TOP 】 / 【 めぞん 】 / [まっこうの部屋]に戻る/ NEXT

めそめそアスカちゃん5・宴会の価値は






 「シンジ君おはよう」
 「アスカさんおはよう」




 ぼけぼけっとした顔をしてアスカが自分の部屋から出てきた。昨日のシンクロテストで弐号機が不調だった為アスカだけ夜遅くまでかかったになったからである。なぜか妙に顔が赤い。寝不足のせいであろうか。




 「お風呂沸いてるよ」
 「うん。ありがとう」




 今日はシンジが朝ごはんの当番である。キッチンではエプロンをしたシンジが動き回っている。アスカはパジャマの上にガウンを羽織っている。バスタオルと下着を持って浴室に向かった。シャワーを浴びて自分の部屋に戻る。鏡の前で今日の服についてしばし悩む。今日は赤いワンピースにすることにした。食事の前ではあるが薄化粧をする。女の子は大変である。
 やがて準備が終わるとアスカはダイニングに向かった。自分の席に着く。もう朝食の用意は出来ていた。シンジは反対の席に座っている。ミサトはまだ寝ている。
 今日も食欲をそそる朝食が食卓を飾っていた。炊きたてのご飯、しっかりと出汁をとった味噌汁、焼鮭、海苔、佃煮、たくわん、そして…………




















 「ううううううううぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。シンジ君が私に腐った豆食べさせようとしているぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜。びぃぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
















































 その子は奇麗で可愛くて才能豊かで魅力的。
 みんなも知ってる中学生。
 でも彼女には一つ秘密があったのです。
























 彼女は




























     泣き虫だったのです




















めそめそアスカちゃん5

宴会の価値は






















 「あアスカさん、それ納豆っていうれっきとした食べ物だよ。関東では伝統的な食べ物で朝ごはんには欠かせないものなんだよ」
 「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。でも腐ってる腐ってる。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「違うってぇ〜〜」
 「シンちゃんどうしたの」




 折角の緑の黒髪をごちゃごちゃに絡ませたままの寝ぼけ眼のミサトが、タンクトップから胸を半分はみ出させたみっともなくも嬉しい格好で起きてきた。




 「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「アスカさんが納豆の事を腐った豆だって」
 「まぁ確かに腐った豆にはちがいないけどね」
 「やっぱりそうなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「ミサトさん事態を混乱させないでください。アスカさん今食べて見せるから」




 シンジは納豆が入った子鉢に醤油と芥子をぶち込むと素早く小刻みにかき回す。少しかき回した所で葱を入れまたよくかき回す。十分糸がひいたところでご飯の上に乗せた。
 アスカはうっくうっくと泣きながらもちらっちらっとシンジの方を見ている。




 「いただきます」




 シンジは食べ始めた。ぱくぱくとおいしそうに食べている。アスカもいつの間にかに泣きやんでいる。




 「おいしいの?」




 アスカが顔をごしごし拭いながら聞く。




 「うんおいしいよ」
 「じゃ……ちょっとだけ食べていい」
 「うん」




 アスカは手を伸ばしシンジの手の中の茶わんをとった。ミサトはさっきから面白そうにエビチュを飲みながら見ている。




 ぱく




 一口アスカが食べてみる。




 もぐもぐ




 「本当だ。おいしい」




 にっこり




 アスカは微笑んだ。シンジはほっとした。




 「よかったわねアスカちゃん。日本の朝食も奥が深いでしょ。それにしてもシンちゃんの茶わんから食べるとはやっぱり仲がいいわね」




 そう言われてアスカは顔じゅうトマトのようになった。シンジも少し顔が赤い。




 「何言ってるんですかミサトさん。早く朝食食べちゃってください。今日は空港に行かないといけないでしょ」
 「大丈夫よ。遅れそうになったら私が思いっきり車を飛ばすから」
 「いいいいいいいいやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜怖いよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 朝から騒がしい葛城家であった。




















 「うぇぇぇぇん。しっくしっく」
 「気持ちが悪い」
 「はぁ〜〜」




 車を降りた時のアスカ、レイ、シンジの言葉は違っていた。が思いは一つだった。




 (ミサトさんの車にだけは乗るもんじゃない)




 ワンボックス車をあれだけ早く走らせる事が出来るのは確かにミサトだけかも知れない。があれだけ酷く走らせることが出来るのはやはりミサトだけであろう。
 一方もう一人の同乗者であるリツコはケロッとしていた。さすが長い付き合いと言うべきか、そんな事構っていられないのか。たぶん両方であろう。
 リツコは勢いよくワンボックスの助手席から降りると、ダダダダと擬音が付きそうな勢いで白衣の裾を翻し発着ラウンジに向かう。




 「ちょっとリツコ待ちなさいよ。皆追いかけるわよ」




 ミサトも走って追いかける。




 「うわぁ〜〜〜〜んまってよぉ〜〜〜〜」
 「ミサトさぁ〜〜んリツコさぁ〜〜ん」
 「凄く早い」




 リツコを追って発着ラウンジに4人が着いた。リツコはきょろきょろしていた。ふと視線がさだまった。その先には身長が190CM体重100KGはあるであろう白衣姿の巨漢が左手にバック、右手にビーチパラソルかと思うぐらい大きい傘を持ってやはりきょろきょろしていた。リツコと大男の視線があった。




 「あなたぁ〜〜」
 「リツコぉ〜〜」




 白衣の大男はリツコに向かい重戦車のような迫力で進んでいく。リツコはリツコで白衣をなびかせ白鷺の様に駆けていく。
 二人が正に抱きしめあおうとしたその時、側を歩いていた三人の旅行客がいきなりバックや懐に手を突っ込んだ。抜き出した手には拳銃や小型の短機関銃が握られていた。




 チルドレン達は唖然としていた。護衛の黒服も反応しきれなかった。ミサトも拳銃を抜き終わっていたが向けることは出来なかった。








 しゅん




 リツコの手から伸びた光の鞭の様な物がヒットマンの小火器をないだ。




 バラバラバラバラ




 彼らの手から小火器が断片となって落ちた。ヒットマン達は唖然とした。がプロである。サブウエポンを引き釣り出そうとした。




 「どぅりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」




 遅かった。5メートルも有った間合いを一瞬につめ白衣の大男が傘をふるった。




 「竜閃打ぁぁぁぁぁぁ」




 目にも止まらぬ突きがヒットマン達を空中に跳ね飛ばした。




 「サイバーウィップ」




 リツコの光の鞭が跳ね飛んだヒットマン達を捕まえ床に叩きつけた。時間にして5〜6秒の闘いであった。ヒットマン達はずたぼろである。




 「あなたぁ」
 「リツコぉ」




 リツコと大男は再度駆けより抱き合った。大男はリツコを抱き上げるようにしてディープキスをする。




 「派手にやったわね〜〜。それにしても相変わらず敵が多いわね」




 ミサトでさえ呆れている。発着ラウンジは一瞬の静寂が覆っていた。誰もが何が起こったか把握できていなかった。がすぐに雑然となった。空港駐在の警察部隊が駆けつけてきた。ミサトはIDカードを見せるとヒットマン達の始末を頼んだ。
















 「西やん、リツコそろそろいいかなぁ」




 あれから五分くらいマグマの底まで潜って行きそうなディープキスを続けている二人にミサトが言う。警察にも手伝って貰い人払いをしたがまた少し集まってきた。アスカ、レイ、シンジはぼけっとして見ている。ここまで凄いと見てて恥ずかしいとかそういう気も起きないみたいだ。




 んん




 やっと二人は唇を離す。もっともリツコの瞳はまだとろんとしている。大男のほうはそういうこともないようだ。




 「やあ、みさっちゃんひさしぶり。元気?」
 「まあね。西やんも元気じゃない。相変わらず技の切れ味いいわね」
 「それでも夫婦喧嘩したらリツコには勝てないよ」
 「西やん女性に弱いからねぇ」
 「ははは。今日は加持はどうしたんだい」
 「あの馬鹿は仕事だって。ろくに働いてないくせにこういう時はいないから。ったく」




 そんなこんなしているとやっとリツコが元に戻ってきた。




 「あなたぁ〜〜会いたかったわぁ」
 「俺もだよ。俺の可愛い子猫ちゃん」




 30女に子猫ちゃんもないが本人同士本気だから困る。




 「ちょっとまったぁ〜〜」




 たまらずミサトが間に割って入る。




 「まず西やんの紹介をしなさいよ、リツコ」




 まだ頬が上気しているリツコにミサトは言う。




 「……そうね。えっとね私の旦那様の西田シンイチ博士よ」
 「初めまして。西田シンイチです。よろしく。レイと仲良くしてくれてありがとう。皆の事はリツコから聞いているよ」




 そばでまだ唖然としているアスカとシンジに挨拶した。レイは少し無表情になっている。




 「は、初めまして僕碇シンジです」
 「私惣流・アスカ・ラングレーです。……あれリツコさんと名字違うんですか?」
 「それはね、私名前自体は西田リツコよ。普段の生活では西田の名字ね。ただネルフでは赤木姓が有名で仕事がし易いだろうから代えない方がいいよってこの人言うのよ。それでネルフでは赤木姓を使っているわ。本当は私の全部をシンイチの色に染めて欲しいのに」
 「それだったら、俺のほうが赤木シンイチになるっていつも言ってるじゃないか」
 「あなた……でもやっぱり私が西田リツコになりたいわ……」
 「リツコぉ」
 「あなたぁ」




 他のカップルの追従を許さない壮絶な惚気である。確かに邪&マヤでは敵にならない。見つめ合ってる二人に済まなそうにアスカが声をかけた。




 「あ あのぉ〜〜」




 気づかない。




 「西やん、リツコぉ!!」




 ミサトがやれやれと突っ込む。




 「あ なにミサト」
 「なにじゃないわよ。ったく。あんたらその惚気飽きないの?何年やってるのよ」
 「あれは俺達が七つの時小一で初めて会った時からだから23年だな。あの時初めて見てどきりとしたよ。女神様ってこういう感じかと思った」
 「シンイチって強くって優しくって私の王子様ってすぐに判ったわ」
 「ストォ〜〜ップ。だからやめなさいって言ってるでしょうが。とにかくここで話さないで移動よ移動」




 その時である、レイが声をあげたのは。




 「西田博士…………ああああぁぁぁぁ」




 レイは顔を覆い地面に倒れた。唸りながら頭を押えて転げ回る。




 「発作……あなたレイちゃんから離れて。ミサト車まで運ぶのよ」




 一番初めにリツコが反応した。シンイチは10メートル程跳び離れた。ミサトはレイを抱き上げると車へ向かい走り出した。リツコもついていく。アスカとシンジがとり残された。二人は走り去ったミサトとリツコを目で追うシンイチの近くへと来る。




 「西田博士、綾波はどうしたんですか」




 シンジが問い詰める。シンジ自体は問い詰めている気がなくてもシンイチにはそう聞こえた。アスカは涙目だ。アスカが泣きながら睨んでいるように見える。




 「あの……あの症状は……あの子の過去と関係があるんだ。治ったかと期待してたのに……」




 ヒットマンとやり合ってもその後平然と惚気ていたシンイチが青い顔をして言う。




 「レイが2カ月以上前の記憶を持っていないのは知っているね」
 「え、僕は知りません」
 「私聞きました」
 「そうなの」
 「うん。二人で綾波さんちに泊まった日に教えてくれたの」
 「僕には教えてくれなかった」
 「きっとシンジ君を心配させたくなかったんだわ」
 「きっとそうだろう。あの子は優しい子なんだよ。だが俺とリツコはそんな子を、妹として可愛がってきたあの子を過酷に扱ってたんだ。たとえそれが人類を救う為なんて理由がついてもだ。レイは……EVAの実験で記憶を失ったんだ。その時から昔の記憶に関連するものの一部に拒否反応をしめすようになったんだ。特に私にだ。自業自得かもしれん。あの子をずっとネルフに閉じ込めEVAのパイロットとしてそれだけの為だけに育つように強制したのは俺だ。……シンジ君アスカちゃん……頼む。あの子をレイを支えてやってくれ。俺にはできん。頼む」




 大男が惨めとも言えるほど、二人の子どもに頼んでいた。




 「すまない。レイの元に行ってあげてくれ。発作が収まったところに君達二人が心強いだろう。リツコには先にネルフに行っていると言っておいてくれ」
 「はい」
 「判りました」




 アスカとシンジはお辞儀をすると、車の方へ走り去った。二人を見送りシンイチはぽつりと呟いた。




 「それだけじゃ……」




 言葉は空港の喧騒に紛れていった。




















 翌日の天気は晴れだった。結局あれからレイは鎮静剤を投与された。発作自体命に別状があるわけではないが、その日レイはネルフ女子寮の青桐ナイ三尉の部屋に泊まる事となった。着替えや学校の用意はアスカが届けていた。




 「ねえシンジ君、綾波さん大丈夫かなぁ」
 「心配ないとおもうけど。リツコさんは特定の刺激がなければ発作は起きないって言っていたし。当分は青桐さんもついているし」
 「そうよ。西やんに合わなければまず大丈夫だし」
 「ミサトさん、なんで綾波はあんな発作を起こすのですか?」
 「私も詳しくは知らないのよ。EVAの事故で記憶障害を起こしたせいと聞いているけど」
 「なぜ西田博士を見ると発作が起こるのですか」
 「理由は判ってないのよ。レイちゃんはもともとセカンドインパクト後の動乱で孤児になったのよ。それを赤木ナオコ博士……リツコのお母さんね……が引き取って育ててきたの。ナオコ博士が亡くなった後はリツコと西やんが育ててきたのだけど、レイちゃんたまたまチルドレンの素質があって、それでEVAのパイロットとしても育ててきたのよ」




 今朝は珍しくミサトはビールが入っていない。





 「二ヶ月前EVAの起動実験中に事故が起きたの。その時レイちゃんの頭脳と神経に負担が掛かり過ぎたらしいのよ。で、その結果が記憶喪失。事故より過去の記憶は一切失ったわ」
 「西田博士もそう言っていました」
 「その時からレイちゃんは昔の事に係わりあいが有る事や物、人物の一部に拒否反応……発作ね……が起こるようになったのよ。特に西やんの家と西やん自体には昨日のような激烈な発作をおこす事があるのよ。実はレイちゃんがあのマンションに住んでいるのはその事と関係があるわ。あの子他の人達に対しても西やん程ではないにしろ対人恐怖症になってしまったの。その上リツコがあのマンションの部屋を奇麗にコーディネイトすると西田家の部屋を思い出すらしく軽い発作を起こすの。それで……」
 「それであんな荒れた部屋に済んでいたのですね」
 「綾波さん可愛そう……ぐすんぐすん」
 「でもレイちゃんもあなた達のおかげで少しづつ症状が軽くなってきたみたいね。自分から部屋を奇麗にしたいなんてね。あらもうこんな時間だわ。あなた達レイちゃん迎えに行くんでしょ。そろそろ行きなさいよ。今日の朝の後片づけ私がやっておくわ」
 「本当だもうこんな時間だ。アスカさんそろそろ行かないと」




 シンジはしくしくと泣いているアスカにダイニングキッチン備え付けのアスカ用タオルを渡す。アスカは受け取ると顔を拭う。




 「そうね。そろそろ行かないと……ひっく……じゃあミサトさん後片づけ頼みます」
 「レイちゃんに宜しくね」
 「はい判りました」
 「「行ってきます」」
 「行ってらっしゃい」




 二人が出ていった後、呑気そうな顔をしていたミサトは冷蔵庫に向かう。缶ビール500ml缶を一本取り出すとプルタブを空け一気にあおる。半分ほど飲むと冷蔵庫に持たれ掛かる。




 「私達嘘吐きよね……ねえリツコ」




 ミサトは呟き残りを飲み干すと後片づけを始めた。
















 アスカとシンジはネルフの女子寮に着いた。シンジは中に入れないのでアスカがIDカードを見せ敷地内に入っていった。アスカが女子寮の建物の入り口に近づくと30歳程の一組の男女が竹箒で庭を掃いていた。男の方は女子寮の大家の神田シンタロウ一尉らしい。女性の方は後ろを向いているので判らない。ただ奇麗な赤毛である。




 「大家さんおはようございます」
 「あ、アスカちゃんおはよう」




 アスカと大家は顔なじみだ。その時赤毛の女性が振り向いた。




 「ママ!!!!」




 アスカはそう叫ぶと荷物を放り出してその赤毛の女性に抱きついた。




 「ママ、ママ、ママ…………」




 アスカはそう泣き続けた。赤毛の女性は困惑した表情を浮かべていた。
















 「そうなの、亡くなったお母様に私が似ていたの」
 「はい」




 そこは女子寮の敷地に隣接するネルフ職員用の別棟である。会議や一時的な宿泊等に使用される。そこの応接室にはアスカとレイとシンジ、大家と赤毛の女性がソファに座っていた。青桐三尉はすでにネルフに出勤している。




 「それで」
 「はい。いるはずはないのは判っているけど、アスヨさんを見たらそう思えなくて」




 赤毛の女性は神田シンタロウ一尉の妻、神田アスヨ二尉であった。神田夫妻は二人で女子寮を管理している。




 「そんなに似てるの?」




 シンジが聞く。




 「うん。髪の毛はもう少し金髪に近いけど顔はそっくりなの」
 「そうなんだ」
 「でもびっくりしたわ。いきなりママなんて言われて。私いつ子供産んだっけと思ったわ」




 確かにアスカと何処となく似ているアスヨ二尉はほほ笑みながら言う。




 「ごめなさい。でも……懐かしくって……。あのアスヨさん」
 「なあにアスカちゃん」
 「あの……会いに来てもいいですか」
 「いいわよ。大歓迎するわ。いつでもいらっしゃい」
 「はい。ありがとう」




 アスカはぺこりと頭を下げた。




 「うらやましい」




 ぽつりとレイが言った。




 「え」




 アスカがレイの方を振り向く。




 「私もお母さんに会ってみたい。……赤木博士の事をお母さんと思っているけど……でも私の本当のお母さんに会ってみたい。どんな顔をしているのか……どんな人だったのか……」




 レイの言葉の末尾は小さくなっていった。




 「綾波さん……」




 アスカは言葉が続かなかった。応接室は静寂が支配した。












 その日三人は昼休み近くになってから登校した。ネルフの緊急の用という事にしておいた。四時間目の途中からであったのですぐ昼休みになった。




 「はい綾波、アスカさん、お弁当」
 「ありがとうシンジ君」
 「ありがとう碇君」
 「今日は綾波の分もあるから肉は使ってないけどそのぶん魚料理を凝ってみたから」




 美少女二人が少し頬を赤く染めてほほ笑みながらお弁当を受け取る。完全に三人の世界である。




 「かぁ〜〜うらやましゅうて涙もでんわ。ワシも弁当欲しいわ」
 「そういえばいつも鈴原購買部のパンよね」
 「そうや。いいんちょ」
 「あのさ……私って毎日コダマお姉ちゃんとノゾミと私の三人分のお弁当作っているの」
 「さよか」
 「で、いつも材料余らしちゃうの」
 「そりゃもったいないなぁ」
 「で……四人分作るとちょうどいいんだけど……鈴原食べない……」




 真っ赤になるヒカリ。




 「そりゃうれしいわ。いいんちょの弁当いつもうまそうやから」
 「そう。じゃ明日から作ってくるから」
 「おう。頼むわ」




 のんびりと答えるトウジと嬉しそうに顔をよりいっそう赤くしているヒカリであった。




 「皆幸せだぁ………………ケッ」




 某眼鏡君の呟きは誰も聞いていなかった。
















 「済まんなぁシンジ、雨宿りさせてもろて」
 「ミサトさんは」
 「寝てるのかなぁ。今日はネルフは夜から出ればいいから。最近徹夜の仕事が多くて家に居る時はいつも寝てるんだ」
 「大変な仕事やからなぁ」
 「ミサトさんを起こさないように、静かにしていようぜ静かに」




 その日は夕立があった。三バカトリオはゲーセンに寄った帰りに激しい雷雨に見舞われた。アスカは今日夕食の当番の為まっすぐにマンションに帰ったはずだが姿は見えなかった。




 「トウジ、ケンスケ今バスタオル出すよ」




 シンジは取りあえず脱衣所にあるバスタオルを渡すため戸を開けた。




 「「えっ 」」




 そこには着替えている最中のアスカがいた。すでにブラとパンティだけの姿のアスカはブラのホックをはずし終えたところだった。胸のぽっちりはぎりぎり隠れていたが。二人は見詰め合うような形となった。幸いにシンジの陰になりトウジとケンスケからアスカの姿は見えなかった。




 「うわ、ごめん」




 シンジは慌てて戸を閉める。




 「どうしたんや、センセ」
 「シンジどうしたんだい」




 その時であった。




 「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。うわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわぁん。びゅええええええええええええええええええええん。お嫁に行けないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん〜〜〜〜〜〜〜〜」
 「あっ……アスカさん、わざとじゃないんだよ〜〜〜〜」
 「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「着替えているの知らなかったんだよ〜〜〜〜」
 「うわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわん」
 「許してよ〜〜〜〜」




 マンションごと揺らすようなアスカの泣き声がそこいら中に響き渡る。三バカの三人は慌てて耳を押える。




 「どうしたのよぉ〜〜」




 ネルフの制服を着たミサトが部屋に飛び込んできた。




 「ミサトさんすいません。アスカを泣きやめさせてください。間違って着替えてるところを見ちゃったんです」




 ミサトはとにかく脱衣所に飛び込んだ。




 どたんばたん  むぐむぐ




 ミサトがむりやりアスカを静かにさせたらしく、脱衣所の中からアスカのくぐもった声が聞こえてくる。




 ごそごそ ひそひそ がさがさ




 一分 二分 三分 …………




 三バカが固唾を飲んで見守っていると普段着に着替え俯いたアスカと少し困ったような顔をしたミサトが脱衣所より出てきた。アスカは俯いたままシンジの前に歩いてくる。




 バチ




 アスカの平手打ちがシンジの頬を襲った。アスカは顔を覆って自分の部屋に駆け込んでいった。




 「ありゃ、センセ。珍しく惣流怒っとったわ」
 「そうみたいだね。涙だらけの目が釣り上がってたもんね」




 トウジとケンスケが面白がって言う。




 「アスカちゃんもうお嫁に行けないって泣いてたわよ。責任取ってあげないとねぇ。シンちゃ〜〜ぁん、だめよ、女の子のヌード見たいからってアスカちゃん覗いちゃ。いつでもミサトお姉さんが見せてあげるって言ってるでしょ」




 ミサトもからかいモードである。トウジとケンスケはミサトのヌードを想像したのかでれっとした顔をしている。一人シンジは頬を押えて立っていた。




 「まあ、アスカちゃんもシンちゃんがわざと見たのじゃないのは判ってるみたい。だから後でしっかり謝っとけば大丈夫よ」
 「は、ハイ」




 シンジは言う。




 「え、あ、お」
 「あ、おお邪魔してます」




 一方妄想に耽っていたトウジとケンスケが慌てて挨拶をした。




 「二人ともいらっしゃい。今日はどうしたの?」
 「雨宿りさせてもろおてます」
 「そうなの」
 「ん?あ!このたびはご昇進おめでとうございます」
 「お、おめでとうございます」
 「ありがとう」
 「いえ、どういたしまして」
 「じゃ、行ってくるわね。シンちゃん後でアスカちゃんに謝っておくのよ。それからハーモニクスのテスト忘れないようにね」
 「はい」




 ミサトは颯爽とマンションを後にした。




 「「いってらっしゃぁ〜い」」
 「どうしたの?ミサトさんに何かあったの?」
 「ミサトさんの襟章だよ。線が二本になってる。一尉から三佐に昇進したんだ」
 「いつのまに」
 「マジにいうとるんけ。情けないやっちゃなぁ」
 「君には人を思いやる気持ちはないのだろうか。あの若さで中学生二人を預かるなんて、大変なことだぞ」
 「ワシらだけやなぁ、人の心持っとるのは」
 「面倒見てるのは僕とアスカさんのほうなんだけど……」




 シンジの呟きは二人には通用しなかった。




















 「0番2番、共に汚染区域に隣接。限界です」
 「1番にはまだ余裕があるわね。プラグ深度を後0.3下げてみて」




 ここはネルフの実験場。ハーモニクスの試験中である。




 「汚染区域ぎりぎりです」
 「それでこの数値とはね……」
 「ハーモニクス、シンクロ率もアスカに迫ってます」
 「やっとシンジ君の能力が現れて来たようですね」
 「予定通りか……」




 リツコ、マヤ、ミサト、峯しかいないオペレートルームは沈んでいた。




 「まぁ暗くなってもしょうがないわね。さっさとテスト終わらせましょうよ」
 「それもそうね」




 四人は黙々と作業を続けた。












 「三人ともお疲れさま。シンジ君、よくやったわ。ハーモニクスが前回より8も伸びているわ。たいした数字よ」
 「あのリツコさん。いつも不思議に思っているんですけど、ハーモニクスとかシンクロ率ってどうやったら上がるんですか。僕特に努力なんかしていないですけど」
 「まぁ早い話が慣れと精神集中と思い込みね。ミサトじゃないけど気合いと根性そのあたりかしら」
 「はぁそうですか」




 シンジは何となく納得したようなしないような顔をしている。




 「リツコさん、もう帰っていいですか」
 「ええいいわよ」
 「失礼します。おやすみなさい」




 アスカは固い表情のままリツコにお辞儀をするとオペレートルームを出ていった。




 「今日はアスカちゃんどうしちゃったのよ。何か怒ってたみたいだけど」
 「実はねぇ〜〜シンちゃんたらアスカちゃんの着替え覗いたのよねぇ。そんでさばっちり胸見ちゃったのよ」
 「ち違います。覗いたんじゃありません。それに胸全部見てません。着替えているのを知らなくて脱衣所の戸を開けてしまったんです」




 真っ赤な顔をして反論するシンジ。ふと横を見るとレイがじっと見ている。何となく視線が冷たいような気がシンジにはした。




 「誤解だよ。綾波〜〜」
 「博士帰ります。おやすみなさい」




 レイもすたすたと部屋を出ていった。




 「あらレイも呆れたみたいね。シンジ君……」




 リツコの視線もじとっと冷たい。




 「シンジ君、俺も男だから君の気持ちは判る。だが同居人に対して覗きはいけないよ……」




 峯が頷きながら言う。




 「違うんです〜〜」




 シンジの悲痛な叫びがオペレートルームに木霊した。
















 翌日もアスカは怒ったままだった。いつもなら二人仲良く登校のところだが先にアスカはマンションを出てしまった。




 「シンちゃぁ〜〜ん、がんばってねぇ〜〜」




 と今日もお気軽なミサトの言葉に送り出されてシンジはマンションを後にした。いつものベンチまで来たシンジであったがレイはいなかった。どうやらアスカと行ったらしい。しょうがなくシンジはとぼとぼと一人で登校した。












 「シンジ」




 教室に入ると。ケンスケが真っ先に声を掛けてきた。いつもと教室の様子が違う。妙に男子達の視線が暖かい。




 「がっかりするな。誤解が解ける日は必ず来る」
 「なんの?」
 「惣流結局怒ったまんまだろ」
 「何で知ってるの?」
 「惣流の様子が変なので委員長が聞き出したんだよ。それを横で聞いていた奴がそこら中に言い触らしたって訳さ。おかげで今や学校中で噂だよ。学校の二大美女を独占する碇シンジが、そのうちの一人惣流・アスカ・ラングレーに振られてもう一人綾波レイには愛想尽かされたって」
 「……」
 「俺はちょっとした行き違いぐらいだというのは判っているけどね」
 「……そう。ありがとケンスケ」




 二人は教室の入り口近くで話していた。シンジが窓際のアスカとレイの席を見ると二人とも席に着き同じ様な格好で頬杖を突き窓の外を眺めていた。シンジは意を決すると自分の席、ようするにアスカの席の隣に向かう。クラス中の視線が集まる。シンジは自分の席に付く。




 「アスカさん」




 思い切って声を掛ける。周囲は固唾を飲んで見守っている。アスカはぴくりとも動かない。まるで彫像である。




 「あの……アスカさん」




 アスカがシンジの方を振り向いた。




 じろり




 口をへの時に曲げキッと眼を開いてアスカはシンジを睨んだ。そしてまた視線を窓の外へ戻す。




 「あ…………」




 シンジは言葉が続かなかった。そして直ぐに始業のベルが鳴った。
















 昼休みとなった。今日はシンジの弁当当番だったのでシンジは二人分の弁当箱を出した。




 「アスカさんこれお弁当」




 アスカの赤い弁当箱を差し出す。だがアスカはすくっと立ち上がるとレイの元へ行く。




 「綾波さん。屋上で二人で食べない……」




 レイはしばらくアスカを見ていたが何を思ったのかこう言う。




 「ええ、いいわ」




 レイは自分の弁当箱を持つと立ち上がる。二人は教室を出ていった。シンジはアスカの後ろ姿を視線で追っていたが思わず深いため息をついてしまった。




 「シンジそんなに気にするなよ。惣流もその内許してくれるさ」
 「そやそや。センセは悪気が有った訳やない」




 ケンスケとトウジは機嫌がいい。ケンスケはアスカのもの思いに沈んだ表情の写真が撮れて喜んでいたし、トウジはヒカリ特製の残り物で作ったとは思えないほど大量の弁当が入った巨大な弁当箱を目の前にしていたからたである。




 「ねえ、碇君はどうするつもりなの」




 ヒカリが聞く。先ほど無事にトウジに弁当を渡し終えたせいか顔が赤い。




 「あの……仲直りしたい……」




 シンジはいじいじと声が小さい。




 「そうなのね。判ったわ。碇君、相田君、鈴原お弁当食べないで待っててね」
 「んな、殺生な」




 トウジは反論する。




 「鈴原、今日10分間お弁当早く食べ始めるのとこれからずっと私がお弁当作ってあげるの、どっちがいい?」
 「う……それは……ずっと弁当の方……」
 「じゃ待っててね」




 さすがヒカリである。アスカとシンジの喧嘩の仲裁とトウジの餌付けを両立させる。ヒカリはタッタッタッタと小走りに教室を出て行った。












 屋上ではアスカとレイが並んで昼食をとっていた。アスカは学食のパンをレイは自分の弁当を言葉も無しに食べていた。二人とも全然食が進んでいないみたいだ。




 「あ、やっぱり二人ともここに居たんだ」




 ヒカリは屋上にやってくるとアスカとレイの元に来る。屋上は結構広く似たようなグループが五組程昼食をとっていた。




 「洞木さん……」




 俯いてぼそぼそとメロンパンを噛っていたアスカが顔をあげる。いかにも元気がない。ヒカリはアスカの隣に座る。レイも箸を止めヒカリを見る。またアスカは俯く。




 「惣流さん、碇君が仲直りしたいって」
 「……」
 「惣流さん、まだ怒ってるの?」




 ヒカリはアスカの顔を覗き込む。




 ぽろ ぽろ




 大粒の涙が食べかけのメロンパンの上に落ちる。




 「……ひっく……私……ううう……怒った事あまり無いから……ひっく……仲直りしたいけど……ううう……きっかけがうまく掴めなくて……うううううううう」




 アスカは泣きながら、自棄喰いならぬ悲し喰いをしたくなったらしい。残りのメロンパンを口に押し込む。アスカは顔をあげる。アスカはほっぺたをリスの様に膨らまし口を手で押えながらながらぽろぽろと涙を流していた。




 「判ったわ。じゃあ私に任せておいて。碇君と仲直りさせてあげるから。そのメロンパン食べ終わったら早速教室に戻りましょう。碇君達待ってるわ。綾波さんも付き添ってね」
 「ええ、判った」




 レイは食べかけていた弁当を一旦片づける。ようやくメロンパンを飲み込んだアスカをヒカリが立たせる。まだアスカはうっくうっくとしゃくりあげている。ヒカリはそんなアスカの手をとり慰める。一方レイは自分の弁当箱を入れた袋を右手に持ちアスカの昼ご飯の袋を左手に持ち立ち上がった。左手が重い。覗いてみるとミネラルウォーターの2リットル瓶が入っている。やはりあれだけ泣くと喉も乾くのであろう。三人は教室に戻っていった。












 「……いいんちょまだかいなぁ〜〜」




 トウジが情けない声で話している。三バカ達も何となく言葉少なげにしていた。いつもの通り机を集めていた。ただ女性陣がいないので間が空いていた。




 「碇君お待たせ」




 ヒカリの声で三バカが一斉に振り向く。そこにはヒカリに寄り添われたアスカと袋を両手に持ったレイが教室の入り口に立っていた。教室に居る他の生徒も興味深そうに見ている。三人はシンジの側に来る。シンジは立ち上がる。




 「碇君、惣流さんが許してあげるって。だからまず謝って」
 「う、うん。アスカさんごめんなさい」




 シンジはそう言うと頭を下げた。




 「じゃ今度は惣流さんね。一言許してあげるって言えばいいのよ」




 ヒカリは側で俯いて立っているアスカにそう言う。少したった後アスカが口を開いた。




 「……シンジ君許してあげる」




 お〜〜〜〜




 教室で歓声が上がる。ヒカリは振り向かずに両手を肩の高さに挙げ水平に横に伸ばすと静かにしなさいというゼスチャーをする。それだけで教室が静かになる。さすが学級委員長だけの事はある。




 「さ、これで一見落着ね。ただやっぱり碇君悪い事したんだから償いはしないとね。こんなのどおかなぁ?一つだけ惣流さんの言う事なんでもきくっていうのは……」
 「僕はいいよ……」
 「じゃ決まりね」
 「……わ、私そんな事いいわ……」




 さっきからまた俯き黙っていたアスカが呟く。




 「惣流さん権利はとっとけば?その内使う日もくるわ」
 「そやそや惣流そうしとけや。これで一見落着や。さ皆席に着いて飯や飯」




 トウジのナイスな?フォローでうまく収まった。6人はいつもの並び方で席に着く。レイはアスカの袋を渡す。




 「ありがとう」




 アスカはまだ俯き気味である。




 「これお弁当」




 シンジがおずおずと弁当箱をアスカに差し出す。




 「ありがと……」




 アスカもおずおずと弁当箱を受け取る。




 「さて弁当や、弁当」




 トウジはさっきからこれである。おかげで場の雰囲気は和んでいる。トウジの食い意地もたまには役に立つようだ。みんな自分の弁当箱を開く。もっともケンスケは学食のパンだが。




 「「「「「「いただきます」」」」」」












 「あのさ、一つ提案があるんだ」




 昼食もあらかた終わり、アスカとシンジもやっと普通に会話出来るようになった頃、ケンスケが言った。




 「ミサトさん三佐に昇進したじゃないか。そこで昇進祝いのパーティーを皆で開いてあげたらどうかと思うんだ。どうかなぁ」
 「そりゃええわ。皆で宴会や」
 「鈴原の場合それが目的ね」
 「いいんちょそれは違う。我らが女神ミサトさんが昇進されおったのや。宴を開かなあかん」
 「碇どう思う?」
 「いいんじゃないかなぁ。綾波や惣流さんはどう?」
 「うん。いいわね。私は賛成よ」
 「私もいい」
 「私も賛成。場所はどうするの?料理は私達が作るとして」




 すでに対トウジ用の料理をあれこれ頭に思い浮かべながらヒカリが言う。




 「場所は碇のマンションでいいんじゃないのか。あそこの居間って広いし」




 確かにダンスの練習が出来るぐらいだ。




 「いいけど、一応ミサトさんに断らないと」
 「そうね。ねえシンジ君、どうせならネルフの人達も呼んだら?加持さん、リツコさん、日向さん、マヤさん、青桐さん……」




 アスカはどうやらシゲルについては忘れているらしい。




 「それはいいね。リツコさんやマヤさん、青桐さんはいい被写体だし」




 ケンスケがなにかずれた意見を言う。




 「そやな。それと宴会と言えば芸や。隠し芸は一人一つは必須や」
 「え〜〜〜〜。僕何にも出来ないよ」
 「私もないわ」
 「隠し芸?」




 昼休みは騒がしく過ぎていく。
















 「へえ〜嬉しい事言ってくれるじゃない」




 その日はシンクロテストがあるためアスカ、レイ、シンジの三人は学校から直接ネルフに行った。シンクロテストも終わりミサト、リツコ、マヤ、トビオなどとリツコの個人研究室で挽きたてのコーヒーで寛いでいた。西田博士もシンクロテスト自体には立ち会っていたがレイに顔を合わせないように姿を消していた。先ほどアスカがミサトにパーティーの事を話したところだった。




 「でミサトさん何時がいいですか。場所はマンションの居間、料理はアスカさんと綾波と洞木さんの手料理が出ます」
 「へぇ〜〜それは楽しみね。私は……そうね……来週末の日曜日がいいわね」
 「判りました。リツコさんその日はテスト無いように予定組んで貰えませんか?」




 シンジが交渉する。




 「いいわよ。ここでだめなんて言って宴会ぽしゃったらミサトに何言われるかわからないからね」
 「リツコあんたねぇ〜〜」
 「リツコさんもどうですか?ネルフの人達も呼びたいんですけど」
 「う〜〜ん、さすがに作戦部と技術部の主要メンバーが全員宴会するのはね」
 「そうよね。ちょっちやばいわ。そんな時に使徒が来たらネルフは全滅よ」
 「それもそうですね」
 「まあ日程があった人だけ参加という事でいいんじゃない」
 「そうね、じゃ決定よぉ〜ん」




 ミサトがお気軽に宣言する。




 「博士」
 「なにレイちゃん」
 「隠し芸って何?」
 「そうそう、私も昼休みに言われて判らなかったの」




 アスカも言う。




 「あらシンジ君教えてあげなかったの」
 「知っていると思ったから」
 「アスカちゃんはドイツ育ちだしレイちゃんはそのあれだから……日本の宴会の風習は知らないわよ」



 「そうよね。ええっと……隠し芸っていうのはその人が得意な技を皆に披露して皆を喜ばせることよ」



 「博士が美味しい料理を皆に作ってあげたら隠し芸ですか」




 レイは真面目な顔をして聞く。




 「確かに上手な料理は芸の一つだけど、リツコの料理が美味しいのは知れ渡っているから隠し芸にはならないわよ」
 「じゃ皆が知らない事ならばいいのね」
 「そうね。アスカちゃんも判った?」
 「なんとなく」
 「じゃ期待してるわよ」



















 瞬く間に宴会当日が来た。




 「盛り上がるだろうな」
 「そうね。まあ主役がミサトじゃねえ」
 「そういえばシンイチはこないのか?」
 「来たかったらしいけどそうするとレイちゃんが来れないわ」
 「それもそうだなぁ」




 仕事の都合で宴会の時間ぎりぎりに来た加持とリツコはミサトのマンションのエレベーターの中だった。




 「それはそうとしてシンイチとはうまくやってるかい?」
 「ええ、なんで?」
 「暗いからさ。あいつらしくもなく」
 「……久しぶりにレイちゃんと会えたのにあの子が発作を起こしたからよ。それ以降危ないから会ってないのよ。最近は二人に近接センサー付けて近づいたら警告を与えるような仕組みにしてるのよ」
 「あいつだけのせいではないのにな……」
 「そうよ直接手を下したのは私と二人でなのに」
 「いや、そういう意味じゃなくて俺も葛城も司令達も共犯なのにな……」
 「そうね」




 二人はエレベーターを降りマンションの廊下を歩いていた。




 「よしましょうこの話しは。シンイチなら放っておいて、あの人は立ち直り早いから」
 「そうか……どちらかというと立ち直りが早いと自分に思い込ませるのが早いような気がするがね」
 「それが歳をとることじゃないの。もういいの。あの人は私が毎日慰めてるから」
 「へいへい」




 ちょうどミサトの部屋の前に着いたところだった。部屋のドアには「葛城ミサト三佐昇進記念パーティー会場貸し切り中」とはり紙がしてあった。中からは微かに声が聞こえて来た。
















 ぱち




 「鈴原つまみ食いなんてお行儀の悪い事しないの」
 「いいんちょ、もうあかん。これ以上がまんできへん」




 トウジがテーブルの上に並べられているご馳走に手を出そうとしてヒカリに手を叩かれていた。やはり調教されている。




 「シンちゃぁ〜ん、そろそろ始めてくれない。私も早く飲みたいわぁ」




 ミサトも焦れてきた。会場になった居間にはミサト、リツコ、加持のサーティーズとアスカ、レイ、シンジのチルドレンとケンスケ、トウジ、ヒカリの2バカとイインチョズが揃っていた。




 「じゃ始めます。進行役はケンスケがやります」
 「不肖私相田ケンスケが進行役を努めさせていただきます。ではまず乾杯の音頭をリツコさんから」
 「あら私がやるの。加持君かと思ったわ。まぁでは。ミサトも早く飲みたがってるし手短に。私もここ10年来の付き合いだけどこんなアル中でも三佐になれるんだからネルフも平和よね。ともかくそんな平和が長く続いてミサトがビールに浸れる事を祈って乾杯」
 「「「「「「「「「乾杯」」」」」」」」」




 かちゃん




 ごくごくごくごくごく ぷはぁ〜〜〜〜




 いきなりミサトはミサト用に準備された3リッターのジョッキに入ったビールを飲み干す。




 「くぅ〜〜〜〜。やっぱこれよねぇ〜〜〜〜この為に生きてるようなものよねぇ〜〜〜〜」
 「それにしてもこの飲みっぷりは一種の芸よね。あの身体のどこに入るのかしら」
 「シンちゃ〜〜ん。おかわり」
 「はい」
 「かぁ〜〜この天ぷら美味いわ。さすがいいんちょや。いい嫁はんに成るで」
 「そんなぁ……鈴原……」
 「おっいいね。洞木の表情。これは売れるカメラカメラ」
 「碇君この茶碗蒸しどう?」
 「綾波美味しいよ」
 「アスカちゃんコロッケ美味いよ。ビールのつまみにいいね」
 「嬉しい」




 さっそく宴会へと突入した。




 「そうだ葛城これお土産」
 「なに?」
 「なになに」




 ミサトのそばにいたアスカも覗き込んだ。




 「へへへへへへへびが瓶の中に浮いてる……びええええええええええええええええええええええええん怖いよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……むぐむぐ」
 「あアスカちゃんこれははぶ酒って言って有名なお酒なのよ。これは滋養強精に効く薬酒なのよ。加持いきなり変な物見せないでよ」
 「すまんすまん」




 ミサトがアスカの口を手で押えながら言う。はぶ酒は加持がすぐ隠したのでアスカもすぐ泣きやんだ。




 「ひっくひっく……怖かった……うっく」
 「ごめんごめん。アスカちゃん長いものダメだっけ」
 「うん……蛇怖い……ひっく」
 「じゃこれは向こうへ置いておこう。葛城後であれを飲んで二人で熱い夜をす……」




 ばき




 加持が全て言い終わる前にミサトの右ストレートが加持の左頬にクリーンヒットした。加持は吹っ飛ぶ。




 「か加持さん大丈夫」
 「あいつはトラックにはねられても死なないわよ」




 酷い言われ様である。








 「綾波この煮魚とても美味しいよ。それにこのお刺身見事だね。綾波が作ったの?」
 「うん」
 「凄いよ。出刃包丁もちゃんと扱えるんだね」
 「練習したの……」
 「もう完全に僕は追い越されちゃったなぁ……」
 「碇君どうしたの。少し悲しそう」
 「料理って数少ない取り柄だから。僕の」
 「そんな事ない。碇君他にもいっぱいいいところある」
 「そうかなぁ……」
 「うん」
 「ありがとう綾波」
 「お碇と綾波がいい雰囲気だ、これも売れるカメラカメラ」




 ケンスケは相変わらずである。




 「洞木さんは中々の料理の腕ね。主婦歴10年の私が保証するわ」
 「そやそやこんな美味い料理喰えるんなら、イインチョの家に住みつきたいぐらいや」
 「す鈴原……まだそんな私達まだ14だしまだ後4年経たないと結婚できないし。ででも一緒に住むのは出来るけど、委員長としては…………」




 ヒカリは妄想の世界へ突入した。




 「あれ加持さんこの瓶詰は何?」
 「あアスカちゃん開けちゃだめだ」




 すでにミサトのパンチのダメージから立ち直った加持が慌てた。




 ぱか




 「びびびびびぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん虫がいっぱいいるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんぐぅぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「これは蜂の幼虫で信州の名物なんだよぉぉぉぉ」
 「あ〜〜ら酒のつまみによさそうね」




 あちこちで騒がしい。




 「……ていうようにすれば味にまろみが出るわ。後は洞木さん経験を積む事ね」
 「判りました。リツコさんさすが主婦10年生ですね。凄く判り易いです。そういえばリツコさんっていつ旦那さんと知り合ったの?」
 「ふふふふ……それはね今を去る事23年前よ。私とあの人が小学1年生の時、私が転校して来て…………」




 リツコが猛然と話し出す。




 「あちゃぁ〜〜」
 「ひっく……うっく……どうしたのミサトさん……ひっく」




 アスカはようやく泣きやんだみたいである。加持はアスカに変なものを見せた罰としてまたもミサトのパンチを喰らい完黙している。




 「リツコ西やんとの惚気話すると長いのよ。私なんか初めて会った日にアパートに二人で押しかけてきて惚気話と昔話連続8時間夜通し聞かされたわ。あの二人の惚気話は使徒をも倒すってネルフでは言われているわ」
 「そ……そうなの……ミサトさんの料理といい勝負なのね」




 アスカも後ろの方は小声になった。




 「ミサトさん」
 「なぁにアスカちゃん」
 「ミサトさんと加持さんはどうやって知り合ったの」
 「あいつとはね大学時代に初めてあったのよ。私が一回生の時に大学構内で迷っちゃって……」
 「昔からだったんですね」
 「ううっさいわねぇ〜〜。であいつが(お嬢さんどうしたんだい)って近づいてきたのよ」
 「それで」




 愛しの加持の昔話が聞けて身を乗り出すアスカである。




 「であいつ次の日にはもうバラの花束持って(愛しい姫よ。私は貴女の虜と成ってしまいました。もう貴女以外の存在は無に等しいです)なんて口説きだすのよ」
 「それでそれで」
 「当時は私もうぶでね、はっきり言って怖かったわ。それで逃げ回ったのよね」
 「……」
 「でもそのうち馴れてきちゃって……まあずるずるとなし崩し的にね。である日アパートで二人で呑んでたら行くとこまでいっちゃったのよ」




 想像でもしたのかアスカの顔は真っ赤だ。




 「あれでも昔は私の王子様に見えたのよね。今は単なるスケベだけどね」
 「あ…あの、どうして別れたんですか」




 アスカは少し聞きにくそうだ。




 「あいつ極端な浮気症なのよねぇ〜〜見ればわかるけど」
 「そうなんですか」
 「だからアスカちゃん初めては加持にあげようなんてくれぐれも思っちゃだめよ。まぁ〜〜心配しなくってもアスカちゃんにはシンちゃんがいるもんね。このこの」




 ミサトがアスカをつっ突く。




 「え、あ、その」




 アスカが絶句する。




 「え〜〜皆様ご歓談中恐縮ですが、ここで隠し芸の発表をお願いしたいと思います。まず洞木ヒカリ嬢からどうぞ」




 やんややんや




 「少し待っててね」




 ヒカリはキッチンに行く。戻ってくるとその手には包丁があった。ぎらりとその切っ先がトウジの方へ向く。




 「いっいいんちょ話せば判る……もう週番さぼらんさかいにかんにんや」
 「鈴原どうしたの?」




 ヒカリは勝手に震えているトウジの横を通り過ぎると袋からリンゴと紙皿を取り出す。




 「あら、リンゴとは珍しいわね」




 リツコが言う。常夏の国日本ではリンゴは高級品である。ヒカリは左手には紙皿に乗せたリンゴを右手には包丁を持ち、ケンスケが周りを片づけた居間の真ん中に立つ。




 「では。一番洞木ヒカリ行きます」




 はっ




 左手のリンゴが跳ね上がった。




 しゅん しゅん しゅん しゅん




 とん




 目にも止まらぬ速さでヒカリの右手がひらめいたと思うと、何事もなくリンゴが落ちてくる。ヒカリは紙皿でそれを受け止める。




 「なんでもないやんけ」




 確かにリンゴはそのままである。ヒカリはリンゴの上の部分をぽんと包丁で軽く叩く。




 ぱら




 お〜〜〜〜




 リンゴは見事に八等分された。




 「八城神流包丁術です。お粗末さまでした」




 ふかぶか




 ヒカリが頭を下げる。またもや歓声と拍手が部屋を包んだ。ヒカリは自分の席に戻る。リンゴの皮と芯を取るとミサトに勧める。




 「ありがとヒカリちゃん。それにしても凄いわね。これなら彼氏は浮気出来ないわね」
 「え……彼氏……まだ……いません」




 声は小さい。




 「そやな。いいんちょの彼氏も大変や」
 「鈴原のばか……」




 ここまで鈍ければ立派である。




 「いいんちょうの技凄かったですね。どうも有難うございます。次は不肖この私相田ケンスケが努めさせて貰います」




 ケンスケはバックより巨大な弾倉の付いたエアガンを取り出した。居間の反対側の壁に持ってきた段ボール紙で出来た大人の身長より高い的を置く。




 「え〜〜だれかあの前に立って貰えませんか」
 「「「…………」」」
 「安全ですから」
 「「「…………」」」
 「あの……」
 「「「…………」」」
 「…………」




 ケンスケは少し寂しそうに笑う。段ボールの的を片づけようとする。




 「私やる」




 レイが立ち上がり的の前に立つ。




 「綾波……ありがとう」




 ケンスケが言う。




 「綾波動かないでね。怖かったら目を瞑っていてくれ。相田行きます」




 ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ




 ケンスケのエアガンからBB弾が続けざまフルオートで飛び出た。レイの体の輪郭にそって段ボール紙の的に穴が開いていく。きっちり10秒後ケンスケは射撃をやめた。




 「綾波当たらなかった?」
 「一発も当たらなかった」




 レイはそう言いながら的の前から退き席に戻る。。見事にレイのシルエットのとおりに的に穴が開いている。ここでも拍手が起きる。ケンスケも頭を下げる。そして的を片づけようとする。




 「ケンスケ君、次私よね。的片づけないでいいわ」




 リツコから声がかかる。




 「はい、ではリツコさんどうぞ」
 「ミサトそのビールの空き缶取って」
 「なにすんのぉ」




 ミサトはリツコに空き缶を渡す。リツコはそれを的のレイのシルエットの上に投げつける。




 しゅんしゅんしゅん




 弧を描いて宙を飛ぶ空き缶に三本の銀の光が立て続けに吸い込まれた。




 カンカンカン




 空き缶はレイのシルエットの頭の上に固定されていた。三本の長めのメスによって。リツコは誰の目にもメスを投げる手を見せなかった。




 「我流よ。夫婦喧嘩で腕を磨いたわ」




 またもや拍手が起こる。




 「では隠し芸の第一部は終わりにします」




 ケンスケが一応閉める。それに伴い皆は少し席を動いた。ケンスケは的を片づけた後レイの横に来て座る。




 「綾波さんありがとう。……さっきは……その嬉しかった」
 「そう。よかったわね」




 レイの表情を感じさせない言葉に何となく感情が現れているのを見て取りケンスケは少し嬉しかった。室内では徐々に変わった組み合わせで会話が行われていた。ヒカリはトウジと加持が男の生き方について討論を交わすのを横で興味深そうに聞いている。時々加持が大人の話しをするとその度に顔を真っ赤にしている。ミサトはケンスケを早速からかっている。レイは不思議そうに見ている。
 一方アスカとシンジはリツコに先ほどの技について聞いていた。




 「リツコさん、凄いわ。いつあんな技を身に付けたの」
 「小さい頃からよくメスは使っていたからよ。よくシンイチと解剖をして愛を確かめあったわ。ウフフフフフフフ……。」
 「そ…そうですか」




 リツコのニタリ笑いで少し引いてしまうアスカとシンジである。




 「でもね他の皆もこのぐらい出来るわよ」
 「皆って?」
 「ネルフの上層部よ。ネルフの幹部は自分の身ぐらい守れないといけないの。結構敵は多いから」
 「幹部ってまるでテレビの悪の組織の大幹部みたいだ」
 「あれって自分の身を守るレベルじゃない気がするわ。確かに悪の組織の大幹部……」




 ぴくぴく




 「二人ともいい度胸ね」




 リツコのこめかみがぴくりと動く。




 「「なな何でもないです……」」
 「そう口は災いの元とも言うわ。まあいいわ。ちなみにミサトは小火器と車の操作の天才でしかもネルフで一番の怪力。加持は(The Silencer)と言われているのよ。彼が一旦気配を消すとあらゆるセンサーに引っかからなくなるのよ。何せ赤外線や重力場センサーにまで引っかからないの。非科学的でいい加減な能力だわ。性格と同じね。まあ普通に喧嘩や殴り込みかけたら加持・ミサトのカップルがネルフで二番目に強いわね」
 「一番は?」
 「もちろん私とシンイチのコンビね。私達の白衣は特殊強化白衣だからライフル弾や手榴弾位なら大丈夫だし私の電磁鞭とあの人の杖術はEVAの装甲も切り裂くわ」
 「「……そ……」」




 絶句するアスカとシンジ。




 「指令や副指令も凄いわよ。彼らは説得術ね。あの二人にかかるとやって来た暗殺者が雇い主を襲ったり、富豪や組織の長と会うとその人達が全資産をネルフに寄付したり……よっぽど私達より凄いわ」
 「父さんらしいですね。そうやってどんどん他人を自分の為に利用して踏みにじって棄てるんですね」
 「シンジ君……そんな事ないわよ。確かにやり方は非情な所もあるけど全人類の為に働いているのよ」
 「そんな事関係ないよ。だったらたとえば今日少しでも顔を出したらいいんだ。折角ミサトさんのパーティーなのに」
 「指令と副指令は仕事で南極に行っているのよ」
「どうでもいいよ父さんなんて……」




 シンジは不機嫌そうにジュースを飲む。




 「シンジ君」
 「なあにアスカさん」
 「あの……違ってたらご免なさい……どうしてシンジ君お父さんの事嫌いなの」
 「…………」
 「あ……ご免なさい」
 「父さんは僕を棄てたんだ。母さんが事故で死んだ後に。それを必要になったから呼び戻したんだ」
 「でもお父さんがいるだけいい」
 「なんであんな父親なんか……」
 「私二人ともいないもん……」
 「えっ……」
 「私のパパ小さい頃に死んじゃって顔も知らないし、ママも実験に失敗して徐々に狂って自殺したの」
 「そうなの……」
 「今のパパとママは養父母なの」




 下を向いたアスカの顔から涙の滴がこぼれる。




 「今のパパとママも好きよ……だけどやっぱりパパとママに会いたい……パパ……ママ…………」




 アスカは声も無く泣いていた。シンジはどうする事も出来なかった。周囲は騒がしく周りは気づいてないようだった。




 「アスカちゃん……私達ママやパパになる事は出来ないけど、ここにいる間はミサトや私やシンイチや加持君が代わりに頑張るわ。これは仕事だからとかじゃないわ。アスカちゃんやレイちゃん、シンジ君は私達の本当の子供だと思ってるの。EVAの操縦者だという理由だけで係わっている訳ではないつもりよ。これだけは信じてね。あなた達は可愛い私達の子供よ」




 リツコはアスカを胸に抱き髪を優しく撫でる。アスカは肩を震わし声をたてずに泣いていた。リツコもうっすらと瞳に涙を浮かべていた。こちらは後悔の涙だった。




 「シンジ君」
 「何ですかリツコさん」
 「出来たら司令を信じてあげて。司令もシンジ君の事好きなのよ。今すぐにとは行かないでしょうけど」
 「…………」
 「あらぁ〜〜シンちゃん怖い顔してどうしたの。あらアスカちゃん泣かしちゃったの。だめよ女の子泣かしちゃ〜〜。加持になっちゃうわよ」




 ミサトが乱入して来た。リツコにしか見えない位置でウィンクをする。




 「違いますよ……」
 「またまた…前から思ってたんだけどシンちゃんってアスカちゃんとレイちゃんどっちが好きなの……お姉様に教えて」




 ミサトもこれでは単なる酔っ払いである。




 「……」




 シンジは急に話しが変わって困惑している。




 「シンジ君こういう時こそ俺に相談してくれ。恋愛において対象は何も一人だけに絞らなくてもいいんだ。そうだりっちゃん今度二人だけのディナーはど……」




 ばき どしゃ




 左手でアスカをあやしたままのリツコの右アッパーが加持の顎を捕らえる。天井近く舞い上がった加持をミサトが掴みそのままパイルドライバーをくらわす。いつもの微笑ましい光景がそこにはあった。




 「シンジ君ゆっくりでいいからね」




 リツコはシンジに言う。シンジはまだ難しい顔をして考えていた。




 「相田君〜〜そろそろ隠し芸第二弾お願い」




 ミサトがリクエストした。




 「ではまた司会を努めます。まず最初に綾波レイ嬢どうぞ」




 ぱちぱち




 拍手が起きる。




 レイは持って来た紙袋からSーDVDを取り出す。レイはちらりとアスカを見た。アスカはまだリツコの胸で泣いていた。皆は気を気かせてそのままにしておいている。レイはSーDVDをサウンドオンリーでかけると部屋の真ん中に立つ。やがてポップにのりがよいリズムとメロディーに編曲されたJAZZの名曲が流れて来た。




 ちゃんちゃちゃちゃちゃっちゃ ちゃんちゃちゃちゃちゃっちゃ




 レイは全身を使いリズムをとる。




 「………… Fly me to the moon And let me play among the stars Let me …………」




 白い妖精の喉から滑りでてくる銀の鈴の音、金の詩。レイはその時ミューズであった。部屋はその歌声に満たされ潤った。
 ご馳走をパクついていたトウジも手を休めて聞き入った。ヒカリは胸に手をあて聞き、トウジに肩を寄せる。シンジは表情がほぐれてくる。ケンスケはビデオを回すのも忘れている。そしてアスカもリツコの胸から顔を起こした。アスカの顔は涙で濡れていたが表情は穏やかになってくる。子供達は星々の間で遊び、大人達は子供の頃の夢を思い出した。




 やがてレイの歌が終わった。部屋は静まり返った。ずっと静かだった。




 「あの…下手だったの…」




 レイがぽつりと言う。




 「そんな事ないで綾波。ワシでさえごっつう上手いのが判るぐらいや。ワシ初めて歌聞いて感動したで。なぁいいんちょ」




 本当らしい。硬派トウジがヒカリに肩を寄せてられているのも気にならないぐらいだ。レイの歌はトウジに歌を愛でる心を与えたらしい。




 「えっええ。私あまりに良かったのでボッとしちゃった」




 確かに呆然とした表情だ。ヒカリはふと自分がぴったりトウジにひっついているのに気が付く。顔を真っ赤にして飛びのこうとしたが、すぐにそのままでいることにしたらしい。歌はヒカリに勇気を与えたらしい。



 
 「歌も綾波も素敵だなぁ……」




 ケンスケが小声でぽつりと言う。ケンスケは恋心が湧いたのか。




 アスカとシンジはリツコを挟んで肩を寄せている。穏やかそうな顔の二人は目を瞑っていた。彼らは安らぎを得たようだ。




 「レイちゃん、少しずつ昔に………」




 リツコが言う。少し涙ぐんでる。彼女は僅かな許しを得たようだ。壁ぎわではミサトと加持が並んで座っていた。ミサトは軽く頭を加持に預けていた。ミサトは少し素直になったようである。




 ぱちぱちぱちぱち




 「ブラボー、レイちゃん素晴らしいよ。久しぶりに感動できたよ」




 加持は拍手をする。




 ぱちぱちぱちぱち




 みんな目を覚ましたように拍手をしだす。拍手はなかなかなり止まなかった。レイは所在なさそうに立っていた。




 拍手がやっとなり終わった時レイはお辞儀をした。それを見てケンスケが慌てて司会をする。




 「綾波さんありがとう。とっても綺麗……え…あ…す素敵でした。まるで本物の歌手みたいだ」
 「そうよね。レイちゃん将来はミュージカルスター目指したら。何時かはこの戦いも終わるんだしね」
 「そうよ綾波さん。凄いわ天才よ」
 「そうだよ綾波」




 口々にレイをほめた。一方レイはきょとんとしていた。




 「私歌上手いの?」
 「そうだよレイちゃん。君ほどの歌い手プロだって中々いないな。どのくらい練習したんだい」
 「一週間です」
 「……一週間……まさに天才だぁな」




 加持の言葉を聞いても納得できないらしい。首をひねりつつレイは席に戻った。




 「では次に碇シンジ君どうぞ」




 ぱちぱちぱち




 拍手に送られてシンジが出てくる。椅子を部屋の中央に置く。




 「ちょっと待ってて」




 シンジは自室に戻っていった。しばらくすると大きな楽器のケースを抱えてきた。床にそれを置く。そのケースを開こうとした。




 ビービービービー




 その時大人達とチルドレン達の携帯から一斉に呼び出し音が鳴り響いた。しかも普通の呼び出し音と違っていた。緊急呼び出しの音であった。




 「はいリツコよ。なあにマヤ……」




 リツコが携帯に出ると皆の携帯の呼び出し音が止んだ。連動しているのであろう。




 「判ったわ。皆ですぐ行くわ」




 リツコはそう言い携帯を切った。




 「済まないけど皆緊急事態になったわ。今すぐネルフ関係者は本部に行かないといけないの」
 「それって。あの化け物かいな」
 「ごめんねトウジ君。今のところは秘密なのよ」




 リツコはそう言うと錠剤の入った瓶をハンドバックから取りだしミサトに投げて渡す。ミサトは瓶を開けると五粒ほど飲み込む。瓶を加持に渡す。加持も同じ様に飲むと蓋を閉めリツコに投げて渡した。




 「これでパーティーは中止よ。私の為にありがとう」




 ミサトは笑いながら頭を下げる。そのまま前に突っ伏すと床の上で悶える。




 「ミサトさん、加持さん」




 シンジがびっくりし声をかける。ミサトの横では加持が壁にもたれて脂汗を流しながら苦痛に耐えているようだ。




 「ミサトと加持君なら大丈夫。さっき飲んだ私特製の超高速アルコール分解剤の副作用。五分ぐらい猛烈な頭痛で苦しむけど後はすっきりよ。もう何回も飲んでるから馴れているわ」
 「でもリツコさん」
 「気にしないの」




 リツコが冷静と言うより冷酷な声で言う。
 



「さあこの間に後片づけよ。済まないけど皆手伝ってくれないかしら」




 リツコの合図で一斉に後片づけが始まった。やがて加持が普通に戻る。




 「流石にきついな。葛城はまだみたいだな」
 「ミサトは呑み過ぎだからかかるのよ」




 ミサトは床で頭を抱えて唸っていた。そうしている間にも居間は子供達によって片づけられていく。




 「じゃ加持君頼むわ」




 リツコは壁にもたれかかると同様に薬を飲む。しばらくするとやはり頭を抱えて唸り出す。それとほぼ同時にミサトが復活する。すぐ立ち上がる。




 「ヒカリちゃん私達どのくらいで戻ってこれるか判らないのよ。今日のご馳走腐るといけないから三人で分けて持っていっちゃってくれない?」
 「はい判りました。じゃあ大皿借ります」




 ヒカリは三枚の大皿にご馳走を手早く三等分しラップで包む。やがて片づけは終わった。




 「じゃ加持私のアルピーナでヒカリちゃん達送ってくれない。私達は先にバンで行っているから」
 「判ったよ」
 「じゃあ気をつけてね。多分シェルターヘの避難とかそんな事があるから三人とも家でじっとしててね」
 「はい。アスカさん、綾波さんも気を付けて」
 「センセもきばれや」
 「ミサトさん達も頑張って」




 ヒカリ、トウジ、ケンスケの三人はマンションの部屋を出ていった。加持がついていく。ミサトはネルフ本部の緊急連絡先に携帯をいれる。




 「日向君、私。現状を報告して。……うん……で……うん……そう……うん…………判ったわ。じゃ待機よろしく」




 ミサトは携帯を切る。アスカ、レイ、シンジはミサトとリツコを交互に見ている。




 「今度は衛星軌道上に使徒よ。本部に行って皆待機。すぐ行くわよ。アスカちゃんリツコのハンドバック持ってね」




 ミサトはそう言うとまだ唸っているリツコを肩に担ぎ部屋を出ていく。チルドレン達がそれに続いた。
















 「手で?」
 「そう。手で」




 ここは作戦部の待機室のホールである。一晩ネルフの宿泊施設に泊まったチルドレン達は壁一面に広がったディスプレイを使い作戦のブリーフィングを受けていた。チルドレンとミサト、リツコ、マヤ、マコト、ナイ、シゲルがいた。他のメンバーは使徒の情報収集をしている。
 壁のディスプレイには水母に目を付けた様な使徒の姿とその地球を廻る軌道。落下予想地点などが示されていた。




 「使徒は本体自体をここに落下させて来るわ。そこで落下予測地点にEVAを配置、ATフィールド全開であなた達が直接使徒を受け止めるのよ」
 「そんなことしてEVAは壊れないんですか」




 シンジが言う。




 「無事な確率はMAGIによると60%。今西田博士がEVAの移動速度と対衝撃性を上げる為のチューンナップをしているわ」




 リツコが答える。




 「使徒がコースを大きく外れたらどうなるの」




 アスカが心配そうに聞く。




 「現在の所使徒がこの予想地点に落下する確率は80%。世界中の光学天文台、電波天文台、レーダーサイト、人工衛星、SSTSが観測して精度をあげているわ」
 「総合的な作戦成功確率は」




 レイが静かに聞く。




 「MAGIの計算によると12.3%ね」
 「なんて低いの……そんなの作戦じゃないわ」




 アスカが言う。




 「そうね。でもやるしかないのよ」
 「アスカさん。私と碇君で実行したヤシマ作戦の成功確率は8%。今度は12%でアスカさんもいる。成功する」
 「そうだよ。それに世界中が味方なんだよ。大丈夫だよ」




 レイとシンジが励ます。




 「使徒の高精度軌道観測が終わるまで待機室でスタンバってて。ナイ後はお願い」
 「はい部長」




 ナイを除く大人達は待機室を出ていった。子供達はまだぼんやりと椅子に座っていた。ナイはディスプレイの電源を切ると部屋の灯りを着ける。




 「ナイさんは行かないんですか」
 「私今度職務がネルフ本部内でのチルドレンのサポートとガードになったのよ。オペレートもするけれどね」
 「そうなの」
 「そうよ。これからは何でも相談に乗るからね」




 ナイはそう言うと待機室のロッカーを開ける。三着のプラグスーツを取り出す。




 「これは新しいプラグスーツよ。あなた達今成長期で身体データすぐ変わるから」




 それぞれのプラグスーツをナイは三人に渡す。




 「シンジ君昨日の宴会どうだった?レイちゃんの歌ってとても上手なんですって。私も行きたかったけどマコトさんと当直だったのよね〜〜。だいたいもともとは青葉さんが当直だったのに青葉さん休暇とっちゃったのよ。デートなんですって。ほんと失礼しちゃうわ。でもマコトさん優しいのよ。本当は宴会にでる予定だったのに当直つきあってくれたんだから。それに……」




 いきなりべらべらと話し出したナイに三人とも唖然としている。




 「ああのナイさん」
 「あら何シンジ君」
 「僕達今そんな話しする気分じゃないんですけど……」




 ナイは話すのをやめシンジの近くの椅子に座る。一転して真剣な表情でシンジに話しかける。




 「シンジ君、チルドレンの中で一番使徒を倒しているのはあなたよ。言うなればエースパイロット。あなたがそんなに余裕がなかったらアスカちゃんやレイちゃんが可愛そうよ。男の子なんだからしゃきっとしなくちゃ」
 「…………」
 「三人とも元気ないぞ。元気に真剣に一生懸命に明るく使徒を倒しましょう。なんとかなるわよ。こんな時はミサトさんを見習いましょうよ」
 「ナイさん前向きなのね」
 「まあね。全てに前向きがいいじゃない。仕事も恋も生活もね」
 「でも……やっぱりこんな確率じゃ……」
 「アスカちゃん……私も怖いわ。オペレートをして皆を送り出した後、いつももう会えないんじゃないかって。でもだから皆必死になってオペレートしてるし、EVAの整備もしてるし、改造もしてるし……絶対成功するわよ」
 「……」
 「時間が有りすぎるから考えすぎているだけよ」
 「ナイさん、前から不思議に思っていたのだけど使徒ってなぜネルフに向かってくるの?どうしてこんな成功確率が低い時でも皆で逃げないの?」
 「……私も良く知らないわ。ただ噂だと使徒がジオフロントの奥底まで侵入するとサードインパクトが起きて人類が滅びるという話よ」
 「「「…………!」」」
 「詳しくはミサトさんやリツコさんクラス以上じゃないと知らないのよ」
 「そんな……」
 「でもね、作戦がたとえ失敗してサードインパクトが起きてもEVAに乗ってるあなた達は生き残れるわ。ATフィールドが守ってくれる」
 「でも僕らだけ生き残っても……」
 「だけど誰かが生き残る事は重要よ。どうせ生き残るのなら子供の方がいいじゃない。幸い男の子一人と女の子二人がいれば人類は復興できるわよ」
 「それは神話の中の話です」
 「どっちにしてもあなた達に失敗して貰うつもりはないわ。私だってもっと先輩とデートしたいし……」




 ピーピー




 部屋の電話がなった。




 「はい。青桐です…………判りました」




 ナイは電話を置く。




 「使徒の高精度軌道観測と落下予測計算が終わったわ。三人ともプラグスーツに着替えて20分後に第七ケージに集合よ」
 「「「はい」」」




 チルドレン達はナイに連れられ部屋を出ていった。
















 「ねえアスカさん」
 「なあにシンジ君」




 ここは更衣室の前である。アスカとシンジは着替え終えてレイを待っている。レイのプラグスーツに故障がありナイがもう一着取りに行っている。レイは更衣室にいる。




 「アスカさんはなぜEVAに乗るの」
 「なぜって……ママが弐号機作ったから……他の人に取られたくないから。シンジ君は?」
 「初めは綾波が怪我してて可哀相だったから乗るって言ってしまった。今は判らない」
 「……なぜ聞いたの」
 「アスカさんやっぱり戦いに向いてないような気がするから」
 「……私弱虫だものね」
 「そんな事ないよ。アスカさんはよく泣くけど決して弱虫じゃないよ」
 「ありがとう……綾波さんはどうしてEVAに乗るのかな」
 「以前(絆だから)って言ってた」
 「絆って?どういう意味かしら」
 「判らない。記憶が無かったから他人の係わりがEVAしか無かったのかもしれない」
 「でもそうだったら……綾波さん可哀相。もともとEVAが原因で記憶を失ったのに……」




 タッタッタッタッタッタッタッタッ




 「お待たせ。レイちゃんは中ね。そこで待っててね」




 ナイがレイ用のプラグスーツを持って走って来た。急いで更衣室に入って行った。アスカとシンジは何となく黙り込んでしまった。
















 「目標を最大望遠で確認」
 「距離、およそ2万5千」
 「おいでなすったわね…………エヴァ全機スタート位置」




 ミサトの合図によりEVA三機が陸上の短距離選手の様に構える。




 「目標は光学観測及びレーザーレーダーによる弾道観測しかできないわ。情報が少ないのでMAGIでも距離1万までの誘導がやっとよ。その後は各自の判断で行動して。あなた達にすべて任せるわ」
 「使徒接近距離およそ2万」
 「では、作戦開始」




 ミサトの合図によりアンビリカブルケーブルが切り離される。




 「行くよ……スタート」




 シンジの声により三機のEVAは一斉に走り出した。アスカはEVAを走らせた。EVAで走った。ふとさっきの話が頭に浮かんだ。




 (私なぜEVAに乗るの……)




 雑念は弐号機の速度を遅らせる。




 (ママの弐号機を取られたくないからだけなの?)




 脳裏にミサトのビールを呑む時の笑顔、加持の苦笑いや三バカで談笑してるシンジ、レイの戸惑ったような笑顔が浮かんだ。




 (そう。この笑顔を守るため)




 弐号機は急に加速をした。理論値の最高速度を越えて落下予測地点へ走り抜けていった。第三新東京市を外れた小高い丘の上で初号機がATフィールド全開で使徒を一人で受け止めていた。が初号機は至る所の装甲が歪み体液が吹き出ていた。アスカは初号機のウインドウに歯を食いしばって耐えるシンジを見た。




 「〜〜〜〜」




 アスカと弐号機は無言の咆哮をあげて初号機の元に向かった。膝をつきかけた初号機の元に弐号機が到着した。ほぼ同時に零号機も到着した。両機はATフィールドを全開にすると初号機と共に使徒を持ち上げた。




 「ハッ」




 レイの気合いと共に零号機は右の手刀を使徒のATフィールドに突き刺した。じりじりと中和してこじあけていく。




 「今よ」




 レイの声に反応してアスカは弐号機にプログナイフを装備した。ATフィールドの裂け目から使徒のコアにプログナイフを突き立てた。




 ピシ




 使徒のコアにヒビが入ると同時に周囲を白光が包んだ。




 小高い丘は姿を消した。












 「EVA三機のATフィールド及びパイロットの生存確認しました」




 マヤの報告と共に発令所にホッとした空気が流れる。




 「回収班パイロット回収を急いで。シンジ君かなり無理したみたいだから」




 ミサトの指令でまた発令所は慌ただしくなった。




 「補強足りなかったみたいね」
 「お前の落下予測がずれ過ぎたんだよ」




 早速夫婦喧嘩を始めるやつらもいる。




 「加持あんた暇なんでしょ。回収班指揮しなさいよ」
 「へいへい」




 こっちも似たようなものである。




 「さてと後始末しないと。いつも使徒を倒してからが大変なのよねぇ〜〜」
 「いつも私と日向先輩が後始末しているのに……」
 「あらぁ〜〜ナイちゃん。どっかの支部へ飛ばされたいのかなぁ〜〜」
 「い…いえここがいいです」
 「そうよねぇ日向君の隣の席はナイちゃんの物だぁもんねぇ〜〜」




 すでにからかいお気楽モードに入っているミサトであった。




















 「シンちゃんよく頑張ったわね」
 「あ、はいミサトさん」




 ここはネルフのチルドレン専用病棟である。シンジはベッドに寝ている。上半身を起こそうとするが首以外はほとんど動かない。




 「シンちゃん今首から下は麻酔で動かないわよ。麻酔無しでも痛みで動かないらしいけどね。三日もすれば元通りらしいわ。そうしたら退院祝いも兼ねてまた宴会やりましょうね」
 「初号機はどうなりました?あの後記憶が無いんです」
 「大破よ。でも基幹部分は大丈夫だから何とか復旧できるみたい」
 「そうですか」
 「そうよ。それからさっきやっと電波の状態が復旧して南極の司令と回線が繋がったわ」
 「父さんと……」
 「よくやったと伝えておいてくれと言っていたわ」
 「父さんが……」
 「ま、素直に言葉は受け取っときなさい」
 「……」
 「シンちゃんたら本当に暗いんだからぁ。こおいう時は明るいネタよねぇ。シンちゃんさぁ〜〜ずばりアスカちゃんとレイちゃんどっちが好きなの」
 「なな何をいきなり言ってるんですかミサトさん」
 「だってぇ〜〜今なら身動きとれないし反撃したり逃げたり出来ないじゃない」
 「そんなぁ〜〜」
 「さあきりきりと白状しなさい。実は二人を部屋の外に待たせてるのよねぇ。そうだ白状しないと二人の目の前でシンちゃんのファーストキッス奪っちゃおうかなぁ〜〜」
 「……何考えてるんですか。綾波〜〜アスカさん助けてぇ〜〜ミサトさんに襲われるぅ〜〜むぐむぐ」




 ミサトは慌ててシンジの口を手で押える。




 がしゃがしゃどし〜〜ん




 ミサトが病室の入り口を振り向くとそこには金髪と白髪の般若が立っていた。自動ドアは無理矢理こじ開けられている。




 「ああアスカちゃんレイちゃん話せば判るのよぉ〜〜〜〜」








 結局ミサトは三人に2週間の完全休暇、アスカとレイに今年流行の水着とワンピース、シンジには期間中の禁ビールで許して貰うこととなった。




 上記行動に対する10年来の友人夫婦のコメント……




 「無様ね」
 「とんまだな」














つづく





NEXT
ver.-1.00 1998+06/21公開
ご意見・感想・誤字情報・らぶりぃりっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!




あとがき




 OFF会の一部で変な食べ物について盛り上がったんです。ほんとはアスカちゃんに食べて貰おうかと思いましたが……蟻とか蜂の子とか。




 あとEVAの3rdCDの最後の曲でレイが歌う「Fly me to the moon」があってそれがたまらなく好きなんです。でこうなりました。




 それから予告どおりちゃんとLASだったでしょう。ラブラブ・赤木・シンイチ……




 お後がよろしいようで…………てんつくてんてん








 うん?後書きが短い?では




 青葉シゲルの青春日記




 「カルカさん」
 「シゲルさん」




 シゲルは飛羽カルカと共に新東京プレトンホテルの一室にいた。二人の出会いはネルフで徴集した選挙宣伝カーにウグイス嬢としてカルカが乗っていた事に始まる。ネルフ本部内に入り込んでしまい異様な雰囲気に脅えていたカルカにシゲルが優しくた。




 「ほんとにいいんだね」
 「ええ」




 今日シゲルは決める気であった。カルカが好意を持っていてくれる事は判っていた。
 シゲルはカルカを抱き寄せた。ディナーで味わったさくらんぼのお酒の香りが微かに漂ってきた。カルカは目を瞑ると少し顔を上に向けた。二人にはこれからめくるめく一夜が待っているはずであった。




 が




  ビービービービー




 シゲルの携帯から緊急呼び出し音が鳴り響いた。




 (なんでなんでこんな時に〜〜聞こえない聞こえないぞぉ〜〜)




 シゲルは固まっていた。が彼もネルフの人間であった。目を瞑っているカルカを優しくベッドに座らすと携帯を取った。




 「もしもし。ナイちゃんなんだい。うん……うん……うん、判ったすぐ行く」




 シゲルは携帯を切る。ベッドできょとんとしているカルカに向かいシゲルは言った。




 「済まない。急にネルフに行かないとならなくなったんだ。送っていくよ」




 カルカはしばらくシゲルを見つめていた。無表情に言った。




 「いいわ。送って貰わなくても。ダブルの部屋で一人寂しく一晩過ごすわ」




 カルカは立ち上がると机の上のバラの花束を取る。シゲルに投げて渡す。花束は床に転がる。




 「持って帰って。それから二度と会いたくないわ。女に恥かかせたんだから」




 カルカは背を向ける。シゲルは花束を拾うとコートを取り無言で部屋を出て行った。
















 使徒を倒して一週間経った。シゲルは作戦部計画立案室で報告書を作成していた。彼は司令室直属のオペレーターの為司令室の側に室がある。が部下のB級オペレーターと二人だけなので二人とも普段は作戦部計画立案室に間借りしている。非戦闘時はミサトの指示に従う事になっている。




 ふぅ〜〜




 シゲルはため息をつくと首を回す。コキっと頸骨の繋ぎ目が音を出す。




 「おいシゲルどうしたんだい、ため息ばっかりだぞ」
 「いや特に何でもないよ」
 「ま、その内いい事もあるさ」




 マコトが言う。ナイは発令所で待機だ。その時部屋にミサトが入ってきた。




 「シゲル君ちょっとぉ〜〜」




 非戦闘時はお気楽ミサトである。




 「何ですかミサトさん」




 近くに寄って話を聞くシゲル。




 「えっとね……これ」




 ミサトはポケットから二枚のチケットを取り出す。




 「これは……コンサートのチケット?それが何か」
 「デートよデート」
 「……ミサトさん相手を間違えてませんか……マコトが睨んでます」
 「ん……あら違うわよ。あなたと飛羽さんとのよ」
 「……もう終わってます。お気遣い有難うございました」




 シゲルは自分の席に戻ろうとする。




 「ちょっと待った。お節介とは思ったけど飛羽さんとは私が話つけてあげたわよ」
 「…………」
 「職務でしょうがなく呼び戻したからってね。一応軍隊だから逆らうと敵前逃亡で独房入りだって。そしたら意外と簡単に納得してくれたわよ。どうやら好きな人に冷たくされたと思ってすねてたみたいよ。女同士だと話しは早かったわ。でさこのコンサートだったら一日付き合ってくれるっていうからリツコに頼んでMAGI使ってチケット取って貰ったのよ」
 「…………」
 「それとこの日プレトンホテルのスイートルーム取っておいてあげたわよ。費用はネルフの作戦費用ちょろまかしたから安心して。それとその日と翌日も休み取っといてあげたわよ」
 



 シゲルは唖然としていた。




 「本当に大きなお節介ですね…………ミサトさん有り難くご好意受けさせて貰います」




 シゲルは深々と頭を下げる。




 「そうよぉ〜〜若者は素直が一番。ほんと最近うちの子供達が小生意気になって来てねぇ〜〜」
 「あ聞いてますよ。でも自業自得じゃないすか」
 「あらぁ〜〜そんな事言っていいのかなぁ〜〜。チケットとホテルの予約MAGIで取り消して貰おうかなぁ〜〜」
 「そうですね。確かにあの子達最近小生意気ですね」




 シゲルが慌てて言う。




 ぷぷぷ




 同時にシゲルとミサトと聞き耳を立てていたマコトが吹き出した。




 「じゃ頑張ってね。善は急げって言うじゃない。ほら電話電話」




 ミサトはチケットをシゲルに手渡した。




 「はい。有難うございます」




 シゲルは再び頭を下げると部屋を出ていった。




 「いいわね青春って……」
 「ミサトさんもまだ青春真っ最中じゃないですか」
 「あ〜〜らそんなに褒めてもなにもあげないわよ。褒めるのだったらナイちゃんにしてあげなさいよ」
 「私はミサトさん一筋です」
 「ひどい……私の事遊びなんですね」
 「うわナイちゃん発令所じゃないのか」
 「二人で夜当直の時優しくしてくれたのにあれは……うううう……うえええええええええええええええん」
 「ナイちゃん落ち着いてぇくれぇ〜〜」
 「あらそこまで進んでいたのね。やるじゃない〜〜」
 「うええええええええええええん」




 葛城ミサトとその一党は今日も賑やかであった。




 おわり










 合言葉は「めそめそアスカちゃん」




 ではまた



 まっこうさんの『めそめそアスカちゃん5』、公開です。




 っけ。

 腐りマメの話かっ

 ぺっぺっ。

 あんなもん人の食うもんじゃねえ。


 包丁で細かく刻んで、
 にゅるにゅるの生卵ぶっかけて、
 傷口に醤油を塗りこんでから、

 胃酸で消化してくれるわぁ



 こう書くと、私は納豆食える人みたいだけど−−

 以下の但し書きが付いちゃうの(^^;
 「ただし、胃酸は私以外の物」


 どうも納豆とセロリはアカンの (;;)




 納豆の香りを漂わすアスカちゃん・・・

 くううう−−

 食後の歯磨きで大丈夫か(^^)
 シンジくんも気にしないでしょうし(^^)(^^)


 当人同士の問題ってやつでしょうか



 ラブラブカップルがとっても多いこの世界で
 それなりになるのはとっても大変。


 レイちゃんも可愛いしね(^^)



 さあ、訪問者の皆さん。
 メールを送りましょう!感想を、まっこうさんに!




TOP 】 / 【 めぞん 】 / [まっこうの部屋]に戻る