なの。ただ副作用が
あるわ。約半分ぐらいの確率で知能が永遠に小犬並みになって戻らなくなる危
険性があるの。どうする。やってくれる?」

 シゲルは、注射器とマヤを交互に見つめた後、少し考えると言った。

 「やります。ただちょっと待ってください。」

 シゲルはまだ抱きしめていたマヤを放すと、改めて手をにぎる。

 「マヤちゃん。俺、君の事が好きだったんだ。絶対生き延びてね。それで俺
も生き延びたらこんど俺のアパートにギターを聞きに来てね。じゃぁリツコさ
んどうぞ。」

 リツコは振り返ったシゲルの腕を取り注射器を刺した。そしてピストンを押
しこむ前にリツコは、ぼぉ〜とシゲルを見ているマヤにうなづいた。

 「青葉くん。」
 とマヤ。
 「小犬になったら飼ってあげる。」

 シゲルが微笑むのを見てリツコはピストンを押しこんだ。

 ふっと訪れた奇妙な静寂。
 そしてシゲルの喉から迸る雄叫び。
 長髪は更に伸び、犬歯はまくれあがり、膨れる筋肉は服を押しやぶった。
 そしてシゲルは跳び出していった。

 発令所の出入り口付近で上がる悲鳴は戦自の部隊のものだった。



 シゲルの働きのより弾幕は徐々に薄くなっていった。シゲルは戦自の部隊を
掃討していった。発令所内を取り戻したミサト達は通路の入り口をシャッター
で塞ぎ、オペーレトを始めた。まず初号機を射出したミサト達は続いて、トラッ
プを起動した。

 「ミサトさんまずB兵器を使います。」

 致死性のウィルスがばらまかれた。

 「先輩こんなもの使って大丈夫なんですか。」
 「平気よマヤ。ネルフ職員は定期検診の時に抗体をうっているから免疫にな
っているわ。だいたいこのウィルスの症状が出るのは1〜2分だけど2次感染
はしないしウィルス自体も30分ぐらいで死滅するから。」

 モニターには、まだ多数の移動物体がネルフ内に感知された。

 「次電撃トラップ行きます。」
 「なんか古典的なトラップよね。」
 「古典的ですけど100万ボルトの電流は実際効果がありますよ。」

 モニターにはそれでもまだ10数個の移動物体が感知された。

 「次が最後ね。レーザートラップ起動。」

 しかしまだ二つの移動物体があった。

 「片一方は多分青葉くんね。彼発令所からこんなに離れたところにいるわ。
でももう一つの発令所に向かってくるこれはなに。」
 「すべてのトラップをやぶってきます。だめです阻止できません。入り口に
到達しました。」
 マコトの悲鳴のような声につられたかの様にシャッターが吹き飛んだ。そこ
には、銀色の小型の人間らしきものが立っていた。

 「あれはサイボーグ!!」

 リツコの声を目掛けたようにサイボーグがサバイバルナイフを振り上げ飛び
かかる。マコトとミサトが銃を向け撃つが、銀色の装甲に跳ね返される。

 「先輩危ない。」

 その場の誰もがリツコの死を予感した時、通路から走ってきた大男がリツコ
を守りつつその小柄のサイボーグを跳ね飛ばした。装甲が強くても軽量級のサ
イボーグは一段下の床に転がる。

 そしてみんながリツコの方に目を向けると…………











 「「「「司令!!!!」」」」

 そこにはへたりこむリツコと彼女をかばったため肩をざっくり裂かれた碇ゲ
ンドウの姿があった。彼は辺りを血だらけにして突っ伏していた。


 一方軽量級の為跳ね飛ばされはしたが、まったく被害のないサイボーグは、
むっくりと立ち上がりまた迫ってきた。すべてのトラップをかいくぐってきた
サイボーグに対してもう武器は残っていなかった。






 が





 「ぐぅひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 発令所を震わす雄叫びと共にシゲルが帰ってきた。
 サイボーグとシゲルは発令所への通路で戦闘となった。
 
 サイボーグとシゲルが戦っている隙に、リツコはゲンドウの手当てを始めた。
 幸い傷は太い血管をさけていたため、何かで押さえるだけで血を止められそ
うであった。

 「司令なぜ戻ってきたのですか?」

 自分の着ている白衣を裂いてゲンドウの血止めをするリツコ。彼女の青いスー
ツもゲンドウの血によって赤く染まっていく。

 「私はレイに見捨てられたのだよ。レイはシンジや、アスカ君達と生きる事
を望んだ。人類補完計画は幻と消えたのだよ。ふられたもの同士でリツコ君と
よろしくやるのもいいかと思ってな。」
 「司令も私も生きるのが不器用ですね。」

 リツコはそう言って応急処置を終えたゲンドウに肩を貸し、オペレータ席の
椅子にもたせかけた。その手はしっかりゲンドウを支えていた。


 突然発令所に轟く雄叫びと共に、何か銀色の物体が発令所の中に転がってきた。
それはサイボーグの首であった。首と胴が生き別れになったサイボーグは、そ
れでも少しの間うごめいていたが、そのうち静かになった。シゲルの勝利であっ
た。ほとんど全裸のシゲルは身体中を血だらけにしていた。戦闘中についたと
思われた銃創や切り傷は目に見えるような速度で治っていく。

 「さすがは私の薬ね。効果はばっちりだわ。」

 当のシゲルはよろよろとした足取りでマヤのそばに近づくといきなりどっと
倒れこんでしまった。

 「青葉くん。」

 悲鳴をあげてマヤがシゲルに跳び付く。

 「青葉くん、青葉くんたら、おきてよぉ……」

 涙目になりながらシゲルを抱きしめるマヤを横目に、リツコはシゲルの腕を
とり脈をはかった。

 「マヤ大丈夫よ。体力を使い果たしただけみたいね。2時間も経てば気がつ
くわ。ただ知能のほうはそれまではわからないけど。今は寝かしてあげましょ。」
 「はい先輩。」
 「さぁマヤ。オペレータシートに戻って仕事しなさい。」

 マヤは泣きながらシゲルに一度頬擦りをし、彼を床に横たえる。そこにマコ
トが上着を脱ぎかけてやった。マコトとマヤはシートに戻っていった。

 発令所内にキーボードの音が再び響きだした。




 「これで戦自は片付いたようね。」
 ミサトはマコトに向かってつぶやく。

 「ええ、シンジ君達がゼーレのEVAをやっつければどうにかなるかもしれ
ないですね。ミサトさん。」
 「全力でバックアップしてあげて。」
 「それにしても後ろの4人こんな非常時なのに結構ラブラブですね。」
 「なに妬いてんの、日向君。ここを生きて出られたら、一緒にずっと生きて
あげるわ。こんなアル中でよかったらね。だからがんばりましょう。」
 「あなたと一緒なら地獄へも付き合いますよ」

 そう言ってマコトはオペレートを再開した。



              つづく


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ver.-1.00 1997-06/29公開
ご意見・感想・誤字情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!
 あとがき

 実は私はリツコさんのファンなんです。りっちゃんには幸せになってもらい
たい。りっちゃんにはMADに華麗に活躍してもらいます。それに主要登場人
物には意地でも全員幸せになってもらいます。できたら使徒も助けちゃいます。
あとシゲルにも活躍の場を与えたくてこうなりました。

 それにしてもワールドカップ優勝への道のりはまだまだ遠いです。

 まっこうさんの連載『チルドレンINワールドカップ・優勝への長い道のり』その1、公開です。
 な、長いタイトルだ(^^;
 

 青葉シゲル大活躍!

 ロンゲの人。
 オペレータ3人組でマコトじゃない方の男。
 青葉シゲル? 森林保護官か?

 と散々な言われようだった彼。

 地味の代名詞のケンスケ以上に存在感の薄い彼。

 その青葉シゲルが獣人化して戦略自衛隊を撃退!
 おまけ(と言うには大きすぎるか)に、マヤちゃんGET!!
 

 みんなが幸せになれるEVA・・・・頑張って下さい(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 連載を開始したまっこうさんに応援のメールを送って下さいね。


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