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エヴァンゲリオン パラレルステージ

EPISODE:10 / Beginning of everything











神への道

 

 「死海文書に記された全ての使徒は倒れた」

 暗闇で行われる唱和。
 やけにこだまが帰り、重苦しい中にも幻想的な雰囲気を…いや、むしろおどろおどろしい、と言った方が相応しいかも知れないが…を醸し出している。

 「今こそ」
 「約束の日」

 そこにあるのは、円形に整然と並んだ、モノリス。

 「計画の」
 「神への道を」
 とき
「目指す

 「SEELE」。
 ハッキリと、そう読める文字。

 「不要な肉体を捨て」
 「全ての魂を、一つに」
 「不浄なる人類を、消し去り」
 「全てを、一つに」

 そして、数字で書かれた番号。

 「そして」
 「我らが」
 「神となるのだ」

 他には、何もない。

 「今、すべての終わりの刻」
 「そして、始まりの刻」

 そう、何も。

 「終わりの、始まりを」
 「黙示を」
 「浄化を」
 「人類補完計画を」

 そして全ての声が揃って、最後の一言が発せられる。

 「発動する刻だ」

 静。



 第17使徒・タブリスを殲滅してから数日後、NERV本部内。
 地上では日も高くなってきた頃だろうが、ここ地下では時計しか頼れない。
 どちらにしても、子供達は学校へ行っている時刻である。

 廊下を歩いているミサト。
 他にはだれも居ない。
 ただ、彼女の足音のみがコツコツと響く。

 明るいはずの廊下が、いやに暗く見えた。
 自分たちの運命を暗示しているかのように。

 「第17使徒も倒したわね。」
 ミサトが、つぶやく。
 声になったのかなっていないのか、分からなかった。

 確かにそれは夢だった。
 父親の敵をとる。
 それが、彼女の夢であり願いだった。

 だが。
 「知る」ということは、時としてヒトの存在理由までをも変えてしまう。

 本音では、きっとうれしいのだろう。
 しかし、それを悠々と表情に出してはいられない。
 それだけのことが、後に続くと知っているから。

 「そろそろ、人類補完計画の発動が近いはず…」

 最後の使徒を倒したばかりだと言うのに、ミサトは眉を顰めたまま。
 そして、この間の加持からの情報をふと思い出した…。

 

 人類補完計画は、死海文書に記載された使徒17体が全て倒れたとき、発動すると言われている。

 詳細は、まだ分からない。
 ただ、分かっているのは、できそこない生物であるところのヒトを全て消去し、完全な一個体としての生物に人工進化させる計画らしいということだけだ。

 そのために必要なのが、アダムとリリスとロンギヌスの槍だ。つまり地下のあの巨人とシンジ君、そして彼の持つ槍だな。
…ま、俺も地下の「アレ」が「リリス」だと言うことをこの間初めて知ったばかりだ。

 ゼーレでは、現在量産エヴァ7体の製造に着手しているようだ。
 おそらく、それを使って補完計画を行うつもりだろう。
 シンジ君は心配ないだろうが…地下のあの巨人を奪われたら、おそらくまずい事態に発展する。

 それから、量産機にはS機関も搭載予定のようだ。
 そのため零号機や弐号機以降の通常タイプ・エヴァに勝ち目があるとは思えない。…よほどの数比なら別だがな。
 というわけで、基本的に頼りは初号機だけになるだろう。
 尤も、初号機ならば一体で全ての相手も無理ではないかも知れない。

 だから、エヴァのパイロットとシンジ君を狙う計画も進行しているようだ。
 とにかく奴等はNERVの戦力をそごうとしているからな。

 気をつけてくれ…。


 

 (補完計画、一体何なの?)

 険しい表情のまま、ミサトは洗面所へ。
 顔を洗って、緊張感を保つ。
 まるで何かを決心したような顔。
 事実、大きなものに立ち向かう決心をしたところだ。

 (ゼーレ…何をしようとしているの?)

 鏡に向かって問いかけるも、その答えはない。
 誰も、返しては来ない。

 「…実際に来れば、いやでもわかるか…」

 それまでは。
 せめて、それまでは明るくいよう。
 そう心に決めて、表情を崩す。
 日常のミサトが現れた。

 それが偽りの仮面だとしても、今はそれにすがるしかない。
 虚構でさえも、ヒトは自分の糧に変えることができるのだから。
 否、そう言うと語弊がある。むしろ、そうせずには居られないのだから。
 自分は…いや、すべてのヒトは、何かに依存しなければ生きていけないのだ。

 (だから、私は…)
 この仮面に、最後の時まで自分を委ねるつもりだ。
 自分が、いつまでも自分であるために。
 心を、強く保つために。



 その日、夕食が済んでから。
 葛城家、居間。

 「ね、シンジ」
 唐突にアスカが聞いた。

 まだミサトは帰ってきていない。
 事後処理など、まだいろいろと忙しいのだろうか。

 「なに?」
 「使徒は17体で、17使徒まで倒したのよね?」

 「そうだけど?」
 「そう…なら、もう使徒はやってこないのね?」
 「うん。…うれしい?」
 「ええ。うれしいけど、なんか…でもなんか、寂しいわね。」
 苦い過去でも後から見れば良い思い出になる。
 アスカは、かつての戦いの日々をどこかに見た気がした。

 (これで、終わりなんだ)

 真紅のエヴァを思い出す。
 いろいろあったな、と思いつつ。

 初めてパイロットに選ばれたときの嬉しさ。
 どきどきした初実験。
 何度もやった機体連動試験。
 日本に来るときに遭遇した使徒との戦い。
 それからの日々…。

 そんな自分の思い出といつも一緒にあったのが、シンジだった。
 そしてシンジは今もここにいる。
 今シンジは不思議そうな顔をして、自分の方を見ている。
 紅い瞳で。

 その瞳の色から綾波レイと自分について思い出した。

 (ずっと心のない人形なんだとばかり思っていたけど…)
 実際は違う。
 アスカの一方的な先入観だった。
 レイは、確かに心を持っていた。
 何者かに誘拐されたときに、そのことがはっきりと分かった。

 

『分かっているはずよ、彼らの目的。』
『・・・』
『…碇君には、手出しはさせたくないわ。それは、あなたも同じでしょ?』
『それは…』
『なら強行突破すればいいわ』
『でも、こんなに頑丈な扉よ? それに、きっと見張りがいる…』
『大丈夫。そんなこと、碇君のためだったら…』

 

 そして心を与えてくれた、シンジに対する信頼。
 それは端で見ていて羨ましくなるほどだった。
 自分も、あそこまで一途な信頼を誰かに寄せることができたらいいのに、とアスカは思った。

 アスカの心にあるレイに対する羨望、しかしそれは不快なものではなく、寧ろさわやかであった。



 再びシンジのことに心は戻る。

 (そういえば、シンジにも、ずいぶん助けられたっけ)

 第8使徒サンダルフォンとの戦いで、危うくマグマの中で死ぬところだったアスカを助けたのは、シンジの乗った初号機だった。

 なんの特殊装備も付けないで、マグマの中に飛び込んでくれたシンジ。
 あの時も、シンジは初号機とシンクロしていたはずだ。
 どれほどのダメージを被ったのか、想像には難くない。
 だが、それでもシンジは自分の身を顧みず、アスカを助けてくれた。
 それがうれしかった。

 第10使徒との時もそうだった。
 初号機は使徒の落下地点から一番遠かったはずなのに、一番最初に到着して一人で使徒の全重量を支えていた。
 3人で行った初の作戦は成功に終わったが、それもこれもやはりシンジと初号機の働きがあってのものだろう。

 そして第12使徒、第13使徒、第14使徒。
 それらを全て倒したのもやはり初号機だ。
 ただ、第14使徒との戦いに於いて、シンジと初号機が融合してしまうと言うアクシデントはあったが…。

 現在、既知の通りシンジは初号機としても生活している。
 それを知ったとき、初めは正直言って怖かった。
 自分の隣には強大な力を持つモノが居る、と思うとちょっと心配になったりしてしまうことがあった。
 慣れてしまえばなんてことはないのだけれど。
 自分よりも優れたモノに対する恐れ、それはヒトの原始の頃の記憶なのだろうか。

 それから、自分の心を覗こうとした第15使徒アラエルも、レイと同化しようとした第16使徒アルミサエルも、シンジの力の前にあえなく破れ去ったのだった。

 そして、この間の第17使徒。
 突然の使徒襲来に、唯一迅速な対応ができたのはシンジだけだった。
 六号機を従えて、セントラルドグマのさらに下、ターミナルドグマへと進む使徒。
 ようやく捕まえ、最後は槍に貫かれてタブリスは消えた。

 アスカも、その映像を見ていた。
 何もできない自分に憤慨しつつ、どこか心配な表情で見ていた、とはっきりと覚えている。

 (…なんだ。結局助けられてばっかじゃない)

 ちょっと自嘲気味の笑いが漏れる。
 やはり不思議そうな表情でそれを見つめるシンジ。

 日本に来たとき…第6使徒の襲撃の時からしてもうシンジに助けられていたのかも知れないな、とアスカは思った。

 昔はエヴァに乗ること、そしてエースパイロットであることがアスカ自身の存在理由だった。
 今では、そんなことはない。
 素直になったな、とアスカ自身感じている。
 だからこそ、本心を出せるようになったのだろう。



 思考の海に沈んだアスカは、しばらくして現実に戻ってきた。
 全てが終わってほっと満足し、それでいて心のどこかにぽっかりと穴が開いてしまったような感じを覚える。

 「そっか…終わったのか…」
 感慨深げにつぶやくアスカ。

 しかし、シンジは。

 「…でもね、まだ、わからないんだ」
 小さく、そう言った。

 それを聞き逃さず、アスカは怪訝な表情をする。

 「わからない…って、どう言うこと?」
 「…まだ、最後と決まったワケじゃないんだ。確かに、使徒は17体しかいないけど…ゼーレという組織が、人工的に使徒を創り出す研究をしているらしい。」
 小声で耳打ちするシンジ。
 アスカの目が見開かれる。

 「! それ、本当!?」
 「たぶんね…」
 至って真剣な表情のシンジ。
 それで、アスカはシンジが真実を語っていることを知った。

 けれど、シンジとてさすがに、自分の知っていること全てをアスカに話すわけには行かなかった。
 あまりにも衝撃的すぎる事実だ。
 シンジの中ではもうそれは一事実として何事もなく捉えられているが、初めて聞いた人はおそらく驚くだけでは済まないだろう。
 だから、シンジはごく一部だけを話した。

 将来、きっとアスカにも、みんなにも全てを話せるときが来る。
 そう信じて。

 「…でも、本当かどうかは未だ分からないから。」
 シンジが、緊迫した空気をほぐそうと言葉を発した。

 「少なくとも、今までより平和に暮らせるかもしれないよ。」
 そう言って、シンジは微笑んだ。
 アスカの心も軽くなる。

 「そっか…。でも、そうするとさ、本当に訓練とかで忙しかった日が懐かしいわね。」
 「そうだね…。」
 シンジは、にこっと微笑む。
 だが、シンジは心の中では笑ってはいられなかった。

 (ゼーレ…きっと僕達を狙ってくるな)
 既にそう予測をつけていた。



 「人工的に使徒を創り出す」…。
 そう言った目的の研究が為されていることを、シンジは既に知っていた。

 ゼーレだけでなく、NERVでも行われていたのだから。
 その結果生まれたのが、レイであった。

…ただ、レイの場合は、正確に言えばその存在が研究のためだけに生み出されたわけではない。
 ユイがエヴァの起動実験のときに取り込まれ、そしてそれをなんとかサルベージしようと、当時のスタッフは長い時間腐心した。
 だが、結局肉体再生が上手く行かず、結果としてその時丁度研究されていた「使徒」の細胞にヒトのDNAを加えて、肉体を創り出したものに精神を移植したのだった。

 その元となったのが、セカンドインパクト時を起こした「アダム」と同時に発見された「リリス」という生命体。

 発見されたとき既に、「アダム」には意志があった。
 ヒトとの接触、そして起こったセカンドインパクトは「アダム」の自己防御本能によるものだったと推測されている。
 なお、これは当然、ゼーレの面々とNERVのごく一部しか知らない、超のつく国際的最重要機密である。

 だが、「アダム」と対を為す存在である「リリス」には意志が、心が無かった。
 魂の部分だけが分離されていたのだ。
 何故かは誰も分からない。
 彼らでさえも。
 唯一知っているのは、創り出した「神」のみだろう。

 それをヒトは探し当て、回収した。
 全てが、極秘裏に行われたことだった。

 そして今、NERV本部の地下、ターミナルドグマにはその後で回収された「リリス」が再生され、眠っている。
 理論上はセカンドインパクトを起こした「アダム」と同程度の能力を持っているはずの生命の源、「リリス」。
 存在だけで脅威ともなりうる。
 もし暴走したら、地球全体が崩壊してしまう危険性すらもあった。
 そして、それを抑えられるのは、「アダム」だけだ。

 人類補完計画では、アダムとリリスの力で一旦人類を消去する必要があった。
 だが、魂のないリリスは破壊も、何もしようとはしない。
 できないのだ。
 リリスを従えるには、レイの存在が必要不可欠だ。
 レイはリリスの魂となるべき存在でもある。
 その源が、レイの中にあるから。

 おそらくゼーレはそれを知っているだろう。
 そうなれば、レイが危険にさらされる可能性も高くなる。

 (守らなきゃ…)
 シンジは思った。

 何としても、レイを守ると。
 そして、アスカもトウジもカヲルもミサトも…全ての人達を守る、と。



 「碇」
 「ああ、わかっている。…老人達が、動き出した。」

 NERV本部内司令執務室。
 苦い顔の男が2人。

 ゲンドウは相変わらず肘を机について手を組んでいる。
 冬月が話しかけた。

 「どうするつもりだ?」
 「…老人達の思い通りにはさせられん。それだけだ。」
 「それは分かっている。が…」

 「計画をぶち壊さねばならん」
 「碇、本当に良いのか?」
 「ああ。…我々が生き残るには、それしかない。…たとえ死んでもな。」

 「そうか…。また、我々は罪を犯すことになるのだな。」
 しみじみと、冬月が言う。
 悲しみの気持ちが瞳に宿った。

 「罪? 存在自体が罪だ。我々リリンはな。」
 冬月の言葉にふっと鼻で笑ってゲンドウは言う。
 重大なことを話しながらも、その姿勢はいつもと変わらない。

 「たとえそうだとしても、だ。…尤も、許せと言ったところで、もう限界かもしれんがな。」
 「どちらにせよ、計画の発動は何としても阻止せねばならん。…『彼』にも、動いてもらっている。ゼーレを内部から崩壊させるための準備が進んでいる」
 「…どちらが早いか…賭けだな」
 「ああ。」

 「それから…ゼーレは量産機を使って計画を行うつもりのようだ。…これが、『彼』の情報だ。」
 そう言って、机の上に10枚程度にまとめられたレポートをぱさ、と置く。
 冬月は、ゆっくりと手に取ると、じっくり眺め始める。

 ゲンドウの言葉を最後に、会話は無くなった。



 「量産機はどうだ」
 声が、どこかに反響してゆっくりと帰ってくる。
 広さ、時間経過、その他全てが意味を為さない空間に、彼らはいた。

 「七号機から九号機までははほぼ完成、拾号機以降は生体部品の製造中です」
 「S機関はほぼコピーできました。…拒絶反応は、今の所ありません」
 「そうか…初号機の代わりには、なるのだろうな?」
 「はっ。…培養組織のソースがアダムですので、理論上は…」
 「しかしながら、完全と言うわけには行きません。」
 「分かっておる。そのための七体だからな」

 モノリスが、現れている。
 中央には、技術者らしき白衣の男が2人。

 「01」のモノリスが、再び声を発する。
 「『槍』はどうだ」

 「はい。こちらも問題なく複製プロセスは進んでいます。」
 「数日中には、テスト可能になるでしょう。」

 「ダミープラントも、着実に完成に近づいています。」
 「試作プラグは2・3日中に出来上がる予定です。」

 「そうか。では出来上がり次第量産機でテストを行え。結果報告を忘れぬようにな」
 「ごくろうだった」
 「01」を残して、モノリスが消える。
 立体映像だったらしく、2人の男も同時に消えた。

 「問題はNERV、そして…」
 「01」は言う。

 「…『アダム』か」

 



襲撃

 

 次の日。
 何事もない朝。

 

  フンフンフンフンフンフンフンフン
   フンフンフンフンフーンフフーン…

 

 カヲルは、エレベータに乗っていた。
 「第九」も忘れずに口ずさんでいる。

 目的の階につくと、扉が開く。
 同時に、隣のエレベータもその階に到着し、扉が開いた。
 ふと、その方に目をやると、中から2人の少年が出てくるのが見えた。

 「おや」
 カヲルは2人を知っていた。

 「…なんや、お前もか」
 2人の内一人…鈴原トウジは、いつもの眠たげな表情で言った。
 あまり彼自身の今の行動に関心がないようにも思える。

 「君たちもかい?」
 「まあな」
 それだけで意味は通じた。
 カヲルは2人と並んで歩き始める。
 10メートルほど歩くと、目的地だ。

 「葛城」の文字のネームプレートが、朝日を反射して輝いている。
 カヲルがチャイムを鳴らした。

 ピン、ポーン…



 『はーい!』
 壁を隔てているために小さくなった声が、ユニゾンで聞こえた。
 廊下を走る音。
 それがだんだん大きくなって。

 そして。

 プシュッ!

 エア音とともにドアが開き、制服を着て鞄を持ったシンジとアスカが現れた。
 数秒遅れて、レイも出てくる。

 「よ、シンジ。」
 「おはようさん」
 「おはよう、トウジにケンスケ」

 「…だけど、シンジ君も隅に置けないねぇ。」
 「ホンマや。…ま、ワシらは毎日やから慣れとったけどな」

 「と、とりあえずおはよう。カヲル君」
 「おはよう、シンジ君。ふふ…それにしてもひどいな、シンジ君は。僕というものがありながら。」
 いきなり爆弾発言をかますカヲル。
 一瞬にして場が凍る。

 な、な、ななな…何を言うんだよっ! カヲル君っっ!! 君が何を言ってるのかわかんないよ!
 「こんなにあわてて…フフ、本当にシンジ君はおもしろいね」
 「…僕の気持ちを裏切ったんだね!?」

 「…なんや、やっぱ怪しいやんか」
 トウジがぼそっと呟いた。

 「そうそう。違和感あんまり無いもんな。」
 ケンスケも、心なしかジト目になって言う。

 いつもの朝。
 それは、嵐の前の静けさ。



…と、そんなこんなはあったが、その日はいつも通り学校に向かって出発した。

 「…で、今日はシンクロテストがあるらしいから…」
 「じゃあ、放課後すぐに行かないといけないね」
 「そうね」
 「トウジも連れてかないといけないみたいだよ」
 「えーっ、あいつと一緒にいくのぉ!?」
 「別にいいじゃないか」
 「…でぇもぉ…」
 話をするシンジ達。

 「…シンジばっかり…」
 「ま、そのうちええことあるやろ」
 ケンスケが沈んでいる。
 辺りの空気が淀み、その周囲は照度が半分程度に落ちている。
 トウジはいつものことなので別に気にもしていないが。

 ちなみに、歩いている順番はこうだ。
 まずシンジの隣りにアスカとカヲル。
 その後ろにレイが歩き、更に後ろにトウジとケンスケが歩いている。

 「綾波も、一緒に行こうね。」
 「ええ…」
 「でも、シンジ君は特にする必要ないんじゃないのかい?」
 「うーん…まあ一応、行くけど…多分そうかも知れない…」
 「じゃ来なくても良いんじゃない? シンクロテストは『パイロットのために』あるんでしょうが」
 「そ、それは確かにそうだけど…。でも一応は行かないと…。」
 「そう?」
 「だ、だってホラ、…一応居ないとリツコさんが怖いし…
 「…なんだ、アンタにも怖いものあるのね。」
 「あ、当たり前じゃないか。」

 「ああ…俺の春はどこに…」
 「そのうちええ事あるわ。今までの分な…」
 「…そればっかりじゃないか…」

 蝉が鳴き出す中、いつもの登校風景だ。
 ただ一つのことを除けば。

 そんな彼らの上を、一機のヘリコプターが過ぎ去っていった。
 真っ黒な、「UN」の白い文字の入ったヘリコプターが。
 だが彼らは特に気にすることもなかった。



 広い道路に出る。
 もうすぐ市街中心部が見えてくる。
 この道は、朝真っ正面から日光が射すため、いつも目を細めてしまう。

 たしかに、この時まではいつも通りの登校風景だった。
 この時、たった今までは。

 視界を眩しい朝日が覆う。
 手をかざし、ようやく普通に前を見ることができるようになった。
 その時だった。

…カツリ。
 コロン、コロロン…。

 小さな音がして、シンジ達の1メートルほど前に小さな金属製の、ライターのようなものが転がってくる。
 日光を反射して銀色に光る、「それ」。

 その瞬間「それ」に反応できたのは、シンジだけだった。
 「それ」が何であるか、誰もが理解できずにいた。

 すかさず、シンジが動く。
 一歩前にでて、両手を広げるシンジ。

 その動作の意図を理解できたものは、その時点では誰も居なかった。

 「…どうしたの?」
 カヲルが言った。



 「ねえ、シン…」
 アスカも怪訝に思って声をかけた時。

 ドオォン!

 その「何か」が突然眩しい光と大音響を立てた。
 爆発物だったと分かったのは、その数秒後。

 シンジの前に、赤い光が見える。
 一瞬だけでは、爆炎と見間違う「それ」。
 8角形ではないので、それがATフィールドだとは分からなかっただろう。良く見ない限りは。
 何人にも犯されざる絶対領域は、爆風も熱も完全に遮断していた。
 ただ、爆発した後の焦げた木々、そして抉れた地面だけが物々しく残っている。

 …爆弾…!
 ケンスケが、いち早くまじめな顔になる。
 今まで落ち込んでいた表情が嘘のように消え、声も豹変した。

 シンジの手前数十センチのところで爆風が完全に止まっていることさえも気にかけることができなかった。
 今は、自分の身を守ることに精いっぱいだったから。

 な、何や!?
 「早く!」
 シンジが4人を先に行かせてその後について走り出す。

 「はぁ、はぁ、はぁ…」
 肺が苦しい。
 心臓が悲鳴を上げる。

 だが…確かにあれは自分達を狙っていた。
 その恐怖心からか、彼らは立ち止まることもなく5分の道を走り終え、学校に駆け込んだ。



 電子音が響くNERV発令所。

 今の所、特に異常は確認されていない。
 ミサトはオペレータの作業を見ながら、朝のコーヒーを飲んでいる。

 ピピピピッ! ピピピピッ!

 突如、携帯が鳴り出した。
 ミサトは素早く取り出し、応答する。

 「…はい。」
 『あ、ミサトさんですか?』
 シンジの声だった。
 相当慌てている。

 「シンジ君?」
 『そうです。』
 「どうしたの? そんなに慌てて。」
 『実は、さっき…』

 シンジは事の次第をミサトに説明する。
 それを聴いている内に、ミサトの顔はどんどんと険しくなっていく。

 『それで…多分、ゼーレだと思います。』
 最後にシンジがそう伝えた。

 ガタン!

 何と言うことだ。
 MAGIシステムに気づかれずに侵入するとは。
 ミサトは思わず椅子から立ち上がった。
 オペレータが手を止めて一斉にミサトを見る。

 「どうしたの? ミサト」
 リツコも、そのミサトの表情を見てよほどのことがあったのだと知った。

 ピッ。

 「…リツコ」
 携帯を切る。
 それをゆっくりと懐にしまい、ミサトはリツコを呼んだ。

 (ついに、来たか…)



 NERV司令執務室。

 ゲンドウと冬月が、いつもの位置にいる。
 その前に立つのは、2人。
 ミサトとリツコだった。

 「…それで、彼の話によると…」
 「ゼーレが、計画を進めているという事だな。」
 「はい。」

 「世界各地で、目的不明の公共事業が行われているという情報も入っています。」
 リツコもフォローする。

 「そうか。」
 「はい。それが、おそらく…」
 後は続けなかったが、その場にいるものには分かっていた。

 「老人達が、本格的に動き出した…か。」
 「まずいぞ。」
 「ああ。予定よりも早い」
 顔を寄せて小声で話すゲンドウと冬月。

 「…葛城三佐。報告、ご苦労だった。」
 「はい」
 ゲンドウが机から立ち上がり、出ていこうとする。

 「…司令」
 その背中に、ミサトが声をかけた。

 「補完計画、一体どのようなものなのです? 教えていただけませんか?」
 「・・・」
 答えない。
 だが、ゲンドウは立ち止まった。

 「司令。」
 再び、呼びかけた。

 「…今は、まだ話せない。全てが終わったら、説明しよう。」
 「わかりました。」

 (まあ、時期が来れば…イヤでも…)
 ミサトの顔は、相変わらず険しかった。
 顔を、冷や汗が伝う感触。
 その「時期」ももうすぐであることを、ミサトは知っていた。

 「…済まんな。」
 ゲンドウの珍しいセリフが聞こえる。

 だが、そんなことよりもミサトの頭の中は一つのことで殆どいっぱいだった。
 未知のものへの恐怖。
 それに打ち勝つために、彼女は「それ」に対抗しうるであろう唯一のヒトの名前を心の中で呼んだ。

 (シンジ君…)



 ピッ…

 シンジは朝会後、ミサトに朝のことを知らせていた。
 様子からして、知らなかったようである。
 携帯電話を切った後、シンジはふと空を見やった。

 (計画の発動は近い…。また、みんなが大変なことに巻き込まれるのか…)

 そう思うと、無性に悲しくなってくる。
 だがそうはさせない、とシンジは思った。

 (僕が…みんなを守るんだ。それが、僕の使命だから…)

 「人類を守る」
 そのことはシンジ自身の願いだから。
 それだけにとどまらず、思い出だけを遺して消えていったユイも、冬月もミサトもリツコも、果てはゲンドウまでも、同じ願いを持っているはずだった。

 だが、これから彼らが立ち向かおうとしている計画は、あまりに無謀で、あまりに壮大すぎ、かつあまりにもデリケートすぎる。
 正直なところ、ぶちこわすのさえ上手く行くかどうか不安が残る。
 が、一つ失敗すれば…人類は消えるだろう。跡形もなく。

 その計画が失敗に終わるだろうということは、とうに予測がついていた。
 ただ、それが成功すると信じている輩はいるのだ。
 強引にでも実行しようとするだろう。

 シンジは、ただ願っていた。祈っていた。
 願いは、思いは時として強大な力をも与えてくれる。
 これが「心」をもつ「ヒト」という種の最大の強みだった。

 だから使徒はヒトの心を求めてやってきた。
 結局「心」を受け入れることができたのは、アダムとリリスだけだったが。
 いや、「受け入れる」というよりは「持つことができたのは」と言うべきか。

 だが、その代わり…「ヒト」はひどく脆弱な生き物だ。
 生物として最低限必要の能力しか持たず、その弱さを守るために他人を拒絶し、知恵を持つようになった。

 他人を拒絶しながらも、片方では誰かと一つになることをいつかと夢見ている。相反する矛盾した思考の持ち主「ヒト」。
 あまりに大きな代償ではあったが、「心」の方が何十、いや何百何千倍もの、比べものにすらならないほどの価値があることは既に承知の上だ。

 だからこそ、ヒトはヒトたるに値する存在なのだ。
 心なくしては、何も…。

 (だから…)



 (でも)

 そう思って、思わず力の入っていた拳を解く。
 見ると、爪痕が赤く残っていた。

 そのままゆっくりと握ったり開いたりを繰り返してみる。
 なぜか、落ちついてきた。

 (でも…それまでは…)
 みんなと、普通に暮らしていきたい。
 それから普通の生活で無くなってしまうのならば、せめてそれまでは。
 約束の日までは。

 「おーい、シンジ!」
 後ろからケンスケの声が聞こえる。
 ふと我に返るシンジ。
 振り返ると、教室の反対側でケンスケが呼んでいた。
 トウジも一緒にいる。

 「何やってんのや。」
 「1限理科室だろ。早くしないと置いてくぞ」
 それでも待っていてくれたことに、2人の思いやりを感じる。

 「あ、ちょっと待って!」
 鞄から勉強道具を取り出し、慌ててケンスケの方に駆けていくシンジ。
 それを見ながら、トウジとケンスケも駆け出す。

 (そう。それまでは、みんなと一緒に過ごすんだ)
 走りながら、シンジはどこか悲しげな、しかし幸せそうな表情を浮かべていた。



 「…老人達め…」
 エレベータの中。
 ゲンドウは、唇をかんだ。
 拳をぎゅっと握る。

 エレベータとは言っても、司令官級でなければ使えないシークレットエレベータだ。
 会話が漏れる恐れはない。
 おかげで、落ち着いて話をすることができた。

 「エヴァのパイロットを狙うか…。」
 「明らかに、こちらをつぶそうとしているな。」
 「…初号機もか。…おそらく、今日は時間稼ぎだろう。失敗に終わったがな。」

 デジタル表示がめまぐるしく移り変わる。
 下へ。
 果てしない地下、ターミナルドグマへとエレベータは進んでいた。

 「…備えねばならん。リリスを何としても奪われぬように。」
 「そうだな。あれさえ奴等に渡らなければ…。」
 「そうしないためにも、今からの準備が必要なのだ。」

 ゆっくりと、エレベータは止まる。
 少し重力が強くなったように感じ、また戻る。

 そして、エレベータのドアが開いた。
 そこは…。

 あのLCLの海の手前、ヘブンズドアの前に2人は立っていた。

 「…迷惑を掛けますね、冬月先生」
 「ふ…今更、よしてくれよ。」

 ゲンドウが懐からカードキーを取り出す。
 いつものモノとは少し違う、漆黒のカードキー。
 幾分手が震えていた。

 そして、少しの躊躇の後、ゲンドウはそれをスリットに通した。

 ピッ!

 ゴウゥン…

 重苦しい音を立てながら、「天国への門」は開いていった…。



 「なぁ」

 蒸し暑い中、たくさんの男達が重労働をしている。

 ここは、某発展途上国。
 セカンドインパクトで大打撃を受けたため、もう少しで先進国の仲間入りができるところを打ち砕かれた。
 それでもまた人々は着々と復興を進めてきていた。
 その国の中でも、かなり山奥にある、とある倉庫で、その作業は行われていた。

 その中の一人、髭面の青年がそばにいた男に話しかける。
 どうやら仲間のようだ。

 「…この仕事、なんなんだ?」
 「さあな。俺もよくは知らん。」
 スパナでネジを締めながら、話しかけられた男は続ける。

 「だけどな、ヤバい仕事であることは間違いなさそうだ。」
 「ああ…」

 そういって、青年は上を見上げる。
 ライトに照らされて、大きなシートを被った「何か」が見えた。
 クレーンが上の方でせわしなく動き、「何か」に新しいパーツを運んできている。

 十秒ほどそうしていただろうか、その後、彼は再び自分の仕事に戻った。
 さっき彼が話しかけた男の隣で、配線をする。
 その視界に、ふとその作業が行われている倉庫の入り口が映った。
 サングラスを掛け迷彩服を着た、明らかに「兵士」と分かるような男達が数人、仕事を見張っていた。

 (ヤバい仕事、か…)
 そう思いながら、それでも彼の中に恐怖心は湧いてこなかった。

 それというのも、ここ最近の世間事情のせいだ。
 最近、こういう「秘密裏に行ってくれ」という依頼の多いことと言ったら。
 どこかの国の企業が人件費削減、そして自身の生き残りのために安い労働力を使う、ただそれだけのことだ。
 今回もその一つだろう、そう思っていた。

 だが、彼らは誰一人としてその後の運命を知ることは無い。
 予想もし得ない運命を。
 この先に待っている運命を。

 終末の時は、一刻一刻近づいていた。

 



嵐の前

 

 「はい、では実験の説明をします。良く聞いて、落ちついてやって下さい。」
 30代前半の青年教師が言う。
 全員、ちゃんと耳を傾けている。

 「今日の実験はですね…」
 彼は、これから行う実験について話し始めた。
 机の上に用意された試験管数本と、ガスバーナー。
 そして、ゴム管やガラス管など。

 シンジはそれに目をやりながら、思った。

…もしも補完計画が、こう言ったただの、机の上でやるような実験だったら、どれほど良いことだろう…。

 教師の話は耳に入っていない。
 頭の中にある記憶を引き出す、それで十分だ。
 それだけで教師の言っていることよりも深く詳しい理解が得られる。

 だから、話を聞くよりも考え事に専念していた。
 だれもそれを咎める者はいない。
 というより気づかないのだ。
 なぜなら、皆シンジと同じように実験用具に目を移して手順を確認しているから。

 ふぅ…。
 一つ、大きな溜息をつく。

 これから、波乱に満ちた日々が再び始まるだろう。
 それに備えて。



 キーン、コーン、カーン、コーーン…

 チャイムが鳴る。
 掃除当番が掃除を始め、部活のある生徒は部室に向かう。
 そしてそうでない生徒は三々五々帰宅を始める時間。

 シンジを初めとして、レイ、アスカ、カヲル、そしてトウジのNERV関係者は、一団となってぞろぞろNERV本部へ。

 いつもと同じ通勤風景だが、ただ一つ違ったのは、全員神経が張りつめている、ということだろうか。
 何しろ、朝あんな事があったばかりだ。注意深くなるのも当たり前、と言えよう。

 とにもかくにも、モノレールに乗ってジオフロントへと向かう。
 乗客は彼ら以外いないが、緊張の糸は解けることがなかった。
 いざというときはシンジがいるということは分かっているのだろうが、それでも心配は消えない。
 ときどき、そわそわと落ちつかなくなって辺りを意味もなくきょろきょろと見回したりしていた。

 シンジはただ一人、目をつむっていた。
 寝ているわけではない。
 精神を集中しているのだった。
 何らかの工作が車両やレールに仕掛けられている恐れがあった。
 それを調べるために。
…幸いながら、今の所怪しい動きも、怪しい反応も無い。

 ふう。
 一息ついて、シンジは目を開く。
 紅い瞳が瞼の奥からゆっくりと現れた。



 再びモノリスと技術者風の男。

 「…工作はしても無駄のようです。」
 「そうか。…やはり初号機がいるからな…。なんとかできんのか。」
 「NERVの報告によりますと、サード・チルドレンの精神と完全に融合しているようです。そうなってしまうと、身体と精神を分離するのは不可能でしょう。また、催眠術なども考えては見ましたが…いずれも効果があるか甚だ疑問です。」

 「くっ…。我々の傘下にあったハズのものが我々に刃向かうとは…忌々しい」

 「もう一点、報告がございます。」
 「なんだ」
 「ダミープラグのシステムを構築し終えました。現在、MAGIコピーにてシミュレーションを行っています。」

 そう言うと、男の前に音もなく映像が現れる。
 エントリープラグ型の、しかし色が赤いプラグがぐるぐると回っている。
 それこそダミープラグだった。

 つるんとした金属壁に、ただ一言だけ刻印がされていた。

 「DUMMY PLUG / TABLIS」



 ヘヴンズドアの向こう、LCLの海が広がる暗闇。
 そのなかにぼうっと浮かび上がる、白い巨体。
 紫の仮面を付け、その巨人は静かに目覚めの時を待っていた。

 リリス。
 人類の、そして地球上の全ての生物の母。
 それらに力ではなく、心を選び与えた存在。

 男は…ゲンドウは、そして冬月もその7つ目の仮面を見上げる。

 「…忌むべき存在、か…」
 ぽつり、冬月が呟いた。
 暗闇はその声の反響をも全て吸い込んでしまう。
 まるで無音室にいるかのような感覚を味わった。
 だが、それも慣れてしまったこと。
 今では何と言うことはない。

 白く、いやにつるんとした体表。
 のっぺりとして何もない身体。
 そして、いつの間にか再生していた足…。
 リリスは、少しずつ本能に従って目覚めつつあった。
 ある程度までしかそれは進まないものの…動かすコアを組み込めばすぐにも動き始めるだろう。

 だから余計にゼーレに渡すわけには行かない。
 どうせ強行突破で乗り込んでくるのだ。
 こちらも最初からそれを想定しておかねばならない。

 「…長くなりそうだな、碇。」
 「そうですね、冬月先生」



 プシュー…

 モノレールの扉が開く。
 シンジ達はさしあたって何の問題もなく、今ここまで来ていた。
 目の前にはNERV本部のピラミッドがある。

 「…なんとか…」
 「…着いたわね。」
 「・・・」
 「とりあえずなんもなかったな。」
 それを見てつかの間の安心に浸る5人。

…ピッ!

 一人ずつカードキーを通してゲートの中へと入っていく。
 ここに入ってしまえば外よりは安全だろう。

 「…さ、早く行こう」
 シンジが言う。

 「そうね」
 「そうだね。」
 「あ、待ってシンジ!」
 「ワイを置いてかんといてくれ〜」
 5人は、リツコとミサトが待っているであろう実験室へと向かった。



 処変わって実験室。
 シンジ達は既に更衣室に寄って着替えてきてある。

 「良く聞いて。今日のシンクロ試験は…」
 リツコがシンジを除く4人に実験内容を説明していた。
 シンジは、ミサトと話をしている。

 「で、今日の朝、詳しくは?」
 「…はい。あの、E22区の角を歩いてたらですね…」

 やがてリツコの説明が終わってアスカ・レイ・カヲル・トウジは分厚いガラスの向こう…シミュレーションプラグの搭乗口に向かっていった。

 「シンジ君はどうするの?」
 「見ています。何かあるといけませんから。」
 「そう…」

 「…ミサトさん。」
 思い出したようにシンジは言う。

 「?」
 「ちょっと、父さんの所に行って来ます。」
 「司令の所?」
 「ええ。ちょっと話がありますから。」
 言うが早いか、シンジの姿はその場からかき消えた。

 「…生体による他次元への干渉といったところね。相変わらず、興味をそそるわ。」
 その光景を横目で見ていたリツコのお言葉が後に残った。



 「…父さん」
 一瞬にして、ターミナルドグマ内に場面は移る。
 ゲンドウと冬月がリリスの前に立っている。
 背中から、シンジは声を掛けた。
 ゲンドウが振り返る。

 「シンジか」
 「…始まるね、もうすぐ。」
 「ああ。」

 「…また、お前に頼ることになってしまうな。」
 「・・・」
 「不甲斐ないものだ。不完全な生命体だから仕方ないがな…。」
 「僕は、みんなに生きていてほしいから…もちろん、父さんにも、ね。」
 「…済まない」
 「それが、僕の存在理由だもの。母さんが僕を生かしてくれたのは、そのためだったから…。」

 (リリス…『彼女』が力を貸してくれれば…いや、少なくともゼーレに乗っ取られたらおしまいだ…)
 その視線の先では、白き巨人が静かに鎮座していた。



 再び場面は変わり、某国。

 オーライ、オーライ!
 作業の声が聞こえる。
 その中で、手の空いた者は全員息を呑んで見守っていた。

…これが、最後の部品だ…。

 目的不明、その存在が何であるかさえ知らされていないが…巨大な人型の何かであることには既に気づいていた。
 それが、相当に『ヤバい』ものであることにも。
 四六時中彼らを見張っている兵士らしき人間達からも分かる。

 …オーライ…ストーップ!

 ガコ…ン…

 だんだんと、決められた位置に部品がはまっていく…。
 頭のようだった。
 ただ…目はなく、どちらかというとのっぺりして口だけ。
 まるで、人間の胴体に魚の頭が…その目を除いて…くっついたような形だった。

・・・。

 静寂が訪れ、作業は終わった。
 要求された期間内になんとか間に合わせられた、その充実感を作業員の彼ら全員が味わっていた。

 「…よし。外へ出てくれ。」
 兵士の一人が言った。

 それが、全ての始まりだった。



 この後何が起こるのかも知らされず表に出された作業員達は、まだ興奮冷めやらぬといった様子だった。
 まあ、一仕事…大きな仕事を終えたのだ。無理も無かろう。

 しかし、現実は無情だった。

 「・・・」
 兵士が彼らを囲むように立った。
 無言で、銃を構える。

 「な、何を…?」
 一人が怯えた声で尋ねた。
 それを待っていたかのように、兵士はにやりと笑みを浮かべると…
…引き金を、引いた。

 ダダダダダダダダダダダ…!

 辺りの、広大な森中にその音が響きわたった。
 それは断末魔の悲鳴をかき消し…しかし、他の誰にも届くことはなかった。
 50人近くの作業員は全員銃殺され、さらには手榴弾で処理するという念の入れ様。

 最後まで見届け、兵士はトランシーバーを取り出した。

 「…こちら、13号機建造現場。…全ての作業は終了しました。」
 『了解。直ちに作戦行動へ』
 「了解」
 そして、世界の8ヶ所で巨大な影が動き始める…。



 ビーッ!

 ミサトは、急になった警報にすぐさま反応する。
 どうしたの!?

 「わかりません! 高エネルギー反応ですが…ジャミングのため、確認できません」
 「MAGIは、波長パターン青を提示しています。」

 ミサトさん!
 目の前の何もない空間にシンジの姿が現れる。

 「…始まります!」
 「人類補完計画が…!?」
 その言葉に、リツコが眉を上げた。

 「波長パターン青、確認できました!」
 「使徒なの!?」
 「違います」
 シンジが静かに答えた。
 その割に迫力がある。

 「…量産型エヴァンゲリオンです。」

 


第11話 につづく

ver.-1.00 1998+02/15公開
ご意見・感想・誤字情報などは Tossy-2@eva.nerv.to まで。


 次回予告

 人類補完計画は発動してしまうのか!?
 ゼーレは、そしてそれの操る量産型エヴァは、NERVを危機に陥れる。
 そして現れた「彼ら」とは。

 次回、「邂逅」 この次も、サービスサービス!

 

 あとがき

 いやー、やっと10話公開です。うーん、遅れて済みません m(__)m 。
 4ヶ月ぶりでしょうか?

 さて。
 このE.P.S.は、一応20話+アルファを予定していますので、まだまだ終わりません。
 どうぞこの後の展開をお楽しみに。
 また、ご意見・ご感想や初号機ファンクラブ参加希望(爆)などありましたら、Tossy-2までメールでお願いします。

 

初号機FC(自作)
 詳細は、http://www.evangelion.net/~Eva-01/Eva01-ist.htmlまで。
 本気で、2人だけだと寂しいので、初号機萌え〜な方入って下さいってば。

 

<おまけ>
 最近ガイバーにもちょっとハマりだしたので、そのうち(禁断の)パクリものをやる可能性有り。
 「やれ」とか「やめい」とかとか、ご意見あればメールでどーぞ。

 



 Tossy-2さんの『エヴァンゲリオン パラレルステージ』第拾話、公開です。



 ゼーレ、このヤロー! って感じ(^^;


 アスカちゃんに爆弾投げ付けやがって〜
 レイちゃんを殺そうとしやがって〜


 ほんと、こんやろー!


 シンジがいなかったら大変なことになっていたよね−−−


 ヒカリちゃんが怪我したらどうするんだっ

   ・
   ・
   ・

 男性陣の心配はしないで良いのかなぁ

 良いんです〜


 トウジ、
  今更足の1本や2本(爆)
 ケンスケ、
  ・・だれそれ?(爆爆)


 と、言うわけで。。

 シンジ、女の子を守るんだ〜



 さあ、訪問者の皆さん。
 お久しぶりTossy-2さんに感想メールを送りましょう!


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