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レイがシンジの家に転がり込んできて初めての朝を迎えた。
低血圧なレイはいつも以上に目覚めが遅かった。
それはシンジやアスカが一緒だったという安心感があったからなのは言うまでもない。

「はぁぁぁ。昨日はぐっすり眠れたわぁ。
 ん?アスカはどこにいったんだろう?」

半分寝ぼけ眼のレイはパジャマのまま、部屋のドアを開けてリビングを覗いてみた。
妙にいい匂いがレイの目覚めをはっきりさせるものになった。

「あらレイ、起きたの?」
「うん。アスカ朝食作っているの?」
「そうよ。今日は目玉焼きとお味噌汁とあとはご飯かな」
「ちゃんと主婦しているじゃない、アスカ。愛する人がいるのっていいわねぇ」
「そうでもないわよ。食事は当番で作っているから」
「そうだったわね。ふーん、アスカが料理するところなんて想像できなかったなぁ」
「何よその言い方ぁ?」
「だってワタシが転校してきた頃ってアスカは碇君をいじめていたじゃない。
 そんなアスカが碇君のために料理をするなんて、恋する乙女は違うのねぇ」
「そんな頃もあったわねぇ」
「あらぁずいぶんと過去の話にするのねぇ」
「いいじゃない。それよりも昨日の話って本当なの?」
「うん、つけられているのは確かだし、下着がないのも本当。
 恐かったんだ、1人ってこんなにつらいものなのかなぁって」

レイはアスカのことを挑発することはいつもとは変わらないけど
アスカも朝からけんか腰にならなくてもいいと思い、流している。

レイの昨日の言葉を聞いたら自分が1人になったらどうなんだろうというのが
朝、キッチンに立って料理を作りながら考えていたことだった。
ドイツにいって、ミキっていう友人は出来たけど、やっぱり...だった。

なんとなくレイの気持ちが分かるような気がしてならなかった。


レイは妙に嬉しそうに料理を作っているアスカを見ていたら
自分も明日から料理を作ると言い出した。
何か悔しい気持ちがどこからか湧き出してきたのだ。
一応、泊めてもらっているし、迷惑をかけているからというのを理由にしていたが。

アスカもシンジに作る機会が減るのがイヤだったので渋ったが
「どうせ碇君がほどんど作っているんでしょ」というレイの
しかも適切な指摘によって引くしかなくなった。

レイの性格が本領発揮といったところだった。



アスカが楽しそうに料理を鼻歌を歌いながら作っている姿を
レイはテーブルの椅子に腰掛けて見つめていた。

いつもとは違うアスカが羨ましく思えた。
シンジの前ではみせないような笑顔を見せながら料理を作っている。
レイはこんなに思われているシンジって幸せなんだなぁと思っていた。
ただアスカが素直だったらシンジも気分的に楽なんだろうけどもとも。

「ねぇ碇君は起こしてこないのぉ?」
「そのうち起きてくるわよ」
「そぉかしらぁ、碇君って朝弱いのよねぇ。なかなか起きてくれなくて。
 いつもいつもおばさんが起こしいってきたし、ワタシも待たされたしねぇ」
「いいわよ、ほっておけば」
「そう、じゃぁワタシが起こしてこようかなぁ」

レイはアスカをけしかけるように言ってみた。
案の定という感じでアスカが真っ赤な顔をしながら部屋に入っていった。
レイは「素直になればいいものを、全く」と聞こえないように口にしていた。

「はぁぁ、綾波、おはよう」
「おはよう、碇君。奥さんからお目覚めのキッスでもしてもらった?」
「キ、キスぅ?そんなことしないよぅ」
「やっぱりからかいがいはあるわね、この2人は」
「アンタねぇ....」
「ヒカリや鈴原君のカップルはそういうこと出来ないからさぁ。
 それよりもお腹空いちゃった。早くご飯にしましょうね」

レイがその場を仕切る感じで妙な3人での朝食だった。
それは端から見たら“羨ましい”と思われる生活のスタートだった。



「そういえばレイ、変な人間につけられているってどういうことなのよ」
「最近、バイトから帰ってくるときに限ってつけられている感じがしてね。
 それが1度や2度だったら、同じ方向に帰る人なんだなぁと思えるけど」
「どのくらいなの?」
「んー、1カ月ぐらいかなぁ」
「アンタ、よくそんな状態なのに平気でいられたわねぇ」
「最初のうちはそうでもなかったけど、下着が気が付いたらないとかで。
 この間、違う道で帰ったら」
「同じようについてきた。ってことね」
「正解。恐くなっちゃって近くの公園でしばらく時間をやり過ごしていたら」
「ヒカリと鈴原に遭ったというわけか」

朝食も済ませ、コーヒーでも飲みながら、今までの経緯を話をしながら
一体誰がストーカーなのか考えていた。

大学でDJをやるようになってからは、いろいろなところに2人の話が飛び火し
自分の知らないところで話が進んでいて、本人があとから話を聞くということも
1度や2度じゃなく何度もあった。

電話番号やメールアドレスも何だが知らないうちに周知の事実になっていて
いたずら電話や悪質なメールも届くようになっていた。

これはシンジが異常に多く、女の子の「つきあってくれません?」という内容から
嫉妬に狂った男女問わずのメールまで来るようになっていた。

最近は落ちついてきたのでどうにかメールもまともに読めるようになっていたが、
それまではメール恐怖症に3人はかかっていた。

アスカが1つの結論を出したかのように口を開いた。

「やっぱりストーカーって言ったら相田じゃないの?」
「ケンスケが?」
「そうよ。いつもいつも私たちが行くところにはカメラを持っていたじゃない。
 ワタシやレイの写真は高値で売れるからといって」
「でもアスカだってその売り上げもらっていたんだろ?」
「うっ、そうよ。当たり前じゃない」
「でも相田君はそこまでしていなかったんじゃないかなぁ?」
「レイまでワタシの意見に賛同してくれないの」
「だって写真はすべてワタシやアスカの検閲を済ませて上で売っていたじゃない」
「そ、そうだけどさぁ...」

「なんかアスカって思いつきで喋ってない?」
「やっぱりそう思う?」
「だって検閲させなさいって言ったのってアスカじゃなかったけ?」
「自分で言ったことを忘れるだなんて、ボケたか?」

「何2人でこそこそ話しているのよ」
「いや、何でもないわよ。ねっ碇君」
「う、うん。そうだよ、アスカ。何も話なんかしてないわよ」
「まぁいいわ。じゃぁここに相田を読んで聞けば分かることだし」
「それって尋問じゃないの?」
「悪いことしたら聞くのが当たり前でしょ!シンジ電話しなさい!」

「碇君、アスカ、引くに引けなくなっていないと思わない?」
「綾波もそう思うよね。自分の非をなかなか認めないからなぁ」

「またこそこそ話してないのぉ!さっさと呼びなさい!」

引くに引けなくなったアスカはシンジに当たりながらケンスケを呼ばせた。
当たられたシンジはもう毎度のことだった。
レイもいつもの光景として眺めていた。

電話でシンジに呼び出したケンスケは、
イヤなぁ感じをしながらもシンジの家に向かっていた。

シンジは電話で「カメラは持ってこない方がいい」という忠告を
聞くか聞かないか迷っていたが、真剣になっていうシンジが妙に引っかかったので
カバンの中からカメラと思われるものをすべて出して身軽な装備にしてあった。


ケンスケはシンジの家の前まで来るとインターフォンを押してドアが開くのを待った。

しばらくするとドアが開いて、シンジが待っていた。

「よう、シンジ。何だよ話って?」
「いやち、ちょっとね」
「貸した編集機で分からないことでもあったか?」
「まぁそんなところかな?入ってくれよ」

シンジがどうにかケンスケを家に入れ、キッチンに入るドアをあけると
死角にいたアスカがどこから持ってきたか分からないけど
金属探知器を持ってケンスケの体の隅々をチェックし始めた。

「なんなんだよ、惣流?」
「一応、アンタが怪しいものを持ってきてないかのチェックよ」
「信用されていないんだなぁ」
「それはこれからの質問の答えによるわよ。まぁ座って」
「綾波もいるのか。カメラ持ってくれば良かったけど、これじゃなぁ。
 シンジが言ったことを聞いてよかったな」
「シンジ、相田に何を言ったのよ」
「い、いや、カメラを持ってこない方が...と」
「まぁいいは。そこに座ってちょうだい」

アスカがその場を仕切る感じでテーブルにケンスケとシンジ、
その向かいにアスカとレイが座るという状態になっていた。
何か見合いをしているような感じになっていた。

レイが4人分のコーヒーを入れて、それぞれの前に置いた。
砂糖をアスカ、レイは2杯、シンジは3杯、ケンスケは入れないで飲んでいた。
アスカが一口飲んだあと、ケンスケを鋭い視線を向けながら口を開いた。

「相田、アンタさぁ最近やましいことをしてない?」
「やましいこと?俺が何をしたというんだよ?」
「写真撮るのにストーカーみたいなことしてないかよ」
「俺が?そんなことするわけないだろう。
 ストーカーみたいなことしなくたって写真は撮れるんだし」
「一応表向きはね。でも下着姿とかはどうなのよ」
「それはないね。写真を撮ってみたいという興味はあるけど。
 隠し撮りなんかしないさ。そういうの嫌いだしな。
 シンジ、一体どういうことなんだよ?」
「いや、綾波がバイトの帰り道に誰かにあとをつけられるってことがあって」
「それと気がついたら下着もなくなっていたりしてね。その話をしたらアスカが」
「俺かって疑った訳か」
「そういうことよ。アンタじゃないの?」
「ちょっと待ってくれよ。確かに惣流や綾波の写真は撮ってきたさ。
 今でも撮ってくれという要望はたくさんメールで届く。
 でも隠し撮りをしてまで写真は撮らないさ。それは俺のポリシーに反する。
 それに写真に関してはすべて惣流や綾波のチェック済みだろ?」
「それ以外に撮っているはないかってことよ」
「今は残念ながら惣流や綾波の写真は撮ってないさ。
 それ以外に撮りたいものを見つけたんだ。それに専念したくてね。
 確かに美女2人の写真を本人たちの許可の元で撮れる権利を持っている。
 これは同じ様なことを考えている奴等から比べれば羨ましいだろう。
 そういう状況にいる俺が隠し撮りまでしては写真は撮らないよ。
 被写体である前に親友でもあるんだからな。
 だから親友を失うようなことまでして写真は撮りたくないのさ」

ケンスケは尋問されていたが、間違ったことは言っていなかった。
実際に写真のネガはチェック済みで売られていたし、
ケンスケのポリシーとして隠し撮りまでして写真は撮りたくないと思っていた。

隠し撮りなんかしなくても同じ様なことを考えている奴等以上の写真を
ケンスケは撮る自信を持っていた。それはシンジがいたからだった。

惣流や綾波の笑顔はシンジの前で見せるのがベストショットだったからだ。
実際に大学に進学してからというものの、写真は撮っていなかった。
自分の中で沸いてきた写真に対する疑問の答えが既に出ている以上、
美女2人の写真を撮ることを辞めたのだった。

それにシンジが記録としてこの2人の記録を残すならそれに協力しようと思っていた。
自分が撮る絵よりは、いい絵がきっと撮れるという確信がケンスケにはあった。
そのために編集機材とカメラ一式を貸したのだった。

それが技術的に素人ぽいものであっても、演技で見せる笑顔ではない
心の底から見せる笑顔であるから。



尋問が済んだところでケンスケはシンジに企画の進み具合を聞いていた。
レイにしてみれは初めて聞く話だし、アスカは何でケンスケが知っているのかと
2人とも驚きが隠しきれなかった。そんな中2人は話を進めていた。

ケンスケは
「俺は企画のことには口は出してないよ。
 あくまでも技術的なことをアドバイスしているだけさ。
 初めてカメラを回す人間が知っておかなくてはいけないことを言っているだけだし」
と誤解のないように説明していた。

シンジの話を聞いてみれば撮影どころの話ではないみたいなので
ケンスケは「俺ちょっと用事あるから」と言って帰っていった。



レイはケンスケとシンジの会話の中で驚いたことを聞いてみた。

「碇君、さっき言っていた撮影って何のこと?」
「いや今度の学園祭に出すDJの企画で映像を絡ませたら面白いかなぁって思って。
 そういうのはケンスケが詳しいから聞きに言ったらこれを貸してくれて」

シンジはそういうとアスカに邪魔をされながらも
どうにか組み上げた編集機を指さした。

レイは学園祭に向けて何かをやりたいとは考えていたが
シンジがそこまで考えてくれているとは思ってみなかった。
まぁ90%以上がアスカの為だっていうのは分かってはいるが。

シンジはそれだけを言うと、みんなが飲んでいたコーヒーカップを片づけ始めた。
レイはその合間を見てアスカに話しかけた。

「アスカ、あの話って知っていたんでしょ?」
「ワタシだってついこの間聞いたのよ。あれだっていつの間にか相田から借りてきて」
「でも碇君が出した企画に口だしてめちゃくちゃにしているじゃない?」
「うっ...」
「やっぱりね。アスカならきっとそうするよねぇ〜」
「何よその言い方は。でも今回はシンジは聞く耳持ってないわよ。
 基本的な演出な路線っていうものは自分の考えは崩さないし」
「珍しいわね。アスカがそれでも強引に意見を言わないだなんて」
「ワタシが『これやりたい!』って言って作っている訳ではないし。
 シンジが『これをやりたいんだ』と言って企画したものだし」
「ふぅ〜ん、アスカらしくないわね」

レイはアスカの意外な態度が気になっていた。
何がなんでも自分のカラーを入れないと気が済まない性格なのに
そのアスカが口を挟まないようにしているというのが意外なのだ。
そこまでアスカの意見を聞かないシンジも珍しいのだけど。
そう思わせた何かがそこにあるんだなぁとレイは感じていた。


結局、ストーカー相田説は本人がそういうんだからということで流れた。
アスカはまだケンスケのことを疑ってはいたが、シンジの
「ケンスケってアスカにとっての友人だろ?友人を疑うのはよくないよ」
の一言によって、その考えを捨てることにした。

ストーカーは一体誰なのか?
はこの3人で議論しても犯人が捕まえることは出来ないので、
しばらくこういういう奇妙な共同生活が続いていた。



それから長かった夏休みも終わり、後期の授業が始まると同時に
サークルの活動も再開した。
最後の1週間は溜まりに溜まっていたレポートに3人とも追われていた。
さすがにアスカは大学を卒業しただけのことはあって知識も豊富だったため
そんなにレポートで苦労することはなかった。
しかしレイとシンジは完璧に追い込まれた状態でレポートを仕上げていた。


「はぁ、今日から大学かぁ」
「なんかずぅーと休みの方がいいよねぇ、碇君?」
「2人とも遊んでばっかりだったから、最後にレポートに追われるのでしょうがっ」
「なんだよ、アスカが『あそこに行きたい』とか『こっちも行きたいの』とか言うから
 つきあわされたんじゃないか!」
「でも宿題が溜まっていればさっさと終わらせておけばいいのよ。
 それにワタシが我侭を言ったって、そんなに嫌な顔してなかったじゃない?
 あとで宿題が溜まるようなことをするからいけないのよ」

今までのアスカならここで必ずっていいほど“なぁんですってぇぇ”と
激怒していたはずだった。当然シンジもそう来ると思って身構えていた。

しかしアスカの態度は違った。
シンジがアスカに対して嫌みを言ったにも関わらず、アスカはさらりと受け流し、
シンジのことを冷静にかつ鋭く追求してきた。

さらにアスカが我侭を言っているのを承知で、その我侭に答えたのはシンジだった。
シンジが本当に忙しいなら「今日はダメ」とはっきりと断ればいいのだ。
というのがアスカの意見だった。

でも、もしそうしたところでアスカの逆鱗に触れるのと同じことを意味する行動は
シンジにとって回避すべき問題なのだ。どっちに転んでもアスカには勝てないのだった。

レイは“なるほど”と関心していた。
レイもシンジと同様に怒ってくると思っていたのだった。
そのアスカが怒るどころか、さらにシンジの痛いところを冷静に突いている言葉を聞いて
“さすがね、アスカ”と心の中で思っていた。

自分に不利にならないように、怒るという手段で慰めてもらうことではなく、
冷静に分析し、かつ急所になるようなところを突いて、
自分に有利な方向に流れを持っていくという話術を聞いて、 これは勉強になったと思っていた

恋愛とは常に駆け引きだというのがレイの持論だった。
しかしアスカとシンジの関係は駆け引きという場なんか持ち合わせていなくて
アスカの我侭をすべて受け入れてしまうシンジの優しさの関係と見ていた。

シンジは優しいとは言っても、最近になって怒るときは怒るし
アスカも自分が悪いときは、ちゃんと謝るようになっていた。

だから駆け引きなんか存在すらしていないと思っていたここのカップルに
こういうような駆け引きをすることが珍しく思えたのだった。

さらにレイを関心させたのは、アスカが普通の大学生ということではなく
世界でもトップクラスの大学を主席で卒業しているということだった。
論文発表などで、プレゼンテーションを行わなくてはならないと
必然的に質問してくる内容によっては嫌みのこもったものもある。

ここでその嫌みをまともに聞いていたら質問の内容に答えることはおろか
自分がやってきた成果に対しても良い評価はもらえない。
論文の内容もそうだが、発表の場における自分らしさというのも
単位認定の大きな要素になっていたのだった。

元々社交性はあったアスカが嫌みな質問をされても嫌な顔せずに
さらりと受け流し、逆にその答えの中に嫌みを入れるぐらいの話術は会得していた。
その断片的なものがこの会話の中に見られただけでも
レイは“さすがね”と思い、“なるほど、こうすればいいのかと”思うのだった。

なんだかんだ言ってもシンジはアスカには逆らうことができずに
引きずられるようにサークルの部室に向かっていた。
レイはこの2人の光景を見届けるように、後をついていった。



どうにかサークルの部室につくと、
レイとアスカの周りには同期の男どもがたくさん群がってきた。

「惣流さん、綾波さんボクの作品に出てくれませんか?」
「こいつのなんかじゃなく、私の作品に」
「いやいや、是非とも私が手がけるCMに出てくれませんか?」

事態が飲み込めていないレイとアスカはこの場からどうくぐり抜けるか?を
試行錯誤しながら、アイコンタクトをとっていた。

蚊帳の外になっていたシンジにも女の子からの執拗な攻撃に遭っていた。
ワケが分からなくなっているシンジを可哀想に思ったヒデキが
「ちょっと碇と話があるんだ」と救いの手を差し伸べてくれた。

「やっぱり予想通りだなぁ」
「何が予想通りなんですか?」
「うちのサークルは学園祭の時に自分たちでCMを作るんだよ。
 いわば番組と番組のつなぎとしてなんだけど、それがただのCMじゃない」
「どんなCMなんですか?」
「その年の新入生が作り、一種のコンクールをするんだ」
「コンクール?」
「そう、コンクール。コンクールで優勝するとな」

と、いいながら部室の隅にあるトロフィーを指した。

「これを受賞した人の中には今じゃぁ映画監督とかテレビ局のディレクターとか
 そういう人を輩出したコンクールなんだよ。
 それを知っているヤツは必死になって優勝を目指しているってワケ」
「アスカや綾波は分かりますが、どうしてボクが?」
「いいCMを作ろうと思ったらキャスティングにもこだわらなくてはならない。
 審査の基準の中にはそういうのも入っているからなぁ。
 碇、お前だって惣流や綾波と同じぐらい女の子から人気あるんだぞ」
「そうですか?」
「まっ、本人が気がつかないだけだしなっ。碇も作るんだろ?」
「えっ?今初めて聞いたばかりだし...」
「あそこに詳細を書いた紙が貼ってあるからそれを読めばいいさ」
「気になっていたんですけど、誰が審査するんですか?」
「今の4年生5人と、OBの5人で10人だよ」
「作るとなるとしっかりと作らなくてはいけないんですね」
「まぁそういうことになるかな?コンクールでボロクソに言われるヤツもいるしな。
 期待しているぜ、碇!」

ヒデキはシンジの肩をたたいて、マサコのところに駆け寄っていった。



シンジはその張り紙がしてあるところまで行き、読んでいた、



確かに5万円っていうのには魅力を感じる。
この夏誰さんのおかげで余計な出費がぁぁと感じていたところだった。
それに優勝者に映画監督やテレビ局のディレクターがいるというのも気になっていた。
この作品で認められれば、大学デビューもできるかもしれない。

ちょっとシンジの創作意欲をかきたてる何かがそこにあった。
どういうものを作ってみようかなぁと考えていたところに
逃げ出してきたという感じにしたいレイとアスカがやってきた。

「はぁはぁ...疲れたはぁ」
「シンジの方は囲まれなかったの?」
「囲まれたけど、ヒデキさんが助けてくれたから」
「だったら助けに来なさいよねぇ、まったく」
「でもいきなり来て『ボクの作品に出てください』なんて言われてもねぇ。
 ワタシは碇君の作品しか出ないって決めているし」
「ワタシだってそうよ。シンジの作品だけってね。
 シンジはどうなのよ?まさか誰かの作品を受けてきたなんて言わないよねぇ」
「アスカ、そんなに怖い顔しなくてもいいじゃないか。
 受けるわけないだろ、ボクだって話見えてないんだから」
「シンジのことを狙っている女の子多いから気をつけないとね」
「碇君、もてるからアスカも気をつけないとね。
 で、これが概要なの?」
「そうみたい」
「何々??企画者には5万で、出演者にも出るのね。ふーん」
「どうしたのアスカ。何か企んでいない?」
「ワタシも企画しようかなぁって思って」
「「えぇぇぇっ」」
「やっぱりねぇ、出るだけじゃ物足りないし。ワタシが出れば優勝間違いなしだけど。
 自分で企画して自分で出れば8万円ももらえるのよ。
 これはチャンスじゃないかしら?」
「アスカ、無茶言ってない?」
「どこが無茶言っているのよ、レイ」
「その発想がよ。だいたい番組なんか作ったことないじゃない?」
「だから今のうちに作ってみたいんじゃない」
「CMって一番大変なんだよ。15秒や30秒の間にメッセージを入れるのは。
 しかもインパクトないといけないし」
「大丈夫よ。今ねぇちょっとだけアイディアが浮かんでね」
「じゃぁワタシも作ってみようかなぁ」
「綾波まで何を言っているんだよ!」
「アスカが作るのを黙って見ていられないでしょ。
 ライバルとしては名乗りを上げないとね」
「当然、シンジも参加するのよ」
「どうしてボクを巻き込むんだよぅ」
「あらシンジ、番組作るのが夢だったんでしょぉ?
 素人みたいなワタシやレイが作るって言っているのに、
 シンジが作らないだなんてねぇ。ここに専属の役者は2人もいるのにねぇ」
「碇君、ワタシも勉強しなくてはいけないし。一緒にやりましょうよ」
「でもコンクールは敵だからねっ。はい、決まった。
 じゃぁワタシが3人分の申込書もらってくるから」

アスカはそう言い残してヒデキのところまで申込書を取りにいった。


NEXT
ver.-1.00 1997-10/24公開
ご意見・感想・誤字情報などは lager@melody.netまで。

LAGERですぅ。

前回の予告通り、ケンスケくん登場です。
まぁ損な役回りなのはしょうがないのでしょうか?

外伝的には「ケンスケくんラヴラヴ日記」
みたいなものを書きたいんですけどねぇ。
誰とラヴラヴにしなくてはいけないのか?

まだマユミもマナも出てないし、
カヲルくんも出てないから、やりようはあるんですがね。

ようやく文章を書ける環境が復活しつつあります。
ネタもどうにか思いついてきたし。
この続きもなんとか続きそうです。

脅迫観念という文字を植え付けながら書くと
クオリティは別にして、どうにか書こうということになるみたいです。

まぁ気長にみてやってください(笑)。

一応、大家さんのコメントですけど
「アスカちゃんの手料理、食べた〜い」と
きっと書いてくれると思います。間違いなく(笑)。



 LAGERさんの『UN HOMME ET UNE FEMME』第15話、公開です。

 

 

 「アスカちゃんの手料理食べた〜い」

  期待に応える男。
  KanSinを、KanSinをよろしくお願いします  (ケンスケ風に)

 (^^;
 

 ついでに。
 「アスカちゃんに起こされた〜い」

 (^^;;;;
 

 レイちゃんに付きまとうストーカー野郎は
 とりあえずなりを潜めたようですね。

 碇家への待避が功を奏したのか−−
 友情って美しいな(^^)
 

 いきなり疑われたケンスケ。

 友情って脆いな (;;)

 
 
 CMコンテストで図らずも対決することになった3人。

 友情はどう動く?

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 3日連続更新のLAGERさんに感想メールを送りましょう!


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