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ユイの指導の元、アスカは確実に上達していった。
アスカがキョウコに習ってきた惣流家の味に加え
碇家の味も出せるようになっていた。

シンジの誕生日が近づく頃には夕食は
アスカ1人で作れるような状態なまでになっていた。

シンジの誕生日が近くなってきたある日、ユイはアスカを自分の部屋に呼んだ。

「アスカちゃん、もうこれで1人で家事も任せられるわね」
「そんなことないですよぉ。おばさまの味には適わないです」
「そう?でもシンジもアスカちゃんの味に慣れてきたみたいだし。
 でね、アスカちゃんには言っておきたいことがあるの」
「なんですか、おばさま?」


ユイは科学者として復帰をして欲しいと懇願されていたらしいのだ。
今までは主婦に専念するということで断ってきたらしいのだが
シンジを面倒見てくれる人、アスカが来たことで全てを任せるということだった。

そういう意味も込めて、アスカに花嫁修業を兼ねた形で
料理を教えてきたのだった。

「ワタシね、シンジの誕生日の朝、ドイツに行くのよ」
「えぇぇぇ」

驚きを隠せないアスカだった。
いきなり『ドイツに行くから』と言われても実感がないのだ。

ユイが言うには、キョウコが今研究しているテーマは
どうしてもユイと一緒にやらなくては進まないということだったらしい。

「おじさまはどうするのですか?」
「一緒に行くのよ、ドイツに」



ゲンドウはNREVという組織の極東の統括責任者を任されていたのだった。
しかも極東は重要拠点の1つだったため、実務的な代表者でもあったのだ。

NREVという組織は世界中に張り巡らされたネットワークコンピュータの管理、
または様々な取引を行う商事会社的な組織だった。

キョウコはそのネットワークコンピュータの管理・メンテナンス、
最新技術の実験などを任されていた。
その最新技術の実験のためにユイの協力なしでは出来ないということだった。

ゲンドウがドイツに行く理由は表向きは欧州における組織の拡大に伴う
指導を当たって欲しいということだった。
極東においてのノウハウを欧州での組織拡大に役立てて欲しいからだった。

しかし裏の理由はシンジとアスカを日本に2人きりにするためだった。
そのことを裏で操ったのはユイとキョウコである。

科学者のある程度のワガママを聞く耳を持たないと、
寡占状態にあるとはいえ、他の企業に引き抜かれるおそれがあるからだった。
その実権を握っているのはユイとキョウコだった。

2人はお互いの子供が一緒になることに異論はなかったので
「ユイがゲンドウを連れてドイツに来る、
 シンジとアスカを既成事実な元に2人きりにして同棲をさせる」
という計画がアスカが日本に帰ってくる時から綿密に練られていた。

ドイツに来たアスカは絶対に日本に帰るということは分かっていたし、
日本に帰ってきたアスカにシンジの口にあう料理、
ユイの味を覚えさせるために料理を教えているのも
計画書の通りに進めてきたことだったのだ。



アスカは興奮しているらしく

「で、で、いつから行くのですか?」
「シンジの誕生日の前日よ」
「シンジは知っているのですか?」
「知らないわ。まだアスカちゃんにしか言ってないもの。
 でもこれでアスカちゃんもシンジに積極的に迫れるわね」
「迫るなんて...」
「あら、シンジはあんな調子だから、アスカちゃんが行かないと落ちないわよ」

ユイは楽しんでいるかのようにアスカに言った。



アスカは自分の部屋に戻ると

(あんなこと言われても...。どうしたらいいの?
 確かにシンジを2人きりで暮らすことは嬉しいけど
 まだまだおばさまから教わること沢山あると思うし...)

ユイに言われたことをどう理解していいのか悩んでいた。



アスカはこの悩みを誰かに打ち明けないと
プレッシャーに押し潰されそうになっていた。
翌日、講義も終わり、シンジをサークルに先に行かせて
レイと大学近くの喫茶店で待ち合わせていた。

「アスカ、遅いじゃない」
「ちょっと講義の方が押しちゃってね」
「どうしたの?携帯じゃいつもアスカらしくなかったけど?」
「いや、ちょっとね...」

アスカはユイに言われたことをレイに説明していた。
レイは黙って聞いていて、アスカが全部の説明を終わったら

「で、アスカはどうなの?自分の気持ちは?」
「...わかんない」
「わかんないって、アスカ!」

レイにはアスカの態度が不可解だった。
碇君を一緒に暮らしているだけでも幸せなはずなのに
碇君の両親がいなくなるということは
言葉は汚いが“邪魔者は消える”ことではないのかと思っていたからだ。

アスカが料理を習っていて、上達しているのは
碇君の弁当の中身を見れば一目瞭然だった。

アスカが作ったお弁当をちょこっとだけ食べさせてもらったが
高校時代に碇君のお弁当をもらった時の味とそんなに変わらないのだった。

「アスカらしくないじゃない。嬉しくないの?」
「嬉しくないってわけじゃないのよ。ただ不安なだけ」
「何が不安なの?」

レイは親身になってアスカの不安の原因を聞いていた。
碇君がアスカのことを好きなのは誰の目を見ても明らかだし、
アスカも碇君一筋なのはレイも分かっている。

アスカに言わせると「まだまだ料理だって習うことがある」というのだ。
レイはそれだけじゃないとアスカの表情から感じ取っていた。

「アスカ、それだけじゃないでしょ?
 碇君と一緒に暮らすことが不安なんじゃない?」
「.........」
「やっぱりね。一番の不安はそこか。じゃぁワタシと3人で暮らす?」

アスカの表情が曇ったのが分かった。
レイはその表情だけみたら、アスカがどれだけ碇君の事を
想っているのかが十分すぎるぐらい理解できた。

「アスカ、あとはレイちゃんに任せない!
 アスカとワタシはシンユウでしょ?」
「うん...」
「だったら決まり!サークル行こう。コンテストも近いしね」

アスカはレイに引っ張られながらサークルに向かった。



誕生日の朝、朝食を取っている時にユイはシンジに話しかけた。

「シンジ、誕生日おめでとう」
「ありがとう、母さん」
「で、シンジに誕生日プレゼント渡さないといけないんだけど用意してないのよ」
「いいよ、もうそういう年じゃないから」
「でもね、とっておきのプレゼントを用意したから受け取ってくれる?」
「何、プレゼントって」

シンジは朝食を食べながら聞いていた。
もういい加減にプレゼントをもらう年ではないと思っていた。
どうせプレゼントをくれるものなら現金がいいなぁと思っていた。

まぁあんまり期待もしていなかったので、食欲を満たすことが優先されていた。

「今日のお昼の便でね、母さんと父さんはドイツに行くことになったのよ」
「ふ〜ん...。えっ!それどういうこと?」

シンジは聞き流していただけに反応が鈍かった。
しかしちゃんと理解すると「一体何を言っているのだ?」状態になっていた。

「仕事の都合でね、ドイツで仕事をしなくてはいけなくなったのよ。
 キョウコにもそろそろ復帰したらとも言われていたしねぇ」
「家事はどうするんだよぅ!」
「シンジだって料理出来るでしょ、多少の事なら。
 それにアスカちゃんをみっちりと指導したから私がいなくても大丈夫よ」
「そういう問題じゃないだろっ」
「お金のことなら、生活費も含めて口座に振りこんでおくから心配ないわよ。
 それにアスカちゃんもこの1ヶ月で料理も上達したし、
 安くていいモノを見つけられる目を養ったしねぇ。
 アスカちゃんも知っていることだし」
「そうなの、アスカ?」
「この間、おばさまから聞いた...」

アスカはシンジにバツ悪そうに思っていた。
シンジには黙っていてねっと口止めをユイからされていたのだった。

「で、明日からアスカちゃんと2人きりで暮らせるのが
 母さんからのプレゼントよ」
「父さんはどうなんだよぉ!」
「問題ない。あとはお前次第だ。
 アスカちゃんを幸せに出来るか出来ないかは」
「そういうことだから、ちゃんと幸せにするのよ」

呆然としているシンジと、困った顔をしているアスカをそっちのけで
ユイとゲンドウは食事を済ませて自分たちの部屋に引き上げていった。

しばらくすると旅行カバンを持った2人が玄関に向かっていた。
どうにか現実を受け入れたシンジが聞いた。

「いつまでドイツに行くんだよぅ」
「そうかしらねぇ、2年は堅いかなぁ。あとは研究次第ってことになるけどねっ。
 じゃぁ後は頼んだわね。シンジ、アスカちゃん」

そう言い残して玄関の閉まる音がした。



6月6日の夜、碇シンジの誕生日を碇家で行った。
招待されたのは、居候のアスカ、ユイ、ヒカリ、トウジ、ケンスケだった。
いつもと違うのはユイとゲンドウがいないことぐらいだった。

「センセ、これでもう19やな。もう最後の10代やで」
「やっぱりシンジにはいろいろと羽目を外してもらわないとなっ」
「なんだよ、羽目外すって...」

「でも上手そうだなぁ、このケーキ。イチゴがのっていて。
 こっちはチーズケーキか」
「鈴原ぁ、食べることしか考えていないんだから!」
「でもヒカリとレイと一緒に作ったから、けっこうな量ができちゃってね」
「そのためにオレがおるんや、気にするなって」
「でも主役はシンジだからなっ」
「奥さんの愛情こもったケーキは一番最初に食わないとなっ」



ユイがドイツに旅立って行った後、
キッチンの新しい主となったアスカが今日1日大学にも行かず
シンジのためにケーキを作っていたのだった。

アスカは1人で作るのもなんだしなぁということで
レイとヒカリを抱き込んで3人で作ることにした。

シンジは朝の劇的な出来事が夢の様な夢じゃないような感じがしていて
結局アスカと一緒に大学には行かなかった。行けなかったが正しいかもしれない。
ベットに横たわりながら、朝の出来事を反芻していた。

そんな主賓をほったらかしにしてアスカがスポンジケーキ、
ヒカリがチーズケーキ、レイがアップルパイを作っていた。

「これで出来たわ」
「アスカぁ、あとは碇君に食べてもらうだけね」
「まぁあとは鈴原と相田が来れば始められるわね」



そんな調子で準備が進められていた。

アスカが3人で作ったケーキをテーブルに並べると
シンジのバースデーパーティーが始まった。

「これはオレからのプレゼントや」

トウジはバスケットボール、ケンスケはモデルガン、
レイは目覚まし時計、ヒカリは料理の本をプレゼントをした。

トウジとケンスケは自分が好きなものだったし、
レイは「碇君、よく寝坊していたからから。
でもアスカがいるからもう寝坊はないかぁ」と、
ヒカリは「アスカと一緒に料理をしてね。元々上手いんだから」と
メッセージを添えて渡していた。

「アスカは何をあげるの?」
「ワタシはぁ....」
「ヒカリ、野暮な事を聞いちゃダメよ。
 アスカが一番大切なものをプレゼントするに決まっているでしょ。
 ねっアスカ!」
「な、な、何を言うの、レイ...」

レイはアスカの言葉を遮るようにドッキリさせられるような言葉を言った。
明らかにアスカは動揺を誘っていた。

その動揺して顔を赤くしているアスカを見て、
トウジとケンスケはシンジをからかっていた。

シンジは一番気になる女の子が何をくれるのか一番期待していた。
ふとアスカを見ると思わず目が合ってしまった。
アスカは更に赤くなってしまい、シンジは目線を外してしまった。

レイはアスカがどんなプレゼントをするのか知っていた。
それはアスカが一番大切にしていたものだった。

「アスカからのプレゼントは2人きりに方が嬉しいだろうから
 この辺にして、ぱぁーと飲みましょう!」

レイはどこに隠していたのかビールを持ってきてみんなに配っていた。
その姿を見ていた残りの5人は「ミサトが乗り移ったのか?!」と思っていた。


そのあとの碇家のリビングではアスカの歓迎会の状態の再現となっていた。
トウジとケンスケはシンジに絡むように飲んでいたし、
ヒカリとレイはアスカと絡むように飲んでいた。
ただ違っていたのはレイは冷静に飲んでいたことだった。


ピーンポーン


宴も盛り上がっているところにインターフォンが鳴った。
アスカとシンジは妙な悪寒が体を走った。
ユイが玄関で出迎えている声を聞いて2人は酔いが完全に冷めていた。
リビングに入ってきたゲストはミサトと加持だった。

「シンちゃん、誕生日おめでと。これプレゼントね」
「何ですか、これ?」
「包みを開けてみて」

ミサトがシンジに手渡したプレゼントをがさがさと包装を開けると
青地に白の水玉模様の生地が見えてきた。

「ミサトさん、なんですか、コレ?」
「パジャマよ」
「パジャマ?」
「そうパジャマ。これからmy honnyなアスカと暮らすでしょ。
 夜も一緒になるんだから、身も心も一緒にしないとねっ」

ミサトはそういうと、アスカにもう1つの包みを渡した。
アスカがその包みを開けると赤の生地に白の水玉のパジャマが出てきた。

「ねっ、色違いだけど、2人の好きな色でしょ?」
「葛城ぃ、その辺にしておけよ。
 シンジ君もアスカちゃんも恥ずかしいだろうから」

加持がそういうと今回はミサトはおとなしく従った。
レイが2人にビールを渡すとこの間とは違った雰囲気で
ワイワイガヤガヤと宴会は続いていた。

そんなこんなのうちにシンジの19回目のバースデーパーティーも終わり
ミサトは加持に連れられて帰っていった。
レイとアスカとヒカリで食い散らかしたものの片づけをしていた。
トウジは完全に潰れてしまい、ソファーで寝ていた。
ケンスケはあんまり飲まなかったから潰れることなくシンジと話をしていた。

「なぁシンジ、惣流のことどう思っているんだよぉ」
「どう思っているって...」
「まぁ言わなくても分かるけどなっ。妬みじゃないけどシンジはモテていいよな」
「モテるって...」
「自分じゃ分からないけど、シンジは結構女の子から人気あったんだぞ。
 写真の売り上げもよかったし」
「写真って....」
「撮っていたよ。売れるモノならオレは写真を撮るさ。
 ミニタリーマニアで通っていて、その関連した講義受けているけど
 最近それじゃいけないかな?って思っているんだよ」
「それどういうことだよ?」
「いや、講義で学ぶことより他に重要なことがあるんじゃないのかな?
 と思っているだけなんだけどさっ。気にするな」
「そんなこと言われたら...。ケンスケ」
「いや何でもないさ。それより惣流の事を幸せにしろよ。
 じゃないと綾波が泣くことになるからなっ」
「分かっているよ」
「そんじゃ先帰るわ、トウジと一緒だと見せつけられちゃうから」

ケンスケはそう言い残して先に帰っていった。


ヒカリは一通りの片づけが終わると潰れたトウジを連れて帰っていた。
レイは「ヒカリにベタベタしているところ見せつけられちゃうからねぇ」と
一緒には帰らなかった。いわば追い出したという感じでもあった。


シンジの家に残されたのはレイと居候のアスカ、主役のシンジだけだった。
レイは昨日の夜から綿密に練られていた計画をスタートさせようとしていた。

レイとアスカはアイコンタクトを取ると、
アスカは自分の部屋に入っていき、用意したプレゼントの準備しはじめた。
レイは読みふけっていて、周りのことに気がついていないシンジに近づいた。

「碇君!」
「な、なっ。綾波、どうしたの?」

レイはシンジの背中越しに抱きついた。
当然シンジはレイの行動に驚きを隠せない。酔っているとしか思えなかったのだ。
アスカはレイなら大丈夫だと思ってはいるものの、
心のどこかに宿る不安が襲ってきて、ドアの隙間からレイの様子を見ていた。

(レイ、アンタは大丈夫ってことは判っているんだけど、
 見ていないと心配なのよ。許して。)

そんなアスカの行動に気がついたか気がつかないか、
レイはふとアスカの部屋の方を見て

(やっぱりね、アスカ不安なんでしょ)

と思った。レイに見られたアスカはドッキリしていた。

(アスカ、心配しなくたって大丈夫よ。ワタシは碇君は取らないわ。
 ワタシが帰るまでの辛抱よ。それまで我慢して。)
(判ったわ、それまでおとなしくしているは。)

2人はアイコンタクトでお互いの意志を確認するとアスカは部屋に戻っていた。

とはいうもののアスカの心臓は今にも飛び出しそうな状態ではあった。
シンジのためにおめかしをして、待っている自分。
レイがシンジを誘惑しないと分かっていても別な自分が疑っている自分。

言葉にならないような状態がアスカの心の中を支配していた。
そんな気持ちのままシンジのために綺麗になるアスカだった。

三面鏡を見て、とびきりのお化粧をして、一番お気に入りの下着に着替え、
その上にシンジがアスカのために選んだ洋服に着替えていた。


レイはシンジに飛びついたまま離れなかった。

「碇君、ワタシとアスカ、どっちが好き?」
「綾波、いきなり何をいうんだよ」
「碇君の事、転校してきた頃から気になっていたのよ。
 でもアスカっていう存在がいたから行動しなかったの。
 高校時代はそのアスカはいなかったから、迫っても良かったけど
 そんなのフェアじゃないでしょ。
 今はアスカもいるし、中学の時とは違う、子供じゃないから」
「そんなこといきなり言われても困るよ...」
「言ってくれなきゃ、ワタシが困る。
 だって仮に碇君がアスカを選んだら、ワタシは失恋しちゃうでしょ?
 したら新しい恋を見つけなくてはいけない。
 言われなければ、そういうことはできないもの」
「・・・・・」

シンジはレイの行動にどう答えていいのか分からなかった。
アスカの事は一番大切にしたい存在、守ってあげたい存在だし
綾波の事はアスカほどではないが、でも大切にしたい存在であったからだ。

シンジはこのとき気が付いていないが、
綾波のことは友人として、アスカは恋人としてという区分けはしていた。
その区分けしている自分に気が付いていなかった。

「碇君、どう思ってくれているの。ワタシのこと?」
「そんなこと言えないよ」
「どうして?」
「だって、今までいい関係だったのが崩れてしまうだろ。
 今だって大学も同じ、サークルも同じだしぃ」
「そんなことないわ。
 碇君に振られたからといってもワタシはワタシのまま。
 碇君だって普通に接すればいいことじゃない」
「・・・・・」
「そうやって逃げるのね。ワタシからもアスカからも」
「・・・・・」

シンジは何も言えずにレイの話を聞くだけだった。
逃げているという言葉は遠からず近からず当たっている。

自分が周りに傷づけようとしない優しさは
周りにいるものに目には見えない鋭い傷をつけているのだ。

アスカやレイにはっきりした態度を取らないことが
シンジ好意を持っていた女の子の気持ちを大いに踏みにじっていることなのだ。

「高校時代、碇君の事を好きだといっている女の子は多かったわ。
 でもワタシがそばにいたから、みんな言わなかった。
 中学時代のアスカの役割をしていただけなのよね。
 逆にワタシの事が好きだという男の子も
 碇君がいたおかげで言われなかったわ。
 周りはそういう目で見ていたってことよ。
「そんなことない...」
「特に中学・高校と一緒だった同級生からは
 『アスカがいなくなった途端、レイに切り替えた』って言われていたのよ」
「そんなこと絶対にない!」

シンジは語調を強くして否定した。

シンジはそんな気持ちでアスカともレイともつきあっていたわけじゃない。
アスカはいつもシンジのことを面倒をみてくれる女の子、
レイはそのアスカの友人で、シンジと気が合う女の子だったからだ。
別にそういう感情を持っていたわけじゃない。

「じゃぁどういう風に思っていたの、アスカの事を?」
「アスカは幼なじみで、いつもボクのことを気にかけてくれて
 ちょっと乱暴なところもあるけど、心のとっても優しい女の子だよ。
 それに...」
「それに?」
「それに今一番大切にしたいって思っている女の子だよ」

シンジはレイの誘導尋問に引っかかるかのように
アスカをどういう風に思っているかを聞き出した。

シンジは最後まで言ったとき、ハッと思った。
最後の言葉はレイのことを振ったということと同じだったって事に気が付いたからだ。

「...やっとその言葉を聞けたわ」
「綾波??」
「そういうことらしいわよ、アスカ!」

アスカの部屋に向かってレイは叫んだ。
レイの顔はしてやったりとした顔をしていた。

「じゃっ、ワタシも帰ろうかな。
 今日は碇君とアスカのためにあるようなものだからねっ。
 今日もあと3時間ぐらいしか残ってないからねぇ。
 魔法が消えちゃう前に、碇君のお姫様を登場させないとね」

レイはシンジから離れると
今まで見せたことのないような笑顔で言った。

そして玄関までシンジが見送りに行くと、
靴をはいたレイは、シンジの顔を見るなり

「それと、さっきの言葉は本当よ。
 でも碇君と同じぐらい、それ以上かな?アスカのことも好きなのよ。
 だからアスカと碇君が上手くいってくれないとレイちゃん困っちゃよね。
 アスカのこと頼んだわよ」

レイはウインクをして玄関を出ていった。
シンジはただ呆然と立ち尽くしていた

アスカはシンジがリビングに戻ってくるのを待っていた。
そして部屋の電気を消した。

帰っていった玄関を見つめながら、シンジは考えていた。
綾波は一体何を言いたかったのか?
綾波があんなことをしなければアスカへの気持ちははっきりとしなかったはずだ。
そう考えながらリビングに戻ってきた。

部屋の電気が消えていたので、スイッチに手を伸ばし、
あかりをつけると、ソファーにはアスカが座っていた。

「...アスカ?」
「シンジ、こっちに来てくれる?渡したいプレゼントがあるの....」

語尾が聞き取れないようなかすかな声になっていたアスカだった。
シンジはアスカが座っているソファの横に座った。

「アスカ、何か綺麗だよ。いつもとは何が違うみたい...」
「...さっき言ってくれた言葉は本当なの?
 ワタシのことが大切にしたい女の子っていうのは」
「...うん、アスカの事、だれよりも大切したいって思っているよ」
「...じゃぁ、これはワタシからのプレゼントよ」

アスカはそういう言うと、シンジに抱きつき、耳元でささやいた。

「....キスして」

シンジの反応を待たずに、唇に唇を重ね、オトナのキスをした。

シンジはいきなりな出来事だったが、自分の気持ちを再確認すると
アスカの体に腕を回し、どこにも行かないように抱きしめた。
アスカの手はシンジの柔らかい髪の毛を触っていた。




ドイツについてキョウコと久々の再会を果たしたユイは
「今日ってシンちゃんの誕生日よね、ユイ」
「そうよ、今頃2人きりで甘〜い夜を過ごしているんじゃないかしら」
「でもシンちゃんにそういう勇気があればって感じもするけど」
「そこなのよねぇ、シンジはそういう勇気ないからねぇ」
「でもアスカだって、素直になってないかもしれないし」
「そんなことはなかったわよ、素直だったし、シンジの事になると顔赤くしていたし」
シンジ&アスカの恋の行方を楽しんでいた。
同行したハズのゲンドウは蚊帳の外で、
ドイツの街並みを眺めながらビールを飲んでいた。




「やりすぎたかなぁ、あそこまでやっちゃーアスカに殺されるかなぁ。
 でもあそこまでお膳立てしたんだから、この借りはちゃんと返してもらわなくては」
レイはアスカに借りを作っておいて、いい人を紹介してもらおうと考えていた。



NEXT
ver.-1.00 1997-07/25
公開
ご意見・感想・誤字情報などは lager@melody.netまで。

LAGERですぅ。

いやぁ疲れました。これ書いていて。
心理描写がヘタというのか、なんというのかという感じです。

うまく表現できないものですかねぇ。


こういう展開にするつもりで書いていたんですけど、
書いているうちに、だんだん長くなってしまって、
収集がつかなくなってしまいました。

まぁいいや、これでラブラブな小説になったことだし(^^;;


映画のパンフレットの後ろに
映画版量産型と四号機が発売されることになったらしく

『うぉぉぉー。参号機で色違いを作ろうとしたのぃぃぃ』

と、泣きが入っています。

結局買ってしまうんだろうな...。
ペンペン&マヤが欲しくで三号機使徒モデルも買ってしまったし...


 LAGERさんの『UN HOMME ET UNE FEMME』第9話公開です。
 

 女親からは子供ってオモチャなのか(^^;

 可愛い息子に自分が気に入った子を嫁さんに・・・
 ユイさんの暴走がある意味怖いぞ(笑)

 ゲンドウ・キョウコは良いとして、
 アスカのパパはこの計画を知っているのかな?

 一人娘が同棲を始めるなんて父親には我慢できそうもない・・・(^^;
 一波乱あるかも?!
 

 みんなの協力で大きな一歩を踏み出したシンジとアスカ。
 もう、本当に「邪魔者のいない」環境で止まらなくなっちゃったりして(^^;;;;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 羨ましいシンジを描くLAGERさんに感想のメールを!


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