TOP 】 / 【 めぞん 】 / [ぎゃぶりえるパワード]の部屋に戻る / NEXT


竜 騎 兵

Mission 4

Crusaders Can Be Murders


 

少年は、目を閉じていた。

眠っているわけではない、ましてや死んでいるわけでもない。

ただ――目を閉じていた。

うっすらと目を開ける。

見えるのはコクピット。見慣れたコクピット。

動力反応探知用のレーダー。肉眼による確認のためのモニター。無数の計器類。レバー。ボタン――そんなものが、目を開いた瞬間に見えてくる。モニター越しにこちらを見つめる巨人も。

たちこめるのは、火薬と油のにおい――

(そして……死のにおい……)

軽く、自嘲めいた笑いをあげる。これは加持さんの受け売りだったな……

「シンジ君! 用意はいい?」

通信機を通して雑音と共に聞こえてくるその問いを、彼は頭の中で3回反復してから返事をした。

「……はい、大丈夫です。ミサトさん」

「手加減しないわよ!」

一瞬ミサトの声が聞こえた気もするが、どちらにせよそれは突然割り込んできた少女の声に遮られたようだった。

「お手柔らかに」

なんとなく苦笑などしつつ、その声に答える。手元のレバーを引いて、右アームに装備されているはずのマシンガン――装填されているのは、もちろん模擬戦用のものだ――の手応えを確かめてから、彼は愛機――『蒼穹』を稼働させた。

見ると、向かい合っているアスカのドラグーンも、稼働を始めたようだった。

(『ブラッディエース』――血塗れの撃墜王、か……ぴったりだよな。確かに)

彼女の駆るドラグーン――『ブラッディエース』には、異様な塗装が施されていた。機体自体は白らしい。だが、その白には、まばらに――そう、まるで返り血のように――赤い塗装がなされていたのだ。肩の部分から流れるような赤の文様は、一種狂気めいたものすらはらんだ美しさを持っていた。

そんなことを独りごちている間に、彼女の準備は終わったようだった。もちろん、彼も用意はできている。

「それじゃあ……レディー!」

がっ! と音を立てて、二機の巨人が戦闘態勢に入る。

「GO!」

ぶぉんっ!

ミサトのかけ声と同時、突風が吹き抜けるような音と共に『蒼穹』と『ブラッディエース』がそれぞれホバーを使ってダッシュをかける。

先制攻撃はシンジだった。

横に薙ぐようにマシンガンを乱射する。だが、それらはどれもかすりすらしなかった。模擬戦場内の障害物をうまく利用してかわしたのだ。

(やるな……)

ぎゅいんっ!

「!!」

予想外の素早さで、『ブラッディエース』が接近してくる。

普通のものに比べ、やや手足が長く、より人間に近いフォルムをしているそれは、自らの身長よりもあるであろうロッドを振りかざしながら突撃してきた。

「くらいなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」

ぶいんっ! と空を切るその金属製のロッドは、『蒼穹』の鼻先――ドラグーンに鼻などありはしないが――をかすめていった。シンジが素早くバックダッシュをかけていたので、なんとかかわせたのだ。

だが、通り過ぎた先端は、再び戻ってくる。

先ほどの軌道をそのままなぞるように振り返されたそのロッドは、鈍い衝撃と共に『蒼穹』の右アームを打ち砕いた!

「――――!?」

次の瞬間――あるいは同時か――アスカの『ブラッディエース』が、轟音と共に吹き飛ぶ。見ると、これも右アームが粉々に吹き飛んでいる。

「くっ……!」

彼女は、憎悪すらこもった目で目の前の青いドラグーンを睨んだ。それは、左アームに装備されていたライフルから硝煙を立ち上らせたまま、次の動作に移っていた。

(チャンスだ……!)

シンジは、密かに勝利を確信していた。

『ブラッディエース』の装備している武器は、リーサル・ロッドと呼ばれる格闘戦用武器である。このロッドには二種類があり、片手で扱うタイプの短いものと、両手用の長いものである。どちらも、先端に付着した金属粒子を振動させることによって、普通にぶつけたときの数十倍の威力を発揮させることができるのだが、『ブラッディエース』の装備しているのは、両手用のタイプのものだった。両先端に金属粒子コーティングの施されているそれは、威力的には短いタイプよりも高い攻撃力を誇るが、片手で扱うにはかなり無理のあるものだった。

(一気に勝負を決める――!)

彼はライフルを構え――

「――――!?」

ライフルの銃口からウラン弾が飛び出すより早く――視界がホワイトアウトする。数瞬遅れて――実際には同時だったのだろうが――全身を揺るがすような衝撃を感じた。

だが、それは一瞬にも満たないわずかな時間であったらしく、すぐに回復したモニターには、半分の長さになったロッドを構える『ブラッディエース』の姿が映っていた。

「ロッドを飛ばした……!?」

二人の戦闘を見守っていたミサトが、かすかな悲鳴を上げる。シンジには理解できていないだろうが、『蒼穹』がライフルを構えた瞬間、アスカはロッドを突き出し――その半分がいきなり吹き飛んだのだ。吹き飛んだ先端は『蒼穹』の左ショルダーに突き刺さっていた。あの状態ではアームも使えないだろう。

「くそぉぉぉぉっ!!」

ライフルを投げ捨て、そのまま突進をかける。

「体当たりする気!?」

止まる気配を見せないシンジは、ミサトの言葉を肯定していた。

(武器がなくなったら……手段は一つしかないじゃないか!)

アスカは、やや広めのモニターからその姿を認め――肉食獣すら連想される笑みを浮かべる。

「面白い……そうでなくっちゃ!」

片手でも十分扱える程度に短くなったロッドを最上段に構え、『蒼穹』を待ち受ける。

そして、そんなものは目にも入らないかのように『蒼穹』はそのまま突撃し――転んだ。

「え!?」

その事実をそこにいたシンジ以外の全員が把握するよりも早く――前のめりに転倒した『蒼穹』の頭部が、『ブラッディエース』の下腹部に炸裂する!

「なっ……!」

バランスを崩して倒れながら、思わず声をあげる。二体の巨人は、そのまま勢いで模擬戦場の壁にぶち当たり――活動を停止した。

…………

「………………一応……引き分けってことになるのかな……?」

「…………あんた……絶対いつか殺すわ…………」

模擬戦場の隅っこで無様な格好で絡まったドラグーンの中、静かな声に怒気を漂わせて言ってくる彼女に――たぶん本気なのだろうな、と心のどこかで察しながら――とりあえず彼は、冷や汗をかきながら明後日の方向へと視線を向けた……

 

 

 

 

だんっ!

びくっ! と、背後で聞こえた物騒な音に首をすくめる。

おそるおそる振り返ると、そこには予想通り――というかなんというか――、怒りに表情を沸騰させて、床を踏みつけた体勢のまま、こちらを睨み付けているアスカがいた。

「絶っっっっっっっっ対に認めないわ!」

びしと指を突きつけ、彼女。

「なんなのよあれは! 絶対にあんなの認めないんだから!」

つかつかと迫ってくるアスカに少なからずビビりながら、とりあえず彼は反論してみることにした。

「……そ、そんなこといったって、あのまま突っ込んでたら負けてたじゃないか……」

「なによ! あんなのどーせけつまづいて転んだだけでしょ! 大体、雅ってもんがたりないわ! 全然美しくない! あんな悪あがきするぐらいだったら素直に負けなさいよ! ちょっと、聞いてんの!?」

「え、いや……その……」

「そもそも両アーム失ってから突進かけてくるなんて非常識もいいとこよ! あんた戦場出たら5秒で死ぬわよ! わかってる!? 5秒よ! 5秒ってったらカップラーメンも作れないのよ!」

「ロッドを飛ばすのもけっこう非常識だと思うけど……」

どうでもいい反論を返しながら――正直、彼は閉口していた。こんなに騒がしい女の子は初めてだ……

「まあまあ、アスカも落ち着いて……いいじゃないの、引き分けだったんだし。それに、シンジ君の実力は分かったでしょ?」

ミサトの言葉は嘘ではなかった。両アームを失い、逆上していると見せかけて相手の裏をかくシンジの判断力。彼女のドラグーンから片腕を奪う戦闘技術。どれをとっても1流のものだった。事実、ドイツ軍で彼女の『ブラッディエース』に傷を付けられる者はほとんどいなかったのだ。ただ、それが分かっているから余計に口惜しい。

「くぅ〜〜〜〜〜〜〜! シンジ! もっかいやるわよ!」

「その暇はないようよ」

彼らから少し離れた場所で、レイが静かに呟いた。その視線は、各部屋に備え付けられているレーダースクリーンに向いている。

――と、

《非常警報発令! 非常警報発令! 区画B−27より、未確認ドラグーン数機侵入! 総員第2種戦闘配置! 繰り返す……》

「なっ……!」

「『使徒』か!?」

「『使徒』?」

「今、日本でもっとも力を持っているテロリスト集団よ。第二新東京市も彼らに占拠されているわ」

シンジの発言をそのまま聞き返すアスカに、レイが冷静に答えた。

「レイ! すぐにドラグーンに乗り込んで出撃して! シンジ君とアスカは、アームを取り替えてから出撃! 『スサノオ』だけじゃ分が悪いわ!」

『スサノオ』とは、戦略自衛隊第6ドラグーン部隊のコードネームである。第二新東京奪回作戦の準備などで、本部に残っていたのは『エヴァンゲリオン』と『スサノオ』だけだったのだ。

「了解。至急『ルナムーン』により出撃します」

そう答えると、彼女はドラグーン倉庫へと向かった――と同時、加持がその反対側のドアから入ってくる。

「葛城! 何事だ!?」

「テロリスト部隊と思われるドラグーンが数機区画B−27に侵入したわ! 早く出て!」

「お、おう!」

と、彼もレイの後を追うように出ていった。

「ちょっとミサト! あたしの『ブラッディエース』の修理はまだおわんないの!?」

と、これはアスカ。叫ぶ彼女の声には、焦りがにじみ出ていた。

「待って……あと10分。あと10分で出れるわ!」

「10分も……! 生き地獄ね……」

彼女たちのやりとりもシンジはさほど聞いていなかった――彼が考えていたのは、ただ一つ。

(レイ……)

拳に食い込む爪の痛みは感じなかった。

 

 

道路が何の前触れもなしに開き――そこから2機のドラグーンがせり上がってきた。テロリストの襲撃を想定して作られたこの都市には、このような軍事設備がいたるところに張り巡らされている。

出てきたのは白と黒のドラグーン――言わずとしれた、加持とレイの機体である。彼らの目の前では、『スサノオ』のドラグーンが紫に統一されたドラグーンと戦闘を繰り広げている。見る限り、戦闘は互角のようだった。

その様子をしばし観察して、加持が冷静に呟く。

「……行動に統率が見られない。『使徒』ではないな」

「恐らく、少数テロリスト部隊が『使徒』の第二新東京占拠に乗じて、こちらに奇襲をかけてきたものと思われます。それと……」

それから数拍置いて、無線からは彼女のためらいがちな声が流れてきた。

「……戦い方が不自然です――陽動の可能性があると思うのですが……」

「的確な判断だ。やつらの本体部隊がねらってくるとしたら――」

「まず国会議事堂の占拠……そのためには……」

「区画C−16及び17から侵入してくる可能性が最も高い。ひとまず、俺がそちらへ向かってみる。君は『スサノオ』の援護を頼む」

「了解」

いい答えだ――加持はそっとほくそ笑んだ。この少女の的確な判断能力には、助けられることも多い。なにより、作戦を共にたてられる味方がいるということは心強いものだ。

レイは両ショルダーに装備されたキャノン砲の標準を定め――味方ドラグーンの隙間を縫うようにして、敵機を撃破した。

それを見届けて、加持は区画C−16へと『イーストステア』の足を向けた。

 

 

「陽動作戦?」

聞き返してくる彼に、うなずきで答える。

「そ。見てみて。奴らの戦い方。まず、いくら奇襲とはいえこちらの軍勢に対して数が少なすぎるわ。これが一つ。それから、普通相手より低い戦闘力で戦う場合、捨て身で戦うか、あるいは障害物を利用してゲリラ戦法に徹するのどちらかよ。でも、こいつらはそのどちらもとっていない。それに、あまり敵を倒そうという積極的な意志も感じられないわ――そう、まるで時間を稼いでいるような……」

「――と、いうことは本体が別にいるって事?」

「そうなるわね。なかなか飲み込みがいいじゃない」

同年代の少女に誉められて、喜んでいいものかどうか彼が迷っているうちに、彼女は結論を出した。

「本体が現れるとしたら――このあたりね」

第3新東京市の地図――その東南部を指さす。

「C−17か……なるほど、まずは議事堂を制圧する気だな」

「その通り……あんたたちの隊長、なかなかやるわね。ちゃんとこっちへ向かってる」

レーダースクリーンを見ながらほくそ笑む彼女。気分が高揚してくるのが分かる。模擬戦とは違う、生死を賭けた戦闘。

(――そして、あたしが生きる意味……)

ぺろりと、唇の端に舌を這わせる。まるでそこに真っ赤な血がしたたっているかのように。

「C−15に出してもらうわよ。『ブラッディエース』の力、今度こそ見せてあげるわ」

 

 

「区画C−16に動力反応! 機種、所属、数、いずれも不明!」

第3新東京戦略自衛隊本部に、悲鳴にも似たオペレータの叫びがあがる。

「陽動か!?」

臨時司令官である時田一佐は、それにおおむね同じような響きの叫びで答えた。戦略自衛隊の総司令もつとめる冬月防衛庁長官は、第2新東京奪回作戦の準備のため、ここにはいない。それ故臨時として彼が置かれているのだが――実は、彼には実戦経験はなかった。エリートコースを突き進んで戦自に入隊した彼だが、教科書の上の戦術しか知らなかったのだ。

だが、少なくとも彼は教科書の戦術だけで実戦に対応できると思うほど愚かではなかった。現在この都市にいる『スサノオ』と『エヴァンゲリオン』、両隊の隊長に委任命令を出す。

「……頼んだぞ。私の責任で、首都を奴らに奪われるわけにはいかんのだ」

 

 

「ドンピシャだな……」

紫色のドラグーンが国道に並んでいる。その数20というところか。まだこちらの存在には気づいていないようだ。

(すっかり作戦が成功した気になってるな……まあ、いい。俺一人でどこまで減らせるか……)

右アームの散弾銃を確かめた時、彼の愛機は通信を傍受した。

「こちら『スサノオ』。今本部より委任命令が出た。我々は全力を持って囮部隊の制圧にかかる。3分の1をそちらに回そう」

「了解。協力感謝する」

急に、通信の向こうの声からは事務的な響きが消えた。

「加持……死ぬなよ」

「ああ、分かってるさ柳。それじゃあ、健闘を祈る!」

そう叫んで通信を切ると同時、彼は路地から飛び出した。次の瞬間には散弾銃を乱射する。銃口を敵に向けたまま、国道を横切るように反対側の路地に隠れる。

「……な、何だ!?」

「せ、戦自です! 作戦が読まれていたようです!」

「落ち着け! 敵の数は!?」

「…………」

「どうした?」

「い、いえ……1機です……」

「1機だと!? 本当だろうな!」

「ほ、本当です! 動力反応は1機分だけです!」

「くぅ……よし、まずは全力を持ってその目障りなネズミをつぶせ!」

「……あんまり頭は働かないようだな……」

テロリストたちの通信を聴きながら、ぽつんと呟く。罠かと勘ぐって警戒してくれることを期待していたのだが……

「まあ、いいさ。どれ、『スサノオ』がくる前に一暴れするかな」

狭い路地の中を、慣れた動きで移動する。レーダーだけでは、細かい位置を伺い知ることは難しいのだ。

まずはテロリストたちの、やや右前方に位置する路地で散弾銃を構える。

(3……2……1)

だだだっ!

カウントダウンと同時、先頭のドラグーンが爆音と共に崩れ落ちる。

もともとドラグーンの装甲がそれらの武器の威力に比べて強度が少ないため、ドラグーン同士の戦いはすぐに決着が付くことが多いのだが、加持は最も効率よく敵を撃破できるポイントに弾を撃ち込んで、敵を文字通り一撃で撃破する術を心得ていた。

「どこだ!? ネズミはいったいどこにいる!?」

(あまり精度の良いレーダーは使っていないようだな……)

彼らの会話は全て筒抜けである。加持は再び路地の奥に引っ込み、再度攻撃のチャンスをねらって豹のように気配をひそませた。

 

 

「て、敵に増援です!」

そんな通信を聴いたのは――ゲリラ戦法でちょうど4体目を撃破したときだった。

それが敵の通信なのか味方からの通信なのかという問いに対しては、すぐに答えが出た。

「青と赤のドラグーンです!」

「2機だけか!?」

「は、はい!」

「畜生! 奴ら俺たちをなめてるのか!?」

(シンジ君に……今日着いたっていう補充パイロットのことか? たしか惣流・アスカ・ラングレーとかいったっけか?)

ダニエルにきいた名前を思い出す。どちらにせよ、増援が来たのなら彼らと合流した方がいいだろう。動力反応を頼りにシンジたちの元へと向かう。

「加持さん! 大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな」

「初めまして! 私はこの度ドイツより派遣された惣流・アスカ・ラングレーです。あなたが隊長の加持さんですね?」

「ああ、君がリっちゃんと一緒に来たっていう子か。分かった。シンジ君!」

「は、はい!」

突然名前を呼ばれたためか、やや口ごもりながら答えるシンジ。

「もうすぐレイと『スサノオ』の隊員が着くはずだ。それまで時間を…………と、その必要はないようだな」

途中で話の内容を変えた加持の視線の先にあったのは、ホバーを使ってこちらへと駆け寄ってくるレイと、その後ろに続く『スサノオ』隊員たちだった。

「隊長!」

「よし、『スサノオ』からは7機か……全機前進! レイと『スサノオ』はバックアップを頼む!」

「了解」

一斉に聞こえてくるその声に、彼は満足した。

「俺の合図で一斉に飛び出るんだ……今だ!」

だっ!

総勢11機のドラグーンが突然現れた様子は、加持に用心しながら微速前進していたテロリストたちを混乱させるには充分だった。

その隙を見逃さず、加持とシンジのドラグーンが平行に走り、加持はロッドで、シンジはマシンガンでそれぞれ撃破する。

そのすぐ後からは『ブラッディエース』がホバーを使わずにそのまま疾走し――

「跳んだぁ!?」

シンジの悲鳴通り、それは信じられない高度まで跳び上がり――空中から一気にロッドを振り下ろした。一瞬にして両断されるテロリスト機。

「なんつー非常識な……」

「これ、リツコの設計なんです」

うめく加持に、さらっと答えるアスカ。どうやら加持はその返答で納得したようだった。

「ドラグーンで跳ぶなんて……」

ぼやきながらも、次の標的を探す。やがてビルのそばに立っていたドラグーンに目標を定める。

「うおおおおおおっ!」

マシンガンを構えて突撃する――どうやら、相手も気づいたようだった。こちらにライフルの銃口を向けてくる。

「ガキが……死にやがれっ!」

罵声と共にそのテロリストはトリガーを引こうとした。だが――

がぅんっ!

「!?」

予期せぬ衝撃にライフルを取り落とす。見ると、モニターには、こちらに向かってくる青いドラグーンの肩越しに、ショルダーのキャノン砲から硝煙を立ち上らせている白塗りのドラグーンが見えた――そして、それが彼の見た最後の風景だった。

爆音と衝撃が彼の意識を奪う――

(ごめんよ……)

シンジは炎をあげながらビルにもたれかかるように倒れるそのドラグーンと――その中で生きていたであろう男に胸中でそっと謝った。それが戦場なのだと分かってはいても、人を殺すことについてまわる息の詰まるような罪悪感からは逃れることができない。

それを忘れてしまったら、自分が自分ではなくなってしまうような気がする。だからそれもいいだろう。懺悔は全てが終わり、平和が訪れてからでもできるのだ。

一方、アスカは既に3体のドラグーンをそのトリッキーな動きによって撃破していた。10メートル近い鉄の塊が空中をひょいひょい跳び回って戦うような戦法にすぐ対応できる人材はなかなかいない。

『スサノオ』のメンバーもなかなかの功績を見せ、もはやテロリストは残り3機にまで追いつめられていた。

「畜生……この借りは返す! 絶対になぁ!」

どうやら首領格であるらしい男の声が聞こえ――次の瞬間、その男のものと思われるドラグーンのミサイルランチャーが火を吹いた!

「――――!?」

そのミサイル弾は、直線に近い弾道を描き――白塗りのマンションに炸裂する。

その光景を見て、アスカが悲鳴を上げた。

「――このぉぉぉぉっ!」

既にこちらに背中を向けて退去しようとしていた男を、シンジが追いかける。

「ひぇっ……!」

背中からコクピットを一撃ちされたそのドラグーンは、やや前傾姿勢のまま動きを止めた。残りのテロリストたちも、『スサノオ』隊員たちに討ち取られたようだった。

「……安心しろ。マンションの住人は全員避難していたそうだ」

本部に確認をとった加持が言った。

「…………そう……」

それだけ答えると、アスカは気が抜けたようにシートの背もたれに身を沈めた。シンジとレイも安堵の息をつく。戦闘に参加しない一般の人間たちを戦闘に巻き込むのは、やはり気持ちのいいものではない。

「こちらの損害は建造物数個とドラグーン2体。民間人、戦自隊員共に死傷者0……悪くないな」

全員が同じ思いだった。ここまで無傷で終われる戦闘も珍しい。

「さて、と。それじゃあ、帰って祝勝会でも開くか!」

わざと明るい声で言った加持に、全員で答えた。

「了解!」

 

 

 

 

鼻歌に合わせるかのように、フライパンの上に乗っていたハンバーグをひっくり返す。小気味の良い音をあげて肉汁をながすそれは、いかにも彼の食欲をそそった。

ちらと隣のリビングに視線を向けると、レイが黙々と洗濯物をたたんでいる。ちょうど彼女が自分の下着をたたんでいるのを見て、シンジは思わず顔を赤くする。戦闘が終わり、またつかの間の――だからこそ貴重な日常が戻ってきたのだ。

(明日からは学校にも行かないとな……このごろ遠征やら何やらあってしばらく行ってないし……)

そんなことを考えながら、少し体を反らしてレイに声をかけた。

「綾波ー! もうそろそろご飯にしようかー?」

彼女は、こくんとうなずいてみせた。彼はそれを確認すると水色に縁取られた陶器製の皿に手際よくハンバーグと野菜を盛りつけはじめる。

と、その時。玄関のチャイムがなる。

「……誰かしら?」

立ち上がりかけた彼女を制し、シンジは自分が玄関へと向かった。

そこには、意外な顔があった。

「――アスカ?」

ドアの外にやけに大きな荷物と共に立っていた彼女は、にっこり笑顔で告げた――

「あたし、今日からここに住むことになったから」

…………

「…………へ?」

我ながら間抜けな声だとは思ったが――とりあえずそんなことよりは今聞いた事実の方が重要だった。

「ここに?」

自分の足下の辺りを指さしながら言う彼に、アスカはやけに偉そうな態度でうなずいて見せた。

「ほら、今日の戦闘でマンション壊されちゃったでしょ? なんかあそこがあたしの住む予定のマンションだったみたいなのよね。とりあえず行く所もないし、少なくともここなら安全でしょ?」

「安全って……」

「同居人があんたなら襲われる心配もなさそうだし、レイもいるんでしょう? あ、それとも二人のラブラブな同棲生活を邪魔しちゃ悪いかなぁ?」

「なっ、なに言ってんだよ! そんなわけないだろ!」

「それじゃああたしがここに住んでも何の問題もないわけよね。あ、生活費ならちゃんと払うから大丈夫よ」

「なっ……!」

シンジが次の反論を思いつく前に、さっさとその脇をすり抜けてリビングへと向かう。

「――と、いうわけだから、よろしくね。レイ」

閉まったままのドアに、わざとらしい声で話しかける。

そのドアを隔てた向こうでは、ドアに耳をぴったりくっつけていたレイが顔を赤くしていた。顔の赤さを取るように両手で頬をもんでみるが、そんなことで顔色が変われば世話はない。

結局、彼女はそのままドアを開けた。

「これからよろしく!」

にっこり笑顔で笑いかけてくる彼女に――

「……問題ないわ……」

亡き養父の口癖を、精一杯険悪な声で言ってやることが彼女に出来た唯一の抵抗ではあった。

 

 


つづく
ver.-1.00 1997-12/21 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などはgyaburiel@anet.ne.jpまで。


どうも、いつのまにかハイド氏扱いになってしまったぎゃぶりえるパワードです。
竜騎兵第4話、いかがだったでしょうか? 今回はほとんどが戦闘描写だったので、書いていて自分が疲れてしまいました。
もうしばらく戦闘シーンは書きたくありませんね(苦笑)
そんなことを言うほどいいものができたかどうか自信はありませんが、これからもこっちの話はハード&シリアス路線で行く予定です。
それでは、そろそろぎゃぶりえるが目覚める頃なのでこの辺で。


 ぎゃぶりえるパワードさんの『竜 騎 兵』Mission 4、公開です。
 

 

 模擬戦と実戦、
 二つの戦闘がシリアスに。

 プライドを賭けた戦いと命を懸けた
 二つの戦いがハードに。
 

 ”ハード&シリアスのぎゃぶりえるパワード”

 全開ですね(^^)
 

 

 ”LRSのぎゃぶりえるパワ−ド”

 こちらは今回、少しだけでしたが、
 LRSはやめたのかな?

    そうだったら嬉しいな(笑)
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 パワードさんの方に感想メールを送りましょう!


TOP 】 / 【 めぞん 】 / [ぎゃぶりえるパワード]の部屋