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Blue Transparency


一面の白銀のなかを、男の子が一所懸命駆けていた。
年は10歳くらいだろうか。

空からは白いものが降りてきている中、男の子の額にはあせがにじんでいた。
脇には大きな包みを抱えて一所懸命駆けていた。
男の子が一度だけ立ち止まって、肩で息をする。
周りを見渡すと、一面の銀世界と耳が痛くなるほどの静寂。

男の子はふと,この世界にいるのが自分一人になってしまったかの様な錯覚に陥った。
すごく心細い。自分を知ってくれている人に会いたい。
そんな気持ちを誤魔化すかのように男の子は、また駆け出していった。

やっと整った息がまた乱れ始めるころ、男の子の目指す場所が見えてきた。
遠くからでもよく目立つ、奇麗な赤い屋根も今は真っ白だ。
庭には男の子の背丈の倍はありそうなモミの木が立っている。様々な色の電飾が幻想的に輝いていた。

男の子は玄関の前に立つと、脇に抱えた包みをチラッと見る。中身は大きなサルのぬいぐるみだった。
男の子が三ヶ月間我慢して貯めたおこずかいで買った物だ。
それから男の子は視線をドアに戻した。そして深呼吸を一回してノックする。
家の中からドタドタいう音が近づいてくるのが聞こえて苦笑していると
ドアが開き紅い髪の女の子が飛び出してきた。
年は男の子と同じくらいだろう。
「おそいぞ」
眉をつり上げてはいるが、文句を言うその声はとても嬉しそうだ。
男の子はしきりに「ごめんごめん」を繰り返しながら女の子に手を引かれて家の中に消えて行った。


青年はゆっくりと目を開けた。いつのまにかウトウトしていたらしい。
夢を見ていたのだが、どんな夢だったのかはもう思い出せなかった。
”今日も暑くなりそうだ。”
窓の外を見ながらそんな事を考える。。

この国が白銀に染まることは二度とない。

傍らでは特徴的な赤い髪をした女性が赤ん坊におっぱいを与えていた。
テレビの上には汚れて、あちこちに縫い跡のあるサルのぬいぐるみが置いてあった。
青年は視線をそこに移しながら
”この子がもう少し大きくなったら三人でドイツに雪を見に行こう”
ぼんやりとそう思っていた。
空はどこまでも蒼く、ただギラギラと照りつける太陽があった。

「今日も暑くなりそうねっ、シンジ」

おしまい


ver-1.00 1997-05/29公開
ご意見、感想などは こちらまで!

超短編です。意味分かんないかもしれないけど読んで下さい。おねがいっ!
「LUNA SEA」のナンバーから「Blue Transparency」を聞きながら

 鈴木さん2本目のSS、『Blue Transparency』、公開です。

 冬のない今見るあの雪の日。
 白い世界で感じた安らぎ。

 今も残るあの日の"ぬいぐるみ"とあの日の"思い"・・・・

 心に暖かい物が残る素敵な作品ですね。
 

 訪問者の皆さんは何を感じましたか?
 ぜひ鈴木さんにメールで伝えて下さい。


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