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めそめそアスカちゃん4・静止した闇は恐いよぉ〜〜







 「「ただいまぁ」」




 アスカとシンジが学校から帰ってきた。普通ならクラブ活動をするところだろうが二人はパイロットとの両立が難しい為入部していない。




 「あれアスカさん。この靴誰のだろう」




 玄関のたたきには男物の靴があった。




 「あっこれ、加持さんのだぁ。加持さぁ〜〜ん」




 アスカが慌ててどたばたとダイニングに向かうと、ミサトが長い髪を後ろで纏めた男とテーブルで向かい合わせに座り話していた。ミサトは笑みをこぼしていた。




 「加持さぁ〜〜ん」




 だきだき




 後ろからダイブするようにアスカは男の背中に抱きついた。




 「うわぁ〜〜〜〜〜〜〜やめてくれぇ〜〜〜〜〜〜〜〜」




 男が急に立ち上がる。アスカはきょとんとしている。振り返った男の顔は確かに加持だ。




 「えっえっえっえっかか加持さんが……うううううううう……私のことを……うううううううう……嫌いに……うううううううううううううう…………ううううううううううぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇびぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
















































 その子は奇麗で可愛くて才能豊かで魅力的。
 みんなも知ってる中学生。
 でも彼女には一つ秘密があったのです。
























 彼女は




























     泣き虫だったのです




















めそめそアスカちゃん4

静止した闇は恐いよぉ〜〜


























 「あっアスカちゃん。今は加持であって加持でないんだよ。頼むから泣きやんでくれぇ〜〜〜〜」




 並みの泣き方ではなかった。それはそうだろう。加持にそんな風にされれば。




 「シンちゃん、理由は後で話すからアスカちゃん慰めてあげて。今加持はアスカちゃんに近寄れないのよ」




 ミサトが大声で言う。アスカの泣き声でガラスはびりびり震え食器はがたがた揺れている。ダイニングの入り口で固まっていたシンジはアスカの後ろから近づく。ぺたんと床に座り泣き声、涙、鼻水、よだれ全開のアスカの口を片手で押さえる。アスカは手を振り回しまだ泣き続けようとする。しかたがなくシンジはもう片方の手でアスカの両手を押さえつけて胴に手を回す。




 「むぐむぐむぐむぐ」
 「アスカさん落ち着いて。ミサトさんが説明するって言ってるから。落ち着いて、ね」




 シンジはとにかくアスカを落ち着かせる為押さえ付ける。事情を知らない人が見たら襲っているようにしか見えない。そのうちアスカも落ち着いてきた。シンジが手を離すとアスカは振り向く。呼吸が苦しかったらしくえぐえぐ言っている。




 「ううう……シンジ君酷い……いくら何でもあれだと苦しいわ……ううう」
 「ごめんね、アスカさん。ただこうしないと泣きやまないと思ったから」




 アスカは今度はぽかぽかと軽い力でシンジの胸を叩く。結構微笑ましくもある光景である。




 「こりゃ確かに仲がいいな」
 「そうでしょRYO。なかなかなのよ」




 ミサトと加持はのんびりと話している。




 「ひっく……ひっく……シンジ君もう大丈夫……ひっく……」
 「はい。これ」




 慣れたものでシンジがタオルをアスカに渡す。アスカはよく顔中をぬぐう。目を真っ赤にしたアスカはミサトと加持のほうに向く。シンジが立ち上がらせる。加持はミサトの横に椅子を動かし移動する。




 「すまんがシンジ君アスカちゃん、テーブルの反対側に二人で座ってくれないか」
 「はい、判りました」
 「…………」




 アスカはまだ泣きたいのを口をへの字にひんまげて我慢している。加持に嫌われたのがよほどショックなのか少しふらふらとしている。シンジはアスカを椅子に座らすと自分も隣に座る。




 「アスカちゃん今から説明するから落ち着いて聞いてね。頼むから泣くの我慢してね」




 ミサトの言葉にアスカはこくりとうなずく。




 「実は加持って二重人格なのよ」
 「「二重人格〜〜〜〜?」」




 ミサトの説明にシンジとアスカが変な声でハモる。




 「でね、ほとんどはいつものリョウジの人格が表に出ているのだけれど、時々今の彼が出てくるの。初めは彼自分の事やはりリョウジって言っていたのよ。だけど紛らわしいからRYOと言う名にしたのよ」



 「で、今はそのRYOさんなんですね」




 シンジが聞く。アスカは横で呆然としている。




 「そうなんだシンジ君。よろしくな。アスカちゃん驚かして悪かった。RYOだ。よろしく」
 「そうですか。なんかまだ信じられないですけど。RYOさんよろしく」




 シンジは答える。アスカもやっと口を開く。




 「RYOさん、私のこと嫌いなんですか」




 またアスカの瞳に涙が溜る。そうであろう。どうであれ加持は加持だ。




 「いやそうじゃないんだアスカちゃん。俺RYOの方は強度の女性アレルギーなんだ」
 「「女性アレルギー!!」」




 またもやアスカとシンジが変な声でハモる。




 「そうなのよアスカちゃん。リョウジもRYOもほとんど性格に差はないわ。お互いやっている事も判るらしいの。差は唯一、強度の女好きか強度の女性アレルギーか、この差なのよ」
 「そうなんだアスカちゃん。俺は当然アスカちゃんを知っているし大好きだよ。ただ俺は女性に近寄られたり触れられたりすると体中に発疹が起きてしまうほどなんだ。それでさっきはあんな事をしてしまったんだ。ごめんねアスカちゃん」
 「そうなの……私知らなかった……何でおしえてくれなかったの?」
 「アスカちゃんに心配かけたくなかったからね。それに話しても信じられないだろうし」
 「RYOさんて加持さんなの?私の事本当に好きなの」
 「もちろんだよ。俺のかわいいアスカちゃんだからね。俺もリョウジもその辺はまったく変わらないよ」
 「よかった。加持さんは加持さんなんだ。よかった。よかった」




 アスカは嬉し泣きでぽろぽろと涙を流した。タオルはぐしょぐしょに成っていたので、シンジがハンカチを差し出す。アスカは礼を言い受け取ると顔を覆った。まだ泣き足りないらしい。シンジはそっとしておくことにした。




 「で加持さん、RYOさんって呼んだほうがいいのかな……」
 「どっちでもいいよシンジ君」
 「じゃRYOさん、RYOさんと加持さんはどのくらいで入れ替わるのですか?」
 「規則的ではないが、1年のうち1週間ぐらい連続で俺が表に出てるんだよ。いきなり入れ替わるんだ」
 「あの……ひっく……RYOさん」




 やっとアスカが回復してきた。




 「何でRYOさんミサトさんの隣だと平気なの」
 「それは、判らない。ただ今まで葛城だけが平気だった。けっこう俺もリョウジも葛城の事女と思ってないのかもな。ベッド以外では」




 ばぎ どん




 ミサトの至近距離からの右ストレートを喰らいRYOは壁まで吹き飛んだ。




 「ね、性格変わらないでしょ」




 ミサトは平然とお茶をすすっている。




 「いてえ。相変わらず暴力女だな。まぁ喧嘩が強いのは男女問わずいい事だけどな」




 慣れているのか平然と起き上がり椅子に戻るRYOである。




 「ところで加持さん、今後どうするの」




 アスカが心配そうに聞く。




 「リョウジに戻るまでここに泊めて貰うつもりで来たんだよ。俺はどうせ葛城以外の女性に近づけないからね」
 「加持さんと一緒にいられるんだ」
 「でもアスカちゃんに近寄れないんだ。ごめんね」
 「ううんいいの。ちょっぴり寂しいけど」
 「まあ、そこはシンジ君に慰めて貰ってくれ」
 「うん、えっ、あっ……加持さんのバカ」




 アスカは赤くなり俯く。シンジは横でぼけっとしている。




 「ほーやっぱりね、俺はどうやら振られた様だなぁ葛城」
 「そうね。まああんたみたいな女ったらしのすけべは結局最後には誰も相手にしなくなるのよ」
 「ひどいなぁ葛城、だいたい俺は葛城一筋だよ」
 「なに言ってんのよ。ばぁ〜〜〜〜〜〜〜〜か」
 「やっぱり加持さんミサトさん以外どうでもいいんだ。私なんてどうでもいいんだ……うううううううう…………」
 「いや、そういう意味じゃなくて、アスカちゃん」
 「うぇうぇうぇうぇううううううううううううううぁあああああああああああああああああああああああん」




 やっぱり騒がしい葛城家である。
















 夕食後の一家団欒のひととき四人はお茶を啜っていた。




 「いやぁ、アスカちゃん料理上手いね、リョウジを通して知っていたけどこんなに美味しいとは思わなかった」
 「ほんと。嬉しいわ加持さん」




 アスカは目をウルウルさせて感動している。嬉し涙がすでに目に溜っている。




 「嬉しいわぁ〜〜〜〜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんわんわんわんわん」




 アスカはよほど嬉しいのかぼろぼろ涙を流している。ただあまり騒がしくないので残り三人は話を続けた。




 「そうだミサトさん、今日学校で進路相談の通知があったんですけど」
 「そうなの、でシンちゃんどうするの?」
 「どうって?」
 「私が行く?それとも碇司令に行って貰う?」
 「それは…………」




 シンジの表情が少し落ち込む。アスカもシンジの表情を見て泣きやむ。




 「私としては仲直りしてほしいのよ、碇司令と」
 「……」
 「もちろん無理にとは言わないわ。でもトライしてみたら?」
 「う、うん」




 シンジは表情をますます暗くする。アスカは気になり聞いてみる。




 「シンジ君、どうして碇司令……お父さんと離れて暮らしているの?」
 「それは……父さんは人類と引き換えに僕を捨てたんだ。ネルフの司令の仕事と父親は同時に出来ないから僕を親戚に引き取らせたんだ。それからは母さんの命日にしか会ってなかったんだ。ここに来る迄は」
 「シンジ君……可哀相うううううううう」




 アスカはしくしくと泣き始めた。




 「あ、アスカさん泣かないで。僕は今寂しくないんだから。ここにこうやって家族もいるし。加持さんみたいないい相談相手もいるし」
 「ありがとうシンちゃん。家族って言ってくれるのは嬉しいわ。私も天涯孤独の身だから」




 一人だけえびちゅを飲むミサトがシンジに微笑みかける。




 「まあ天涯孤独って言っても葛城には俺がいるさ」
 「ふん。あんたはよけいよ」
 「つれないな、葛城。まそれはそうと、アスカちゃんもう泣きやもうよ、シンジ君は家族がいて嬉しいって言ってるよ。その家族が泣いてちゃね。とびきりの美人なんだからやっぱり笑顔でなくっちゃ。そうだろシンジ君」
 「はい」
 「ほ〜〜やっぱり。シンジ君から見てもアスカちゃんは美人か」
 「あっその、まぁ、あの……加持さんは本当にもう……とにかくアスカさん泣きやんで」




 ハンカチを渡しながらシンジはそう言った。対アスカ用に何時もハンカチは大量に持つのが習慣になっていた。




 「しくしくしくしく……うん……ひっく……そうね……ひっく……家族が泣いちゃだめよね」




 ハンカチで顔をごしごし擦りながらアスカはやっと泣きやんだ。




 「ミサトさん」
 「なあにシンちゃん」
 「僕父さんに一度話してみます」
 「そう。頑張って。応援するわ。ところでシンちゃんって将来なにやりたいの。このまま戦いがずっと続くわけではないし、高校には行くとしてもね」
 「まだよく判りません。高校へ行ってそれを探してみたいと思ってます」
 「そう。まぁそれはそれでいいかもしれないわね。アスカちゃんはどう?」
 「私は……どうしようかなぁ」
 「アスカちゃんは戦いが終わったら日本にいる理由はなくなっちゃうし、大体大学は出てるんだし」
 「私……もう一度学生やりたいの。今度は皆と一緒に……だから出来たら日本で高校や大学に行きたいわ。でも私国籍アメリカだけど大丈夫かなぁ」
 「国籍の事はどうとでもなるわよ。でもご両親がどう言うかもあるでしょ」
 「うん。でも説得するわ。それに両親って言っても……ともかくなんとかするわ」
 「そう判ったわ。そういう様な感じで二人の進路指導は行きましょう。シンちゃんは碇司令と頑張って話してみて」
 「はい」
 「ところでアスカちゃん」
 「なあに」
 「高校はどこ行きたいのかなぁ〜〜。やっぱりシンちゃんと一緒じゃないとだめなのかなぁ〜〜」
 「えっ、あの、その……ミサトさんの意地悪」




 アスカは少し頬を赤くした。




 「さぁてお風呂入ろ」




 アスカは逃げ出すように自分の部屋に向かった。




 「僕も宿題やろっと。ミサトさんRYOさんごゆっくり」




 シンジもわけの判らない挨拶をして自分の部屋に入った。シンジとアスカがキッチンから消えると途端にミサトの表情が暗くなった。いきなりミサトはRYOの胸に顔を埋める。RYOは驚きながらもミサトの美しい長い黒髪を静かに撫でる。




 「RYO」
 「なんだい葛城」
 「私あの子達の過去の話を聞くの辛い。あの子達いつか真実を知ったら、私も加持もリツコもシンイチも……いいえきっと大人皆を恨むわ。私、シンちゃん達に嫌われたくない。やっとできた家族なのに…………」
 「葛城しょうがない。それが俺達に与えられた罰なんだよ。俺達は使徒から人類を守る為に悪魔と契約したんだよ。所詮幸せにはなれないさ」
 「でも……そうね、そうだったわね……RYO今だけ胸を貸して……うっううううう」




 ミサトは静かに泣きRYOは静かにミサトの黒髪を撫で続けた。
















 翌日の朝は晴れていた。シンジとアスカがいつもの様に学校に向かうと、やはりいつもの様にレイがベンチで文庫本を読み二人を待っていた。




 「綾波おはよう」
 「綾波さんおはよう」
 「碇君、惣流さんおはよう」




 三人はおしゃべりをしながら学校に向かう。ほとんどがシンジとアスカの会話だが最近はレイも少しは話すようになった。料理の話だとレイもついてこれるので、シンジとアスカは出来るだけ話すようにしている。だが今日はレイから話しかけて来た。




 「碇君、惣流さんお願いがあるの」
 「なあに綾波」




 シンジが聞き返す。アスカも横で聞き耳を立てている。




 「今度の土曜、私の部屋に壁紙を貼りたいの。手伝って」
 「へぇ壁紙貼るんだ。僕はいいよ。アスカさんは?」
 「私もいいわ」
 「ありがとう」




 レイが微笑む。とてもかわいい笑顔だ。最近はレイもよく笑うようになった。特にシンジやアスカと一緒の時にである。おかげでシンジの男子生徒の間での評判はますます悪化している。




 「どういたしまして。それにしても綾波は最近楽しそうだね」
 「ほんと。綾波さん楽しそうだわ」




 二人の指摘にますますにっこりと微笑んでレイが答える。




 「うん。新しいお友達が出来たの。土曜日に紹介する」
 「へぇ〜〜〜〜楽しみだなぁ」
 「そうね」




 三人は学校へ向かった。




 「そう言えば、綾波さんその手提げ袋なにが入っているの?」
 「これは、ラブレターの返事。全部読んでお断りの手紙書いたの」
 「す、凄い量ね」
 「うん。52通」
 「52……第壱中って男子生徒180人ぐらいなのに。さすが……」




 とか何とか言っているアスカも毎日30通位は貰っているらしい。ちなみにシンジは脅しの手紙が30通、女子生徒からラブレターが5通、男子生徒から5通ぐらい来るらしい。
 とか何とか言っている間に学校の校門に到着した。校庭を横切ると幾多の挨拶と共にシンジへの強烈な殺意に近い嫉妬の視線が突き刺さる。シンジは元から鈍いしアスカも最近ようやく馴れたみたいだ。レイは元から気にしていない。
 三人は下駄箱につくと手分けしてレイの手紙を下駄箱に入れ始めた。




 「ねえ綾波さん」
 「なあに惣流さん」
 「どんな断りの文章書いたの?」
 「……碇君と付き合ってるからって……ごめんね碇君。勝手に名前使って。青桐三尉がそう書いたらって教えてくれたの」




 レイは手紙を放り込みながら頬が赤くなる。




 「そ、そう綾波。あの……まぁいいや」




 シンジも少し赤くなってる。




 「ねえ。シンジ君」
 「なあに惣流さん」
 「私もシンジ君と付き合ってるって断りの手紙に書いていい?私もどう書いていいか困っているの」
 「惣流さんも…………うん、いいよ」
 「よかった」




 アスカも少し赤くなってる。三人とも恥ずかしいのか黙々と作業を進めた。








 「トウジ」
 「なんやケンスケ」




 追いついてずっと見ていた二人である。さっきから呆れて見ていた。




 「こいつら……なんか仲いいと言うか何と言うか」
 「そやな。ほっとこ。それが一番や」
 「そうだな」




 二バカは呆れたまま靴を履き代えると教室へ向かっていった。やがて三人は作業を終えた。




 「教室行きましょ」




 アスカはいつもの通り元気に階段を上がって行った。レイとシンジが続いた。
















 昼休みになった。いつもの通り皆は一緒に昼食をとっていた。




 「アスカさんはどうするの」




 ヒカリが聞く。今日は進路相談が話題みたいである。




 「私こっちの高校に進むつもり。もう一度学園生活やり直すつもりなの」
 「そうなの。私は高校行ったら卒業して……すぐお嫁さんになりたいわ」




 ヒカリはちょっぴり頬を赤くする。




 「さよか、いいんちょならいい嫁はんになるわ。料理は上手いし、よく気がつくし。でも旦那は尻に敷かれるやろなぁ」
 「鈴原のバカ。私鈴原を尻になんか敷かないわ」
 「なんでワシがいいんちょの尻に敷かれるんや?」
 「え……あ、あの言葉の弾みよ」
 「さよか」




 トウジはさほど気にせずパンをほおばる。ヒカリは顔中真っ赤だ。実に判りやすい娘である。




 「僕は高校に進んでその後戦自の大学校で将校を目指すんだ。トウジは?」
 「ワシか。ワシは高校でバスケ全国制覇するんや。そんでアメリカでプロデビューや」
 「ふぅ〜〜ん。シンジはどうするの」
 「僕は……高校でゆっくり進む先を考えようと思ってる」
 「そうか。綾波さんはどうするんだい」




 ケンスケが聞く。今日もシンジの隣でもぐもぐと食べているレイは顔を上げると言う。




 「私……判らない。私も高校行ってから考える」
 「あの……綾波さんってご両親は?」




 ヒカリが少し遠慮がちに聞く。




 「私……セカンドインパクトで孤児になったの。その後赤木博士が親代わりで育ててくれたの。でも私凄い対人恐怖症だったの。他人に会うと怖くて暴れるぐらい。赤木博士と西田博士以外怖くてしかたがなかったの。それであそこに住んでたの。でも今は大丈夫になったの。お友達も出来たし」
 「そうなの…………うううううううううううううう…………綾波さん可哀相…………うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 バラバラ




 アスカは食べてる最中に泣き出した。汚い事に口の中のご飯を飛び散らせる。思わず皆が引く。この辺りの格好の悪さがケンスケの写真の売り上げでレイに大きく差がついている理由であろうか。もっとも普段との格差がいいというファンも多く、アスカの涙と鼻水全開の泣き顔の写真はレイのきりっとした横顔の写真に並ぶ売り上げらしい。




 「アスカさん、泣きやんで。私今はもう対人恐怖症じゃないし、今は皆がいるもの」




 レイはそう言うと自分の弁当箱を机に置き立ち上がりアスカの後ろに廻る。レイはアスカの口を左手で塞ぐ。右手はハンカチを出してご飯粒を片づけている。最近アスカの友達は何時でもハンカチをいっぱい用意するようになった。




 「うぐぐぐぐぐ」




 アスカは泣くのが迷惑な時には強制的に止めてくれと周りの皆に頼んでいる。レイはためらわず実行した。




 「アスカさんもう落ち着いた?」
 「うぐうぐ」




 アスカは頷いた。レイは手を放した。




 「ぷは…………はぁふぅ……ううう……苦しかった。うんもう泣かない」




 アスカは顔を手で拭う。顔が涙と鼻水とご飯粒だらけになる。美少女が台無しだ。レイはそんなアスカの手を取り言う。




 「でもアスカさん泣いてくれてありがとう。嬉しいわ」




 アスカとレイはその辺をひっちゃかめっちゃかにしながら両手を取り見つめあっていた。




 「ええ話や」
 「うん、鈴原」




 素直に感動しているヒカリとトウジである。こちらの二人もどこかずれている。一方ケンスケはレイとアスカを超小型カメラで隠し撮りをしている。二大美少女のカットに営業的価値を見いだしたのだろう。ケンスケは映し終えた後シンジに聞いた。




 「シンジ、もしかして家でも惣流ってこんな調子?」
 「うんケンスケ。家だと相手がビール片手のミサトさんだからもっと派手だよ」
 「そうか。まぁとびきりの美女二人と暮らしているのだからしょうがないところか」
 「そうかもね」




 2ーA組の昼休みはのどかに過ぎていった。
















 土曜日になった。アスカとシンジはレイのマンションを訪ねていた。動きやすいようにアスカはジーンズの長ズボンと赤いTシャツという格好だ。念のいった事に尻のポケットに軍手を突っ込んでいる。今日は長い金髪を青いゴム紐を使い束ねている。手には着替えを入れたボストンバックを抱えている。ミサトはアスカの事をバービーちゃん人形が実物大になり動いているようだと称していた。シンジも同じ格好をしている。ただシンジのTシャツは黄緑だ。
 二人はおしゃべりをしながらレイのマンションに向かっていた。ただシンジは少し無口になっていた。アスカのプロポーションに見とれていたのである。純粋な日本人と違い長く形のいい足と奇麗なヒップラインがすこしきつ目のジーンズパンツで映えている。その上中学生とは思えない豊かな胸が薄いTシャツの下で揺れている。馴れているはずのシンジでさえ少し頬が赤くなったぐらいだ。最近アスカはシンジを挑発しない為色気のないジャージやだぼたぼの服や子供っぽい服をわざと着ている。その為シンジにとってよけいにこの格好は刺激的だ。
 シンジだけでなく道行く若い男性達にも同じように映ったらしく、中にはアスカに見とれて相手に平手打ちを喰らったカップルの男もいた。




 「ねえシンジ君さっきから黙ってどうしたの」




 アスカが小首を傾げて聞く。可愛い仕種にシンジはよけいにぼっとなる。とりあえず足は動いているが。




 「奇麗だなぁ
 「なあに」
 「あ、なんでもない」
 「変なシンジ君」




 ニコ




 微笑むアスカにあらためて魅力的な女性二人と住んでいるのを再認識するシンジである。
 やがて二人はマンションのレイのフロアの前に到着した。シンジがチャイムを押す。




 ぴんぽん




 最近はちゃんとチャイムも整備をしているらしい。




 「はぁ〜〜い」




 戸の向こうから透き通った声が聞こえてきた。




 がちゃ




 戸が開くとレイの笑顔が迎えていた。




 「綾波おはよう」
 「綾波さんおはよう」
 「碇君、惣流さんおはよう」




 レイは偶然にもアスカと同じような格好をしていた。細い体つきに、ぴったりとしたジーンズの長ズボンとTシャツ。頭には空色のバンダナを巻き付けている。Tシャツは薄い空色な為ブラが少し透けていた。シンジはまた赤い顔をして固まってしまった。




 「どうしたの碇君」
 「今日シンジ君なんか変なの。すぐ赤くなるし、ぼーっとよくなるし」
 「なっ……なんでもないよ」




 やっと解凍したシンジはごまかすようにしゃべりだした。




 「えっと綾波お邪魔します」
 「お邪魔します」




 アスカとシンジは靴を脱ぎ部屋に上がった。昔と違い中は奇麗に掃除が行き届いている。レイは二人をちゃぶ台の前の座布団に座らせる。シンジはあぐら、アスカは正座を崩したような座り方だ。




 「今、お茶入れるから」




 レイは電気ポットのお湯で緑茶を入れる。お茶菓子と共にちゃぶ台に持ってきた。




 「碇君、惣流さんどうぞ」




 レイは二人の前にお茶を置く。自分もお茶と共にアスカの正面の座布団に座った。部屋は冷房が効いて涼しかった。三人はお茶をすすった。ほっと一息つく。




 「綾波最近は部屋奇麗にしているね」
 「うん、奇麗にしていると気持ちがいいって気がついたの」
 「そうなんだ」
 「綾波さん」
 「なあに惣流さん」
 「新しいお友達を今日紹介してくれるって言っていたけど、何時ごろくるの?」
 「すぐ呼ぶわ……ちゅ〜〜来て」




 レイがそう言うと机の横に置いてある水槽のようなものから何かがちょろちょろっと走り出してきた。それはちゃぶ台の真ん中にちょこんと座る。




 ちゅ〜〜〜〜




 それは体長8センチほどの家ネズミの子供であった。しっぽは切れてしまったらしく短い。それを見た途端アスカの顔色が真っ青になった。子ネズミはちょろちょろっとアスカの方へ近づく。アスカの目の前で後ろ足二本で立ち鼻をくんくんさせる。




 「ねっねっねっね・ず・みぃ〜〜〜〜こっこっ怖いよぉ〜〜びぃぃぃぃぃぃぇえええええええええええええええええええええええええええええええんうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええん」




 アスカはいきなり泣き出した。それと同時にシンジを引っ張ると自分の前に盾にするようにして背中に抱きつく。本来ならシンジは天国であろう。アスカの豊かな胸がぴったしと密着している。が今シンジは地獄の一丁目に居た。百万ワット?のアスカの泣き声を耳もとで聞かされて気絶寸前である。
 あまりの泣き声に子ネズミはびっくりしたらしく、すぐにレイの方に駆け出し体を駆け登るとレイの頭の上に座った。レイはしばらく呆然としていたが、子ネズミを手に移すと立ち上がる。子ネズミを飼育箱に戻す。




 「ここにいてね」
 「ちゅ〜〜」




 話が通じているのか子ネズミは飼育箱でじっとしている。レイは側にあるティシュの箱から二〜三枚取り出すと千切って丸める。それをシンジの耳に詰めた後、後ろからアスカの口を手で塞ぐ。アスカはシンジを放すと手を振り回しじたばたと暴れる。ネズミが怖くて錯乱状態のようだ。これで使徒は平気なのだから不思議なものである。とにかくレイはアスカを泣きやませる為口を押さえ続ける。アスカはじたばたする。レイはしょうがなくアスカに足を絡ませる。




 くんずほずれず




 ほとんど女子プロレスである。やっとアスカの泣き声が小さくなってきたのでレイはアスカの耳もとで話しかける。床に二人で寝転がりアスカに手と足を絡ませ耳もとで囁くレイ。アスカが泣いていなければとっても妖しい二人の絡み方である。




 「あすかさん、泣きやんで。ちゅ〜〜は今自分の寝床に帰っているわ。あの子アスカさんのこと襲ったりしないから」
 「うえんうえん……私ネズミと歯医者は怖いのよぉ〜〜……しくしくしくしく」




 一方シンジはやっと半気絶状態を脱し二人の方を振り向いた。いきなり赤面する。二人の薄着の美少女が絡み合っている。しかも二人ともTシャツがめくれ奇麗なお腹の肌が見えている。シンジはもう少しで熱膨張するところであった。




 「しくしく……うん……もう泣かない……しくしく」
 「ごめんなさい、惣流さん。惣流さんがネズミ嫌いな事知らなかったから」
 「ひっく……もういいわ……ひっく」




 二人はもつれた体を放す。レイは乱れていたTシャツを奇麗にする。アスカはTシャツで顔をごしごしと拭う。その為豊かな胸を覆う白いブラジャーがシンジから丸見えになる。シンジまた赤面である。








 「あの子ちゅ〜〜って言うの。先週の金曜日の夜天井の穴から落ちて来たの」




 やっと泣きやみ落ち着いたアスカが座布団に再度座る。レイは話し始めた。




 「大怪我してたから赤木博士に治療して貰ったの。今は元気になったから一緒に住んでるの。何度も放してあげるけどすぐに戻ってくるの。絶対ひっかいたり咬みついたりしないわ」
 「そうなの。でもやっぱり私ネズミ怖い」
 「ちゅ〜〜は怖くないわ」
 「怖いわ」




 口論になりかける二人。シンジが助け船を出す。




 「ねえアスカさん、どうしてネズミ怖いの?」
 「だってネズミってひっかいたり咬みついたりするもの」
 「でもそれはないんだよね、綾波」
 「うん」
 「それにアスカさん、二十日ネズミはどう」
 「二十日ネズミは白くて可愛いわ」
 「でしょ、色が違うだけだよ」
 「でも……普通のネズミって汚いし」
 「大丈夫よ惣流さん。私と一緒に毎日一度はお風呂に入っているわ」
 「ここは勇気を持ってチャレンジだよ」
 「惣流さん、ちゅ〜〜と仲良くして。お願い」




 レイは自分の同居の相手がアスカに嫌われて哀しそうだ。少し沈んだ表情になる。アスカはそんなレイを見て可哀相になってきた。




 「綾波さん、この子ネズミほんとにひっかいたり咬みついたりしない?」
 「うん、大丈夫」
 「判ったわ。じゃあまず餌あげてみる。いつも何あげているの?」
 「私のご飯の余ったもの。今何も無いからチーズあげるといい。チーズ大好きみたい」
 「そう。じゃチーズ頂戴」
 「うん」




 レイは立ち上がると冷蔵庫を開ける。中からブルーチーズの固まりを取り出す。手で千切ると残りを冷蔵庫に戻す。千切った固まりをアスカに手渡す。




 「はい惣流さん」
 「うん」




 レイは飼育箱に行くと中から子ネズミを掴み上げる。子ネズミは飼育箱の中の木片やプラスチックのボールで遊んでいるところだった。レイは手のひらの上の子ネズミと共に元の座布団に座る。アスカはすでに顔をひきつらせている。




 「ふぅ〜〜ん、可愛いね綾波」
 「うん」




 レイはちゅ〜〜を見て微笑んでいる。レイはアスカのほうに自分の手をそっと差し出す。アスカは子ネズミを凝視している。怖くて逆に目が離せないようだ。




 「アスカさん頑張って」




 シンジが励ます。アスカは頷くと、握り閉めて形の崩れたチーズを手のひらに乗せた。子ネズミに近づける。大好きなチーズを見て子ネズミはアスカの手のひらに飛び移った。




 「ひっ」




 思わずアスカは小さな悲鳴を漏らす。気が遠くなった。が、かろうじて気を取り戻す。すでに目には涙が溜ってる。子ネズミはちゅ〜〜ちゅ〜〜言いながらアスカの手のひらでチーズを噛っている。ふと子ネズミが食べるのをやめアスカを見た。アスカと子ネズミの視線が合った。
 その瞬間だった。アスカの脳裏を何かが走り抜けた。悟りに近いものかも知れなかった。アスカの顔からこわばりが抜けていった。




 「この子も生きてるんだ。私たちと同じなんだ」
 「うん」




 レイが嬉しそうに頷く。




 「アスカさん、怖くなくなったの?」
 「うん、急に怖くなくなったの、なぜだか判らないけど。大人になるってこんなことかもしれない」




 アスカはチーズを食べている子ネズミの背中を撫で始めた。慈母のような表情になっている。アスカはしばらく子ネズミを撫でていた。




 「綾波さん、この子助かってよかったね」
 「うん」




 アスカの雰囲気の変化を感じたのか、子ネズミはチーズを噛るのをやめいきなりアスカの腕にそって体を駆けのぼった。子ネズミはアスカの肩に乗りちゅ〜〜ちゅ〜〜鳴く。
 アスカは立ち上がると飼育箱の側に行き子ネズミを元に戻した。子ネズミはまた木片やボールで遊び出した。




 「よかった。惣流さんがちゅ〜〜と仲よくなって」
 「うん。私もそう思う。それに私なんだか大人になった気がする。変かな?」
 「ううん。きっとそう」




 シンジは二人の会話を聞きつつアスカが子ネズミを撫でていた時の表情を思い出していた。時々ミサトやリツコが見せる表情に似ていると思った。本当にアスカは僕達より先に少し大人になったのだとシンジは思った。










 「綾波、そろそろ壁紙張り始めようよ」




 あれからレイとアスカはおしゃべりを始めた。普段無口なレイが子ネズミのことではよく話した。シンジはレイも女の子なんだなぁと思った。




 「ほんとだもうこんな時間だ。綾波さん始めましょう」
 「うん」
 「まず始めに家具を部屋の真ん中辺りに寄せる。次に壁を奇麗に掃除する。最後に壁に糊を塗って壁紙を貼る。糊が乾いたら家具を元の場所に戻す。こんな感じでどうかなぁ」




 アスカが計画を立てる。




 「うん、そうだね。綾波もこれでいいだろ」
 「うん。私もそれでいいと思う」




 三人は協力して家具を部屋の中央へ動かした。幸いレイの部屋にはあまり家具がなくそれほど苦労はしなかった。が、壁の掃除はなかなか大変だった。低い所は雑巾で高いところはモップで洗剤を使い奇麗にした。その後洗剤を拭き取った。ここで三人は一時休憩を取った。お茶とお茶菓子で寛ぐ。しばらくして三人は作業を再開した。
 バケツに薄く溶いた糊を刷毛でシンジが壁に塗っていく。壁紙が弛まないようにレイが端を持ち、アスカが巻いてある部分を持ち巻き戻しながら貼り付けていく。徐々にレイの部屋はスカイブルーに雲の柄の壁紙で覆われていった。そのうち高い所に貼るようになってきた。シンジも一番背が高いアスカも手が届かなくなってきた。




 「綾波、脚立か何かない?」
 「この机しかない」




 レイは愛用の机を指差す。




 「それじゃ上の方届かないね」
 「そうね。どうしましょうか」




 アスカとシンジが悩んでいるとレイが急に言った。




 「ちょっと待ってて」




 レイはすたすたと部屋を出ていった。アスカとシンジは顔を見合わせた。










 「うわ」




 シンジはびっくりした。黒ずくめの皮ジャンを着た190センチはあるであろう髭面の大男がいきなり部屋に入って来たからだ。アスカにいたってはシンジの後ろで身を縮こませていた。すでに目は涙でいっぱいである。




 「お隣の佐門さん。手伝ってくれるって」




 レイがひょいと大男の後ろから現れた。




 「佐門ホウサクです。よく怖がられるんですよね、俺。いつもレイちゃんにはおかず分けて貰ったりしてるからたまにはお返ししないとね」




 ホウサクは笑いながら言った。笑うと穏やかな顔つきだ。




 「僕は碇シンジです。綾波さんの同級生です」
 「私は惣流・アスカ・ラングレーです。私も同級生です」
 「へぇ〜〜。奇麗な金髪だね。お嬢さんはハーフなのかい?」
 「クォーターなんです」




 意外と優しそうなホウサクに、アスカはすぐ機嫌を直した。シンジも警戒を解く。




 「そうなんだ。碇君だっけ、こんな美人の彼女が二人もいるなんてなかなかやるね」
 「え、あの、いやその、同級生で普通に仲がいいだけです」




 シンジの答えにレイもアスカも嬉しそうな不満そうな顔をした。




 「じゃまぁとにかく壁紙を貼りましょう。肩車するから誰か乗って」
 「じゃ私が乗ります。一番背が高いし手も長いから」




 アスカが言う。それを聞きホウサクはしゃがむ。アスカはホウサクの頭に手を置き肩にまたがる。




 「ごめんなさいね」




 アスカはずり落ちないように内股でホウサクの頭を締め付ける。




 「どうってことないですよ」




 と言いつつも声がにやついて聞こえるのは気のせいだろうか。ホウサクにまたがったアスカは、下でシンジが持つバケツの糊を刷毛で壁に塗っていく。塗り終わると下でレイが切った壁紙を貼り付けていく。四人のコンビネーションで意外とすぐに作業が終わった。




 「やったぁ」




 アスカが歓声をあげる。シンジもガッツポーズをした。レイも微笑んだ。部屋はスカイブルーに雲が浮かぶ明るい部屋に生まれ変わった。




 「佐門さんどうもありがとう。降ろしてくれません」




 アスカが言う。




 「ああ、今しゃがむからね」




 ホウサクはしゃがんだ。アスカは勢いよく後ろに飛び降りた。バランスを崩し前のめりになる。アスカはしゃがんだホウサクの背中にのしかかるような格好になった。




 「あ、ごめんなさい」
 「ああ、いいよ」




 むしろ豊かなアスカの胸で後頭部を叩かれ、うはうはなホウサクであった。




 「これで糊が乾けば完成だね」
 「佐門さんありがとう」




 レイが微笑みながら言う。アスカとシンジも微笑んでいる。




 「どういたしまして」
 「そうだ綾波さんシンジ君、どうせ糊が乾くまでこの部屋使えないのだから皆でお昼食べに出ない。佐門さんも一緒にいかがですか」
 「俺はこれから仕事があるから残念だけど一緒に行けないんだ」




 ホウサクが言う。レイのガードの為一緒に出ることは出来ない。外でのガードは他の人間の仕事である。彼はレイの留守中も侵入者がないように見張らなければならない。彼も加持の手下である。




 「佐門さんありがとう。またおかず食べてください」
 「そうだね、楽しみにしてるよ。じゃ」




 ホウサクはレイの部屋を出ていった。彼は自室に戻るとチルドレン達をまた見守り始めた。




 「いい人だね」
 「そうね。でも始めは怖かったわ」




 アスカは素直に言う。監視モニターの先のホウサクは苦笑いでもしているだろう。
















 レイのなじみのラーメン屋で三人は昼食を済ませた。アスカの提案で衣紋掛けなどの小物を買うことに決めた。レイの知り合いの家具店で買い込んだ家具はシンジが一人で運んだ。家具店の老店主のアドバイスである。




 「女の子に物を持たせちゃいかん。男の子はやせ我慢をするもんだ」




 だそうである。最近のシンジはネルフの訓練で鍛えられてはいたが元が華奢な為大変そうである。




 「碇君、大丈夫」
 「シンジ君、少し持つわ」
 「これくらい。大丈夫だよ」




 シンジ結構いい気分である。途中の玩具店でトランプやボードゲームも買った。それらはさすがにアスカとレイが持った。レイのマンションに戻ったのは午後3時頃となった。




 「ちゅ〜〜、ただいま」




 レイが鍵を開けて部屋に入っていくと子ネズミが走ってくる。レイの足元までくると足に飛び付きそのまま肩まで駆け上がる。ちゅ〜〜ちゅ〜〜と肩で鳴く子ネズミを愛しげにレイは撫でる。その光景を見てシンジとアスカも微笑む。
 三人は部屋に上がると荷物を置く。レイは子ネズミを飼育箱に戻す。シンジは少し疲れたみたいだ。




 「壁紙乾いたみたいね。シンジ君、家具の移動は私と綾波さんでやるから休んでて」
 「そう。碇君休んで」
 「いやいいよ。三人で一気にやろうよ。女の子だけに力仕事させられないよ」




 シンジ老店主の影響大である。




 「わかったわ。碇君、惣流さん。早く済ましておやつにしましょ」
 「そうだね」
 「うん」




 三人は力を合わせて家具を元の場所に戻した。今日買った衣紋掛けやカーテン、額縁に入った絵も配置した。レイの部屋は明るく華やかに生まれ変わった。




 「これが私の部屋」




 作業が終わりじっくりと部屋を眺めたレイの始めの言葉がこれだった。




 「ありがとう。碇君、惣流さん。私嬉しい」
 「よかったね綾波。部屋奇麗になって」
 「そうね綾波さん。奇麗なお部屋だわ」




 レイはそうとう感動したらしい。手を胸に置き部屋を見入っていた。しばらくしてからレイは言う。




 「あ、ごめんなさい。碇君、惣流さん座って待ってて。今おやつ出すから」
 「うん」




 レイはキッチンに向かう。




 「よかったね。綾波あんなに喜んで」
 「そうね。綾波さん嬉しそう」




 しばらくしてレイは三日月型に切った西瓜を三つお盆に乗せて持ってきた。




 「「「いただきま〜〜す」」」




 三人は西瓜を食べ始める。シンジはスプーンを使わずそのままかぶりつく。




 「ふふ、シンジ君ってお子様」




 アスカが微笑みながら言う。




 「え〜〜自分だって子供のくせに」




 シンジが口を尖らせて言う。レイは二人のやり取りを楽しそうに眺めている。常夏の国ののどかな一時である。










 「碇君、惣流さん今日泊まっていかない」




 レイが突然言った。




 「ん、なに綾波」
 「あの……二人とも泊まっていかない。明日学校もないしネルフも午後から行けばいいし……」




 レイの言葉の語尾が小さくなる。




 「私はいいわよ」




 アスカはすぐに答える。




 「僕は……その……男だから女の子の一人暮らしの家に泊まっちゃ……やっぱり、そのいけないし……ミサトさんに怒られるし……自分に自信ないし




 いったい何の自信がないのだろうか。




 「じゃあ葛城一尉がいいって言ったらいいの?」




 レイは嬉しそうに言う。




 「うん。でもその……いいよ」




 レイはすぐに携帯を取り出すと電話をかけた。




 「もしもし葛城一尉ですか、レイです。今日碇君と惣流さんを泊めていいですか……はい……はい……惣流さんは泊まると言ってます……はい……碇君は男の子だから葛城一尉の……ごめんなさい……ミサトさんの許可がないと……今代わります」




 レイはシンジに携帯をわたす。




 「碇君、ミサトさん」
 「うん」




 シンジが携帯を受け取ると受話器からミサトの陽気な声が響いてきた。




 「もしもしミサトさんですか」
 「シンちゃぁ〜〜ん。両手に花ねえ。泊まっちゃっていいわよぉ〜〜。最後の一線はいけないけど、両者の合意のもとならキスやその次ぐらいはいいわよぉ〜〜」
 「なっ何言ってるんですか。もしかして、もうこんな時間から飲んでいるんですか」
 「何固い事言ってんのよぉ。今日は久しぶりの非番だし〜〜まだえびちゅ8本めよ。RYOあんたもでんわ出るぅ」




 どたんばたん




 「いやあシンジ君、すまんな。葛城完全にできあがってるんだ。それと泊まる件はOKなんじゃないか。ただ一線を越える時は避妊だけはしっかりしろ。それと二人とも平等に可愛がってやれ。じゃしっかりな」




 ぷつ




 「あRYOさん」




 シンジは唖然として携帯を見つめた。




 「シンジ君なんだって」




 アスカが聞く。




 「いいって」
 「じゃ碇君も泊まるのね」
 「う、うん。でも寝るとこないし……」
 「予備のマットレスと毛布があるからそこで私が寝る。碇君と惣流さんはお客さんだから二人でベッドで寝て」
 「「へ?」」




 少しの間をおいてシンジとアスカはほぼ同時に顔を真っ赤にした。




 「そそそんな、あ、あの僕がそのマットレスで床に寝るから」
 「……」




 アスカは真っ赤のまま声が出ない。




 「でも碇君お客さんだからベッド使って」
 「いいよ僕が床で寝るよ。僕寝相が悪いから広い所がいいんだ」
 「そう、じゃそうする。惣流さんもそれでいい?」
 「い、いいわ」




 やっとアスカは回復する。




 「そうと決まれば……夕ご飯私が作ってご馳走する。買い物行ってくる。二人で待っててね」




 レイは立ち上がると箪笥から新しいTシャツと下着とタオルを取り出す。脱衣所で着替えると買い物籠を持ちスキップでもするように部屋を後にした。よほど嬉しいと見える。後にはアスカとシンジとちゅ〜〜が残された。




 「いっちゃったね」
 「そうね」




 急に部屋が広く感じられた。シンジはふとアスカを見る。部屋の模様替えの時かいた汗がまだひっこんでいないみたいだ。アスカのTシャツはぴったり肌に張りついていた。ブラジャーの形がくっきり出ている。シンジは思わず視線が行ってしまう。アスカも視線に気づいた。アスカは思わず胸を押さえて後ろを向く。シンジも後ろを向く。部屋には子ネズミのちゅ〜〜ちゅ〜〜という鳴き声だけがひびく。




 「アスカさんやっぱり僕帰る。綾波やアスカさんに悪い事しちゃいそう」
 「シンジ君。だめよ。帰っちゃ。そんな事したら綾波さんきっと悲しんじゃう」
 「でも……」




 また子ネズミの鳴き声だけになる。




 「シンジ君こっち向いて」




 アスカの声がした。シンジは振り返る。ちゃぶ台の向こうではアスカが真剣な顔をして見つめていた。




 「私シンジ君に悪い事されてもいい」
 「え!」




 アスカは目を瞑っていた。主の居ない部屋の二人。時間と空間に出来たエアポケット。知らずに出来た異空間。二人はそれに飲み込まれ酔っていたのかも知れない。シンジはちゃぶ台の反対側から身を乗り出す。じょじょに二人の唇は近づいていく。




 40センチ




 30センチ




 20センチ




 10センチ










 ちゅ〜〜〜〜




 その異空間を破ったのは子ネズミであった。子ネズミは誰かと遊びたかったのであろう。飼育箱を抜け出しちゃぶ台の上に乗った。その後子ネズミはそこいら中を駆けずり廻った。アスカやシンジの体にもよじ登った。しとしきり走り回った後また飼育箱に戻っていった。
 アスカとシンジは唖然としていた。ぽかんっと口を開けていた。その内二人とも笑い始めた。




 あはははは
 うふふふふ




 「シンジ君変な顔」
 「アスカさんだって」




 二人は笑い終えた後言い合った。気まずい空気は消えていた。




 「シンジ君泊まっていってあげて」
 「うん。そうだね。きっともう大丈夫だし」
 「でもよかったわ。あのままだと私綾波さんに卑怯な事するところだったわ」




 そう言ってから自分の言動を思いだし赤面するアスカだった。シンジもあわてて言う。




 「そうだネズミに餌をあげようっと」




 シンジはまだ少し残っていた西瓜の切れ端を持ち飼育箱に近づく。子ネズミは元気に遊んでいた。




 「これ御褒美」




 飼育箱にシンジが西瓜の切れ端を入れると子ネズミはすぐ近寄ってきた。始め西瓜の側で鼻をくんくんさせていたがやがて食べ始めた。




 「あっ食べてる」




 アスカも近寄って見ている。レイが戻ってくるまで子ネズミは場を持たせ二人のお守りをしっかり果たした。
















 「ごちそうさま。綾波おいしかった」
 「本当美味しかったわ」
 「鯖の味噌煮も美味しかったしだし巻き卵もみごとだよ」
 「あ……ありがとう」




 レイが作った夕飯はアスカとシンジに好評であった。飼育箱では子ネズミが残り物を食べている。




 「隣の佐門さんや家具屋の泥尾おじいさんとおばあさんに味見してもらっているの」
 「そうなの。私も頑張って和食作るの練習しよう」
 「アスカさんの和食も美味しいよね」
 「あっそうだ綾波今度ご飯食べにくれば」
 「いっていいの」
 「もちろんだよ。ねえアスカさん」
 「もちろんよ。いつでもいいわ」
 「ほんと。うれしい」




 レイはにっこりと微笑む。




 「そろそろ片づけないと」
 「私も手伝うわ」
 「惣流さんいいわ。今日は碇君と惣流さんお客様ですもの」




 レイはそう言うと立ち上がりエプロンを着けあと片づけを始める。




 「じゃあ私お茶入れるわ」
 「惣流さんお願いね」




 台所で二人の美少女が家事をしている。家事は女がやるもんだとは思っていないシンジであったが何かとっても気分がよかった。レイは食器にざっと水をかけると食器洗い機に入れる。アスカは電気ポットのお湯でお茶を入れる。後ろ姿も抜群に奇麗な二人を眺めていて少しうっとりするシンジであった。




 「はい、シンジ君お茶」
 「ありがとう」




 とりあえず三人分のお茶をアスカが持ってくる。ちゃぶ台の前でうっとりしていたシンジはあわてて正座をする。アスカも自分の座布団に座る。レイは明日の朝食のお米を研いで炊飯器にセットしている。




 「綾波さんエプロン似合っていいなぁ。お嫁さんって感じがする」
 「アスカさんも似合うよ。ファッションモデルみたいにプロポーションいいし」
 「そ、そう。ありがとう」




 アスカ真っ赤か。ちょうどレイが戻って来た。




 「惣流さん。どうしたの。顔赤い」




 レイはエプロンをはずして衣紋掛けに掛けちゃぶ台の前に座る。




 「何でもないわ。今シンジ君と綾波さんってエプロンが似合うって話してたところなの」
 「うん。綾波とってもエプロン姿が綺麗だよ」
 「そ、そう。ありがとう」




 レイ真っ赤っか。レイもアスカも似たような反応を示す。一人極端に鈍いシンジは不思議そうにしている。




 「これからどうしようか。まだまだ夜は長いし。綾波さんはいつもどうしてるの」




 アスカが聞く。アスカはレイが何をしているか想像がつかなかった。




 「本を読んで、ちゅ〜〜と遊んで、明日の用意をして、ダンスの練習をして、シャワーを浴びて寝るの」
 「ダンス今でも練習してるんだ。そうだったよね、綾波ネルフの社交ダンス愛好会に入ったよね」
 「そうだったの。私知らなかった」
 「そうだ、思い出した。峯さんが言ってたけど、綾波今ではとても踊るの上手で、第三新東京市の踊りの発表会で入賞して「ネルフの妖精」って言われてるんだって」
 「綾波さんすっごぉ〜〜い」
 「…………」




 レイは照れているらしく顔をまた真っ赤にしている。




 「ねえ綾波さん、踊ってみせて」




 アスカが言う。




 「いいけど、社交ダンスだから一人じゃ踊れない」
 「じゃシンジ君一緒に踊ってあげて」
 「うん。僕はいいよ」
 「じゃそうしましょ」
 「うん」




 レイが頷いたので、皆はちゃぶ台や衣紋掛けなどを出来るだけ脇によけた。レイが踊りのSーDVDをサウンドオンリーでかける。音楽が流れ出す。




 「碇君」
 「綾波」




 二人は踊り出した。アスカはベッドの上に腰をおろして見ている。確かにレイの踊りは美しかった。軽やかに手足は動きしかも指の先まで意識が届いている。動きの鈍いシンジをリードしつつ狭い部屋で廻りに当たらぬよう自分から動く。確かに妖精の名にふさわしかった。
 見ているアスカはレイの美しい踊りに感動していた。すでに目がうるうる状態である。前はシンジと共にうまく踊れるレイがうらやましかったが、今は純粋に感動していた。




 ぱちぱちぱちぱち




 やがて二人が踊り終わった。アスカは思いきり拍手をした。




 「綾波さん素敵。綺麗。本当に妖精みたいだわ。…………もおなんていって言いか判らない。凄いわ」



 アスカはベッドから立ち上がるとシンジをはね飛ばすような勢いでレイに抱きつく。




 「ありがとう、惣流さん。私嬉しい」




 急に抱きつかれて固まっていたレイはぼそりと、だが嬉しそうに言う。シンジもその様子を見て微笑む。




 「綾波さん、踊って貰ったから汗びっしょりね。そうだ私も模様替えで汗かいたから一緒にシャワー浴びよ」




 アスカが言う。




 「いいわ。お風呂なら沸いてる」
 「じゃそうしよ。あ、いっけなぁ〜〜い。私今日寝巻き持ってない。どうしよう。着替えるつもりで下着や上着は持ってきたけど」
 「僕もだよ」
 「それは心配ないわ。お客様用のがある」




 レイはごそごそと箪笥を探す。三着のパジャマを取り出す。子象、子鹿、子ネズミの柄がそれぞれ入っている。




 「これ選んで」
 「どれも可愛いわ。じゃ私この子鹿の」
 「じゃ僕は子象の」




 レイはそれぞれのパジャマをわたした。




 「それでは綾波さん、いっしょに入ろ」
 「ええ」




 アスカとレイはパジャマと下着とバスタオルを持ち浴室に向かった。




 「ちゅ〜〜も入れないと」




 レイは子ネズミをバスタオルの上に乗せる。子ネズミは大人しくしている。




 「シンジ君覗いちゃだめよ」
 「の、覗かないよ」




 アスカは行きぎわにそう言って消えた。




 「最近アスカさんってミサトさんの影響受けてるよなぁ。前はもっとお嬢様って感じだったのに。綾波はアスカさんのせいで明るくなったよなぁ。昔の綾波も神秘的でいいけど今のほうがずっといいなぁ」




 シンジは呟いた。








 アスカとレイは脱衣所で服を脱ぐ。アスカは髪を上にまとめあげ輪ゴムで固める。二人は浴室に入った。レイは洗面器にお湯を入れると子ネズミを放す。子ネズミはネズミ掻きで泳いで遊んでいる。




 「へぇ〜〜この子泳げるんだ」
 「うん」




 洗面器を脇によけると二人はシャワーを浴び始めた。




 「綾波さんって肌が白くってとても綺麗」
 「そう。でもよくウサギ女って言われた」
 「酷い言い方ね。でもバニーガールって考えれば美人って感じだからいいんじゃない」
 「うん。気にしてはいないわ。それより惣流さんって胸が大きくってウエスト細くってとても綺麗」
 「そんな事ないわよ。私なんかでぶよ。結構幼児体形だし」




 アスカはウエストをぷにぷにと掴んでみせる。




 「私より綾波さんのほうが綺麗だわ。細いしボディラインが滑らかだし」
 「そう。でも碇君よく惣流さんの胸とかお尻とか見てるわ」
 「そうかしら」




 変な指摘をされアスカは真っ赤になる。




 「綾波さんもよ。シンジ君よく綾波さんの横顔を見つめているわ」
 「……そう」




 レイも少し頬が赤いようだ。なんとなく二人とも無言になる。




 「洗いっこしましょ」
 「……うん」




 アスカは糸瓜をとりボディシャンプーを付けるとレイを椅子に座らせ、背中を洗い始めた。




 さわさわ




 アスカの手がレイの背中を撫でる。




 「なに」
 「やっぱり綾波さんって肌綺麗だなぁと思って」
 「そう」




 アスカはレイを前に向かせ、体の前面も洗う。




 「やっぱり綺麗だなぁ肌。私クォーターだから色白いけどきめは粗いの。綾波さんの肌って上質の絹みたい」
 「……ありがとう、嬉しい。今度は私が洗ってあげる」
 「うん」




 アスカは糸瓜をレイに渡すと後ろを向いて椅子に座る。レイはごしごしとアスカの背中を洗う。




 ぷに




 「きゃ。綾波さん、なにするの」




 レイが後ろからアスカの胸を掴む。アスカはあわてて胸を押さえる。




 「大きい」
 「えっ……え」
 「羨ましい。私痩せっぽちだもの」
 「そんなことないわ。綾波さん細いけど均整取れてるし。まだ胸だって大きくなる途中だし」
 「……そうだと嬉しい」




 レイはアスカを振り向かせ体の前も洗う。二人で洗いあった後シャワーで泡を落とす。ぴっかぴっかの妖精二人の出来上がり。




 「私髪洗うわ」




 アスカは髪をまとめていた輪ゴムをほどく。水に濡れていてもさらさらとした金髪が広がる。




 「私先あがってる」
 「うん」




 レイはその辺をちょろちょろと走り回っているちゅ〜〜を捕まえると浴室を出た。アスカはその後髪を洗うのに20分ぐらいかかった。浴室を出て髪からよく水分を拭き取る。脱衣所にあったドライヤーで髪を乾かすといつものさらさらの金髪が戻る。輪ゴムで止める。アスカはパンティーと子鹿模様のパジャマをつける。少しぶかぶかしている為豊かな胸元が見えそうだ。




 「いいや。どうせ綾波さんとシンジ君しかいないし」




 自分で言ってから真っ赤になるアスカである。アスカは部屋に戻る。床に敷いてある大きなマットレスの上にシンジがうつ伏せになっていた。シンジの背中にレイがぺたりと座り肩甲骨の辺りを押してマッサージしていた。アスカは二人に気づかれないように近づくといきなりレイと同じようにシンジの背中に乗る。




 「ぐへ〜。重すぎる〜〜」




 シンジは変な悲鳴をあげる。突然アスカの表情が歪む。




 「ううううぇぇぇぇぇぇぇぇぇん……やっぱり私でぶなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁびぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「ぢがうよを〜〜〜〜。二人乗ってるからだょ〜〜」




 シンジの言葉を聞いてレイはすぐ立ち上がる。いっぽうアスカは体じゅういやいやをしながらびえびえ泣いている。背中の上で柔らかいお尻がぐりぐりと動いている。シンジは重いんだか気持ちいいんだか判らなくなってきた。レイがアスカを慰めようやく泣きやませ立ち上がらせた時にはシンジはへばっていた。シンジはへろへろと立ち上がると下着とバスタオルとパジャマを持ち浴室に向かった。




 「ぐすん……くすん……ごめんなさい綾波さん。でもシンジ君重いって言うんだもん」
 「しょうがないわ。二人で乗れば重いわ」
 「そうね。ぐすん」




 アスカはまた座り込んで少しの間鼻をすすっていたが、立ち上がると自分のボストンバックを持ってきた。バックから出したタオルで顔を拭う。




 「今日皆で食べようと思ってお菓子いっぱい持ってきたの」




 アスカのバッグからポテトチップスやお煎餅の袋が大量にでてきた。




 「それとこれも」




 それは甘いフルーツワインの瓶であった。確かにアスカはミサトの影響を受けているようだ。




 「ね、たまにだから飲も。ドイツに居た時は結構飲んでたの」
 「判ったわ」




 レイはコップを三つ出しお盆に入れ持ってくる。




 「じゃ開けるわね」



 その瓶はスクリュー式な為特に開ける道具はいらなかった。アスカは三つのコップにワインを注ぐ。アスカはレイに向かい合うと言う。




 「乾杯しましょ」
 「でも碇君がまだ」
 「シンジ君出てきたらまたしましょう。今は女同士の乾杯よ」
 「うん」
 「じゃ乾杯」
 「乾杯」




 アスカは一気にぐびっとコップを空けた。やはりミサト化は進んでいるようだ。レイはアスカの飲みっぷりを見た後真似するように一気に空けた。アスカはポテトの袋を開ける。マットレスに寝そべる。




 「綾波さんも隣にこない」
 「うん」




 レイもアスカの横に寝そべる。可愛いお尻が二つ並ぶ。




 「綾波さんっていつも本読んでいるけどどんな本読んでいるの」
 「昔は神秘学や人間工学、機械工学の本。今は料理と踊りの本。あと……お化粧の」
 「そうなんだ。そういえば綾波さん最近血色がいいのは食事とお化粧のせいなのね」
 「うん。最近はちゃんとご飯食べてるの。あとお化粧は青桐ナイ三尉に教えて貰っているの」
 「そうなんだ。青桐ナイ三尉ってだれなの」
 「マヤさんの後輩の人でミサトさんの部下の人。日向二尉の横によく座っているショートカットの人」
 「あ、判った。多分あの人ね。仲いいのね。どうして知り合ったの」
 「修学旅行の買い出し一緒に行ってくれたの」
 「ああ、あの時ね。それだけ?」
 「あと……いろいろ」




 レイが口ごもる。




 「いろいろって?」
 「手紙の書き方とか…………惣流さん」




 レイの口調が改まる。アスカがポテトの袋からレイの顔に視線を移すといつもより更に真剣そうなレイの表情があった。ワインのせいか顔が真っ赤になっていた。




 「なあに綾波さん」
 「私……碇君と文通しているの」
 「えっ…………」




 アスカは固まった。レイは続ける。




 「私もっと碇君と話したい。だけど私話すのうまくない。話す前にいっぱい考えないといけないの。だから話す代わりに文通しているの。私惣流さん羨ましいの」




 恋人同士の文通でないと判りほっとするアスカである。同時に何でほっとするのかと考え顔が赤くなるアスカである。




 「そうなの。ねえ…………思い切って聞くわ。綾波さんシンジ君のこと好き?」




 アスカは言う。レイは少し考える。




 「好きってよく判らない。でも碇君の事考えると心が暖かくなる。惣流さんの事考えても心は暖かくなるけど少し違うの。一緒にいたいと思うの。手を繋いだりすると気持ちいいの。これって好きっていうことなの?惣流さん教えて」
 「きっとそうよ」
 「じゃあ惣流さんも碇君の事好きなのね」
 「えっ……なんで」
 「惣流さん碇君と一緒に居ると嬉しそう。話したり何かを一緒にしている時楽しそう。辛いネルフの訓練の時もそう。だから惣流さん碇君のこと好きなはず」
 「……うん。そうだと思う」




 アスカは少し黙っていた後言う。




 「でもシンジ君はきっと私より綾波さんのことが好き。いつも気にしてる。いつも見ているもの」
 「碇君は惣流さんのことのほうが好き。一緒に居ると生き生きしている。私と居るときより元気がいい」
 「何話しているの」




 急に後ろから話しかけられアスカとレイはびくっとする。あわてて振り向いた。そこには子象の柄のパジャマに着替えたシンジが立っていた。シンジの顔が赤い。アスカとレイが慌てて凄い勢いで振り向いた為緩めの胸元から完全に胸が丸見えになっていたからである。一方アスカは話しを聞かれていたのではとこちらも顔が赤い。レイも顔が赤くなってる。




 「二人とも顔真っ赤だよ。どうしたの」




 二人の胸が見えているのを注意しようかするまいか悩むシンジである。もう少し見ていたい気もする。




 「シンジ君、これ飲んでたからよ」




 アスカがワインを指差す。




 「あワイン、アスカさんだめだよ。今から飲んでたらそのうちミサトさんみたいな飲み助になっちゃうよ」
 「そんな事ないわ。これくらいドイツじゃ普通よ」
 「そうかなぁ」




 アスカとレイは起き上がり座る。二人とも正座を崩した感じである。シンジも二人の前に胡座で座る。




 「はい碇君のコップ」




 レイがシンジにワイン入りのコップを差し出す。




 「僕はいいよ」
 「だめよシンジ君。綾波さんの部屋の模様替えの記念の乾杯なんだから」
 「そう。じゃ一杯だけ」




 アスカとレイもそれぞれワインをつぎ足す。




 「じゃ乾杯」「乾杯」「乾杯」




 皆一気に飲み干す。いつもミサトに付き合わされる為なんだかんだといっても酒に強くなっているアスカとシンジである。レイは単に二人の真似をしただけだろう。




 「ねえ折角トランプやゲーム買ったんだからやらない」
 「そうだね。綾波やろう」
 「うん」




 三人はトランプやボードゲームを始めた。レイはトランプゲームのルールやボードゲームのルールをほとんど知らなかった。その為アスカとシンジが手とり足とり教えながらした。ルールを覚えた後のレイは強かった。ポーカーフェイスと基本に忠実な作戦はお手のものだからだろう。




 「そうだシンジ君、綾波さん。負けた人は罰ゲームにこのワイン、コップにこれぐらいずつ飲んでかない」
 「え……あんまりそれは」
 「私はいいわ」




 レイは結構ワインが気に入ったみたいである。レイにもそう言われるとシンジも嫌とは言えない。




 「二人がそう言うのならいいよ」




 だいたいシンジは勝負ごとには弱い。その上相手がかたや天才少女かたや無敵のポーカーフェイス。勝てるはずがない。かくしてワインの大半を飲み尽くしたシンジは酔いつぶれることとなった。




 「あ〜〜あシンジ君寝ちゃった」
 「もっと話ししたかった」
 「ごめんなさい綾波さん。私が変なこと言ってワイン飲ましちゃって」
 「ううん、いいわ。碇君寝顔可愛い」
 「でもこのままではシンジ君風邪ひくわ。ちゃんと寝かせましょう」
 「うん」




 アスカとレイはシンジをきちんと仰向けに寝かせ、タオルケットを掛けた。コップやお菓子を片づける。二人は部屋の電気を消してベッドに二人で潜り込む。月の光のせいで結構室内は明るい。




 「惣流さん」
 「なあに綾波さん」
 「私惣流さんも好き。惣流さんとこうしていると、何だか胸が安らぐの」
 「そう。私も綾波さんのこと好き。私たちきっと似てるのね」
 「私今まで寂しいということ知らなかった。でも今は一人で夜寝てると寂しいと感じる。知らなかったほうがいいのかもしれない。でもやっぱりそれが判るようになったこと嬉しい。碇君や惣流さんがいなかったら判らなかった」
 「綾波さん……可哀相」




 アスカは涙声になりレイを抱きしめた。




 「惣流さん。わたし可哀相でない。今はちゅ〜〜もいるし、夜が明ければ皆に会える。だからだいじょうぶ」
 「うん。わかったわ」
 「私たち友だちなのね、惣流さん」
 「そうよ綾波さん」
 「惣流さんこれから話す事誰にも言わないって約束してくれる」
 「うん、約束する」
 「私転校してくる前の記憶が無いの」
 「え、そんな」
 「そうなの。おぼろげに記憶にあるのは赤木博士や西田博士、碇司令の顔だけ、それだけなの。私気づいたら此処に住んでたの。記憶は無いけど知識はあるの。でも経験はないの。なにも。前学校で話した話は赤木博士にそう言えって言われたの。でも全部は嘘じゃない。本当に赤木博士や西田博士、碇司令以外怖くってしかたなかったもの。だからここに住んでても全然嫌じゃなかったの。ここは誰もこなかったし。でも碇君怖くなかった。なぜか判らなかったけど始めて会った時から怖くなかった。そしたらほかの人も怖くなくなってきたの」
 「そうなの。そうだったの」
 「うん。私だから知識はあるけどどうしたらいいか常識が無いの。私にはこの二ヶ月間しかないの。だから友だちは惣流さんと碇君しかいないの」
 「そんな事はないわ。ヒカリさんだって鈴原君や相田君だって皆友だちよ」
 「そう」
 「そうよ。みんな綾波さんの事大好きよ」
 「そうなの。嬉しい」




 レイもアスカに抱きついた。
 アスカとレイの話は夜遅く迄続いた。学校の事、友だちの事、ネルフの事、そしてシンジの事。二人ともシンジとの事をつつみ隠さず話した。お互いキスの一歩手前までいったことも話した。レイはシンジに押し倒されたことを話した。アスカはびっくりした。アスカはシンジの普段の家での生活を話した。レイは真剣に聞き入った。二人の少女は心を見せあい、心の底から親しいと言えるようになった。そしてどちらからともなく眠りに落ちた。
















 翌日アスカは胸の辺りでごそごそ動く感触で目が醒めた。何か小さいものが動いている。掴んで引きづりだしてみると子ネズミだった。辺りを見回すとレイと抱き合って寝ていた。レイはまだ寝ていた。




 「おはようちゅ〜〜」
 「ちゅ〜〜」




 今ではネズミを可愛く思うアスカである。子ネズミの鳴き声でレイの体がぴくぴく動く。レイはぼんやり目を開けた。




 「おはよう綾波さん」
 「おはよう惣流さん」




 二人は抱き合っていた手をほどくと身を起こす。二人ともまだぼっとしている。普段パジャマを着馴れてないレイは前のボタンが外れて胸が丸見えだ。アスカも似たようなものだ。アスカは子ネズミを手放す。子ネズミはレイの体を駆けのぼり髪の毛をめちゃめちゃにして飼育箱に戻っていった。




 「ちゅ〜〜ったら」




 レイは微笑んだ。




 「惣流さん、シャワー浴びない」
 「いいわね。私も寝汗かいちゃった」




 それにしてもレイはシャワーが好きだ。二人はシンジを起こさないように静かにベッドから降りた。シンジはタオルケットに抱きつくようにうつ伏せで寝ている。むにゃむにゃと寝言を言っている。ゴロンと寝返り仰向けになった。その様子を見ていたアスカの顔が見る間に真っ赤になった。レイは特に変化はない。シンジは若い男性の朝の生理現象を起こしていた。




 「どおしたの惣流さん。顔真っ赤」
 「なんでもないわ」




 レイはアスカの視線の先を見る。




 「碇君勃起しているわ」
 「!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 アスカははっきりと言うレイに絶句した。




 「綾波さん、そお言うことは女の子ははっきり言っちゃいけないのよ」
 「そう。じゃそうする」




 レイはアスカに非常識的だと思う事は注意してくれるよう昨夜頼んでいた。二人は着替えとバスタオルを持ち脱衣所に向かう。




 「惣流さん、服は洗っておくからここに入れて」




 レイは籠を指す。




 「いいわよ。悪いわ」
 「いっしょだから」
 「悪いわね」




 アスカとレイがシャワーを浴び着替えて戻ってくるとシンジがボケボケっとした顔で座っていた。おきたようである。眠たそうなのは馴れないワインを昨夜大量に飲まされたせいだろう。




 「シンジ君おはよう」
 「碇君おはよう」
 「綾波、アスカさんおはよう」




 頭はぼさぼさ口の周りはよだれの痕、みっともないシンジである。




 「碇君もシャワー浴びてきたら」
 「そうさせて貰うよ、綾波」




 シンジはレイに手渡されたバスタオルと着替えを持ち浴室に向かう。




 「碇君、洗い物は籠に入れといて。歯ブラシはお客様用のを洗面所に出しておいたから」
 「ありがとう綾波」




 シンジが部屋を出ていった後アスカは部屋の片付けをレイは朝食の用意をした。シンジが朝から長風呂をして出てくる頃には部屋は奇麗に片づいて朝食の用意は済んでいた。




 「うわぁ美味しそうなご飯だね」
 「ほんとよ。綾波さん料理うまくなったと思うわ」
 「あ……ありがとう」




 食卓にはご飯、味噌汁、卵焼き、鯵の干物、佃煮、香のものが並んでいた。




 「さあ、召し上がれ」
 「「「いただきます」」」




 ぱくぱく




 「ねえ綾波、どうしてかっぽう着着てるの」
 「昨日エプロン汚れたから。これ前に赤木博士に貰ったの」
 「綾波ってそういう格好も似合うなぁ。なんかお母さんって感じ」
 「そ……そう」
 「そうね落ち着いている感じがして」
 「…………」




 レイは少し困ったような嬉しいような妙な表情をした。
 朝ごはんが終わると三人はお茶で一息ついた。




 「ねえ綾波さん、今度は私たちの家に泊りにこない」
 「そうだよ綾波、泊まりにおいでよ。ミサトさんも喜ぶよ」
 「いいの?」
 「もちろんよ」
 「そうだよ」 
 「じゃあ今度行く」




 レイはにっこりと笑った。




 「ねえ碇君、惣流さん。そろそろ帰って用意しないとシンクロテストまに合わないんじゃない」




 レイは昨日買った今時珍しい振り子式の柱時計を見て言う。買ったと言っても家具店の老店主のサービスだ。




 「あ本当だ。帰らなきゃ」
 「そうね」
 「じゃ綾波、僕達帰るよ」
 「うん」
 「じゃ綾波さん。また後でネルフで」
 「うん」




 アスカとシンジは帰っていった。
















 「ちょうど今セカンド、サード帰宅していきます。昨晩はサードとファーストおよびセカンドと肉体交渉等はありませんでした」




 佐門はレイの部屋の監視モニターの前から上司である加持に報告していた。




 「わかった。ごくろう」




 電話は切れた。ミサトとRYOは並んでネルフの中を歩いている最中だった。RYOは佐門から昨晩の監視報告を受けているところだった。




 「三人とも深い仲にはなってないそうだ」
 「そう。仕事とはいえ監視するのは辛いわね。恋愛ぐらい自由にさせてあげたいわ」
 「まあしょうがないさ。レイちゃんやアスカちゃんがはらぼてになったらEVAには乗れないし、だいたいまだ14だぜ」
 「そりゃそうよ。保護者としてまだそこまでは許す気はないわ。ただねぇ……」
 「まぁ人類の為だよ」
 「人類のためかぁ」
 「おいおい元気出せよ。葛城らしくないぞ。きっと最後にはうまくいくさ」




 RYOはミサトの肩を抱き寄せた。普段なら張り倒すミサトだが今日はRYOに寄りかかり歩いた。そんな日もあるのだった。










 アスカとシンジはマンションの部屋に着くとネルフに向かう準備をした。シンジがふと冷蔵庫を見ると貼り付けてあるメモレコーダーにメッセージが入っていた。再生してみる。




 「シンちゃ〜〜それともアスカちゃんかなぁ〜〜。三人だけの夜どうだったぁ〜〜。キスぐらいはいったかなぁ。女の子泣かす事しちゃだめよ。今日のシンクロテスト忘れないでねぇ」




 ミサトらしい内容だ。シンジも苦笑いをする。




 「シンジ君どうしたの」
 「ミサトさんのメッセージが入ってたんだ。シンクロテスト忘れないでって」
 「ふぅん。じゃシンジ君行きましょ」




 二人は戸締まりをしネルフに向かう。日もずいぶん上がってきて暑くなってきた。シンジはふっと立ち止まる。道すがらの公園の木陰である。




 「どうしたのシンジ君」
 「ちょっと電話をかけるから待っててくれない」
 「うんいいわ。どこにかけるの」
 「父さんに」
 「ネルフに言って話せば」
 「……面と向かうと話しにくそうだから」
 「そう判ったわ」




 シンジは木陰のベンチの端に座る。アスカは聞かないように反対の端に座る。シンジが携帯で電話をかけると秘書がゲンドウにつないだ。




 「何の用だ」
 「あの……来週進路相談があって……父兄に報告しろって」
 「シンジ、そお言うことは全て葛城君にまかせ」




 ぷつ




 「あれ……もしもし。どうしたんだろう」
 「シンジ君どうしたの」




 心配そうに様子を見ていたアスカが近寄って聞いた。




 「なんか変なんだ。話してたらいきなり線が切れるように電話が途切れちゃったんだ」
 「それは変ね」
 「うん。でもどっちにしても進路相談には来ないって」
 「シンジ君ネルフに急ぎましょうよ。もしかしたら何かあったのかも」
 「うん、そうだね」




 アスカとシンジは急いだ。










 「あら」
 「停電か」




 ミサトとRYOはエレベーターで発令所に向かうところだった。




 「まさかぁ〜〜ありえないわ。変ねぇ事故かしら?」
 「赤木が実験でもミスったのかな」










 「主電源ストップ、電圧ゼロです」




 マヤが報告する。稼働延長実験の現場は非常灯を除き闇に包まれる。オペレーター達はパネルを操作していたリツコを一斉に注目した。




 「あ、あたしじゃないわよ…………」




 技術部長は皆によく理解されているようだ。




 「すぐ予備電源で回復するわよ」










 「だめです予備回線繋がりません」




 シゲルが冬月に報告する。




 「馬鹿な。生き残っている回線は」
 「全部で1.2%、2567番からの9回線だけです」
 「生き残っている回線はすべてマギとセントラルドグマの維持に廻せ」
 「全館の生命維持に支障が生じますが……」
 「構わん。最優先だ」










 二人がネルフのゲートの前に着くとそこにはレイと初老のネルフ一般職員がいた。その職員はモップとバケツを持っている。ネルフは非公開組織のため、一般業務も職員がやっている。




 「綾波どうしたの、大月さんも」
 「おやこんにちわ。アスカちゃんも」
 「こんにちわ。どうしたの」
 「いつもの様に掃除をしていたんだが、私のパスではゲートが開かなくなってしまってね。ちょうどレイちゃんが来たので試して貰ったのだがやはり開かんのだよ」




 男は清掃係の一般職員だ。よくこの辺りで掃除をしている為チルドレン達と顔なじみになっている。




 「じゃ私のパスでやってみるわ…………私のもだめだわ」
 「僕のもだ」
 「非常時のマニュアルに従って有線の非常回線と携帯の秘密回線で連絡を取ろうとしたけれどだめ。何か起きているわ」




 レイが冷静な声で言う。すでに彼女はEVAパイロットに戻っていた。




 「坊や達そちらに非常用のゲートがあるよ」
 「そうなんですか」
 「ここで掃除して何年にもなるからね。ほらそれだ」




 大月について三人が移動すると、そこには非常用のゲートがあった」




 「あ本当だ。でも開かないんじゃ……手動ゲート」
 「坊やここはひとつ男の子の出番じゃな」
 「やはりそうなるんですか」










 「ほんと、ズボラな人だな、葛城さんも。自分の洗濯物くらい自分で取りに行きゃいいのに。俺も情けないというか。はぁ〜〜恋の奴隷は辛いなぁ。でも加持さんがいるしなぁ。いっその事ナイちゃんに乗り換えるか。彼女俺のこと好きらしいし。でもこんな理由じゃナイちゃんに悪いよなぁ」




 ぶつぶつ呟きながらマコトがコインランドリーから出てくる。哀れと言うか涙ぐましいと言うべきか。ちょうどその時一機のセスナが上空を通り掛かった。




 「こちらは第3管区航空自衛隊です。ただいま正体不明の物体が本地点に対し移動中です。住民の皆様は速やかに指定のシェルターに避難してください」
 「ヤバイ。急いで本部に知らせなきゃ」




 マコトは携帯を取りだし非常回線につなげようとする。




 「あれ。圏外になってる。そんなばかな。こいつはネルフ直通なのに」




 彼は公衆電話も試してみる。




 「こっちもだめだ。あれ、そう言えば街が静かすぎる」




 彼は街に音も動きも無くなっているのに気づいた。




 「どうやって伝える」
 「こういった非常時にも動じない、高橋、高橋覗をよろしくお願いいたします」
 「あ、ラッキー」




 マコトはゆっくり走っている選挙宣伝カーの前に手を広げて立ちふさがった。車は止まった。




 「どうしたんですか」
 「私はネルフの日向マコト二尉といいます。お願いがあるのですが私をネルフの本部に乗せていって欲しいのですが」
 「ネルフですか」




 運転手はむっとしている。車の中には運転手とウグイス嬢しか居ない。




 「お願いします。緊急事態なんです」
 「また怪物が出たんですか」
 「そうなんです。至急ネルフ本部に行かないといけないんです」
 「そういわれても、こっちも高橋市議に断らないと……」
 「後程高橋市議にはこちらからお詫びしますから」
 「……わかりました。乗ってください。カルカちゃんちょっと席動いて」
 「あ、はい」




 ぱっちりお目目のウグイス嬢はワンボックスにマコトが乗り込んできたためズリズリと席を動いた。




 「じゃ非常用車両入り口はこっちですから」




 選挙宣伝カーは動き出した。










 「ねえどうしたの」




 四人はさっきから非常灯だけの通路を歩いている。シンジは少し前からアスカの様子がおかしいのに気がついていた。




 「怖いの
 「え」
 「こ……怖いのよぉ〜〜〜〜うわわわわわわわわわわわわぁん。暗いとこ怖いのよ〜〜〜〜うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 シンジに聞かれて我慢が途切れたのかアスカはぺたんと座り込み泣き始めた。










 「当管区内における非常事態宣言に伴い緊急車両が通ります……って、あの、行き止まりですよぉ〜〜」
 「いいから突っ込め。なんせ非常時だからなぁ」
 「了解〜〜」
 「いやぁ〜〜もう止めてぇ〜〜」




 ウグイス嬢の絶叫と共に選挙宣伝カーは通行止めの標識をなぎ倒し通路に入っていった。ウグイス嬢にとって今日は厄日みたいである。










 「あれ……あの声日向さんだ」




 アスカをようやくなだめ、落ち着かせる為シンジが手を握って通路を進んでいるところだった。その場所では通路の上部は開けていた。普段ならジオフロント内が見えるところだ。




 「使徒接近中、繰り返す現在使徒接近中」
 「「「「使徒接近」」」」




 四人は顔を見合わせた。使徒と聞いてアスカもべそをかくのをやめる。




 「いそがないと」




 シンジが焦る。




 「近道ならそっちにあるぞ」




 大月が建築資材が積み上げている場所を指す。




 「その向こうにダクトがあるよ。そのまま真っすぐダクトの中を行けば、ほらあの金髪の美人の博士……え〜〜と」
 「赤木博士ですか」
 「そうそうその赤木博士の研究室に出るよ」
 「なんでそんな事知っているんですか」
 「私は昔ネルフ本部を建築した会社にいたんだ。その後は掃除夫やっているんだが」
 「そうなの」




 アスカが言う。




 「とにかくそれを片づけよう」




 四人は建築資材を片づけ始めた。










 「現在使徒接近中。直ちにEVA発進の要有りと認む」
 「大変」




 マコトが拡声器で叫ぶ。マヤがコンソール前で言う。




 「冬月、後を頼む」
 「碇」
 「私はケージでEVAの発進準備を進めておく」
 「手動でか」
 「緊急用のディーゼルがある」
 「しかし……パイロットが居ないぞ」




 冬月は呟いた。










 どぉ〜〜ん




 四人が建築資材を片づけている最中であった。使徒の移動により辺りを衝撃が襲った。




 ガラガラ




 「きゃー」




 資材がアスカの上に崩れかかってくる。




 「危ない」




 アスカは大月に突き飛ばされ難を逃れた。しかし大月は……。




 「「「大月さん」」」




 三人は叫んだ。そこには胴から下を資材に挟まれて呻く大月の姿があった。




 「大月さん……ううう……私を助ける為に」




 アスカは泣き出す。




 「アスカさん、泣いてる場合じゃない。大月さんを助けないと。綾波、僕とアスカさんでその鋼材を持ち上げるから大月さんを引きづり出して」
 「わかったわ」




 三人は大月を引きづり出し安全な場所に移した。




 「大月さん……ううう……しっかりして」




 アスカは大月の手を握る。ぽたぽたと涙が滴る。




 「……アスカちゃんは大丈夫かい。うっ……大丈夫だったらダクトの網をはずして早く行くんだ」
 「でもそうしたら大月さんが…………」




 アスカは泣き続ける。




 「大丈夫だよ。ワシはこう見えても結構じょうぶなんじゃ。早く行って使徒をやっつけて助けに来てくれ……ごほ」




 大月は口から血を吐き出す。




 「でもでも」




 アスカはなおも俯き泣き続ける。




 「惣流さん、急ぎましょう」
 「綾波さん」
 「アスカさん、大月さんや綾波の言う通りだよ。僕達には治療できないし、向こうにつけば医療班を送って貰えるよ」
 「そうじゃよ、アスカちゃん。アスカちゃんがここで泣き続けているとワシは死ぬしかないんだよ」




 死ぬと聞いてアスカの顔が上がった。涙だらけの瞳に意志の光が灯った。




 「うっく……わかったわ。大月さん待っててね」
 「ああ、がんばるんだぞ」




 アスカは立ち上がるとダクトに向かった。もう振り向かない。転がっている鉄棒で網を外し始めた。




 「大月さん、僕達行ってやっつけてきます」
 「おう。シンジ君や頑張るんだぞ」
 「はい」
 「シンジ君網外れたわ」
 「じゃ行って来ます」




 シンジは軽く会釈をしダクトに向かった。同じようにレイも会釈をしダクトに向かった。レイ、アスカ、シンジの順でダクトに潜り込んでいった。大月は壁にもたれかかり血だらけになりながら見送った。




 「頑張れよ。ワシの孫娘も生きていればあのくらいの年だな……」




 大月は脳裏にアスカの顔を浮かべた。そして意識を失った。










 三人は暗やみの中を這ってダクトを進む。遥か前方の微かな光に向かって直進した。10分ほど進んだ時急にアスカが止まった。シンジはその為アスカのお尻に顔を突っ込みそうになった。




 「どうしたのアスカさん」
 「いや」
 「へ?」
 「いや」
 「どうしたの惣流さん」
 「いやぁ〜〜〜〜怖いのよ……いやぁ〜〜〜〜うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 とうとうアスカの暗やみに対する恐怖の発作が起きた。が、奇跡が起きた。










 邪トビオ二尉は赤木研究室・第一実験室に来ていた。EVAの手動による起動のマニュアルの一部を探していた。ふと上のほうで音がするとダクトが外れアスカ・レイ・シンジが落ちてきた。




 「シンジ君達!!!」




 アスカの泣き声の周波数が偶然ダクトの共鳴周波数と一致しその大きな泣き声のエネルギーでダクトの繋ぎ目が外れたのであった。




 「邪さん!!!ここどこですか」
 「室長の実験室だよ。書類を取りに来てたんだ。皆ケージへ急ぐんだ」
 「だって。電気来てないんでしょ。EVAの起動は無理だわ」




 落ちたショックで泣きやんだアスカが聞く。




 「大丈夫。手動で皆用意してるよ」
 「ダクトの向こうに大月さんていう一般職員の人が瀕死の重傷で倒れているんです。私を助けて怪我したんです」
 「判った医療班を手配するよ。とにかくケージに向かおう」




 四人はケージに向かった。










 四人がケージに着くと準備は着々と進んでいた。




 「あんたたち」




 チルドレンを見つけてリツコが叫ぶ。




 「各機、エントリー準備」




 ゲンドウが指示を出す。




 「了解、手動でハッチ開け」




 オペレーター達も手伝いロープと滑車で動かしていた。




 「EVAは」
 「スタンバイできてるわ」
 「何も動かないのに」
 「人の手でね。司令のアイディアよ」
 「父さんの」
 「そうよ。碇司令はあなたたちが来ることを信じて準備してたのよ」










 ケージにディーゼルエンジンの音が響く。シンジ達が乗ったエントリープラグが挿入されていく。




 「プラグ挿入」




 マヤが大声で叫ぶ。




 「全機、補助電源にて起動完了」
 「第一ロックボルト、外せ」




 作業員達が斧で油圧のパイプを叩き切っていく。




 「2番から32番までの油圧ロックを解除」
 「圧力ゼロ、状況フリー」
 「構わん。各機実力で拘束具を強制除去。出撃しろ」




 ゲンドウの指令と共に零号機、初号機、弐号機が拘束具を押して外し始めた。










 「目標は直上にて停止の模様」




 先ほどより選挙宣伝カーで行ったり来たりして偵察しているマコトが、車についている拡声器で叫ぶ。



 「作業急いで」




 リツコも叫ぶ。




 「非常用バッテリー搭載完了」
 「よし、いけるわ。発進」




 三機のEVAはケージよりメインシャフトに向かいまた這いずって進んでいった。










 「アスカさん。だいじょうぶ?」
 「もう大丈夫よ。EVAの中だもの」
 「縦穴に出るわ」




 三機は弐号機、零号機、初号機の順でメインシャフトの縦穴を登っていく。




 「あれ」




 アスカは上から何か降ってきたのを感じた。その直後その場所に激痛が走るのを感じた。




 「きゃ〜〜」




 弐号機は足を滑らせ落ちていく。その下に居た零号機、初号機も巻き添えをくらって滑り落ちていった。










 「どうしよう」




 結局側溝まで滑り落ちた時初号機が零号機と弐号機を投げ飛ばすように側溝にたたき込んだ。初号機も身を捻り滑り込む。




 「目標は、強力な溶解液で本部に直接侵入を図るつもりね」
 「どうしよう。早くやっつけないと大月さんが……」
 「そうね」
 「でもどうやって。ライフルは落としちゃったし、後3分ぐらいしか動かないよ」
 「シンジ君、作戦はあるわ。ここにとどまる機体がディフェンスをするの。ATフィールドを中和しつつ使徒の溶解液からオフェンスを守るのよ。バックアップは下降して落ちたライフルを回収しオフェンスに渡すの。そしてオフェンスはライフルの一斉射撃で目標を破壊すればいいの。これでどうかしら」
 「いいわ。ディフェンスは私がやる」




 レイが静かに言う。




 「綾波さん私がやるわ。弐号機は量産型だから零号機や初号機より装甲が厚いの。だから私がやるわ」



 「そんな、危ないよ、アスカさん」
 「今度は二人を私が守るわ。シンジ君がオフェンス、綾波さんがバックアップでいい」
 「わかったわ」
 「わかったよ」




 レイとシンジが頷く。




 「じゃ行くわよ……Gehen!!!」




 アスカの掛け声と共に弐号機は逆上がりの要領で側溝を飛び出る。体を捻ると両手足を伸ばし下向きで縦穴を塞ぐように張りつく。次に零号機が飛び出し縦穴を降下する。初号機も飛び出し上向きで縦穴に張りつく。




 EVAの動きを察知したのか使徒は大量の溶解液を分泌してきた。




 「ぎゃぁ〜〜」




 溶解液が大量にかかり弐号機の背中が溶けていく。アスカは絶叫をあげ続けた。絶叫しつつも苦痛に耐えていた。ATフィールドを中和し続けた。




 「綾波早く」




 逆噴射で着地した零号機に向かいシンジが叫ぶ。零号機はライフルを投げて初号機に渡す。




 「アスカさん避けて」




 アスカは必死の思いで弐号機を縦穴の壁に張りつかせる。シンジはライフルを一斉射撃した。溶解液の分泌が止まった。使徒は機能を停止した。それと共に弐号機も縦穴を滑り落ちてきた。初号機に抱きつくようにして落ちるのが止まった。弐号機とシンクロしているアスカは初号機に抱きついている様に感じた。




 「シンジ君……痛いよぉ」




 そう呟くとアスカは意識を失った。










 リツコとマヤと邪はシンジ達の回収を急ぐため、復旧した電源でエレベーターを先に動かした。エレベーターが彼女たちのいる階で止まった。扉が開くとそこには冷房が効かなくなって暑かったのか上半身が下着姿のミサトと加持が肩を寄せあい座って眠り込んでいた。しばらく二人を眺めていた親友の意見は……呑気ね……だった。一方邪はミサトの巨乳から目が離せなかった。ふと横からの冷たい視線を感じて振り向くとマヤが無表情に呟いた。




 「トビオ……不潔」
 「あわわ、マヤ違うよ。二人とも大丈夫かなぁと思ってさ……」




 前に仲良く眠りこけてる親友達、横には痴話喧嘩を始めた手下達。リツコはこめかみの血管をぴくぴくさせて言った。




 「無様ね」










 地上と本部内を何往復もしたマコトの為にシゲルは冷えた缶コーヒーを探してきて渡した。シゲルは選挙宣伝カーの運転手にもコーヒーを渡す。本部の広場の隅っこに疲れた感じで座っているウグイス嬢にも缶コーヒーを渡す。そのとなりに座り自分もコーヒーを飲む。ウグイス嬢は少し脅えたような顔つきでシゲルを見る。




 「ネルフは特務機関だけど人をとって食うわけじゃないよ。美人には優しくするって規則で決まっているんだぜ」




 シゲルの軽い口調でウグイス嬢はほっとした表情になる。




 「俺は青葉シゲルって言うんだけど君は」
 「飛羽……飛羽カルカっていいます」










 アスカは気がついた。うつ伏せで大の時になってベッドに寝ているらしい。ただ手足が固定されているらしく動かせない。パンティとゆるゆるの寝巻きしか身に着けていない。豊かな胸などは完全にはみ出ている。




 「あれ。私どうしちゃったの」
 「惣流さん。気づいたの。惣流さん使徒の溶解液のフィードバックで背中一面水ぶくれになってしまったの。背中に治療したの。だから寝返りしないように固定してるの」
 「綾波さん。そうなの……ねえ大月さんは!!」




 アスカの声が悲鳴に変わる。




 「大丈夫。仮死状態だったけど赤木博士特製の医療ポットで一命を取り留めたわ。惣流さんより先に意識は回復したわ」
 「よかった。ぐすん」




 ベッドに張り付け状態で泣き出すアスカ。ちょっと怪しい光景である。




 「ねえ綾波さん。手足の固定外してくれないかしら」
 「わかったわ。今外す」




 かちゃかちゃ




 アスカはベッドの端に座る。胸がぽろりとはみ出る。慌ててアスカは胸を隠す。寝巻きが擦れて背中が痛い。




 「綾波さん、シンジ君は?」
 「碇君さっき見舞いに来てたけど、惣流さんを見たら顔真っ赤にして出ていったわ」




 アスカは先ほどまでの自分の格好を思い出した。とても他人に見せられた格好ではない。




 「え今までの格好を……シンジ君が……シンジ君に……見られたぁ〜〜〜〜びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」




 アスカは三日後退院したが、ショックで三日間部屋に籠りきりだった。










つづくかなぁ〜〜?





NEXT
ver.-1.00 1998+01/25公開
ご意見・感想・誤字情報・らぶりぃりっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!




 あとがき




 「めそアス」も泣きねたがなかなか出ないんですよね。そうするとついちょぴりえっちねたに頼ってしまうんです。今回は作者の煩悩が爆発しています。
 年の初めはスランプで全然書けなくって悩みました。このまま「めそアス」「あるレイ」を書いていくと単に男の子にとって都合がいいだけの女の子を作ってしまうのではないかと……。とは言え物を書くということは本来自分の好きな事(人)を表現することだし……。
 ともかく「めそアス」は泣く娘は可愛い?泣けば苦しみも乗り越えられるをコンセプトで書き続けますが。








 合言葉は「めそめそアスカちゃん」




 ではまた



 まっこうさんの『めそめそアスカちゃん4』、公開です。
 

 

 両手に花のシンジ・・・

 う、羨ましくなんか無いやい!
 

 究極的な美少女二人。

 スキンシップいっぱいで、
 身近に存在を感じられて、
 あわれもない姿をいっぱい見れて・・

 う、羨ましくなんか無いよ (;;)
 

 その二人とも
 「いいよ」体制で・・・
 

 ぐが! 羨ましく無いんだってば〜
 

 

 ちゅう吉。
 大月のおじさん。
 ゲンドウも。

 3人を見守る、
 3人を支える、

 たくさんの人達。

 3人の成長があたたかいですね(^^)
 

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 愛いっぱいのまっこうさんに感想メールを送りましょう!


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