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Lust Update 1997/06/26

書いた人 まさひこ(From IN THE OTHER WORLD)

掲載してくれた方(Thanks!!) KanSinさん〜めぞんEva大家さま〜

 

 

 

「…ここは…何処なんだろう?…」

 

気がつくと、シンジは暗闇に立っていた。

周囲は暗闇。

視界に入るものは何も無い。

自分が制服で暗闇の中にぽつんと立っている。

それだけの世界。

ンジ以外は何も存在しない世界。

暗闇と静寂が、全てを包み込む世界…

 

あれっ?僕は何でこんな所にいるんだろう?

何にも見えないや…

僕は確か…

 

シンジは再び周囲を見回す。が、何も見えない。そして聞こえない。

本当に自分以外は存在しない世界?

シンジは不安になって少し大きな声で叫ぶ。

 

「ねえ、誰もいないの…」

 

「みんな…何処に行っちゃったの?」

 

「綾波〜、アスカ〜」

 

「ケンスケ〜、トウジ〜」

 

「ねえ、誰か答えてよう!!」

 

だが、シンジの期待とは裏腹に、周囲の暗闇の世界からは何のレスポンスもなかった。

ただ、自分の言った台詞が軽いエコーを残して、闇の中に溶け込んでゆく…

 

「…どうして僕だけこんな所に独りでいるんだろう…」

 

シンジは軽くため息を吐くと、無駄だと分かりつつももう一度叫ぶ。

今度はさっきよりも大きな声で。

 

「お〜い!!」

 

何の反応も無く数秒間の時が流れる。肩を落とし落胆するシンジ。

が、そんな彼の耳に届いた囁くような小さな声。

聞き覚えのある声。

暗闇から返送された、たったひとつのレスポンス…

 

「…碇君…」

 

「!?…綾波っ!!…」

 

シンジの耳に届いた声。それは間違いなくレイの声だった。

シンジの顔に広がる初めての表情。

…笑顔…

シンジはレイの声の聞こえた方に急いで振り向く。

が、視界に入ってくる情報に何ら変化はない。

網膜に映りこむのは、永遠に広がると思われる世界。

闇の世界…

 

「綾波っ…どこ、どこにいるの!!」

 

「…碇君…」

 

シンジは走り出す。レイの声の聞こえた方に向かって。

シンジは走る。どのぐらいの距離を進んだのか、

レイの声のした方向は本当にこっちでよかったのか、自分でもよく分からなかった。

が、シンジは走った。これ以上、独りでいるのは嫌だった。

誰かに会いたかった。

目に見える形の何かが欲しくて、しょうがなかったから…

 

「…ハア、ハァ…」

 

徐々に呼吸が激しくなってくる。

心臓の動悸もそれにシンクロするように徐々に速さを増してゆく。

実際にそのふたつがシンクロするのは、焦るシンジの心…

この暗闇しかない世界に、取り残されたくない一心で、シンジは走り続けた。

 

「…碇君…ここよ…」

 

今迄とは少し異なるレイの台詞。

その台詞をシンジが聞いた瞬間、彼の網膜は、新たな視覚データを大脳へと伝達した。

即座に反応するシンジの頭脳。

暗闇の中にうっすらと浮かんで見える、淡い白色の光源。

その中見えた、ひとつの人影。

 

「…ハァ、あっ、綾波…待ってよ!!」

 

「…ここよ…」

 

徐々に淡い光が強くなってゆく。視界に入る人影が、大きくなってゆく。

それはシンジが、そのビジョンに対して接近して行ってるから…

いや、ビジョン自体がシンジに接近して来ているから?

シンジにとってはどっちでもよかった。

ただ、一秒でも速くその人影を、レイと思われるシルエットの側に近寄りたかった。

現時点でシンジの心を全て埋め尽くすもの…

目の前の人影…

綾波レイと思われるシルエット…

 

「…碇君…」

 

シンジの希望通り、白い光に包まれたシルエットが、次第にシンジとの距離を縮めてゆく。

淡い光の中で、銀色を帯びて光るブルーのショートヘアー。

シンジに対して、後頭部を向けているせいか、表情は分からなかったが、

シンジの知りえる人物で、あの声と、この髪の色の人物は、レイ以外には存在しない。

シンジは目の前の人物がレイだと確信する。

が、そのシルエットは何故か、髪の色だけが鮮明に見えて、

首から下のビジョンは不鮮明で、よく見えなかった。

 

「…ま、待ってよ綾波…どうしてさっき…ハァ…いくら呼んでも、返事してくれなかったの?…ハァ…」

 

「…碇君…待ってた…」

 

レイのシルエットはそのままに、シンジの耳に届くのは、いつもと変わり無い抑揚の無い声。

耳を澄ましていないと、聞き取れないような、可愛らしいささやき声…

 

ようやく走り終わり、息を切らし少しうつむきながら、酸素を取り入れるシンジ。

少女の様な華奢な両肩が上下する。

シンジは顔を上げて、レイに喋りかける。

そして、淡い光に包まれながら、レイはゆっくりとシンジの方を振り向いた…

 

「…ハァ…もっと早く返事してよ…あやな…みっ!?

「…!?…」

 

…顔を上げたシンジの動きが停止する。

大脳内部のシナプスのネットワークが、一瞬にして全てが断線した感じ。

思考停止状態…

なぜなら、うっすらとシンジに微笑みかけるレイの顔から下が…

さっきまで不鮮明で見えなかった身体全体が…

全て生まれたままの姿だったから…

全裸のレイ…

勿論、シンジはレイの裸、いや本物の女性の裸なんて見た事はなかった。

が、明らかに目の前のレイは生まれたままの姿だった…

シンジの顔がワンテンポ遅れて真っ赤に染まってゆく。

声にならないシンジの呟き…

 

「…あ…あ…や…」

 

「…碇君…待ってた…」

 

硬直するシンジが、目に入らないかのようにレイはゆっくりとシンジの方に歩み寄ってくる。

無意識の内に後ずさりするシンジ。

額には汗の滴が確認できるほど、シンジは普通の状態ではなかった。

ふたつの赤い瞳が、まるでシンジをロックオンしたかの様に瞬きもせずに、ゆっくりとシンジに近づいてくる。

…蛇に睨まれた蛙…

シンジは、その赤い瞳に金縛りでもかけられたかのように、ピクリとも動かなかった。

目の前に全裸のレイがいる。

視界には肩から上しか入っていないが、明らかにレイは何も纏ってない姿…

シンジの心臓は、さっき走っていた時の数倍のビートで、シンジの左胸を、内側から激しく連打する。

 

「…あ…あ…や…な…」

 

「…碇君…待ってた…」

 

「…これは…わたしも…碇君も…」

 

「…とても…気持ちの良い事なの…」

 

「…お願い…碇君…」

 

レイはそこまで言うと、ゆっくりと両手を上に挙げた。

両手の間に橋を架ける一本の赤いライン…

それは、少し太目のロープに見える。

いよいよ破裂しそうになるシンジの心臓。

シンジは、これ以上の刺激の強すぎる視覚情報をカットしようと、思いっきり瞳を閉じた。

 

だっ、駄目だ!!…見ちゃ駄目だ…見ちゃ駄目だ…見ちゃ駄目だ…

…見ちゃ…駄目だっ!!…

 

そしてレイは、そんなシンジを見ながら、微笑みを浮かべシンジに囁いた…

 

 

「…お願い…わたしを…縛って…」

 

 

 

 

 

 

 

lease…ind…e…

Written by まさひこ

 

 

 

 

 

 

 

 

…バコッ!!…

 

 

突然、後頭部を襲う激しい痛み。

シンジは思わず右手で後頭部をさする。

かなりの硬い物が後頭部を直撃した感覚。

いや、痛み!!

唸るようにシンジは声を上げた。

 

「…いっ、痛ったあ〜…」

 

「…ったく、また、何時まで寝てんのよっ!? このバカシンジッ!!」

 

再び聞き覚えのある声。だが、レイの声ではない。

そう、これは10年間ほぼ毎日聞き続けた声。

シンジにとっては、誰よりも影響力のある声。

シンジは硬く閉じたはずの瞳をゆっくりと開けながら、正面を向く。

さっきまで真っ暗だったはずの視界がやけに明るい。

一瞬、視界がホワイトアウトする。

 

「…あ・・れ…綾波っ!?…」

 

目の前の視界を遮るもの。

それはさっきまでのレイではなく、仁王立ちしたアスカの姿。

右手には、丸めたノートの様なもの。

先端がかなりクシャクシャになっている。

さっきの後頭部への痛みの原因は多分それだろう。

すごく不機嫌そうな顔をして、アスカはシンジに言い放つ。

 

「…何寝ぼけてんのよ…優等生がどうかしたってのッ!!

…ほら、アンタの目の前にいるじゃない!!」

 

「…えっ!?…ああ…そっ、それより…なっ、何するんだよっ!!

アスカ…無茶苦茶痛かったじゃないか!!」

 

「何するんだですってえ〜!!不真面目なアンタが悪いんでしょ!!

ほら、優等生が待ってるわよっ!!」

 

「…えっ、綾波が!?…」

 

「ホント、今度また不真面目にやっていたら、今度こそ承知しないからねっ!!…ったく…」

 

アスカはブツブツ言いながら、シンジの視界からフェードアウトしていった。

変わりにしゃがみ込んだシンジの視界前方に広がるビジョン。

それは、少し先に立っているレイの姿。

シンジはとっさに立ち上がり、レイに近づく。

 

「…あっ綾波!!…」

 

「…大丈夫?…碇君…」

 

「…あ、うん…あ!?…」

 

レイは相変わらずの無表情のまま、シンジに語りかけてきた。

さっきのビジョンが、レイの全裸の姿が、目の前の制服姿のレイと重なる。

少し動揺するシンジ。

そしてシンジは、ようやく我に返った。

 

…あ…

…僕は…眠っていて?…

…あれは…

…夢だよね…

…にしても…

…なんて夢…見ちゃったんだろう…

…綾波の顔…まともに見れないよ…

 

シンジは少し顔を赤くしながら、とっさにレイから視線を逸らす。

その仕種を見たレイが、少し首をかしげ、不思議そうにシンジを見る。

 

「…どうかしたの…碇君?…」

 

「…いっ、いや…何でも無いんだけど…その…」

 

「…そう…じゃあ…」

 

「…碇君…」

 

シンジはレイのその台詞にハッとする。

それは、夢の中でレイが呟いていた台詞そのもの…

シンジはとっさにレイの方に振り向く。

ゆっくりと、両手を上げるレイ。

両手の間に橋を架ける一本の赤いライン…

それは、少し太目のロープに見える。

夢で見たのと同じ光景。

シンジの鼓動のビートがテンポアップする。

そしてレイは囁いた…

 

「…お願い…わたしを…縛って…」

 

「…なっ!?…」

 

シンジの顔が一瞬のうちに真っ赤に変化する。

鼓動のビートは一気に最速まで加速し、シンジは一歩後ずさりする。

再び不思議そうな顔でシンジを見つめるレイ。

 

「…?…どうしたの…碇君…」

 

「…あ…あや…綾波…し…縛ってって…その…あの…僕…」

 

「…?…碇君に…縛ってもらわないと…練習…できないから…」

 

「…?…へっ…練習?…」

 

シンジはキョトンとした顔でレイを見る。

レイは変わらずシンジをじっと見つめている。

シンジは、考える…

 

…練習?…

…れんしゅう?…

…あ!!…

…そっか!!…

…まったく…何考えてたんだろう…

…僕って…最低だなあ…

 

シンジは急に笑顔になると、レイに少し首を下げて謝罪のジェスチャーをする。

変わらぬレイの視線。レイの表情。レイのポーズ。

両手を上げて、赤い紐をシンジに見せているポーズ。

シンジは少し照れたように頭を掻きながら、レイに尋ねる。

シンジは、ようやく自分の置かれてる立場を、場所を認識する事が出来た。

 

「ご、ごめんっ…綾波!!…そう、練習の途中だったよね?」

 

「…そうよ…それが…どうかしたの?…」

 

「…いっ、いや…なっ、何でもないんだ…」

 

「…そう…じゃあ…練習を…再開しましょう…」

 

「…う、うん…あ、ちょっと待ってて綾波…もう一度、説明書読むからさ…」

 

「…また失敗すると…読んでもあまり変わらないかもしれないけどね?…」

 

「…ええ…わかったわ…」

 

レイはそう言って、両手を下ろす。

シンジは、自分の後方数メートルの所にある自分の鞄に向かって駈け寄る。

その姿を、じっと見つめるレイ…

 

気がつけば、シンジの耳にはいくつもの聞きなれた声が届いている。

シンジは、ふと自分の左手のG−SHOCKを見る。

デジタル表示は16:48…

ここは、第壱中学校の講堂。

伊吹マヤ担任の2−A、シンジ達のクラスの大半が、一堂に会している。

…3日後に迫った、クラス別発表会の練習…

今日は発表場所ともなる講堂で練習できる最後の日。

2−Aの出し物は、「マジック・ショー」…

それぞれが、自分の手品の練習に、使用する器材のチェックにせわしなく動いている。

そして、一際通る声。

この出し物の実質的な陣頭指揮を行っている、アスカの声…

アスカの声を聞きながら自分の鞄を漁り、シンジはふと思う。

 

そうそう、アスカが言い出しっぺだったんだよな

…この出し物…

「みんなが参加できて楽しい出し物は、マジックショーだと思いま〜す!!」

…とか言ってさ…

しかし実際は、男子のほとんどは女子のアシスタントの様なもの

僕はそれでかまわないけど、トウジのヤツは

…結構アスカともめたもんなあ…

で、僕はアスカと綾波のアシスタントをする事になって

アスカには10人ぐらいアシスタント志望者がいたけど、

…綾波にはいなくて…

…どうしてかな?…

そりゃあ、綾波はまだ転校してきたばかり出し

人付き合いも良いとは言えないけど…

…可愛いのになあ…

で、そんな理由もあって僕は綾波専属のアシスタントの様なもので…

っと、あれえ…何処にしまったんだろ?

しかし、綾波一人で出来る手品って何だろう?って事になって

…で、散々考えて相談して…

ケンスケが貸してくれたのが

簡単に縄抜けの手品が出来るって…言って…

 

「…あ、あった!!…」

 

ようやくシンジは、鞄の中からひとつの黒い小さなビニール袋を取り出す。

その中から、一枚の髪切れを取り出すとシンジはその内容を確認しながら、

レイの方へと戻ってゆく。

ちなみに、その紙にはこう書いてあった。

 

 

取り扱い説明書

(よくお読みになってからご使用ください)

 

〜はじめに〜

この度は、当社の新製品「縛っ太郎かい?」(しばったろうかい?)をお買い上げ頂き、誠にありがとうございます。この「縛っ太郎かい?」は、当社の長年の研究成果によって生み出された、最新のテクノロジーを惜しみもなくつぎ込んだ、多目的利用向けのサイバーロープでございます。見た目は一見普通のロープですが、当社独自の改良によって極限まで小型化された「A10神経用シンクロナイズ・システム」を搭載し、「超小型高出力アクチュエーター」を数珠状に連結。それらを統括的にコントロールする、「超小型ニューラル・コンピューター」、そして、すべてのシステムの長時間動作をお約束する「超薄型プログレッシブ・バッテリー」、これらを一本のロープ状に構築。そして、同梱の「ヘッド・セット」を頭部に装着して頂くだけで、お客様の思い通りにロープを動かせるという、「画期的なサイバー・ロープ」なのです!!災害救出時に役立つのは勿論の事、縄抜けの手品も至極簡単にどなたでもできます!!また、倦怠期を迎えたご夫婦には新たな絆と楽しみを提供する逸品として…まさに、究極のロープと言えるでしょう!!

 

〜簡単なご使用方法〜

 

  • まず、「ヘッドセット」の電源スイッチを先に入れます。(これを守らないと、本体が暴走する場合があります)
  • 次に、「縛っ太郎かい?」本体の片方の端についている電源スイッチを入れます。
  • 最後に、ヘッドセットをお客様の頭にかぶせるだけ!!(たったこれだけです)
  • なお、コントロールには若干の慣れが必要です。特に自分以外の対象に対して使用する場合は、力加減等を充分注意してご使用ください。強く念じるほど、締め付けトルクも増大します。(最大約20N)
  • コツとしては、自分の希望するロープの形状を明確に脳裏に浮かび上がらせる。心の声で叫ぶ。等がありますが、最も効果があるのは対象の状態も一緒に想像する事です。その際、目を閉じると効果が有ります。例えば、ロープをほどこうとするなら、それに縛られた対象も一緒に脳裏に浮かびあがらせてください。より一層自在にコントロールできる事でしょう。
  • 詳しくお知りになりたい方は、合わせて当社から発売されている「縛っ太郎かい?で、マジ縛ったれ!!」を別途ご注文ください。
  • なお、この商品のご使用によって恋人間、もしくは夫婦間の仲、絆等に支障が生じましても、当社は一切感知いたしません。

 

では、この商品が貴方にとっての新しい「絆」を結ぶ架け橋となる事を期待しております。

「縛っ太郎かい?」開発プロジェクト主査 工学博士 神田 慎太郎

 

「…貴方との絆が…私のライフライン…」

(株)KIZUNA KItto ZUettai NAitokomaru!!

第三東京市研究ブロックC−268−1919

TEL(代表) 0003−5408−****

E−MAIL Isao@tokyo−3.Mezonn.net.jp

 

  • 当社の製品は通信販売でのみ販売しております。なお、未成年のお客様の購入は控えさせて頂いております。
  • 2015年度版総合カタログを同封いたしましたので、是非お読みになってください。
  • 詳しい通信販売の方法は、カタログをご覧ください。

 

 

 

シンジは一通りざっと目を通すと、首をかしげながら考える。

 

やっぱ、詳しい使い方は別売りの本買わなきゃいけないみたいだなあ…

にしても、ホントはこれ何に使うんだろう?

絆…恋人間の仲?

ケンスケは

「こいつを知っている中学生なんて僕以外に絶対いないから、縄抜けの手品のネタ、わかりっこないさ」

って自信満々に貸してくれたけど…

けど、いまいち上手く使えないんだよなあ

…スムーズにほどけないってゆうか…

…ほどけろ…ほどけろ…ほどけろっ!!…

っていつも頑張って心の中で叫ぶし

ロープがほどけるイメージもちゃんと思い浮かべてるんだけど

やっぱあのイメージが浮かばないからかなあ…

 

レイの出し物は縄抜け。

レイの身体を、シンジがあのロープでぐるぐる巻きにした後、

シンジが裏に入ってからヘッドセットを付けて、

音楽に合わせてほどくという至極、単純なもの。

だが、なかなか上手くいかなかった…出し物としては一瞬で終わるし、面白味も無いかもしれないが、

なんせやるのが、

校内美少女ランキングNo.2、ミステリアス度No.1、とっつきにくさワーストNo.1

の綾波レイがやるだけで、出し物としての価値は飛躍的に向上するというのがケンスケの意見。

この「縄抜け」の案が提示された時、シンジも反対する理由は特に見当たらないので反対しなかった。

レイも、「…いいわ…わたし…やる…」と言って反対している素振りは見せなかった。

そして、あれこれ考えているうちに、シンジはレイの側に戻る…

 

「…ごめん、待たせちゃって…やっぱ、詳しくは載ってなかったよ…」

 

「…そう…じゃ…はじめましょ…」

 

レイはシンジに赤いロープ(縛っ太郎かい?)を手渡すと、ゆっくりと後ろを向く。

さっき夢で見たレイの後ろ姿と妙にダブってしまって、シンジは妙に恥ずかしかった。

ショートカットの髪の毛の裾から見える奇麗で、真白なうなじがシンジの視線を釘付けにする。

シンジはロープをレイの肩の下あたりから、ゆっくりと巻いてゆく。

 

「…そ、そう言えば…ヘッドセットは何処にやったっけ?」

 

「…碇君の…頭に…ついてるわ…」

 

「…あ、ホントだ…ゴメン、綾波…」

 

ロープとセットで使用するヘッドセットが非常に軽量で、

装着感に優れていた事も手伝って、シンジはその存在を忘れていた。

シンジはケンスケから教えてもらった、複雑な縛り方でレイの身体を結んでゆく。

徐々にレイの身体を縛ってゆく赤いロープ…

レイの胸の部分を巻く時に、いつも両手から伝わる柔らかい感触。

シンジはいつもその度にドギマギしてしまう。

間隔を置いてレイの太股辺りまでロープで縛り終わると、シンジはレイに尋ねる。

 

「…いいかな、綾波?…最後にきつく結ぶよ…」

 

「…ええ…結んで…」

 

レイの他意の無いその発言に、シンジの心臓が再び早く鼓動する。

シンジは最後の結び目を、少しきつめに結ぶ。

 

「…こうやって…っと…」

 

「………………」

 

そしてシンジは、ヘッドセットのスイッチがONになっているのを確認すると

ロープの端にある目立たなく付けられたスイッチをONにする。

かすかに耳に届く、ロープからの高周波。

連動するように、ヘッドセットからも、数回の電子音が聞こえる。

シンジは少し照れた顔のまま、レイに呼びかける。

 

「…そっ、それじゃあ、準備OKだよ…綾波も…いいかな?」

 

「…ええ…わたしは…立ってるだけだから…」

 

「…じゃあ…いくね…」

 

「…ええ…いつでも…いいわ…」

 

シンジの呼び掛けに対して、レイはゆっくりとシンジの方を振り向く。

太股の辺りまで、赤いロープに寄って縛られているので、その振り向く姿はまるでペンギンの子供の様。

ヨチヨチ振り向く姿が何とも可愛らしかった。

シンジはこの時のレイの仕種がたまらなく好きだったが、

今回だけはさっきのレイの姿が重なってしまって、その大好きなシーンをまともの見られなかった。

シンジは大きく深呼吸すると、レイの顔を見つめる。

交差するたびに周りの雑踏も気にならなくなってってきてしまう、そんな不思議なレイの赤い瞳…

 

「…よし、はじめるからね…」

 

シンジはゆっくりと瞳を閉じた。

再び視界に移るものが、全て闇の世界へと変貌してゆく。

徐々に周囲の雑音も気にならなくなってくる。

ここまでは幾度と無く練習した精神統一のおかげで、難なく達成できた。

問題はこの先だった。

心で「ほどけろっ!!」と叫ぶ事もできた。

赤いロープの結び目が、パラッパラッと流れるようにほどけて行く様も

心に浮かびあがらせる事もできた。

が、肝心の対象も共に…の部分。

シンジには、どうしてもレイがロープをほどかれて自由になるビジョンを、

浮かびあがらす事ができなかった。

いつもロープに縛られている状態でそこから先のレイの身体からロープがほどかれてゆく様を、

上手く想像する事ができなかった。

 

…今回こそは…上手くやらないと…

…いい加減、綾波だって怒っちゃうだろうし…

…けどなんで…

…綾波の身体から、ロープがほどけていくビジョン…

…見れないんだろう?…

 

再び深呼吸するシンジ。赤いロープにグルグルと縛られたレイ。

その前で、少しうつむいて、何かテレパシーでも送るような仕種を見せているシンジ。

端から見れば、非情に奇妙な光景に見えなくも無かったが、

周囲のクラスメイトたちも、シンジ達の出し物の内容は知っていたし、

自分達の練習や、準備に忙しく声をかけてくる存在はなかった。

徐々にシンジは心の声を、叫びのボルテージをアップさせてゆく。

 

…ほどけろ…ほどけろ…ほどけろっ…ほどけろっ!!…

 

が、レイの体に巻きついたロープは何の反応も示さない。

シンジにも何回かの練習によって、このぐらいではロープがピクリともしない事は分かっていた。

次に真っ暗になった視界に、心のキャンパスに、一本の赤いロープを描き出す。

いくつもの結び目ができた赤いロープの結び目が、ひとつひとつほどけてゆくイメージ…

 

…そう、そうやってひとつずつ…ほどけろ…ほどけろっ…ほどけろっ!!…

 

 

…シュル…シュル…

 

シンジの耳に聞こえたような、ロープが擦れるような音。

これはロープが少しだけほどけはじめた証拠。

これは実際に耳に届いた、レイを縛ってるロープからの音ではなく、

ヘッドセットから送られてくるイメージサウンド…

 

「…碇君…少しほどけてきたわ…」

 

「…そ、そう?…よし、もうちょっと我慢してね…」

 

シンジは瞳を閉じたまま、目の前のレイに答える。

そして、ファイナルステップ…

ロープに縛られたレイから、ロープがシュルシュルと勝手にほどけてゆくイメージ。

これがシンジには想像できなかった。

先ずは目の前にいるレイと同じ状態のレイの姿を、心のキャンバスに描写してゆく。

 

…そう、肩から…脚にかけて…赤いロープ…グルグル巻き…縛られて…

 

…縛る?…

 

「…お願い…碇君…少しだけ痛いから…はやく…」

 

…グルグル巻き…縛る?…お願い…碇君!?…

 

「…う、うんもう少し…待って…」

 

…赤いロープ…縛る?…はやく…お願い!?…

 

そして、アクシデントは再び起こった…

シンジの心の中…

自問自答の声と、現実のレイの声がシンクロする…

更にさっきの夢も手伝って、心の声はいつしかシンジの邪推と、

レイの声へといとも簡単にスムーズに移行していった…

 

…お願い…碇君…はやく…縛って…

…わたしを…縛って…

 

…なっ、何を考えているんだ…僕は!?…

 

心の中のレイの姿…

赤いロープに絡まれて、うっすらと微笑むレイ。

着ている筈の制服が、徐々に姿を消してゆく。

さっき見た夢の続きの様な光景。

本能という、直結回路によって描写される邪推なイメージ…

どうやらシンジの理性は、このイメージをデリートする事を嫌がったらしく、

心の中に、真っ暗な視界一杯にレイのあられもない姿が広がる。

広がるイメージ…

広がるレイの声…

 

…お願い…わたしを…縛って…

…そう…縛って…

 

目を閉じたシンジの顔が、急激に赤くなる。

レイは不思議そうにシンジのその仕種を黙って見ていた。

が、突然、身体を縛っているロープの縛りが強くなったのに気づく。

締め付けるロープの痛みが、レイの身体を伝う…

 

「…あ!?…痛っ…」

 

そして、その邪推なイメージに、

導かれたかのようにシンジの心の叫びもまた、スムーズに変化していった。

勿論、レイのかすかな声など耳に入るはずも無く…

 

…ほどけろっ!!…ほどけろ…ほど…ほどけ…ほどけるなっ!!…ほどけるなあ!!…

 

…真白な奇麗な肌…

それに少し食い込む赤いロープ…

赤と白が織り成すコントラスト…

赤いロープのせいもあって、レイの肌の白さが、奇麗さが一層際立つ。

 

…あ、綾波の…ふ…くらはぎ!!…

 

…藍色のスカート…

それに食い込む幾つかの赤いライン…

制服越しに浮かび上がるレイの細く華奢な腰周り…

服越しにも分かる、奇麗なライン…

 

…あ、綾波の…う…ウエストライン!!…

 

…白色のシャツと、藍色の制服…

それに食い込む、シンジの欲望を具現化したように、レイの胸を上下から締め付ける赤いロープ…

一層顕著に強調される、レイの両胸の膨らみ…

 

…あ、綾波の…む…胸っ!!…

 

…ブルーの髪の毛…少し苦痛に歪む表情…

 

…あ、綾波の…顔…なんか痛そう…

えっ!?…痛そうって…

 

「…あっ!?…」

 

シンジはハッとする。

そう言えば今、シンジが見ていたレイのビジョンは服を着ていなかった筈…

そういえば周囲もやけに明るい。

そう、シンジは何時の間にか目を開いていた。

そして、心のキャンパスと現実との垣根が何時の間にか消えている。

が、シンジの邪推はまだ続いていた。

心のキャンパスに描いていたレイと、現実のレイが違っていたのは、服を着ている事とその表情…

 

「…い、碇君…痛い…」

 

「………………」

 

が、シンジは無言でそのレイの姿に見入ってしまっていた。

真っ赤なシンジの顔。

何時の間にか最大限までスピードを上げている心臓の鼓動…

 

「…お、お願い…碇君…は、はやく…ほどいて…」

 

少し苦痛に顔を浮かべながら、レイはシンジに頼む。

が、当のシンジは心ここに有らずっといった感じで、真っ赤な顔をして、レイを見ているだけだった…

 

…お、お願い…碇君…は、はやく…縛って…

 

これはシンジの心の中?

そこのレイの声?

それともシンジにはそう聞こえたのだろうか?

どのみちそれが、シンジの聞いた最後の台詞…

 

 

…バッコ〜ン!!…

 

 

次の瞬間、シンジは後頭部に痛烈な痛みを感じ、そのまま沈黙してしまう…

この後の会話は無論、シンジの耳には届いてはいない。

 

「…ったく…アンタは顔真っ赤にしてなにやってんのかと思えば…このバカシンジィ!!」

 

シンジ沈黙の原因は、アスカが手にした進行ノートを硬く丸めて思いっきりぶん殴ったから…

そして、シンジが沈黙した瞬間、

レイの体を縛っていた「縛っ太郎かい?」はシュルシュルと流れるようにほどけた。

 

「…まったく、またいつもとおんなじ様にエッチな事考えていたのよ!!このバカはっ!!」

 

「…にしても大丈夫?アンタもシンジと組んだのが運の尽きね…これで何回目?失敗したの…」

 

「…わからない…ただ…成功した事は…一度も…ないわ…」

 

「…シンジって…縛り願望の塊ね…淡白そうな顔してるくせにさ…まあ、男なんてみんなエッチだけど…」

 

「…わからない…ただ…碇君は…いつもほどこうとする時…顔…赤くする…」

 

「…あ…顔…赤いまま…寝てる…」

 

「…気を失っても、まだエッチな事考えてるのよっ!!…それがエッチな証拠よ…

まあ、しばらくしたら目を覚ますと思うけどね…」

 

「…わかった…碇君って…あの人と…同じなのね…」

 

こうしてシンジは再び、別世界へと旅立ってゆく

…同じ、別世界へと…

 

 

THE ENDLESS

 

(つまりまた最初に戻るってオチ)

 


ver.-1.00 1997-06/27公開
感想・ご意見・誤字情報などは こちらまで!

へっぽこ作者の独り言…

 

どうも、「IN THE OTHER WORLD」のまさひこです。ご無沙汰でした(笑)

このSSは私のHPで6月22日に公開した 「The Bounds」〜束縛〜

というSSを書いた後に成り行きで書いたへっぽこなSSです(笑)

束縛=縛る…お、ひらめいた!!

って感じでさくさくと書いてしまった物です。

タイトルと、導入部で変に期待された方…いらっしゃいましたらゴメンナサイ(笑)

あ、こんなSSより「Spiral Love」の続き投稿しなきゃ!!

では、またそのうちお会いできる事を楽しみにしております…

まさひこで・し・た!!

 

 


 まさひこさん初のSS『…Please…Bind…Me…』公開です(^^)
 

 こここここ、これは!
 と読み始めて・・・・
 「裏切ったな! ボクの気持ちを裏切ったな!!」
 夢落ちなんて酷い(笑)

 でも、後半。堪能させていただきました(^^;

 白い肌に食い込む紅い紐って・・・・
 まさひこさんてそんな人だったんですね・・・・
 私には[綾波]を縛るなんて変態の所行は出来ません。
   ・
   ・
   ・
 縛るのならやっぱりアスカを・・・(爆)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 貴方がこの小説をどう利用したかをまさひこさんに教えてあげて下さい(^^;

 そんなこと教えられても嫌でしょうが、めぞんEVAを汚したまさひこさんに罰を!(笑)


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