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めそめそアスカちゃん2・ダンスダンスダンス







 シンジはその日半分眠りながら通学していた。結局アスカと共に魚使徒は倒せたが、胸部に打撲傷を負ってしまった。幸い骨には異状が無かった為、湿布を貼り包帯でぐるぐる巻きにする治療が行なわれただけだった。アスカをホテルに送った後、マンションに帰ったシンジは祝勝会と称したミサトに夜遅くまで酒をつき合わされたのだ。もちろんシンジは一滴も飲んでいないが。




 「昨日は酷かったなぁ。気が付いたら病院のベットだもんなぁ。で、横見たら椅子に座ってた惣流さんがいきなり大音響で泣いちゃうんだもんなぁ。泣いてくれるのは嬉しいけど、胸の痛みより惣流さん泣き止ませる方が疲れたなぁ。惣流さんっていい子だけどあの泣き声だけは何とかして欲しいなぁ〜〜」




 アスカ人にとっては罰当たりな事を呟きつつ、ボーとしながら学校に向かう。




 「シンジくんおはよう
 「ほんと顔は満点だし」
 「シンジくんおはよう
 「スタイルはいいし」
 「シンジくんおはよう」
 「気立てもよさそうだし」
 「うううううわぁ〜〜〜〜〜〜〜ん。シンジくんが挨拶してくれなぁ〜〜〜い。ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん。うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん












































 その子は奇麗で可愛くて才能豊かで魅力的。
 みんなも知ってる中学生。
 でも彼女には一つ秘密があったのです。
























 彼女は




























     泣き虫だったのです




















めそめそアスカちゃん2

ダンスダンスダンス






















 「うわ。惣流さんごめんよ。寝不足でボーとしてただけなんだ。無視した訳じゃないんだよ〜〜」




 朝っぱらからの攻撃にいささかゲンナリしながらも、シンジはアスカに謝った。




 「うぇぇぇぇん。うぇん。ひっく。ひっく。ほんと?うっく」
 「ほんとだって。昨日ちょっと胸が痛かったから寝不足なんだ」
 「ひっく。胸が痛かったって、やっぱり……私のせいなんだぁ……うううううぁ〜〜〜〜ん。シンジくんごめんなさぁ〜〜い。うぁ〜〜〜〜ん」




 シンジは困り果てた。通学途中の他の生徒が遠巻きにして見ている。シンジはいささかあせって来た。シンジは鞄よりタオルを出すとアスカに渡して言った。




 「そ、惣流さん。泣き止んで。惣流さんが悪いんじゃないんだから。ああいう作戦だったんだから」
 「ひぃ〜〜〜〜ん。ひっく。シンジくんって優しいのね。ひっくひっく。うん。ごめんなさい。ひっく。大声出して」




 アスカは目に涙を溜めながらも一所懸命に笑おうとした。シンジのタオルで顔を拭う。可愛いなぁ。シンジは素直に思った。




 「構わないよ。ところで今日はどうしたの?」
 「ひっく。今日、今日ね。私シンジ君と同じ学校の同じクラスに転校になったの。」
 「えっ。僕のクラス?」
 「えっ。いやなの?」




 またアスカの瞳に涙がたまり始める。




 「あっ。そうじゃなくっていきなりだからビックリしたんだ」
 「そ、そうなのね。よかった」




 アスカはウルウルお目目でシンジを見ていた。シンジは少し顔が熱くなるのを感じた。



 「ところでシンジくん」




 アスカがタオルをシンジに返しながら言う。




 「同じクラスに彼女がいるのよね」
 「へ?僕には彼女なんていないよ……」
 「そうじゃなくてファーストチルドレン」
 「ああ綾波ね。この時間ならまだ通学路の途中で本を読んでいる時間だよ」
 「そうなの。読書が好きなのね」
 「うん。すごく無口なんだ」
 「じゃあ文学少女?」
 「そういう訳でも…………あっあそこのベンチの子だよ」




 二人が歩いていく方向をシンジが指差す。その指の先には一人のほっそりとした少女がベンチに座って本を読んでいた。アスカはその少女に挨拶をした。




 「おはよう綾波さん」
 「おはよう」
 「私セカンドチルドレンの惣流・アスカ・ラングレー」
 「そう」
 「あの」
 「……」
 「綾波さん。お友達になりましょ」
 「命令があればそうするわ」




 笑顔で綾波に話しかけるアスカ。一方無表情に神秘学の本に目を戻し答えるレイ。アスカの笑顔が凍り付いた。




 「命令ってそんな……そんな……私そんな……お友達になってくれないの。私なんか悪い事したの……ううううう……うううううう……うぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」




 いきなりの大音響の泣き声にさすがの無表情魔人レイもビックリしベンチから飛びのいた。レイは驚いたような顔をしてアスカを見た。一方シンジはやっぱりこうなったかと言う顔をしていた。




 「碇君この子どうしたの」




 レイにしてはめずらしく他人に関心を持ったようだ。
 自分で泣かしといてなんだが、確かにあれで大泣きされたのでは疑問も出るだろう。




 「何かっていうとすぐ泣いちゃうんだ。それ以外はほぼ満点なんだけどね」
 「そう。碇君この子の事好きなのね




 レイの顔に少し表情が湧いた。




 「綾波何か言った?」
 「いいえ」
 「まあとにかく。泣き止ませないと」




 シンジとレイの会話を横にアスカは両手を両目にあてて号泣していた。




 「綾波、アスカさんに謝って。さすがにさっきの言い方はやばいよ」
 「そう。わかったわ」




 レイはアスカの前に立つとアスカに話し始める。




 「惣流さん。さっきはごめんなさい。私あまり他の人と話した事が無いので時々変な言い方するの。惣流さんの事嫌いな訳じゃないわ」
 「惣流さん、綾波ってちょっと話し方が変なだけでさっきのも悪気があった訳じゃないんだよ。だから泣き止んで。そんなに泣いてたら仲良く出来ないよ」
 「だって……うっく……ひっく……いきなり……ひっく……命令があればなんて……ううう……言うんだもん……ううう」




 アスカが少し収まって来たところで、シンジは二人の手をとると握手をさせる。




 「二人とも友達になろうよ。ね。アスカさんも泣いてないで」
 「うん。ひっく……綾波さんよろしくね」
 「ええ。惣流さんよろしく」




 アスカは泣きっ面、レイは無表情。へんな二人である。




 「さぁ学校に行こう。時間をくったから早くしないと遅刻だよ」




 シンジは両手に変な花で学校に向かった。








 「トウジ」
 「何やケンスケ」




 彼等はシンジ達の後ろを歩いていた。




 「惣流さんどう思う」
 「なにが?」
 「いつもの商売だよ」
 「ばっちりやな」
 「そうだろう。写真にあの泣き声はないからね。あの泣き顔もナイス。苛めてみたいなんてやつも出て来そうだしね。それにしてもほんと変な奴等だね」
 「ほんまエバのパイロットって変わりもんが選ばれるんとちゃうか」




 こいつらに変な奴等とは言われたくないだろう。
 シンジ達五人は学校についた。彼等に視線が集まる。それはそうだ。飛びっきりの美人二人を連れてのほほんとシンジが校庭を進んでいくのだから。鈍いシンジは全然気が付かない。ケンスケとトウジは写真の販売計画に没頭している。レイははなっから無視している。一人アスカだけがシンジに対する殺気混じりの視線と、アスカに対する刺すような興味の視線に恐れおののいていた。




 (恐いよ)




 「ぐすん……恐い……ぐすん、ぐすん」




 始まった。校庭の真ん中で始まってしまった。がアスカもここは我慢した。泣いているのを周りに悟られないように、シンジの斜め後ろに寄り添うようにしてぴたっと張り付くようについていく。しかしその行為は逆効果である。




 「シンジの野郎綾波だけじゃなくこんな美人とも……
   シンジの野郎見た事も無い外人の子とといちゃいちゃしてる……」




 周りからくらぁ〜〜い迫力のこもった視線がシンジに集中する。アスカはますますぴとっと引っ付く。




 「トウジ」
 「なんやケンスケ」
 「この状態シンジに教えるべきかな」
 「ほっとけ暴動にでもならんかぎり大丈夫や」




 まぁそうのこうの言ってる間に一行は無事下駄箱までたどり着く。アスカも強烈な視線から解放され、やっと一息つく。シンジはやっとアスカがぴとっと引っ付いているのに気が付く。




 「あれ惣流さんどうしたの」
 「何でも無いわシンジくん」




 どうにか自己回復をしていたアスカである。一方レイは無造作に自分の下駄箱を開ける。




 ざばぁ




 ラブレターが流れ落ちる。




 「綾波今日は少な目だね」
 「そうね。ラブレター。言葉で愛をつむぐ物。紙に愛を放つ物……ぶつぶつ」




 いつもの様に意味不明の台詞を吐くと、落っこちた30通ほどの手紙を拾い上げ無造作にごみ箱に捨てに行った。
 アスカは驚いてシンジに聞く。




 「綾波さんって何時もこうなの」
 「そうだよ。今日は少な目みたいだけどね」
 「凄いわね」
 「さすがに綾波さんも困ってたらしく、僕に彼氏のふりしてくれないかって言ったんだ」
 「彼氏の?」
 「うん。登下校を出来るだけ一緒にしてそういう教室でも振りをすればラブレターも減るだろうって」
 「そうなの。あ戻って来た」




 レイが戻ってくる。




 「じゃ先教室行っているから」




 レイはスタスタと階段を上がっていった。 




 「じゃ僕たちも行こうか、惣流さんはまず職員室だよね」
 「うん案内してくれる」
 「いいよ」




 シンジはアスカに来客様のスリッパを手渡すと職員室へと案内した。シンジは職員室でアスカを担当の教師にひきあわせた。






















 リツコは魚使徒の解析をしていた。ばらばらになって水中に沈んでいた使徒のサンプルは拾い集められていた。また弐号機の記録装置も参考にしていた。
 突然後ろから抱きすくめられた。しかも後ろからの右手はリツコの胸を優しく押し包む。右手の微妙な動きについため息とも何とも言えない甘い声を出してしまう。




 「少し痩せたかな」
 「そう」




 あいつだった。




 「悲しい恋をしてるからだ」
 「どうしてそんな事がわかるの」
 「それはね、涙の通り道に黒子があるひとは一生泣き続ける運命にあるからだよ」




 などとリツコはその男と会話を楽しんでいたが、いきなり後ろから殺気が襲って来て凍り付いてしまった。
 男も同じらしく動きがぴたりと止まった。そして男の首に細く美しい指が後ろから絡み付いたかと思うといきなり男の首を締めつつ持ち上げた。




 「ぐえぇぇぇぇぇぇぇぇ、や…め…て…く…れ…ミ…サ…ト」




 殺気の発生源は答えた。




 「かぅぁ〜〜〜〜じぃ〜〜〜〜、じゃあ後ろからネックハンギングツリーをやる女はどうゆう運命にあるか教えてくれないかなぁ〜〜」




 むしろ明るい声だった。




 「頼…む…マ…イ…ハ…ニ…〜…〜…許…し…て…く…れ…ぇ…〜…〜」
 「アンタが空母から逃げ出しちゃった後どうなったかご存じ?戻って来たアスカ加持さんに見捨てられたって一時間泣きどおしよ。わたしゃおかげでぐったりしたわ。フン!!」




 掛け声と共に加持はミサトによって壁に叩きつけられた。加持は壁から跳ね返り白目を向いて気絶し倒れていた。




 「あらあら、また派手な夫婦喧嘩ね」
 「夫婦じゃないわよ」
 「まあまあミサト落ち着きなさいよ。加持君起してあげたら」




 ミサトは加持に近づくと急所を蹴っ飛ばした。加持はびくんと痙攣し目を覚ました。




 「いてぇ〜〜〜〜ミサト何すんだよ。ここ蹴ってどうにかなったら、お前にとって損だぞ」
 「何言ってんのよ」




 がし




 ミサトの蹴りが再度加持の急所にめり込んだ。再度加持は気絶した。




 「あいかわらずねぇ〜〜」




 リツコは惨状を眺めつつのんびり言った。




 ビービービービー




 いきなりネルフ本部内に警報が鳴り響いた。




 「敵襲?」
 「そうみたいね」




 ミサトとリツコは発令所に急いだ。一方加持はまだ気絶していた。
















 「でミサトさんどうするんですか」




 シンジはプラグ内からミサトに質問した。既に開いているアスカのウインドウの横にミサトのウインドウが開いた。




 「現在使徒は紀伊半島沖から一直線にこちらに向かっているわ。先の戦闘によって第3新東京市の迎撃システムは大きなダメージを受け、現在までの復旧率は26%、実戦における稼働率は0といっていいわ。したがって今回は上陸直前の目標を水際で一気に叩く。初号機ならびに弐号機は交互に目標に対して波状攻撃、近接戦闘で行くわよ」
 「「了解」」




 シンジとアスカは、初号機、弐号機と共に航空機で輸送されていた。




 「シンジくん」
 「なあに惣流さん」




 シークレットの回線でアスカが話しかけてくる。




 「私うまく出来るかな」
 「大丈夫だよ。惣流さん操縦はとってもうまいんだから」
 「ありがとう。ぐっすん」
 「ど、どうしたの」
 「なんだか嬉しくってすこし涙が出ちゃった」
 「そう」




 シンジも嬉し泣きならいいかなぁと思う。




 「惣流さん」
 「なあにシンジくん」
 「日本でのデビュー戦頑張ろうね」
 「うん」




 アスカはおもいっきり首を振った。涙が少し振りまかれた。プラグ内の照明に照らされ真珠みたいに奇麗だった。
 そのあと現地に着くまで二人は無言だった。








 初号機と弐号機は海岸の砂浜に立っていた。周りはネルフとUNが固めている。
 シンジとアスカが見つめていた水面がいきなり盛り上がる。




 「来た」




 シンジの声にアスカも顔が引き締まる。そして海面の水柱が静まった後、人が万歳したような形の使徒が現れた。




 「シンジくん。今回は私が行きます。掩護射撃をお願いします」
 「危ないよ惣流さん。僕が先行するよ」
 「前回シンジくんに苦労させたから私が行くわ」
 「わかった。掩護射撃するから気をつけて」
 「うん」




 アスカはうなづくと弐号機を使徒に向かい走らせた。シンジは初号機でパレットガンを使い掩護射撃をする。アスカは水際まで近づくと、セカンド・インパクトで水没したビルづたいにジャンプして移動する。どうやら空中戦は得意みたいである。使徒に接近した後隙を見計らい飛びかかる。無言の気合いをはくとソニックブレイブで使徒を真っ向幹竹割にした。




 すぱん




 そんな音が聞こえそうなぐらい見事に使徒は正中線で二つに切断された。




 「お見事」




 シンジはあまりの弐号機の見事な操縦にビックリしていた。




 「シンジくん有り難う」




 シンジの賞賛にアスカは頬を赤く染めていた。ついでに嬉し涙も二〜三滴……。




 が




 使徒はいきなり復活した。二等分された使徒の体にいきなりそれぞれコアが現れた。脱皮をするように顔の無い人間の様な形に変形した。ニ体とも同じ形をしていた。




 「きゃ〜〜〜〜」




 油断していたアスカは使徒に跳ね飛ばされた。




 「惣流さぁ〜〜ん」




 シンジは初号機を走らせた。




 「なんていんちきぃ」




 ミサトはわめいた。




















 「本日午前10時58分15秒ニ体に分離した目標甲の攻撃によって……」




 ここはネルフ作戦会議室。今回の作戦の失敗の反省会?が開かれていた。
 マヤ嬢の声が状況報告をしていく。しかし皆はよく聞き取れなかった。




 「わぁ〜〜〜〜ん。ひぇ〜〜〜〜〜ん。うぇ〜〜〜〜ん」




 アスカである。もう2時間も連続して泣いている。よく涙の元が尽きない物である。あの豊かな胸にでも貯えているのだろうか?加持やシンジが手を尽くして泣きやめさせようとしたが無駄だった。




 「加持君。彼女は何とかならんのかね。これでは話が進まん」




 ものに動じない冬月でさえいささか呆れていた。




 「私ではどうしようも」




 加持は手を広げおどけたように答える。




 「むしろシンジくんの方がいいでしょう。シンジくん頼むよ」
 「え、ええ。ああの惣流さん。とにかく泣き止んでよ。まず話そうよ」
 「うぇ〜〜〜〜ん。だって……ぐす……私のせいで……ううう……作戦大失敗……あう……しちゃった……うううううううぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
 「でもあれはミサトさんがたてたそうゆう作戦だし、本来先行して攻撃は僕がやればよかったんだから……」
 「あ〜〜〜〜ん。やっぱり……ううう……私が……ぐす……でしゃばり女なのが……ううう……いけないんだうわぁ〜〜〜〜〜ん」
 「とにかくNN爆雷で6日間は足留めできるみたいだから、その間に何とかすればいいんだから……」
 「うぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」




 聞いちゃいなかった。おかげで会議室のメンバーは疲れ切っていた。結局隣の部屋でシンジがアスカをなだめている間に加持を中心に作戦が検討された。対策が固まるまではかかりそうな為シンジとアスカは帰宅する事となった。シンジはまだはなをすすって泣いているアスカをホテルに送り届けその後ミサトのマンションへと帰った。












 ぴんぽん




 それはシンジが夕食を何にしようか考え始めた時の事だった。ドアのチャイムが鳴った。




 「はぁ〜〜い」




 しんじはドアに向かう。不用心ではあるが彼は確かめもせずドアを開けた。




 「あっ」




 そこにはアスカが立っていた。来日した時のワンピースに麦わら帽子、手には大きなボストンバックを抱えていた。一瞬目を奪われぼ〜〜っとしたシンジであったが気を取り直してアスカに聞く。




 「どうしてここに来たの」
 「どうしてって、葛城さんから電話で、ホテルを引き払って葛城さんのマンションに来るようにって言われたの」
 「そ、そう」
 「私来てはいけなかったの…………」




 もう目が潤んで来た。




 「そんな事無いよ。いきなりだったからビックリしたんだよ」
 「そうなの。よかった」




 目に涙を溜めながらにっこりと笑うアスカ。なかなか威力がある笑顔だ。




 「とりあえず、玄関先ではなんだし上がらない」
 「ええ、じゃ、おじゃましまぁ〜〜す」




 数分後




 「はいどうぞ」




 ちゃぶ台の前にちょこんと正座しているアスカにシンジがお茶を出す。茶菓子が入った小さなお盆も出す。




 「ありがとう。いただきます」




 アスカは丁寧に茶碗を持つとお茶を飲む。




 「おいしい」




 茶碗を静かに置くとにっこり微笑む。シンジはどきっとした。




 「ところで惣流さん。ミサトさんはなんて言ってたの?」
 「特にはなにも。とにかくホテルを引き払って今すぐ私のマンションに来なさいって。上司命令よって」
 「ふぅ〜〜んそうなの。どうする気なんだろう?」
 「さあ?」




 二人とも頭をひねったが何も浮かばなかった。そうこうしているうちにアスカがもじもじし始めた。




 「どうしたの?」
 「え、あの……」




 恥ずかしそうに顔を赤くして俯く。




 「あっ。あっちだよ」




 シンジも気付いたらしく、そっぽを向きつつトイレを指差す。
 アスカは立ち上がって向かおうとするが、いかんせん正座には慣れてない。足がしびれてもつれてしまう。




 「あっ」




 あわてて手を貸そうとするシンジであるが、アスカの方が数センチ身長が高い。自分も引っ張られて倒れてしまう。カーペットの上で横向きに抱き合うように倒れてしまった。二人ともビックリして声も出ない。




 すると案の定……




 「たっだいまぁ〜〜〜〜〜〜〜〜シンちゃんアスカいっる〜〜〜〜〜〜〜〜」




 どたどたどたどた




 ミサトのお帰りだ。




 がら




 部屋の戸が開けられる。




 「う…………アンタ達またしても」




 沈黙




 「ちっ違うんですミサトさん」
 「なにが〜〜シンちゃんアンタ達まだ中学生でしょうが……」




 う……ううう…………ううううううううう

 うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん

 うわわわわわわわわわわわわわわわ〜〜〜〜〜〜〜〜ん




 アスカは激しく泣き出すと立ち上がりトイレに駆け込んでしまった。




 うわわわわわわわわわわわわわわ〜〜〜〜〜〜〜〜ん




 「シンちゃん」




 ミサトはシンジの首根っこを掴みあげ座らせると前にどっかとあぐらをかき言う。




 「アンタ最後までアスカにやっちゃったとか…………」




 真剣な目つきで聞く。




 うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん




 少し声は小さくなって来たようだ。




 「そんな事するはずがないでしょ」
 「じゃ何でアスカ、トイレにかけ込むのよ」
 「話が逆ですよ。惣流さんと話してたらトイレに行きたいって、で立ち上がろうとしたんですけど正座してたから足がしびれて倒れちゃったんです。その時巻き沿いをくらったんです」
 「ほんとぉ…………シンちゃん正直に話してよ。エバのパイロットとはいえあの子まだ十三才の少女よ。あなただってまだ十四才じゃない。まだ早すぎるわ。もしそうだとしたら、私あの子の両親の前で腹をかっさばく覚悟がいるから」
 「ちがいますよぉ〜〜。だいたいじゃ何故服着てるんですか」
 「もう終わっちゃって着替え終わったとか」
 「もぉ〜〜。じゃ惣流さんに聞いてください」
 「そおするわ」




 ミサトは立ち上がりトイレの前に行くと、小声でまだ泣いているアスカに問いただす。二言三言話すと戻って来た。またシンジの前にどかっとあぐらで座る。




 「シンちゃん……アスカ……もうお嫁に行けないって言ってたわよ。どうすんの」
 「え…………ぼっ僕はそんな事してません……し信じてください」




 シンジは真っ青になる。




 ぷっぷぷぷぷぷぷぷ




 ミサトが笑い出した。




 「ごっごめんシンちゃん。あんまり真面目だったから、からかっただけよ。アスカったらトイレ我慢しててこけてちびりそうになったのがよほど恥ずかしかったらしくって泣いてたみたい。ただ、お嫁に行けないっていうのは実際言ってたわ。まぁそうなったらシンちゃん責任とってね」
 「そんな無茶な」




 ミサトがタンクトップにホットパンツという普段の格好に着替え終えてえびちゅ片手に戻って来た。ちゃぶ台を挟んでシンジの反対側にあぐらをかく。ちょうどアスカも泣き止んでトイレから出て来た。目は赤かったが泣き顔ではなくなっていた。




 「惣流さん大丈夫?」
 「うん。おさがわせしてごめんなさい」




 アスカはシンジに並んで座った。




 「惣流さん。あの……今度は足崩して座っていた方がいいよ。そっち見ないから」
 「わ、わかったわ。有り難う」




 シンジとアスカは赤くなっている。




 「おふたりさぁ〜〜ん。いいかなぁ〜〜。説明するわよぉ〜〜」




 ミサトはからからいつつも真剣に説明を始める。




 「第七使徒の弱点は一つ。分離中のコアに対する二点同時の過重攻撃。これしかないわ。つまりエバ二体のタイミングを完璧に合わした攻撃よ。その為には二人の協調、完璧なユニゾンが必要なの。そ…こ…であなた達にこれから一緒に暮らしてもらうわ」
 「「ええ〜〜〜〜」」




 シンジとアスカは口をあんぐりと開ける。少し唖然としていたが、シンジはミサトの表情が引きつったのを目にした。気がついてアスカを見る。既に美しいスカイブルーの瞳からは涙が大量に流れていた。




 「ううううううううううううううううううぅわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん。そんな事皆に知られたらお嫁に行けなくなるぅ〜〜うううううぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
 「ア、アスカお願い泣き止んで、いざとなったらシンちゃんに責任もってお嫁さんにもらうように説得してあげるから」
 「うえええええええええ〜〜〜〜〜ん。ううううううう。ぐす。……ほんと……ぐすん。ぐすん」
 「ほんとよ。ねぇ〜〜シンちゃん」
 「はっ、はい」




 諦めたように言うシンジ。シンジはとにかく泣き止んで欲しいだけであった。




 「でも具体的にはどうするんですか?」




 シンジが聞く。ミサトは2本のS−DATのテープを取り出す。




 「二人の完璧なユニゾンをマスターする為この曲に合わせた攻撃パターンを覚え込むのよ」




 こうして三人の生活が始まった。















 ちゅん、ちゅん




 雀の鳴き声の聞こえる穏やかな朝……………それは、いつもの朝のようでいて、ちっともそうではなかった………。
 シンジがいつものように軽く欠伸をしながらキッチンに向かうと、アスカが彼より早くそこにたっていたのだ。




 「………そ惣流さん……」




 「あら、シンジくん、おはようございます」
 「あっ、はい、おはようございます………」
 「もうすぐ朝食ができますから、お座りになってお待ちください」
 「ううん………」




 どことなく戸惑っているシンジをよそに、アスカは手際よく朝食の用意をしている。ヘッドホンをつけ昨日渡されたS−DATを聞きながらアスカはまめまめしく働く。真っ赤なホットパンツに薄手のシャツ、それにエプロンを着けている。元気な盛りであるシンジにはいささか刺激のある格好である。もしこれがミサトで慣れていなかったら危ない所だ。




 「あ、そうだシンジくん。あのテープいつも聞いてないと……」
 「そっそうだったね。とってこよっと」




 シンジは自分の部屋に戻りながら考える。これだよなぁ〜〜〜。女の人って。料理がうまくって働き者で、笑顔がステキで若くって。うんうん。と、ミサトが聞いたら命が無いような事を考えつつ幸福に浸っていた。ヘッドホンステレオを付けダイニングに戻ると既に朝食の用意は終わっていた。




 「シンジくん、ミサトさんは?」
 「もうちょっとしたらしぜんに起きてくるよ。昨日は遅くまで資料作っていたからもう少し寝かせておいてあげようよ」
 「そうね。それじゃ先に頂きましょ」
 「うん。それじゃ頂きます」
 「頂きます」




 料理は和食だった。ご飯、味噌汁、塩鮭、炒り卵、御新香、海苔である。




 「うまくできたかなぁ」




 心配そうにアスカが言う。シンジはまず味噌汁を味わってみる。具はワカメと豆腐である。シンジは次に炒り卵に手をつける。




 「うううううううう」
 「どうしたのシンジくん」




 いきなり涙を流し出したシンジを見てアスカも泣きそうになる。




 「うまい。感動だょぉ〜〜。こっちに来てからご飯ミサトさんが作った時って死ぬほど酷い味だったんだよ。それがこんなにうまいご飯が食べられるなんて。う嬉しい」




 シンジはご飯を頬張り始めた。アスカもほっとしたような表情になる。




 「お…は…よ゛〜〜」




 一応ちゃんとした格好でミサトがおきて来た。椅子に座り食卓を見て言う。




 「ふぅ〜〜ん。どっちが作ったの?」
 「私です」




 とアスカ。




 「美味しそうね。じゃ私にはまずえびちゅちょうだい」
 「えっ。でも朝はお味噌汁からじゃないんですか?私ドイツでそう習いました。あ、きっと私のお味噌汁ってほんとは不味そうなんだ。それをシンジくん無理して……。ミサトさん正直だから……うううううううう…………うううううううう。うぇぇぇぇぇぇぇん」
 「あっアスカ違うのよ。そっそうね日本の朝はやはりお味噌汁ね。そうね……ずずずずず……ん、うまい。シンちゃんに負けず劣らずね。なかなかのお味よ」
 「ぐす。んんんんん。よかった。うっく。じゃ不味くないんですね」
 「もちろんよアスカ。美味しいわよ。すぐにでもお嫁さんに行けるぐらいよ」




 ミサトとアスカのやり取りを見て、えびちゅ代が助かるとまた嬉涙を流すシンジである。
















 「ところでミサトさん。今日来る教官ってどんな人ですか」




 朝食後お茶と梅干しでだんらんを取る三人である。アスカはドイツから来日する際、日本の風習料理作法について特訓をしたらしい。




 「リツコの部下の人よ。もうそろそろ来るはずよ」




 ぴんぽん




 「はぁ〜〜い」




 ちょうど来たらしい。




 「どなたですか?」
 「ネルフの技術開発部第二課から来た峯マサヤです」
 「シンちゃんその方よ。入れてあげて」




 がちゃ




 「あ、どうも」




 中肉中背の男が入ってくる。歳は二十五〜六の様だ。茶色いジャージを着ている。




 「シンちゃんアスカちゃん紹介するわ。ネルフ技術開発部第二課の峯マサヤさん。ネルフの社交ダンス愛好会の会長でもあるわ」
 「社交ダンス愛好会?そんなのあるの?」




 不思議がるアスカ。




 「そうだよアスカちゃん。ネルフもいつも戦闘をしている訳じゃない。むしろ職員の9割は研究者だよ。まぁそう言う訳で、社交ダンス愛好会なんてのがある訳だ」




 マサヤが説明する。




 「そうなの。あれなんで私の名を知っているの?」
 「それは当然だよ。実戦での戦歴ナンバー1サードチルドレン碇シンジ、神秘的な美少女ファーストチルドレン綾波レイ、ドイツから来た天才美少女セカンドチルドレン惣流・アスカ・ラングレー。ネルフの職員なら知ってて当然だよ」




 そういってシンジとアスカに笑いかけるマサヤである。




 「じゃ早速時間も惜しいので練習を始めましょ。峯さんの指導で二人でダンスを六日間でマスターしてもらいます。すぐ居間をかたずけて着替えたら練習よ。二人ともいいわね」
 「「ハイ」」




 シンジとアスカは元気よく答えた。




 「「峯マサヤ先生よろしくお願いします」」
 「うんわかった。人類の為びしびしいくからね」
 「「わかりました」」




 そして特訓が始まった。




















 うぃ〜〜〜〜ん




 二つの並んだエレベータが同時に上がってくる。ほぼ同時に二つの扉は開いた。




 「あれ?いいんちょやんか」
 「さんバカトリオの二人」




 トウジとケンスケはヒカリと顔を会わせた。




 「何でいいんちょがここにおるんや」
 「惣流さんのお見舞い」
 「あなた達こそどうしてここに?」
 「碇君のお見舞い」




 三人はなぜか同じ方に向かう。




 「「「何でここで止まるんだ(の)」」」




 ぴんぽん




 三人の指が同時に同じチャイムを押す。




 「「はぁ〜〜〜〜い」」




 ん?なぜに二人分の声がする?2バカは思う。
 ドアが開く。
 シンジとアスカが同じようなレオタードにペアルックの上着を着て同じヘッドホンをし同時に出て来た。




 「うっうっうらぎりもん」




 と、トウジの弁。




 「またしても今時ペアルック。いや〜〜んな感じ」




 とは、ケンスケの言葉。ヒカリはお目目が引きつりぴくぴく。




 「「これは日本人は形から入るもんだって無理矢理ミサトさんが」」
 「不潔よ二人とも」
 「「誤解だよ(だわ)」」
 「誤解も六階も無いわ」




 顔を覆っていやんいやんするヒカリ。




 が




 「ごごご誤解なのよ〜〜〜〜ううううううううううぉわぁあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」




 アスカが泣き出した。トウジとケンスケ、シンジは即座に耳を塞いだがヒカリはもろに泣き声を浴びてしまった。




 バタリ




 玄関脇で気絶するヒカリ。すでに生物兵器の域に達しているアスカの泣き声であった。



 「うわわわわわわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」




 ペタンと座り込んで大口開けて大音響で泣いているアスカ。目をぐるぐると廻しているヒカリ。両耳を押えておろおろする三バカ。
 もはやシュールである。
 決死の覚悟でシンジがアスカの口を手で塞ぐ。




 「ひぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ん。うわ〜〜……もごもご……」




 手足をじたばたとしまだ泣き続けるアスカ。声は止まったが涙でレオタードがびしょびしょになる。一方片手でアスカの口を押え片手で体を押さえつけるシンジ。事情を知らない人が見たらとても危ない図である。




 「あら、いらっしゃい」




 必ずこういう時に帰って来るミサトであった。レイとマサヤも連れていた。




 「これはどうゆう事か説明してください」




 ヒカリを抱き起こしながらトウジがいった。














 「そうならそうとはよいうてくれはったらよかったのに」
 「でユニゾンはうまくいってるんですか」
 「それが見ての通りなのよ〜〜」




 「「「「はぁ〜〜」」」」




 レイを除く四人はため息を付いた。レイはめずらしくぼぉ〜〜〜〜とシンジとアスカを見ている。




 葛城家の居間ではレオタードでシンジとアスカがダンスをしていた。プラグスーツに近い格好がいいだろうとの考えである。横ではマサヤがシンジには手取り足取りアスカには胸触り腰触り熱心に指導をしていた。




 だか゛




 ずったた……ごろん




 「うわぁ〜〜ん」




 ずったた……ごろん




 「うぇ〜〜ん」




 10ステップぐらい踊る度にどちらかが転けてその度にアスカが泣く。立ち上がらせて泣きやめさせてまた踊る。また転ける。そのくり返しである。










 「ミサトさんこれは私の手におえません」




 マサヤはシンジにアスカの相手を任せてミサトに説明する。




 「アスカちゃんは運動神経は抜群だけどリズム感がからっきし。シンジくんはリズム感はいいが運動神経があまりよくない。合わせるとこうなんです」
 「そう。こうなると……パイロット交代かなぁ……この場合リズム感優先だから……。シンジくんアスカちゃん、取り敢えず中断して。」




 もう汗というより涙でレオタードがずぶ濡れになり、かなりきわどい格好になっているアスカは、ヘッドホンを外して置き部屋の隅に行きぺたんと座り込んでシクシクと小声で泣いている。シンジはボケっと突っ立っている。




 「レイ」
 「ハイ」
 「やってみて」
 「ハイ」




 レイは静かに立ち上がると部屋の中央へ行く。アスカは顔をあげ涙を溜めた目でそれを見つめる。
 レイはヘッドホンを拾うとシンジに向き合い言った。




 「踊りましょ」




 レイにしては感情がこもっていた。




 ずんたった ずんたった ずんたった ずんたった




 ぎこちない、だが、確実に二人はステップを踏んでいく。軽やかではないが息は合っている。それはユニゾンといえる物だった。




 「これは作戦変更してレイと組んだほうがいいかもしれないわ」




 ミサトが呟く。




 「えっえっ……いや……いやぁ〜〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜〜〜」




 いきなり立ち上がり、美しい瞳から大粒の涙をこぼし金髪を振り乱しアスカが部屋をとび出して行った。




 ばたん




 マンションからも跳び出していった。




 「惣流さん」




 シンジも追いかけてとび出して行った。あとには無理矢理手を解かれ呆然と立っているレイが残される。レイの瞳は部屋の入り口をずっと見つめていた。











 アスカは近所の公園に居た。夕日の中、石のベンチに丸まるように座っていた。シンジは走りまわって探して乱した息を整えた後、隣に座った。数分間黙っていた。




 「シンジくん」




 アスカが顔をあげずに言う。




 「私ってだめなのかな」




 涙声ではないが沈んだ声で呟く。




 「私エバのパイロットでいたいの。そうでないといけない事があるの。でも私ってドジでのろまで、まるでカメみたい。今までは単に運がよかっただけなのかも。ねえ教えてシンジくん」
 「惣流さん。ぼ、僕はどう言ってあげたらいいかわからないけど、でも、きっと運だけなんかじゃないよ。惣流さんは人一倍努力の人だってわかるよ。だって作った事もなかった和食をあんなに美味しく作ったじゃないか。あれだって一所懸命努力したんだよね。ごめん、僕料理しか得意技ないからうまく言えないけど。でもきっと大丈夫だよ」
 「でも私足を引っ張る事になると思うの」




 まだ俯いたままだ。




 「もし、たとえそうでも相手をお互い支え合うのがユニゾンなんだよ。きっと。皆が違う所を持っている、そこで違いを支え合うのがユニゾンなんだよ。だから……だから、僕が、僕に出来る限りの事をして惣流さんを支えてあげるから。ね。いっしょに踊ろうよ」



 また沈黙が支配する。しばらくしてアスカがそっとシンジの手を握る。




 「シンジくん。有り難う。明日からも踊ってくれる?」
 「もちろんだよ」
 「約束よ」
 「わかったよ」




 アスカはシンジの小指に小指を絡ませる。顔をあげたアスカの頬が夕日に染まる。金髪が光の中きらきらと踊る。




 「たしか日本のお呪いで(指切りげんまん)っていうのがあるはずね」




 まだ目のあたりが腫れぼったいが笑顔に戻ったアスカが言う。




 「指切りげんまん嘘ついたら箸千本の〜〜ます」




 にこ




 やっと機嫌が直ったようである。シンジは夕日の中で微笑むアスカを見て嬉しかった。ちょっぴり顔も赤くなった。




 「あの惣流さん。箸じゃないんだけど」
 「?」




 小首を傾げて不思議そうにシンジを見るアスカ。




 「いっ、いいです」
 「シンジくん」
 「なんですか惣流さん」
 「あの私達パートナーですよね」
 「う、うん」
 「だから私がシンジくんって呼んでるので出来たら私の事アスカさんって呼んで欲しいの」




 すこしアスカの頬が赤くなったのは夕日のせいだろう。




 「う、うんわかったよ。アスカさん」
 「うんシンジくん。追いかけてくれて有り難う。また帰って特訓つき合ってね」
 「そうだね」




 二人は勢いよく立ち上がった。今まで小指を絡めていたのに気付き二人して慌てて離す。なんとなく恥ずかしいのか少し離れて二人は並んでマンションまで帰った。










 それからも特訓は続いた。あいかわらず転けまくっていた。アスカもあいかわらず泣いていたが、泣き声はあげず歯を食いしばって練習をする。徐々に動きもよくなって来た。それにつれてマサヤの訓練も厳しくなる。二人は一所懸命練習をした。また二人は一日中同じ事をして暮らした。トイレと風呂以外はまったく同じ事をした。ご飯も家事も全て同じにした。又一日中曲をヘッドホンから聞いていた。夜もミサトと一緒とはいえ、同じ部屋で眠った。









 だが、攻撃日の前日でも二人のダンスは完全には息の合った物とならなかった。




 「こんな短期間でここまで息が合わせられるなんてたいしたものなんだよ。相性もいいんだろうね」




 マサヤは言う。




 「今日は明日に疲れを残さないようにこれで特訓は終わりだよ。二人とも明日はがんばってな」
 「「はい」」




 不安げではあったが二人は元気よく返事をした。




 (可愛いもんだ)




 二人を見てマサヤはそう思った。












 その日の夜シンジは風呂から上がり寝間着代わりのシャツに着替えのんびりしていた。風呂にはアスカが入っていた。機嫌がいいのか鼻歌なんぞを歌っていた。やがて風呂から上がり、貫頭着みたいな寝間着とパンティー一枚という無防備な格好で出て来た。もっとも寝間着は膝ぐらいまであるが。泣き虫な割にはこのあたりが大胆と言うか抜けてる娘である。




 「シンジくん、ミサトさんは」
 「仕事、今夜は徹夜だって。さっき電話が」
 「そう。じゃあ今夜は二人きりなのね」
 「うん」




 アスカは三人分ひいてある布団の内、自分の布団を持ち隣の部屋に移す。襖を一度閉じる。シンジがぽかんと見ていると襖が少し開く。そこからアスカの声が聞こえて来た。




 「し、シンジくん。あの…………シンジくんの事信じてない訳じゃないのよ。でも今日ミサトさん居ないから、あの、その、やっぱり部屋は別々にしたほうがいいと思うの。シンジくんだって変な噂たてられたら困るでしょ。ね。シンジくんの事は信じてるの。気を悪くしないでね。じゃお休みなさい」
 「う、うん。わかった。アスカさんお休みなさい」




 襖は再度閉まった。シンジは顔を赤くして座っていたがそのうち電気を消し、眠りに付いた。





















 「いてぇ〜〜〜〜」




 深夜足の痛みでシンジは目を覚ます。隣ではアスカが転けていた。月の光が室内を満たし照明がないのによく部屋の中が見えた。




 「あっあ、シンジくんだいじょうぶ?ごめんなさい。寝ぼけてしまってトイレの帰りに足踏んじゃったの。ごめんなさい。明日出撃なのに。ぐすん。ぐすん」




 アスカがはなをすすり上げて泣き始めた。




 「アスカさん大丈夫だよ。足なんともないから。ほら、じゃ踊って見せるよ」




 シンジは立ち上がると足の痛みを我慢しつつ、アスカを立たせた。




 「お嬢さん、一曲私と踊ってください」




 慣れない言葉を使いアスカの手を取る。アスカは目に涙を溜めてはいるが黙ってシンジを見ている。ほんの少しの躊躇の後言葉は出た。




 「はい。喜んで」




 アスカの言葉は自然だった。


 月の光が二人を照らす。何故か二人は転ばなかった。


 軽やかなステップが布団や障害物を避けていく。


 どうやら月が二人に魔法を掛けたようだ。


 大きくステップ、小さくステップ。二人は互いの半身の様に動く。


 優しく抱擁をし、また離れてお互いの周りを廻る。


 離れてもお互いの体温がわかり、近づいても不快ではなかった。


 やがて穏やかなステップへと変わり二人はお互いを抱きしめ合う。二人の抱擁は自然だった。シンジはアスカの豊かな胸を感じ、アスカはシンジのたくましい胸を感じた。だが心が乱れることは無くお互いを受け入れていた。




 そして踊りが終わった。
 暫く二人は立ったまま抱き合っていた。やがて自分の服装に気付いたアスカが顔を赤らめ体を離した。シンジも気付いて顔を真っ赤にした。
 二人は並んで月光の下、膝小僧を抱いて座る。
 少し乱れていた二人の呼吸も整ってくる。




 「うまく踊れたわね」
 「そうだね」
 「綾波さんよりうまかったかなぁ」




 アスカが聞く。




 「ごめん、よくわからない」
 「…………」
 「…………」
 「シンジくん」
 「なあにアスカさん」
 「綾波さんの事どう思う」
 「どうって」
 「…………ごめんなさい。やっぱりいいわ。…………じゃ私の事は」
 「…………ごめん、なんていっていいかわからない」
 「そう」




 言葉はとぎれる。月の光だけが辺りを包む。やがてアスカの頭がシンジにもたれかかる。スースーと寝息が聞こえる。少し待ってシンジはアスカを起さないように布団に寝かせる。




 月の白光の下にアスカの長い髪が広がる。優しい顔立ちが、美しい唇がシンジの目に入る。シンジの顔がアスカに近づく。












 シンジは自分の布団を出来るだけアスカから離し、寝る。




 「アスカさん、ごめん。俺って最低な奴だ」




 小声で聞こえないよう呟く。そして眠りに着く。












 アスカは寝返りをうつ。閉じられた瞳からは涙がツーっと流れ落ちる。




 「バカ、いいのに」




 彼女も聞こえない小声で呟く。寝言かもしれない。














 「やだ、見てる」
 「だれが」




 ミサトはエレベーターであいつに抱き寄せられていた。きざな奴、浮気者な奴、そして……。
 ミサトは唇を奪われていた。少し逆らった。少しだけだった。
 エレベーターは次の階についた。あいつはわざとおどけてプレイボーイの振りをして降りていった。




 「バカ」




 ミサトは唇を愛おしげに指で撫ぜた。




















 「目標は強羅絶対防衛線を突破」
 「きたわね。今度はぬかりないわよ。音楽スタートと同時にATフィールドを展開。後は作戦通りに。二人ともいいわね」
 「「了解」」
 「日向君音楽はジオフロント中に流して」
 「了解」
 「目標は山間部に進入」




 発令所のスクリーンには徐々に近づく使徒が映し出されていた。発令所にはレイも来ていた。




 「シンジくん……踊りましょう」
 「うん」




 二人はささやく。




 「目標、ゼロ地点に到達します」




 青葉が叫ぶ。




 「外部電源パージ」




 ミサトは両手を上げる。
 そして右手を振り下ろす。




 「発進」




 マコトの手がキーボードを走り、初号機と弐号機はケージより打ち上げられる。ジオフロント内にワルツが流れる。


 EVAニ機は空中で同時ソニックブレイブを使徒に投げ付ける。


 使徒はソニックブレイブのシールドで両断される。使徒はニ体に分離する。


 EVAニ機は着地する。


 ミサトは右手をワルツのリズムで振りながら左手を振り下ろす。


 マヤの手がキーボードをすべり、兵装ビルが動作する。


 EVAニ機は兵器を取り出し同時に攻撃を加える。


 それに対しニ体の使徒はビーム攻撃を加える。EVAニ機は同時にバクテンを続け攻撃を避ける。


 ミサトは両手をワルツのリズムで指揮する。右手を青葉の方に振り下ろす。使徒のビームに対し防壁がせり上がる。EVAニ機は防壁の陰から攻撃をする。


 使徒ニ体は防壁に近寄り防壁を同時に両断する。


 ミサトの左手がマコトの方に振り降ろされる。通常兵器による援護射撃が起る。


 使徒の動きが一瞬止まった時、EVAニ機が同時に蹴りを放つ。使徒ニ体は同時に吹き飛ばされる。そして合体する。二つに別れていたコアが徐々に近づいていく。


 ミサトの両手が振り下ろされる。


 初号機と弐号機は同時に使徒の合体中のコアに対して飛び蹴りをくらわす。


 使徒の二つのコアに蹴りをめり込ませながら、EVAニ体と使徒は勢いで第3新東京市の端まで吹き飛んでいく。使徒のコアに入るひび…………。


 そして爆発。わき上がるキノコ雲。


 ミサトは両手の動きを止めた。






 ジェントルマンとレディーは踊りを終え、オーケストラは演奏を終えた。






 爆煙が徐々に薄れて来た。




 「EVA両機確認」




 マヤが報告する。




 「あちゃ〜〜〜〜」




 ミサトが顔を押えて言う。




 「無様ね」




 リツコが冷たく言う。




 発令所のモニターにはもつれて転んだEVAニ機が映っていた。無線が回復した。




 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん。ううう……折角……ううう……きまったのに……最後に失敗しちゃったよ〜〜〜〜。うわわわわわわ〜〜〜〜ん」
 「アスカさん、アスカさんのせいじゃないよぉ〜〜〜〜。だから泣き止んでよ」
 「だって〜〜〜〜うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん。ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
 「あれ〜〜〜〜シンちゃん。アスカの事、名前で呼んでるのねぇ〜〜〜〜お安くないわねぇ〜〜〜〜」
 「ミサトさぁ〜〜〜〜ん。そんな事言ってないで何とかしてくださいよぉ〜〜〜〜」




 三人のやり取りで発令所は和やかな雰囲気に包まれ始めた。ミサトは横にちょこんと立っているレイを見た。レイは二人をじっと見ていた。




 「マコト君」
 「なんですかミサトさん」
 「今日は勝った記念にこの音楽一日中流しておいてくれない」
 「それはいいですけど…………」
 「じゃお願いね。回収班二人を回収してあげて」




 ミサトはそばに立っている加持に近づき小声で言う。




 「加持頼みがあるの」
 「なんだい」
 「ええとね…………」










 シンジとアスカは二人でジオフロント内の公園に居た。辺りにはワルツのリズムが流れている。二人は戦いの後の検査が終わりミサトを待っていた。芝生の中に座っている。ジオフロントに光ファイバーでひき込まれた夕日が辺りを照らしていた。




 「お〜〜い、シンジくん、アスカちゃん」
 「あれ加持さん、あ、綾波も。どうしたんですか」




 加持とレイはシンジとアスカのそばに歩みよって来た。




 「シンジくん、実はレイちゃんが君に用があるそうだ。で俺はアスカに用があるんだ」
 「綾波、用って何?」




 シンジは立ち上がる。レイはシンジをじっと見ていた。加持はアスカの横に座る。加持とアスカはレイとシンジを見ている。




 「私と踊って」
 「踊るの?」
 「うん」




 夕日が少女に力を貸す。少女に情熱の力を宿らせる。シンジは答える。




 「お嬢さん。喜んで」
 「有り難う」




 シンジはレイの手をとり踊り始める。夕日の力は二人に力強いステップを踏ませる。大きく小さく早く遅く、風の精霊と大地の精霊に、二人の踊りは祝福されていた。




 二人を見ていたアスカが、ぽつんともらす。




 「私よりうまい」




 アスカは俯く。顔を膝に埋める。




 「麗しいお嬢さん。ぜひ私と踊ってもらえませんか」




 アスカが顔を上げると、加持が膝をつき胸に手をあて微笑んでいた。
 アスカも顔を拭うと、手を差し出した。アスカは立ち上がった。加持の手を取り微笑むと踊り始めた。








 その日、ネルフ中が踊っていた。







つづくかもね






NEXT
ver.-1.00 1997-10/04公開
ご意見・感想・誤字情報・らぶりぃりっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!




あとがき

 皆さん前作の「めそめそアスカちゃん」を気に入っていただき有り難うございました。ほんとは一作だけのつもりでしたが続編を書きました。今一歩私にリズム感が無い為ダンスを巧くさせられなかったようです。今作ではアスカちゃんに月をプレゼントしています。なのでレイちゃんが可哀想なので太陽をプレゼントしました。それにしてもシンジくんアスカちゃんにキスしちゃったのかなぁ。作者もわからない^_^;
 あと葛城家の朝食はオクトパ入ってます。
 続編は反響しだいという事で(これの裏編はもう書いているけど)それではまた。








 合言葉は「めそめそアスカちゃん」




 PS.ちなみに私はLASじゃなくってLACもしくはLGRです。
 LACは「ラブラブ・オール・キャラクター」でLGRは「ラブラブ・ゲンちゃん・りっちゃん」です。最近はラブラブナオコにもなりつつあったりして、綾波も好きになってきたしもちろんりっちゃんはいいし、ちびアスカちゃんも捨てがたい……私ってロリコンなのか年増趣味なのか解らん……


 まっこうさんの『めそめそアスカちゃん2』、公開です。
 

 ビショビショのレオタードとは・・・・
 マ、マニアックだ(^^;

 ぜ、ぜひ一目拝見したいな・・(^^;
 

 ダンス共感の峯マサヤ・・・
 [胸触り腰触り]だと〜ゆ、許せん!

 ・・・私は『お洗濯(頑張れ大家さん2)』でもっといけない事をしていますよね(^^;
 

 私の所には、幸い、カミソリメールを来なかったですが、
 峯さんは大丈夫かな?(^^;
 

 アスカちゃんに触れてもいいのはシンジくんだけなんだい!(爆)


 
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 守備範囲の広い、広すぎる(^^;まっこうさんに感想メールを送りましょう!


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