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Time Sinner

 第弐話 それはまさに奇跡

 アスカは、碇シンジを見てさえない男だと思った。
 はっきり言ってこんなやつが元凶かと思うと、心底腹が立った。
 こんな奴のために、ヒカリやトウジ、ケンスケや他の仲間達が命を落とした
のだ。スカウターで本物の碇シンジだと分かったときには殺してやろうかと思
った。しかし、アスカはシンジに惹かれた。
 それは、ひょっとしたらシンジにとってラッキーなことだったかもしれない。
そのおかげで殺されずに済んだのだ。

 その落ち着き払った態度。
 そのくせいつも逃げれるような体制作り。

 どれをとっても、アスカの嫌いな人間そのものだ。
 しかし、アスカはそこに惹かれた。
 どうしてかは自分でも分からない。
 自分が過去を変えなければならないと言う責任からかもしれない。
 そして何より自分に自信があったからかもしれない。

 私の魅力で、シンジをメロメロ(死語)にしちゃうわ!

 という自信があったからかもしれない。

 次の日の朝。
 アスカはシンジの部屋の前にいた。
 深呼吸を一回すると、ふすまに手をかける。

「こら!バカシンジ!はやく起きなさい!!」

 ふすまを開けるなり、気持ちよさそうに眠っているシンジに向かって怒鳴り
散らすアスカ。

「…ん…なんだ、こんな朝早くから…」
「はぁ?あのねぇ、今日から私が同居することになったんだから、シャキシャ
キ起きなさい!」
「えぇ!!ど、同居?あぁ、そうだったね…すっかり忘れてたよ」
「そう、だからはやく起きなさい!」

 アスカは、ばさっとシンジが被っていた毛布をひっぺがした。
 そして…

「きゃー!H、スケベ、変態!さいってー!!」
「しょうがないだろ?朝なんだから」

 合掌…



 時間は少し過去、前日の夕方までさかのぼる。
 運良く、未来の悪の元凶、碇シンジに出会えたアスカは、酔っぱらっている
ミサトの目の前で、シンジの恋人宣言をしたのだ。
 その後、シンジと一緒に暮らすだの、シンジと一緒じゃなきゃここで舌を噛
むだのと、必死に訴えてなんとかシンジ達の家族の仲間入りをはたしたのだっ
た。結局その日は、3人で夕食を食べて、眠りについたのだ。



 そして現在。
 シンジの朝立ちにいらだちを覚えながら、アスカはシンジの作った朝食を食
べていた。

「まったく、朝っぱらからひどいものを見てしまったわ」
「しょうがないだろ?僕だって男なんだし、中学生だから…」
「あのねぇ…少しぐらい我慢するって事ぐらい出来ないの?はん、どうせ私の
裸がでてくる夢でも見ていたんでしょう?」
「ギクッ……」

 まったくをもってその通りである。
 その日のシンジの夢は、裸のアスカのオンパレードであった。
 夜中に一度目がさめて、こっそりパンツを洗いに洗面所に向かい着替えたほ
どだ。
 しかもその後、何度か目を覚ましては危なく出そうになっているものを、ト
イレで処理していたのだ。

 すぐ顔にでるシンジをアスカはため息で答えると、目玉焼きをこれみよがし
に一口で食べて、ごちそうさまをした。

 そして、着替えるわと言って髪留めのボタンを押した。
 すると、シュルシュルと布が髪留めからのびてきて、あっと言う間にシンジ
の学校の制服になったのだ。
 さすがに驚きを隠せないシンジは、危うくご飯を吹き出してしまうのを必死
に手で押さえると、目を丸くしてアスカを見つめた。

「ん?あぁ、これね。コンパクト…ま、とにかくこれがあればアタシの着替え
はいらないのよ」
「ふーん…どこで売ってたの?そんな便利なもの」
「作ったのよ、アタシの友達が」

 そして、しまったと思ったのかアスカは口を押さえる。
 しかし、シンジはふーんだの、その友達はすごいねぇだのと感心している様
子だったので、アスカはほっと胸をなで下ろした。
 着替え終わったアスカは、洗面所で歯を磨いて、玄関でシンジを待った。

「はやく行くわよ!シンジ、何やってるの?」
「ちょっと待ってよ、お皿とか洗わないと…」

 アスカにせかされて、急いで皿を洗う主夫が体に染みついているシンジの姿
を、情けなく思いながら、アスカは玄関で待っていた。

「おまたせ!さぁ、行こう」
「全く、皿洗いなんてミサトに任せておけばいいのよ!何にもしないグータラ
なんだから」
「そんなことないよ、ミサトさんのカードの残金はいつも壱百万を越えている
から、なにか仕事をしているはずだよ」
「あ、そう…」

 アスカは呆気にとられた。
 データによると、シンジはアルバイトをして生計を立てているとなっていた
し、ミサトに至っては、シンジと同居していて、毎日毎日を飲み明かす生活を
送っているはずなのだ。
 昨日出会ってから今までそのデータを信じていたアスカは、思いきってシン
ジに聞いてみた。

「ねぇ、シンジ。アンタ、バイトとかしてるの?」
「え?どうして」
「だって、バイトしてたら家に帰るのが遅くなるじゃない」
「今はしてないよ。前はしてたけど」
「前って、いつごろ?」
「そうだね、1年前ぐらいまでかな?あの頃からミサトさんが僕にカードを預
けてくれたんだ」
「ふーん…」

 データに間違いの一つぐらいはあるか、とアスカは思った。
 シンジの学校までは少し歩くため、アスカはため息ばっかりついていた。
 未来でこんなに歩いたことはないのだ。
 基本的には、バーチャルサバイバルでもしない限りこんなに歩くことはない。
いつもは転送装置があるから歩く必要はないし、施設から出たことがなかった
ので、外を歩くこと自体、アスカにとっては疲れる行為なのだ。

「ちょっとシンジ。学校ってまだ?アンタっていつもこんなに歩いて学校に行
ってるの?歩くの趣味なんじゃないの?」
「何言ってるんだよ、アスカ。今日はアスカの転入手続きとか色々やらないと
いけないからちょっと朝早く出てきたんだよ。それに、もっと遠いところから
通っている人も居るんだよ」

 ブツブツと文句を言っているアスカにため息をついてみせると、シンジはア
スカの後ろに回り込んで背中を押しはじめた。

「ほら、急がないと手続きできないだろ?」
「わかったわよ!」

 アスカは、シンジとそうやって喋りあったり、じゃれあったりすることが、
楽しくてしょうがなかった。一度惹かれた相手だからまぁそれも当たり前では
あるのだが、アスカはこうやって同じ歳の男の子と遊んだことはなかったのだ。
 未来では、訓練や、模擬戦に明け暮れる毎日だったのだ。
 と言っても、友達がいなかったわけではない。もちろん、親友もいた。
 しかし、それはただの友達でしかなかったのだ。
 シンジがどう思っているかはわからないが、アスカはシンジのことが好きに
なっていた。

 マンションを出て、公園を横切り、坂道をくだる。その先の商店街を抜ける
とシンジが通っている学校につくのだ。
 学校につくまで、アスカから何度、休憩を申し込まれたであろうか。
 アスカは校門の前まできて肩で深呼吸をした。
 そんなアスカを見てシンジは微笑むと、一足先に校舎に向かって歩き出した。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!シンジ、アタシも行くわよ」
「アスカ、とりあえず職員室に行こうよ」
「わかったわ」

 今度は階段にブーブー言いだしたアスカを何とかなだめて、シンジは職員室
に向かった。
 朝の挨拶をして、職員室に入ったシンジは、とりあえず担任の先生にアスカ
の事を説明した。
 担任の教師は、特例の留学生としてアスカを学校に迎え入れたのだった。

 こうして、アスカは過去の世界に仲間入りをはたした。


つづく 1997-08/29 公開 不明な点、苦情などのお問い合わせはこちらまで!


作者による後書き  どうも!毎度毎度、OHCHANです。  第弐話の公開です。とうとうアスカが過去の仲間入りをはたしました。これ って奇跡だと思いません?その日に行って、いきなり留学生扱いなんですよ。 まぁ、種をあかせば、アスカがドイツ語でベラベラと喋ったんですけどね。  とにかく、次回をお楽しみに……ふふふふふふふふふふふふふふふふ  それではまた!アデュー!!
 OHCHANさんの『Time Sinner』第弐話、公開です。  いきなり留学生!  おめでとうアスカちゃん(^^)  いきなりですよね・・・  これは、OHCHANさんの言う「ドイツ語で喋った」事だけではなく、  あやしげなハイテク品でクラッキングをしたと見た方がいいのでは(^^;  あの衣装チェンジ装置、  着替えの合間に一瞬裸になったりはしないのかぁ(爆)  さあ、訪問者の皆さん。  ペースが上がっているOHCHANさんに感想のメールを送りましょう!


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