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気になるあの子・第弐話

 
−あの子と放課後−




 てくてくてくてく


 二人と二匹は歩いていく。シンイチとリツコの両脇にプチとパチがのんびりと歩いていく。道行く人々は微笑ましい光景を見守っている。


 「りっちゃん」
 「なあにシンちゃん」
 「なんでプチとパチをみてみんなおどろかないのかなぁ」
 「なんで驚くと思うの?」
 「だってこんなに大きいんだよ」
 「プチとパチって私以外の人には見えないの」
 「じゃなんでぼくにはみえるの?」
 「きっと私とシンちゃんがお友達だからだと思うの」
 「ふぅ〜〜ん。そうなんだ。プチ、パチそうなの?」


 にゃ〜〜
 にゃ〜〜


 どうやらそうらしい。


 「でもなんでふつうのひとにはみえないの」
 「それは……こんど教えてあげる」


 にっこり


 シンイチはまたしても笑顔でうやむやにされてしまった。恐るべしはリツコ。既に女の魅力を十分活用していた。
 少し歩いていくと、前方に古めかしいアパートが見えて来た。築20年は行っているだろう。福音荘である。


 「あ、ふくいんそうだ。りっちゃんはあのアパートのどこにすんでいるの」
 「103号室よ」
 「ふぅ〜〜ん」


 喋りながら行くとそのうちにアパートまでついた。リツコはごそごそと鍵を探していたが慌てて言った。


 「かぎお母さんにもらうの忘れちゃった」
 「えそれじゃいえにはいれないね」
 「うんどうしよう。戸を開ける道具は今日持っていないわ」
 「おかあさんはなんじごろかえってくるの」
 「午後8時ごろ」
 「まだまだじかんがあるね」
 「それまでどうしよう」
 「それじゃぼくのうちでそれまであそばない」
 「シンちゃんち?」
 「うん」


 う〜〜〜〜ん


 「どうしたのりっちゃん」
 「お母さんにいつも、男の子に誘われてもすぐについて行っちゃいけないって言われてるの。すこし考えてからにしなさいって」
 「そうなの」
 「でもシンちゃんちならお母さんもいいって言うわ」
 「じゃいっしょにいこう」
 「その前にお母さんにお手紙書いていかなくちゃ」


 リツコはがさごそとランドセルを探すと小さな箱を取り出した。10センチ四方のその箱には小さなレンズとマイク、赤と黒のボタンがついていた。


 「シンちゃんこの箱をもって、そのレンズを私に向けたら赤いボタンを押して」
 「わかったこうだね」


 ぷち


 「お母さん今日は鍵を忘れたのでお母さんが帰ってくるまでお友達のシンちゃんちにいます」


 リツコはレンズに向かって話す。


 「シンちゃんもう離していいわ」
 「うん」
 「今度は私が持っているからこのレンズに向かって話してね」
 「え、なにを?」
 「名前と住所と電話番号」
 「わかった」
 「じゃお願い」


 シンイチはレンズを覗きこむようにして話しだした。


 「ぼくは西田シンイチです。じゅうしょはすぎなみくなりたまちいちのにじゅうさんのよんです。でんわばんごうは○○○の××××です」
 「はい、いいわ」


 ぷち


 「それってびでお?」
 「いいえ汎用立体映像装置のテストタイプ「フルネ」っていうの。この青いボタンを押すとね」


 ぷち


 その箱のレンズの前に10センチぐらいのリツコが浮かび上がる、そして伝言を伝えた。つづいてシンイチも映し出された。


 「すごぉ〜〜い。これもりっちゃんがつくったの?」
 「これはお母さんが作ったの」
 「ふぅ〜〜ん」
 「これを郵便受けに入れとけばいいわ」
 「うんそうだね」


 リツコは背伸びをしてドアの郵便受けにその箱を入れた。


 「じゃシンちゃんちへ行きましょ」
 「うん。あれプチとパチがいなくなっちゃった」
 「ほんとね。でもプチとパチっていつもしらない間に消えるのよ」
 「ふぅ〜〜ん。ふしぎなねこだね」


 てくてくてくてく


 「りっちゃんてどこにすんでたの?」
 「私京都に住んでたの。お母さんの仕事が変わって東京に越して来たの」
 「ふぅ〜〜ん」
 「しんちゃんってずっとここに住んでるの」
 「そうだよ。あっついた。ここがうちだよ。いまかぎをあけるからね」
 「誰も居ないの?」
 「うんおとうさんとふたりぐらしなんだ」
 「て事は私とシンちゃん二人だけ?」
 「そうだよ」


 シンイチは鍵を開けた。


 「はい。りっちゃんはいろ」


 リツコはじと目でにらむ。


 「エッチな事しないでね」
 「へ?なあに」


 おませなリツコである。
 二人は玄関をくぐった。


 「ただいま」
 「おじゃまします」
 「りっちゃん、ちょっといい」
 「うん」


 シンイチは奥の部屋に入って行った。リツコもついていく。そこには小さな仏壇があった。2O代前半の美しい女性の写真がかざってあった。シンイチはランドセルを降ろし、その前に正座すると手を合わせた。


 「シンちゃんのお母さん?」


 少し経った後、後ろでやはり正座していたリツコはたずねた。


 「うん、ぼくをうんですぐしんじゃったんだ。それからずっとおとうさんとふたりでくらしてるんだ」
 「そうなの」


 リツコは俯いた。そのうちシクシクと泣き始めた。


 「ど、どうしたのりっちゃん」
 「お父さんを思いだしちゃったの。お父さん半年前に交通事故で死んじゃったの。このランドセルと筆箱、お父さんが事故の前の日買って来てくれたの」


 リツコはしゃくりあげた。


 「りっちゃん、なきやんで。そうだぼくのおとうさんかえってきたらあわせてあげる。うちちかいんだからこれからもあそびにおいでよ」
 「うん、そうする」
 「じゃぼくのへやへいこう」
 「そうね」


 二人は立ち上がろうとした。しかしずっと正座していた二人は足がしびれてつんのめってしまった。


 「「あっ」」


 ふたりは縺れて転がった。シンイチはリツコを庇って、仰向けなって下敷きになった。リツコは眼鏡がふっとんでいた。そしてシンイチの上に倒れた。勢いがついていたリツコはシンイチの顔に自分の顔をぶつけた。その時二人の唇は触れ合った。


 シンイチ、リツコ、6才のファーストキスだった。


 呆然としていた二人だったが、いきなりリツコの顔が真っ赤になると飛び起きた。シンイチはまだ呆然としていた。シンジも起き上がって言った。


 「りっちゃんだいじょぶ。かおうったの?なんだかあかいよ」


 奥手なシンイチはキスを知らなかった。


 リツコは眼鏡を拾い、シンイチをじと目で睨みながらまた近寄って来た。眼鏡を掛けながらこう言った。


 「責任とってね」
 「へ?せきにんって」
 「男の子が女の子にキスしたら結婚してくれなきゃいけないの」
 「きすってなあに?」
 「唇と唇をくっつける事」
 「そ、そうなの」
 「そうよ。だからシンちゃん私のことお嫁さんにしなくちゃいけないの」


 リツコが背中に気迫のオーラとランドセルを背負ってシンイチに言った。


 「そ、そう。わかった。ぼくおおきくなったらりっちゃんをおよめさんにもらうよ」
 「じゃこれで私達婚約者ね」
 「こんやくしゃってなに」
 「将来結婚を約束している二人の事よ。そうなったら男の子は女の子に指輪とかをプレゼントしなくちゃいけないの」
 「ふぅ〜〜〜〜ん」
 「何かちょうだい」
 「わかった。ぼくのへやへいこう」


 二人は部屋を出て階段を登ると、6畳間の障子を開けた。そこには勉強机と箪笥と本棚があった。本棚には百科事典と子供むけ名作全集、教科書などが入っていた。


 「りっちゃんちょっとまっててね」


 シンイチは座布団を出しリツコを座らした。
 シンイチは机の引き出しをごそごそと探ると、太めの真鍮の針金とペンチとヤスリ、造花の小さなバラを取り出した。
 ちゃぶ台を開いてリツコの前に置くと自分は反対側に座る。取り出したものをちゃぶ台の上においた。
 リツコは黙って見ていた。


 「りっちゃん、ひだりてだして」
 「ハイ」


 リツコは左手を差し出す。シンイチはリツコの手首の周りの長さを計り、それに合わせて真鍮の針金を切った。切り口を丸くやすりで削った後、片方の端にバラを括りつけた。両端を奇麗に丸めると、全体をリツコの左手首に合わせて、曲げた。
 そしてリツコの左手首にその腕輪をはめた。


 「りっちゃん、ゆびわじゃないけど、うでわのぷれぜんと」


 リツコはじっとその腕輪を見ていたが、やがて目をウルウルさせながら言った。


 「シンちゃんありがとう。私いいお嫁さんになるわ」
 「うんぼくもりっぱなおむこさんになる」










 二人はその後、本を読んだりアルバムを見たりして遊んだ。二人とも理科が大好きだったので絵が一杯入った大百科事典を読んで盛り上がった。アルバムを二人で見ているとシンイチが大人の男の人映っている写真がいっぱいあった。


 「この人ってシンちゃんのお父さん?」
 「うんそうだよ。コウイチっていうんだ」
 「お仕事はなあに」
 「でんきがいしゃのけんきゅうじょにつとめているんだ」
 「じゃ中のお母さんと同じね。私のお母さんも研究所に勤めているの。赤木ナオコッて言うの」
 「ふぅ〜〜ん」


 ページを捲っていくと赤ん坊を抱いている若い女性の姿があった。その女性はシンイチの父と一緒に映っている写真がいっぱいあった。


 「この女の人シンちゃんのお母さんね」
 「うん、アカネっていうんだ。でもぼくみたこともあったこともないしこえもきいたことないんだ」
 「そうなの」
 「そうなんだ」
 「シンちゃん。この写真貸して」
 「へ?なににつかうの」
 「それは秘密。だけどあとでシンちゃんにとってもいい事が起こるから」
 「ふぅ〜〜ん。じゃかしてあげる。きれいにしてかえしてね」
 「うん」


 リツコはランドセルからノートを取り出すと、アルバムから数枚のアカネが映った写真を外し、丁寧に一枚一枚ノートに挟んだ。そのノートをランドセルに戻した。










 その後も二人は仲良く遊んだ。もう外は暗くなりはじめた。


 ぴんぽん


 ドアのチャイムが鳴った。


 「はぁ〜〜い」


 シンイチとリツコは一階まで降りて行った。戸の鍵を開ける前に覗き窓から外を見た。そこにはリツコによく似た、栗毛の女性が立っていた。濃い化粧に、時代遅れのボディコン、その上に白衣を着ていた。かなり怪しいカッコであった。


 「あ、お母さんだ」


 シンイチは鍵を開け戸を開いた。


 「今晩はシンイチくん」
 「こんばんはナオコおばさん


 ぴく、ナオコの眉がひきつった。


 「うちのリツコがおじゃましていると伝言があったのでうかがったんだけど……」
 「お母さん」


 シンイチの影からリツコが出て来て、ナオコの膝にしがみついた。


 「シンイチくん、リツコと遊んでくれてありがとう。あれリツコ手にいい物付けてるわね」
 「シンちゃんがプレゼントしてくれたの」
 「あらそうなの、シンイチくんありがとう。ところでなんのプレゼント?」
 「そ、それは秘密よ」


 顔を真っ赤にしてリツコが言う。


 「そう判ったわ秘密にしといてあげる。ところでお家の人は?ご挨拶したいんだけど」
 「まだかえってきてません。ぼくひとりなんです」
 「そうなの。それじゃ今度またご挨拶に来るので家族の方によろしくね」
 「はいわかりました」
 「それじゃシンイチくん、さようなら」
 「シンちゃんさようなら」
 「ナオコおばさんさようなら」


 ぴく


 帰りかけたナオコが戻って来てシンイチの耳元に呟いた。リツコは離れた所で呆然としている。


 「シンちゃん、私はナオコ・お・ね・え・さ・ん。今度言ったらリツコにシンちゃんがまだ寝小便をしているのをばらすわよ」
 「な、なんでそれをしっているの」
 「ふっふっふっ、ナオコ御姉様に不可能は無いのよ」
 「わ、わかりましたナオコおねえさん


 シンイチは生命の危機を感じていた。


 「じゃシンイチくんお休みなさい」
 「おやすみなさい。ナオコおねえさん


 リツコはシンイチに手を振り振り帰って行った。
 シンイチは見えなくなるまで二人を見送った。






つづく





ver.-1.00 1997-07/28公開
ご意見・感想・誤字情報・りっちゃん情報などは akagi-labo@NERV.TOまでお送り下さい!

まっこう:「今日は6才にして婚約した、りっちゃんとシンちゃんをお呼びしました」
リツコ :「こんにちは」
シンイチ:「こんにちは」
まっこう:「まず婚約について感想を一言」
リツコ :「ポッ はずかしい きっといいお嫁さんになります」
シンイチ:「が、がんばってりっぱなおむこさんになります」
まっこう:「早くもラブラブですね。ところでファーストキスの味はどうでした」
リツコ :「ポッポッ 恥ずかしい。給食のカレーシチューの味がしました」
シンイチ:「ええっと、ぼくもそうです」






まっこう:「シンイチくんちょっと」こそこそ
シンイチ:「なんですか」
まっこう:「早まらない方がいいよ。世の中にはもっとまともで美人の子がいっぱいいるから」
シンイチ:「…………」
まっこう:「どうしたのシンイチくん」
シンイチ:「はやくにげたほうがいいですよ」



リツコ :「プチ、パチやっつけて」



ふにゃ〜〜〜〜〜〜〜〜
みにゃ〜〜〜〜〜〜〜〜

まっこう:「ぎゃ〜〜〜〜」




リツコ :「シンちゃん遊びにいこ」
シンイチ:「うんそうだね」





 次回は


 「あの子と母さん」








 合言葉は「らぶりぃりっちゃん」










 まっこうさんの『気になるあの子』第弐話、公開です。
 

 ラブラブしているリツコちゃんが(^^)

 「眼鏡の奥で鈍く光る相貌」という不気味なイメージが圧倒的だった彼女ですが、
 まっこうさんのおかげで可愛い面を広く世間に認知されつつあります。
 

 男に誘われたときは、少し迷ってから。
 二人きりになるときは、一言くぎを差す。
 で、キスをしたら即結婚・・・

 ませた面と、うぶな面。

 うーん、ラブリィ〜〜♪
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 アスカ・綾波に続き、リツコ派閥を作るまっこうさんに応援のメールを!
 

 「戸を開ける道具は今日持っていないわ」・・・普段は持っているのか(^^;


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