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「シンジ、学校に忘れ物しちゃったみたいなの。取りに行くからつきあって」


それは、3日前に無事卒業式を終え、季節はようやく春を迎えたある日の午後だった。
「いいけど、忘れ物って?」
「ノートと筆箱」
「わかった。じゃ用意するからちょっと待ってて」
「早くしてよね」


30分後、2人は第3新東京市立第一中学校に来ていた。
「ちょっと行って来ちゃうからシンジはここでまってて」
「うん。わかった」
女の子はそう言って校舎の中へと走っていった。
「すいません。卒業生の惣流アスカといいますけど、教室に忘れ物したみたいなので取ってきて
いいですか?」
「ああ、いいよ。一応この名簿にサインだけ頼むよ」
頭の薄くなった用務員室の老人が微笑む。
来客者名簿に名前を記入すると彼女は、薄暗い廊下を歩いていった。


教室に入ると強い西日が差し込んでいた。3日前まで自分の席だった机の中を探ると目当ての
ノートと筆箱はすぐに見つかった。持ってきたバッグにそれをほうり込むと、廊下に出た。
扉を閉めようとして、彼女はもう1度教室の中を見渡した。数え切れないほどシンジをからかい
ほうきを持って、トウジやレイを追いかけまわした教室。机にでかでかと彫られた”バカシンジ”
という文字がここからでも見えた。
”3年間なんてあっという間だったな。まるで昨日のことみたい”
「じゃあねっ!!」
彼女はそう言って扉を閉め、廊下をパタパタと走っていった。
誰もいなくなった教室の中には、更に強さを増した西日が差し込んでいた・・・











EVANGELION
THE OTHER EDITION
TRACK 1
たのしくたのしく やさしくね




”1012、1012・・・”

2月になったばかりの今日、寒さはまだ当分衰えそうもない。
”1012・・・う〜ん、まさか落ちたなんてことは・・・・”
ここは第3新東京市立第1高等学校。ランクは中の中の上。どこにでもあるような高校だが
あえて言えばセールスポイントは、生徒の自主性を重んじた自由な校風と、市の中心地から
少し離れた場所に位置し、その環境の良さといったところか。
その校門に張り出された数字の羅列を、少年が凝視している。背は175センチほどはあるだろうか。
そのやや撫で肩でヒョロっとした体のてっぺんには、柔和で女の子といっても通じそうな顔が
のっかっている。その顔を見ると、少しの緊張の色が乗っているのが分かるだろう。
だが、ここに来たときはいっしょだった友達ともはぐれてしまい、そんな彼の顔色に気づく者は
いない。彼の周りにも、彼と同い年くらいの少年少女がたくさんいるが、他人にかまっている
暇のある者は1人もいないだろう。
喜びをうかべている者。がっくり肩をおとし、うな垂れている者。いろいろである。
そう、今更ではあるが今日はここ、第1高校の入学試験の発表日なのだ。さて、さっきから
合格者番号を、穴が空くほど見ている彼はどうだろう。


”14593・・・・あ!あった!!”
どうやらサクラは咲いたらしい。
”ホッ、よかった”
思わず安堵のため息が漏れた。彼のクラスの、頭の白くなった初老の担任からは、”普段の
実力を出せれば絶対にだいじょうぶ”と言われていたし、受けた高校もここだけではなかった
のだが、やはり第1志望に受かったのは嬉しかった。それに、もし落ちたりしていたら幼なじみ
の彼女に何を言われるか、っていうか、何をされるか分かったものではない。


彼が早速家に電話しようと、デイバッグからケイタイを取り出していると
「あ、いた〜。シンジー」
「あ、アスカ、それにみんなも」
シンジと呼ばれた彼が振り返って見ると、1人の少女がこちらにかけてくる。腰まで届きそうな
ほど伸ばした赤毛と、整った顔立ち。何よりその深い藍の瞳が目を引く彼女の名は惣流アスカ。この物語のヒロインである。
そしてこの少年は(一応、きっと・・・・たぶん)主人公、碇シンジ。


アスカが「アンタらちょっとどきなさいよ」「じゃまよ」などとわめきながらシンジのところにたどり ついた。
「アンタいったいどこ行ってたのよ!」
「ご、ごめん。自分の番号探してるうちにはぐれちゃったみたい。ハハハ」
「まったく・・ちょっとアタシが目を離すとこれなんだから」
「ごめん」
「ま、いいわ、それよりシンジ」
アスカはシンジの鼻先に人差し指を突き付けて詰め寄る。
「アンタ!受かったんでしょうね」
「え、あ、うん、受かってたよ」
まるで自分のことのように安堵の表情を見せるアスカ。
「そ。まぁ、このアタシがあんだけ勉強見てやったんだから、当然と言えば当然よね」
「うん。本当にそうだね、ありがとう。アスカのおかげだよ」
シャレにならないほどのスパルタな日々を思い出しながらも、こんなセリフを心から言えてしまう
のが碇シンジというキャラクターなのだろう。
「それよりアスカはどうだったの?」
「アタシが落ちるわけないじゃん。楽勝よ」
これはアスカの本心である。なにしろアスカは担任が進めた、超進学高校受験の話を無理矢理
断り、数段ランクが落ちるこの高校を第1志望にしたのである。
「そうだよね。とにかくおめでとう」


「お〜い、シンちゃーん」
2人がそんな会話をしていると、彼らの友達達がゾロゾロと集まって来た。
「あ、みんな。どうだった?」
「みんな無事に合格してたよ」
青い髪と赤い目をした少女がニコニコと答える。
「僕とシンジ君の愛に不可能はないよ」
銀の髪と赤い目を持つ少年は相変わらずシニカルな笑みを浮かべている。
「まぁ〜ったくレイ達は別として、よく鈴原が受かったわよねー。やっぱりヒカリの付きっ切りの
家庭教師がよかったのかしらねー」
ニヤニヤしながらアスカが言う。
「な、何言ってんのよ。私なんか何もしてないわよ。鈴原が・・その・・・がんばったから・・・」
「いや。惣流の言うとうりや。ワイみたいなアホが合格できたんはみんないいんちょのおかげや
感謝しとるでぇ」
黒いジャージを着た少年はそう言うと、にかっと笑ってみせた。カラっとして、とても気持ちの
良い笑いだ。でもなぜジャージ?
「そ・・そんな・・ど、どういたしまして・・・」
「なんかいいよねー、2人ともさー」
青い髪の少女が、手にしている缶ジュースをグビっと飲みながら、しみじみ言う。
「そう言えばシンちゃんはどうだった。もちろん受かったんでしょ?」
「うん。受かったよ、綾波」
「おめでとー。シンちゃんの場合はさしずめ、アスカの手取り足取りの家庭教師のおかげねー
なにしろシンちゃんが落ちたら元も子もないもんねー」
「な、な、何いってんのよ。このデキの悪いシンジの勉強見るのは並大抵の苦労じゃないのよ
まったくそんなことできるのはアタシくらいなものよ」
必死に抗議するアスカの頬が赤いのは怒りのためか、それともテレのためか・・・。
「はいはい、分かってるって。シンちゃんのことを任せられるのはアスカだけだって
言いたいのよね〜」
プシュー。アスカは湯気が出るほど真っ赤。
「バッ、バカじゃないの!シンジも何か言いなさいよ!」
「手取り足取りだって・・・ハハハ」
シンジの脳裏に、1門間違えるたびにアスカにコブラツイストをかけられる自分、要領の悪い
自分にうでひしぎ逆十字をかますアスカの姿が、鮮明に浮かんでくる。
「綾波・・もしかして見てたの?」
「な・・・なななな何言ってんのよー、バカシンジーーーー」
シンジの爆弾発言に、ますます赤くなるアスカ。
「ま、まぁいいじゃないか。またこれから3年間つるめるんだしさ」
今までセリフが無かったが(スマン)ずっと一緒にいた迷彩服の少年が、場をなごませようと
する。(なぜ迷彩服?)その効果があったのか無かったのか、シンジにヘッドロックを掛けているアスカの
顔には、太陽のような笑顔が浮かんでいた。そしてそれは、その場にいる全員に伝染 していった。
「痛い痛い、痛いってばアスカー」
しかし、グイグイと絞められるヘッドロックの痛みも、ワクワクしてくるような、ドキドキするような
不思議な気持ちには勝てそうもなかったのだった。






つづくゾ
ver-1.00 1997-12/24公開
ご意見、感想などは こちらまで!

ども。鈴木です。ついにやってしまいました。

何も考えずに初の連載物を・・・次からどうしよう・・

まぁ、いいや。ノリで書いていくことにしよ。



そうそう、先日公開された「至上のゆりかご」に対して、結構な数のメール頂きました。

もう、嬉しいかぎりでゴザイマス。

この場を借りてお礼申し上げます。どうもありがとうございました。

それでは、今回はこの辺で。じゃね。



「Tomomi Kahara」のナンバーから「たのしく たのしく やさしくね」を聞きながら


 鈴木さんの『EVANGELION THE OTHER EDITION』TRACK 1公開です。
 

 鈴木さん初の連載作(^^)/
 

 アスカな作品。
 綾波な作品。
 

 両方を発表してきた鈴木さんですので、
 メールに「連載」の文字を見たときはドキドキしました。

 アスカであってくれ〜

 って(^^;
 

 

 

 シンジと同じ学校に行くために
  自分のランクを落とし、
  シンジのランクを引き上げて。

 アスカちゃん健気です〜(^^)
 

 努力が実って無事−−。
 

 メンバーが揃った第一高校、
 賑やかな学校生活が始まりそうですね。
 

 ラブラブもあるのかな?
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 連載を抱えた鈴木さんに感想メールを送りましょう!


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