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当日が近づくにつれて、稽古の時間がだんだんと長くなっていき、シンジはなかなかアスカのもとへ行

く時間が作れなくなっていった。

そのことをシンジは気にしてはいたが、劇、という今までになじみの無い新しいことをやっているせい

か、それ程そのことには注意を払ってはいなかった。

一週間前、初めての通しの稽古。

ケンスケの指揮下、主役の二人以外の演技はほぼ完璧な物となっていた。肝心の二人はというと、一週

間の集中特訓の成果、まずまずのものになっていた。



今更な学園EVA(!?)

シンジとジュリエット Part B -Say you're lying, please!-



舞台の中心で横から見える棺桶のなかで目を閉じて横たわっているレイ。

薄く化粧をして、純白のドレスに身をつつむ姿はこの上なく美しい。

そこに舞台袖から王子の衣装――タテ縞の上着にタイツの上に堤燈ブルマー、そしてマントっつーのあ

れ――のシンジが盃を携えて登場。レイを見つめながら、

「ああ……ジュリエット姫……あなたは死してもなぜ……こんなに美しいのですか?真っ赤な唇、透き

通るような白い肌……しばらくお待ちになっていてください。僕も……直ちにあなたのもとへ参ります」

シンジはそう言うと、手に持っていた盃に口をつけ、横たわるレイを抱きしめるかの様に倒れこんで、

目を閉じる。と、同時にレイの頬に僅かながら赤みがさす。

「うーん、良い感じだねぇ」とは眼鏡を光らせたケンスケの言。

本来ならここで、僧ロレンス――ジュリエットに眠り薬を与える人物――が登場するのだが、このシー

ン、ケンスケははしょるようだ。まぁ確かに二人だけにしといたほうが悲しい恋物語としてはもりあが

るのだろうけど。

閑話休題。

レイは上体を起こし、

「やっと目がさめたわ。さて愛しのあのお方はどこ?」

と呟いて、自分の腰の当たりに倒れているシンジを見る。そして、ひどく驚いたような仕草――ケンス

ケが一度身振りを交えて教えた――をし、

「そんな……、まさか……、ロミオ様……」

(碇君……)

――ここでシンジが死んでるって想像してごらん

とのケンスケの演技指導の通りに考える。すると何故か涙が溢れてくる。

(碇君……)

涙声になりながら、レイは言う、

「なぜ死んでしまわれたの?私は……ただ死んだ振りをしていただけなのに……それにしてもひどい、

毒をすべてお飲みになってしまわれたなんて。一滴くらい残しておいていただけたら、私もすぐに後を

追えたのに……」

ここで、夜警役の生徒達のガヤが聞こえてくる。

「でも、ぐずぐずしている場合じゃないわ。早く後を追わないと……」

と、シンジの腰にさしてある短剣――押すと引っ込む細工がしてある――を手にとり、

「この短剣……、この胸がお前の鞘なのよ。ここに収まりなさい、そして私を死なせて頂戴」

そう言うと、レイは短剣を胸に突き刺し、シンジと重なるように倒れこむ。

そこで袖から夜警役がトウジを筆頭に登場、二人を見るやいなやトウジが言う、

「ここに倒れるはロミオ様、それに二日前におなくなりになったはずのジュリエット様ではないか。お

い誰か、太守様、モンタギュー様、キュピレット様に御報告申し上げろ」

夜警役がトウジを残して退場。そしてトウジが呟く。

「悲しい不幸の数々が横たわっている……そのありかはわかっているが、この痛ましい不幸の本当の原

因の在処は……」

トウジの台詞の途中から証明はだんだんと暗くなり、終わると同時に幕が閉じていく。それを受けて、

ナレーションが響く、

「……純粋な愛。愛は何よりも貴く、何よりも深い。この二人の悲しい結末は二人の互いを思う気持ち

が強すぎたにほかならない。しかし、これだけの事をする覚悟が本当の愛なのだ。二人は互いを強く思

い、愛しあっていた。このような強い愛が、もうこれ以上不幸にならないことを祈りながら、この世界

で一番悲しい恋物語を終える……」


「うん、まずまずのできだ」

ケンスケが拍手で全員を迎える。隣で見ていた担任はというと、「セカンドインパクト以前は……」な

どとわけのわからない呟きをもらしている。

「でもまだ改善の余地はあるよな……」

ケンスケは役者一人一人にアドバイスをして回る。映像マニアの彼の目は恐ろしいほど細やか、正確で

、聞くほうもいちいち感嘆の声をあげている。

その間、シンジはレイに声をかけた。

「綾波……凄 「そ、そう?」

「うん。特に最後の涙流すところなんて、完璧だよ」

「……ありがとう」

少し暗い顔になってレイは答えた。

普通ならわからない程の微妙な変化だが、レイの表情には人一倍敏感なシンジは気付き、

「ゴメン……なんか、悪いこと言ったかな」

と、謝る。レイはあわてて、

「……そんなこと無い。悪いのは私……」

続けようとしたところで、ケンスケがやってきた。

「いようっ、お二人さん!良かったよ、今日は。特に綾波」

「私?」

「うん、最後の涙は最高のタイミングだったね。俺のアドバイス、役に立ったろ?」

「ええ……」

答えながら、レイは再び少し暗い表情になる。

(お芝居とはいえ……碇君を……)

それにはまったく気付かず、ケンスケは続ける。

「綾波はもうほぼいいとして……、問題はお前だな。シンジ」

最後のシーンは気合が入っていたので大丈夫だったが、そこにいたるまで結構台詞をとちっていたシン

ジは素直に、

「ゴメン……」

「謝られても困るんだけど……、まぁいいや。まだお前は全体的にこう……演技演技してるとこがちょ

っとな。もう少し自然にやってくれよ」

「でも……」

これが精一杯なんだけど、と続けようとしたシンジにケンスケは一言。

「お前、明日から放課後集中特訓な。俺が満足するまで帰らせてやんない」

「そ、そんな……」

助けを求めるようにシンジは周りを見渡すが、今現在、演技の権威でもあるケンスケに刃向かえる者は

いなく、みなシカト。頼みの綱のレイですら、どこか遠くの方を見つめている。

ケンスケの眼鏡が光り、シンジを見つめる。シンジは力無くうなだれて、

「……はい……」

と、うなずくのであった。

その返事に満足したケンスケは、

「もう5時半か……じゃ、今日はこれまで!明日は7時半から朝練な!それじゃお疲れ様!」

と、稽古の終了を宣言した。


「ふーん、大変ねぇ」

自宅のテーブルで、シンジからことのあらましを聞いたミサトはそう答えた。しかし、缶ビール片手に

言っているので、同情心のかけらもシンジは感じ取れなかった。しかし、

「……まぁそういうわけですから、しばらくは僕、夕ご飯準備できないと思います」

この一言がミサトを変えた。

「なんですって!?」

豹変したミサトはシンジの胸倉を掴み、

「どーゆーことよ!夕ご飯が作れないって!」

「どうもこうも……さっき言ったでしょ。明日から放課後ずっと稽古に当てられるって……」

「早くは帰ってこれないってわけか……じゃぁわたしはシンちゃんが帰ってくるまでまってるわ」

言いながらシンジを離すミサト。自分で作るって選択肢はないのか?

しかし、シンジは更に加える、

「帰ってきても……疲れて何も作る気力ないと思うんですけど……」

これは掛け値抜きのシンジの本心だ。劇という、普段あまりやらないことをやっているので、気の使い

方が普段とはぜんぜん違うのだ。

「ひょ、ひょんな……」

がっくり椅子でうなだれるミサト。それを見たシンジはあわてて、

「ま、まぁ朝に用意できる限りは用意して、冷蔵庫に入れておきますから」

と、フォロー。しかしミサトはうなだれたまま、

「……シンちゃん、あなた朝も早いんでしょ……」

「うっ……」

そーいえばそうでした、とは言えないシンジ。

「ま、まぁ可能な限りはなんとかします……それじゃ僕はこれで寝ます。オヤスミナサイ」

そう言って出て行こうとしたシンジに、ミサトはあることを思い出して声をかける。

「そう言えばシンちゃん、最近アスカのお見舞いに行ってるの?」

ぴた、と止まるシンジ。

「その様子だと行ってないのね……」

「すいません……」

「別に責めてるわけじゃないわ。それにお見舞いに行くのがあなたの義務ってわけでも無いしね。ただ

……」

ミサトはそこで口を閉じる。あることを言うか言うまいか躊躇しているのだ。

何も知らないシンジは訊ねる。

「ただ……何ですか?」

「ううん、別に何でもないわ」

その言葉に若干の違和感を感じつつも、シンジは

「そうですか……それじゃほんとにおやすみなさい」

と言って、自分の部屋へと向かって行った。

一人リビングに残ったミサトは呟いた。

「やっぱ……わたしからは言えないわ……」


稽古は続いた。

特にシンジの特訓は毎日7時すぎ位まで続けられ、シンジは毎日かえってはすぐ眠り……という生活を

繰り返していた。

そんなだから、当然アスカに会いにいく時間など作れず、次第にシンジはそのことをあまり気にとめな

くなっていった。


そして、本番壱日前。

外で夕飯をすませ――最近シンジはまったく夕飯を作らないので――ミサトは9時頃帰宅した。

既に部屋の電気は完全に消えていて、シンジはもう眠りの床についていた――かというとそうでもなか

った。本番を控えて緊張しているため、少し寝付けなかったのだ。

かといって、出迎えるのも何か、と思いシンジが黙っていると、リビングで電話の鳴る音、しばらくし

てミサトの声が、

「そんな!……嘘でしょ?ちょっと止めてよ、そんなこと……」

何だか気になったシンジは起き上がり、リビングへ向かう。

シンジが暗いリビングに入った頃には、もう電話は済んでいた。

シンジに気付いたミサトが声を掛ける。

「シンちゃん……」

言葉からいつもの元気が感じられない。シンジはそれが気になって訊ねた。

「なにかあったんですか?ミサトさん」

「ちょっち、ね……」

「さっきの電話ですか?」

「ど、どうしてそれを?」

「寝付けなくて……そしたら電話の鳴る音とミサトさんが叫んでるのが聞こえて……」

「なるほど、ね」

ミサトはそう言ったきり黙ってしまった。

「どうやらあの電話が原因みたいですけど……」

「ちょっち……」

ミサトは真実を言おうかと思ったが、言った後の事を考え、ためらわれた。

何よりも、まだはっきりしたことじゃないから……と気持ちを整理して、

「……やっぱ言わない」

そう言われてしまうと、気の弱いシンジとしては何も言えない。

「そうですか……」

気になりはしたが、本人が言いたくないことをいわせるのもなにか……、

シンジはそう考え、

「じゃぁいいです。無理に聞くのもなんですから……僕、もう寝ます」

と言ってリビングを出ていった。

ミサトは声をかけようとしたが、途中でやめた。

「やっぱり、言えない……」

そう呟くと、ミサトは冷蔵庫からビールを取り出し飲みはじめた。

数缶あけると、ミサトは泣き崩れた。

「ごめんね……シンちゃん、ごめんね……」


次の日の朝。

結局シンジは昨晩、ミサトにおやすみを言った後、疲れていたせいか、直に眠りにつけた。

ベッドから起きて、顔を洗いに行こうと部屋の戸を開ける。すると視界にリビングの方で、テーブルに

突っ伏しているミサトが入った。

「ミサトさん……?あんな所で寝ちゃって……しょうがないな」

シンジは部屋に戻って、自分の毛布を手に持って、リビングへと向かう。

リビングでは、遠くからは見えなかったが、何本ものビールの空缶が床に転がっていた。

「……ったく」

シンジはまずミサトに毛布をかけて、落ちている缶を拾い集める。缶は色々な所に転がっていて、集め

るだけで一仕事だ。

テーブルの真下にも一個落ちていて、それを拾おうとしたシンジはつい、ミサトの足を引っ掛けてしま

った。それに気付いてミサトが目を覚ます。

「う……ううん」

「あ、すいませんミサトさん、起こしちゃいましたか?」

シンジは慌てて声をかけた。ミサトは寝起きが悪い上、寝不足だとかなり不機嫌になるから。しかし、

今日のミサトは少し違っていた。

「え……、ああ、別にいいわよ……それよりシンちゃん、今日本番だっけ?」

シンジはミサトの反応を不思議に思ったが、そのことについては何も言わず、

「はい。ミサトさんも来てくれるんですか?」

「もちろん、元Nerv連中みんな連れて行くわ」

「いえ、忙しい方にまで無理にとは……」

「だいじょーぶよ、みんな今、ほっとんど何もしてないから」

……Nerv解体後、組織そのものはゲヒルンの名のもと残ってはいるし、仕事もいろいろとあるのだが、

Nervの頃と比べると大分楽で、少ない。その分実入りも少な……くはない。超法規組織だったのだから

、秘密を色々と抱えていたので、それが漏れないように……と多めの給料が支払われている。

「そうなんですか?まぁそれでも無理矢理引っ張ってきたりしないでくださいね」

「はいはい」

ふと、シンジが思い出したかの様に呟く。

「できれば……アスカにも来て欲しかったな……」

アスカ、という言葉に少し顔を歪めるミサト。シンジはそれには気付かずに続ける。

「そうだ!今日終わったら久しぶりにアスカのお見舞いに行きませんか?」

「そ、そうね」

ミサトの動揺にもまったく気付かないシンジ。

「ケンスケがビデオまわすらしいから、それを借りてって、アスカにも見せてあげよう!」

たまりかねたミサトが、シンジに声を掛ける、

「シンちゃん、ちょっと……」

「何ですか?ミサトさん」

ミサトはあの事を言おうとしたが、言えずに、

「いやぁ……支度しなくて平気なの……なんて」

と、ごまかした。

「あ……」

と時計を見るともう七時半。45分迄には来い、と言われているシンジはあわてて、

「そう言われればそうでした!すぐ支度しないと……」

と洗面所に走っていくシンジ。

5分ですべての支度を終え、シンジは学校へと行った。

その時、ミサトは部屋で電話をかけていた。

「もしもし……マヤ?うん、昨晩は大丈夫だったのね……でもまだ……わたしもこれからそっちに行く

……うん……シンちゃん?……言えなかったわ……今日ね、彼、学校でお芝居やるのよ……『ロミオと

ジュリエット』……うん、終わったら絶対に知らせるわ……もうレイには言ってあるのね?……そう…

…じゃ」

そう言って受話器をおろし、ミサトもまた身仕度をはじめた。


午後3時より始まった劇は2時間経過して佳境に入ってきた。

舞台では、神父がジュリエットが例の仮死の薬を与えるシーンが始まっていた。

「……それほどの覚悟がおありなら、この薬を飲みなされ。この薬を飲むとあなたは気を失い、あたか

も死んだかのように肌は冷たくなり、唇からも生気がぬけたかのようになる。しかし、ちょうど42時間

の後に何事もなかったかのように再び眼を覚ます、いわば仮死の薬じゃ。この国の慣しでは死んだ者は

奇麗に着付け、化粧をして弔う。私がロミオに使いを出してこう、さすれば墓地において、ちょうど目

覚めたあなたをロミオが掘り出し、ともにマンチュアへと旅立つことができよう」

「何と素晴らしいお薬、そして計画なの?それならば私も晴れて愛しいあの方と共に参れるのね。ああ

待ちきれないわ。神父様、早くそのお薬を下さいませ」

ジュリエット――レイは神父役の生徒に向かって手を差し出す。その手にビンを握らせる神父。

レイはそのビンを大事そうに胸に抱え込んで、

「それでは、失礼致します」

と言って、舞台から退場する。

「ロミオには早急に使いを出す。神の御加護のあらんことを!」

神父はそう言うと、レイが出ていった方とは反対の方に退場していった。

照明が消えて、しばらくのどたばた――セット交換――の後、今度はジュリエットの寝室。

レイはビンを飲み干す振りをして、ベッドに倒れ込む。

乳母役の女生徒がやってきて、姫に声をかける。

「姫様……さぁ婚礼の日にございます。お起き下さいませ」

しかし、当然ながらレイは無反応。

いぶかしげな表情をして、乳母はレイに近づき、そっと首に手を当てる。そして、目をカッと見開き、

二三歩後ずさりをして、叫ぶ。

「ひ、姫様が……姫様が!」

その声を聞きつけ、キャピュレット夫人――ジュリエットのお母さん――役のヒカリが登場。

「何ですか、騒々しい……おやジュリエット、まだ起きていないのですか?」

「それどころではございません。姫様の様子が……」

「どれどれ……」

いいながらレイに近づくヒカリ、そしてレイにさわり……

「……冷たい!どういうこと?ねぇジュリエット、眼を開けて!お願い!」

しかし、ジュリエットは相変わらず無反応。

次第に眼に涙を溜めはじめるキャピュレット夫人

「姫が……姫が死んでしまった!」

叫ぶと同時に泣き出す夫人。

叫び声を聞きつけ、今度はキャピュレット役の男子が出てくる。

「おいどうしたのだ」

「姫様が……お亡くなりになりました」

「何だと?」

そう言ってキャピュレットもまたレイに近づき、触れ、レイの顔を見つめ、

「これは……唇には生気もなく、肌は冷たい。死神が降りておる……そんな……」

言うと、床に座り込むキャピュレット。

遠くで姫を呼ぶ声が聞こえながら、ゆっくり幕が落ちる……。


全員が舞台袖にやってきた。

ケンスケがねぎらいの言葉をかける中、シンジはレイに言う。

「綾波本当に上手だね、本番に強いのかな」

「そうね」

しばらく沈黙の後、もうすぐ最終幕だからスタンバってとの声がかかり、舞台へ向かおうとするレイ。

シンジはあわてて声をかける。

「あのさ……今日このあと、この劇のビデオもってアスカのお見舞いに行くんだけど,綾波も来ない?」

その言葉に、レイはいぶかしげな表情をして、

「そんな状態まで回復したの?」

と、シンジには意味が良く分からない事を言った。

「それって……」

その言葉に突っ込もうとしたシンジに、レイは続けた。

「あの人……危篤だって昨日、伊吹二尉から聞いたけど」

「なんだって?」

思わず大きい声をあげるシンジ。周りがいっせいにシンジに注目する。シンジはそんな視線も気にせず、

「どういうことだよ、それ。アスカが危篤?嘘だろ?」

「私、嘘はつかないわ」

「そんな……どうしてそんな急に?」

その言葉に再びいぶかしげな表情をしながら、レイは言った。

「あの人、一週 「え……」

一週間前……ちょうどアスカのお見舞いの事を突っ込まれた時……

シンジはようやくここ一週間のミサトの妙な態度の原因が分かった。

恐らく、一週間前から、アスカは状態が思わしくなくなって、そして昨日の電話……あれはアスカの危

篤を知らせた電話だったのだろう。

シンジは思いつめるような表情をして、こう言った。

「綾波……後よろしく。僕はアスカのところ行ってくる。今すぐ」

「劇はどうするの?」

「衣装の代わりはあったと思うから、誰か他の人にやってもらってよ」

そう言うやいなや、出口にむかって駆け出すシンジ。

しかし、そのシンジをはばむ者がいた……ケンスケである。

「おいシンジ、一体どこ行くんだ?出番すぐじゃないか」

「それどころじゃないんだ。アスカが……アスカが大変なんだ。僕はアスカの様子を見に行く」

「ちょ、ちょっとまてよ、それじゃ劇は……」

「この衣装のスペアはそこにおいてある。ケンスケ、君があれを着て出ればいいじゃないか」

「そうじゃなくて、この劇はお前で通さないと……」

「それは君の都合だろ?僕には関係ないよ」

シンジもケンスケのもくろみには大体見当が付いていた――仮にも友達なんだし。

「で、でもさ、あとちょっとだろ?俺のために頼むよ」

ケンスケが必死で懇願する。いつものシンジならこれで折れていただろう。

しかし、今日のシンジはちょっと違っていた。

「うるさい!邪魔だ!どけ!!」

シンジはケンスケを突き飛ばし、出口を走り抜けた。


シンジはひたすら校門へ向かって走っていた。

途中、ロミオの衣装のままのせいか、何人もの人に指さされたり、笑われたりしたが、まったく持って

それは気にならなかった。

そして、なぜかちょうど校門の所で、うろうろしているミサトを見つけた。

「ミサトさん!」

いきなり声をかけられたミサトは驚いてあたりを見回す。そして、今、一番会いたくない人間が走って

くるのを見つけた。

「し、シンちゃん……その……ゴメンナサイ……」

しおらしく謝るミサト。

「そんな事どうでもいいですよ!それよりアスカは?」

「そ……それは」

シンジがしたさっきの質問は、ミサトがいま一番してほしくなかった物だった。

シンジはつづける

「危篤だって話、綾波に聞きました。それで、今はどうなんですか?」

勢いで言ってしまったものの、シンジは少し後悔した。と言うのか、答えを聞くのが恐くなった。

嘘をつくべきか、本当の事を言うべきか……、

ミサトは少し考えて、

(すぐ……わかっちゃうわよね……)

と結論をだし、きっぱりと言った。

「アスカね……ついさっき、息を引き取ったわ……」

「!?」

一番恐い……一番聞きたくなかった答えが返ってきた。

「嘘だ……。嘘でしょ?ミサトさん!ねぇ、嘘なんでしょ!嘘だって言ってくださいよ!!

ミサト……さん

だんだんと声が小さくなっていくのシンジに。ミサトは沈黙をもってさっきの言葉を肯定した……。


Part C に続く


NEXT
ver.-1.00 1997-08/20公開
ご意見・感想・誤字情報などは mayuki@mail2.dddd.ne.jp まで。


 yukiさんの『シンジとジュリエット』 Part B、公開です。
 

 ウーン、
 ミサトさんに手紙を書いたら、

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 toミサト

 ミサトさん、またまた大チョンボですね・・・

 「アスカが危篤」なんて絶対に知らせなければならない事柄じゃないですか。
 言うべきか言わざるべきかなんて、迷うこと自体が考えられない。

 それ以前に様態が急変したときにも黙っていたし、
 病院に駆けつけたシンジにも、まだ言おうか迷っているなんて・・・
 

 一体どうしたんだろう?
 冗談抜きで酒を止めることを進めます。

 判断が異常です。
 論理的にも、感情的にも。

         from神田

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 

 って感じでしょうか(^^;
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 yukiさんに貴方の感想を送りましょう!


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