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ある日のレイちゃん2


机と手紙と卵焼き




 この話は「めそめそアスカちゃん3」のサイドストーリーです。先に向こうを読んでね。







 峯マサヤはレイとダンスをしていた。今日はネルフ社交ダンス愛好会の練習日である。マサヤはジャージ、レイはブルマー姿である。最近のレイはとてもスムーズに踊れるようになってきた。もともとはシンジと踊りたいが為のダンスであったが、最近は踊る事自体も好きになってきた。




 ずんたった ずんたった




 「そろそろひと休みしようか」




 こくん




 レイは頷く。二人はネルフ本部内の一室で他の会員と共に練習をしていた。最近愛好会には入会希望者が多い。レイ目当ても結構いるらしい。踊るレイは美しかった。妖精の舞とはこの事であろう。二人は壁際に腰を降ろした。荒くなった息をおさめる。




 「相談があります」




 唐突にレイが言う。




 「何だいレイちゃん」
 「手紙書きたいんです」
















































 その子は奇麗で儚く無口な子。
 みんなも知ってる中学生。
 でも彼女は最近変わったのです。
























 彼女は




























     気になるひとが出来たのです




















ある日のレイちゃん2

机と手紙と卵焼き


























 「どんな手紙だい」
 「わからない」
 「わからないって?」
 「よくわからない」
 「じゃ誰に出すんだい」
 「碇君]
 「え。聞こえないよ」
 「碇君」




 レイはなぜ自分が小声になるのか自分でもわからなかった。




 「そうか。う〜〜ん、手紙ね。そういう手紙なら他に適任者がいるよ」
 「だれ?」
 「同僚でね。着替えておいで。会わせてあげるから」
 「はい」




 レイは立ち上がるとすたすたと女子更衣室に向かった。




 「お年頃だね」




 マサヤは呟く。




 「俺レイちゃんを送ってくるからお先に」




 彼は会員達に声を掛けると、自分も男子更衣室に向かう。羨ましそうな会員もいる。最近彼はレイの世話係を任命された。それをとっても上司のリツコに信頼されていると言えよう。










 マサヤが着替え終えて廊下の壁にもたれて待っていると、レイが部屋から出てきた。制服姿である。今日は学校から直接ネルフに来た為である。




 「じゃ行こうか」 
 「はい」




 マサヤが歩き出すと静かに後ろをついてくる。まるで気配がしない。時々マサヤは心配になり振り返る。レイは鞄を体の前で両手で持ちすたすたとついて来ている。その姿は儚くてまるで夢の精のようである。マサヤはこの儚い少女を好ましく思っている。願いを叶えてあげたいと思っている。




 「着いたね」




 赤木研究室の第一研究室に着く。実質的にネルフの全研究機関を取り仕切るリツコは第一から第三までの個人的な研究室を持っている。その中でも第一研究室はリツコの腹心の部下だけを集めた、いわばネルフの頭脳中枢である。
 マサヤはレイと共に部屋に入った。広い部屋の入り口近くでは、たまたまコーヒーカップ片手にリツコが立ちながらレポートを読んでいた。リツコは二人に気がつく。




 「あれレイちゃんどうしたの?峯君今日は愛好会で帰ったんじゃないっけ」
 「レイちゃんが相談に乗って欲しいらしいんで」
 「そうなの。レイちゃんどうしたの?」
 「手紙書きたいんです」
 「手紙?だれに?」




 レイは俯く。瞳が右往左往している。レイは自分で理由がわからず困る。




 「碇君」
 「ふぅ〜〜ん。そう」
 「室長てなわけで邪借りますよ」
 「邪ね。確かにぴったしだわね。いいわよ。チルドレンの悩みを解決するのも私達の仕事だしね。仕事中でもこき使っていいわよ」
 「了解しました」




 マサヤはリツコに挨拶すると部屋の奥にレイを連れていく。そこにはマヤと顔をひっつけるようにして雑談している童顔の男が居る。お互いほっぺたをつっつきあってるのを見ても二人の仲が想像できる。




 「よ二人さん」
 「よぉマサヤ」
 「峯さん、あ、レイちゃんも。どうしたの」




 邪はともかくマヤは少し恥ずかしかったのか振り向きつつ頬を赤くしている。邪も振り向く。レイはぺこりとおじぎをする。




 「レイちゃん、彼が邪トビオ二尉。この研究室の広報担当のリーダーだよ。そのせいではないんだが、代筆特にラブレターの名手でね、まあマヤちゃんもそうして……」
 「なっ、何言ってるんですか」




 マヤが慌てて言う。顔が真っ赤だ。レイはマヤの顔がなぜ赤くなるのか不思議だった。




 「それはともかくレイちゃん手紙を書きたいんだそうだ。邪、相談に乗ってあげてくれないか。室長も仕事にしていいって言ってた」
 「そうか。それじゃ引き受けましょう。まぁ立ち話も何だからあっちの応接セットで話そうか」
 「そうだな。でも俺これから用があるから邪相談に乗ってあげてくれないか」
 「いいよ」
 「ありがとう。じゃレイちゃん、彼によおく教えて貰ってね。じゃ又ね」
 「はい」




 レイが挨拶をする。レイも知人には挨拶をするように成ってきた。マサヤは挨拶を返すとリツコのほうへ行く。




 「室長、レイちゃん邪とマヤちゃんに預けて来ました」
 「あらあなたは相談に乗ってあげないの?」
 「ラブレターの相談の相手の数は少ないほうがいいですよ」
 「まあそおね。それにしてもレイちゃんも女の子らしく成って来たわね」
 「そうですね。このまま時が経ってくれればいいんですが」




 マサヤもチルドレンを深く知る一人であった。




 「そうね。本当に」




 リツコの言葉はため息に近かった。
















 「でレイちゃん、どんな手紙を誰に出すんだい」




 トビオがソファーから乗り出すように聞く。この美しい少女の手紙を貰う相手はどんな人かとても興味があった。




 「碇君」




 レイがぼそっと言う。レイはその名前を他人に言うのに困難さを感じた。言う度に頭の奥が熱く成るような気がした。レイは自分の頬が微かに赤くなっているのに気がつかなかった。




 「ふぅ〜〜ん。サードチルドレンか。同級生でもあったよね。で、どんな手紙を書きたいの?」




 トビオは念の為聞いてみる。予測はつくが。マヤも横で黙って聞いている。




 「わからない」
 「わからないって?」
 「手紙書きたいの。ただ何を書いたらいいかわからないの」




 レイは呟くように言う。ますます声が小さくなっている。なぜ声が小さく成るのかレイ自身にもわからなかった。




 「じゃレイちゃん。どうして書いてみたくなったの?」




 今度はマヤが聞く。




 「ラブレターいろんな人から貰うから」
 「そうなの。トビオ、レイちゃんの相談は私がのるわ。これは女性同士のほうがいいと思うわ」
 「そのようだね。俺は仕事に戻るよ。マヤ頼むね」
 「うん。トビオ、任せておいて」




 トビオは自分の席へ戻っていった。




 「レイちゃんこんな所ではなんだから、今日私の家に泊りに来ない?ゆっくり相談に乗ってあげるわ。幸い明日祭日でお休みだし」




 レイは少し考えた。マヤの申し出が嬉しかった。大人の女性の部屋にも興味があった。




 「うん」
 「それじゃ決まりね。じゃ室長に許可とってくるわ。これでも仕事中なのよ」




 マヤはそう言うとソファーから立ち上がりリツコの元へ行った。何やら話している。レイはちょこんとソファーに座り待っていた。レイはシンジに手紙を書く事を四人に知られた事に気がついた。なぜか耳が熱くなった。頬も熱くなった。理由がよくわからなかった。レイは考え込んでしまった。




 「レイちゃん」
 「は、はい」
 「何ボーとしてたの?」
 「あ、あの……」
 「まあいいわ。それじゃ行きましょうか」
 「はい」




 二人は立ち上がる。レイがぼけてる間に、マヤはトビオとも話をつけたらしい。特に挨拶もせずにマヤは部屋を出た。レイは静かについていく。




 「レイちゃん、着替えとか取りにあなたの部屋に一度行きましょう」
 「はい」




















 がちゃん




 レイは自分のマンションの部屋に戻ってきた。マヤには外で待って貰った。なぜか部屋に入って欲しくなかった。相変わらず壁紙も無い部屋だった。だが以前と変わった所があった。掃除が行き届いていた。以前シンジが訪ねてきた時あまりの汚れ様に二人で掃除をする事となった。二時間もかかった。部屋は無愛想ではあるが見違えるほど綺麗になった。




 「綺麗になってよかったね」




 シンジが汗を拭いながらレイに微笑みかけた。とても嬉しかった。ベッドに二人で座り一緒に冷たい牛乳を飲んだ。とても美味しかった。それからレイは毎日部屋を掃除するようになった。




 レイは鞄を小さな箪笥の横に置いた。中から携帯電話と携帯端末を取り出した。それらと共に下着と上着をいくつかボストンバックに入れる。部屋をざっと見回す。もう一つ持っていく物を見つける。木の写真立てだ。そこにはレイとシンジとアスカが並んでいる写真がある。彼女らの後ろにはトウジとヒカリが写っている。ケンスケが写した写真らしく彼は写っていない。写真立てをタオルに包むとそれもボストンバックに入れる。レイは戸締まりをして部屋を出た。




 部屋の外ではマヤがのんびりと待っていた。淡いピンクのスーツ姿である。




 「レイちゃん、用意できた?」




 こくり




 レイは頷く。




 「じゃレイちゃん行きましょ」
 「はい」




 二人はマンションの廊下を歩いて行く。他には誰も住んで居ないような古いマンションである。そろそろ取り壊される予定らしい。二人はエレベーターに乗る。




 「レイちゃん」
 「はい」
 「前も言ったけど、ネルフの女子寮に移り住む気無いの?」
 「…………」
 「そう。なんでここがいいの?」
 「わからない」




 レイは何故か独りぼっちの荒れたあのマンションが好きだった。理由はレイ自身もわからない。あそこが自分の場所の様な気がする。そう、少し前までは思っていた。今は少し疑問に思っている。ちょうどエレベーターが一階に着く。出口の前には小型の電気自動車が留まっていた。マヤの愛車である。マヤはハッチバックの後部のドアを開ける。




 「じゃ荷物は後に置いてね」




 レイは荷物をトランクに入れる。後ろのドアを閉める。助手席のドアを開け乗り込む。マヤはレイがシートベルトをつけた所で車を発進させた。のんびりと車を進める。その割りにはネルフの女子寮にすぐに到着する。
 ネルフの女子寮はしゃれたマンションである。ただ組織の性格上一般のマンションと違い少し高めの壁に囲まれている。又出入口には女性ではあるが警備員が何時も3人以上は居る。マヤは出入口の警備員に自分とレイのカードを渡す。カードが本物と確認された所で出入口のゲートが上がる。マヤはカードを受けとると車を中に進める。駐車場に車を止める。壁に囲まれているとは言え庭は広々としている。二人は荷物を手に持つとマンションの入り口に向かった。マンションの入り口では一人の男が箒でせっせと掃いていた。




 「あ、神田大家さんこんにちは」
 「こんにちはマヤちゃん」




 彼は神田シンタロウ一尉、ネルフの特殊監査部所属の警護班の主任である。同じ年のネルフ職員の妻と共にこの女子寮の管理をおこなっている。優しい顔つきの青年である。




 「レイちゃんも一緒じゃないか。こんにちはレイちゃん」
 「こんにちは」




 ぺこり




 レイはおじぎをする。




 「今日はレイちゃんの相談に乗る為に泊めたいんですけどいいですか?」
 「本当はいけないんだれどね、まあレイちゃんなら問題無いか」
 「一応リツコ先輩には承諾を得てます」
 「それじゃいいですよ。じゃ早速警備の人間増やさないと。お姫様を預かるんじゃね」




 二人が話しているあいだレイはマンションを眺めていた。綺麗だと思った。早くマヤの部屋に入りたくなった。レイは他人の部屋に興味を持つ自分を不思議に思った。




 「それじゃ失礼します。レイちゃん行きましょ」




 マヤはシンタロウにおじぎをしてマンションの入口に向かう。レイもおじぎをしマヤについていく。 




 「この前はアスカちゃんが泊まりに来たけど今度はレイちゃんか。二人とも美人だなぁ。EVAのパイロットって美人しか成れないのかな。今度加持に聞いてみるか」




 彼は加持の同僚である。
















 マヤとレイはマンションの廊下を歩いている。レイは静かにマヤについて行く。




 「この部屋よ」




 入り口には木の表札が掛けてある。この辺りは誰の趣味であろうか。マヤはカードキーでドアを開けると中に入る。




 「おじゃまします」




 レイは小さい声で言うとマヤに続いて部屋に入った。穏やかな色で統一された2LDKのフロアである。マヤはレイをダイニングに案内する。レイはダイニングのテーブルの椅子にちょこんと座る。マヤはポットのお湯を使いほうじ茶を出す。




 「さてとレイちゃん。どうしようか」
 「どうって?」
 「もう夕ご飯の時間だしご飯食べてからにしましょうよ」
 「うん」
 「マンションのレストランがいい?それとも私が作ったほうがいい?」
 「伊吹二尉の料理がいい」
 「わかったわ。それとレイちゃん、私の事はマヤって呼んでね」
 「はいマヤさん」
 「よろしい。さてと何にするかな。そうだレイちゃんって食べられないものある?」
 「肉嫌い」
 「そう。お魚や卵は?」
 「大丈夫」
 「じゃご飯は残りがあるから鮭チャーハンにでもしましょ」




 マヤはそう言うと手を洗い猫柄のエプロンを着け料理を始める。




 「レイちゃんTVでも見ててね」




 レイは椅子に座って静かにしていたが、立ち上がるとキッチンの方へ来てマヤの料理をじっと見ている。マヤはそれに気づく。




 「最近料理に興味あるの」




 レイにしては珍しく自分から言う。自分でも珍しく思う。自分は何も興味を持たなかったはずだと思う。




 「そうなの。それじゃ私の腕ぐらいじゃ参考にならないかもしれないけどそこで見ててね」




 こくり




 レイは頷くと椅子をキッチンに持ち込みマヤの料理をじっと見つめ始める。マヤの料理の腕は鮮やかだ。下ごしらえも素早く的確にどんどんこなす。包丁は軽やかにまな板の上を舞う。鍋をかき回す手付きも優雅だ。しかも細い腕でみごとに重い中華鍋を操っている。見る間に料理が仕上がっていく。その間レイは瞬きもせずにマヤの料理を見ていた。




 「さてと、すまないけどレイちゃんテーブルの上拭いてくれる?」
 「はい」




 レイはシステムキッチンの横に掛けてある布巾をとる。流しの水で洗い絞る。テーブルを綺麗に拭く。




 「じゃあこれ並べてね」




 マヤの作った料理は見事なものだった。綺麗に丸く器に盛られた鮭チャーハン、海老のチリソース、ほうれん草のおひたし、卵スープ、彩りも鮮やかである。小さなテーブルに並べると向かい合わせで座る。




 「ちょっとだけだけどワイン飲も。実は私けっこうのんべで大ぐらいなのよ。ミサトさんみたいに凄くないけど。え〜〜とどれがいいかなぁ。これが甘くて飲みやすそうね」




 マヤはワインの瓶と共にグラスを二つ手にとり席につく。グラスにワインを注ぐとレイに渡す。レイは不思議そうに葡萄色した液体を眺める。




 「じゃ乾杯ね。何がいいかしら。ここは素直にレイちゃんの手紙が上手く書けますように、乾杯」




 マヤはきょとんとしているレイのコップに自分のコップをこつんと合わせると、ワインをごくごくと飲む。レイは始めマヤの喉の辺りを見ていたが、自分も少し飲んでみる。




 「甘い」
 「そうでしょ。結構飲みやすいのよ。じゃいただきます」
 「いただきます」




 マヤとレイは食べ始めた。レイはチャーハンを蓮華ですくい一口食べる。次に卵スープを飲んでみる。




 「美味しい」




 レイは言う。マヤの料理は味の方もなかなかのものであった。




 「それはよかったわ」




 マヤはにっこりと微笑みを返す。その後は楽しい夕飯となった。ほとんどマヤが料理の事やネルフの噂を一方的に話していたが、レイも興味深そうに聞いているようだった。二人は夕飯を終えた。




 「ごちそうさまでした」
 「ごちそうさまでした」
 「さぁ、後片づけするから少し待っててね」
 「私も手伝う」




 飲みなれないお酒を飲んだせいか顔を真っ赤にしたレイが言う。




 「そう。じゃ一緒にしましょ」




 じゃぶじゃぶ




 流しの前に二人並んで洗い物をする。たちまち食器は綺麗になっていく。洗剤をすすいで水を切った食器を流しの棚に並べる。二人は手を洗う。




 「さてとこれでよし」




 エプロンをはずしながらマヤが言う。レイは側で立っている。




 「じゃレイちゃん本題に入りましょ。私の寝室の方で相談に乗るわ」




 マヤはそう言うとお茶とお茶菓子を二人分用意する。お盆に乗せるとレイに言う。




 「こっちの部屋よ」




 二つあるドアのうちドアノブにピンクのカバーが掛けてある部屋に入る。レイも自分のボストンバックを持ってついて行く。その部屋の壁紙は薄いピンクの地に猫柄だ。大きい箪笥にはダンボやバンビのステッカーが貼ってある。部屋を結構大きいベッドが占めている。窓際の小さな箪笥の上には子熊や子猫の縫いぐるみでいっぱいだ。その隣の机には恋愛小説が山と積まれていた。
 レイは部屋の入り口で目をぱちくりとしていた。とても綺麗な部屋だと思った。レイは他の人の部屋を見た事がなかった。その事に今気がついた。その事がとても気になった。なぜ私は他の人の部屋を訪ねた事がないのか。レイは悩みだした。




 「レイちゃんどうしたの」




 入り口で心ここに在らずといったありさまで立っているレイを見て、ちゃぶ台を取り出しお茶とお茶菓子を置いたマヤが心配そうに聞く。




 「なんでもありません」




 レイはそう言うとすたすたと部屋に入りちゃぶ台の前にぺたんと腰を降ろす。マヤも反対側に腰を降ろす。




 「さてとレイちゃん早速本題に入りましょ。シンジ君にどんな手紙を書きたいの?」
 「よくわからない」
 「そうなの。それじゃレイちゃんが知ってるシンジ君の事やレイちゃんの好きな事、普段の生活や学校での事そういう事を話してみて。そうすれば自分で何が書きたいかわかるわよ」
 「はい」




 レイは少し考えた後ぽつりぽつりと話し始めた。始めてシンジを見た時からの話を…………。マヤは頷きながら話を聞いた。レイはシンジとの係わり合いをどんどん話していった。




 「へ?シンジ君にそんな事されたことがあるの?」




 マヤはレイがシンジに押し倒された事があると聞き驚く。レイはなぜマヤが驚くのかわからない。不思議そうにマヤを見る。




 「そ、そう。続けて」




 レイは話し続ける。シンジに微笑みかけた事、お弁当を分けて貰ったこと。宿題を教えてあげた事。たあいもないことも多い。だがマヤはレイがこんなに生き生きとした顔をするのを初めて見た。




 「レイちゃん」




 なおも話し続けるレイにマヤは言う。




 「はい」
 「シンジ君の事どう思う?」




 レイはシンジの事を考えてみる。なんとなくお腹や胸がぽかぽかする気がする。レイには表現する言葉がない。




 「よくわからない。でもぽかぽかした気持ちがする」
 「そうなの」




 レイは考え続ける。頭がぐるぐるしてくる。何故か眠くなってきた。マヤの顔が変に歪んで見える。今頃になってワインが効いてきたようだ。




 「マヤさん、眠い」
 「あら、ワインが効いてきちゃったのね。じゃ今日はもう寝ましょう」
 「シャワー浴びたい」
 「いいわよ。一緒に入りましょう」
 「うん」




 レイはすくっと立ち上がり、その場で脱ぎ始める。




 「レ、レイちゃん浴室で脱ぎましょう」




 マヤがあわててレイを浴室の脱衣所まで連れていく。レイは訳がわからないといった感じだ。再び脱ぎ始める。マヤも脱ぎ始める。二人は脱ぎ終わると浴室に入った。マヤとレイはそれぞれシャワーを浴び始める。マヤは結構自分の容姿には自信がある。すらっとした体つきのくせに結構豊かな胸と腰、自分でも気に入っている丸顔。なかなかだと思う。が、レイを見るとその思いが吹き飛ぶ。流れるようなボディラインに整った顔だち。しかし何よりも体中に色が無いアルビノ独特の異界の美がそこにある。マヤは知っている。リツコの腹心の部下としてレイの秘密を。それが何を意味するかを。そして自分達がレイに何をしたかも。マヤは思わずレイを抱きしめる。




 「マヤさん」




 レイが不思議そうに見上げて呟く。




 「レイちゃん。ごめんなさい。何でもないのよ」
 「そう」




 マヤがレイを離すとレイはまたシャワーを浴びだした。マヤはほっとする。涙はシャワーに紛れて見られなかったようだ。マヤもまたシャワーを浴びだす。気分も落ち着いてきた。




 「じゃレイちゃん先に上がるわね」




 マヤはレイに声を掛けると脱衣所に戻る。水気をよく取ると大きなバスタオルに体を包む。するとまもなくレイも出てくる。




 「はいレイちゃん」




 マヤはレイにバスタオルを渡す。レイは素早く水気を取ると、そのまますたすたと脱衣場を出ようとする。マヤは慌ててレイを引き戻す。




 「レ、レイちゃん確かに女二人しかいないけど一応体は隠さないと」
 「なんで」
 「なんでって。そういうものなの」
 「そう」
 「これ使ってね」




 マヤはレイに大きなバスタオルを渡す。レイはマヤの真似をして体に巻き付ける。二人は寝室まで戻る。




 「レイちゃん寝巻き持ってきた?」
 「私寝巻き着た事無い」
 「じゃ何時も裸で寝るの?」
 「うん」
 「そう、じゃちょっと待って」




 マヤは箪笥をごそごそと探す。




 「じゃこれ着て。私ので悪いけど」




 マヤは猫柄のパジャマを取り出す。レイはじっとそのパジャマを見ていたがやがて手を伸ばす。そのパジャマを身につける。マヤのサイズの為手足がいっぱい余ってぶかぶかだ。




 「レイちゃん可愛いわ」




 マヤが微笑みながら言う。




 「私可愛いの?」
 「とっても」
 「そうなの」




 レイは手を体の前でもじもじさせる。可愛いと言われるのがなぜか嬉しかった。




 「マヤさん」
 「なあに」
 「いっしょに寝て。お話まだしたいの」
 「いいわよ」




 マヤも猫柄のパジャマに着替える。二人してベッドに潜り込んだ。ヘッドボードの灯りだけを残し部屋の灯りを消す。二人は顔をくっつけるようにして話す。レイは学校の事、アスカの事、シンジの事、ネルフでの事、ダンスの事などをぽつりぽつりとだが嬉しそうに話す。マヤもおしゃれの事、料理の事、恋愛小説の事、恋人の事などを話す。
 そのうちレイのまぶたが徐々に閉じてきた。やがて静かな寝息をたて始める。普段の冷静そうなレイからは思いもよらない幼い寝顔だった。マヤはこの寝顔がずっと安らかであるようにと願った。ヘッドボードの灯りを消す。そして自分も眠りに落ちた。




















 レイは目覚めた時、自分がどこにいるかわからなかった。それに珍しく寝ぼけていた。ベッドを降りてきょろきょろする。




 どたん




 慣れないパジャマの為裾を踏んずけて転んでしまう。




 「痛い」




 レイはおでこを擦りながら起き上がる。今の衝撃でマヤの部屋に泊まった事を思い出す。一緒に寝てたはずのマヤの姿は見えなかった。レイはとりあえずバックより写真立てを取り出す。




 「おはよう皆」




 レイは写真立てをバックに戻す。レイはそのまま部屋を出る。マヤはキッチンで朝ごはんの用意をしていた。




 「マヤさん、おはよう」
 「レイちゃん、おはよう」




 マヤは料理の手を休め振り返る。




 「よく眠れた?」
 「うん」
 「それはよかったわ」
 「シャワー浴びてもいい?」
 「いいわよ。それと制服洗濯しちゃったけど、着替えあるわよね」
 「うん。ありがとう」
 「どういたしまして。じゃ早く浴びてらっしゃい。ご飯出来ちゃうわよ」
 「うん」




 レイはそのまますたすたと浴室に向かった。レイがシャワーを浴びて体をバスタオルに包み出てくると部屋には朝餉のいい匂いが漂っていた。レイは美味しそうだと思った。この頃は食べるものにも少しづつ興味が出てきた。




 「レイちゃん終わった?もうすぐ準備が出来るからね。着替えてらっしゃいな」




 マヤは突っ立ているレイに言った。




 「うん」




 レイは寝室に戻るとバックから着替えを出した。薄い青色のシャツに、青いホットパンツだ。以前アスカのホットパンツ姿を見てどうしても欲しくなって買った服だ。レイは着替えるとダイニングに戻った。朝食の用意は出来ていた。和食だった。ご飯、味噌汁、鯵の干物、海苔、佃煮、香のものなどが食卓に並んでいた。マヤはテーブルの席についていた。




 「じゃレイちゃんそっちに座って」
 「うん」




 レイは席につく。マヤはレイにご飯と味噌汁をよそる。自分の分も給仕する。マヤの茶碗は結構大きい。レイがその茶碗をじっと見る。




 「あ、これね。昨日も言った通り私って結構大食いなの。先輩やトビオには怪奇大食い女って言われているわ。ご飯いっぱい炊いてるからいっぱい食べてね。じゃいただきます」
 「いただきます」




 二人は朝食を食べ始めた。なるほどマヤはよく食べる。あのつやつやしたほっぺたはこのせいかも知れない。レイもご飯を美味しいと思った。朝御飯を食べるのもいいかなぁと思った。マヤもレイも御飯をおかわりして食べた。二人が食べ終わるとマヤがお茶を入れた。二人はのんびりとする。




 「どうだった?」
 「美味しかった」
 「それはよかったわ。さてと今日はどうする?」
 「手紙書きたい」
 「そうだったわね。じゃ片づけるからちょっと待っててね」
 「私も手伝う」
 「そう。じゃ一緒にやりましょ」




 二人は流しで並んで洗い物をした。二人でやった為すぐに終わる。マヤはテーブルを綺麗にするとレイの携帯端末を持ってこさせる。並んで椅子に座る。




 「レイちゃん、手紙ってね上手く書こうとしなくてもいいのよ。手紙を書きたいって事は心を伝えたいって事なの」




 マヤは続ける。




 「心は飾れないものよね。だから手紙も飾った言葉はいらないのよ。思いのままを書けばいいのよ」
 「うん」
 「レイちゃん、何を書いたらいいかわからないって言ってたわよね」
 「うん」
 「まず手始めに、シンジ君が知らない事や最近始めた事、共通の話題の事なんかをいっぱい書いてみるのよ。たとえば料理の事、ダンスの事とかね。シンジ君に話しているつもりで書けばいいのよ」
 「うん」




 レイは端末に向かい書き始めた。書きたい事はわからなかった。話したい事は少しわかった。ダンスを続けている事、卵焼きが上手くなった事、アスカと仲良くなれて良かった事、ちゃんと掃除をするようになった事、キーボードを叩いていくうちにどんどん書きたい事が出てきた。普段自分にはこんなに話したい事が在ったのかと思った。レイはどんどんキーボードを叩き続けた。




 「レイちゃんどう?」




 マヤがのぞき込む。レイは気がつく。




 「いや」




 レイは慌ててディスプレイを隠す。隠してから何故こんな事をするのかと思う。何故見られたくないのだろうと思う。ディスプレイを隠した格好で考え込んでしまった。




 「あ、レイちゃん、ごめんなさい」




 レイがディスプレイを隠したポーズのまま動かないのでマヤは慌てた。レイもやっと動き出しマヤを見る。




 「あの、見ないで」
 「そうね。ごめんなさい」
 「マヤさん。何で私見られたくないの。私自分でわからない」




 マヤは考える。シンジ君の事だからには違いない。レイが恥ずかしがるのはいい事だと思う。




 「それは自分の事を見られるのは恥ずかしいと思うからよ。ごく普通の感情よ」
 「そうなの」
 「だから心配しなくていいの。だけど見せてくれないとアドバイス出来ないわ」
 「でもいや」
 「じゃレイちゃんこうしましょ。あとその前後に挨拶の言葉を入れましょう。今書いた文章の前後に[こんにちわシンジ君お手紙出します。読んでください][読んでくれてありがとう。]て付ければいいわ。本当は昔からの決まり言葉があるんだけどこの手紙はそういう手紙じゃないんだしね」
 「うん」
 「あとは一文字一文字丁寧に思いを込めて便箋に書き写せばそれで終わりよ。封筒に入れて蓋を閉じて、表に[碇君へ]って書いて渡せばいいのよ。そうすれば手紙はちゃんとレイちゃんの心を伝えてくれるわ」
 「うん」




 レイはこくりと頷く。マヤは嬉しそうに頷くレイがとても可愛いいと思った。




 「マヤさん」
 「なあにレイちゃん」
 「私後は家で一人で書く」
 「そうわかったわ。一人でじっくり書くのもいいわね」
 「マヤさん。もう一つお願いがあるの」
 「なあに」
 「あさってお買い物一緒に行って欲しいの」
 「なにを買いに行くの?」
 「修学旅行の準備」
 「修学旅行か。懐かしいわ。ちょっと待ってね予定調べるから」




 マヤは自分のPDAであさっての予定を調べる。




 「レイちゃん。ごめんなさい。ちょうどその日は先輩とシンジ君と初号機のテストが有るから行けないわ」
 「そう」
 「レイちゃん、私の知り合いでもいい?」
 「だれ?」
 「トビオ」
 「邪二尉?」
 「そうよ。白状すると私の彼よ」




 白状するまでもないが。




 「かまわない」
 「そう。じゃちょっと待ってね」




 マヤはそういうと電話をかける。




 「あ、トビオ。実は頼みがあるの。あさってレイちゃんのお買い物につきあって欲しいのよ。トビオ休みでしょ。……うん、そう。修学旅行の準備なんだって。……うん、うん。ちゃんと埋め合わせはするわ。今度のデート思いっきりサービスするから。何をって?ばか、えっち。とにかくいいわね。何時頃って、ちょっとまってね……………………」




 マヤはレイの方を振り返る。




 「何時頃がいい?」
 「お昼過ぎ。13時頃がいい」 
 「もしもしトビオ。13時頃がいいって。……うん……そうねじゃ、迎えに行ってあげてね、お願いよ。うん。愛してるわ」




 ちゅ




 マヤは受話器にキスをすると電話を終えた。レイは受話器にキスをするマヤを珍しそうに見ていた。マヤはレイの視線に気づき顔が赤くなる。




 「レイちゃん今のは秘密にしてね」
 「うん」
 「じゃトビオがあさっての13時に迎えに行くから」
 「マヤさん、ありがとう」




 レイはぺこりとおじぎをする。




 「ううん、いいのよ。これくらい」
 「私帰ります」
 「そう。じゃちょっと待ってね」




 携帯端末をボストンバックに入れたレイを見て慌ててマヤは浴室に向かう。戻ってきたマヤの手には洗濯をし乾燥も終わったレイの服があった。マヤはレイに手渡す。




 「もうちょっと待ってね」




 今度はマヤは寝室へと行く。戻ってきたマヤは一揃いの真新しいパジャマを手にしていた。ピンク地に猫柄のパジャマである。




 「レイちゃん、これまだ私が着ていないパジャマよ。レイちゃんにあげるわ。レイちゃんも葛城さんの家に泊まったりする事もあるでしょ。夜裸のままでうろうろしたら葛城さんやアスカちゃんはともかくシンジ君が困るわ。シンジ君だって男の子なんだから」
 「何で困るの?」




 レイは本当にわかっていないようだ。




 「そう言われると私が困るけど、レイちゃんはもう異性の他人に裸を見せちゃいけない歳なのよ」
 「そうなの。わかったそうする」
 「じゃレイちゃん、ちょうどいい機会だからあさってパジャマも買ったら。そうすればそれは予備として置いておけるでしょ」
 「うん。マヤさんありがとう」




 にっこり




 レイは微笑んだ。マヤの可愛いパジャマは気に入ったのだろう。とても可愛い笑顔だった。マヤはその笑顔を見て胸が高鳴るような気がした。マヤは自分にはその手の気が有るのではと少し悩んだ。
 レイは昨日の服とマヤから貰ったパジャマをボストンバックに入れる。




 「じゃレイちゃん家まで送るわ」




 マヤは車のキーを取るとレイを連れてフロアを出る。マンションの出口までくると今日もシンタロウが竹箒で表を掃いていた。




 「レイちゃんお帰りかい」




 こくり




 レイは頷く。




 「大家さん私送ってきますわ」
 「そうですか。気をつけて行ってらっしゃい」




 マヤはシンタロウにおじぎをすると自分の愛車に向かう。レイも後ろをとことこ付いてくる。マヤがハッチバックの後ろを開けるとレイは荷物を入れた。後ろを閉め二人とも席に付きシートベルトを付けた所でマヤは車を発車した。




















 レイはマンションの入り口までマヤに送って貰い別れた。エレベーターを使いフロアに戻ってくる。カギを開けて自分のフロアに入った。慣れていたはずのモノトーンの部屋に入る。入り口で立ち止まる。何故かあまり入りたくなくなった。レイは自分の気持ちが判らなくなった。とにかく色の無い部屋が嫌だった。だがレイには他に行く所もなく、部屋に入りバックを横に置きベッドに座る。少し座っていた。
 やがてレイは立ち上がると窓を開け空気を入れ替え箒で床を掃きだし始める。戸を開いて埃を外に出した。バケツに水を入れ、ぞうきんをよく絞り箪笥や机を拭く。その後床も丹念に拭く。少し汗ばんできた。綺麗になった部屋を見て少しレイは気分がよくなった。ボストンバックの中身を片づける。写真立てを元の場所に戻す。
 レイは箪笥をごそごそと探すと奥から普段は使わない大きなバスタオルを取り出すと浴室へ行く。裸になりシャワーを浴びる。軽くシャワーを済ますと水気をタオルで拭き取る。バスタオルで胸から下をきちんと隠して部屋に戻った。マヤのシンジが困るという言葉が効いたのだろうか。
 レイは窓を開ける。カーテンを開く。風が入ってくる。レイはタオルを外すとベッドに放る。全身に風を浴びる。やはり自分はこうがいいと思う。全身に風を感じた後少し惜しそうに下着を付け、服を着る。
 レイは早速携帯端末の内容をプリントアウトする。そのプリントアウトと便箋と鉛筆を机変わりの箪笥に揃える。パイプ椅子を箪笥の前に置き早速手紙を書き始める。しかし箪笥を机代わりにしている為書きにくい。ぐにゃぐにゃな字になってしまう。レイの眉が少し歪む。ぐにゃぐにゃな字が自分の心と思われたらと考えてしまう。
 レイは急に立ち上がる。筆記道具を置くと戸締まりをしフロアを出た。すたすたとエレベーターに向かう。エレベーターで一階に降りると出口へと向かう。街の喧騒の中にレイはいた。
 レイは道を商店街の方へ向かう。前世紀末小規模な小売店はどんどん不況の為日本から消えていった。しかしセカンドインパクト後いち早く立ち直ったのは個人商店である。第三新東京市はまったくの計画都市であるが、それでもそのような個人商店はいっぱいあった。そんな店舗の一つにレイは入った。家具を主に扱う雑貨店である。看板には「泥尾家具店」とあった。




 「いらっしゃい」 




 初老のにこやかな顔つきの店主が店の奥から出て来た。レイは以前顔を合わせたような気がした。




 「今日は何をお求めかな?」




 老店主はにこやかに言う。




 「机と椅子と壁紙」




 レイは答える。




 「どんなのがいいのかな?」
 「手紙書くから、書き物がし易い木の机と椅子がいい」
 「そうかい。それじゃこれなんかどうかな」




 老店主はレイを店の奥へ案内した。そこには素朴ではあるがしっかりとした作りの木の机と椅子があった。木製のその机は一人掛けで引き出しが机の書く面の下に一つついていた。橿の木を組んで作ってある。椅子も釘を使わず太めの橿の木を組んでいた。学校のパイプ机と椅子をしっかりした素材の木で作った様な物であった。




 「ちょっとごついけど書き物をしっかり書くのにはしっかりとした椅子と机がいるんだよ、お嬢ちゃん。座ってみたら?」




 店主が薦める。レイはこくんと頷くと椅子を引き座ってみた。少し重い椅子だった。机に手を置いてみる。少し位置が高い。がレイはこの机と椅子が気に入った。




 「これがいい」
 「そうかい。少し大きめの様だね。お嬢ちゃんちょっと待っていて」




 店主は店の奥のほうへ戻っていった。レイは椅子に座って机の様子を調べていた。




 「これを椅子に敷いてごらん」




 老店主はなにかもこもこした物を持ってきた。老店主はレイを椅子から立たせると、持ってきた大きなふかふかした座布団を椅子に敷きレイを座らせる。高さはぴったりになった。




 「この座布団はサービスだよ。孫娘が昔使ってたやつなんだ。よかったら使っておくれ」
 「ありがとう」
 「なんのなんの。きっと大事な人に手紙を書くのだろう。その座布団も喜ぶだろう」




 レイは椅子から立つとぺこりとおじぎをした。




 「あとは壁紙だったね」




 そう言うと老店主はレイを雑貨のコーナーに連れていく。そこには色とりどりの壁紙がある。レイは少しきょろきょろとしていたが、やがて一つの壁紙を選んだ。




 「これにします」




 それは澄んだ空に雲が浮いている壁紙だった。店主はその壁紙を紙袋に入れた。レイはそれを受け取る。小さなレジで支払いをする。さすがにこの時代個人商店と言えどカードは使えた。




 「お嬢ちゃんはネルフの関係者なのかい」




 ネルフカードを見て老店主が言う。




 「うん」
 「そうか、ところでお嬢ちゃん。配達はどうするんだい」
 「今日手紙書きたい……」




 レイは思わずぽつりと呟いた。が呟いてから無理そうだと思い困る。




 「そうか。ここはお嬢ちゃんの大事な手紙の為だ。どうにかしよう、少し待ってなさい。おばあさんやこれから配達に行ってくるから店番頼む」
 「はいはい」




 店の奥から上品で優しそうな初老の女性が出てきた。




 「あらまぁ。ほんとに可愛いお客さんだね」
 「お嬢ちゃん、ちょっと待っててね」




 店主は店の外に出ていった。老女はレイに椅子を薦め、自分も側にある椅子に座った。




 「お嬢ちゃん、お手紙書くのですって」
 「うん」
 「お手紙は心が書くものなのよ。だから心の感じるままに書けばきっと思いは伝わるわよ」
 「うん」
 「それと、もし字がへたでもあまり気にしなくていいからね。きっとお嬢ちゃんが思いを伝えたい人はわかってくれるからね」
 「うん。ありがとう」
 「お待たせ。お嬢ちゃん」




 店の前には軽トラックがとまっていた。店主は店に入ると意外に力持ちのところを見せて机と椅子を軽々と荷台に乗せた。老婦人はクッションをレイに渡す。壁紙を入れた袋に入れる。




 「お嬢ちゃん。助手席に乗って貰えるかな」
 「はい」




 店主は運転席に、レイは助手席に乗った。




 「じゃおばあさんいってくるよ」
 「おじいさん気をつけて行ってらっしゃい」




 軽トラックはとことこと走り出した。




 「XXXXマンションだったね」
 「はい」
 「あんな寂しい所に住んでいるのかい。一人ぐらしかね」
 「うん」
 「そうかい。まぁ事情は聞かんが困った事があったら、こんな年寄りでよかったらなんでも相談に乗るからね」
 「ありがとう。でもどうして」




 とても優しい老夫婦をレイは不思議に思う。




 「今は居ないのだが、お嬢ちゃんに似た孫娘が居てのぉ、まぁそういう事じゃよ。さぁ着いたな」




 軽トラックはレイの住むマンションの前に着いた。老店主は車から机を降ろすと背中にかついでエレベーターに向かう。レイも椅子と紙袋を持ちエレベーターに向かう。エレベーターがレイのフロアがある階に着く。老店主はまた机を担ぎレイのフロアに向かう。到着するとレイがカギを開ける。老店主は部屋に入り言う。




 「お嬢ちゃんしばらく持っているから机の足の部分を何かで綺麗にしたらどうだい」
 「はい」




 レイは急いで雑巾を水で濡らし絞ると机の足を拭いた。店主は机を床に降ろした。




 「じゃあお嬢ちゃん、おばあさんが待っているから私は帰りますからね。何かあったらここに電話してね」




 老店主は名刺を渡した。




 「今日はどうもありがとう」
 「どういたしまして。さようなら」




 老店主は去っていった。レイは老店主の置いていった名刺を見て少し暖かい気持ちがした。レイは机と椅子を窓の横に動かした。布巾で机の上を拭く。箪笥に置いてあった便箋と筆記用具、プリントアウトを移す。レイは椅子に座ると手紙を書き始めた。




















 ふと気がつくと机に突っ伏していた。眠っていたらしい。部屋は夕暮れの色に染まっていた。珍しく昨夜夜更かしをしたためだろう。レイは書きかけの手紙を見た。便箋には子供の落書のような図形が書かれていた。それにちょっぴり涎もあった。レイは反射的にその便箋のページを破り取ると丸めてゴミ箱に投げつけた。レイは自分の行為に驚いた。ふと姿見を見た。普段と違う顔があった。アスカが泣く前の顔に似てると思った。少しそのままぼーとしていた。部屋は夕暮れから夜へと変わっていった。レイは立ち上がると部屋の灯りを灯した。部屋はあまり明るくはならなかった。レイは机に戻った。机の上は暗かった。レイは手紙を書くのを今日は諦めた。 
 レイは机の上を片づけると椅子を立った。戸締まりをして買い物に行った。戻ったレイは夕食の用意をする。レイは最近料理をする。以前コンビニ弁当を学校で食べていた時、シンジとヒカリがおかずをわけてくれた。嬉しかった。だがお返しにあげる自分の作ったおかずがなかった。俯いてしまった。それ以来料理を始めるようになった。フライパン、鍋、包丁、まな板、フライ返し、さい箸、炊飯器、電子レンジなどを買ってきた。いっしょに買った初心者向けの料理の本を見つつ料理を始めた。今は自分でもあまり上手じゃないのはわかっている。いつか皆に堂々とおかずを分けられるようになりたいと思う。
 今日の夕食は御飯と味噌汁、卵焼き、野菜の煮付けとひじきの煮物である。最近は毎日卵焼きを作って練習している。美味しく作れるようになったらお弁当に入れて皆とおかずの交換をしようと思っている。
 レイは食事を机に並べ食べた。すでにこの机はレイのお気に入りになっていた。食事を済ますと後片づけをする。おかずは多めに作っておいたので明日のおかずにするつもりだ。残ったおかずをパックに詰め冷蔵庫に入れた。後片づけを終えて部屋に戻ると机の上が明るかった。窓から月の光が机にさしていた。レイが窓の外を見ると明るい満月が輝いていた。月はいつでもレイの味方であった。

 「お月様ありがとう」

 レイは月の光の下手紙を再度書き始めた。




















 レイの朝は早い。翌日も朝の五時に起き出してきた。ただ普段と違い少し眠そうだ。昨日は結局月の光にあわせて机を動かし手紙を書き続けた。おかげで少し寝不足なのだ。レイは写真に向かい挨拶をする。




 「皆おはよう」




 レイは最近写真が返事をしてくれたらと思う。前はこんな事を考えた事もないのにと思う。自分でも不思議だ。ともかくレイは起き上がった。やはり裸だった。パジャマは誰かと一緒に寝る時に着ようと昨日思った。
 レイは裸のままSーDVD付きテレビのスイッチを入れる。ダンスの練習場面が映し出される。上級者用の練習用SーDVDを峯マサヤに借りてある。レイは最近朝の体操代わりにダンスの練習をしている。どうせシャワーを後で浴びる為裸のままダンスのレッスンを始める。ダンスの練習が終わった後、窓を開け掃除を始める。箒でさっさかと掃く。埃を玄関のたたきに掃き出す。雑巾を絞り床を綺麗にする。掃除を終えるとバスタオルを取り浴室に向かった。脱衣所にある全自動の洗濯機に昨日着た服を入れスイッチをONにする。
 レイはシャワーを浴びる。よおく体をお湯で流す。レイはふと一緒にシャワーを浴びたマヤの体を思い出した。豊かで優しくとても美しいと思った。抱きしめられた時びっくりしたが心がなんだか暖かくなる気がした。レイはあんな大人になりたいと思った。
 レイは浴室から出ると制服を着る。白地に燕の柄のエプロンを付けるとキッチンに向かう。寝る前にセットしておいた炊飯器は美味しい御飯の香りを辺りに漂わせていた。レイは味噌汁を作る。最近はずいぶん手慣れてきた。味噌汁を作る間に卵焼きを作る。朝夕必ず卵焼きは作り練習している。その所為もあってずいぶん上手になったと自分でも思う。味噌汁と卵焼きが出来上がったところで朝食となった。御飯と味噌汁、卵焼き、漬物の朝食である。




 「いただきます」




 レイは食べ始める。少しづづもぐもぐとよく噛んで食べる。それでも今日は御飯をおかわりして食べた。レイはいっぱい食べてマヤみたいに綺麗な大人になりたいと思う。ただ卵焼きを二塊残してしまう。卵焼きをどうしようかと思う。そのうち思いつきパックに詰める。レイは昨日の夕食のおかずを温めなおしお弁当を作る。大好きなポテトサラダもいれる。後片づけをしエプロンを外す。お弁当箱を鞄に入れ、卵焼きのパックを風呂敷に包む。
 レイは脱衣所にいく。洗濯機は乾燥をしているところだった。レイはそのままにしておく。ネルフから戻って来たら取り出そうと思った。レイは部屋に戻ると鏡の前に立つ。最近は笑う練習はしていない。アスカのおかげで表情は自然に出るから価値があるものだと思う様になっている。この前峯マサヤがお土産でくれた柘植の櫛で髪をとかしてみる。白髪ではあるが、腰があり柔らかい髪である。レイは綺麗に髪をなで付ける。櫛をタオルで拭うと鞄にしまう。鞄と風呂敷を持つと戸締まりをし学校に向かう。










 レイの通学路の途中に昨日の商店街がある。商店街はぽつぽつと店を開け始めていた。レイは昨日の家具店の前に来た。老店主が開店の準備をしていた。レイは挨拶をする。




 「おはようございます」
 「おはよう、お嬢ちゃん。机はどうかね」




 開店の手を止めて老店主が言う。




 「気に入りました」
 「それはよかった。売った甲斐があると言うもんだ」




 老店主は嬉しそうに笑った。




 「あの……」
 「なんだいお嬢ちゃん」
 「これ食べてください」




 レイは風呂敷をほどくと卵焼きの入ったパックを差し出す。




 「ん?なんだい」
 「朝卵焼き作ったんです。よかったら味見してください」
 「そうかい。それはありがとう。お婆さん昨日のお嬢ちゃんが卵焼き焼いてきてくれたよ。これ朝飯のおかずにしようや」




 店の奥から老婦人が出てくる。




 「あらお嬢ちゃん、おはよう」
 「おはようございます」
 「この卵焼きだよ、お婆さんや」
 「あらま、美味しそうだこと」
 「あの……練習中なのでどこをどうしたら美味しくなるか今度教えてください」
 「わかりましたよ」
 「私学校へ急ぐので後で容器は取りに来ます。それじゃ」




 ぺこり




 レイはおじぎをするとすたすたと学校へ歩いていった。老夫婦は唖然として少しの間レイが歩いていくのを見送っていた。




 「ちょっと変わっているみたいだけど、いい子の様じゃな、お婆さん」
 「そのようですね、お爺さん」




 老婦人は卵焼きの入ったパックを嬉しそうに大事に持って店の奥に入っていった。老店主は開店の準備を再開した。
 レイはすたすたと鞄を前に持ち歩いていく。やがていつものベンチに着いた。腰を降ろすと鞄より料理の文庫本を取り出し熱心に読み始めた。やがてアスカやシンジの声が聞こえてきた。




















 その日の昼休みになった。またアスカが大泣きをしていた。今度は一緒に住んでいるのを誤解されたかららしい。シンジがアスカを賢明に慰めていた。レイはシンジに近寄ってこの光景を見ていた。なんとなくアスカが羨ましかった。なんで羨ましいかはよくわからなかった。
 アスカが落ち着いたところで、レイ、シンジ、アスカ、ヒカリ、トウジ、ケンスケは机を集め輪になって昼食をとる事にした。トウジとケンスケは学食で買って来たパン、残りは自前のお弁当である。レイは最近皆でお弁当を食べるのがとても楽しい。特に自分から何かを話すわけではないが皆のおしゃべりの輪に入っていた。
 またアスカが泣き出した。修学旅行の用意の買い物の同伴者でからかわれた様だ。またもやシンジが慰める。レイはやっぱり羨ましかった。




 「シンジくんは用意終わったの?」
 「僕は特に持ってく物もあまりないし、終わっているよ」
 「綾波さんは?」




 ヒカリがレイに聞く。修学旅行の用意の事らしい。レイは箸を止めると、顔を上げてぼそっと言う。




 「まだ。私も明日買いに行くの」
 「へぇ〜〜だれと?」




 レイは邪の顔を思い出した。レイは横を向きちょっとの間シンジを見ていたが、またぼそっと言う。




 「ネルフの人」
 「ふぅ〜〜ん」




 レイは視線をヒカリに向け答える。今の行為をどうヒカリがとったかはレイにはわからない。レイも何故シンジの方を向いたかわからないからだ。レイは少し俯きぎみになってしまう。またもぐもぐと食べ始める。何となく場の会話が途切れる。慌てたようにヒカリが言う。




 「私も明日買い物に行きたいのよね。だれか物持ちやってくれないかしら。御飯ぐらい奢るわよ」
 「メシやて。いいんちょ、ワシつきあうわ。物ぐらいどんなものでも持ったるわ」




 メシと聞いてトウジに気合いが入り出した。ヒカリの頬がちょっぴり赤くなった。その後も修学旅行の話で盛り上がった。




 「よかったな、いいんちょ」




 ケンスケの小声の呟きは誰にも聞かれる事はなかった。




















 翌日の13時ぴったりに邪トビオは迎えに来た。一階までエレベーターで共に降りると出入口に向かう。出入口の前には女性が一人立っていた。その女性は二人を見つけると二人の方に歩いてきた。




 「レイちゃん紹介するよ。青桐ナイ三尉。マヤの後輩だよ。B級オペレーターをやっているんだ。よくマコトの横でオペレートしているから会った事あるよね」
 「こんにちわ、レイちゃん。青桐ナイです。ナイってよんでね。よろしく」




 丸顔の整った顔だちでショートカットの女性が微笑んでいた。レイには確かに見覚えがあった。マコトの横でオペレートをしているのをよく見かける。




 「こんにちは。ナイさん」




 ぺこり




 レイはおじぎをする。




 「女性が一緒に行かないと買えない物もあると思って、マコトになっちゃんのスケジュール空けてもらったんだ。すまないねなっちゃん。マコトとのデートキャンセルさせちゃって」
 「デートなんかじゃありません。一緒に出歩くだけです。相手にしてくれないんです」



 少し寂しそうにナイが言う。が気を取り直してレイに言う。




 「今日はお姉さんが面倒見てあげるから大船に乗った気でいてね」
 「うん」
 「じゃ早速出発とするか」




 三人は商店街の方に歩いていく。




 「ところでレイちゃん何を買いたいの?」




 ナイが聞く。




 「水着と服とカメラと電気スタンド」
 「電気スタンド?」
 「うん」
 「ふぅ〜〜ん。そうなの」




 三人は商店街を歩いていく。いきなりレイが立ち止まった。じっとある店舗を見ている。そこには一軒の服屋があった。レイはすたすたと服屋のウインドウに向かう。ガラスの前で立ち止まる。ほっそりしたマネキンが青いワンピースと青い靴、青い麦わら帽子をかぶっていた。ついて来た二人のほうに振り返るとレイは言う。




 「服、これにする」
 「え、もっと見て廻ってからのほうがよくない?」
 「あれがいい」
 「そう。じゃ入って試着させて貰ったら」




 レイはナイの言葉を聞くと店舗に入っていく。二人はついていった。レイは若い店員にワンピースの試着を頼んだ。結構高い値段のワンピースの為店員は試着を嫌がっていた。しかしレイの持つネルフS級職員カードを支払い用のカードとして見せると途端に愛想がよくなった。事実上無制限の支払い能力を意味するからだ。ちなみにS級職員はチルドレン・司令・副司令・ミサト・リツコしかいない。
 レイはワンピースと麦わら帽子を受け取ると試着室に入る。トビオとナイは手持ちぶたさに待っていた。やがてレイが姿を現した。




 「私、似合ってます?」




 レイがいつもより一層小さい声でぼそっと言う。




 「レイちゃん、とっても綺麗だわ。まるで天使みたい……あ、ごめんなさい禁句だったわね」
 「ほんとによく似合っているよ。風の精霊みたいだな」
 「風の精霊ね。確かにそんな感じだわ。さすが邪先輩。代筆NO.1は伊達じゃないですね」




 確かにレイの姿は風に乗って漂ってしまいそうな儚い美しさを持っていた。




 「よかった」




 レイは微かに瞳をほころばせた。その微笑みはネルフの二人だけでなく店員さえも魅了した。店員の愛想笑いは本当の微笑みに変わっていた。レイは試着室に引っ込むと着替え直して出てきた。ワンピースと麦藁帽子を店員に渡す。包んで貰うとカードで支払いを済ます。三人は店を出た。




 「あ、お客さん。これサービス。またのご来店をお待ちしています」




 店を飛び出してきた若い店員は照れたように小さな紙袋をレイに渡すとまたすぐに店に戻っていった。レイは店員を見送った後、紙袋を開けてみた。薄い緑の色をした絹のスカーフが出てきた。レイはスカーフを持って道に突っ立っていた。




 「レイちゃん貰っちゃったら。やっぱり美人は得ね」
 「そうだな。あの店員レイちゃんのワンピース姿に一目ぼれだな。きっとサービスというより彼のプレゼントだよ。ここは彼の心をくんで貰ってあげたらどうだい」
 「うん。店員さんありがとう」
 「レイちゃん、早く移動しようね。いつまでもここに居るとあの店員さん恥ずかしいよ、きっと」
 「うん」




 レイは他人からプレゼントされるのは嬉しい事だと思った。きっとプレゼントする事も嬉しい事なんだと思った。それを教えてくれた店員さんに感謝した。
 三人は又商店街を歩き始めた。




 「さっきの店には水着はなかったわね」
 「うん」
 「まぁこの先には百貨店もあるしそこで買ってもいいんじゃないか」




 三人は歩いていった。途中服屋は在ったが似合う水着がなく買わなかった。又写真店にもいいカメラがなく買わなかった。三人は駅前の百貨店に入った。上の階に上がって行くとカメラコーナーがあった。トビオはカメラについて何もわからないレイの為に、海で濡れてもいいような完全防水全自動のカメラを選んであげた。アルバムか写真立てがサービスでついてくる事になっていたがレイが写真立てを選んだ。又数階上がると水着コーナーがあった。レイには店員が妙に疲れているように見えた。数時間前アスカがずっと泣いていた事はレイが知るわけもなかった。




 「レイちゃんなっちゃん、俺屋上でコーヒーでも飲んでるよ。さすがにここは照れ臭い」
 「そうね、レイちゃんの水着は私が見立てるから、邪先輩はそうしてくださいね」
 「じゃそうするよ。悪いねレイちゃん」
 「気にしないでください」




 レイの言葉を聞くとトビオはそそくさと階段を駈け上がっていった。




 「さてレイちゃんどんな水着にする?」
 「どんな?」




 レイには質問の意味が判らなかった。




 「要するに泳ぐ為か、目立つ為か、誰かに見せる為か?」




 ナイは見せるを強調する。マヤに聞いて事情はよく知っている。




 「私泳ぐの好き。目立つのいや。でも綺麗なのがいい……」




 レイの頭にアスカとシンジの顔が浮かんだ。どうして浮かんでくるのか判らなかった。レイがぼっとしているのを見てナイが言った。




 「それじゃ泳ぎやすくって綺麗であまり派手ではないものを選びましょうね」
 「うん」




 二人はじっくり時間をかけて三着の水着を選び出した。試着をしその内二着を購入した。二人で屋上に上がる。屋上のフルーツパーラーではトビオがアイスコーヒーをテーブルに置いたまま居眠りをしていた。レイは起こす為近付き頬を突っ突いた。




 つんつん




 「あ、マヤおはよう。目覚めのキス」




 寝ぼけた邪はレイを引き寄せキスをしようとする。レイは対処出来ず呆然としていた。




 シュン ドォン




 「何やっているんですかぁ〜〜」




 そこには呆然と立っているレイと、椅子ごと吹っ飛んでいる邪と、拳法の構えをして叫んでいるナイが居た。レイのピンチにナイが邪の手を払い上げ掌底で体ごと吹き飛ばしたようである。




 「イテテ、俺どう、アレ、はぁ?」




 邪はよく自分の状況が判ってないみたいである。ナイは勇ましい事をしたのに気づき慌てて構えを解くと、倒れた椅子を起こした。邪を座らす。




 「なっちゃん俺どうしたんだ?」
 「先輩寝ぼけてレイちゃんとマヤ先輩間違えてキスしようとしたんですよ。レイちゃんのファーストキス奪うとこだったんです。私が阻止したんです」




 ちなみにナイは拳法二段だ。邪はナイの説明を受けるうち徐々に顔色が青ざめて来た。




 「し、司令に抹殺されるところだった」
 「何でですか先輩?」
 「いやこっちのことだ。気にしないでくれ。レイちゃん御免。寝ぼけていたんだ。許してくれ。誰にも言わないで欲しい」
 「いいわ問題ないわ」
 「ありがとうレイちゃん。あの二人とも何か頼まない。奢るよ」




 邪は二人をテーブルの席に着かせるとウェイトレスを呼びメニューを貰う。ナイは早速メニューを食いつく様に見た。レイはあまり関心が無い様だった。




 「レイちゃん何にする?」
 「私よく判らない」
 「じゃ一緒にこれにしよう。すいませんエクストラ・デラックス・トロピカル・フルーツ・チョコレートパフェ二つください」
 「え、それって一つあたりの値段が……」
 「先輩、司令にいっちゃおうかなぁ〜〜」
 「俺は美人二人に奢れて幸せですよ」




 邪が自棄になって言うと横ではナイがニコニコとしていた。小悪魔である。レイはきょとんとしていた。やがて届いたパフェは豪華な物だった。レイの華奢な腕では持ち上がらないように思えるほどだった。邪は呆れたようにパフェを見ていた。




 「いただきまぁ〜〜す」




 ナイが早速ぱくついた。




 「おいしぃ〜〜」




 ナイはぱくぱく食べた後レイを見た。レイはパフェの前で戸惑っているようだった。




 「レイちゃん。とっても美味しいわよ。トライしてみて」




 レイはナイの言葉に軽く頷くとスプーンでパフェを少し掬って口に入れた。




 にっこり




 「美味しい」




 レイの顔がほころんだ。とても可愛らしい笑顔だった。思わずナイも微笑み返した。邪も財布を心配しなくなった。心の底から二人に奢ってよかったと思った。




 「さあレイちゃん、気合い入れて食べないと溶けちゃうわよ」
 「うん」




 女性二人は凄い勢いで食べ始めた。邪はアイスコーヒーを追加で頼み二人の食べる様子を見ていた。マヤと来れなかったのは残念だがレイを喜ばしてあげたのが嬉しかった。彼も俗称「リツコカンパニー」の一人である。レイの事情は知っている。
 レイが半分ぐらいパフェを片づけた時、レイの携帯のベルが鳴った。レイは紙ナプキンで口を拭くと電話にでた。




 「はい……はい……はい……はい……命令ならそうするわ……はい……。邪二尉葛城一尉から電話です」




 微笑みを浮かべていたレイがみるみるうちに無表情に戻る。それを見て心配していた邪とナイは、急に携帯を渡されて少し慌てた。




 「はい……はい……はい……はい……はい……わかりました。じゃ切ります」




 邪はミサトとの会話を携帯を切った。




 「レイちゃん。残念だったね。ごめんね。期間中は僕達に何でも言ってよ、第三新東京市内でならどんな事でもするから」
 「邪先輩どうしたんですか?」
 「ミサトさんと言うか作戦部長としての葛城一尉の決定なんだけど、今の時期にEVAのパイロット全員がここ第三新東京市を離れるわけにはいかないという事なんだ。だからシンジ君とアスカちゃんレイちゃんは修学旅行に行けないんだ」
 「そうなんですか。かわいそう」
 「その代わりと言ってはなんだがその期間は完全休養で第三新東京市内なら費用ネルフ持ちでなにやってもいいんだって。その為の人間も確保するそうだ」




 二人の会話をよそにレイは無表情にパフェを食べていた。どことなく寂しそうに。




 「そうだレイちゃん、いい案があるわ」
 「何ですか青桐三尉」




 やはりショックなのか呼び方がナイから元に戻っている。




 「レイちゃん、シンジ君に手紙書いてるのよね」
 「はい」
 「まずその休みの間にどこかへシンジ君達と出かけるのよ。第三新東京市内なら街外れの遊園地なんかに。そこで手紙を渡すのよ。いつもと違う環境なら渡し易いわよ」
 「そう」




 すこしレイの表情が動いた。




 「そうよ。後はプールに行って今日買った水着を見せつけるのよ。ネルフのプールがいいわ。あそこなら文字通り貸し切りだから。他の人に見られないでシンジ君に見せることが出来るわ。アスカちゃんはいるけどね」
 「そう」




 またしてもレイの表情が動く。




 「レイちゃん任せて。私や邪先輩、マヤ先輩、峯先輩で完璧な計画を立ててあげるわ。私がレイちゃんの想いかなえてあげるわ」
 「うん」




 少しレイも元気が出てきたようだ。ナイは二人分のプリンアラモードを追加し二人と計画を練り始めた。




















 「じゃアスカさん綾波さんお土産いっぱい買ってくるからね……」
 「シンジ、二人と仲良くなぁ」
 「センセ達の分もたっぷり遊んでくるわナハハハハハハハ……」




 いろいろな言葉を残し友達は修学旅行に旅立った。シンジ、アスカ、レイの三人は一緒に見送った。空港からリニアで街に戻る。レイは途中で二人と別れた。途中の商店街のラーメン屋でチャーシュー抜きのラーメンを食べる。昼過ぎにマンションに戻る。
 レイは早速シャワーを浴びる。彼女はとにかくシャワーが好きだ。アルビノで肌が弱いためいつも清潔にしていないといけないという理由もある。シャワーを浴び終わると部屋に戻りTシャツとホットパンツ姿になる。机の前に戻る。机には電気スタンドがある。




 レイは結局買い出しの日ナイと邪の励ましにより百貨店で元気を取り戻した。プリンアラモードも平らげた。その後ピンク色したかわいい寝巻きも買った。三人そろってレイのマンションに戻る。電気スタンドを以前SーDVD一体型テレビを買った電気店で買っていく。途中で家具店に寄った。老店主は留守なので老婦人が店番をしていた。老婦人はレイを見つけると卵焼きの入っていた容器に羊羮を入れて返してくれた。それと共に卵焼きへのアドバイスをしてくれた。レイはお礼を言って二人と共にまたマンションに向かった。マンションに着くと早速羊羮をつまみに作戦会議が開かれた。結局休みの間に遊園地に行って手紙を渡し、それからプールに行って水着を見せつける事となった。その日の晩レイはシンジに電話をした。アスカとも話し、二日目に遊園地三日目にプールに行く事となった。




 レイは初日の今日シンジへの手紙を書こうと思った。きちんと背筋を伸ばして椅子に座る。家具屋の老店主にそうすれば綺麗な字か書けると教わったからだ。レイは何回も何回も書いては修正した文章を端末からプリントアウトした。そのプリントアウトの内容をボールペンで丁寧に便箋に書き写していった。何回やっても気に入らない出来だった。やっと上手に書き上げた時、窓の外は夕暮れになっていた。レイは表紙に「碇君へ」と書いた白い封筒にその便箋を入れた。裏をハート型のシールで止める。マヤが邪にラブレターを書いた時の余りを貰ってきた物だ。最後に裏に「レイより」と書く。
 出来上がった。ふっと思わずため息をつく。机の上には白い飾り気の無い封筒があった。レイの心が詰まっていた。レイは手紙を胸に静かに抱きしめた。




 「碇君」




 少しそうした後、レイは手紙を小さなポーチに入れた。レイはポーチを大事そうに机の引き出しに仕舞った。レイは夕食を作り済ますと風呂に入った。久しぶりにシャワーだけでなく浴槽にお湯をはり温まる。書き物をして凝った右手を浴槽の中でよくマッサージをする。ふと自分の体を見てみる。色が体に無く、スレンダーと言うより痩せっぽちな体つきだと思う。ラブレターをくれる男の子達が思うほど美しくないと思う。
 最近レイはアスカに憧れに近い感情を持っている。白いが血色の良い健康そうな肌、豊かな胸。レイはミサトに相談した事がある。ミサトは肌の色はともかく胸の事はシンジ君に揉んで貰いなさいそうすれば大きくなるからと言った。レイは今度シンジに頼んでみようと思っている。体が温まった後浴槽を出て体をよく洗う。レイは糸瓜を愛用している。体中をよく洗う。今日は何故か気合いが入ってしまうレイであった。泡だらけになったあとシャワーで洗い流すと、野原の妖精の様なレイの姿が現れた。
 レイは浴室を出ると体の水気をよくぬぐい取り裸のまま部屋に戻る。冷蔵庫から牛乳の小瓶を取り出すと一気に飲む。冷たくて美味しい。瓶を洗うと台所の籠に入れる。レイはすぐにベッドに入った。枕元の皆の写真と窓の外のお月様にお休みなさいを言った。すぐに可愛い寝息が聞こえてきた。




















 翌日の朝レイはいつもの日課をこなしていた。何やるにも気合いが入っていた。特にシャワーは念入りに浴びた。どたばたと用意をしているとドアのチャイムがなる。この前マサヤがチャイムと鍵を直してくれた。シンジに注意され鍵を掛ける事にしている。鍵は司令とミサトとマサヤが持っている。レンズから外を覗くとマヤが立っていた。




 「今開けます」




 がちゃ




 「おはよう、レイちゃん」
 「おはようございます、マヤさん。上がってください」
 「お邪魔するわ」




 マヤは小さなハンドバックを提げて部屋に上がった。動きやすそうな格好をしている。偶然だがレイの服装と似ていた。




 「最近は綺麗にしているのね」




 部屋を見渡してマヤが言う。




 「うん」




 レイが少し小さい声で言う。レイはちゃぶ台と座布団を二つ引っ張り出して来た。板張りの部屋にちょっと変ではあるがマヤは気にせず座った。レイがポットのお湯を使いお茶を入れる。レイも座布団に座る。




 「さてレイちゃん。時間もまだ余裕があるししっかり今日の作戦を立てましょう」
 「はい」




 レイは少しずつマヤの性格に染まってきているようだ。




 「あの遊園地の特徴をMAGIで調べたのだけど、手紙を渡すのにふさわしい場所は「観覧車」と「冬景色の部屋」の二つに絞られるわ」
 「はい」
 「でもそれにはシンジ君と二人でペアになる必要があるわ。ただこれは心配ないはずよ。今日は加持さんも来るからアスカちゃん加持さんとペア組みたがるはずだから」
 「はい」




 レイはとても真剣な顔つきでマヤの話を聞いている。




 「それから二人で歩いている時は積極的に手を繋ぐ事、腕を組むのはまだやり過ぎでしょうけどね」
 「はい」
 「あとメリーゴーランドとティーカップこれもお勧めね」
 「はい」




 それから一時間に渡ってマヤのレクチャーは続いた。




 「これで遊園地に行った事のないレイちゃんでも大丈夫よ」
 「ありがとうマヤさん」
 「いいのよ」




 ぴんぽん




 又チャイムが鳴った。




 「トビオね」
 「私開けてきます」




 レイは確認するとドアを開けた。




 「こんにちはレイちゃん」
 「こんにちは邪さん」
 「トビオやっと来たのね」
 「時間通りだろ」




 マヤは立ち上がると入り口に来て邪と軽いキスをする。




 「それがお目覚めのキスなのね」




 レイが呟く。邪の顔色が青くなる。




 「あれトビオどおしたの?」
 「いや、なんでもないよ」
 「邪さんも中へどうぞ」




 レイがもう一つ座布団を出して来て言う。二人は部屋に入った。




 「そうだ二人とも飯はどうする?」




 邪が聞く。




 「あの」
 「なあにレイちゃん」
 「私御飯作ります」
 「いいよ。大変だろう」
 「いいえ。最近練習しているんです。味見してください。」
 「そうか。マヤどうする?」
 「ご馳走になりましょうよ。じゃレイちゃんお願いね。びしびし採点してあげるわ」
 「はい」




 レイは立ち上がりエプロンを付けるとキッチンに向かった。




 「じゃトビオ、私達はその間レイちゃんのフォロー作戦の煮詰めね」
 「そうだなマヤ」




 二人は相談し始めた。そうこうしているうちにレイの作った昼食が出来上がってきた。御飯に味噌汁、甘塩の鮭、卵焼き、えびのチリソース、香のものであった。




 「あらこれこの前のご飯に似てるわね」
 「はい。練習しているんです」
 「ほお〜〜美味そうだな」
 「冷めないうちにどうぞ」
 「それもそうね。じゃいただきます」
 「いただきます」
 「いただきます」




 三人は食べ始めた。




 「なかなか味噌汁美味いね」
 「そうね。美味しいわ」
 「ほんと。嬉しい」
 「卵焼き私はもう少し甘めがいいわ」
 「そうかな。俺はちょうどいいぜ」
 「チリソースちょっと辛すぎるわ。豆板醤は少しでいいのよ」




 とりあえずは好評であった。レイは今日の指摘を後でメモしておこうと思った。ちなみにマヤはやはり四杯も御飯をお代わりした。食後レイが後片づけをしちゃぶ台に戻ってくると、マヤはハンドバックよりそれを取り出した。




 「なあに」




 レイは聞いた。




 「口紅よ。これレイちゃんに似合うと思って持ってきたの」




 マヤは答えた。口紅の蓋を取ると底を回して出して見せる。その口紅は薄い桜色をしていた。




 「レイちゃん口紅つけたことある?」
 「ない」
 「じゃつけてあげるわ」




 マヤはレイの顎を軽く掴むとレイの唇に口紅を薄くつけた。ティッシュをくわえさせ色を落ちつかさせる。




 「うん。綺麗にいったわ。さすがレイちゃん、元が美人だからほんのちょっとのお化粧でも映えるわね。とっても綺麗よ」
 「私綺麗なんですか」
 「とっても綺麗だよ。マヤがいなければ俺が持って帰りたいぐらいだよ」




 バコ




 マヤのフックで邪は沈んだ。




 「この馬鹿はおいといて、とっても綺麗よ、レイちゃん」




 レイは立ち上がると鏡を恐る恐るのぞき込んだ。儚げなレイの雰囲気に朧気な薄い桜色の口紅はよく似合った。




 「これ私?」
 「そうよレイちゃん、自信持っていいのよ」
 「マヤさんありがとう」




 レイは思わずマヤに抱きついた。




 「どういたしまして。これでばっちりよ。この口紅は私からレイちゃんへプレゼント。これで口紅付ける練習してね」




 マヤは軽くウィンクをして口紅をレイに渡す。




 「マヤさん、ありがとう」




 ぺこり




 レイはおじぎをする。レイは自分のポーチに口紅を仕舞った。




 「どういたしまして。さてとそろそろ時間ね。行こうかレイちゃん」
 「うん」
 「ほらトビオ起きなさいよ」




 ゲシゲシ




 「痛いなぁ。もうちょっと優しくしてくれよ」
 「今晩たっぷり優しくしてあげるからしゃきっとしなさいよ。もう行くわよ」
 「そうか。じゃ行きますか」




 三人はレイのフロアを出る。レイが鍵を掛けると一行はネルフのゲート前に向かった。その間マヤ&トビオによりレイに作戦が伝授された。一行が13時5分前にゲートに着くとシンジとアスカはすでに到着していた。




 「綾波おはよう。マヤさんもおはようございます」
 「綾波さんおはよう。マヤさんおはようございます」
 「おはよう。碇君、惣流さん」
 「おはよう。シンジ君アスカちゃん。紹介するわ、こちら邪トビオ二尉」
 「おはようシンジ君アスカちゃん。よろしく、俺邪トビオ、マヤの同僚だよ。赤木博士の第一研究室で広報担当やっているんだ」
 「こちらこそよろしく邪さん」
 「今日はよろしく邪さん」




 アスカは邪に挨拶した所で、ふとレイを見た。レイは口紅をしたのが恥ずかしいのかマヤに隠れるようにしていた。




 「綾波さん綺麗」




 アスカが言った。もともと妖精の様に肌が白いレイに薄い桜色口紅はとても似合っていた。




 「ほんとだよ。綾波とっても綺麗だよ」




 朴念仁のシンジでさえ思わず言ったほどだ。




 「あ、ありがとう」




 レイは二人の言葉に頬を赤くして俯いた。マヤは自分が褒められたように喜んでいた。レイが恥ずかしがっているうちに少し遅れて加持がやってきた。




 「いよ、アスカちゃん、シンジくん、レイちゃんも。邪、マヤちゃんも付き添いご苦労さん」
 「加持さぁ〜〜ん」




 だきだき




 アスカは加持の腕にぶら下がるように抱きつく。一方レイはそれとなくシンジに寄り添う。手を繋いでみたくなった。そろそろとシンジの手に自分の手を近づけていく。




 「邪、マヤちゃん悪かったなぁ、付き添いに付き会わせちゃって」
 「かまいませんよ。久しぶりの休日、遊園地、しかもただ。結構おいしいですよこの話。ね、マヤちゃん」
 「そうね、邪さん」




 こちらの二人は腕を組んだ。




 「じゃ遊園地に向かって出発進行〜〜〜〜」




 アスカの元気よい掛け声と共に一行は移動を開始した。レイはもう少しでシンジの手を触るところだった。良かったような残念なような気がした。リニアで20分ほど行くと第三新東京市のはずれの遊園地に着く。この遊園地の実質上の経営はネルフがおこなっている為、ネルフのC級職員以上はフリーパスである。今日のメンバーは全員該当していた。




 「加持さんと遊園地!!!!」
 「遊園地なんてひさしぶりだなぁ〜〜」




 アスカとシンジが言う。レイはふと思った。遊園地へ来た記憶がなかった。昔の事を考えるといつも頭痛がした。レイは考えるのをやめた。




 「私遊園地初めて」




 大人達は一瞬辛そうな顔をしたがまたにこやかな顔をした。ネルフカードを見せて入り口を通るといつの世にも変わらぬ遊園地の姿があった。親子連れ、カップル、遠足、誰もがうきうきとしている。




 「あっティーカップ」




 遊園地の定番ティーカップが入り口の近くにあった。アスカが加持を引っ張って行く。




 「綾波一緒に乗ろう」




 シンジがレイの手を掴み早歩きで引っ張っていく。




 「うん」




 レイはついて行き一緒にティーカップに乗り込んだ。邪とマヤも一つのティーカップに乗り込んだみたいだった。




 「綾波おもいっきり回そうね」
 「うん」




 ブザーが鳴りやがてティーカップが動き出した。シンジとレイは力一杯ティーカップをくるくる回した。レイは世界が回るのを感じた。その中で真正面にいるシンジの顔だけがしっかりと見えていた。レイは嬉しかった。




 くるくるくるくる




 やがてティーカップは止まった。レイは足元がふらついていた。アスカやマヤもふらふらしていた。さすがに男性陣はきちんと歩いてアトラクションの外に女性達をエスコートしていた。




 「あらら」




 レイは眩暈に襲われた。ふらっとして何かを手で掴もうとした。側にあったものを掴んだ。シンジの掌だった。シンジの掌だと判った瞬間なぜか離そうとしてしまった。が、やはりしっかりと掴んだ。




 「どうしたの綾波」
 「眩暈がしたの」
 「あ、危ないね」




 シンジはしっかりと手を握ってくれた。レイは掌が火傷をするのではないかと思えるほど熱く感じた。少し経ち冷静になって見るとアスカもマヤも、加持と邪にすがっていた。やがてレイの眩暈も収まってきた。アスカとマヤもそのようであった。レイはシンジが特に何も言わないので手を握ったままだった。




 「アスカちゃん次何に乗る?」




 加持がアスカに聞いていた。




 「メリーゴーランド」




 アスカが目をきらきらさせて言う。レイもメリーゴーランドに乗りたかった。メリーゴーランドを見るととても心がうきうきした。




 「そうか。ちょっと恥ずかしいなぁ」




 加持は言う。




 「え〜〜加持さん乗ってくれないの……」




 またアスカが泣きそうになっていた。




 「まあまあ、お付きあいしましょ。あの馬車ね。シンジ君、レイちゃん、アスカちゃんがメリーゴーランドに乗りたいって言うんだけど君たちもどうかな」
 「私乗りたい」




 レイはシンジと一緒に乗りたいと思った。少し大きな声になってしまった。




 「僕もいいですよ」




 シンジも続く。




 「邪、マヤちゃん君たちは?」
 「かまわないっすよ」
 「すてきなメリーゴーランドね」




 仲良く六人で乗ることになる。ちょうどメリーゴーランドの回転が止まる。加持とアスカは馬車へ入った。レイは馬車の前の馬に乗ろうとする。結構乗りにくかった。シンジが馬にまたがりレイを引き上げるようにして横座りに馬に座らせた。シンジの意外な腕の力の強さにレイはびっくりした。シンジはレイの馬を降りるととなりの馬にレイと向かい合わせになるように横座りに座った。邪とマヤは馬車の後ろにまわった。やがてメリーゴーランドは動き出した。
 金や銀の光が揺れる。馬も上下する。レイは馬の支柱をしっかり持ちつつシンジを見た。レイが見ているのに気がつきシンジが微笑んだ。レイは嬉しくなった。レイ自身も知らずと微笑んでいた。世界は揺れた。メリーゴーランドの馬や妖精、鳥や動物達は踊る。あたりにはオルゴールの音が鳴り響く。レイはずっと昔読んだ気がする童話の世界のように感じた。楽しかった。レイは思わず目を瞑り片手を胸にあて、オルゴールの音色を馬のリズミカルな動きを感じとっていた。レイのその姿はまるで絵の様に美しかった。
 やがてメリーゴーランドの動きが徐々に落ちやがて止まった。シンジが馬から飛び降りるとレイの馬に近寄ってくる。




 「楽しかったね」




 シンジはそう言ってレイに手を差し出した。レイは少し躊躇した後シンジの手を握り馬から飛び降りる。すこし勢いが良すぎて前につんのめってしまった。




 「おっと」




 慌ててシンジが抱き支える。二人は完全に抱きしめ合う形になってしまった。シンジの方が少しだけ背が高いので、レイがシンジの左肩に口の辺りを埋めるようになってしまった。




 「大丈夫?」




 抱きしめたという認識がないシンジが心配そうに聞く。この辺シンジは異様に鈍い。一方抱きしめられた認識のあるレイは頬を少し赤く染めていた。




 「うん。平気」
 「よかった」




 二人は体を離す。レイはふとシンジの肩口に目がいった。自分の唇の後が極々薄くだが残っていた。それを見てまた頬が赤くなる。レイはさっきから頬が熱くなるのを感じていた。何故だか判らなかった。




 「じゃ出口へいこう」
 「うん」




 レイは口紅の痕の事は言い出せなかった。六人は出口に集まる。レイは邪の唇が赤いのに気がついた。マヤの口紅のようだと思った。レイはさっきもし自分がシンジの真正面に倒れ込んだらと考えた。レイの頬はまた赤くなった。




 「次はどうするか。そうだ邪、マヤちゃん。君たちはゆっくりデートを楽しんでこいよ。りっちゃんやミサトにはちゃんと付き添いやってたって言っとくから。5時ごろ出入口の側に来てくれ」
 「そうですか。すいませんね加持さん。じゃマヤ行こう」
 「うん。じゃ加持さんまた後で」




 二人はお互いの腰に手を回し小鳥のようなキスを繰り返し去っていく。




 「加持さんあの邪さんってどんな人なんですか」




 あまりのべたべたぶりにシンジが聞く。アスカは見ているだけでも恥ずかしいのか目を覆い指の間から二人を覗いている。




 「ああ奴はりっちゃんの研究室の所員でマヤちゃんの同僚だよ。二人は……まぁ見ればわかるか」
 「はぁ。そうですか」
 「なんだか凄い」




 アスカも呟く。レイは電話での応対はこういうような事だったのかと思う。




 「りっちゃんの研究室はラブラブなカップルが多いんだよ。だいたいからしてりっちゃんも共稼ぎだし」
 「リツコさんって結婚してるんですか?」
 「今長期出張に出てるけど、あそこの西田シンイチ博士って旦那さんだよ。6つの時からの幼なじみだってさ。ネルフにいる時は夫婦別姓なんだ。と言うより赤木リツコって名はネルフで仕事をする時の名だね。天才赤木博士親子は世界的に有名だから。ラブラブ度で言えばマヤちゃん達より上だね」
 「そうなんですか。知らなかった」
 「うらやましいなぁ。いつも愛する人といっしょなんて」
 「アスカちゃんもすぐそうなるよ。さてと次どこに行く?」
 「あの確かここには『冬景色の部屋』ていうのがありますよね」




 レイはマヤの言っていたチェックポイントのアトラクションである事を思い出していた。




 「僕雪見た事なくって……」
 「シンジくんって雪見た事無いの?」
 「うん。だって日本出た事無いから。アスカさんは?」
 「ドイツには冬があるから……」
 「ふぅ〜〜んいいなぁ」
 「じゃみんなで入りましょ」
 「綾波はどうする?」
 「入る」
 「じゃそうしよう。加持さんは?」
 「そうだな。アスカちゃんとレイちゃんの冬服もなかなかいいだろうし、つきあうよ」




 アスカは加持の言葉に照れて頬を赤くする。レイは自分の冬服姿を想像してみた。想像がつかなかった。4人は会場に入る。カウンターでそれぞれ貸衣装のリストと今日の地図を渡される。貸衣装はいくつかのパターンでいろいろなサイズがある。自由に選ぶ事が出来る。




 「そうだ」




 アスカが言う。




 「貸衣装お互い見せないで別々の入り口から入りましょ。本当の待ち合わせみたいで素敵だと思うわ」
 「そりゃいいね、アスカちゃん。シンジ君もレイちゃんもそれでいい?」
 「僕はいいですよ」
 「私もいい」




 3人も賛成する。




 「じゃ。加持さんはこの入り口、シンジくんはここ、綾波さんはここね」




 皆特に異論は無いようだ。四人はお互いの衣装が判らないように一人一人手続きをし各入り口に付属している更衣室に向かった。待ち合わせは第三新東京市駅前の天使の彫刻の前とした。
 レイははっきり言ってどんな服装をしたらいいか判らなかった。その為お勧めの服装一式にした。ただ色だけは青が気に入ったので深い青色にした。更衣室で着替えると入り口から会場に入った。










 会場に入ると景色が一変した。夕暮れの第三新東京市駅前はクリスマスの飾り付けがしてあった。クリスマスソングが流れる街角を人々は歩いていた。家族連れもいたがカップルが圧倒的に多かった。空からは白いものがちらちらと降っていた。




 「これが雪」




 レイは手袋を着けた掌で雪を受けてみる。まだ手袋が暖かいのかすぐ溶けてしまう。そのうち溶けなくなる。雪はレイの掌できらきらと光っていた。




 「綺麗」




 レイは掌の雪を頬にあてる。




 「冷たい。これが雪」




 レイは何だか嬉しかった。レイはうきうきと歩き出した。レイは海のように深い青色で服装をまとめていた。白い雪の中を雪よりも白い肌のレイが踊るように歩いていく。ただよう雪は妖精、レイは冬の国のお姫様であった。しばらく駅前を歩いていくと向こうから赤い姿の少女が近づいてきた。アスカだった。きらきらと光る金髪が赤い服の上を滑っていた。




 「惣流さん。とっても綺麗」
 「綾波さん。とっても綺麗」




 お互いの口から思わず同じ言葉がでた。二人は微笑み合うと並んで待ち合わせ場所に向かった。青と赤の美少女が踊るように歩いていく。回りの人々は男女を問わず目を奪われた。やがて彫刻の前に近づいて来た。そこには渋いコート姿の加持とブルゾンにマフラー姿のシンジが居た。
 レイとアスカは最後には軽い駆け足になった。二人はシンジの前に急停止するように止まった。レイもアスカもまず挨拶をしようと思っていた。が、シンジの口からその前に言葉が漏れた。




 「綺麗だなぁ」




 思わずシンジが漏らしたように二人は美しかった。アスカは赤で統一していた。赤い長靴、赤い長ズボン、赤いセーター、赤いふかふかしたコート、赤いベレー帽、みんな赤だ。赤いコートの上にきらきらと金髪が光る。火の妖精のお姫様が冬の国に遊びに来たというところか。いっぽうレイも申し合わせたようにほとんど同じ格好である。ただ全てが深い青であった。青い長靴、青い長ズボン、青いセーター、青いふかふかとしたコート、帽子はかぶっていないが青い手袋をしている。見ていると全てが朧に包まれそうだ。冬の精霊のお姫様の出迎えだろう。
 シンジの言葉にレイはほんのり頬を染める。アスカは衣服と同じぐらい頬を赤くする。




 「シンジ君これはすごいなぁ。さすがネルフが誇る美少女二人だな。後五年もすればミサトもりっちゃんもマヤちゃんも追い越すな、こりゃ」
 「……」




 シンジは見とれている。加持の言葉にも反応しない。




 「さて時間も限られている事だし、このシチュエーションだと二人ずつに別れて行動だな。シンジ君どうする?」
 「え?あの…………」




 美少女二人を前にして見とれていたシンジは、加持の言葉に戸惑う。




 「その、えっと……」
 「ほれシンジ君美人を待たせてはいけないぞ」




 加持が意地悪そうに言う。その間、レイとアスカは美しい彫刻の様に立っている。レイは四人で歩いてもいいと思う。シンジと二人だけで歩きたいとも思う。アスカがどう思っているかとも考える。レイはシンジに選ばれたかった。アスカではなく自分を選んでほしかった。そんな事を考える自分が嫌だった。レイの心は乱れた。レイは何でこんな事を自分が考えるか判らなかった。レイにとってシンジはなんなのか、レイは自分の心が判らなかった。レイはぎゅっと手を握り胸に手をあてシンジを見つめる事しか出来なかった。シンジは顔を赤くして俯いていた。悩んでいるらしい。




 「私今日は加持さんと一緒。さ、加持さん行きましょ」




 いきなりアスカの声がした。レイはアスカの方を振り向いた。アスカがレイに微笑みつつ加持の手を引っ張りその場を離れて行った。少し唖然としてレイとシンジはその場に残された。二人は何となく黙っていた。




 「綾波寒くない?」




 少ししてシンジが聞いた。確かにレイの細い首もとが寒そうだ。




 「少しだけ」
 「じゃこれ」




 シンジはそう言うと自分のマフラーをとりレイの首に巻き付けた。もこもこしたマフラーはとても暖かかった。




 「暖かい。ありがとう」
 「どういたしまして」




 なんとなく間が持たない二人である。




 「綾波……とにかく歩かない」
 「うん」




 二人は駅の方に歩く事にした。




 「きゃ」




 レイが小さな悲鳴をあげる。ここは当然雪が積もっている。その上今日のレイはマヤに言われて少しだけヒールが高い靴を履いていた。レイは転びそうになってしまった。慌ててシンジにつかまる。シンジはしっかりとレイの腕を抱き留めた。シンジはレイを引っ張りあげる。レイはびっくりした顔のままシンジの腕にしがみつく。




 「大丈夫?」
 「うん」
 「じゃ行こうか」
 「うん」




 レイは落ち着くとそう答える。がシンジの腕は離さない。




 「滑らないように、手を繋いでていい?」
 「いいよ」




 雪のきらめきは少女に勇気を与えたようである。少女は自分の心に気づき始めたようだ。ことの他この手の事に鈍い少年と共に少女は歩き始めた。




 「雪って綺麗だよね」
 「うん、本当に綺麗」
 「いつかいっぱい雪が降る国に行って雪だるま作ってみたいな」
 「雪だるまってなに?」
 「大きい雪の塊に小さい雪の塊をのっけてそこに顔を作るんだ」
 「そうなの」
 「あと雪合戦もしたいな」
 「雪合戦って?」
 「雪のボールを作ってぶつけあうんだよ。で陣地をとったりするんだ」
 「そう」
 「綾波知らないの?」
 「……うん……」
 「僕もテレビとかで見ただけだけどね」
 「私テレビ見ないから」
 「そうだったね」




 二人は歩き続ける。




 「いつか戦いが終わったら、雪を見に行こうよ。そうだ僕と綾波とアスカさんとミサトさんと加持さんでアスカさんの産まれ故郷のドイツに雪を見に行こう」
 「うん。私も行くわ」




 レイは嬉しかった。シンジと普通の会話を交わすのが。NERVと関係ない所で話すのが。レイは金色に輝く髪と心を持つ友達に感謝をしていた。二人は歩き続けた。また雪の事を話した。










 十分間は短い時間である。徐々に会場内が明るくなってくる。ホログラムという名の魔法が解けてそこは雪が降り積もるプラスチックの置物がある建物に戻っていた。大人は昔の夢から覚めた様にその場に立ちつくす。子供は残念そうにしょんぼりする。そして人達は出入口に戻っていく。
 四人が再び会場の外に集まったのは5分後の事だった。




 「アスカさんどうだった?」
 「雪見たの久しぶりだったから嬉しかったわ。やっぱり雪の夕暮れを並んで歩くのってロマンチックね」




 アスカは情景を思いだし、目がきらきらしてくる。レイもアスカと同じ想いだった。




 「ふぅ〜〜ん。アスカさん加持さんの事好きだものね」




 鈍いシンジがぼけぼけとして言う。そうなのだろうかとレイは思った。




 「う、うん。加持さん。大好き」




 レイはアスカの笑顔が少しさえない様に思えた。




 「綾波さんはどうだった?」




 アスカがレイをのぞき込むように聞く。気になるみたいだ。




 「どうって?」




 レイは何を聞かれたか判らなかった。雪かシンジの事か。困惑が表情に出てしまった。




 「えっと。雪を見て」
 「よかった」




 レイは答えた。レイはアスカに済まなさを感じていた。またアスカの心遣いを嬉しく思った。レイは心が暖かくなった気がした。




 「そう。それはよかったわ。シンジくんは?」
 「うん僕も雪見るの初めてだし、ブルゾンなんか着るの初めてだったし楽しかった」
 「そうか。俺も久しぶりに雪を見て嬉しかったよ。それにアスカちゃんとレイちゃんの冬服も見れたしいい目の保養になったよ。シンジ君も俺もラッキーだな。身近にこんなとびっきりの美少女が二人もいて」
 「えっええ」




 急に振られてシンジは慌てた。アスカが顔を真っ赤にしていた。レイも頬が少し赤くなっていた。美しいと言われるのが純粋に嬉しかった。










 その後も四人はいろいろな乗り物や施設を回った。アスカはずっと加持にひっついていた。レイとシンジは一緒に行動した。レイは自分でも微笑んでいるのが判った。ただ加持が少し浮かない顔をしているのが気になった。アスカも同様だったようだ。




 「ねえ加持さんどうしたの?」




 腕を組んで……というか腕にぶら下がるように歩くアスカが加持が少しぼっとしているのを見て言う。レイはシンジと会話を楽しみながらも少し気になっていた。




 「あ、ごめん、ごめん。そうだ、そろそろ時間だから最後に一つ何か乗って終わりにしよう。何がいい?」
 「観覧車がいい」




 レイは思わず勢い込んで言った。シンジは少し吃驚しているようだった。加持とアスカが振り返るとレイは微笑んでいるようだった。レイはやっと手紙が渡せると思った。




 「私も賛成」




 アスカも言う。




 「じゃ決まりだな」
 「僕の意見はなしですか?」




 シンジが苦笑いしながら言う。




 「まあこういう時は女性優先だからな、シンジ君」




 加持は微笑みながら言う。




 「そういうものですか。まあ僕も観覧車でいいですよ」
 「それじゃ決まりだな」




 一行は観覧車に向かった。




 初めのゴンドラに加持とアスカが乗った。次のゴンドラにシンジとレイが乗る。ゴンドラは徐々に上がっていった。二人はゴンドラの椅子に並んで座った。シンジは体を捩じり窓に顔をひっつけるように外を覗いている。時々「わぁ」とか「へぇ」とか言い感心している。レイも同じく体を捩じり外を見ている。が視線はシンジの顔と自分のポーチの間を往復した。




 「第三新東京市ってこうなっているんだね。綾波」




 シンジがレイの方を向き言う。




 「う、うん」




 シンジの横顔を見ていたレイは少しうろたえた。




 「どうしたの綾波?」
 「なんでもない」
 「そう」




 シンジはまた視線を外に向け熱心に町並みを眺めた。レイも外を向いた。だが心は全て自分のポーチにあった。このポーチのチャックを開けて手紙を取り出し渡しさえすればいいと思った。出来なかった。何故か判らなかった。何回も手はポーチに伸びた。ポーチのチャックはまるで接着されている様だった。シンジは終始楽しそうに外を見てレイに話していた。レイはついに諦めた。やがて観覧車は一周した。
 ゴンドラは下に着いた。加持とアスカは先に降りていた。レイとシンジのゴンドラも降りてきた。シンジは先に降り、レイの手をとって降ろす。




 「ありがと」




 レイは短く礼を言った。少し伏し目がちになっていた。ずっと手紙の事ばかり考えていたのが変な事のように思えた。




 「さっ邪さんとマヤさんが待ってるわ。急ぎましょ」




 アスカがにっこりと笑い皆に言った。一行はおしゃべりをしながら出入口に向かった。レイも気を取り直し皆と談笑した。しばらくして出入口に着くとそこにはディープキスをしている、邪とマヤの姿があった。




 「ごほん」




 加持がわざとらしい咳払いをする。邪はちらりとそちらを見ると、目を瞑って忙我の境地にあるマヤの唇から慌てて離れる。マヤはぼんやりと目を開く。ぼぉ〜〜とした表情で邪を見る。トロンとした目つきが何とも色っぽい。




 「ごほん」




 加持はもう一度咳払いをする。マヤはぼぉっとしたまま振り向く。一行が目に入る。いきなりマヤの顔が真っ赤になる。




 「レッレッレイちゃん、アスカちゃん、シンジ君あああのこれは……」




 マヤは手を顔の前で振り回ししどろもどろになっている。邪は横であきらめ顔である。




 「マヤさんって…………凄い」




 アスカは自分までもが真っ赤になり呟く。




 「マヤさん。綺麗」




 レイが呟く。大人の女性ってなんて綺麗な事が出来るのだろうと思った。シンジとキスすればあんなに綺麗に成れるのかとも思った。




 「マヤさんって……そういう人だったんだ」




 シンジが唖然として言う。




 「あああああ私のイメージがぁ〜〜〜〜」




 マヤはショックで視線があっちのほうへ行っていた。




 「まぁ、これでりっちゃんといつもひっついていてもその手の趣味があるとは誤解されなくなるよ。そう思って諦めるしかないね」




 加持が肩を竦めて言う。他の皆は凍り付いている。マヤはしばらくムンクの絵の様な顔をして悩んでいたががくっと肩を落とし俯く。




 「ふふふふふふふ」




 皆が心配そうにマヤを見てるといきなり笑い声が聞こえてきた。思わず引く一行、レイはこれを聞き、キスはまだ自分には早いと思う。




 「ふふふふ……もうやけよ。愛する人といちゃいちゃするのは若者の特権よ。…………加持さん」




 じろ




 マヤが加持をにらむ。加持でさえもう一歩引く。




 「すいませんがレイちゃん家までお願いします。私達今日はこれからずっと二人で愛について語り合いますから」




 マヤちゃん完全にキレたようだ。




 「わ、わかった。葛城とりっちゃんには適当に言っておくから」
 「じゃあ失礼します」




 マヤは唖然としていた邪の手をむんずと掴むと大股でずんずんと出入口を出ていった。邪は唖然とした顔のまま引きずられていった。




 「凄い物を見てしまった」




 年の功か加持が一番初めに立ち直った。その声につられるように子供達も我に返った。




 「もしかしてネルフって凄いところかもしれない」
 「あんなディープキス、ドイツでも見た事無かったわ」
 「あれがディープキス…………」




 レイは始めてディープキスという言葉を知った。




 「さてと、まあ……帰るとするか」




 加持が言う。みんなも賛成する。遊園地を出るとリニヤでミサトのマンションに向かう。レイと加持は途中の駅で降り、アスカとシンジと別れた。二人はレイのマンションに歩いて向かう。街は夕焼けに覆われていた。




 「そういえばレイちゃんと最近ゆっくり話した事なかったなぁ」
 「そうですね」
 「今日は楽しかったかい」
 「うん」
 「それは良かった」
 「加持さん」
 「なんだいレイちゃん」
 「キスって、気持ちいい事なの?」




 いきなりのレイの質問に加持はこけそうになる。




 「そりゃまぁ、相手にもよるが、好きな相手となら気持ちいい事だよ」
 「好きな相手なら…………」
 「きっとレイちゃんはシンジ君相手なら気持ちいいと思うよ」
 「なんで」
 「なんでって、レイちゃんはシンジ君の事が好きなように見えるよ」
 「私碇君の事が好きなの……」
 「きっとね。同士愛的な物かもしれないれないけどね」
 「そう。でも好きってよく判らない」




 加持の顔が一瞬苦しみにゆがむ。幸い並んで歩いている為レイには見られていない。好きという感情をあまり理解できない少女。全ての責任は大人達にあった。




 「きっとレイちゃん奥手なんだよ。もう少ししたら判るさ」




 加持はあくまでお気楽に言った。言ってみせた。




 「あの」
 「なんだいレイちゃん」
 「やっぱりいいです」
 「そうかい」




 レイは相談しようとした。何故手紙を渡せなかったかを。それもためらわれた。ナイに後で相談しようと思った。
 二人はやがてレイのマンションに着いた。エレベーターで上がっていく。




 「レイちゃん、このマンションから移り住む気はないのかい。別に女子寮じゃなくても、葛城の所でもりっちゃんの所でも、ネルフ関係じゃなくてもしっかりした人の所ならどこでもいいんだよ」
 「はい」
 「まぁこの話はゆっくり考えてみてくれ」




 エレベーターはレイが住む階に着いた。二人はレイのフロアまで歩いていく。レイは自分のフロアの鍵を開ける。




 「ありがとう」
 「どういたしまして。じゃまたね」




 レイがぺこりと挨拶をすると加持は去っていった。レイはフロアに入り戸を閉めた。レイが戸を閉めたのを確認した後、加持は携帯電話をかける。レイのフロアの隣のフロアで電話のベルがなる。大男が電話をとる。




 「佐門です」
 「加持だ。佐門、後は頼む」
 「了解しました」




 皮ジャンパーを羽織ったその男は電話を切った。彼は普段ロックアーティストを隠れ蓑にしている。彼は加持の部下で名前は佐門ホウサクであった。彼はこのマンション全体を監視するモニターの前に改めて座り直した。そこにはレイのフロアの全ての部屋が映っていた。レイは脱衣所で服を脱いでいるところだった。




 レイは部屋に入るとまっすぐに机に向かう。手紙の入ったポーチを机の引き出しに仕舞った。レイは少しの間引き出しを見つめた後浴室へ向かった。いつもの様にシャワーを浴びた。バスタオル一枚の姿のまま部屋に戻る。ホットパンツ姿に着替える。ベッドに座りマヤに電話をかけてみる。留守番電話になっていた。次にナイに電話をかけてみる。




 「もしもし綾波レイです……」
 「あらレイちゃん、遊園地どうだった?」
 「楽しかったです」




 レイの声も微かに弾んでいる。




 「で、手紙はどうだった」




 ナイの声には好奇心とレイへの愛情がこもっている。事情はマヤから聞いているようだ。




 「だめでした」
 「二人きりに成れなかったの?それとも受け取って貰えなかったの?」
 「二人きりには成れました。だけど何故か渡せませんでした」
 「そう。恥ずかしかったのね」
 「恥ずかしい?そう、あれが恥ずかしいという事なの」
 「そう……って、今まで恥ずかしい事ってなかったの?」
 「…………」
 「とにかく明日プールで頑張って渡してみたら」
 「うん」
 「それにまだまだネルフでも学校でもチャンスはあるんだから気を落とさないのよ」
 「うん。そうする。ナイさんありがとう」
 「どういたしまして」
 「じゃあ切ります。おやすみなさい」
 「おやすみなさい」




 レイは電話を切った。少し座ったままのレイであったがやがて立ち上がった。レイは夕食の用意をし始めた。今日は魚の煮付けに挑戦するつもりだった。買い物籠をぶら下げるとフロアを出ていった。




















 翌日は良く晴れて暑かった。レイは朝の日課を済ますともう一度シャワーを浴びる。隅々まで糸瓜を使い良く洗う。どことなくうきうきとした表情だ。浴室を出ると体の水気をよおく取る。そのまま全裸で部屋に戻ると鏡の前に立つ。細い妖精じみたレイの体が鏡に映る。




 「マヤさんみたいになりたい……」




 ぽつりという。レイはマヤの部屋に泊まった日から憧れを抱いているようだ。レイはしばらく眺めていたが、振り返ると箪笥に向かう。中から下着と青いワンピースと緑のスカーフを出す。それらを身につけると壁の衣紋掛けに引っかけてある麦藁帽子をとり被る。鏡を見てみる。よく似合っていた。レイは麦藁帽子をベッドに置くとポーチから口紅を取り出す。恐る恐る唇に付けてみる。初めてにしてはうまくいった。レイはポーチを水着とタオルなどが入ったバッグに入れると麦藁帽子を被り戸締まりをしフロアを後にした。
















 ぴんぽん




 レイはミサトのフロアに着くと入り口のチャイムを鳴らした




 「はぁ〜〜い」




 がちゃ




 戸が開いた。シンジが顔を覗かせた。




 「あ、綾波」




 レイには何故かシンジが慌てているように思えた。単に準備が遅れているのかと思った。




 「碇君、迎えに来た」




 レイが呟くように言う。なぜか大声で言ってしまいそうな為わざと小声で言った。




 「ごめん綾波、実は僕アスカさんをいじめて泣かせちゃったんだ。でアスカさん部屋に閉じこもっちゃって出てこないんだ。だから今日プール行けないんだ。ばたばたして綾波に電話しそこねちゃったんだ。ごめんなさい」




 レイはシンジがしどろもどろになって言うのを聞いていた。レイはシンジをじっと見ていた。シンジは目をそらしていた。




 「そう」




 レイは呟く。頭の中でも「そう」と呟いていた。またしばらくシンジをじっと見る。シンジはやはり目をそらしていた。




 「じゃ一人で行く」




 レイはまた呟く様に言う。くるっと振り向きすたすたと去っていく。いつもより早歩きになっているのが自分でも判った。エレベーターに乗って一階のボタンを押す。ガタンとエレベーターが動き出す。忘れられたと思った。胸の辺りがが冷たくなった気がした。また独りぼっちになったような気がした。ガタンとエレベーターがまた揺れて一階に着いた。レイはエレベーターを降りマンションを出るとネルフに向かった。










 レイはネルフのプールの更衣室に来ていた。手にしたバッグを開ける。中からタオルと水着を取り出す。バッグの底にポーチがあるのをレイは見る。レイはポーチを取り上げるとチャックを開ける。中には白い封筒がある。レイは手紙を手に取る。赤い瞳が封筒をじっと見る。レイは封筒に両手をかけ捩じり切ろうとする。渾身の力をかける。封筒には皺一つついていない。力などかかっていない。手が下がる。顔が俯く。レイは封筒をポーチに戻す。ポーチをバックに戻す。レイは着替えを始める。レイが下着姿になった時ナイが更衣室に入ってきた。




 「やっぱりレイちゃんここにいたのね。緊急召集よ。使徒が出たわ」
 「はい」
 「作戦会議室に一時間後に集合」
 「はい」




 レイは再びワンピースを身につけた。タオルと水着とスカーフをバッグにつめる。ナイは所在なさげに立っている。




 「レイちゃん、シンジ君達は?」




 ナイが恐る恐るといった感じで聞く。




 「忘れられたの」




 レイは呟くと更衣室を出ていった。ナイは更衣室に取り残された。

















 「これが使徒」




 シンジが呟く。ここはネルフの作戦会議室である。床一面が大型のディスプレイになっている。そこには人の胎児のレントゲン写真みたいな像が映っている。その像を挟んでリツコとマヤ、アスカ、シンジ、レイがそれぞれ並んでいた。




 「そうよ完成体に成っていない蛹の様な状態ね。今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします。出来うる限り原形を留め生きたまま回収する事」
 「出来なかった時は?」




 リツコの説明にアスカが質問をする。ディスプレイの為暗くした室内では皆の表情はわからない。




 「即時殲滅いいわね」
 「「「はい」」」




 チルドレン達は返事をする。元気があまりない。リツコはその様子に少し眉をひそめたが言葉を続ける。




 「今回の作戦担当はアスカちゃんよ。弐号機で出て頂戴。シンジ君は初号機で現場でバックアップ。レイちゃんは零号機で本部で待機。司令から捕獲命令が出たからにはすぐいくわよ」
 「「「はい」」」
















 「これが耐熱耐圧耐核防護服局地戦用のD型装備よ」




 リツコが説明する。ケイジでは弐号機が昔の潜水夫が着ていた潜水服の様な物を着ていた。アスカはその装備を見上げていた。ぽつりと言う。




 「あまり格好がよくない」




 レイは黙ってリツコとアスカの言葉を聞いていた。任務の前だというのに集中できなかった。シンジが気になった。アスカも気になった。アスカもシンジもあまり元気が無い様に見えた。レイは伏し目がちにしていた。リツコが言う。




 「アスカちゃんとレイちゃんはちょっと待機していて。シンジ君ちょっといらっしゃい」




 リツコはシンジを物陰に引っ張り込んでいった。レイはちらっとシンジを見、そしてアスカを見てまた俯いて立っていた。アスカも黙って立っていた。
 しばらくするとリツコとシンジが戻ってきた。




 「アスカちゃんあなたは第8待合室、レイちゃんあなたは第15待合室で待機してて」
 「「はい」」




 レイとアスカはそれぞれ黙ったまま待合室に向かった。
















 レイは待合室のベンチに座っていた。もう何も考えていなかった。でも胸の辺りが冷たかった。良く判らなかった。しばらくするとシンジとアスカの様子が思い出された。まだ仲直りしていないのかと思った。でもシンジは私の事を忘れていたと思い返した。レイは独りぼっちだと思った。昔は一人でもそんな事は考えなかったと思った。なにも考えていなかったのに想いが千切れるようだった。アスカとシンジが気になった。始めて出来た友達が気になった。待合室のドアが開いた。シンジが入ってきた。レイはシンジの顔を見上げた。シンジの顔は明るくなっていた。




 「碇君」




 レイはそれしか言えなかった。ただシンジの明るい顔はレイの胸を暖かくした。でもすぐにレイは思い出した。やはり忘れられた事には違いはなかった。




 「綾波…………ごめん。ほんとにごめん」




 シンジは頭を下げた。レイはシンジを黙って見ていた。シンジは頭を上げるとレイの顔をしっかり見て話し出した。レイはシンジの視線を受け止めた。




 「言い訳になるけど聞いて。お願い」
 「うん」
 「昨日遊園地からの帰りに僕アスカさんにひどい事をしちゃったんだ。アスカさんが部屋に籠っちゃうぐらいの事なんだ」
 「どんな?」
 「…………むりやりキスしようとしちゃったんだ」




 シンジはレイの視線に耐えられず話す。




 「アスカさん凄くショックを受けて昨日からほとんど何も話してくれなかったんだ」
 「なんで?」 
 「なんでって」
 「私加持さんに聞いたの。好きな人とキスするのは気持ちのいい事だって」
 「だけど……」
 「私好きっていう事よくわからない。でもきっとアスカさん碇君の事好き。だからアスカさんきっと気持ちいい」
 「でも」
 「碇君もアスカさんの事きっと好き。だから私との約束忘れたの」
 「綾波許して……ごめん……ごめんなさい。それしか僕言えない」




 シンジがしょんぼりしてくる。レイはシンジがしょんぼりするのが嫌だった。レイは聞いてみた。




 「碇君」
 「なあに」
 「私の事好き?」
 「あ綾波あの…………す好きだと思う。でも僕も良く判らない」
 「そう」
 「じゃキスして」
 「え、あの……でもあの」
 「私好きって事良く判らない。だからキスすれば好きって事が判ると思うの」
 「でも……」
 「してくれたら……今日の事忘れてあげる」
 「あの……」
 「私今日碇君に忘れられて胸の辺りが冷たくなったの。でももういいの。きっと私惣流さんと碇君の事好きだと思うの。私知りたいの、好きって事がどういう事か。だからキスして」




 シンジはレイの静かだが激しい言葉に驚いた。レイは立ち上がる。




 「私何も知らないの。惣流さんが羨ましいの。私なぜ惣流さんがショック受けたか判らないの。だから教えて。キスして」




 レイは言う。自分でも何を言っているのか判らなかった。わけの判らないうちに言葉が唇から流れ出た。手紙を書いた時のようだと思った。レイはシンジをずっと見続けていた。




 「綾波」




 シンジはいきなりレイを抱きしめた。シンジの両手には恐ろしいほどの力が入っていた。




 「痛い」




 思わずレイが言った。美しい眉がゆがんだ。改めてシンジの顔を見た。なぜだかとても怖いものに見えた。何故だろうと思った。でもやっぱり怖いように見えた。




 「碇君、怖い」
 「ごめん綾波」




 シンジは慌てて両手をほどき後ろに下がった。レイはなんで怖かったのかよく判らなかった。シンジの顔をまた見た。怖い顔はしていなかった。しょんぼりしていた。




 「僕って最低な奴だ。二人ともに酷い事をしようとしたなんて」




 レイはシンジが俯いてそう言うのが嫌だった。何かを言わなければと思った。




 「碇君は悪くないわ。私が望んだ事だから。碇君いいの」
 「綾波ごめん」
 「碇君悪くない。きっと私が悪い。私よく判らないの。いろんな事が判らないの。だけどきっと碇君悪くない」
 「綾波ほんとに」
 「うん。私碇君が悪いと思っていない」
 「綾波ありがとう。ごめんなさい。でも今日の約束忘れた事、謝れてない」




 またシンジがしょぼんとする。レイもその様子を見て胸の辺りが冷たくなる。なぜシンジがしょぼんとすると自分がそうなるのか不思議に思う。




 「碇君」
 「なあに綾波」
 「ちょっと待っててくれる。碇君の事許してあげる。そのかわりちょっと待ってて」
 「うん。でもどうするの」




 レイはシンジの返事も聞かずに待合室を飛び出した。走って更衣室まで行く。自分のバッグを開くとポーチを取り出す。ポーチのチャックを開くと封筒を取り出した。手にしっかり封筒を持つとまた走って待合室に戻った。待合室ではシンジが不安そうに立っていた。




 「碇君」




 はあはあと息をつきながらレイは言う。




 「なあに綾波」
 「私碇君にお手紙書いたの」
 「手紙?」
 「うん、手紙。なぜか書きたくなったの。だからこれ貰って。この作戦終わったら読んで。そうしたら許してあげる」
 「それでいいの」
 「うん」
 「ありがとう。手紙しっかり読むよ」
 「うん」




 レイは両手でシンジに手紙を差し出す。シンジも両手で手紙を貰う。




 「僕、女の子から手紙貰ったの初めてだ」




 シンジが顔を赤くして言う。




 「私手紙あげたの初めて」




 レイもいくぶん頬が赤い。レイは急に気づいて言う。




 「碇君もう行かないとだめなんじゃない」
 「うん。じゃ一緒に行こう」
 「でも私ここで待機だから」
 「もういいんだよ。この待機ってリツコさんが皆を仲直りさせてくれるためくれたんだ」
 「そう。赤木博士が」




 レイはリツコに心の中で感謝した。




 「惣流さんとは仲直りできたの?」
 「うん」
 「よかった。じゃ一緒に行きましょ」




 二人は微笑みあって待合室を出ていった。




















 レイはプラグスーツ姿で発令所のオペレータ席の後ろに座っていた。みんな安蘇山火口へ行っている為知り合いはシゲル、加持、マサヤしかいなかった。日向とマヤがいない為その場所にはB級オペレーターが座っていた。マサヤはリツコの代理、加持はミサトの代理だった。
 レイと加持とマサヤは椅子に座っていた。レイは発令所の大型モニターに映し出される光景と状況報告を見聞きしていた。レイはここにいるのが嫌だった。二人と一緒に行きたかった。
 やがて作戦が始まった。初めの内は順調だった。使徒を捕らえた時は発令所中で歓声が起きた。レイも握りしめていた手をそっと開いた。




 が




 その安らぎの雰囲気は突如の警報とアスカの叫び声により破られた。レイは目を見張った。また掌をぎゅっと握った。レイは思わず立ち上がった。




 「惣流さん」




 レイは叫んでいた。他の事は目に入らなかった。弐号機のモニターからは使徒の姿が映し出されていた。ミサトの指示が聞こえていた。




 「惣流さんよけて」




 レイはまたも叫んでいた。
 それからはレイにとっても地獄だった。友達に何もしてあげられないのが苦しかった。レイはその場で立ち尽くしていた。マサヤや加持も立ち上がっていた。アスカの弐号機が使徒を躱すたびにレイは叫んでいた。もうすぐとレイは思った。もうすぐ弐号機は助けあげられる。そうしたら碇君が使徒をやっつけると思った。




 が




 「きゃぁ〜〜〜〜」




 アスカは使徒に捕まった。いや捕まったらしかった。その瞬間弐号機のモニターは壊れていた。




 「アスカさん」




 レイの声は絶叫に近かった。その声に弾かれたように、初号機が機体をATフィールドで光らせて火口に飛び込む。




 「あぁーーーーーー」




 もうレイは自分が何を言っているか判らなかった。自分が戦いの中にいる時の冷静さを全て失っていた。レイは立ち尽くしていた。




 「使徒のATフィールド消失」




 B級オペレーターが現場からの報告をシゲルに伝える。




 「火口内から初号機および弐号機のパイロットの生体反応検出。ともに健在です」




 発令所で一斉に歓声が上がった。が次の一報でそれはまた悲鳴に近くなる。




 「しかし初号機プラグ内温度急激に上昇中。早く引き上げないとパイロットもちません」
 「碇君」




 レイはオペレーター席に駆け寄ろうとした。




 「レイちゃん。落ちつくんだ」




 レイは後ろからプラグスーツの金具を押さえられ引き留められた。レイは振り向いた。その目には憎しみの光りさえ灯っていた。止めたのはマサヤだった。




 「今オペレーターの邪魔をしたら助かるはずの二人も助からなくなる。アスカちゃんとシンジ君は使徒を倒してくれた。今度二人を助けるのは俺達大人の仕事だ」




 その時また発令所内に歓声が上がった。初号機と弐号機がつり上げられたのだ。レイとマサヤはモニターに向き直った。リツコの声が発令所に響いた。




 「峯、リツコカンパニー全員出動よ。シンジ君とアスカちゃんの治療の為、医療部及び生化学班、医療物資調達班全員召集よ」
 「了解しました」




 マサヤはシゲルのマイクをひったくるように答えた。




 「シゲル、赤木研究室第一から第三まで全てに繋いでくれ」
 「わかったマサヤ」




 シゲルが操作をする。




 「つなげたぞ」
 「了解。峯マサヤ二尉だ。所長から指示があった。セカンド及びサードチルドレンが高熱の為ダメージを受け危ない。生化学班は至急全員召集。その他の所員もこれから非常体制に入る。医療部関係は私から指示を入れる。あと邪来てくれ。レイちゃんの世話頼む。以上」




 マサヤはそう言うと振り返りレイに言う。




 「レイちゃん二人の命は必ず助ける。信じてくれ」
 「お願い」




 レイがマサヤに抱きつく。マサヤの顔を見上げる。レイはふと目が熱いのを感じた。マサヤの顔がゆがんで見えた。マサヤはレイの目に涙が浮かぶのを見た。




 「誓うよ。命に代えても。さあ僕は行かないといけない」
 「うん」
 「加持さん、邪が来るまでレイちゃん頼みます」
 「わかった」




 レイはマサヤから離れた。マサヤは走り去った。










 シンジとアスカが移送されてきたのは一時間後であった。酷い有様であった。シンジは体中に水膨れが浮かんでいた。アスカも顔に水膨れがあった。すぐ二人は特殊な医療ポットに入れられる為、ネルフの他の部門に移された。レイはほんの一瞬しか二人を見る事が出来なかった。レイは戻って来たリツコに聞いた。




 「碇君と惣流さん大丈夫なんでしょ」




 レイとは思えぬ激しい口調だった。




 「大丈夫よ。大丈夫にして見せるわ」
 「お願い、お願い赤木博士。私から友達を取り上げないで」
 「わかっているわ。私を、私の研究室と医療班を信じて」
 「うん」




 レイは目を擦る。なにか目が熱くなったような気がしたからだ。




 「じゃレイちゃん、これからの事は邪君に聞いてね。私は医療部の指揮をとりに行くわ」
 「うん」










 レイはその日からネルフに泊まり込んだ。次の日アスカとシンジは医療ポットを出た。アスカは一般病棟、シンジはICUに移された。レイはアスカとシンジの病棟を行ったり来たりした。シンジとアスカは眠っていた。ただ状況は違った。アスカは沈痛睡眠薬でわざと眠らせていた。それほど重傷ではなかった。シンジの方は昏睡状態がとけないのであった。レイはほとんど眠れなかった。病室の仮眠室で浅い眠りを取っただけだった。
 次の日アスカの身体モニターが正常に戻ってきた為沈痛睡眠薬の使用を中止した。まだ少し顔に水膨れが残っていた。レイはシンジも気になったがアスカの目覚めに立ち会う事にした。
 アスカの病室には他にリツコとミサトがいた。ふたりとも目が落ち窪んでいた。レイとリツコとミサトはアスカの事を見ていた。やがてアスカが目を開いた。




 「私生きてるの…………」
 「そうよアスカちゃん、あなたをシンジ君が助けてくれたのよ」
 「え、だって誰も助けに行けないって……え、すると……シンジくん、シンジくんは……」




 アスカはベッドから上半身を起こす。赤いパジャマが着せてある。




 「アスカちゃん起きちゃだめ。あなた二日も寝ていたのよ。それに顔に水膨れがあるの。溶岩の感覚のフィードバックのせいでね。へたに動くと顔に一生あとが残るわ」




 ミサトはアスカを押さえ付けるように、ベッドに寝かし付けた。レイはベッドに近づいた。




 「でもシンジくんは……シンジくんはどうしたの」




 レイはアスカの美しい瞳から涙が流れるのを見た。私はなんで泣けないんだろうと思った。




 「私が説明するわ、アスカちゃん」




 リツコが言う。




 「弐号機の頭部に使徒が食いついた瞬間、シンジ君は……初号機はプログナイフ片手に溶岩内に飛び込んだの。ATフィールドを全開にしてね。今までで観測された最強のATフィールドだったわ。あまりにも凄いATフィールドの為、溶岩の熱も圧力もシャットアウトしたぐらい。初号機はケーブルに添って下降して使徒を上から襲ったの。コアを上からプログナイフで突き刺して使徒を片づけたんだけど、使徒は断末魔のあがきでケーブルを切って滅んでいったの。弐号機が沈みそうだったんでシンジ君は慌てて弐号機とケーブルを初号機の両手で掴んだわ。今までATフィールドで熱を遮断していたけど直接触ったから一気に初号機の手が加熱したの。その感覚がシンジ君を襲ったのよ。その時のシンジ君の悲鳴は今でも気分が悪くなるぐらい」




 レイはアスカが声も出せず泣いているのを見た。レイにはアスカの気持ちがわかった。レイはそっとアスカの手を握る。レイも救われたかった。




 「でもね彼気絶しなかったわ。もし気絶してATフィールドが無くなったら一気に初号機は壊れるわ。そうしたら弐号機は初号機ごとマグマの藻屑ね。シンジ君は最後まで耐え切ったわ。溶岩から完全に釣り上げたところでこちらから初号機の動きをホールドしたの、それを伝えた所で彼気絶したわ。当然よ。エントリープラグ内は摂氏50度近くになっていたもの」
 「シンジくんは……シンジくんは……」




 アスカはもうそれしか言えない。レイはアスカが可哀相でしかたがなかった。




 「生きてるわ。ただあまりにも高温の場所に居たため、まだ昏睡状態なの」
 「うぇぇううううううう…………シンジくん…………うううううううううう…………シンジくんにシンジくんに会わせて、私のせいでシンジくんはシンジくんは…………うううう」」
 「アスカちゃん、あなたが悪いんじゃない。私が計算ミスさえしなければこんな事にはならなかったわ。私のミスよ。ごめんなさい」




 リツコは俯く。眼鏡が曇る。涙かも知れない。




 「そうアスカちゃんのせいじゃないわ。私があそこで無理しないで引き上げていれば被害が無く迎撃が出来たのよ。私の作戦ミスだわ」




 ミサトはキッとした声で答える。歯をくいしばり顔を無理矢理冷静にしている。




 「シンジくんに会わせてください。お願い……」




 レイはアスカは涙をボロボロ流して懇願するのを見た。絶対今会わせてはいけないとレイは思った。




 「それはだめよアスカちゃん。アスカちゃんだって体のあちこちに水膨れがあるのよ。特に顔にあるのよ。もしアスカちゃんの顔に痕が残る事があったらそれこそシンジ君に怒られるわ。アスカちゃん、シンジ君の事はこの赤木リツコにまかせなさい。世界最強のマッドサイエンティストの名にかけて絶対シンジ君は治して見せるわ。だからあなたは安静にして早く治すのよ」




 俯いていたリツコの瞳に狂的な光が宿る。




 「でも……でも……シンジくん……」




 アスカは泣きじゃくる。




 「惣流さん」




 ずっと黙っていたレイが言う。レイは思わずアスカの手をぎゅっと握る。




 「碇君を信じましょう」




 アスカが自分の方を見たのをレイは見た。




 「綾波さん」




 アスカは言う。レイは二人の気持ちが同じ事がわかった。レイは言った。




 「惣流さん。碇君は私が見てる。だから早く体治して」




 レイは俯いてまた強くアスカの手をぎゅっと握る。レイは怖かった。少し手が震えている。




 「綾波さん……ぐす……お願い。私が治るまで、シンジくんをお願い……」
 「うん」




 二人の少女は強く手を握る。




 「じゃアスカちゃん、私はシンジ君を治療に行くから、あなたは一刻も早く治ってシンジ君を元気付けられるようにするのよ」
 「はい……リツコさん……本当に……本当に……お願い」
 「わかったわ。あなたはまず寝る事よ。いいわね」




 リツコとミサトは病室を出ていった。レイは側の机から鎮静剤を取るとコップの水と共にアスカに渡す。




 「これ、鎮静剤。飲んでゆっくり寝てて」
 「うん」




 アスカは鎮静剤を飲む。すぐに眠そうな顔になった。




 「綾波さん。シンジくんを見ててあげて。お願い」




 レイはコクリと頷いた。アスカは眠りに落ちたようであった。










 レイはその後もアスカとシンジの病室を往復した。シンジはICUにいる為、レイが居てもなにもする事は無かった。でもずっと側で座っていた。時々アスカの病室に行ってシンジの容体を話した。アスカは泣いてばかりいた。レイは慰めた。ずっと着続けた為、美しい青のワンピースは薄汚れてきた。みかねてナイが着替えを届けてくれた。レイはずっとネルフに泊まり込んでいた。
 三日後アスカはシンジの部屋に行く事が許された。レイがアスカの車椅子を押し病室に向かった。病室には峯マサヤが居た。病室にはリツコの配下が代わり番で詰めていた。




 「アスカちゃん。来れるようになったのかい?」
 「はい峯さん」
 「シンジ君はまだ起きないよ…………」




 ベッドにはシンジが寝ていた。あどけない寝顔である。レイが少しふらふらするアスカをベッドまで連れていく。レイもほとんど寝ていない為ふらふらしている。二人はベッドのヘッドボードの方からのぞき込む様にシンジの顔を見る。




 「シンジくん」
 「碇君」




 二人の唇からは同じつぶやきが漏れた。レイの赤い瞳は見開かれてシンジの顔を見つめていた。アスカの青い瞳もシンジの顔を見つめていた。マサヤは黙って三人を見ていた。




 ぽた ぽた




 アスカが耐え切れなくなった。その青い瞳から大粒の涙が滴る。つられるようにレイの赤い瞳からも涙がこぼれ落ちる。その涙はシンジの頬の上に落ちる。




 ぴくぴく




 「「えっ」」




 ぴくぴく




 シンジの睫毛が動く。そしてうっすらと目を開く。




 「碇君」
 「シンジくん」




 アスカとレイは叫ぶ。マサヤは緊急コールを使い医師団を呼び寄せる。




 「アスカさん。綾波」




 まだぼっとした表情であるがシンジが呟く。




 「シンジくん……ぐす……よかった……ぐす……よかった……ぐす……ううううううううう」
 「碇君」




 レイとアスカはそこから動かなかった。シンジの顔は二人の涙でびしょびしょになった。病室にはリツコと共に医師団が到着した。




















 レイはふと気がついた。回りを見渡すと白い部屋のベッドで寝ていた。手には点滴のチューブが繋がっていた。横を見ると赤いパジャマ姿のアスカが居た。その横にはナイも居た。




 「レイちゃん気がついたのね。よかった。レイちゃん看病疲れと睡眠不足、栄養失調で倒れたのよ。ほんと無理しちゃったのね。丸二日寝込んでいたのよ」
 「碇君は?」
 「大丈夫よ。意識を回復してからは順調だわ。ただし退院には半月ぐらいかかるけどね」
 「よかった」




 レイは起き上がろうとした。体に力が入らなかった。




 「綾波さん。まだだめよ起きちゃ。今日は点滴をして寝てなさいってせんせいが言ってた」




 アスカは優しいまなざしでレイに言った。レイは起きるのをやめた。




 「アスカちゃん、レイちゃんと秘密の話があるから席外してくれる?」
 「はい。じゃ私も病室に戻ります。綾波さん看病ありがとう。今度は綾波さん早く元気になってね」
 「うん」




 アスカは病室を出ていった。




 「さてとレイちゃん、秘密の話って……シンジ君からの伝言よ」
 「碇君から」




 レイは頬が熱くなるのを感じた。




 「あレイちゃんほっぺが赤い。どうしたのかなぁ」
 「そう」




 ナイは結構いたずらっぽい性格みたいだ。




 「ええとね(綾波看病ありがとう。元気になったら手紙の返事書きます)だって。よかったわね、レイちゃん」
 「うん」




 レイは心の底からの微笑みを浮かべた。それはナイでさえも思わず見惚れてしまう様な透明で美しい笑顔だった。




















 一カ月後シンジはすっかり回復していた。アスカの火傷もすっかり痕も残らずに治っていた。レイももちろん元気だった。シンジをアスカとレイはネルフのプールに誘っていた。またプールではシンジがアスカを泣かせたりレイに助けられたりと皆楽しい時をすごした。三人はそろってプールより上がった。レイは更衣室であの青いワンピースに着替えていた。アスカは長い髪を洗うのに手間取りまだシャワーを浴びていた。更衣室の前で待ち合わせる事になっていたので、レイは更衣室を出た。




 「綾波もう着替えたんだ」




 シンジが待っていた。




 「うん」
 「あの……綾波……これ」




 シンジが、手に持っているバックから白い封筒を取り出した。俯きぎみに鼻を擦りながらレイに差し出す。




 「これこの前の返事」




 レイは封筒を見た。「綾波レイさんへ」と下手な字で書いてあった。




 「あ、ありがとう」




 レイも俯きぎみに封筒を受け取った。レイは自分のバックからポーチを取り出しそれに封筒を入れた。ポーチをバックにしまう。レイの一連の動作が終わった後二人は赤くなって突っ立っていた。




 「シンジ君、綾波さんどうしたの?」




 着替え終えて更衣室を出てきたアスカが二人を見て不思議そうに聞いた。




 「な、なんでもないよ」
 「う、うん。なんでもない」




 シンジとレイは動揺しまくっていた。レイはアスカに対しずるい事をしたような気がした。




 「そう。じゃ帰りましょ」




 アスカは言った。三人は廊下を歩いて行った。










 翌日からレイは下駄箱のラブレターを持って帰るようになった。








つづくと思う





NEXT
ver.-1.00 1997-12/10公開
ご意見・感想・誤字情報・らぶりぃりっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!




あとがき


 実は私「マグマダイバー」って好きなエピソードなんです。理由はと言われると特に無いのですが。今回のレイちゃんは何か積極的過ぎる気もしますが、普通の女の子のレイちゃんを描いていたらこうなりました。またやたら微笑み過ぎるかも知れませんが、彼女も13才の少女です、笑わせてあげたいと思ってこうしました。









 合言葉は「レイちゃんに微笑みを」




 ではまた



 まっこうさんの『ある日のレイちゃん2』公開です。
 

 

 無口なレイちゃんも
 心の中ではいっぱいいっぱい語っていますね。
 

 なかなか外にでない彼女の心が
 まっこうさんの小説から柔らかく伝わってきます(^^)
 

 

 一通の手紙。

 書くまでの、
 書いてからの思い。

 次第次第に成長していく彼女の心が温かいです。
 

 

 ううう・・・やばい・・・・私はアスカ人なのに・・・・(^^;

 遊園地でのアスカ、
 シンジへの微妙な思いのシーンが無かったら・・・転んでいた!?(N2爆)

 

 全てのキャラが魅力的ですね(^^)/
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 1本最長記録を更新したまっこうさんに感想メールを送りましょう!


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