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Time Sinner

第四話 追跡Bパート


 時は巡る。時に、ゆっくりと。時にはやく。
 まさにその両方が流れていた。

 シンジにはゆっくりと流れており、アスカにはとてもはやく流れていた。

 シンジの時は、今にも止まろうとしている。
 アスカは自分の髪留めからケーブルを取り出すと、シンジの髪留めにつなぎ
はじめた。
 精神下へのダイブをするのだ。
 死んで間もない人間を生き返らせるにはこれしか手はない。
 アスカはシンジの生命維持装置のスイッチをオンにすると、祈る思いで出力
を最大にする。
 そしてそのまま目をつぶって、シンジの中にダイブを試みた。
 あっけなく精神の中にダイブすることができる。

「まだ暖かいわ」

 シンジの精神からあたたかさを感じて安心するアスカ。
 通常、死んだ人間の精神というものは、冷たさしか感じないことが多い。
 しかしシンジの精神は暖かかったのだ。
 アスカは一瞬、このままシンジが死ぬ事を思い浮かべる。

 これなら未来が救われる。トウジもヒカリもこれで救われる。
 そして、あの忌々しい戦争も起こることはない。
 しかし…シンジが死んだとして、私はこれからどうやって生きていけばいい
の?
 もう、未来へは帰れない。帰る手段がない。この世界で生きていかなければ
いけない。それなら、シンジが死んだら駄目。シンジは私の…

「いた。シンジ…」

 光の花びらのようなものに包まれてシンジが横たわっているのが見える。そ
して、アスカが次に見たものは、レイの姿であった。
 レイはゆっくりとシンジのそばに行き、シンジの上半身を抱き上げると、軽
くおでこにキスをする。
 そして、アスカに気がついたのか、見上げると、

「あなたね?うちのシンちゃんをこんなにしたのは?」

 と言った。アスカは少し混乱して、レイを睨んだ。
 しかし、そこに立っていた人間はレイではなかった。よくみると髪の毛の色
や背の高さ、そして何より大人の雰囲気があったのだ。

「あなたは誰?」
「こんなにしたのは、あなたねって聞いてるのよ?」

 その女性は質問を重ねた。

「あ、ごめんなさい。えーっとそうです。アタシのせいなんです。だからこう
やってシンジを生き返らせるんです」
「そう…まぁ、ここに来れるぐらいだからね」

 大人の雰囲気を醸し出しているその女性は、ふっと笑みをこぼすと、アスカ
に近づいていった。

「あなた…シンジのことが好きなのかしら?」
「え………」

 すべてを見透かされているような目で見つめられて、アスカは混乱しつつも
返事を考えたが、結局出てきた言葉はそれだけだった。

「シンジのことが好きならこんな事はしなくてもいいんじゃない?」
「そ…それは…でも、気になるじゃないですか」
「そうね…私も見てみたいわ。あの葛城ちゃんがしっかりとした仕事をしてい
るのか、この目でね」

 そう言うと、その女性はアスカの位置より更に高いところに浮かび上がって
いった。

「あの、あなたは?」
「私の名前は、ユイ。シンジのこと、よろしくね」
「はい!」

 既に見えなくなったユイにむかってアスカは元気よく返事をすると、シンジ
の傍らに降り立ち、そっとシンジにキスをして自分の生命の波動を送り込んだ。
 一瞬、ビクンと痙攣をするシンジ。辺りに心臓の鼓動の音が響きわたる。あ
っと言うまであった。
 シンジの時間は再び動きはじめた。アスカはその事を確認すると、自分の体
に戻ろうと、その場を飛び立った。


 何かが自分の頬に落ちたことに気がついてシンジはうっすらとではあったが
意識を取り戻した。
 すぐ目の前にアスカの顔があった事に気がついて、シンジは大きく目を見開
いた。体を起こそうとしたが、うまく体が動かなかった。しゃべることが精一
杯である。

「アスカ……」
「シンジ…ゴメンね…アタシが…アタシのせいで…」
「アスカ…よかった、無事だったんだね…」
「シンジ…シンジ…アタシの事なんてどうでもいいのに…アタシはシンジさえ
よければそれでいいのよ…」
「僕も、アスカが無事だったら…それでいいんだよ」

 アスカのぼやけた視界が更にぼやけていく。
 そして、そのままシンジの胸に顔を埋めて泣き出してしまう。
 シンジは、少し動かすことができるようになった手でアスカを優しく慰めた。
そして、自分の気持ちに気がつく。

 僕は…アスカの事が…いや、アスカにそばにいてほしいんだ。
 好きとか、愛しているとかそんなんじゃなくて…ずっとそばにいてほしいん
だ…あぁ、アスカ、アスカ、アスカ…
 アスカ、ずっとこうしていたい。ずっとこうして…

 程良く時間が経過した頃、アスカは泣くのを止めてシンジに抱きついたまま
の格好でシンジに問いかけた。

「ねぇ、シンジ。ユイさんって誰?」
「え、ユイ?…アスカ、母さんに会ったの?」
「お母さんなのね?」
「うん、碇ユイ。僕の母さんだよ…」
「そう…」

 アスカは、一度シンジをはなすと、満面の笑みでシンジを見つめた。
 それ以上、二人に言葉はいらなかった。



 どれぐらい時間が経った頃であろうか、太陽が真上から照らし陽炎が見える。
アスカとシンジはミサトが消えた壁を調べていた。
 一見、その壁は普通の壁に見える。しかし、それはその壁だけのことであっ
て周りの壁と比べると、苔や草の生え方が違うのがわかる。
 しかも、アスカが調べたところ中は空洞になっているのだ。シンジはただ何
となくその壁をペタペタとさわっている。

「あのねぇ、もうちょっとましな調べかたってあるでしょ?」
「えっ?だって、僕はアスカみたいなそんなメガネとか持っていないし…」
「あんたも使えるのよ。頭で考えて髪留めのボタンを押すの!」
「ん…」

 言われた通りに髪留めのボタンを押すと、あっと言う間にシンジの目の前に
ヘルメット付きメガネが覆い被さるようにして姿を現した。
 それをアスカは目を丸くして見つめた。
 男用の髪留めを使うところをはじめてみたのだから仕方がない。
 それと同時に、アスカは嫉妬感を覚えてしまう。

 アタシのには、あんなのは付いていなかった。
 女用とは全然違うのね…

 少し悲しい気持ちになってしまうアスカであったが、次の瞬間叫びそうにな
った。シンジがその壁を開けたのだ。

「どうやって開けたの?」

 素っ頓狂な声を上げたアスカに、自分でもどうやったのかわからない表情を
向けると、首を横に振って答えた。
 今まで壁があったところにポッカリと見事なまでに口を開いている。
 その奥は、いかにも怪しげな空気が漂っている。
 アスカとシンジは、慎重にその中に足を踏み入れることにした。

「それじゃ、行くわよ。シンジ」
「うん…」

 中に入った瞬間、扉が音もなく閉じてしまう。
 アスカが気が付いて振り返ったときには、もう入り口が完全に壁になってい
た。時既に遅しとはまさにこのことである。
 これで、シンジとアスカは進むことしかできなくなった訳だ。
 暗い緩やかな坂道をアスカとシンジは進み出した。
 一歩一歩、確実な足取りで。


つづく 1997-10/01 公開 不明な点、苦情などのお問い合わせはこちらまで!


作者による後書き  どうも!OHCHANです。  時間がかかった割に、短いですが「追跡Bパート」をお送りいたします。  ついに、親公認の仲になりました。いやぁ〜めでたい限りですね。  やっぱり、親に認められるって言うことは大事なことだと思います。  と言うわけで、次回をお楽しみに。
 OHCHANさんの『Time Sinner』第四話Bパート、公開です。  さっそくGET・・・親の公認。  アスカ嬢はいきなり強力なものを手に入れましたね(^^)  格好良いシンジくんですから、  この先ライバルが現れる可能性大ですね。  でも、  これで大きなリード?!  さあ、訪問者の皆さん。  OHCHANさんに感想の文を送りましょうね!


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