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私立第三新東京幼稚園A.D.2007



第四話 遠足(前編)


「それでは,あさってに迫った遠足について説明します.席の一番前の子はプリン トを取りにきてね.」
5月のある日のこと,マヤはそう言って明後日の遠足の説明を始めようとしていた .
「みんな,プリントは受け取りましたか?」
「「はーいっ!」」
マヤがプリントが全員に行き渡ったかどうか確認をとった.
「プリントは後で御家族にも見せてくださいね.…それでは,説明を始めます.行 き先は…」
マヤは行き先・日程・持参するもの・集合場所・時間の説明をおこなった.
今回,園児達の行き先は第三新東京市郊外に位置する森林公園.幼稚園からは移動 用バスに乗って約1時間.バスから降りた後,公園内を歩いて行くというものであった .
「他に何か質問はありませんか?」
一通り説明を終えた後,マヤは園児達に問い掛けた.すると園児達の手が一斉に挙 がる.

「まやせんせぇ,バナナはおやつにはいりますかぁ?」
「一本だけならお弁当のデザートでいいわよ.」
「せんせい,おやつだいのせいげんにしょーひぜいはふくまれるんですか?(ちな みにこの時代10%)」
「ええ,消費税込みよ.」
「まやせんせい,あんにんどーふはデザートでいいの?」
「え,ええっ,いいわよ.」
「せんせえ,水筒ににジュース入れてきてもいいっすか?」
「いいけど…炭酸入りのは気が抜けておいしくなくなるから奨められない わね.」

園児達の質問はおやつに関することに集中した.よく考えてみれば多少予算オ ーバーしたとしても,先生達にばれることは殆どないはずなのだが園児達は真剣に質問 していた.
『私の(子供の)時も,同じこと尋ねていたわね.』
マヤは質問に答えながら自分が子供だった頃のことを振り返っていた.

−日課終了後の教室−

「シンジ,レイ!あしたおやつかいにいくけどいっしょにいく?」
アスカは二人に尋ねた.
「うん,いく.」
シンジは笑顔で応えた.
「…うん….」
レイは控えめに応えた.
「でも,どこでかうの?ぼくとアスカはとなりどうしだけどレイちゃんのところま ではちょっときょりがあるよ.」
シンジは疑問を口にした.
「それはかんがえてあるわ.バスのとちゅうでじんじゃのまえにとまるとこがある でしょ.そのちかくに『だがしや』とよばれているものがあるの.そこにしましょ.ア タシいちどいってみたかったのよねぇ.」
アスカが言っているのは送迎バスの行路上にある旧市街にある神社前の駄菓子屋の ことだった.
「で,でもよりみちはよくないしどーやってかえるの?」
シンジはアスカの提案に戸惑いながら疑問をなげかけた.
「アンタ,バカァ?にっかがおわったあとバスにのって,じんじゃでおりて,あと のバスをまってかえるだけじゃない?それにかえるほうほうなんていくらでもあるわよ .」
確かにアスカの言う通りで帰りの送迎バスは2便あって先発と後発の間には1 時間の間隔があった.また,第三新東京市内では路線バスが複数路線走っていてその神 社からシンジ達のマンション方面に出る便もあった.
「…でも,やっぱりおかーさんがゆるしてくれなければだめだよ?」
シンジの言うことはある意味で正論であった.
「(ムッ)じゃ,じゃあシンジにはなにかいいかんがえでもあるの?」
アスカは『そんなのりちぎにいわなくたっていいじゃない.』と思ったがシンジに そんなことできないということはこれまでの経験から分かっていたので代わりにシンジ に考えさせようとした.
「ぼ,ぼくはスーパー『ハルエツ』がいいとおもう….」
シンジの提案は至極まともなものであった.スーパー『ハルエツ』はシンジ達のマ ンションからだと幼児の足では若干の距離があるが,シンジもアスカもそれぞれ何度か 親に連れてもらったこともあり道順はよく分かっていた.また,レイの住んでいるとこ ろからは比較的近いところにあった.ただ,幼稚園児の遠足で使えるおやつ代の範囲で 買い物をするにはお菓子の種類は少なかったが.
アスカの提案は冒険的,シンジの提案は保守的であった.
「ところで,レイはどうおもう?」
アスカは会話に加わっていなかったレイに意見を求めた.
「…わ,わたしは,…その…あの….」
レイはどう答えたらいいか分からずに顔を赤らめた.
「…もうっ,はっきりしなさい.そうやってなんにもいわないのはアンタのわるい ところよ.アタシとシンジ,どっちにさんせいなの?」
「…シンジくん….」
レイにしてみればアスカの提案はとてつもない大冒険の様に思えた.シンジの安全 策を支持したのは当然とも言えた.
「そっ,そう….」
シンジとレイ,二人に反対されてアスカはがっかりした.アスカは無理に押し切ろ うとはしなかったが,顔には落胆の表情が出ていた.
気まずい空気が三人の間を流れた.

「…そ,それじゃアスカのかんがえをそれぞれおやにきいてもらおうよ.もし 3人ともゆるしてもらえたらアスカのいうとおりにするということで.」

アスカの落胆ぶりを見てシンジは妥協案を出した.
「…レイはどうなの?」
シンジが自分に気を遣って言い出したということは,アスカにも分かっていた.そ れを嬉しいと思う反面,そうやって自分の顔色をうかがう態度にアスカは腹を立ててい た.だから,レイに意見を求めた.
「…シンジくんのいうとおりでいいと…おもう….」
レイはシンジの案を支持した.
「…なら,シンジのいうとおりでいいわよ.」
アスカの心にはまだわだかまりがあったが,これ以上意地を張って二人とも困らせ たくなかったという気持ちと駄菓子屋に行ってみたいという好奇心がまさっていた.

−夜 碇家−

「駄菓子屋に行ってこい.シンジ.」
息子から母ユイ経由で事情を聞いた父ゲンドウはシンジにそう言い放った.
「だいたい,お前は甲斐性がなさすぎる.」
ゲンドウは息子には理解のできない言葉でシンジの反論を打ち切った.
シンジは助けを求めるように母ユイを見たがユイは微笑んで「大丈夫よ.」と言う だけでゲンドウを止めようとはしなかった.

−夜 惣流家−

「…そう.シンちゃんとレイちゃんと行くのね.気をつけていってらっしゃい .迷惑かけちゃ駄目よ.」
「アタシ,めーわくなんかかけないもん.むしろ,シンジとレイのほうがしんぱい だわ.」
「シンちゃんが…でしょ.」
「…もうっ,そんなんじゃないってばっ!」
会話の通り,母キョウコはアスカの案に賛成した.

−夜 綾波家−

「レイにそんなお友達が出来てお母さん嬉しいわ.」
家族に対しても口数の少ないレイから事情を聞いたレイの母は喜んでいた.
「お母さんはどちらでもいいと思うわよ.明日,アスカちゃんとシンジくんに聞い てからレイが決めなさい.」
レイはこくんとうなずいた.


かくして遠足の前日,3人は駄菓子屋に行くことになった.


第五話に続く?

公開05/11
お便りは qyh07600@nifty.ne.jpに!!

1997/05/09 Ver.1.0 Written by VISI.



筆者より


「幼稚園」のお約束,「遠足」です.当初は第四話で遠足前日夜まで書く予定だっ たのですが前回以上の長文になりそうな予感がしたので今回はここまでです.
次回もベタな展開です.
レイの母ですが,名前を決めていません.(考慮中….いい名前があるぞという方 ,教えてくださると嬉しいです.)
御意見・御感想をお待ちしております.


(おまけ)
幼稚園の送迎バスについて

昔,私が高校生だったころ自転車通学していたのですがその日は多分午前中雨 が降っていたのでしょう.私はバスで学校に行きました.授業が終わって帰りのバスに 乗ろうと停留所で待っていたのですが前の便が出た後で次は…おそらく…30分ぐらい 先だったと思います.
しかたなくバス停で佇んでいると目の前で見慣れないマイクロバスが停まりました .どこかの幼稚園のバスで運転手のおじさんが乗ってきなさいと私に勧めたのでした. 一度遠慮して,再度勧められて乗っていったことを覚えています.その時,本当の意 味での素直なお礼が言えなかったことも覚えています.
私がこの連載投稿(よく考えてみれば初めてで連載というのも無謀ですが)で幼稚 園の通学手段として送迎バスをだしたのも,このことが10%ぐらい遠因としてあった のかもしれません.(大きな理由は行動範囲を大きくしたかったからですけど)
ちなみに私自身は徒歩で幼稚園に通っていました.

(おまけ おわり)


誤字・脱字・文章・設定の突っ込み等は,

までお願いします.


 VISI.さんの連載、『私立第三新東京幼稚園』第四話を発表です!

 第四話は遠足ですか!

 うーん、懐かしい・・・・
 前日夜のドキドキ、
 集合場所に向かうワクワク。思い出します(^^)

 バナナおやつの質問は必須事項ですね。
 必ず誰かがする(笑)
 こういうセリフが雰囲気を作っています。

 次回は遠足の前座で、駄菓子屋への大冒険ですね!
 アスカちゃんは二人を守れるのか?

 訪問者の皆さんの幼稚園時代最大の想い出は何ですか?
 VISI.さんにそっと教えてあげて下さいね!


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