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〜 0: 夢 〜

「・・ママァ・・・いないの・・・」
どこからか聞こえてくる声。
いつの間にか中世ヨーロッパの宮殿のような場所にいた。
「・・・もう、歩けないよ・・・」
また、声がする。女の子のようだった。
周りを注意深く見てみるとおかしな所が多くあった。
建物の柱はねじれているし、噴水の水が上がったまま落ちてこない。
明らかに普通じゃないのに、何故かそれが普通であるように落ち着いていられた。
そう。ここは、現実でない場所。
先ほどまで、暖かい闇の中で誰かに導かれていたような気がする。
そして、気がつくとここに立っていた。
「・・・助けて・・・一人は・・もういや・・・」
この声に導かれていたのだろうか?
いや、もっと違った感じだった気がする。
それにしても、どこから聞こえてくるのだろう。
声のする方へ歩き出す。
廊下を通り、中庭のようなところを横切る。
しばらく歩いたところでその子を見つけた。
歳は7、8才ぐらいだろうか、赤い髪の女の子。
一人はいや・・・か、昔の自分をみているようだ。
今も、そうかも知れない。
座り込んで泣いている様子に小さい頃の自分の姿が重なって見えた。
声をかけようと、その子に近付こうとしたその時・・・
『ヒャーッヒャッヒャッヒャッ』
突然何かの不気味な笑い声が聞こえ、世界が歪み始め、
全てがもとの闇へと包まれていった。
最後に見えたもの、それは泣いている少女と彼女を包み込もうとしている邪気の闇だった。


【世界、重なりて】

Vol.1 悪夢ーナイトメアー


〜 1:日常との差 〜

5月も中場。連休も終ってもうすぐ中間テストなのだが、暖かな陽気がたるみを誘う。

パカン!

「起きろ!碇。授業中に熟睡とはいい度胸だ。」
頭に衝撃を受けて目を覚ました真治の目の前には、数学の教師が 鬼のような顔でたっていて、クラスのみんながこっちを見て笑っ ていた。

キーンコーンカーンコーン

今日の授業の終りを告げるチャイムがタイミング良く鳴り響く。
「くっ。いいか、今度俺の授業で寝てるのを見つけたら、居残りさせるからな。」
そう言って、先生は教室を出ていく。
出ていったのを見届けると寄ってくるものが二人。中学校の頃からの親しい友人、冬至と健介である。
「なんや、めずらしいのぉ。せんせが、授業中に寝とるとは。」
「そうだよ、どうしたんだ、真治。」
声をかけたが、反応がない。何か様子が変だった。考えて見れば注目されるのを嫌う真治が先ほどその的になったはずなのに、いつものように動揺した様子をみせなかった。
「おい、真治、聞いとるんか。」
「あ、何、冬至。」
何やら考えていた様子だった真治がやっと顔をあげる。
「何やあらへん。さっきから声かけとったんや。どないしたんや、ボーっとして。悩みごとか?」
いつもと違う様子の真治に心配そうな二人。真治と一番の友人となってから、わずかだがその生い立ちについて話を聞いていたために、その心配のほどは大きかった。
「話せる悩みならいつでも話してくれよ。力になるからさ。」
「そや、そのための友達なんや。わしらは。」
二人が親身になって考えてくれることが、真治にはうれしかった。
そして、すべてをまだ告げていない自分、告げれば今の関係ではいられなくなるかもしれない自分がつらかった。
「ありがとう、二人とも。別に何でもないんだ。ちょっと、夢見が悪かっただけ。」
自分の考えを振り切るように、その場の雰囲気を明るいものへ変わるように、微笑みながら返事を返す。
「さよか、なら、ええんや。」
それから、健介が話を切り出す。
「なあ、明日土曜で学校休みだし、待ちに遊びにでないか?三龍(サンロン)区にまた新しいゲーセンができたんだ。」
「そりゃええな。なあ、行こうや、真治。」
「あ、ごめん。明日はチビたちと一緒にいるって約束しちゃって。」
すまなそうに謝る真治。
「そうか、それじゃあしょうがないな。ま、ゲーセンは逃げることもないし、また今度な。」
ちょっと残念そうな顔の健介に冬至が声をかける。
「また来週にでもいけばいいやんか。それより、帰ろうや。あんまり遅うなると、環状線が混できよる。」
「そうだね。」
三人は帰宅の用意を整えると、夕焼けに染まった町へと足を踏み出した。

新東京九龍(クーロン)市。ここは、九つの区域に分かれている。
それぞれの区域ごとにその機能が分けられていて、真治たちの通っている高校は二龍(アルロン)区にある。ここは教育施設、自然公園等が集まっている。そして、いつも遊びに出るのが三龍(サンロン)区。ここにはデパート、飲食店、ゲーセン等が建ち並んでいて、遊園地なんかもある。住んでいる所は四龍(スーロン)区。それぞれの区が九龍(クーロン)区を中心に右回りで碁盤の目のように配置され、交通機関として一〜八龍区に環状線が走っていて、それぞれの区から九龍区に向かってもレールが走っている。また、九龍区には空港もあり空の玄関にもなっている。

駅で冬至、健介と分かれた真治はスーパーで今日の夕食と明日の朝食用の買いものをしたあと、バスに乗り込む。四龍区の端、山の麓にある真治の生活している場所、孤児院兼診療所ゲヒルンがそのバスの終点である。

真治は4才の頃から、ここで生活をしていた。その頃は院長の冬月先生しかいなかったのだが、5年ほど前に摩耶さんが来てから、今では中学生二人に小学生三人の大所帯である。結局、今年高校生となり、子供達の中では一番年上の真治が忙しい二人の大人に代わっていろいろと雑務をこなしている。もちろん、中学生の二人もいろいろと手伝ってくれるが、買いだしと食事はほぼ真治の担当であった。


両手で荷物を抱えてバスを降りる。と、そこに二人の女の子が手をつないで待っていた。真治の妹に当たる中学2年の如月弥生と小学3年の桜井美穂である。ちなみに、ここにはいない残りのメンバーは同じく中学2年の如月瑞希、小学5年の白川拓哉、小学3年の杉本香である。
「おかえりなさい!お兄ちゃん。」
美穂が弥生の手を離して真治に駆け寄ってくる。面倒見のいい真治は、兄弟達にはもちろん、診療所にくる者たちにも好かれていた。
「ただいま、美穂ちゃん。待っててくれたの?」
「うん!」
かがみこんで顔をあわせる真治に美穂は元気良くこたえる。
「おかえりなさい。荷物もつの、手伝うよ。」
こちらはゆっくり近寄ってきた弥生が真治の抱えている買いもの袋の1つを持ちあげる。確かに買いもの袋2つに鞄を抱えていては、今の真治では動けなさそうであった。
「ありがと。弥生ちゃん。」
どんなにささいな事でも、自分の目をみて優しい笑顔でお礼を言ってくれることが弥生には嬉しかった。これがあるから、いろいろと手伝いたくなってしまうのだ。
「めずらしいね。迎えに来てくれるなんて。何かあった?」
片手に袋を持ち肩から鞄を下げて、空いてる方の手を美穂とつないで歩きながら、のぞき込むように弥生に尋ねる真治。
「別に、美穂が迎えに行くんだっていうから、連れてきただけ。まあ、荷物ぐらいは持ってあげるつもりではいたけど。」
弥生は照れたようにちょっと顔を赤くして、早口で答える。
「へぇー、でも、香ちゃんとかは一緒じゃないんだ。」
そんな弥生の様子には全然気付きもせず、真治は疑問を口にする。
弥生はちょっと不満げな顔をしたあと、すぐ、今度は心配そうな表情になり返事を返す。
「うん。香、また熱だしちゃって、拓哉が面倒見てくれてるわ。」
「そっか。じゃ、早く帰らなきゃね。」
と、美穂がつないでいた手をひっぱって真治に話しかける。
「お兄ちゃん、今日ね、お客さんが来てるんだよ。髪の毛が黄色のね、眉の黒いきれいなおばちゃん。」
美穂の言葉に真治の脳裏に一人の女性のなつかしい姿が浮かんだ。と同時に、美穂の言葉に背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「律子さんだ!ねぇ、もうみんなと会ったかな?会ってないなら早く帰んなきゃ!」
突然焦りだした真治に何だか分からない美穂と弥生。キョトンとした表情でお互いの顔を見合わせた後、すでに門をはいって玄関まで走っていく真治の背中を見て慌てて追いかけていった。

〜 2:訪問者 〜

「ただいまー。」
玄関に駆け込んで中に声をかける。真治のあとから、弥生と美穂も入ってくる。
靴を脱いでまずは台所へ。弥生と美穂に買ってきた食品をまかせると自分の部屋に鞄を放り込んで、香の部屋へと向かった。
部屋は、真治と拓哉、美穂と香、弥生と瑞希の三部屋に分かれている。

コンコン

一応ノックしてから、ドアを開ける。
「真治だけど。入るよ。」
中にはベットに寝ている香に、その看病している拓哉がいた。
「具合はどう?大丈夫そう?」
香に近付いて、おでこに手をのせてみる。ちょっと熱っぽいがそうひどくはなさそうだった。
「おかえり。今日、学校で熱出しちまって、早引きしてきたんだ。」
拓哉が手脱ぐいを水でしぼって、香のおでこにのっける。香が熱を出すのは頻繁にあることで、その世話をするのは慣れていた。
「おかえり、真治。帰ってたんだ。」
後ろから声をかけてきたのは、瑞希だった。お茶ののったお盆を持っている。
「瑞希ちゃん。もしかして、律子さんに会った?」
そういえば、言わなくちゃいけない事があったのを思いだす。
「律子さんっていうんだ。あの人。今、客間で摩耶ねーちゃんと話してるよ。」
どうやら、まだ言葉は交わしてないらしい。真治はホッとしながら、瑞希に頼む。
「そっか。じゃあさ、話したいことがあるから、弥生ちゃんと美穂ちゃんも呼んできてくれないかな。」
「わかった。ちょっと待ってて。」
ドアを開けっぱなしのまま、お盆を持って瑞希が出ていった。


「なに?話しって。」
美穂と香の部屋に集まった子供たちを代表して、弥生が尋ねる。
真治は挨拶に行かなくてはならないから、要点だけみんなに話す事にした。
「今来てるお客さんは赤木律子さんって言って、摩耶さんの大学時代にお世話になった人で摩耶さんと僕をここに頼んでくれた人でもあるんだ。それでね、ここ数年、ここに来なかったからみんな挨拶して顔を覚えておいてもらった方が良いと思うんだけど・・・」
ここで一旦言葉を切って、みんなの顔をみる。とりあえず、賛成らしい。
ただ、真治の言葉に続きがあるのに気付いたようだった。
真治は声のトーンを落して話しを再開する。
「これだけは言っちゃいけないって言葉があるんだ。律子さんは僕と同じ存在なんだけど、でも僕なんかよりずうっと古い生まれなんだ。冬月先生よりも古いかも知れない。ただ、本人は歳のことをとっても気にしてるから、年齢関係のことは口にしないほうがいい。”おばちゃん”なんて言ったら、何されるかわからないから、注意してほしいんだ。」
そう注意しながら、自分が初めて律子と会った時のことを思い出す。あの時は”おばさん”と言葉を発した瞬間、問答無用に鏡に閉じ込められて出してもらえなかったのを覚えている。そして、座った目と共に発せられたあの言葉
「今度、そう呼んだら割るわよ。」
あれのおかげで、3日ほどうなされたのだった。
弥生がやっと納得できたといった表情で言う。
「そっか。だからさっき迎えに行った時に、美穂から聞いて慌てたのね。美穂、もろに”おばちゃん”って言ってたから。」
「うん、まあね。それじゃ、顔みせに行こうか。香は寝てるから、しばらくは大丈夫だろうし。」
立ち上がりながらそう言うと、真治達は客間へと向かって歩き出した。


コンコン

「真治ですけど。入っても良いですか?」
客間のドアをノックすると、中から返事が返ってきた。
「いいわよ。入って。」
ドアを開けると、摩耶と律子が向かい合ってソファに腰を下ろしていて、にこやかにこっちを見ていた。
「久しぶりです。律子さん。しばらく顔を見ませんでしたけど、どこかに行っていたんですか。」
「そうね、5年ほど日本を離れていたから、久しぶりかもね。大きくなったわね、真治君。どう、調子は?まあ、見た感じ大丈夫そうだけど。」
摩耶さんを連れてここに最後に来た頃と全然変わっていない律子。真治にとっては恩人であると同時に、ある意味親のような存在だった。
「はい。力のコントロールは完璧ですし、よっぽどの事がない限りこの姿で対応できるようになりました。」
「そう、上出来ね。ねぇ、摩耶。そろそろ真治君もネットワークに加わってもらってもいいわね。あなたも確か、このぐらいの歳だったわよね。」
「そうですね。今度一緒にいって、みんなに紹介しましょう。」
真治の良く分からない所で話しが進んでいく。
と、真治の後ろで待っていた弥生たちが真治の背中を突っついて注意を促した。真治はここに来た目的を思い出して、口をはさんだ。
「あの、律子さん。律子さんが来なかった間に家族が増えて・・・、 その、挨拶を・・・」
律子の視線が真治の後ろの方へ向く。真治の後ろから4人の子供が現れる。
「摩耶から聞いてるわ、私は赤木律子よ。冬月先生とは古くからの友人よ。」
体を子供たちの方に向けて、まず自分から名載る律子に答える4人。
「えっと、はじめまして、如月瑞希です。」
「如月弥生です。私たち双子で、私の方が姉なんです。」
「白川拓哉です。小学5年生です。」
「桜井美穂です。8才です。よろしくお願いします。」
それぞれの挨拶に真治が付け足す。
「あと、もう一人拓哉のいとこで杉本香ちゃんって子がいるんですけど、ちょっと体が弱くて、今も熱だして寝てるんです。」
「そう、摩耶の力は怪我にしか効かないものね。」
とりあえず、皆が名載り終ったところで、まず拓哉が行動に移った。
「真治兄ちゃん。俺、香の様子見にもどるよ。」
「あぁ、頼んだよ。そうだ、美穂も一緒にいってくれるかな?」
「うん!わかった。」
年少組が出ていったところで、弥生と瑞希も出ていこうとしたがこちらは律子に止められた。
「ちょっと聞きたいことがあるから、ここに座ってくれない?」
空いている席に座る真治、弥生、瑞希。


「とりあえず摩耶から聞いたけど、私達が人間とは違うのは皆知っているのね。」
律子が弥生の方を見ながら尋ねる。
「はい。私たち姉妹がここでは一番最後に、その、家族・・・にしてもらったんですけど、その頃、変な連中に追われてて。」
「その変な連中っていうのが、やっぱり人間じゃなくって、アタシ達がやばかったところを真治が助けてくれたんです。」
弥生と瑞希が交互に当時の話しをするのを律子は興味深そうに聞いていた。
「あなたたちが何故追われたのか分かる?」
「いえ、わからないです。」
しばらく、二人の顔を交互に眺めた後、話しを替えるように続ける。
「そう、もしかして、他の子もこういった関係でここに来たの?」
尋ねる律子にうなずいて摩耶がこたえる。
「美穂ちゃんはやっぱり真治君が関わっています。拓哉君たちは葛城さんが連れてきたんです。」
「美里が?後で何があったのか聞いてみなきゃね。それじゃあ、ここにいる皆が真治君や摩耶の本来の姿を知っているわけね。」
その言葉に、ちょっと驚いたように瑞希が答える。
「いえ、摩耶ねーちゃんの本来の姿って、摩耶ねーちゃんも人間じゃないんですか?」
「あら、知らなかったの?摩耶は麒麟。聖獣の一つで、癒しの力を持ってるわ。」
「不思議な力を持ってる人だなーとは思っていたけど、真治と同じだったのか。」
「じゃ、真治君だけ?知ってるのは。」
今度は同じように驚いていた弥生が答えた。
「はい・・・。あの、銀色の瞳の、額から角のはえた、鬼・・・」
「そう、初剛鬼。それが真治君の本来の姿よ。」
この後、皆それぞれに思う所があったのか、空気を震わせることもなく時間が過ぎていった。その沈黙を破ったのは真治だった。
「律子さん。今日は泊まっていくんですか?」
「え、えぇ、そのつもりだけど。」
突然話し駆けられて、どもってしまう律子。
「じゃ、僕、夕飯つくってきますね。」
そういうと、真治は台所へと部屋を出ていく。
「あ、私も手伝う!」
「あ、アタシも!」
その後を弥生と瑞希が追う。
残されたのは摩耶と律子だけであった。
「真治君、まだあのこと、気にしているのね・・・」
律子の目には部屋を出ていく時の真治の哀しげな表情が映っていた。

そして、その夜のこと。
真治はまた、あの少女と出会う。


Bパート
ver.-1.00 1997-07/10 公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは jr-sari@mvb.biglobe.ne.jpまで。


ども。ながらくお待たせしたわりには続きものになってしまいました。
しかも、まだ本来の内容にも入ってない。うわきゃー、どうしましょ。
しかも、しかも、オリキャラが5人も登場。後にも数名登場予定。
管理していけるんだろか。ちょっち不安。
こんな妖怪だしてくれ。とか、こんなキャラあるんですけど。とか、感想とか、意見とかありましたら、メールください。
あ、そうそう、美里の配役、これはもう決まってたりします。分かった方もメールどうぞ。

 jr-sariさんの『世界、重なりて』Vol.1、公開です。
 

 ここに来て「妖魔夜行」を思い出しました(^^)

 人間社会に適応して一緒に生きている妖怪・・・
 害なす者vsそいつらを退治しようとしている組織・・・

 そんな感じでしたね。
 グループSNCでしたっけ??

 元々、
 多くの作家が小説を書く形で連載されていましたね(^^)
 

 jr-sariさんが描く妖魔の世界。
 何が巻き起こるのでしょう!
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 不思議な空気に包まれた謎の世界をつぐむjr-sariさんに感想のメールを送って下さい!


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