TOP 】 / 【 めぞん 】 /[jr-sari]の部屋 第4話Aパート

〜 4: 予兆 〜


「あ、ねぇ、相田君、鈴原どこ行ったか知らない?」
今日今までグテッと過ごしていた健介も、その日、放課後までにはどうにか立ち直ってきたらしい。帰る用意を始めたところを委員長こと洞木光嬢に声をかけられた。
「ん〜、冬至ならさっき先生に呼ばれてった。なんか用か?」
「今週、週番なのよ。いつも逃げるから捕まてやらせないとね。」
光も中学からのメンバーの一人である。もう、自主的にやってもらうことには、あきらめているらしい。健介は苦笑しつつも、さっき気付いた事を口にした。
「それより、惣流はどうしたんだ?真治もいないみたいだけど。」
確かに、いつも一緒に帰っている真治がいないし、新しく道連れになった明日香も見当たらない。
「明日香達、先帰るって。碇君、今日なんか変だったわね。なんか、考え事してるみたいで、さっきも帰りの挨拶が終わったら、すぐ出てっちゃったし。」
確かに今日は珍しい一日であった。いつもはわいわいやっている3人組が、片や机にへたり込み、もう一人は妙に考え事に浸り、残りの一人だけがなんとかそんな二人を引っ張り挙げようと奮闘していたのである。
うーん、と思い返す光に、やっぱりあの写真に真治の好きな子でも写ってるのかな、と眼鏡を輝かす健介。
バンンッ!!
突然教室のドアの方で凄い音がしたと思うと、そこに、最初の話題にのぼっていた冬至が凄い勢いで駆け込んで、鞄を引っつかんでまた教室の外へ駆け出ようとしていた。
「ち、ちょっと鈴原っ、っつ!どうしたのよ!」
慌てて呼び止めようとした光と健介は、ちょっと振り向いた冬至の顔に驚愕した。駆け去っていくその顔は、まるで死ぬ寸前の病人のように真っ青だった。


〜 5: 生命(イノチ) 〜


「ちょっと、真治!一体どこ行くのよ!」
まだ人の閑散としている三龍区飲食店区画の飲み屋街に、この場に全く不釣り合いの二人がいた。
前の方を急ぎ足で行く少年がもちろん碇真治。後ろを騒がしく追っかけるようにして行くのが惣流明日香である。
「・・・ねぇ、本当についてくるの?」
「あったりまえでしょうが。それとも、なんか問題でもあるの?」
「い、いや、そうじゃないけどさ・・」
「大体、なんなのよ、一体。今日一日、ぼけ〜としてると思ってたら、学校終わった途端急いで飛び出しちゃって。だいたい、ほんとにこっちなの?」
まだまだ、続きそうな言葉をさえぎるように真治の足が止まる。
「・・ここだよ。」
黒い背景に紅い文字で[バー・ネルフ]と書かれた電飾看板。そして、その看板の出ている建物の入り口に地下へ降りる階段があった。
とっととそこを降りていく。高校生には縁のないはずの場所なのに、慣れた様子で降りていく真治に戸惑っていた明日香だったが、
「ま、待ちなさいよ。」
慌ててその後を追っていった。



「こんにちわー」
平然と中に入っていく真治と、恐る恐るその後に続く明日香。
まだ開店前の店にいたのは、もちろん店長のミリ−ナであった。
「いらっしゃい、真治君。あら・・・、後ろは真治君の彼女?」
入ってきた二人に、にこやかな笑みを浮かべ答えた後、真治の後ろにいる明日香を見つけいたづらっぽく声を掛ける。
「え、いえ、あの・・」
予想範囲内の問いかけだが、やっぱり赤くなって焦る真治に、ちょっと頬を赤くしながらもジッとミリ−ナを見つめる明日香。
「違うわ。」
「「え!」」
突如、誰もいなかったはずの背後から声がかかった。
「いらっしゃい、碇君。さ、行きましょ。」
突然後ろから現れたレイが、顔に表情を浮かべずに真治の腕を取るとミリ−ナのいるカウンターの方に歩き始める。明日香については全くの無視。
「あ、レ、レイ、こ「な!ちょっと待ちなさいよ。そこの幽霊女!」」
真治の声を打ち消すように明日香の言葉が発せられる。
真治の腕を放さぬまま、対峙するレイ。
これが、紅と蒼の闘争の始まりとなる最初の出会いであった。


・・・ただいま、睨み合いの最中ですので、もうしばらくお待ちください。


「えーと、それで今日はどうしたの?バイトの件についてかしら?」
どうにか二人を引き離した後、明日香を紹介し(ミリ−ナは律子に聞いて知っていたらしいが)、ミリ−ナとレイについて簡単に明日香に説明した。ミリ−ナがジュースとスナックを出してくる頃にはやっと落ち着いて話ができる様になっていた。もっとも、真治は明日香とレイに挟まれて座っていたため、落ちつかなげであったが。
「いえ、そっちはもうちょっと考えさせてください。やっぱり、うちの方も忙しいし。」
「そう。真治君とレイのおかげで、先月結構売り上げ伸びてるし、私も助かるんだけど。ま、ゆっくり待ってるから、いい返事をお願いね。」
「ちょっと、何の話よ。」
真治とミリ−ナの会話に疑問符を浮かべ、真治を肘でつっつく明日香。
「あぁ、真治君に夏休みの間、ここで働いてもらってたのよ。ちょっとしたおつまみとか作るのがうまいし、結構見栄えがいいでしょ。お客さんに評判がいいから、これからも働いてくれない?ってお願いしたの。」
その言葉をしっかりと聞きつけて、ミリ−ナがにこやかに答える。
それに対して、明日香は戸惑ったような、何か聞きたいような表情をした。
「何?聞きたい事があるなら遠慮なく聞いてちょうだい。」
その言葉に思い切って話し出す。
「あの、ミリ−ナさんもレイ、さんも、真治と同じなんですよね。」
「そうよ。そういえば、私達の本来の姿をみる事ができるって、律子から聞いてるけど・・・」
「えっ、いえ、昔はいろんなものが見えたんですけど、今はなんとなく区別がつくくらいです。」
「そうなの?・・・まだ覚醒してるわけじゃないのね・・」
明日香の答えに、ちょっと意外そうな顔をしたミリ−ナがポツリとつぶやいた。
「あの、何か?」
「いいえ、なんでもないわ。それで、聞きたい事ってなあに?」
「私のような人間もいるかもしれないのに、こんな街の中で店とか開いても大丈夫なんですか?」
「ふふっ、そうね。確かに人の中にも私達の正体が見える人もいるかもしれないけど、それを騒ぎ立てたところで他の人がわからなければ変な目で見られるのはその人でしょ。それに、店には害意や敵意のある人に対する結界が張ってあるわ。何か問題が起きたとしても、大抵店の開いている時は誰か仲間がいてくれるしね。」
ミリ−ナの説明に真治がさらに説明を加える。
「それにね。ここは人の中に住んでいる僕らのような者には、情報交換の場所であり、助け合いの場所であり、息抜きの場所なんだよ。これは、僕がここに初めて来た時に教えてもらった事なんだけど、何かあった時集まる場所として、こういった場所がここの他にもあっちこっちにあるらしいよ。」
「ふーん。そうなんだ・・・」
納得したような顔で明日香が肯いた。



話が一段落ついたところで、真治はようやく今日ここを訪れた理由を口に出した。
「それで、ミリ−ナさん。相談があるんですけど。」
「そう。今日はそれで来たのね。そういえば、学校から直接みたいね。」
「これ、見てもらえますか?」
真治は鞄から朝健介から貰ってきた写真を取り出して、ミリ−ナに手渡した。
「これ・・・、明日香ちゃん?なんか写りが悪いみたいだけど・・・。それに、手前の方に写っているこれは・・・、まさか、真治君!?」
驚いた様子で問い掛けるミリ−ナに、困ったように真治は肯く。レイと明日香が伸び上がるように体を伸ばして、ミリ−ナの持つ写真をのぞきこむ。
「なによこれぇ!いつ撮ったのよ!こんなの。」
全く覚えのない写真に明日香が声をあげた。
「昨日、明日香が皆に囲まれてた時に、僕の友人の健介が撮ってたらしいんです。ぼくも考え事してたから、全然気付かなくって。健介自身は写真に失敗したのと、わかる人が見ないとわからないぐらいぼけているから気付かなかったみたいなんですけど、本当なら写ってないはずの僕の姿がどうして写ってるのか、どうしたらいいのかわからなくって。」
「今日一日なんか考えてると思ったら、これのことだったのね。」
やっとわかったと、真治を見る見る明日香。レイも心配そうに真治を見ていた。ミリ−ナは何事か考えている。
「真治君。その健介君のカメラって、どういう物か知ってる?」
「昔父親から貰った物だって、健介は言ってました。結構古そうなもので、とっても大事にしてます。」
「そう。そうすると、付喪神かしら。まだ生まれかけでしょうけど。」
「付喪神、ですか?」
「ミリ−ナさん、付喪神ってなんですか?それに、真治が写真に写らないって、どういうことなんですか?」
真治の言葉に対する答えがわからなかったのであろう。抱いた疑問と共に、明日香が問い掛けると、ミリ−ナはしばらく腕を組んで考えた後、これまでの間で空になっていたグラスにもう一度ジュースを注ぎ直し、真治達の前に座り直した。


「そうね・・・、どう説明したらいいのかしら。
人間のような生き物とこのグラスとか水のような物の違いは何だと思う?」
ちょっと考えて、ミリ−ナが問う。
「・・・自分で動く事ができること・・かな。」
「そんなの、生きてるか生きてないかってことでしょ。」
「・・・考えることができること・・・・・」
3人がそれぞれ答えてみせると、ミリ−ナはニッコリしながら話を続けた。
「そうね、皆の答えをひっくるめて明日香ちゃんの言ったことが近い答えだけど、じゃあ、生きてるって何?生き物を構成しているものについて細かく見れば、蛋白質、アミノ酸、脂肪、他いろいろ挙げられるけど、ただ単にそれらを集めたとしても、生きてるとは言えないわよね。集めただけだったら、物と同じ。それじゃあ、物と生き物の違いはどこにあるのかしら?」
「・・・魂をもつこと・・・」
「うん、レイの今の答えはいい線をいってると思うわ。ただ、魂というのはちょっと便利すぎる言葉よね。一般的に魂というと、意識を伴ったもののように考えられてしまうわ。私達の結論、といっても、私と律子、他にも何人かで議論した時に出てきた考え方だけど、基本的には生命エネルギー、よく使われる表現なら“気”っていう言葉かしら。これに支えられていると考えているわ。
ただ、これは単にエネルギーでしかなくて、これ自体に形や意識・知識なんてものはないの。あるのは力だけ。だから魂という言葉には当てはまらない。魂という形は生命エネルギーが生き物という型を得て始めて現れるものだと考えられるわけ。まぁ、とにかくこの生命エネルギーの有無が生き物と物の違いになると思うわ。」
ここで一旦話を切ると、ミリ−ナは手元の飲み物を引き寄せ乾いてきた口元を湿らせた。
「さてと、次はこの生命エネルギーがどういうふうに生き物に流れ込むかってことね。生命エネルギーは形も何もなく私達のまわりを漂っているわ。」
「ちょっと待って。ミリ−ナさん、さっき生命エネルギーを“気”とも言うって言いましたよね。あたしは人か人じゃないか区別が付けられる。それは、視ている対象を取り巻いているぼんやりした輝き、オーラが視えるからよ。そのオーラは“気”であるとも教えてもらったわ。でも、私達のまわりに漂っているのなら、それも視えるんじゃないの?」
明日香の質問にミリ−ナは首を振った。
「明日香ちゃんの視ているのは器をもったエネルギーよ。器を持ったエネルギーはその器の影響を受けるわ。けど、空気中に漂う生命エネルギーはまだ何にも染まっていない、全くの無色透明なの。だから、視える人にも視えないってわけ。
さて、生き物に生命エネルギーを導くのは、その親となるものの想いと子孫を残すという本能によるものと考えられるわ。ここからが重要なポイントよ。子供が産まれるという意識。元気な子供を、という希望。子孫を残すという意思。これらがまわりに漂う生命エネルギーを引き寄せ、生命の種に宿らせる。これが、普通の生命の生まれ方。ところが、過程は同じでも別の生命が誕生する事もあるわ。それが・・・」
「それが、僕たち妖怪と呼ばれるもの・・・」
「そう。人の持つ、闇を恐れる本能。闇の中に在りもしないものを幻てしまう想像力。そして、その想像をまわりに広めて共有する想いをつくりだす情報力。人々の想いと想像力が、空間にその形を創り出して生命エネルギーを引き寄せて私達を創り出すのよ。」
「じゃあ、真治は・・・人間の想像力が創り出した存在!?」
「いいえ、違うわ。私達妖怪にもいろいろあるわ。大きく分けて2つ。自然の猛威や闇に対する恐怖心、敬意からうまれるもの。真治君のような鬼、私のような妖精がこれに当たるわ。通常は一代限りの存在のはずだけど、性別を持ち繁殖力のある種族も存在するわ。鬼もそう。だから、真治君は生まれ方は人と変わらないと思うわ。
もう一つが最初の質問にあった付喪神よ。無生物、着物とか人形とか大きくなれば家とか、そういった物に対して深い愛情や執着心が永く注がれ続けると、その強い想いはエネルギーを引き付けて生命を宿らせる。鏡の化身である律子がその例ね。」
「じゃあ、この写真を撮ったカメラは・・・」
「大事にされてるみたいだし、生命が宿りつつあるんじゃないかしら。だから、本来写る事のない真治君を捉える事ができたんだと思うわ。
そうそう、明日香ちゃんの2つ目の質問の答えね。私達のこの体を創り出しているのは人間の想いが生命エネルギーを形にしたものってさっき説明したでしょ。つまり通常存在する物質で構成されているわけじゃないの。カメラとか光学機械は物質が跳ね返している光を読み取っているから、私達の存在は読み取れないんだと思うわ。細かい事は私達にも良く分からないんだけどね。」


ミリ−ナは、コップの中の残りを飲み干すとグッと伸びをした。
「さて、まぁこんなところね。わかってもらえたかしら?」
「はい。大体わかりました。」
明日香が肯き、レイも肯定を示す眼差しを返す。
ひとり、真治だけが何かを考えているのか俯いていて返事がなかった。
「ん?どうしたの?真治君。・・・真治君?」
「・・えっ、あ、はい?」
「どうしたの?顔色悪いみたいだけど?」
まるで反応のない様子に声を掛けたミリ−ナが言うように、やっと話が終わった事に気付いたかのようにハッと上げた真治の顔色は確かにあまり良いとは言えなかった。
「え、・・いえ、なんでもないんです。」
「そう?」
「えぇ、それでどうしましょう。これから。」
取り繕うようにごまかす真治にちょっと怪訝な顔をしたが、真治の言葉に、そうねぇ、とちょっと上の方を見ながら考えていたが、
「・・・とりあえず注意して行動するしかないわね。後は、その子次第だと思うわ。」
「そう・・・ですね。」
真治の表情がまた曇る。健介は真治にとって仲の良い友人の一人である。もし自分の事が知れた場合、今の関係を保てるのか確信が持てなかった。健介だけでなく、冬至との関係も変わってしまうのだろうか。今まで漠然と感じていた不安がすぐそこまで迫ってきているようで、押し潰されそうだった。
「ほらほら、まだなんかあったわけじゃないんだし、きっとなんとかなるわよ。」
真治の不安に気付いたのだろう、ミリ−ナは真治の肩に手を置くと明るい口調でそう言った。
「さぁーて、そろそろお店の準備をしなきゃいけないわね。真治君達はどうする?」
真治もミリ−ナの気遣いに気が付いたのだろう。僅かに笑みを浮かべると腕時計を確認する。
「もう、こんな時間なんですね。夕飯の支度しなきゃいけないんで帰ります。 ・・・ミリ−ナさん、今日はありがとうございました。」
「いいのよ、またなんかあったらいらっしゃい。明日香ちゃんもね。遊びに来てちょうだい。」
「はい。」
「じゃあ、レイもがんばってね。それじゃ、ほんとにありがとうございました。」
「ふふっ、真治君、バイトの件考えといてね。」
店を出ていく真治と明日香を見送ってから、ミリ−ナは店の入り口を見つめているレイに声を掛けた。
「さて、開店準備するわよ、レイ。」




この日、レイはミリ−ナから見ていつもよりきびきび働いていたという。
「だって、碇君、がんばってって言ってくれたもの・・・」



ねくすと
ver.-1.00 1999_02/20 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは jr-sari@mvb.biglobe.ne.jp まで。



言い訳、なし ・・・遅くなってごめんなさい・・・






 jr-sariさんの【世界、重なりて】 Vol.3 Bパート 、公開です。




 1年ぶりの連載再開♪

 とっても嬉しいです(^^)(^^)



 健介の持つカメラはただモノではなかった

 うむむ・・・
 ・・そりゃそうだろうなぁ(爆)


 祖父・父はどうだか分からないけど、
 怪しい”想い”の固まりの健介が所有してるんだもん・・・


 今はまだ「なりかけ付喪神レベル」だからいいけどさ、
 本式に力が付いたりしたらどんな能力が宿るやら・・

 やっぱり順当に「透視能力」付きカメラになっちゃうんだろうか(^^;


 妖怪になったら更に凄いことになりそう(笑)


 封印決定・・・




 さあ、訪問者のみなさん。
 設定集も同時に更新したjr-sariさんに感想メールを送りましょう!




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